特許第6044257号(P6044257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044257
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】クラッチ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20161206BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20161206BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20161206BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20161206BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20161206BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20161206BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20161206BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B60W10/02 900
   B60W10/06 900
   B60W10/08 900
   B60W20/00
   B60K6/547ZHV
   B60K6/48
   B60L11/14
   B60L15/20 J
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2012-231612(P2012-231612)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-83863(P2014-83863A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120178
【弁理士】
【氏名又は名称】三田 康成
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】芦沢 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸代
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/056855(WO,A1)
【文献】 特開2011−207289(JP,A)
【文献】 特開2008−120361(JP,A)
【文献】 特開2010−111144(JP,A)
【文献】 特開2007−331534(JP,A)
【文献】 特開2012−091583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60W 20/00
B60K 6/48
B60K 6/547
B60L 11/14
B60L 15/20
B60W 10/06
B60W 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の加速操作量と車両状態から目標とする制駆動トルクを演算する目標制駆動トルク演算手段と、
前記目標制駆動トルクから車輪と駆動源を締結/開放可能なクラッチの伝達トルクであるトルク容量の指令値を演算するクラッチトルク容量指令値演算手段と、
前記目標制駆動トルクから前記クラッチの入出力軸の差回転速度であるスリップ回転速度の目標値を演算するスリップ回転速度目標値演算手段と、
前記クラッチ出力軸の回転速度を検出するクラッチ出力軸回転速度検出手段と、
前記クラッチ出力軸回転速度検出値と前記スリップ回転速度目標値から前記クラッチ入力軸の回転速度目標値を演算するクラッチ入力軸回転速度目標値演算手段と、
前記クラッチの入力軸回転速度が前記クラッチ入力軸回転速度目標値と一致するように前記駆動源に与えるトルク指令値を演算する駆動源トルク指令値演算手段と、
を有するクラッチ制御装置において、
前記スリップ回転速度目標値の符号が切換わる際に、前記クラッチを一時的に締結状態とすると共に、前記駆動源に与えるトルク指令値に所定の変化率制限処理を施すことを特徴とするクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記クラッチの入力軸回転速度を検出するクラッチ入力軸回転速度検出手段と、
前記クラッチ入力軸回転速度検出値と前記クラッチ出力軸回転速度検出値からスリップ回転速度検出値を演算するスリップ回転速度検出値演算手段と
を備え、
前記スリップ回転速度検出値がゼロであることより前記クラッチが一旦締結状態となってから一定時間後に前記変化率制限処理を解除することを特徴とする特徴とする請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記変化率制限処理の開始後に前記駆動源に与えるトルク指令値に前記変化率制限処理を施した値が前記クラッチのトルク容量指令値と一致するタイミングで前記変化率制限処理を解除することを特徴とする請求項に記載のクラッチ制御装置。
【請求項4】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータを締結/開放可能な第1クラッチと、前記モータと前記車輪を締結/開放可能な第2クラッチとを有する場合に、
前記駆動源として前記モータを、かつ前記車輪と駆動源を締結/開放可能なクラッチとして前記第2クラッチを採用すると共に、
前記目標制駆動トルクと車両状態から前記第1クラッチのトルク容量指令値を演算する第1クラッチトルク容量指令値演算手段と、
前記第1クラッチの締結/開放状態と前記目標制駆動トルクから前記エンジンに与えるトルク指令値を演算するエンジントルク指令値演算手段と、
を備え、
前記車両の減速状態から前記エンジンを始動するために前記スリップ回転速度目標値の符号が切換わる際に、前記第2クラッチを一時的に締結状態とすると共に、前記モータに与えるトルク指令値に所定の変化率制限処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項5】
前記変化率制限処理中に、前記クラッチのトルク容量指令値を徐々に減少させることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のクラッチ制御装置。
【請求項6】
前記駆動源はモータであり、このモータに与えるトルク指令値に前記変化率制限処理を施すことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のクラッチ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータの間のトルクを伝達するクラッチ(第1クラッチ)と、モータとエンジンが出力するトルクを車輪に伝達するクラッチ(第2クラッチ)を有し、第1クラッチを開放/締結することによりモータ単独によるEV走行に、またはエンジンとモータによるHEV走行に切換えるものがある(特許文献1参照)。このものでは、EV走行からHEV走行に移行するためにエンジンを始動する際には、変速機の入力端に生じるトルク変動を車輪に伝達することを防止するため第2クラッチをスリップ状態にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−331534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の技術では、EV走行から加速する場合には第2クラッチをスリップ状態にしている。このため、例えば車両のコースト状態(減速状態)から加速したとき、第2クラッチの入力軸と出力軸との差回転速度(つまりスリップ回転速度)の符号が瞬間的に変化してしまう。そして、その符号が変化したタイミングで駆動トルクの符号も変化するため、運転ショックが発生し、運転者に違和感を与えるという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、車両のコースト状態から加速したときでも、実駆動トルクの急変に伴う運転ショックを抑制し得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクラッチ制御装置には、運転者の加速操作量と車両状態から目標とする制駆動トルクを演算する目標制駆動トルク演算手段と、前記目標制駆動トルクから車輪と駆動源を締結/開放可能なクラッチの伝達トルクであるトルク容量の指令値を演算するクラッチトルク容量指令値演算手段と、前記目標制駆動トルクから前記クラッチの入出力軸の差回転速度であるスリップ回転速度の目標値を演算するスリップ回転速度目標値演算手段と、前記クラッチ出力軸の回転速度を検出するクラッチ出力軸回転速度検出手段と、前記クラッチ出力軸回転速度検出値と前記スリップ回転速度目標値から前記クラッチ入力軸の回転速度目標値を演算するクラッチ入力軸回転速度目標値演算手段と、前記クラッチの入力軸回転速度が前記クラッチ入力軸回転速度目標値と一致するように前記駆動源に与えるトルク指令値を演算する駆動源トルク指令値演算手段と、を有している。この場合に、本発明のクラッチ制御装置は、前記スリップ回転速度目標値の符号が切換わる際に、前記クラッチを一時的に締結状態とすると共に、前記駆動源に与えるトルク指令値に所定の変化率制限処理を施すものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スリップ回転速度目標値の符号が一瞬で切換わるとき、実際のスリップ回転速度検出値の符号は急に切換わらず、クラッチが一旦締結状態となる。また、クラッチの締結状態においては車輪に伝達される実駆動トルクは駆動源に与えるトルク指令値に変化率制限処理を施した値となるため、急変しない。これにより、スリップ回転速度目標値の符号が一瞬で切換わるような運転シーンにおいても実駆動トルクの急変に伴う運転ショックを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態のクラッチ制御装置を適用するパラレルハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】現状の制御でEV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んで加速を行った場合のアクセル開度、第2クラッチ回転速度、回転速度制御用モータトルク指令値の各変化を示すタイミングチャートである。
図3】第1実施形態の制御でEV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んで加速を行った場合のアクセル開度、第2クラッチ回転速度、最終モータトルク指令値の各変化を示すタイミングチャートである。
図4A】統合コントローラ及びモータトルクコントローラの処理内容を説明するためのフローチャートである。
図4B】統合コントローラ13及びモータトルクコントローラ17の処理内容を説明するためのフローチャートである。
図5】目標制駆動トルクのマップ特性図である。
図6】第2クラッチのトルク容量係数の特性図である。
図7】出力軸回転速度制御のブロック図である。
図8】エンジン始動時クラッチトルク容量補正値のマップ特性図である。
図9】クラッチトルク容量に対するクラッチ油圧の特性図である。
図10】クラッチ油圧に対する電流値の特性図である。
図11】第2クラッチ制御モードフラグの設定を説明するためのフローチャートである。
図12】第2クラッチの入力軸回転速度目標値の演算方法を説明するためのフローチャートである。
図13】EV走行でのドライブスリップモードのスリップ回転速度目標値の特性図である。
図14】EV走行でのコーストスリップモードのスリップ回転速度目標値の特性図である。
図15】エンジン始動時のためのスリップ回転速度増加分の特性図である。
図16】最終モータトルク指令値の演算方法を説明するためのフローチャートである。
図17】EV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んだときの第2クラッチの一時的締結を説明するためのフローチャートである。
図18】第2実施形態の最終モータトルク指令値の演算方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のクラッチ制御装置を適用するパラレルハイブリッド車両の概略構成図である。図1においてパラレルハイブリッド車両では、モータジェネレータ(以下、単に「モータ」という。)1とエンジン2の間に第1クラッチ3を、モータ1と変速機5の間に第2クラッチ4を配置している。変速機5の出力は、ファイナルギア6を介して車輪7に伝達される。
【0011】
モータ1(駆動源)はたとえば交流同期モータである。車輪7を駆動して車両を走行させるときにはモータ1が電動機として働く。このとき、高電圧バッテリ9から電力供給を受ける高電圧インバータ8で直流‐交流変換を行いモータ1の駆動電流を生成し、生成した駆動電力をモータ1に供給する。一方、車輪7を制動するときにはモータ1が発電機として働き、回生した電力を高電圧バッテリ9に蓄積する。
【0012】
第1クラッチ3は、エンジン2とモータ1を締結しあるいはその締結を解除(開放)するものである。第1クラッチ3が完全締結状態であるときにはモータトルクとエンジントルクの合計が、第1クラッチ3が開放状態であるときにはモータトルクのみが、第2クラッチ4へと伝達される。第1クラッチ3はたとえば乾式クラッチで構成する。
【0013】
第2クラッチ4は、車輪7とモータ1を締結しあるいはその締結を解除(開放)するものである。第2クラッチ4にはクラッチ油圧(押付力)に応じて伝達トルク(クラッチトルク容量)が発生する。第2クラッチ4は、第1クラッチ3から伝達されたトルクのうちクラッチ油圧に基づき発生したトルク容量分だけを変速機5に伝達する。第2クラッチ4はたとえば湿式クラッチで構成する。
【0014】
有段の自動変速機5は、複数の遊星歯車と摩擦要素であるクラッチ及びブレーキとから構成され、これらクラッチやブレーキを選択的に締結したり開放したりすることで力の伝達経路(変速段)を変え、これによって変速を行う。
【0015】
ハイブリッド車両では、統合コントローラ13、変速機コントローラ14、クラッチコントローラ15、エンジンコントローラ16、モータトルクコントローラ17、バッテリコントローラ18を備える。これら複数のコントローラ13〜18は双方向の通信線によって互いに接続されている。
【0016】
クラッチコントローラ15には、第2クラッチ4の入力軸回転速度センサ23により検出される第2クラッチ4の入力軸回転速度、第2クラッチ4の出力軸回転速度センサ24により検出される第2クラッチの出力軸回転速度が入力されている。さらに、クラッチ油温センサ25により検出される第2クラッチ油温もクラッチコントローラ15に入力されている。また、アクセルセンサ21により検出されるアクセル開度Apoが統合コントローラ13に、エンジン回転速度センサ22により検出されるエンジン回転速度がエンジンコントローラ16に入力されている。
【0017】
統合コントローラ13では、バッテリ状態、アクセル開度Apo、および車速Vsp(変速機出力軸回転速度に同期した値)から目標制駆動トルクTd*を演算する。そして、その結果に基づき各アクチュエータ(モータ1、エンジン2、第1クラッチ3、第2クラッチ4、変速機5)に対する指令値を演算し、各コントローラ14〜17へと送信する。
【0018】
変速機コントローラ14では、統合コントローラ13からの変速指令を達成するように変速制御を行なう。
【0019】
クラッチコントローラ15では、統合コントローラ13からの各クラッチ油圧指令値に対してクラッチ油圧(電流)指令値を実現するようにソレノイドバルブの電流を制御する。
【0020】
エンジンコントローラ16では、統合コントローラ13からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルクを制御する。エンジン2はたとえば希薄燃焼可能なエンジンである。スロットルアクチュエータによる吸入空気量、インジェクタによる燃料噴射量、点火プラグによる点火時期の各制御により、エンジントルクが指令値と一致するようにエンジン2を制御する。
【0021】
モータコントローラ17では、統合コントローラ13からのモータトルク指令値またはモータ回転速度指令値を達成するようにモータトルクを制御する。なお、モータ回転速度指令値の場合は、回転速度検出値ωcl2iとの偏差に基づいてモータトルクを演算する(フィードバック制御を行なう)。詳細については後述する。
【0022】
バッテリーコントローラ18では、高電圧バッテリ9の充電状態を管理し、その情報を統合コントローラ13へと送信する。
【0023】
さて、図2は現状の制御でEV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んで加速を行った場合にアクセル開度、第2クラッチ回転速度、スリップ回転速度制御用モータトルク指令値がどのように変化するのかを示している。ここで、「コースト中」とは、アクセルペダルを踏み込むことなく車両を惰性で走行させている状態のことである。
【0024】
EV走行でのコースト中に出力軸回転速度目標値ωo*は、図2第2段目に細実線で示したようにゆっくりと減少し、アクセルペダルを踏み込むt1のタイミングからは再びゆっくりと上昇する。これに対して、入力軸回転速度目標値ωcl2i*は、EV走行でのコースト中に図2第2段目に破線で示したように出力軸回転速度目標値ωo*よりスリップ回転速度目標値の絶対値|ωcl2 slp*|の分だけ下を推移する。t1のタイミングで入力軸回転速度目標値ωcl2i*は、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の分だけステップ的に立ち上がり、その後は出力軸回転速度目標値ωo*よりスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の分だけ上を推移する。
【0025】
一方、入力軸回転速度検出値ωcl2iは、図2第2段目に太実線で示したように、EV走行でのコースト中には入力軸回転速度目標値ωcl2i*と一致している。ところが、t1のタイミングからは、t1でステップ的に立ち上がる入力軸回転速度目標値ωcl2i*に対して応答遅れをもって追従する。なお、図2第2段目では、見やすくするため太実線の入力軸回転速度検出値ωcl2iの特性を破線の入力軸回転速度目標値ωcl2i*の特性より少し下側にずらせて記載している。実際には、EV走行でのコースト中に太実線の入力軸回転速度検出値ωcl2iの特性は破線の入力軸回転速度目標値ωcl2i*の特性にピッタリ重なり、かつ追従した後にもピッタリ重なることとなる。
【0026】
次に、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBは、図2第3段目に太実線で示したようにEV走行でのコースト中、負の一定値で推移する。アクセルペダルが踏み込まれるt1のタイミングでスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBは負の値から正の値へとステップ的に大きく立ち上がる。これは、破線の入力軸回転速度目標値ωcl2i*と太実線の入力軸回転速度検出値ωcl2iとの差分ωm errに基づいてスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBが演算されるところ、t1のタイミングで大きな値の差分ωm errが生じるためである。t1の後には、入力軸回転速度検出値ωcl2iが入力軸回転速度目標値ωcl2i*に追従してゆくため、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBが徐々に減少し、やがて最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*へと落ち着く。
【0027】
しかしながら、現状の制御によれば、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBがt1のタイミングでステップ的に急変するため、車輪7に伝達される実駆動トルクもt1のタイミングより少し遅れたt5のタイミングでステップ的に立ち上がる(急変する)。この実駆動トルクの急変に伴って運転ショックや車両の捻れ振動が発生する。
【0028】
そこで本発明の第1実施形態では、EV走行でのコースト中にスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わる際には、第2クラッチ4を一時的に締結状態とすると共に、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB(駆動源に与えるトルク指令値)に対して所定の変化率制限処理を施す。これについて図3を参照してさらに説明する。
【0029】
図3は、図2と同じ条件でEV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んで加速を行った場合に、本実施形態の制御ではどうなるかを示したものである。図2と同一の部分には同一に記載している。
【0030】
加速が開始されるt1のタイミングで第2クラッチ4を一時的に締結状態とすることから、入力軸回転速度検出値ωcl2i図2第2段目に太実線で示したようにt1より少し遅れたt4のタイミングで出力軸回転速度検出値ωo(=ωo*)の変化と同じとなる。このように、t1のタイミングで第2クラッチ4を一時的に締結状態とすることで入力軸回転速度検出値ωcl2iが入力軸回転速度目標値ωcl2i*から大きく乖離して推移する。
【0031】
本実施形態では、新たに最終モータトルク指令値Tm fin*を導入し、EV走行でのコースト中にはスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBをそのまま最終モータトルク指令値Tm fin*とする。スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が負の値から正の値に切換わることで加速が開始されるt1のタイミングを判定し、変化率制限処理を開始する。ここで、「変化率制限処理」とは、加速が開始されるt1のタイミングより最終モータトルク指令値Tm fin*を所定の傾きで漸増させる処理のことである。具体的には、最終モータトルク指令値の前回値であるTm fin z1*に制御周期当たり一定値ΔTm*を加算していくことによって最終モータトルク指令値Tm fin*を漸増させる。
【0032】
EV走行でのコースト中での加速時に、第2クラッチ4を一時的に締結状態とする期間は、基本的に一定時間でよく、簡単には適合により定めればよい。ただし、本実施形態では、第2クラッチ4を一時的な締結状態から開放状態へと復帰させるタイミングと、変化率制限処理の施しを終了するタイミングとを一致させている。すなわち、第2クラッチ4の一時的な締結状態を解除して解除状態へと戻すタイミング及び変化率制限処理の施しを終了(解除)するタイミングは、最終モータトルク指令値Tm fin*が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*に到達するt2のタイミングとする。
【0033】
変化率制限処理の施しを解除するt2のタイミングからは、再びスリップ回転速度制御用モータトルク指令値Tm FBをそのまま最終モータトルク指令値Tm fin*とする。変化率制限処理中に第2クラッチ4を締結状態としているために、締結状態を解除するt2のタイミングでは入力軸回転速度検出値ωcl2iと入力軸回転速度目標値ωcl2i*との間に大きな差分ωm errが生じている。このため、大きな差分ωm errに基づいて演算されるスリップ回転速度制御用モータトルク指令値Tm FBがステップ2よりステップ的に大きく立ち上がる。t2の後には、スリップ回転速度制御の再開により、入力軸回転速度検出値ωcl2iが入力軸回転速度目標値ωcl2i*へと収束してゆくため、差分ωm errが徐々に小さくなる。これを受けてスリップ回転速度制御用モータトルク指令値Tm FBがほぼ一次遅れで減少し、t3のタイミングで最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*へと収束する。
【0034】
このように、EV走行でのコースト中に加速を行ったとき、加速が開始されるt1のタイミングより第2クラッチ4を一時的に締結状態とすると共に変化率制限処理を施すのである。これによって、車輪7に伝達される実駆動トルクは、図3第3段目に細実線で示したように、t1からt2までの期間における最終モータトルク指令値Tm fin*の漸増を時間的に少し遅らせた特性で漸増している。これより、EV走行でのコースト中に加速を行う運転シーンにおいても、実駆動トルクの急変に伴う運転ショックを抑制することが可能となった。
【0035】
統合コントローラ13及びモータトルクコントローラ17で行われるこの処理の内容を図4A図4Bに示すフローチャートを用いて説明する。図4A図4Bに示す処理は一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。
【0036】
ステップ1では、高電圧バッテリ9の充電量SOC(State of Charge)や変速機5のシフト位置、第2クラッチ4の入力軸回転速度検出値ωcl2i、出力軸回転速度検出値ωoといった他のコントローラが検出した車両状態のデータを受信する。
【0037】
ステップ2では、アクセルセンサ21により検出されるアクセル開度Apo[deg](運転者の加速操作量)及び車速Vsp[km/h](車両状態)を読み込む。ここで、車速Vspは、第2クラッチの出力軸回転速度検出値ωo[rpm]、変速機5の現在の変速比Gm[−]、車両諸元である最終減速比Gf[−]、車輪7の有効半径を用いて算出する。
【0038】
ステップ3では、アクセル開度Apoと車速Vspから目標制駆動トルクTd*[Nm]を演算する。例えばアクセル開度Apoと車速Vspから図5を内容とするマップを検索することにより目標制駆動トルクTd*を演算する。マップ検索値が正のときが駆動トルク、マップ検索値が負のときが制動トルクである。
【0039】
ステップ4では、バッテリ充電量SOC[%]や目標制駆動トルクTd*および車速Vspといった車両状態のデータから第1クラッチ制御モードフラグfCL1を設定する。フラグfCL1=1は第1クラッチ3を締結してエンジンを始動するモードであることを、フラグfCL1=0は第1クラッチ3を開放してエンジンを停止するモードであることを表す。
【0040】
ここではフラグ設定の詳細は省略するが、例えば低加速での発進といった比較的エンジン2の効率が良くない走行シーンではモータ1のみで走行(このモータ1のみの走行を「EV走行」という。)するため、第1クラッチ3を開放する(fCL1=0)。また、急加速時やバッテリ充電量SOCが所定値SOCth1[%]以下のとき、あるいは車速Vspが所定値VSPth1[km/h]以上となったときにEV走行することは困難である。このときにはエンジン2およびモータ1を用いての走行を行わせるため、第1クラッチ3を締結する(fCL1=1)。以下、エンジン2およびモータ1を用いての走行を「HEV走行」という。
【0041】
ステップ5では、バッテリ充電量SOC、目標制駆動トルクTd*、第1クラッチ制御モードフラグfCL1および車速Vspといった車両状態のデータから第2クラッチ制御モードフラグCL2MODEを設定する。第2クラッチ制御モードフラグCL2MODEは、フラグCL2MODE=1のとき締結モード(第2クラッチ4を締結するモード)であることを、フラグCL2MODE=0のとき開放モード(第2クラッチ4を開放するモード)であることを表す。
【0042】
さて、現状の制御では、フラグCL2MODE=2のときスリップモード(第2クラッチ4をスリップさせるモード)であるとしているが、第1実施形態では、EV走行でのコースト中のスリップモードを「コーストスリップモード」として新たに導入する。すなわち、フラグCL2MODE=3のときコーストスリップモードであるとする。このコーストスリップモードの導入に伴い、フラグCL2MODE=2のときを改めて「ドライブスリップモード」とする。
【0043】
第2クラッチ制御モードフラグCL2MODEの設定を、図11図17のフロー(図4Aのステップ5のサブルーチン)により詳述する。まず、図11のフローを説明する。図11において、ステップ31では第1クラッチ制御モードフラグfCL1をみる。フラグfCL1=0の場合には、第1クラッチ3を開放しエンジン2を停止してEV走行を行わせる場合であると判断して、ステップ32〜36に進む。
【0044】
ステップ32では、車速Vspとゼロ[km/h]を比較する。車速Vspがゼロ、つまり車両が停止しているときにはステップ34に進み、第2クラッチ4を締結するため、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE=1(締結モード)とする。
【0045】
ステップ32で車速Vspがゼロでない、つまり車両が走行しているときにはステップ33に進み、目標制駆動トルクTd*とゼロ[Nm]を比較する。目標制駆動トルクTd*がゼロ以上であるときにはEV走行でのコーストからの加速時のスリップ回転速度制御を行わせるためステップ35に進み、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE=2(ドライブスリップモード)とする。
【0046】
これに対して、ステップ33で目標制駆動トルクTd*が負であるときにはEV走行でのコースト中のスリップ回転速度制御を行わせるためステップ36に進み、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE=3(コーストスリップモード)とする。
【0047】
一方、ステップ31でフラグfCL1=1の場合には、第1クラッチ3を締結してエンジンを始動し、HEV走行を行わせる場合またはエンジン始動時であると判断してステップ37以降に進む。
【0048】
ステップ37では、車速Vspと所定値Vth1[km/h]を比較する。所定値Vth1としては、例えばエンジン2が始動できる最低車速を設定しておく。車速VSPが所定値Vth1未満であるときにはステップ38で目標制駆動トルクTd*とゼロを比較する。目標制駆動トルクTd*がゼロ以上であるときにはHEV走行での加速時のスリップ回転速度制御またはエンジン始動を行わせるためステップ35に進み、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE=2(ドライブスリップモード)とする。
【0049】
ステップ38で目標制駆動トルクTd*が負であるときにはHEV走行でのコースト時に第2クラッチ4を開放するためステップ41に進み、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE=0(開放モード)とする。
【0050】
ステップ37で車速Vspが所定値Vth1以上であるときにはステップ39に進み、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODEの前回値であるCL2MODE z1が1であるか否かをみる。CL2MODE z1=1である、つまり今回、車速Vspが所定値Vth1以上であり、かつ前回に第2クラッチ4が締結状態にあったときには、HEV走行でまたはエンジン始動のため継続して第2クラッチ4を締結しておくことが必要である。このときには、ステップ34に進んでフラグCL2MODE=1(締結モード)とする。
【0051】
ステップ39でCL2MODE z1=0、つまり前回に第2クラッチ4が開放状態にあったときにはステップ40に進み、スリップ継続条件が成立しているか否かをみる。ここで、スリップ継続条件とは、第2クラッチ4が開放状態にあるかスリップしていることにより、エンジンの回転速度ωe[rpm]と第2クラッチ4の入力軸回転速度検出値ωcl2i[rpm]が相違すること(ωe≠ωcl2i)である。または、第2クラッチ4のスリップ回転速度検出値ωcl2 slp[rpm]とスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*[rpm]とが相違すること(ωcl2 slp<ωcl2 slp*)である。ステップ40でスリップ継続条件が成立するときにはステップ35に進み、HEV走行での加速時のスリップ制御を開始または継続するためCL2MODE=2(ドライブスリップモード)とする。
【0052】
一方、ステップ40でスリップ継続条件が成立しないときにはHEV走行でのスリップ回転速度制御を終了するためステップ34に進み、CL2MODE=1(締結モード)とする。
【0053】
このように、コーストスリップモードは、EV走行に限って導入している。
【0054】
図17のフローは、本実施形態において新たに追加するフローである。このフローは、EV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んだときに第2クラッチ4を一時的に締結状態とするためのもので、図11のフローに続けて実行する。
【0055】
ステップ81ではドライブスリップモード(CL2MODE=2)にあるか否か、ステップ82では前回にコーストスリップモード(CL2MODE=3)であったか否かをみる。ステップ81でドライブスリップモードでなかったときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0056】
ステップ81、82でドライブスリップモードにありかつ前回にコーストスリップモードであった、つまり今回にコーストスリップモードからドライブスリップモードに切換わったときにはステップ83に進んで第1タイマを起動する。ここでの第1タイマの起動は、第1タイマ値=0とするのみで、直ぐに第1タイマ値をインクリメントすることはしない。第1タイマ値のインクリメントを開始するタイミングは、ステップ88で後述するように、スリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロと一致したタイミングである。第1タイマは、コーストスリップモードよりドライブスリップモードに切換わりかつスリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロとなったタイミングからの経過時間を計測するためのものである。
【0057】
ステップ84では第2クラッチ4を締結状態とするため、第2クラッチモードフラグCL2MODE=1とする。
【0058】
ステップ81、82でドライブスリップモードにありかつ前回にコーストスリップモードでなかったときにはステップ85に進み、前回はドライブスリップモードであったか否かをみる。前回はドライブスリップモードでなかったときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0059】
一方、ステップ85で前回はドライブスリップモードであった、つまり続けてドライブスリップモードにあるときにはステップ86に進む。ステップ86では、第2クラッチ4の出力軸回転速度検出値ωo[rpm]と第2クラッチ4の入力軸回転速度検出値ωcl2i[rpm]の差をスリップ回転速度検出値ωcl2 slp[rpm]として算出する。ここで、入力軸回転速度ωcl2iは入力軸回転速度センサ23により、出力軸回転速度検出値ωoは出力軸回転速度センサ24により検出する。
【0060】
ステップ87は、ステップ84でフラグCL2MODE=1により第2クラッチ4が締結状態となるように指示してから第2クラッチ4が実際に締結状態となるまでの応答遅れを考慮するものである。具体的には、ステップ87でスリップ回転速度検出値ωcl2 slpとゼロ[rpm]を比較することにより、第2クラッチ4が実際に締結状になったか否かを判定する。スリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロでないときには、第2クラッチ4がまだ締結されていないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
【0061】
一方、ステップ87でスリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロと一致したときには、第2クラッチ4が実際に締結状態となったと判断し、ステップ88に進んで第2タイマ値をインクリメントする。
【0062】
ステップ89では第1タイマ値と所定値1を比較する。ここで、所定値1は第2クラッチ4を一時的に締結状態としておく時間を定めるもので、予め設定しておく。たとえば、図3においてスリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロと一致するt4のタイミングより最終モータトルク指令値Tm fin*が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*に到達するまでの時間を実験やシミュレーションにより予め求めておき、この求めておいた時間を所定値1とする。なお、最終モータトルク指令値Tm fin*や最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*の演算方法は後述する。第1タイマ値が所定値1に満たないときにはステップ89よりステップ84に進みステップ84の操作を実行する。
【0063】
第1タイマ値が所定値1に満たない限り、ステップ84の操作を継続する。ステップ88の操作の繰り返しにより、やがてステップ89で第1タイマ値が所定値1以上となったときには第2クラッチ4の一時的な締結状態を解除するためステップ90に進み、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE=0とする。これによって第2クラッチ4が開放状態に戻され、再びスリップ回転速度制御が行われる。
【0064】
図11のフローとの関係では、図17のフローにより設定する第2クラッチ制御モードフラグの値による指示を、図11のフローにより設定する第2クラッチ制御モードフラグの値による指示より優先させるものとする。このようにして図11図17のサブルーチンを終了したら図4Aのステップ6に戻る。
【0065】
図4Aのステップ6では、クラッチ3、4の各制御モードフラグfCL1、CL2MODEと車両状態のデータに基づき目標制駆動トルクTd*を基本エンジントルク指令値Te base*[Nm]と基本モータトルク指令値Tm base*[Nm]とに配分する。配分方法については様々な手法が考えられるが、詳細については省略する。
【0066】
ステップ7では、スリップ回転速度制御中であるか否かをみる。具体的にはステップ5で設定した第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE=3(コーストスリップモード)でかつ実際のスリップ回転速度検出値ωcl2 slp[rpm](=ωcl2i−ωo)の絶対値が所定値以上となった場合にスリップ回転速度制御フラグをゼロから1に切換えている。従って、スリップ回転速度制御フラグ=1であれば、スリップ回転速度制御中であると判断してステップ8以降に進む。一方、ステップ5で設定したフラグCL2MODE=0(開放モード)またはフラグCL2MODE=1(締結モード)である場合にはスリップ回転速度制御フラグ=0のままである。このときにはスリップ回転速度制御中でないと判断して図4Bのステップ15、16に進む。
【0067】
スリップ回転速度制御中に進むステップ8では、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*[Nm]を演算する。例えば目標制駆動トルクTd*と同値とする。また、次の(1)式に基づき演算した第2クラッチ4のクラッチ速度比ecl2[−]を入力とし、従来のトルクコンバータ特性に基づき作成した図6を内容とするテーブルを検索することにより第2クラッチ4のトルク容量係数Ccl2[−]を算出する。そして、このトルク容量係数Ccl2と第2クラッチ4の入力軸回転速度検出値ωcl2iから次の(2)式を用いて基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*を算出してもよい。
【0068】
【数1】
【数2】
ステップ9では、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*、第1クラッチ制御モードフラグfCL1および第2クラッチ制御モードフラグCL2MODEから第2クラッチ4の出力軸回転速度目標値ωo*[rpm]及び入力軸回転速度目標値ωcl2i*[rpm]を演算する。これら出力軸回転速度目標値ωo*及び入力軸回転速度目標値ωcl2i*の演算方法の詳細については後述する。
【0069】
次に、図4Aのステップ10〜13、図4Bのステップ14、15の処理を説明するが、これらの処理部分については、図7にブロック図でも示している。
【0070】
図4Aのステップ10では、次の(3)式に示す位相補償フィルタGFF(s)に基づき基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*に位相補償を施してフィードフォワード第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 FF[Nm]を演算する。実際の演算においてはタスティン近似等で離散化して得られた漸化式を用いて算出する。
【0071】
【数3】
ステップ11では、出力軸回転速度目標値ωo*を入力とし、次の(4)式に基づいて出力軸回転速度規範値ωo refを演算する。(4)式のGcl2 fef(s)は伝達関数である。実際の演算においてはタスティン近似等で離散化して得られた漸化式を用いて算出する。
【0072】
【数4】
ステップ12では、出力軸回転速度規範値ωo refと出力軸回転速度検出値ωoとの偏差ωo err(=ωo ref−ωo)から、次の(5)式に基づいて第2クラッチトルク容量補正値Tcl2 FB[Nm]を算出する。実際においてはタスティン近似等で離散化して得られた漸化式を用いて算出する。(5)式右辺の括弧内は比例要素と積分要素とからフィードバック制御系を構成するものである。
【0073】
【数5】
ステップ13では、エンジン始動に合わせて第1クラッチ3が開放状態より締結状態へと移行するときに限定したエンジン始動時クラッチトルク容量補正値Tcl2 hosei[Nm]を次のように2つの場合に分けて演算する。
【0074】
1)第1クラッチ3が締結モードでかつ第1クラッチ3を実際にはまだ締結していない(ωe≠ωcl2i)場合
【数6】
2)それ以外
【数7】
ここで、上記(6)式のfcl2 hosei(Teng start,Apo)は、エンジン始動配分モータトルクTeng start[Nm]とアクセル開度Apo[deg]を入力とした関数である。実際には例えば図8を内容とするマップを検索することにより、エンジン始動時クラッチトルク容量補正値Tcl2 hoseiを正の値で演算する。図8に示したように、エンジン始動時クラッチトルク容量補正値Tcl2 hoseiは、アクセル開度Apoが同一の条件でエンジン始動配分モータトルクTeng startが低下するほど大きくなる値である。また、補正値Tcl2 hoseiは、エンジン始動配分モータトルクTeng startが同一の条件でアクセル開度Apoが大きいほど大きくなる値である。
【0075】
なお、エンジン始動配分モータトルクTeng startの演算方法の詳細な説明は省略する。簡単には、例えば現在のバッテリ充電量SOCよりモータ1が出力できる最大トルクを推定し、駆動に配分する最大トルク(予め任意に設定)を差し引いた値をエンジン始動配分モータトルクとする。
【0076】
図4Bのステップ14では、次の(8)式に基づいてスリップ回転速度制御用のクラッチトルク容量指令値Tcl2 FB ON[Nm]を演算する。
【0077】
【数8】
(8)式に示したように、Tcl2 FB ONは、フィードフォワード第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 FFと第2クラッチトルク容量補正値Tcl2 FBとエンジン始動時クラッチトルク容量補正値Tcl2 hoseiを合計した値である。
【0078】
一方、図4Aのステップ7でスリップ回転速度制御中でない場合には、図4Bのステップ15に進み、出力軸回転速度目標値ωo*を出力軸回転速度検出値ωoで初期化する。かつ、ステップ12で説明したクラッチトルク容量補正値Tcl2 FBの演算に使用する積分器を零で初期化する。
【0079】
ここで、スリップ回転速度制御を行なわない条件には、第2クラッチ4を締結する場合、第2クラッチ4を開放する場合、第2クラッチ4を締結状態からスリップ状態に移行させる(スリップ回転速度制御を行なう)場合の3つがある。このためステップ16では、3つの各場合に分けてスリップ回転速度制御を行なわない条件でのクラッチトルク容量指令値Tcl2 FB OFF[Nm]を次のように演算する。
【0080】
1)第2クラッチ4を締結する場合
1-1)Tcl2 z*<Td*×Ksafeであれば、
【数9】
1-2)Tcl2 z*≧Td*×Ksafeであれば、
【数10】
2)第2クラッチ4を開放する場合
【数11】
3)第2クラッチ4を締結状態→スリップ状態に移行させる場合
【数12】
ステップ17では、次の2つの場合に分けて最終第2クラッチトルク容量指令値Tcl2*[Nm]を決定する。
【0081】
1)スリップ回転速度制御中の場合
【数13】
2)スリップ回転速度制御中でない場合
【数14】
ステップ18では、基本的に目標制駆動トルクと車両状態から第1クラッチトルク容量指令値Tcl1*[Nm]を演算する。本実施形態では、目標制駆動トルクTd*と、バッテリ充電量SOC及び車速Vsp(SOC及びVspは車両状態)から第1クラッチ制御モードフラグfCL1を設定しているので、このフラグfCL1に基づいて第1クラッチトルク容量指令値Tcl1*を演算する。すなわち、次の2つの各場合に分けて、第1クラッチトルク容量指令値Tcl1*を決定する。
【0082】
1)フラグfCL1=1(締結モード)でかつスリップ回転速度検出値ωcl2 slpがスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*以上の場合
【数15】
2)フラグfCL1=0(開放モード)である場合
【数16】
ステップ19では、このようにして求めた各クラッチトルク容量指令値Tcl1*、Tcl2*から第1、第2のクラッチ3、4に与える各電流指令値Icl1*[A]、Icl2*[A]を演算する。実際には予め取得した特性に基づき作成したテーブルを用いて算出する。
【0083】
たとえば、各クラッチ3、4のアクチュエータが油圧アクチュエータであり、油圧アクチュエータを制御するのが電磁弁である場合で考える。このときには、クラッチトルク容量指令値から図9を内容とするテーブルを検索することにより油圧アクチュエータに与えるクラッチ油圧[MPa]を算出する。この求めたクラッチ油圧から図10を内容とするテーブルを検索することにより電磁弁に与える電流指令値[A]を算出する。上記図9図10の特性は非線形な特性である。これにより、油圧アクチュエータに与える油圧や電磁弁に与える電流に対して、各クラッチのクラッチトルク容量が非線形な特性を有している場合でも、制御対象(各クラッチ)を線形としてみなすことができるため、前述したような線形制御理論を適用することができる。
【0084】
ステップ20では再びスリップ回転速度制御中であるか否かみて、スリップ回転速度制御中である場合にはステップ21に進んで入力軸回転速度指令値ωcl2i*を、それ以外の場合にはステップ22に進んで基本モータトルク指令値Tm base*を選択する。
【0085】
ステップ23では、算出された各指令値Icl1*、Icl2*、ωcl2i*、Tm base*、Te base*を各コントローラに送信する。すなわち、各電流指令値Icl1*、Icl2*をクラッチコントローラ15に、入力軸回転速度指令値ωcl2i*もしくは基本モータトルク指令値Tm base*のいずれかをモータコントローラ17に、基本エンジントルク指令値Te base*をエンジンコントローラ16に送信する。クラッチコントローラ15では、スリップ回転速度制御中に各電流指令値Icl1*、Icl2*を各クラッチ3、4に与えることで、各目標値ωcl2i*、ωo*が得られることとなり、スリップ回転速度制御が行われる。
【0086】
ステップ24では、モータトルクコントローラ17において統合コントローラ13から受信した入力軸回転速度指令値ωcl2i*もしくは基本モータトルク指令値Tm base*から最終モータトルク指令値Tm fin*[Nm]を演算する。実際にはスリップ回転速度制御中でなく基本モータトルク指令値Tm base*を受信した場合、そのままTm base*を最終モータトルク指令値Tm fin*とする。もしくはTm base*に対してドライブシャフトの捩れに起因して発生する振動を除去するフィルタ処理を施した結果を最終モータトルク指令値Tm fin*とする。
【0087】
一方、スリップ回転速度制御中で入力軸回転速度指令値ωcl2i*を受信した場合、基本的には入力軸回転速度検出値ωcl2iが指令値ωcl2i*と一致するようなトルク指令値Tm FBを演算し、これを最終モータトルク指令値Tm fin*とする。最終モータトルク指令値Tm fin*の演算方法の詳細については図16のフローにより後述する。
【0088】
次に、上記図4Aのステップ9に記載した第2クラッチ4の出力軸回転速度目標値ωo*[rpm]の演算方法を詳述する。出力軸回転速度目標値ωo*の演算方法は図7のブロック図にも示してある。すなわち、出力軸回転速度目標値ωo*は、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*[Nm]、現在の変速比Gm[−]、および車両諸元である最終減速比Gf[−]、車両質量(慣性モーメント)Joから次の(17)式及び(18)式に基づいて算出する。
【0089】
【数17】
【数18】
なお、上記の(17)式に対し、現在の路面勾配を推定または検出し、その路面勾配による走行抵抗増加分Tslope[Nm]を差し引いた次の(19)式により目標車両トルクTo*[Nm]を算出することとしてもよい。
【0090】
【数19】
ここで、(19)式のKslopeは路面勾配分走行抵抗補正係数[−]であり、0〜1.0の範囲で設定する。補正係数Kslopeをゼロとした場合、出力軸回転速度目標値ωo*は平坦路走行時と同様の値となるため、実際の出力軸回転速度検出値ωoも平坦路と同様の加速性能を実現できる。一方、補正係数Kslopeを1.0とした場合、出力軸回転速度目標値ωo*は勾配路走行時と同様の値となるため、実際の出力軸回転速度検出値ωoも勾配路走行と同様の加速性能となる。このように、目標車両トルクTo*を路面勾配による走行抵抗で補正することにより、設計者の意図する加速性能を得ることができる。
【0091】
なお、路面勾配推定方法についての詳細な説明は省略するが、例えば加速度センサによる加速度検出値と車輪加速度(車速Vspの微分値)との偏差により算出する。
【0092】
次に、第2クラッチ4の入力軸回転速度目標値ωcl2i*[rpm]の演算方法を図12のフロー(図4Aのステップ9のサブルーチン)を参照して説明する。
【0093】
入力軸回転速度目標値ωcl2i*は、第1クラッチ制御モードフラグfCL1、第2クラッチ制御モードフラグCL2MODE、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*、第2クラッチ油温Tempcl2およびバッテリ充電量SOCから演算する。以下、具体的に説明する。
【0094】
図12において、ステップ51では次の3つの各場合に分けて第2クラッチ4のスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*[Nm]を演算する。ここで、「スリップ回転速度目標値」とは、第2クラッチの入力軸回転速度と第2クラッチの出力軸回転速度の差分の目標値のことである。
【0095】
1)フラグfCL1=0(開放モード)でかつフラグCL2MODE=2(ドライブスリップモード)である場合
【数20】
2)フラグfCL1=0(開放モード)でかつフラグCL2MODE=3(コーストスリップモード)である場合
【数21】
3)フラグfCL1=1(締結モード)でかつまだエンジントルクが発生していない場合(エンジン始動中)
【数22】
ここで、上記(20)式右辺のfcl2 slp cl1OP DRV(Tcl2 base*,Tempcl2)は、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*および第2クラッチ油温Tempcl2を入力とした関数である。実際には(20)式右辺の関数fcl2 slp cl1OP DRV(Tcl2 base*,Tempcl2)に代えて、例えば図13を内容とするマップで与えておく。基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*と第2クラッチ油温Tempcl2から図13を内容とするマップを検索することにより、EV走行でのドライブスリップモードではスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を正の値で算出する。
【0096】
図13に示したように、クラッチ容量指令値Tcl2 base*が一定の条件で第2クラッチ油温Tempcl2が相対的に高い場合に第2クラッチ油温Tempcl2が相対的に低い場合よりスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を小さくすることにより、第2クラッチ油温Tempcl2の上昇を防止できる。また、第2クラッチ油温Tempcl2が一定の条件でクラッチ容量指令値Tcl2 base*が相対的に大きい場合にクラッチ容量指令値Tcl2 base*が相対的に小さい場合よりスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を小さくすることにより、第2クラッチ油温Tempcl2の上昇を防止できる。
【0097】
同様に、上記(21)式右辺のfcl2 slp cl1OP CST(Tcl2 base*,Tempcl2)も、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*および第2クラッチ油温Tempcl2を入力とした関数である。実際には(21)式右辺の関数fcl2 slp cl1OP CST(Tcl2 base*,Tempcl2)に代えて、例えば図14を内容とするマップで与えておく。基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*と第2クラッチ油温Tempcl2から図14を内容とするマップを検索することにより、EV走行でのコーストスリップモードではスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を負の値で算出する。
【0098】
図14に示したように、クラッチ容量指令値Tcl2 base*が一定の条件で第2クラッチ油温Tempcl2が相対的に高い場合に第2クラッチ油温Tempcl2が相対的に低い場合よりスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を絶対値で小さくすることにより、第2クラッチ油温Tempcl2の上昇を防止できる。また、第2クラッチ油温Tempcl2が一定の条件でクラッチ容量指令値Tcl2 base*が相対的に大きい場合にクラッチ容量指令値Tcl2 base*が相対的に小さい場合よりスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を絶対値で小さくすることにより、第2クラッチ油温Tempcl2の上昇を防止できる。
【0099】
上記(22)式右辺第1項はエンジン始動のためのスリップ回転速度目標値の基本値、上記(22)式右辺第2項はエンジン始動時のためのスリップ回転速度目標値の増加分で、これらの合計がエンジン始動のためのスリップ回転速度目標値となる。
【0100】
まず、(22)式右辺第1項のfcl1 slp cl1OP(Tcl2 base*,Tempcl2)は、基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 base*および第2クラッチ油温Tempcl2を入力とした関数である。実際には(22)式右辺第1項の関数fcl1 slp cl1OP(Tcl2 base*,Tempcl2)に代えて、図13と同様の特性のマップで与えておき、同特性のマップを検索することによりエンジン始動のためのスリップ回転速度目標値の基本値を算出する。
【0101】
次に(22)式右辺第2項のfcl2 Δωslp(Teng start)は、エンジン始動時のためのスリップ回転速度目標値の増加分を演算する関数で、エンジン始動配分モータトルクTeng startを入力とする。実際には(22)式右辺第2項の関数fcl2 Δωslp(Teng start)に代えて、例えば図15を内容とするテーブルで与えておく。図15に示したように、エンジン始動配分モータトルクTeng startが相対的に小さいときにはTeng startが相対的に大きいときよりスリップ回転速度目標値の増加分Δωcl2 slp*を大きくしている。これによって、Teng startが相対的に小さいときにはTeng startが相対的に大きいときよりエンジン始動のためのスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を高めに設定する。これにより、第1クラッチ3からの外乱を完全に打ち消すことができず回転速度が低下しても第1クラッチ3の急な締結を防止でき、その結果、加速度変動を生じることなくエンジン2を始動できる。
【0102】
なお、エンジン始動後もスリップ回転速度制御を継続する場合、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*はEV走行中と同様とする(スリップ回転速度目標値の増加分は加算しない)。これでスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の演算を終了する。
【0103】
図12のフローに戻り、ステップ52では、このようにして求めたスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*と出力軸回転速度検出値ωoから、次の(23)式に基づいて第2クラッチ4の入力軸回転速度目標値ωcl2i*を演算する。
【0104】
【数23】
EV走行でのコーストスリップモードではスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*が負の値であることから、(23)式によって、出力軸回転速度目標値ωo*よりもスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の絶対値|ωcl2 slp*|の分だけ低い値が入力軸回転速度目標値ωcl2i*となる。すなわち、図3第2段目に示したように、EV走行でのコーストスリップモードでは出力軸回転速度目標値ωo*と入力軸回転速度目標値ωcl2i*の差がEV走行でのコーストスリップモードにおけるスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*である。
【0105】
一方、EV走行でのドライブスリップモードではスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*が正の値であることから、(23)式によれば、出力軸回転速度目標値ωo*よりもスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の分だけ高い値が入力軸回転速度目標値ωcl2i*となる。すなわち、図3第2段目に示したように、EV走行でのドライブスリップモードでは入力軸回転速度目標値ωcl2i*と出力軸回転速度目標値ωo*の差がEV走行でのドライブスリップモードにおけるスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*である。
【0106】
さらに、フラグfCL1=1(締結モード)である場合には、上記(23)式で算出した入力軸回転速度目標値ωcl2i*にエンジン回転速度の上下限値で上下限制限処理を施し、最終的な入力軸回転速度目標値とする。
【0107】
上記(23)式によれば、仮に出力軸回転速度検出値ωoが目標値ωo*と一致していない場合でも、比較的制御性能が優れているモータを用いて入力軸回転速度検出値ωcl2iが目標値ωcl2i*と一致するように制御すれば、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*を実現できる。ここで、モータの「制御性能」とは、応答性、トルクの絶対精度のことである。
【0108】
次に、モータコントローラ17が、図12のフローで算出した入力軸回転速度目標値ωcl2i*を受信した場合の処理(モータ回転速度制御)について説明する。まず初めにモータコントローラ17では、入力軸回転速度検出値ωcl2i(=モータ回転速度検出値)が入力軸回転速度目標値ωcl2i*(=モータ回転速度目標値)と一致するように、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBを演算する。その手法については様々考えられる。例えば入力軸回転速度検出値ωcl2i[rpm]と入力軸回転速度目標値ωcl2i*[rpm]との差分ωm err[rpm]から、次の(24)式に基づいてスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB[Nm]演算する。
【0109】
【数24】
(24)式右辺の括弧内は比例要素と積分要素とからフィードバック制御系を構成するものである。このように、偏差である差分ωm errに対して積分処理を施し所定の係数を乗じた値((24)式右辺第2項)を用いることにより、モータ1に外乱が加わった場合でも、モータ回転速度検出値ωcl2iをモータ回転速度目標値ωcl2i*と一致させることができる。
【0110】
次に、最終モータトルク指令値Tm fin*の演算方法を図16のフロー(図4Bのステップ24のサブルーチン)を参照して説明する。最終モータトルク指令値Tm fin*は、本実施形態で新たに導入する値である。すなわち、現状の制御ではスリップ回転速度制御中に上記のスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBを用いてモータ1を制御している。一方、本実施形態ではスリップ回転速度制御中に、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBに代えて最終モータトルク指令値Tm fin*を用いてモータ1を制御する。
【0111】
図16においてステップ61では、第2クラッチ4のスリップ回転速度目標値ωcl2slp*[rpm]の符号の切換わりを判定する。実際には第2クラッチ4のスリップ回転速度目標値の今回値であるωcl2 slp*とスリップ回転速度目標値の前回値であるωcl2 slp z1*を乗算した結果とゼロを比較する。EV走行でのコースト中には目標制駆動力Fd*が負となってコーストスリップモードに移行する(図11のステップ31、32、33、36参照)。EV走行でのコーストスリップモードでは、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号は前回、今回とも負の状態にある(図14参照)。このため、EV走行でのコーストスリップモードでは乗算した結果が正となる。つまり、乗算した結果が正である場合にはスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わっていないと判断し、ステップ62に進む。
【0112】
ステップ62では、スリップ回転速度目標値符号切換フラグ(イグニッションスイッチのON時にゼロに初期設定)fsgをみる。この符号切換フラグfsgは、ステップ64で後述するようにスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わったときにfsg=1となるフラグである。ここでは、符号切換フラグfsg=0であるとしてステップ63に進み、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB[Nm]をそのまま最終モータトルク指令値Tm fin*[Nm]とする。このように、EV走行でのコーストスリップモードにあってスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わらない場合にはTm FBとTm fin*とが一致するので、現状の制御と変わらない。
【0113】
一方、EV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んだときには、目標制駆動力Fd*がゼロ以上となってコーストスリップモードからドライブスリップモードに移行する(図11のステップ31、32、33、35参照)。EV走行でのドライブスリップモードでは、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が正の状態になる(図13参照)。つまり、コーストスリップモードからドライブスリップモードへの切換時に、ステップ61で前回と今回の符号を乗算した結果が負の値となる。このときには、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が負の値から正の値に切換わったと判断し、ステップ64で符号切換フラグfsg=1とした後、ステップ65に進む。符号切換フラグfsg=1は、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBに対し、モータトルク変化率制限値ΔTm*を用いて変化率制限処理を施すことを指示するものである。ここで、「変化率制限処理」とは、最終モータトルク指令値の制御周期当たりの増加分(傾き)が所定値を超えないようにする(ここでは制御周期当たりの増加代をモータトルク変化率制限値ΔTm*とする)ものである。
【0114】
ステップ65では、最終モータトルク指令値の前回値であるTm fin z1*と、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB((24)式により算出済み)との差分の絶対値|Tm fin z1*−Tm FB|とモータトルク変化率制限値ΔTm*を比較する。ここで、モータトルク変化率制限値ΔTm*は、変化率制限処理を施す条件にあるか否かを判定するための値で、正の値で予め設定しておく。差分の絶対値|Tm fin z1*−Tm FB|がモータトルク変化率制限値ΔTm*以下の場合には変化率制限処理を施す条件にないと判断し、ステップ63に進んでスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBをそのまま最終モータトルク指令値Tm fin*とする。
【0115】
一方、差分の絶対値|Tm fin z1*−Tm FB|がモータトルク変化率制限値ΔTm*を超えている場合には変化率制限処理を施す条件を満足すると判断し、ステップ66以降に進む。
【0116】
ステップ66〜68は、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBに対し、モータトルク変化率制限値ΔTm*を用いて変化率制限処理を施し、施した後の値を最終モータトルク指令値Tm fin*とする部分である。まず、ステップ66では、最終モータトルク指令値の前回値であるTm fin z1*と、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBとを比較する。EV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んだ直後にはTm FBが最終モータトルク指令値の前回値であるTm fin z1*を超えるので、ステップ67に進み、次の(25)式により最終モータトルク指令値Tm fin*[Nm]を算出する。
【0117】
m fin*=Tm fin z1*+ΔTm* (25)
(25)式は、前回値であるTm fin z1*に制御周期当たりの増加分であるΔTm*を加算した値を今回値であるTm fin*として、つまりモータトルク変化率制限値ΔTm*で最終モータトルク指令値の制御周期当たりの増加分を制限するものである。
【0118】
一方、最終モータトルク指令値の前回値であるTm fin z1*がスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB以上であるときには、ステップ68に進み、次式により最終モータトルク指令値Tm fin*[Nm]を算出する。
【0119】
m fin*=Tm fin z1*−ΔTm* (26)
EV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んで加速したときにはステップ65〜677が採用され、ステップ65、66、68が採用されることはないので、以下では、ステップ65〜67が採用される場合を主に説明する。EV走行でのコースト中に加速したときにはステップ61でωcl2 slp*の符号が負より正へと切換わったと判断してステップ64以降に進んだが、符号が正の値に切換わった後にはωcl2 slp*の符号は正の値を維持する。つまり、ステップ61で再び前回と今回の符号が共に正の同符号となる。このときには、ステップ61よりステップ62に進むが、前回の処理時にステップ64でフラグfsg=1となっていることより、ステップ62よりステップ69に進む。
【0120】
ステップ69は変化率制限処理を終了するか否かを判定する部分である。具体的にはステップ69で最終モータトルク指令値Tm fin*と最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*を比較する。EV走行でのコースト中にアクセルペダルを踏み込んだ直後には最終モータトルク指令値Tm fin*より最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*が大きい。このため、最終モータトルク指令値Tm fin*が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*以下である限り、ステップ65以降に進む。そして、ステップ65で|Tm fin z1*−Tm FB|>ΔTm*であれば、ステップ66、67の操作を繰り返す。これによって、最終モータトルク指令値Tm fin*が制御周期当たりモータトルク変化率制限値ΔTm*ずつ大きくなってゆく。
【0121】
ステップ67の操作の繰り返しにより、ステップ69で最終モータトルク指令値Tm fin*が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*を超えたときには最終モータトルク指令値Tm fin*が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*に到達したと判断する。このときには、変化率制限処理を終了するためステップ70に進み、符号切換フラグfsg=0とした後、ステップ63の操作を実行する。符号切換フラグfsg=0とした次の処理タイミングからは、ステップ61、62、63の操作を繰り返し実行する。
【0122】
本実施形態の変化率制限処理を図3を参照してさらに説明する。出力軸回転速度目標値ωo*は、EV走行でのコーストステップモードで、図3第2段目に細実線で示したようにゆっくりと減少し、アクセルペダルを踏み込むt1のタイミングからは再びゆっくりと上昇する。一方、入力軸回転速度目標値ωcl2i*は、EV走行でのコーストスリップモードで、図3第2段目に破線で示したように出力軸回転速度目標値ωo*よりスリップ回転速度目標値の絶対値|ωcl2 slp*|の分だけ下を推移する。ドライブスリップモードに移行するt1のタイミングでスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の分だけステップ的に立ち上がり、その後は出力軸回転速度目標値ωo*よりスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の分だけ上を推移する。また、EV走行でのコーストスリップモードで入力軸回転速度検出値ωcl2iは、図3第2段目に太実線で示したように入力軸回転速度目標値ωcl2i*と一致している。
【0123】
次に、EV走行でのコーストスリップモードでスリップ回転速度制御用モータトルク指令値Tm FB図3第3段目に破線で示したように負の一定値である。EV走行でのコーストスリップモードではスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が負の値で変化しないので、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBがそのまま最終モータトルク指令値Tm fin*となる。このため、最終モータトルク指令値Tm fin*は、図3第3段目に太実線で示したようにt1のタイミングまで負の一定値で推移する。なお、見やすくするため、破線のTm FBを太実線のTm fin*より少し上にずらせて記載しているが、実際にはEV走行でのコーストスリップモードで両者は一致している。
【0124】
t1のタイミングでスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が負の値から正の値へと切換わるため符号切換フラグfsg=1となる。本実施形態では、現状の制御と相違して、t1のタイミングより一時的にフラグCL2MODE=1(締結モード)とし、このフラグの指示で第2クラッチ4を締結状態とする。このため、入力軸回転速度検出値ωcl2iは、図3第2段目に太実線で示したように、t1のタイミングより少し遅れたt4のタイミングで出力軸回転速度検出値ωo(=出力軸回転速度目標値ωo*)と一致する。これによって、t1のタイミング以降、入力軸回転速度検出値ωcl2iが入力軸回転速度目標値ωcl2i*より大きく乖離する。このため、これらの差分ωm errから演算されるスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBが、図3第3段目に破線で示したようにステップ的に立ち上がる。
【0125】
この結果、t1のタイミング直後に最終モータトルク指令値Tm fin*は最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*以下にあり、かつ|Tm fin z1*−Tm FB|>ΔTm*である条件が成立し、変化率制限処理が開始される。この変化率制限処理によって、最終モータトルク指令値Tm fin*がモータトルク変化率制限値ΔTm*で定まる所定の傾きで漸増していく。
【0126】
そして、最終モータトルク指令値Tm fin*の漸増(つまり変化率制限処理)は、Tm fin*が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*に到達するt2のタイミングで終了する。
【0127】
変化率制限処理の終了するt2以降には、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBがそのまま最終モータトルク指令値Tm fin*となる。上記のように、t2のタイミングまで第2クラッチ4を締結していたので、図3第3段目においてt2のタイミング直後には入力軸回転速度検出値ωcl2iが入力軸回転速度目標値ωcl2i*から、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の分だけ大きく乖離している。このため、t2のタイミング直後に第2クラッチ4の一時的締結が解除されたタイミングでは、入力軸回転速度検出値ωcl2iと入力軸回転速度目標値ωcl2i*との大きな差分ωm errに基づいてスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBが算出される。このため、t2のタイミング直後にスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBがステップ的に立ち上がり、その後に最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*に向かって漸減する。入力軸回転速度検出値ωcl2iはt2のタイミングより入力軸回転速度目標値ωcl2i*に向かって追従する。t2のタイミング直後から変化するこのスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBが、図3第3段目に太実線で示したように、そのまま最終モータトルク指令値Tm fin*となる。
【0128】
このように変化するTm fin*でモータ1を制御したとき、車輪7に伝達される実駆動トルクは、図3第3段目に細実線で示したように、t1のタイミングよりt2のタイミングまでの期間の最終モータトルク指令値Tm fin*の傾きと同様の傾きで漸増する。現状の制御ではt1のタイミングで実駆動トルクがステップ的に変化し(図2第3段目の細実線参照)、これによって実駆動トルクの急変に伴う運転ショックが生じたが、本実施形態では実駆動トルクが傾きをもって漸増するのである。これによって、EV走行でのストール中にアクセルペダルを踏み込むことによるトルクショックや車両の捻れ振動の発生が抑制される。
【0129】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0130】
本実施形態では、アクセル開度Apo(運転者の加速操作量)と車速Vsp(車両状態)から目標とする制駆動トルクTd*を演算する目標制駆動トルク演算手段(図4Aのステップ3参照)と、目標制駆動トルクTd*から基本第2クラッチトルク容量指令値Tcl2 BASE(車輪7と駆動源を締結/開放可能なクラッチの伝達トルクであるトルク容量の指令値)を演算するクラッチトルク容量指令値演算手段(図4Aのステップ8参照)と、目標制駆動トルクTd*から第2クラッチ4のスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*(クラッチの入出力軸の差回転速度であるスリップ回転速度の目標値)を演算するスリップ回転速度目標値演算手段(図12のステップ51参照)と、クラッチ出力軸の回転速度を検出する出力軸回転速度センサ24(クラッチ出力軸回転速度検出手段)と、クラッチ出力軸回転速度検出値ωo(クラッチ出力軸回転速度検出値)とスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*から入力軸回転速度目標値ωcl2i*(クラッチ入力軸の回転速度目標値)を演算するクラッチ入力軸回転速度目標値演算手段(図12のステップ52参照)と、入力軸回転速度検出値ωcl2i(クラッチの入力軸回転速度)が入力軸回転速度目標値ωcl2i*(クラッチ入力軸回転速度目標値)と一致するようにスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB(駆動源に与えるトルク指令値)を演算する駆動源トルク指令値演算手段と、を有するクラッチ制御装置において、スリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わる際に、前記クラッチを一時的に締結状態とすると共に(図17参照)、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB(駆動源に与えるトルク指令値)に所定の変化率制限処理を施している(図16のステップ61、64、67参照)。本実施形態によれば、スリップ回転速度目標値の符号が一瞬で切換わるとき、実際のスリップ回転速度検出値の符号は急に切換わらず、第2クラッチ4が一旦締結状態となる。また、第2クラッチ4の締結状態においては車輪7に伝達される実駆動トルクはスリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBに変化率制限処理を施した値となるため、急変しない。これにより、スリップ回転速度目標値の符号が一瞬で切換わるような運転シーンにおいても実駆動トルクの急変に伴う運転ショックを抑制できる。
【0131】
本実施形態によれば、変化率制限処理の開始後に最終モータトルク指令値Tm fin*(駆動源に与えるトルク指令値に変化率制限処理を施した値)が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*(クラッチのトルク容量指令値)と一致するタイミングで変化率制限処理を解除するので(図16のステップ61、62、69、70、63参照)、第2クラッチ4がスリップ状態に移行する。第2クラッチ4がスリップ状態に移行した後においては車輪7に伝達される実駆動トルクは第2クラッチ4のクラッチトルク容量(Tcl2*)となるため、変化率制限処理を解除しても、クラッチトルク容量を急変させなければ車輪7に伝達される実駆動トルクも急変しない。また、変化率制限処理を解除することにより入力軸回転速度検出値ωcl2iの入力軸回転速度目標値ωcl2i*への追従性が向上する。これによって、実駆動トルクの急変に伴う運転ショックを抑制しつつ、スリップ回転速度の追従性を向上できる。
【0132】
さて、本実施形態では、EV走行でのコースト中に加速を行う運転シーンを主に述べた。しかしながら、本発明はこの運転シーンに限定されるものでない。たとえば、車両の減速状態からエンジン2を始動するためにスリップ回転速度目標値の符号が切換わる際にも、実駆動トルクの急変に伴う運転ショックが発生する。そこで、車両の減速状態からエンジンを始動するためにスリップ回転速度目標値の符号が切換わる際に、第2クラッチを一時的に締結状態とすると共に、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FBに第1実施形態と同じあるいは同様の所定の変化率制限処理を施すことが考えられる。
【0133】
このように、本実施形態の他の例によれば、エンジン2と、モータ1と、エンジン2とモータ1を締結/開放可能な第1クラッチ3と、モータ1と車輪7を締結/開放可能な第2クラッチ4とを有する場合に、前記駆動源としてモータ1を、かつ前記車輪と駆動源を締結/開放可能なクラッチとして前記第2クラッチ4を採用すると共に、目標制駆動トルクTd*と車速Vsp(車両状態)から第1クラッチ3のトルク容量指令値Tcl1*を演算する第1クラッチトルク容量指令値演算手段(図4Bのステップ18参照)と、第1クラッチ3の締結/開放状態と目標制駆動トルクTd*から基本モータトルク指令値Te base*(エンジンに与えるトルク指令値)を演算するエンジントルク指令値演算手段(図4Aのステップ6参照)とを備え、車両の減速状態からエンジン2を始動するためにスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わる際に、第2クラッチ4を一時的に締結状態とすると共に、スリップ回転速度制御用のモータトルク指令値Tm FB(モータ1に与えるトルク指令値)に所定の変化率制限処理を施すことで、エンジン始動のためにスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わる場合においても、実駆動トルクの急変を抑制できる。これにより、運転者に違和感を与えることなくEV走行からHEV走行に移行できる。
【0134】
(第2実施形態)
図18のフローは、第2実施形態の最終モータトルク指令値の演算方法を説明するためのもので、第1実施形態の図16のフローと置き換わるものである。図16と同一部分には同一の符号を付している。
【0135】
第1実施形態では、最終モータトルク指令値Tm fin*が最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*に到達したか否かで、変化率制限処理を終了するか否かを判定した。
【0136】
さて、第1実施形態では、図3に示したようにt2のタイミングまでは第2クラッチ4を一時的に締結状態とし、t2のタイミング直後に第2クラッチ4の締結状態を解除して開放状態としている。ということは、第2クラッチ4の一時的な締結状態を解除して開放状態とするタイミングで変化率制限処理を終了すると判定させてもかまわないこととなる。そこで、第2実施形態では、第2クラッチ4の状態に基づいて変化率制限処理を終了するか否かを判定する。
【0137】
第1実施形態と相違する部分を主に説明すると、図18においてスリップ回転速度目標値ωcl2 slp*の符号が切換わったときにステップ64に進んで符号切換フラグfsg=1とした後、ステップ101で第2タイマを起動する。ここでの第2タイマの起動は、第2タイマ値=0とするのみで、直ぐに第2タイマ値をインクリメントすることはしない。第2タイマ値のインクリメントを開始するタイミングは、ステップ103で後述するように、スリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロと一致したタイミングである。第2タイマは、フラグfsg=1となりかつスリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロとなったタイミングからの経過時間を計測するためのものである。
【0138】
符号切換フラグfsg=1となった直後にはステップ61、62よりステップ102に進む。ステップ102では、出力軸回転速度検出値ωo[rpm]と入力軸回転速度検出値ωcl2i[rpm]の差をスリップ回転速度検出値ωcl2 slp[rpm]として算出する。ここで、入力軸回転速度ωcl2iは入力軸回転速度センサ23により、出力軸回転速度検出値ωoは出力軸回転速度センサ24により検出する。
【0139】
ステップ103は、ステップ64で符号切換フラグfsg=1となってから第2クラッチ4が実際に締結状態となるまでの応答遅れを考慮するものである。具体的には、ステップ103でスリップ回転速度検出値ωcl2 slpとゼロ[rpm]を比較することにより、第2クラッチ4が実際に締結状になったか否かを判定する。スリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロでないときには、第2クラッチ4がまだ締結されていないと判断し、ステップ103よりステップ65以降に進ませ、変化率制限処理を行わせる。
【0140】
一方、ステップ103でスリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロと一致したときには、第2クラッチ4が実際に締結状態となったと判断し、ステップ104に進んで第2タイマ値をインクリメントする。
【0141】
ステップ105では第2タイマ値と所定値2を比較する。ここで、所定値2は第2クラッチ4を締結状態としている時間を定めるもので、予め設定しておく。所定値2は所定値1(第2クラッチ4を締結状態としておく時間を定めている)と同じ値でかまわない。第2タイマ値が所定値2に満たないときには、まだ第2クラッチ4が一時的締結状態にあると判断し、ステップ105よりステップ65以降に進ませ、変化率制限処理を行わせる。
【0142】
第2タイマ値が所定値2に満たない限り、ステップ65以降に進ませ、変化率制限処理を継続する。ステップ104の操作の繰り返しにより、やがてステップ105で第2タイマ値が所定値2以上となったときには、第2クラッチ4が締結状態より開放状態に切換わったと判断する。このときには変化率制限処理を終了するためステップ70に進み、符号切換フラグfsg=0とする。
【0143】
このように第2実施形態によれば、第2クラッチ4(クラッチ)の入力軸回転速度を検出するセンサ23(クラッチ入力軸回転速度検出手段)と、入力軸回転速度検出値ωcl2i(クラッチ入力軸回転速度検出値)と出力軸回転速度検出値ωo(クラッチ出力軸回転速度検出値)からスリップ回転速度検出値ωcl2 slpを演算するスリップ回転速度検出値演算手段(図18のステップ102参照)とを備え、スリップ回転速度検出値ωcl2 slpがゼロであることより第2クラッチ4が一旦締結状態となってから所定値2の経過後(一定時間後)に変化率制限処理を解除するので(図18のステップ103、104、105、70、63参照)、第2クラッチ4がスリップ状態に移行する。第2クラッチ4がスリップ状態に移行した後においては車輪7に伝達される実駆動トルクは第2クラッチ4のクラッチトルク容量(Tcl2*)となるため、変化率制限処理を解除しても、クラッチトルク容量を急変させなければ車輪7に伝達される実駆動トルクも急変しない。また、変化率制限処理を解除することにより入力軸回転速度検出値ωcl2iの入力軸回転速度目標値ωcl2i*への追従性が向上する。これによって、第1実施形態と同様に、実駆動トルクの急変に伴う運転ショックを抑制しつつ、スリップ回転速度の追従性を向上できる。
【0144】
第1実施形態の図3では、変化率制限処理中に最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*が一定である場合で説明したが、変化率制限処理中に最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*を徐々に減少させることで変化率制限処理を終了するタイミングを早めることとする第3実施形態が考えられる。変化率制限処理を終了するタイミングを早めることで、第2クラッチ4が一時的締結状態から開放状態への移行タイミングが早まることとなり、第2クラッチ4が開放状態で行うエンジン始動の時間を短縮できる。このように、第3実施形態によれば、変化率制限処理中に最終第2クラッチトルク指令値Tcl2*(クラッチのトルク容量指令値)を徐々に減少させることで、第2クラッチ4の一時的締結状態から開放状態への移行タイミングが早まる分だけエンジン始動時間を短縮できる。
【0145】
実施形態では、ハイブリッド車両に適用する場合で説明したが、モータのみを駆動源とする電動車両にも本発明の適用がある。
【符号の説明】
【0146】
1 モータ(駆動源)
2 エンジン
3 第1クラッチ
4 第2クラッチ(クラッチ)
7 車輪
9 バッテリ
13 統合コントローラ
15 クラッチコントローラ
17 モータコントローラ
21 アクセルセンサ
23 入力軸回転速度センサ(クラッチ入力軸回転速度検出手段)
24 出力軸回転速度センサ(クラッチ出力軸回転速度検出手段)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18