(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プレート材にスライスベースを介して固定した半導体ブロックを固定砥粒タイプのワイヤソーを用いて切断することによって半導体基板を得る半導体基板の製造方法であって、
前記プレート材と前記スライスベースとを硬化型接着剤からなる第1接着層を介して接着する第1接着工程と、
前記スライスベースと前記半導体ブロックの第1主面側とを、硬化型接着剤からなり前記第1接着層の硬化状態よりも硬化が進行していない状態の第2接着層を介して接着する第2接着工程と、
前記ワイヤソーを用いて、前記半導体ブロックの前記第1主面とは反対側の第2主面側から前記第1主面側へ向かって切断していく切断工程と、
を順次行なう半導体基板の製造方法。
前記第1接着層および前記第2接着層がいずれも熱硬化型接着剤からなり、第1接着工程における前記第1接着層の温度が、前記切断工程における前記第1接着層の温度よりも高い請求項1または2に記載の半導体基板の製造方法。
前記第1接着層および前記第2接着層がいずれも熱硬化型接着剤からなり、第1接着工程における前記第1接着層の温度が、前記第2接着工程の前記第2接着層の温度よりも高い請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る半導体基板の製造方法の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図面は模式的に示したものであるので、各図における構成要素のサイズおよび位置関係等は適宜変更できる。
【0013】
<ワイヤソー装置による切断および半導体ブロックの概要>
図1に示すように、固定砥粒タイプのワイヤソー装置Wにおいて、走行するワイヤ11に、スライスベース2に固定された直方体状の半導体ブロック(以下、ブロックという)1を押し当てて、ワイヤ11の走行によってブロック1を切断することによって、複数枚の半導体基板を製造する。
【0014】
本実施形態では、板状のプレート材3に板状のスライスベース2を介して固定したブロック1をワイヤソー装置Wを用いて切断する。後で詳述するが、本実施形態の半導体基板の製造方法は、プレート材3とスライスベース2とを硬化型接着剤からなる第1接着層を介して接着する第1接着工程と、スライスベース2とブロック1の第1主面1a側とを、硬化型接着剤からなり第1接着層の硬化状態よりも硬化が進行していない状態の第2接着層を介して接着する第2接着工程と、ブロック1の1主面1aとは反対側の第2主面1b側から第1主面1a側へ向かって切断していく切断工程と、を順次行なう。なお、接着層の硬化の進行状態の違いは、例えばせん断応力によって判断することができる。その場合、せん断応力が大きい場合に硬化が進行していると判断される。なお、第1接着層および
第2接着層の硬化の進行状態は切断工程においても略同一であるとする。
【0015】
ブロック1は不図示のインゴットの端部を切断することで加工される。このようなインゴットは、例えば単結晶シリコンまたは多結晶シリコンからなる。
【0016】
チョクラルスキー法などによって育成した単結晶シリコンのインゴットを用いる場合、通常、インゴットは円柱形状であるため、高さ方向に四箇所の端部を切断することによって、断面形状が略矩形(正方形状を含む)のブロック1を得ることができる。なお、上記断面形状において角部が円弧状を有するものも矩形とみなす。
【0017】
鋳造法などによって得られた多結晶シリコンのインゴットを用いる場合は、インゴットは例えば直方体状であり、通常、さらに複数本の小ブロックを取り出すことができる大きさを有している。このような場合、ブロック1の断面形状が矩形(正方形状を含む)であり、例えば、156mm×156mm×300mmの直方体に形成される。なお、上記断面形状において角部が面取りされたものも矩形とみなす。
【0018】
<熱硬化型接着剤>
以下に、硬化型接着剤として熱硬化型接着剤を用いた、ブロック1、スライスベース2およびプレート材3の接着工程について詳述する。
【0019】
まず、ブロック1、スライスベース2、プレート材3および硬化型接着剤を準備する(準備工程)。ここで、スライスベース2はカーボン材、ガラスまたはシリコン等の材料が用いられる。プレート材3は、特に限定されないがスライスベース2とは材質が異なるSUSまたはアルミニウム等の金属からなる公知の材料が用いられる。硬化型接着剤としては、例えば、硬化剤1に対して主剤を1〜2.5の質量比で混ぜて使用される2液性の接着剤が用いられる。ここで、主剤にはエポキシ樹脂またはアクリル樹脂等が用いられ、硬化剤としてポリアミド樹脂またはポリチオール樹脂等が用いられる。
【0020】
以下、プレート材3とスライスベース2とを硬化型接着剤からなる第1接着層を介して接着する第1接着工程について説明する。簡単のため、第1接着層および後述する第2接着層の双方に使用される硬化型接着剤とが同一材料の場合について説明する。
【0021】
まず、プレート材3の上に硬化型接着剤が例えば刷毛等によって塗布される(第1塗布工程)。
【0022】
次に、硬化型接着剤を乾燥させる(第1乾燥工程)。この乾燥工程では、硬化型接着剤が完全には硬化しない程度に、例えば数十秒から数分程度の間、大気雰囲気中等で乾燥させればよい。
【0023】
次に、
図2に示すように、例えばSUS等の金属からなる複数の部材を枠状に組み合わせた枠体24内において、スライスベース2を例えばプレート材3の上で乾燥させた硬化型接着剤の上に貼り合わせて、プレート材3とスライスベース2とを仮接着させる。プレート材3とスライスベース2との仮接着は、プレート材3とスライスベース2との間に硬化型接着剤を挟み込む状態で接着される。
【0024】
次に、貼り合わせたプレート材3およびスライスベース2の上にブロック1と同程度の大きさでほぼ同一形状の例えばSUSまたはアルミニウム等の金属からなる補助具26を配置する。また、全体が動かないように、例えばプラスチックからなり、先端が略矩形(
正方形を含む)あるいは円形のようなピン形状の側面押さえ22を用いて、プレート材3
およびスライスベース2を固定して、側面押さえ22と同様な部材の上部押さえ23およ
びその上に載せたSUS等の金属からなる錘25を用いて補助具26に荷重をかける。その場合、補助具26への荷重が0.1〜0.5MPaになるような重量の錘が使用される。
【0025】
そして、この状態を保ちながら、加熱手段である例えばホットプレート21にて下部から加熱する。この際、ホットプレート21による加熱温度を50〜100℃とすることによって、硬化型接着剤を硬化させて、第1接着層4Aを介してプレート材3とスライスベース2との接着が行なわれる。
【0026】
以下、スライスベース2とブロック1とを硬化型接着剤からなる第2接着層を介して接着する第2接着工程について説明する。
【0027】
まず、上記の第1塗布工程と同様にして、スライスベース2の上に硬化型接着剤が刷毛等によって塗布される(第2塗布工程)。
【0028】
次に、第2塗布工程で使用した硬化型接着剤を乾燥させる(第2乾燥工程)。この乾燥工程でも、上記第1乾燥工程と同様に、硬化型接着剤が完全に硬化しない程度に、数十秒から数分程度、大気雰囲気中で乾燥させればよい。
【0029】
次に、
図3に示す枠体24内において、ブロック1を乾燥させた硬化型接着剤の上に貼り合わせて、スライスベース2とブロック1とを仮接着させる。このように、スライスベース2とブロック1との仮接着は、スライスベース2とブロック1との間に硬化型接着剤を挟み込む状態で接着される。
【0030】
次に、第1接着工程と同様にして、貼り合わせたスライスベース2とブロック1とを動かないように、側面押さえ22でスライスベース2とブロック1を固定し、上部押さえ23でブロック1に荷重をかけ、加熱手段である例えばホットプレート21にて下部から加熱し、加熱温度を20〜40℃とすることによって、硬化型接着剤を硬化させ、第2接着層4Bを介してスライスベース2とブロック1との接着が行なわれる。
【0031】
また、
図6に示すプレート材3、スライスベース2およびブロック1の硬化型接着剤による硬化状態において、第1接着工程の方が第2接着工程よりも接着温度を高くすることによって、第1接着層4Aの方が第2接着層4Bよりも硬化状態が進行しており、この状態でブロック1を切断することになる。そのため、熱可塑性の硬化型接着剤を使用して、スライスベース2の切断中にスライスベース2およびプレート材3の少なくとも一方の温度が上昇した場合でも、第1接着工程によって接着温度を高くして第1接着層4Aを第2接着層4Bよりも硬化させていることから、第1接着層4Aの軟化による切断された基板のぶれが低減され、基板のクラックの発生を低減できる。
【0032】
また、プレート材3とスライスベース2との接着と、スライスベース2とブロック1との接着とを別々に行ない、且つスライスベース2とブロック1との接着を低温(例えば25℃)で行なうことによって、ブロック1中の内部応力が低減され、ブロック1の割れの発生を低減できる。
【0033】
<光硬化型接着剤>
以下に、硬化型接着剤として光硬化型接着剤を用いた、ブロック1、スライスベース2およびプレート材3の接着工程について詳述する。
【0034】
まず、熱硬化型接着剤を用いた場合と同様にして、ブロック1、スライスベース2、プレート材3および硬化型接着剤を準備する(準備工程)。ここで、スライスベース2およ
びプレート材3の材料は、熱硬化型接着剤を用いた場合と同様である。硬化型接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂またはビニルエーテル樹脂系の光硬化型接着剤が用いられる。
【0035】
以下、プレート材3とスライスベース2とを硬化型接着剤からなる第1接着層4Aを介して接着する第1接着工程について説明する。ここで、第1接着層4Aと第2接着層4Bに使用される硬化型接着剤が同一材料の場合について詳述する。
【0036】
まず、熱硬化型接着剤を用いた場合と同様に、プレート材3の上に硬化型接着剤が例えば刷毛等によって塗布される(第1塗布工程)。
【0037】
次に、
図2に示すように、熱硬化型接着剤を用いた場合と同様に、枠体24内において、プレート材3とスライスベース2との間に硬化型接着剤を挟み込む状態で、プレート材3とスライスベース2とを仮接着させる。また、熱硬化型接着剤を用いた場合と同様にして、貼り合わせたプレート材3およびスライスベース2の上に、ブロック1と同程度の大きさの補助具26を配置して、全体が動かないように側面押さえ22で枠体24内に固定しつつ上部押さえ23および錘25を用いて補助具26に対して荷重をかける。
【0038】
そして、この状態を保ちながら、プレート材3の上に塗布された硬化型接着剤に50〜200mW/cm2の強度の紫外線または可視光線を30〜90秒間程度照射して、硬化型接着剤を硬化させることによって、プレート材3とスライスベース2とを接着する第1接着層4Aの形成が行なわれる。
【0039】
あるいは、
図2に示す枠体24内において、先にプレート材3の上に塗布された硬化型接着剤に50〜200mW/cm2の強度の紫外線または可視光線を30〜90秒間照射した後、直ちにプレート材3とスライスベース2とを貼り合わせて、貼り合わせたプレート材3およびスライスベース2の上に補助具26を配置して動かないように、側面押さえ22でプレート材3とスライスベース2とを固定して、さらに上部押さえ23および錘25を用いて補助具26に荷重をかける。この状態で硬化型接着剤を硬化させて、プレート材3とスライスベース2とを接着する第1接着層4Aの形成が行なわれる。
【0040】
次に、スライスベース2とブロック1とを硬化型接着剤からなる第2接着層4Bを介して接着する第2接着工程について説明する。
【0041】
まず、スライスベース2の上に硬化型接着剤が刷毛等によって塗布される(第2塗布工程)。
【0042】
次に、
図3に示す枠体24内において、ブロック1を硬化型接着剤の上に貼り合わせ、スライスベース2とブロック1とを仮接着させる。このように、スライスベース2とブロック1の仮接着は、スライスベース2とブロック1の間に硬化型接着剤を挟み込む状態で接着される。次に、貼り合わせたスライスベース2とブロック1を動かないように、側面押さえ22でスライスベース2とブロック1とを固定し、上部押さえ23でブロック1に荷重をかける。この状態で、スライスベース2の上に塗布された硬化型接着剤に50〜200mW/cm2の強度の紫外線または可視光線を5〜20秒間照射して、硬化型接着剤を硬化させて、スライスベース2とブロック1とを接着する第2接着層4Bの形成が行なわれる。
【0043】
あるいは、先にスライスベース2の上に塗布された硬化型接着剤に50〜200mW/cm2の強度の紫外線または可視光線を5〜20秒間照射した後、直ちにスライスベース2とブロック1とを貼り合わせ、貼り合わせたスライスベース2とブロック1とが動かな
いように、側面押さえ22でスライスベース2とブロック1を固定し、上部押さえ23でブロックに荷重をかける。この状態で硬化型接着剤を硬化させて、スライスベース2とブロック1とを接着する第2接着層4Bの形成が行なわれる。
【0044】
また、
図6に示すプレート材3とスライスベース2とブロック1の硬化型接着剤の硬化状態において、第1接着層4Aの方が第2接着層4Bよりも紫外線あるいは可視光線の照射時間が長いため、第1接着層4Aのほうが第2接着層4Bよりも硬化している。そのため、熱可塑性の光硬化型の硬化型接着剤を使用して、スライスベース2の切断中にスライスベース2およびプレート材3の少なくとも一方の温度が上昇した場合でも、第1接着層4Aの軟化を低減して、切断された基板のぶれが低減されて、基板のクラックの発生を低減できる。
【0045】
また、プレート材3とスライスベース2との接着と、スライスベース2とブロック1との接着を別々に行ない、且つスライスベース2とブロック1との接着を短時間で行なうことによって、紫外線または可視光線の照射時の温度上昇、および硬化型接着剤4の収縮によるブロック1の内部応力が低減され、ブロックの割れの発生を低減できる。
【0046】
<スペーサ>
以下に、
図4に示すように、スライスベース2とプレート材3との間にスペーサ5を配置して、ブロック1、スライスベース2、プレート材3およびスペーサ5の接着工程について詳述する。
【0047】
まず、ブロック1、スライスベース2、プレート材3、スペーサ5および硬化型接着剤を準備する(準備工程)。ここで、スライスベース2およびプレート材3の材料は、上述した場合と同様である。
【0048】
スペーサ5は、熱伝導率が低く、熱膨張率がブロック1に近い材料、例えば、石英などの無アルカリガラス、炭化珪素または窒化珪素等が用いられる。そのため、切断工程中にスライスベース2の温度が上昇しても、スペーサ5によってプレート材3の温度上昇を低減することによって、プレート材3とスペーサ5とを接着している硬化型接着剤の接着強度低下を低減することができる。また、ブロック1とスペーサ5の熱膨張率が近い材料を使用することで、応力をより低減できる。なお、硬化型接着剤は、上記の熱硬化型接着剤および光硬化型接着剤のうちいずれを採用してもよいが、以下、熱硬化型接着剤を用いた工程について詳述する。
【0049】
次に、プレート材3とスペーサ5とを硬化型接着剤からなる第3接着層4Cを介して接着して、スペーサ5とスライスベース2とを硬化型接着剤からなる第4接着層4Dを介して接着する場合の第1接着工程について説明する。なお、簡単のため第3接着層4Cと第4接着層4Dと第2接着層4Bに使用される硬化型接着剤が同一材料の場合について詳述する。
【0050】
まず、プレート材3およびスペーサ5の上に硬化型接着剤が刷毛等によって塗布される(第1塗布工程)。
【0051】
次に、硬化型接着剤を乾燥させる(乾燥工程)。この乾燥工程では、硬化型接着剤が完全に硬化しない程度に、数十秒から数分程度、大気雰囲気中で乾燥させればよい(第1乾燥工程)。
【0052】
次に、
図4に示す枠体24内において、スペーサ5の硬化型接着材が塗布されていない面がプレート材3と対向するように、スペーサ5をプレート材3に塗布し乾燥させた硬化
型接着剤の上に貼り合わせ、さらに、スライスベース2をスペーサ5に塗布し乾燥させた硬化型接着剤4の上に貼り合わせ、プレート材3とスペーサ5とスライスベース2を仮接着させる。
【0053】
このように、プレート材3とスペーサ5とスライスベース2との仮接着は、プレート材3とスペーサ5との間、およびスペーサ5とスライスベース2との間のそれぞれに硬化型接着剤を挟み込む状態で接着される。
【0054】
次に、貼り合わせたプレート材3、スペーサ5およびスライスベース2の上にブロック1と同程度の大きさの補助具26を配置して動かないように、側面押さえ22でプレート材3とスライスベース2とを固定して、上部押さえ23および錘25を用いて補助具26に荷重をかけ、加熱手段である例えばホットプレート21にて下部から加熱する。この加熱は、切断工程中の温度よりも高い加熱温度である50〜100℃とすることによって、硬化型接着剤を硬化させ、第3接着層4Cを介してプレート材3とスペーサ5との接着、および第4接着層4Dを介してスペーサ5とスライスベース2との接着がそれぞれ行なわれる。
【0055】
次に、スライスベース2とブロック1とを硬化型接着剤からなる第2接着層4Bを介して接着する第2接着工程について説明する。
【0056】
まず、スライスベース2の上に硬化型接着剤が刷毛等によって塗布される(第2塗布工程)。
【0057】
次に、
図5に示す枠体24内において、ブロック1を硬化型接着剤の上に貼り合わせ、スライスベース2とブロック1とを仮接着させる。このように、スライスベース2とブロック1との仮接着は、スライスベース2とブロック1との間に硬化型接着剤を挟み込む状態で接着される。
【0058】
次に、貼り合わせたスライスベース2およびブロック1を動かないように、側面押さえ22でスライスベース2とブロック1とを固定し、上部押さえ23および錘25でブロック1に荷重をかけ、加熱手段である例えばホットプレート21にて下部から加熱する。この加熱は、第3接着層4Cと第4接着層4Dよりも低い加熱温度である20〜40℃で行なうことによって、硬化型接着剤を硬化させて、第2接着層4Bを介してスライスベース2とブロック1との接着が行なわれる。
【0059】
また、
図7に示すプレート材3、スペーサ5、スライスベース2およびブロック1の一体構造において、第3接着層4Cと第4接着層4Dとを形成する第1接着工程の方が第2接着工程よりも接着温度を高くすることによって、第3接着層4Cと第4接着層4Dの方が第2接着層4Bより硬化状態が進行している。
【0060】
これにより、スライスベース2の切断中にスライスベース2、スペーサ5およびプレート材3の少なくとも1つの温度が上昇した場合でも、第1接着工程によって接着温度を高くし、第3接着層4Cまたは第4接着層4Dの硬化状態をより進行させていることから、第3接着層4Cまたは第4接着層4Dの軟化による切断された基板のぶれが低減され、基板のクラックの発生を低減できる。また、スペーサ5を設けることによって、プレート材3の温度上昇が低減され、第3接着層4Cまたは第4接着層4Dの軟化が低減することから、さらに基板のぶれが低減され、基板のクラックの発生を低減できる。また、プレート材3とスペーサ5とスライスベース2との接着と、スライスベース2とブロック1との接着とを別々に行ない、且つスライスベース2とブロック1との接着を低温で行なうことによって、ブロック1の内部応力が低減され、ブロックの割れの発生を低減できる。
【0061】
<切断工程>
以下に、ブロック1の切断工程について詳述する。
【0062】
図1に示すように、ワイヤ11は、供給リール15から供給されて、巻取リール16に巻き取られる。ワイヤ11は、供給リール15と巻取リール16との間において、複数のメインローラ13に巻かれ、複数のメインローラ13間において複数本に張られている。ワイヤ11は、例えば鉄または鉄合金を主成分とするピアノ線からなり、線径は80〜180μm、より好ましくは120μm以下である。本実施形態において、ワイヤ11は、ワイヤの周囲にダイヤモンドまたは炭化珪素からなる砥粒が、ニッケルもしくは銅・クロム合金によるメッキまたはレジン樹脂にて固着された砥粒固着ワイヤである。この場合、砥粒の平均粒径は5μm以上30μm以下とした方がよく、砥粒を含めたワイヤ11の平均直径Dは90μm以上240μm以下となり、より好ましくは150μm以下である。
【0063】
ワイヤ11には、供給ノズル12の複数の開口部からワイヤ11およびブロック1を冷却するクーラント液の役割を果たす加工液が供給される。加工液は、例えばグリコール等の水溶性溶剤または油性溶剤からなり、水で上記溶剤を希釈してもよい。供給ノズル12に供給する加工液の供給流量は、ブロック1の大きさおよび本数によって適宜設定される。また、加工液を循環して使用してもよく、その際に加工液中に含まれる砥粒および切屑等を除去して使用される。供給ノズル12から供給された加工液はブロック1の切断部分とその近傍とに供給される。
【0064】
メインローラ13は、ブロック1の下方に配置される第1メインローラ13aと上方に配置される第2メインローラ13bとを含む。また、メインローラ13は、例えば、エステル系、エーテル系もしくは尿素系ウレタンゴム、またはニューライト等の樹脂からなり、直径150〜500mm、長さ200〜1000mm程度の大きさを有している。メインローラ13の表面には、供給リール15から供給されたワイヤ11を所定の間隔に配列させるための多数の溝が設けられている。これら溝の間隔とワイヤ11の直径との関係によって基板の厚みが定まる。
【0065】
ワイヤ11の下方には、切断時に発生するブロック1の切屑および加工液の回収を目的としてディップ槽14が設けられる。
【0066】
以下に、固着砥粒タイプにおけるワイヤソー装置を用いたスライス方法について説明する。ワイヤ11は供給リール15から供給され、ガイドローラ17によってメインローラ13に案内され、ワイヤ11をメインローラ13に巻きつけて所定間隔に配列している。メインローラ13を所定の回転速度で回転させることによって、ワイヤ11の長手方向にワイヤ11を走行させることができる。また、メインローラ13の回転方向を変化させることによってワイヤ11を往復運動させる。このとき、供給リール15からワイヤ11を供給する長さの方が巻取リール16からワイヤ11を供給する長さよりも長くして、新線をメインローラ13に供給できるようにする。
【0067】
ブロック1の切断は、ブロック1とスライスベース2を固定したプレート材3をネジまたはクランプによってワイヤソー装置W内の装置固定体18に固定して、高速に走行しているワイヤ11に向かって加工液を供給しながら、ブロック1を下降させて、ワイヤ11にブロック1を相対的に押圧することによってなされる。これにより、ブロック1は、例えば厚さ200μm以下の複数枚の基板に分割される。このとき、ワイヤ11の張力、ワイヤ11が走行する速度(走行速度)、および、ブロック1を下降させる速度(フィールド速度)は、それぞれ適宜制御されている。例えば、ワイヤ11の最大走行速度は、500m/分以上1200m/分以下に設定され、最大フィールド速度は350μm/分以上
1100μm/分以下に設定される。
【0068】
その際に、切断中のプレート材3、スライスベース2、ブロック1および硬化型接着剤からなる接着層の温度は、スライスベース2およびブロック1の切断条件にも影響されるが、少なくとも35〜50℃まで上昇する。そのため、第2接着層4Bに使用される硬化型接着剤の熱分解温度は、50℃以上が好まれる。また、プレート材3とスライスベース2との間、プレート材3とスペーサ5との間、および、スペーサ5とスライスベース2との間の硬化型接着剤の硬化温度は50〜100℃であるため、第1接着層4A、または第3接着層4Cと第4接着層4Dとに使用される硬化型接着剤の熱分解温度は100℃以上が好まれる。
【0069】
第1接着層4Aおよび第2接着層4Bがいずれも熱硬化型接着剤からなり、第1接着工程における第1接着層4Aの温度が、切断工程における第1接着層4Aの温度よりも高い方が好ましい。これにより、切断工程において第1接着層4Aの温度が上昇しても、第1接着層4Aの軟化による切断された基板のぶれが低減されて、基板のクラックの発生を低減できる。
【0070】
そして、ブロック1をスライスすると同時に、スライスベース2も2〜5mm程度切断され、ワイヤ11がブロック1から引き抜かれる。この際、スライスベース2に接着した状態で基板を取り出すことができる。また、ワイヤ11を引き抜く場合、ワイヤ11の走行速度が10m/分以上100m/分以下に設定され、最大フィールド速度は1μm/分以上10μm/分以下に設定される。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で多くの修正および変更を加えることができる。
【0072】
例えば、ブロック1とスライスベース2との間に用いられる硬化型接着剤と、スライスベース2とプレート材3との間に用いられる硬化型接着剤とは、同一の接着剤を用いる必要はない。例えば、一方が熱硬化型接着剤を用いて、他方が光硬化型接着剤でもよく、接着剤の主剤と硬化剤の比率を変更したり、材料を変更した異なる硬化型接着剤4であっても構わない。また、第1接着層4Aと第2接着層4Bに異なる硬化型接着剤を用い、第1接着層4Aに用いられる硬化型接着剤の方が第2接着層4Bに用いられる硬化型接着剤よりも低温で硬化する、または、紫外線あるいは可視光線の照射時間が短時間で硬化する接着剤を用いて、同一の接着工程にて第1接着層4Aと第2接着層4Bとを形成してもよい。また、硬化形態は加熱または、紫外線もしくは可視光線のみではなく、紫外線または可視光線照射と加熱とを複合した硬化型接着剤を用いてもよい。なお、接着層の硬化の進行状態の違いは、例えばせん断応力によって判断することができる。その場合、せん断応力が大きい場合に硬化が進行していると判断される。
【実施例】
【0073】
以下に、上記の実施形態を具体化した実施例およびその比較例について説明する。
【0074】
まず、156mm×156mm×300mmの直方体のシリコンからなるブロック1を2本と、カーボン材からなるスライスベース2と、アルミニウム−マグネシウム合金からなるプレート材3とを用意した。また、下記の実施例3においては、石英からなるスペーサ5を準備した。なお、スライスベース2およびプレート材3の厚みはそれぞれ20mmであった。
【0075】
<実施例1>
プレート材3の上に2液性エポキシ樹脂系の熱硬化型の硬化型接着剤を塗布して乾燥さ
せて、スライスベース2をプレート材3の上に貼り合わせた状態で、プレート材3を下にしてホットプレート21にて約70℃で加熱して接着剤を硬化させ、第1接着層4Aを形成した。この第1接着層4Aのせん断応力は55〜60MPaであった。
【0076】
次に、スライスベース2の上にスライスベース2とプレート材3を張り合わせた2液性エポキシ樹脂系の熱硬化型の硬化型接着剤を塗布して乾燥させ、スライスベース2とブロック1を貼り合わせた状態で、ホットプレート21にて25℃にて加熱して硬化型接着剤を硬化させ、第2接着層4Bを形成した。この第2接着層4Bのせん断応力は25〜30MPaであった。このように、第2接着層4Bは第1接着層4Aに比べて硬化が進行していない状態を確認した。
【0077】
次に、ダイヤモンドの砥粒をNiメッキで固着したワイヤ(線径=120μm、砥粒粒径14μm、平均直径148μm)11を双方向に走行させながら、スライスベース2に接着させたブロック1をスライスして、平均厚み190μmの半導体基板を作製した。
【0078】
<実施例2>
プレート材3にエポキシ樹脂系の光硬化型の硬化型接着剤を塗布して、先に100mW/cm2の紫外線を60秒間照射した後、スライスベース2をプレート材3に貼り合わせた状態で硬化型接着剤を硬化させて、第1接着層4Aを形成した。この第1接着層4Aのせん断応力は58〜63MPaであった。
【0079】
次に、スライスベース2の上にスライスベース2とプレート材3を貼り合わせたエポキシ樹脂系の光硬化型の硬化型接着剤を塗布して、先に100mW/cm2の紫外線を15秒間照射した後、スライスベース2をブロック1に貼り合わせた状態で硬化型接着剤を硬化させて、第2接着層4Bを形成した。この第2接着層4Bのせん断応力は28〜33MPaであった。このように、第2接着層4Bは第1接着層4Aに比べて硬化が進行していない状態を確認した。
【0080】
次に、ダイヤモンドの砥粒をNiメッキで固着したワイヤ(線径=120μm、砥粒粒径14μm、平均直径148μm)11を双方向に走行させながら、スライスベース2に接着させたブロック1をスライスして、平均厚み190μmの半導体基板を作製した。
【0081】
<実施例3>
まず、プレート材3に2液性エポキシ樹脂系の熱硬化型の硬化型接着剤を塗布して乾燥させて、スペーサ5をプレート材3に貼り合わせた状態で仮接着した。
【0082】
次に、スペーサ5の上に2液性エポキシ樹脂系の熱硬化型の硬化型接着剤を塗布して乾燥させ、スペーサ5とスライスベース2をさらに貼り合わせた状態で、ホットプレート21にて70℃に加熱して硬化型接着剤を硬化させ、第3接着層4Cおよび第4接着層4Dを形成した。第3接着層4Cおよび第4接着層4Dはいずれもせん断応力は55〜60MPaであった。
【0083】
次に、スライスベース2の上にスライスベース2とスペーサ5とプレート材3を貼り合わせた2液性エポキシ樹脂系の熱硬化型の硬化型接着剤を塗布して乾燥させ、スライスベース2とブロック1とを貼り合わせた状態で、ホットプレート21にて25℃にて加熱して硬化型接着剤を硬化させ、第2接着層4Bを形成した。この第2接着層4Bのせん断応力は25〜30MPaであった。このように、第2接着層4Bは第3接着層4Cおよび第4接着層4Dに比べて硬化が進行していない状態を確認した。
【0084】
次に、ダイヤモンドの砥粒をNiメッキで固着したワイヤ(線径=120μm、砥粒粒
径14μm、平均直径148μm)11を双方向に走行させながら、スライスベース2に接着させたブロック1をスライスして、平均厚み190μmの半導体基板を作製した。
【0085】
<比較例1,2>
まず、プレート材3に2液性エポキシ樹脂系の熱硬化型の硬化型接着剤を塗布して乾燥させ、スライスベース2をプレート材3に貼り合わせた状態で、仮接着した。
【0086】
次に、スライスベース2の上にスライスベース2とプレート材3を貼り合わせた2液性エポキシ樹脂系の熱硬化型の硬化型接着剤を塗布して乾燥させ、ブロック1をさらに貼り合わせた状態で、ホットプレート21にて25℃または70℃にて加熱して硬化型接着剤を硬化させた。なお、硬化温度が25℃の場合を比較例1として、硬化温度が70℃の場合を比較例2とした。比較例1,2においては、いずれも第1接着層および第2接着層のせん断応力が略同一であり硬化状態は略同一であることを確認した。
【0087】
次に、上記比較例1,2のそれぞれに対して、ダイヤモンドの砥粒をNiメッキで固着したワイヤ(線径=120μm、砥粒粒径14μm、平均直径148μm)11を双方向に走行させながら、スライスベース2に接着させたブロック1をスライスして、平均厚み190μmの半導体基板を作製した。
【0088】
<結果>
実施例1−3および比較例1,2に対して、表1に示すように、切断後の半導体基板のクラックの発生率、ブロック1の割れ発生率およびブロック1の内部応力を評価した。ここで、半導体基板のクラック発生率は100回切断工程を行ない、全体の取れ枚数に対する基板のクラック発生枚数をカウントして算出した。ブロック1の割れ発生率は、ブロック1の接着を100回行ない、割れが発生したブロック1の数をカウントして算出した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、実施例1、2、3においては、ブロックの割れ発生率および半導体基板のクラック発生率のいずれも、比較例1,2に比べて大きく改善したことを確認した。