特許第6037192号(P6037192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6037192蓄熱成形体、蓄熱積層体及び蓄熱成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6037192
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】蓄熱成形体、蓄熱積層体及び蓄熱成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20161128BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20161128BHJP
   C08K 9/10 20060101ALI20161128BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20161128BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C09K5/06 Z
   F28D20/02 D
   C08K9/10
   C08L101/00
   B32B27/18 Z
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-549814(P2016-549814)
(86)(22)【出願日】2016年6月21日
(86)【国際出願番号】JP2016068377
【審査請求日】2016年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-125642(P2015-125642)
(32)【優先日】2015年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-125644(P2015-125644)
(32)【優先日】2015年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-125645(P2015-125645)
(32)【優先日】2015年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】小関 祐子
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−20383(JP,A)
【文献】 特開2011−52076(JP,A)
【文献】 特開2008−291083(JP,A)
【文献】 特開2005−23229(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/141677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00−5/20、
B32B1/00−43/00、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14、
F28D17/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリクス中に蓄熱材が分散した蓄熱成形体であって、
前記樹脂マトリクスが熱可塑性樹脂及び可塑剤を含有する樹脂組成物からなり、
前記可塑剤が非フタル酸系可塑剤であり、
前記可塑剤と蓄熱材とのHSP距離が6以上であることを特徴とする蓄熱成形体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と可塑剤とのHSP距離が15以下である請求項1に記載の蓄熱成形体。
【請求項3】
前記蓄熱材が、−20℃〜120℃の温度範囲で固/液相転移を示す潜熱蓄熱材を内包する蓄熱粒子である請求項1又は2に記載の蓄熱成形体。
【請求項4】
前記可塑剤のゲル化終点温度が150℃以下である請求項1〜3のいずれかに記載の蓄熱成形体。
【請求項5】
150℃以下で成形された請求項1〜4のいずれかに記載の蓄熱成形体。
【請求項6】
前記樹脂組成物中の可塑剤の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して30〜150質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の蓄熱成形体。
【請求項7】
前記蓄熱材の含有量が10〜80質量%である請求項1〜6のいずれかに記載の蓄熱成形体。
【請求項8】
シート形状を有する請求項1〜7のいずれかに記載の蓄熱成形体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の蓄熱成形体に、熱拡散層及び断熱層の少なくとも一種が積層された蓄熱積層体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の蓄熱成形体に、不燃層が積層された蓄熱積層体。
【請求項11】
(1)HSP距離が6以上となる非フタル酸系可塑剤と蓄熱材とを、熱可塑性樹脂と混合して塗工液を調整する工程
(2)支持体上に塗工液を塗布して塗工膜を形成した後、塗工膜温度が150℃以下となる温度で加熱して蓄熱成形体を形成する工程、
を有することを特徴とする蓄熱成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種使用態様に応じた適温保持、省エネルギー化が可能な蓄熱成形体に関する。特に、住宅等の居住空間や自動車等の室内の適温保持に有用な蓄熱成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅やオフィス等の居住空間において省エネルギー化の要請が高まっており、住宅等に使用される建築材料にも省エネルギー化に貢献する材料が求められている。一般的には、床、天井、壁面等に断熱材を用いて冷暖房の効率化が図られているが、さらなる省エネルギー化のために各種材料の検討がなされている。また、自動車や航空機等の閉空間や、冷蔵車等の冷蔵庫内においても同様に省エネルギー化の要請が高い。
【0003】
このような材料としては、例えば、石膏ボードに潜熱蓄熱材をカプセル化したものを混ぜ合わせた材料が開示されている(特許文献1参照)。また、柔軟性のある材料を使用した材料として、熱可塑性樹脂中に蓄熱材を含有する蓄熱性熱可塑性樹脂シート(特許文献2参照)等が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−284939号公報
【特許文献2】特開2009−51016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記石膏ボード中に潜熱蓄熱材を混合した材料は、壁面等に使用することで、壁面等の熱容量を増加させて省エネルギー化を図るものである。しかし、当該材料は柔軟性や取扱い性に乏しく、使用態様に制限があるものであった。
【0006】
上記熱可塑性樹脂を使用したシートは、熱可塑性樹脂を使用することで柔軟性を有するものであるが、内分泌作用を攪乱し、野生生物やヒトの生殖・発育に悪影響を与える物質(環境ホルモン)として懸念されるフタル酸系材料が使用されている。蓄熱性の材料は人体に近い空間で用いられることも多いことから、当該フタル酸含量を低減した蓄熱材が求められていた。
【0007】
しかし、フタル酸系材料を使用せず、蓄熱材を含有する蓄熱成形体を形成した場合には、高温下での体積収縮が生じる場合があり、好適な耐熱性を実現することが困難であった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、フタル酸系材料の使用を抑制しつつ、優れた柔軟性や耐熱性を有し、使用態様に応じた適温保持に貢献できる蓄熱性を有する蓄熱成形体を提供することにある。
【0009】
より好適には、上記課題に加え、可塑剤や潜熱蓄熱材の染み出しを好適に抑制できる蓄熱成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、樹脂マトリクス中に蓄熱材が分散した蓄熱成形体であって、前記樹脂マトリクスが熱可塑性樹脂及び可塑剤を含有する樹脂組成物からなり、前記可塑剤が非フタル酸系可塑剤であり、前記可塑剤と蓄熱材とのHSP距離が6以上である蓄熱成形体により上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蓄熱成形体は、樹脂組成物中に使用する非フタル酸系可塑剤と、成形体中に分散させる蓄熱材とのHSP距離を6以上とすることで、高温下での蓄熱成形体からの脱離成分の脱離を抑制でき、良好な蓄熱性と共に好適な耐熱性を実現できる。また、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂組成物をマトリクス材とすることから、石膏ボード等の剛直な材料に比して柔軟性や取扱い性に優れる。また、シート形状とすることで、ロール状への巻き取りや、化粧層や熱伝導層等の他の機能層との積層加工も容易であり、切断性や加工性も良好であることから各種態様での使用が可能である。
【0012】
さらに、低温下で成形しやすく、蓄熱材の破損も生じにくいことから、可塑剤や蓄熱材の染み出しを抑制しやすい。このため、蓄熱材の染み出しを抑制するための保護層等が不要となり、当該蓄熱成形体単体での流通や使用も可能である。
【0013】
このような本発明の蓄熱成形体は、各種用途に使用でき、住宅等の居住空間の壁材や壁紙、自動車、電車、航空機、農業ハウス等の室内、さらには、冷蔵車や冷蔵設備の冷蔵庫内、航空機の庫内等の閉空間、パソコンのCPUや蓄電池などの熱を発生する電気部品に適用する材料等、各種用途において好適に省エネルギー化に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の蓄熱成形体は、樹脂マトリクスが熱可塑性樹脂及び可塑剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂マトリクス中に、蓄熱材が分散した蓄熱成形体であり、可塑剤が非フタル酸系可塑剤であり、当該可塑剤と蓄熱材とのHSP距離が6以上の蓄熱成形体である。
【0015】
[熱可塑性樹脂]
本発明に使用する熱可塑性樹脂は、可塑剤と共に樹脂マトリクスを形成できる樹脂であれば特に制限されず、例えば、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合、スチレン・ブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、1,2−ポリブタジエン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂等を例示できる。なかでも、低温下での成形性や蓄熱材の分散性を得やすいことから塩化ビニル系樹脂を使用することが好ましい。
【0016】
塩化ビニル系樹脂を使用する場合には、塩化ビニル樹脂粒子を使用したビニルゾル塗工液を用いて、ゾルキャスト膜を形成することで、低温下での蓄熱成形体の形成が可能となるため好ましい。ビニルゾル塗工液は、塩化ビニル樹脂粒子及び可塑剤を含有する樹脂組成物中に蓄熱材が分散、懸濁されたペースト状の塗工液である。
【0017】
塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、0.01〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることが好ましい。塗工液中では、当該粒子が直接分散した状態でも、当該粒子を一次粒子として、球状の二次粒子に凝集した状態で分散した状態であってもよい。また、粒子径の異なる粒子が混合されて、粒度分布のピークが二以上あるものであってもよい。粒子径はレーザー法等により測定できる。
【0018】
ビニルゾル塗工液に使用する塩化ビニル樹脂粒子の形状は、好適な流動性を得やすく、熟成粘度変化が小さいことから、略球形形状であることが好ましい。塩化ビニル樹脂粒子は、乳化重合、懸濁重合により製造されたものが、球形形状を得やすく、また、粒度分布を制御しやすいため好ましい。
【0019】
使用する塩化ビニル樹脂の重合度としては、500〜4000であることが好ましく、600〜2000であることがより好ましい。
【0020】
本発明に使用する塩化ビニル樹脂粒子は、市販されている塩化ビニル樹脂粒子を適宜使用でき、例えば、新第一塩ビ株式会社製ZEST PQ83,PWLT,PQ92,P24Z等や、株式会社カネカ製PSL−675,685等が挙げられる。
【0021】
[可塑剤]
本発明に使用する可塑剤は、人体への悪影響が懸念されるフタル酸系可塑剤以外の非フタル酸系可塑剤である。当該可塑剤としては、エポキシ系可塑剤、メタクリレート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤、脂肪族ジエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、安息香酸系可塑剤等を適宜使用できる。また、2種類以上の可塑剤を適宜混合して使用しても良い。
【0022】
本発明においては、これら可塑剤の中から、使用する蓄熱材とのHSP距離が6以上の可塑剤を使用することで、高温下での蓄熱成形体からの脱離成分の脱離を抑制でき、高温下でも体積収縮が生じにくい好適な耐熱性を実現できる。蓄熱材を含有しない、一般的な熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂組成物からなる成形品においては、高温下でも大きな体積収縮は生じにくい。しかし、蓄熱材を含有する蓄熱成形体においては、高温下で大きく体積収縮を生じる場合がある。本発明においては、蓄熱材と可塑剤とのHSP距離を上記範囲とすることで、高温下で多量の脱離成分を生じる要因となる可塑剤の蓄熱材への取り込みを抑制し、高温下での体積収縮を抑制できることを見い出し、優れた耐熱性の蓄熱成形体を実現できる。当該HSP距離は好適な耐熱性を得やすいことから、7以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。また、一般的に可塑剤として使用されるものであれば特に上限は制限されないが、好適な相溶性や成形性を得やすいことから40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが更に好ましい。
【0023】
HSP距離とは、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を用いた物質間の溶解性を表す指標である。ハンセン溶解度パラメータは、溶解性を多次元(典型的には三次元)のベクトルで表すものであり、当該ベクトルは、分散項、極性項、水素結合項で表すことができる。そして、当該ベクトルの類似度を、ハンセン溶解度パラメータの距離(HSP距離)として表すものである。
【0024】
ハンセン溶解度パラメータは、各種文献において参考となる数値が提示されており、例えば、Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook(Charles Hansen等、2007、第2版)等が挙げられる。また、市販のソフトウェア、例えば、Hansen Solubility Parameter in Practice (HSPiP)を用いて、物質の化学構造に基づいてハンセン溶解度パラメータを算出することもできる。算出は、溶媒温度を25℃として行う。
【0025】
また、本発明においては、成形体の樹脂マトリクスを好適に構成しやすいことから、使用する熱可塑性樹脂と可塑剤とのHSP距離が15以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。また下限は特に制限されないが1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明においては、非フタル酸系の可塑剤から、使用する蓄熱材に応じて上記HSP値となる可塑剤を適宜使用でき、例えば、アクリル系の外殻を有する蓄熱材を使用する場合には、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤等を好ましく使用できる。また、メラミン系の外殻を有する蓄熱材を使用する場合には、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、安息香酸系可塑剤等を好ましく使用できる。
【0027】
これら可塑剤としては、各種市販されている可塑剤を適宜使用でき、例えば、エポキシ系可塑剤としては、DIC社製 モノサイザーW−150;新日本理化社製 サンソサイザー E−PS、E−PO、E−4030、E−6000、E−2000H、E−9000H;ADEKA社製 アデカサイザー O−130P、O−180A、D−32、D−55、花王社製 カポックス S−6等、ポリエステル系可塑剤としては、DIC社製 ポリサイザーW−2050、W−2310、W−230H;ADEKA社製 アデカサイザー PN−7160、PN−160、PN−9302、PN−150、PN−170、PN−230、PN−7230、PN−1010、三菱化学社製 D620、D621、D623、D643、D645、D620N;花王社製 HA−5等、トリメリット酸系可塑剤としては、DIC社製 モノサイザーW−705、ADEKA社製 アデカサイザーC−9N、三菱化学社製 TOTM、TOTM−NB等、安息香酸系可塑剤としては、DIC社製 モノサイザーPB−3A、三菱化学社製 JP120等を例示できる。
【0028】
本発明においては、蓄熱材や可塑剤の染み出しを抑制しやすいことから、上記のなかでも特に低温でゲル化できる可塑剤を好ましく使用できる。当該可塑剤としては、ゲル化終了温度が150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、110℃以下であることが特に好ましい。ゲル化終了温度は、ゲル化膜の光透過性が一定となる温度をゲル化終了温度とできる。当該低温成形性の良好な可塑剤としては、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、安息香酸系可塑剤を好ましく使用でき、上記耐熱性と低温成形性の観点からは、エポキシ系可塑剤及びポリエステル系可塑剤を特に好ましく使用できる。また、強靭性の観点からもエポキシ系可塑剤及びポリエステル系可塑剤を好ましく使用でき、エポキシ系可塑剤が特に好ましい。
【0029】
ゲル化終点温度は具体的には、ペースト用塩化ビニル樹脂(重合度1700)と上記可塑剤と熱安定剤(Ca−Zn系)を質量比100/80/1.5で混合した組成物をガラスプレートとプレパラート間に挟み込み、5℃/minの昇温速度で昇温し、光透過性の変化を顕微観察用ホットステージ(Metter 800)を用いて観察し、光透過性が一定となる温度をゲル化終点温度とする。
【0030】
本発明に使用する可塑剤は、25℃における粘度が1500mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以下であることがより好ましく、500mPa・s以下であることがさらに好ましく、300mPa・s以下であることが特に好ましい。当該範囲とすることで、ビニルゾル塗工液の粘度を低く抑えることができるため、蓄熱材の充填率が高めることができる。なお、可塑剤粘度測定の条件は後述実施例における条件にて測定できる。
【0031】
本発明に使用する可塑剤は、その重量平均分子量が200〜3000であることが好ましく、300〜1000であることがより好ましい。当該範囲とすることで、可塑剤自身が染み出しにくく、且つビニルゾル塗工液の粘度を低く抑えることができるため、蓄熱材の充填率を高めることができる。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。なお、GPC測定は以下の条件にて測定できる。
【0032】
(重量平均分子量の測定条件)
測定装置:東ソー株式会社製ガードカラム「HLC−8330」
カラム:東ソー株式会社製「TSK SuperH−H」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0033】
(標準試料:単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0034】
[蓄熱材]
本発明に使用する蓄熱材は、使用する可塑剤とのHSP距離が上記範囲の蓄熱材であれば特に限定されず、各種の公知の蓄熱材を使用できる。なかでも、取扱いや成形体の成形が容易であることから、固体−液体の相変化による潜熱蓄熱材を使用する事が好ましい。
【0035】
潜熱蓄熱材は、相変化による溶融時の染み出し等の問題や、混入時の分散性を考慮して、有機材料等からなる外殻中にパラフィンなどの潜熱蓄熱材料を内包した、カプセル化された蓄熱粒子が好ましい。本発明においてこのような外殻を有する蓄熱粒子を使用する場合には、当該蓄熱粒子の外殻に使用する材料のHSPに基づき、上記HSP距離を算出する。本発明の蓄熱成形体は、有機材料からなる外殻中にパラフィン等の潜熱蓄熱材料を含有する蓄熱材を使用した場合にも可塑剤による外殻の脆化が生じにくく、蓄熱材の破損が生じにくい。
【0036】
このような蓄熱粒子としては、例えば、メラミン樹脂からなる外殻を用いたものとして、三菱製紙社製サーモメモリーFP−16,FP−25,FP−31,FP−39、三木理研工業社製リケンレジンPMCD−15SP,25SP,32SP等が例示できる。また、シリカからなる外殻を用いたものとして、三木理研工業社製リケンレジンLA−15,LA−25,LA−32等、ポリメチルメタクリレート樹脂からなる外殻を用いたものとして、BASF社製MicronalDS5001X,5040X等が例示できる。
【0037】
蓄熱粒子の粒径は、特に限定されないが、10〜1000μm程度であることが好ましく、50〜500μmであることがより好ましい。蓄熱粒子の粒子径は、その一次粒子の粒子径が上記範囲であることも好ましいが、一次粒子径が1〜50μm、好ましくは2〜10μmの粒子が凝集して二次粒子を形成し、当該二次粒子の粒径が上記範囲となった蓄熱粒子であることも好ましい。このような蓄熱粒子は、圧力やシェアにより破損しやすいが、本発明の構成によれば、当該蓄熱粒子の破損を好適に抑制でき、蓄熱材料の染み出しや漏れが生じにくくなる。特に、外殻が有機材料から形成される場合には温度による破損のおそれも生じるが、本発明の蓄熱成形体は、このような潜熱蓄熱材を使用した場合にも蓄熱材料の染み出しや漏れを好適に抑制しやすい。なお、蓄熱成形体中に使用する全蓄熱粒子の粒子径が上記範囲でなくともよく、蓄熱成形体中の蓄熱粒子の80質量%以上が上記範囲の蓄熱粒子であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0038】
潜熱蓄熱材は、特定の温度の融点において相変化する。すなわち、室温が融点を超えた場合は、固体から液体へ相変化し、室温が融点より下がった場合は、液体から固体へ相変化する。潜熱蓄熱材の融点は、その使用態様に応じて調整すればよく、−20℃〜120℃程度の温度範囲にて固/液相転移を示すものを適宜使用できる。例えば、住宅等の居住空間や、自動車、電車、航空機、農業ハウス等の室内等の適温を維持し、省エネルギー化を図る場合には、この融点を日常生活に適した温度、具体的には10〜35℃、好ましくは15〜30℃に設計した潜熱蓄熱材を混入する事により、適温維持性能を発揮する事ができる。より詳細に冬季又は夏季の適温維持性能を調整する場合には、冬場の暖房効果を持続させる事を目的とすれば25〜28℃程度を融点とした潜熱蓄熱材を混入する。もしくは、夏場の冷房効率を持続させる事を目的とすれば20〜23℃程度を融点とした潜熱蓄熱材を混入する事ができる。両方の効果を発現するには融点設計の異なる2種類以上の潜熱蓄熱材を混入すればよい。また、冷蔵設備等の庫内の省エネルギー化を図る場合には、−10℃〜5℃程度の融点の潜熱蓄熱材を使用すればよい。
【0039】
[蓄熱成形体]
本発明の蓄熱成形体は、上記の熱可塑性樹脂及び可塑剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂マトリクス中に、蓄熱材が分散した蓄熱成形体である。本発明の蓄熱成形体は樹脂成分を主体とするため好適な柔軟性を有する。また、可塑剤として非フタル酸系可塑剤を使用することからフタル酸系材料に基づく人体への悪影響の懸念がない。また、蓄熱成形体中の可塑剤と蓄熱材とのHSP距離が6以上であることから、高温下でも体積収縮が少なく、好適な耐熱性を実現できる。
【0040】
本発明の蓄熱成形体の形状は、その使用態様に応じて適宜の形状に成形すればよいが、シート形状とすることで、住宅等の居住空間の壁材や壁紙等、各種の用途への適用が容易となるため好ましい。また、シート形状とすることで、ロール状とすることもできるため、化粧層や、熱伝導層等の他の機能層との積層加工も容易であり、切断性や加工性も良好となるため好ましい。
【0041】
本発明の蓄熱成形体の厚みは、使用態様に応じて適宜調整すればよい。例えば、閉空間の壁面等へ適用する場合には、好適な蓄熱効果を得やすいことから50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以上がさらに好ましく、1mm以上が特に好ましい。また、好適な柔軟性を得やすいことから10mm以下であることが好ましく、6mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3mm以下が特に好ましい。本発明の蓄熱成形体は、蓄熱性をより向上させる為、これを積層して使用することも好ましい。
【0042】
蓄熱成形体中の熱可塑性樹脂の含有量は、10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。当該範囲とすることで、柔軟性を有するシート形成しやすくなる。蓄熱成形体中の可塑剤の含有量は、5〜75質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましく、20〜60質量%であることがさらに好ましい。当該範囲とすることで、良好な塗工適性や成形性を得やすくなる。また、蓄熱成形体中の蓄熱材の含有量は10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。当該範囲とすることで、良好な蓄熱効果を得やすく、良好な成形性が得られやすくなる。
【0043】
また、熱可塑性樹脂に対する可塑剤の含有比率は、熱可塑性樹脂100質量部に対して可塑剤が30〜150質量部であることが好ましく、30〜120質量部であることがより好ましく、40〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明の蓄熱成形体は、引張強さが、0.1MPa以上であることが好ましく、0.3MPa以上であることがより好ましく、0.6MPa以上であることが更に好ましく、1MPa以上であることが特に好ましい。当該引張強さとすることで、柔軟性を有しながらも強靭な蓄熱成形体とすることができ、好適な加工性や取扱い性、搬送適正、曲げ適性等を得やすくなる。引張強さの上限は特に制限されるものではないが、15MPa以下程度であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましく、5MPa以下であることが特に好ましい。
【0045】
また、引張破断時の伸び率が10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましく、25%以上であることが特に好ましい。伸び率の上限は1000%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましく、300%以下であることが更に好ましく、200%以下が特に好ましい。伸び率を当該範囲とすることで、強靭でありながら好適な柔軟性を実現でき、良好な加工性や取扱い性、搬送適正、曲げ適性等を得やすくなる。
【0046】
引張強さ、引張破断時の伸び率は、JIS K6251に準じて測定される。具体的には、蓄熱成形体をダンベル状2号形に切り出し、初期の標線間距離を20mmとして2本の標線をつけた試験片を作成する。この試験片を引張り試験機に取り付け、速度200mm/minで引張って破断させる。この時、破断までの最大の力(N)、及び破断時の標線間距離(mm)を測定し、以下の式により引張り強さと引張り破断時の伸び率を算出する。
【0047】
引張強さTS(MPa)は以下の式により算出する。
TS=F/Wt
:最大の力(N)
W:平行部分の幅(mm)
t:平行部分の厚さ(mm)
【0048】
引張り破断時の伸び率E(%)は以下の式により算出する。
=(L−L)/L×100
:破断時の標線間距離(mm)
:初期の標線間距離(mm)
【0049】
本発明の蓄熱成形体は、熱可塑性樹脂及び可塑剤を含有する樹脂組成物と、蓄熱材とを混合した塗工液を塗布、あるいは任意の形状の型枠へ投入した後、加熱や乾燥させることで、任意の形状の成形体を形成できる。
【0050】
シート形状の蓄熱積層体を好適に得る方法としては、
(1)HSP距離が6以上となる非フタル酸系可塑剤と蓄熱材とを、熱可塑性樹脂と混合して塗工液を調整する工程
(2)支持体上に塗工液を塗布して塗工膜を形成した後、塗工膜温度が150℃以下となる温度で加熱して蓄熱成形体を形成する工程、
を有する製造方法が好適である。
【0051】
(1)の工程にて塗工液を調整し、(2)の工程において、支持体上に、塗工液を塗布して塗工膜を得る。ここで使用する支持体は、蓄熱成形体を剥離して流通、使用等する場合には、得られる蓄熱成形体を剥離可能で、加熱工程の温度での耐熱性を有するものを適宜使用できる。また、蓄熱成形体を他の機能層や基材と積層して使用する場合には、当該他の機能層や基材を支持体としてもよい。
【0052】
蓄熱成形体を剥離する場合の支持体としては、例えば、各種の工程フィルムとして使用される樹脂フィルムを好ましく使用できる。当該樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム等のポリエステル樹脂フィルムなどが挙げられる。樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、25〜100μm程度のものが取扱いや入手が容易である。
【0053】
支持体として使用する樹脂フィルムは、表面が剥離処理されているものを好ましく使用できる。剥離処理に用いられる剥離処理剤としては、例えば、アルキッド系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0054】
ビニルゾル塗工液を塗布するキャスト成膜の方法としては、ロールナイフコーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどの塗工機を使用できる。なかでも、支持体上にビニルゾル塗工液を送り出し、ドクターナイフ等により、一定の厚みの塗工膜を形成する方法を好ましく使用できる。
【0055】
また(2)の工程においては、得られた塗工膜を加熱してゲル化や硬化させることで、支持体上に蓄熱成形体を形成する。加熱温度は、塗工膜温度が150℃以下となる温度が好ましく、140℃以下となる温度がより好ましく、130℃以下となる温度がさらに好ましく、120℃以下となる温度がさらに好ましい。塗工膜温度が当該温度で成形することにより、蓄熱材の熱による破壊を好適に抑制できる。加熱時間は、ゲル化速度等に応じて適宜調整すればよいが、10秒〜10分程度で調整すればよい。また、当該加熱と共に、適宜風乾等の乾燥を併用してもよい。
【0056】
塗工液に溶媒を使用する場合には、上記加熱工程において溶媒の除去を同時に行ってもよいが、上記加熱の前に、予備乾燥を行うことも好ましい。
【0057】
上記にて形成された蓄熱成形体は、蓄熱成形体を支持体から剥離する工程により、蓄熱成形体として使用できる。当該剥離は、適宜好適な手法で剥離すればよい。また、各種加工や積層を行うにあたり、支持体上に積層した状態が好ましい場合には、支持体上に積層した状態で流通することもできる。
【0058】
本発明の蓄熱成形体の製造方法は上記方法にて適宜製造すればよいが、なかでも、熱可塑性樹脂として塩化ビニル樹脂粒子を使用したビニルゾル塗工液を用いて、ゾルキャストによりシート状等に形成する方法が好ましい。当該製造方法とすることで、ミキサー等による混練や押出成形等を経ることなく成形が可能となり、蓄熱材の破壊が生じにくく、得られる蓄熱成形体からの蓄熱材の染み出し等が生じにくい。また、当該方法によれば、低温下での成形が容易となることから、熱による蓄熱材の破壊を抑制しやすいため当該方法が特に好ましく使用できる。
【0059】
塩化ビニル樹脂を使用して、ビニルゾル塗工液とする場合には、塩化ビニル樹脂の含有量が、塗工液に含まれる固形分(溶媒以外の成分)中の10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。また、可塑剤の含有量は、樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂100質量部に対して、30〜150質量部であることが好ましく、30〜120質量部であることがより好ましく、40〜100質量部であることがさらに好ましい。さらに、当該塗工液中に混合する蓄熱材の含有量は、塗工液に含まれる固形分中の10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
ビニルゾル塗工液中には、適宜溶媒を使用することもできる。当該溶媒としては、塩化ビニル樹脂のゾルキャスト法にて使用される溶媒を適宜使用でき、なかでも、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸ブチルなどのエステル類、グリコールエーテル類等を好ましく例示できる。これら溶媒は、常温で樹脂をわずかに膨潤して分散を助長しやすく、また、加熱工程で溶融ゲル化を促進しやすいため好ましい。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
また、上記溶媒と共に希釈溶媒を使用してもよい。希釈溶媒としては、樹脂を溶解せず、分散溶媒の膨潤性を抑制する溶媒を好ましく使用できる。このような希釈溶媒としては、例えば、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素、テルペン系炭化水素などを使用できる。
【0062】
ビニルゾル塗工液には、塩化ビニル樹脂の脱塩化水素反応を主とする分解劣化、着色を抑制するために熱安定剤を使用することも好ましい。熱安定剤としては、例えば、カルシウム/亜鉛系安定剤、オクチル錫系安定剤、バリウム/亜鉛系安定剤等を使用できる。熱安定剤の含有量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましい。
【0063】
ビニルゾル塗工液には、上記以外の成分として、減粘剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を、必要に応じて適宜含有してもよい。これら添加剤の含有量は、各々、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましい。
【0064】
ビニルゾル塗工液の塗工時の粘度は、所望のシートの厚みや、塗工条件等により適宜調整すればよいが、良好な塗工適正を得やすいことから、1000mPa・s以上が好ましく、3000mPa・s以上がより好ましく、5000mPa・s以上がさらに好ましい。また、当該粘度の上限は50000mPa・s以下が好ましく、30000mPa・s以下がより好ましく、27000mPa・s以下がさらに好ましく、25000mPa・s以下が特に好ましい。なお、塗工液粘度はB型粘度計にて測定できる。
【0065】
上記塩化ビニル樹脂粒子及び蓄熱材を含有するビニルゾル塗工液のゾルキャスト膜からなる蓄熱成形体は、製造時に蓄熱材にシェアや圧力がかからないため蓄熱材の破壊が生じにくいことから、樹脂系の材料を使用しながらも蓄熱材の染み出しが生じにくい。また、当該蓄熱材による蓄熱性を有すると共に、良好な柔軟性を実現できる。さらに、容易に他の層との積層や加工も可能であることから各種用途や態様での使用が可能である。
【0066】
[蓄熱積層体]
本発明の蓄熱成形体は、各種の機能層と積層することで蓄熱積層体とすることも好ましい。例えば、不燃紙等の不燃層と積層することで難燃性を向上させることができ、居住空間への適用に特に好適である。また、例えば、熱拡散層や断熱層と積層することで、蓄熱性をより効果的に発現することもできる。また、居住空間の内壁等へ適用するために、化粧層や装飾層を設けることもできる。
【0067】
不燃層と積層した構成としては、本発明の蓄熱成形体の片面又は両面に不燃紙を積層した構成を例示できる。片面に不燃紙を積層した構成としては、本発明の蓄熱成形体を不燃紙に貼り合せた構成であってもよいが、不燃紙上に直接本発明の蓄熱成形体を形成するビニルゾル塗工液を塗布、ゲル化した構成とすると形成が容易であるため好ましい。また、両面に不燃紙を有する構成としては、本発明の蓄熱成形体の両面に不燃紙を貼り合せた構成であってもよいが、不燃紙上にビニルゾル塗工液を塗布、ゲル化した不燃紙積層蓄熱成形体の蓄熱成形体面同士を貼り合せることで容易に形成できる。
【0068】
当該不燃紙としては、不燃性を有するものであれば特に限定しないが、例えば、紙に難燃剤を塗布、含浸、内添しているものを使用できる。難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、リン酸塩、ホウ酸塩、ステファミン酸塩等の塩基性化合物、ガラス繊維等が例示できる。
【0069】
熱拡散層を積層した構成として室内等の閉空間に適用した場合には、熱拡散層で室内の熱を均一化する効果を持たせるとともに、室内(住宅等の居住空間や、自動車、電車、航空機等の室内、冷蔵車の冷蔵庫内、航空機の庫内等の閉空間等)からの熱を分散して熱抵抗が少なく蓄熱層へ伝える事ができる。蓄熱層では蓄熱粒子により室内の熱吸収及び室内への熱放出がなされ、室内の温度環境下を適温に制御できる。
【0070】
熱拡散層としては、熱伝導率が5〜400W/m・Kの高い熱伝導率を有する層を好ましく使用できる。高い熱伝導率により、局所に集中した熱を拡散して蓄熱層へ伝えて熱効率を向上し、かつ室温を均一化できる。
【0071】
熱拡散層の材料としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、グラファイトなどが挙げられる。本発明では、特にアルミニウムを好適に用いることができる。アルミニウムが好適な理由として、放射熱の反射による断熱効果も発現することが挙げられる。特に、放射熱による暖房器具では、断熱効果により暖房効率を向上する事ができる。放射熱を主とした暖房器具としては、例えば、電気式床暖房、温水式床暖房、赤外線ヒーターなどが挙げられる。また、防災の視点からも難燃性能を向上させる事ができる。
【0072】
熱拡散層の形態としては、上記材料のシートからなる層や、上記材料の蒸着層等の適宜な形態を使用できる。材料としてアルミニウムを使用する場合には、たとえば、アルミ箔、アルミ蒸着層などの湾曲性があるものを好ましく使用できる。
【0073】
熱拡散層の層厚は、特に限定されないが、3〜500μm程度とすることで、好適な熱拡散性や取扱い性を確保しやすくなるため好ましい。
【0074】
また、蓄熱層に断熱層を積層した構成とした場合には、蓄熱層の熱吸収及び熱放出が室内側と効果的になされ、室内の適温維持効果を特に好適に発揮することができる。また、室内の熱の流出を防ぐ、もしくは、外気からの熱の影響の軽減にも有効である。本発明の蓄熱積層体は、これら複合作用により、室内の温度変化を抑制し、室内を適温に保つ事ができる。また、エアコンや冷蔵設備等の空調機器を使用した場合に、その消費エネルギーを低減することもできる。これにより、好適に室内の省エネルギー化に貢献できる。
【0075】
断熱層としては、熱伝導率が0.1W/m・K未満の層を好ましく使用できる。当該断熱層は、蓄熱層から外気への熱の流出を防ぎ、かつ、外気の温度影響を低減させる効果を発揮するものである。断熱層は、熱伝導率が0.1W/m・K未満の層を形成できるものであれば特に限定されず、例えば、発泡樹脂シート、断熱材料を含有する樹脂シート等の断熱シートや、押出し法ポリスチレン、ビーズ法ポリスチレン、ポリエチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム等の断熱ボード等を適宜使用できる。なかでも、断熱シートは施工性を確保しやすいため好ましく、断熱材料を含有した樹脂シートである事が熱伝導率を低減できるためより好ましい。また、発泡シートは入手が容易であり、安価であるため好ましい。
【0076】
断熱層はシート状とすることで施工性を確保しやすくなるが、なかでも、円筒形マンドレル屈曲試験機(JIS K 5600)による測定値が、マンドレル直径で2〜32mmであることが好ましい。
【0077】
断熱層に使用する断熱材料は、蓄熱積層体の断熱性を高めるものであり、例えば、多孔質シリカ、多孔質アクリル、中空ガラスビーズ、真空ビーズ、中空ファイバーなどが挙げられる。この断熱材料5は、公知のものを用いればよい。本発明では、特に、多孔質アクリルを好適として用いる事ができる。断熱材料の粒径は、限定される事はないが、1〜300μm程度である事が好ましい。
【0078】
断熱層として断熱材料を含有する樹脂シートを使用する場合には、断熱材料を、ベースとなる樹脂材料に混入してシート成形を行う。樹脂材料としては、前述と同様に、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、又はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂などが挙げられる。ポリエステルとしては、A−PET、PET−G等を使用できる。なかでも、火災時の低燃焼性の面から、自己消化性である塩化ビニル樹脂を好適に用いる事ができる。
【0079】
シートの成形方法としては、例えば、塩化ビニル樹脂と可塑剤と断熱材料を、押出し成形、カレンダー成形などの成形機を用いてシートの成形を行う。
【0080】
断熱層中の断熱材料の含有量は、断熱層中の20質量%以上であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜80質量%であることが更に好ましく、40〜80質量%であることが特に好ましい。断熱材の含有量を当該範囲とすることで、好適に断熱効果を発揮でき、また、断熱層を形成しやすくなる。
【0081】
断熱層中には、必要に応じて、可塑剤、難燃材等の添加剤を配合してもよい。
【0082】
断熱層の層厚は、特に限定されないが、厚みが増す程室内の保温性が上がる。シートとしての湾曲性や施工性を保有する為には、50〜3000μm程度である事が好ましい。
【0083】
本発明の蓄熱成形体は、主に建築物の内壁、天井、床などにおける内装材用途として好適に用いられるが、窓のサッシ枠の被服材や、車両等の内装材としても適用可能である。また、建築物の壁、床、天井に限らず、自動車、電車、飛行機などの室内に使用する事も可能である。また、冷蔵設備の低温保持材料や、パソコンのCPUや蓄電池など熱を発生する電気部品の低温維持材料としても使用することも可能である。また、面状発熱体等のヒーターを併用して、蓄熱による省エネルギー効果を発現しても良い。
【実施例】
【0084】
(実施例1)
重合度900のポリ塩化ビニル樹脂粒子(新第一塩ビ社製 ZEST PQ92)100質量部、エポキシ系可塑剤(DIC社製 モノサイザーW−150:粘度85mPa・s、ゲル化終点温度121℃)60質量部、熱安定剤(昭和ワニス社製 グレックML−538)3質量部、その他添加剤として減粘剤(BYK社製 減粘剤VISCOBYK−5125)6質量部及び分散剤(BYK社製 Disperplast−1150)3質量部と、パラフィンをポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂からなる外殻を用いてマイクロカプセル化した潜熱蓄熱材(BASF社製 Micronal DS5001X:粒子径100〜300μm、融点26℃)60質量部を配合し、プラスチゾル塗工液を作成した。使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は8.88、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は4.6、配合して均質に混合した直後の塗工液の粘度は7000mPa・sであった。これをPETフィルム上に5mmアプリケーターにて塗布した後、150℃のドライヤー温度で8分間加熱してゲル化させ、厚さ3mmの蓄熱成形体を形成した。引張強さは2.06MPa、引張破断時の伸び率は114.6%であった。
【0085】
(実施例2)
実施例1にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、ポリエステル系可塑剤(DIC社製 ポリサイザーW−230H:粘度220mPa・s、ゲル化終点温度136℃)を使用した以外は実施例1と同様にして蓄熱成形体を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は11.04、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は6.4、塗工液の粘度は8500mPa・sであった。得られた蓄熱成形体の引張強さは1.10MPa、引張破断時の伸び率は81.8%であった。
【0086】
(実施例3)
実施例1にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、トリメリット酸系可塑剤(DIC社製 モノサイザーW−705:粘度220mPa・s、ゲル化終点温度143℃)を使用した以外は実施例1と同様にして蓄熱成形体を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は9.07、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は4.1、塗工液の粘度は8500mPa・sであった。得られた蓄熱成形体は、ほぼ伸びが生じなかった。
【0087】
(実施例4)
実施例1にて使用した潜熱蓄熱材60質量部に代えて、パラフィンをメラミン樹脂からなる外殻を用いてマイクロカプセル化した潜熱蓄熱材(三菱製紙社製 サーモメモリー FP−25:平均粒子径50μm、融点25℃)を80質量部使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱成形体を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は22.30、塗工液の粘度は8000mPa・sであった。得られた蓄熱成形体の引張強さは1.67MPa、引張破断時の伸び率は70.1%であった。
【0088】
(実施例5)
実施例4にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、ポリエステル系可塑剤(DIC社製 ポリサイザーW−230H:粘度220mPa・s、ゲル化終点温度136℃)を使用した以外は実施例4と同様にして蓄熱成形体を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は23.20、塗工液の粘度は12000mPa・sであった。得られた蓄熱成形体の引張強さは0.72MPa、引張破断時の伸び率は31.0%であった。
【0089】
(実施例6)
実施例4にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、安息香酸系可塑剤(DIC社製 モノサイザーPB−10:粘度80mPa・s、ゲル化終点温度100℃以下)を使用した以外は実施例4と同様にして蓄熱成形体を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は17.10、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は1.4、塗工液の粘度は8500mPa・sであった。得られた蓄熱成形体の引張強さは2.28MPa、引張破断時の伸び率は156.7%であった。
【0090】
(比較例1)
実施例1にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、安息香酸系可塑剤(DIC社製 モノサイザーPB−10:粘度80mPa・s、ゲル化終点温度100℃以下)を使用した以外は実施例1と同様にして蓄熱成形体を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は4.33、塗工液の粘度は8500mPa・sであった。得られた蓄熱成形体の引張強さは3.50MPa、引張破断時の伸び率は222.9%であった。
【0091】
(比較例2)
実施例1にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、フタル酸系可塑剤(新日本理化社製 サンソサイザーDINP:粘度65mPa・s)を使用した以外は実施例1と同様にして蓄熱成形体を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は8.77、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は3.7、塗工液の粘度は6000mPa・sであった。
【0092】
上記実施例及び比較例にて使用した塗工液の評価方法及び得られた蓄熱成形体の評価方法は下記のとおりである。
【0093】
<可塑剤粘度の測定条件>
測定装置:B型粘度計(東京計器株式会社製「DVM−B型」)
測定条件:温度25℃、No.2ロータ、30rpm
【0094】
<塗工液粘度の測定条件>
測定装置:B型粘度計(トキメック株式会社製「BM型」)
測定条件:温度25℃、No.4ロータ、12rpm
【0095】
<HSP距離>
実施例及び比較例にて使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離、可塑剤と塩化ビニルとのHSP距離を下記にて算出した。
HSPiPにより算出された溶解度パラメータの成分分散項dD、極性項dP、水素結合項dHを用いて、成分Aと成分BとのHSP距離を以下の式にて算出した。
HSP距離=[4(dDA−dDB)+(dPA−dPB)+(dHA−dHB)0.5
【0096】
<蓄熱性評価試験>
実施例及び比較例にて作成したシートを幅50mm×長さ50mmのサイズにした試験体を2枚重ねに積層し、熱伝対をシート中央に挟んで設置した。環境試験機内で外気温を35℃で2時間保持した後、50分間で5℃まで下降させ、さらに1時間5℃を保持した。この際、シート内の温度が28℃〜20℃の温度を保持した時間を測定し、外気温の28℃〜20℃保持時間(800秒)からどのくらい適温維持時間が延びたかを計算して、適温維持性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎:保持時間が+200秒以上
○:保持時間が+50秒以上200秒未満
×:保持時間が+50秒未満
【0097】
<染み出し評価試験>
実施例及び比較例にて作成したシートを幅50mm×長さ50mmのサイズにし、同サイズの油取り紙を挟んで積層した試験体を、荷重50g/cm、40℃50%RH環境下で15時間圧着し、シートから染み出した蓄熱材成分について、油取り紙への染みで目視評価した。評価基準は以下の通りである。
○:染みなし
△:部分的に染みあり
×:全面に染みあり
【0098】
<耐熱性試験(加熱減量)>
実施例及び比較例にて作成したシートを幅50mm×長さ50mmのサイズにし、80℃環境下に1週間静置した際の質量変化を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:質量変化が10%未満
○:質量変化が10%以上15%未満
×:質量変化が15%以上
【0099】
<強靭性評価試験(90°曲げ試験、180°曲げ試験)>
実施例及び比較例にて作成したシートを幅50mm×長さ50mmのサイズにし、90°及び180°の角度に折り曲げて保持した際のシートの状態を観察した。
【0100】
<切断加工性>
実施例にて作成したシートを幅50mm×50mmのサイズにカッターナイフで切断加工し、切断面を観察した。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表から明らかなとおり、実施例1〜6の本発明の蓄熱成形体は、柔軟な樹脂系のシートを使用しつつ好適な耐熱性を有し、使用態様に応じた適温保持に貢献できる蓄熱性を実現できるものであった。これら実施例の蓄熱成形体はフタル酸系材料を使用しないため人体への有害性が低く、人の住環境下でも好適に使用できる。
【0103】
また、実施例1〜6の蓄熱成形体はカッターナイフで容易に切断できるものであった。さらに、実施例1〜2、4〜6の蓄熱成形体は、90°曲げ試験によってもひび割れが生じず、蓄熱材の染み出しが生じにくい低温下でも好適なシート成形性を有するものであった。特に、実施例1、4、6の蓄熱成形体は180°曲げ試験によってもひび割れが生じず、高い強靭性を有するものであった。
【0104】
一方、比較例1の成形体は、高温下での加熱減量が大きく、耐熱性に乏しいものであった。また比較例2の成形体はフタル酸系材料を使用するものであるため住環境下への適用は困難であり、また、90°曲げ試験において表面にひび割れが生じるものであった。
【要約】
樹脂マトリクス中に蓄熱材が分散した蓄熱成形体であって、樹脂マトリクスが熱可塑性樹脂及び可塑剤を含有する樹脂組成物からなり、可塑剤が非フタル酸系可塑剤であり、可塑剤と蓄熱材とのHSP距離が6以上である蓄熱成形体により、石膏ボード等の剛直な材料に比して良好な柔軟性や取扱い性と共に、高温下での蓄熱成形体からの脱離成分の脱離を抑制でき、良好な蓄熱性や好適な耐熱性を実現でき、また、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂組成物をマトリクス材とすることから、石膏ボード等の剛直な材料に比して柔軟性や取扱い性に優れる。