特許第6044596号(P6044596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044596金属材料の曲げ特性評価装置および曲げ特性評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044596
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】金属材料の曲げ特性評価装置および曲げ特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20161206BHJP
   G01N 25/72 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G01N3/20
   G01N25/72 Y
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-125250(P2014-125250)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-3987(P2016-3987A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 心和
(72)【発明者】
【氏名】川崎 由康
(72)【発明者】
【氏名】岡本 新一
(72)【発明者】
【氏名】森田 英明
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 周作
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 一洋
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−093320(JP,A)
【文献】 特開2011−033376(JP,A)
【文献】 特開2007−078659(JP,A)
【文献】 特開2003−307477(JP,A)
【文献】 特開2010−223957(JP,A)
【文献】 特開昭63−179230(JP,A)
【文献】 特開平04−331360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/20
G01N 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ金型と荷重負荷手段とを有し、前記曲げ金型にセットされた金属材料の曲げ試験片に曲げ荷重を負荷する曲げ試験装置と、
該荷重負荷手段により前記曲げ試験片に負荷される荷重を時系列的に測定可能な荷重測定手段と前記曲げ試験片の変位を時系列的に測定可能な変位測定手段とを有する計測装置と、
前記曲げ試験装置に配設され前記曲げ試験片の温度分布を時系列的に測定可能な試験片温度測定装置と、
前記曲げ試験装置に配設され前記曲げ試験片の変形状況を時系列的に測定可能な試験片撮影装置と、
前記計測装置、前記試験片温度測定装置、前記試験片撮影装置により得られた各データを演算する演算手段と、前記得られた各データおよび前記演算手段で演算されて得られたデータを取り出し可能に格納する記憶手段とを有する記憶演算装置と、前記記憶演算装置からのデータを表示する表示装置とを有する金属材料の曲げ特性評価装置であって、
前記曲げ金型を、表面に反射防止処理を施された曲げ金型とし、
前記曲げ試験装置を、周囲を遮光用暗幕で囲まれた曲げ試験装置とすることを特徴とする金属材料の曲げ特性評価装置。
【請求項2】
前記試験片撮影装置がデジタルカメラ、またはデジタルビデオカメラであり、前記試験片測温装置が二次元の温度分布画像を測定可能な赤外線サーモグラフィであることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の曲げ特性評価装置。
【請求項3】
対象とする金属材料から採取した曲げ試験片を、曲げ試験装置の曲げ金型にセットし、該曲げ試験装置の荷重負荷手段で曲げ変形させて金属材料の曲げ特性を評価するにあたり、
前記曲げ金型を、表面に反射防止処理を施した曲げ金型とし、
前記曲げ試験装置を、前記曲げ試験片の発熱状態が測定容易となるように、遮光用暗幕で囲んだ曲げ試験装置とし、
該曲げ試験装置による曲げ試験の開始から終了まで時系列的に、前記曲げ試験片に負荷された荷重を荷重計測手段で、前記曲げ試験片の変位を変位計測手段でそれぞれ計測するとともに、
前記曲げ試験の開始から終了まで時系列的に、前記曲げ試験装置に配設された試験片撮影装置により前記曲げ試験片の曲げ変形部の外観を撮影し、かつ前記曲げ試験装置に配設された試験片温度測定装置で前記曲げ試験片の曲げ変形部の温度分布画像を測定し、
得られた各データを記憶演算装置に入力し、該記憶演算装置の演算手段で演算処理して得られたデータから、荷重−変位曲線および対応する温度分布画像を作成して、前記金属材料の曲げ特性および曲げ加工時の局所的割れ発生・進展挙動を評価することを特徴とする金属材料の曲げ特性評価方法。
【請求項4】
前記試験片撮影装置がデジタルカメラ、またはデジタルビデオカメラであり、前記試験片測温装置が二次元の温度分布画像を測定可能な赤外線サーモグラフィであることを特徴とする請求項3に記載の金属材料の曲げ特性評価方法。
【請求項5】
前記曲げ試験片を、表面に黒体ラッカーを塗布した曲げ試験片とすることを特徴とする請求項3または4に記載の金属材料の曲げ特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の曲げ試験に係り、とくに曲げ加工時の局所的な割れの発生、進展挙動等を可視化して、曲げ特性の評価を可能とする曲げ特性評価装置および曲げ特性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の材料試験として、引張試験をはじめ曲げ試験等、各種の特性値を評価する試験方法が、例えば、JIS Z 2241-2011 金属材料引張試験方法、JIS Z 2256-2010 金属材料の穴広げ試験方法、JIS Z 2248-2014 金属材料曲げ試験方法等として、標準化されている。しかし、これらの方法は、試験片全体の平均化された材料挙動を把握することに留まっている場合が多く、例えば、各種の特性を示す材料挙動を、局所的な変化を考慮しながら、時系列的に把握して材料の評価を行っている場合は少ない。
【0003】
曲げ試験ではないが、最近、例えば特許文献1には、穴−穴拡げ金属板の穴拡げ試験方法が記載されている。特許文献1に記載された技術は、金属板開穴部にポンチを当接して押し込みながら、開穴部の穴拡大過程をテレビカメラで撮像してデータ処理装置に入力し、板厚断面の外周端及び内周端が暗となるように画像処理したうえ、周方向に割れ検出を常時繰り返し、割れの軌跡を示す暗部が連続するか否かを判定することにより、板厚方向の内外面から不定位置に発生する割れを検出する穴−穴拡げ金属板の穴拡げ試験方法である。これにより、従来、目視で行っていた拡大開穴部の割れ検出が正確に行えるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、金属材料の穴拡げ試験方法が記載されている。特許文献2に記載された技術は、金属板開穴部にポンチを当接して押し込みながら、撮像装置によって打抜き穴の形状を時間を追って撮像してデータ処理装置に入力し、各時刻の撮像画像において打抜き穴板厚断面の内周端を明確化する画像処理を行い、打抜き穴全周について予め定めた周方向ピッチで内周端の位置データを取得して測定点とし、測定点の位置データに近似した真円を定めて擬似円とし、予め判定点数と判定閾値とを定めておき、判定点数以上の連続する個所の測定点において、測定点と擬似円との距離が判定閾値を超えたときを、穴拡げ限界と判定する金属材料の穴拡げ試験方法である。これにより、従来の目視方法と比較して測定ばらつきのない穴拡げ試験判定が可能になるとしている。
【0005】
また、特許文献3には、穴拡げ試験を目的とした、金属材料の試験方法が記載されている。特許文献3に記載された技術では、金属材料からなる試験片に負荷荷重を与え、その試験片に亀裂が発生した時の変形特性値を求める際に、試験片に負荷荷重を与えた時の変形特性値の時系列変化を計測及び記憶し、変形特性値の時系列変化と同期して、試験片の測定対象面の温度パターンの時系列変化を二次元の温度画像として計測及び記憶し、試験片に亀裂が発生した後の二次元の温度画像から亀裂の発生箇所を特定し、特定された亀裂の発生箇所の温度の時系列変化における特異点を検出して、亀裂の発生時期及び亀裂発生時の変形特性値を判定している。これにより、亀裂の発生時を的確に把握することができるとともに、変形特性値の正確な判定が可能となるとしている。
【0006】
また、特許文献4には、穴拡げ試験を目的とした金属材料の試験方法が記載されている。特許文献4に記載された技術では、金属材料からなる試験片に負荷荷重を与え、その試験片に亀裂が発生した時の変形特性値を求める際に、試験片に負荷荷重を与えた時の変形特性値の時系列変化を計測及び記憶し、変形特性値の時系列変化と同期して、試験片の測定対象面の温度パターンの時系列変化を二次元の温度画像として計測し、二次元画像の各画素毎に記憶し、記憶された温度パターンの時系列変化から、特異の温度変化履歴を生じた画素を順次抽出し、抽出された画素が予め設定された数以上に前後、左右及び斜め方向に隣接連結している画素数を検出して亀裂発生箇所を特定し、画素群の中から最初に特異の温度変化履歴を生じた画素を亀裂の始まり点として特定し、亀裂の始まり点の温度履歴の特異点を検出することにより、亀裂の発生時期及び亀裂発生時の変形特性値を判定している。これにより、測定点が移動しても亀裂の発生時を的確に把握することができ、亀裂の発生箇所、発生時期、亀裂発生時の変形特性値の正確な判定が可能となるとしている。
【0007】
また、特許文献5には、金属材料の試験方法が記載されている。特許文献5に記載された技術では、金属材料からなる試験片に負荷荷重を与え、その試験片に亀裂が発生した時の変形特性値を求める際に、試験片に負荷荷重を与えた時の変形特性値の時系列変化を計測及び記憶し、変形特性値の時系列変化と同期して、試験片の測定対象面の温度パターンの時系列変化を計測及び記憶し、さらに、変形特性値の時系列変化と同期して、試験片の測定対象面を撮像し、その撮像画像を記憶し、記憶された撮像画像から負荷荷重により試験片の測定対象面に発生する亀裂を検出し、亀裂の発生箇所を特定し、記憶された温度パターンの時系列変化から特定された亀裂の発生箇所の温度の時系列変化を検索し、検索された亀裂の発生箇所の温度の時系列変化の特異点を検出して亀裂の発生時期、亀裂発生時の変形特性を判定している。これにより、亀裂の発生時を的確に把握することができ、変形特性値の正確な判定が可能となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3612154号
【特許文献2】特許第5170146号
【特許文献3】特許第3292062号
【特許文献4】特許第3292063号
【特許文献5】特許第3327134号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜5に記載された技術はいずれも、テレビ(ビデオ)カメラや赤外線カメラを使用して、リアルタイムに試験片の外観や温度分布を撮影し、データ解析して、割れ、亀裂の発生時期や発生位置の特定や、割れ、亀裂発生時の変形特性値を正確に測定できるとしている。しかし、特許文献1〜5には、穴拡げ試験についての記載しかなく、曲げ試験についてまでの具体的な言及はない。
【0010】
金属材料の代表的な材料試験として、曲げ試験がある。曲げ試験は、JIS Z 2248(2006)として標準化されている。しかし、曲げ試験中の材料の変形過程や、材料の割れ発生・進展挙動については、試験片の外観観察から、推測する程度に留まっていた。とくに、割れ発生や進展などの局所的な情報を得ることは難しいという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、金属材料について、曲げ試験中の局所的な割れ発生・進展挙動を追跡することが可能で、金属材料の曲げ特性を評価できる、曲げ特性評価装置及び金属材料の曲げ特性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、曲げ試験における変形挙動を時系列的に可視化する方法について鋭意検討した。その結果、まず、曲げ変形中に発生する熱(加工に伴う発熱現象および変態に伴う発熱現象)を利用することに想到した。そして、赤外線サーモグラフィを用いて、曲げ試験中に、曲げ試験片の変形部近傍(以下、曲げ変形部ともいう)の温度分布(画像)を時系列的に測定することに思い至った。
【0013】
しかし、曲げ試験中に曲げ試験片に生じる局所的な発熱現象は、微弱で、通常では精度良く測定することが難しく、局所的な変形挙動の解析に用いることには問題があった。
【0014】
そこで、更なる検討を行った結果、曲げ試験装置の周りを暗幕で遮光した状態で、また、曲げ金型を表面に反射防止処理を施した曲げ金型とし、曲げ試験を実施することに思い至った。さらに、表面(測温面)に黒体ラッカーを塗布した曲げ試験片を用いれば、発熱現象を精度よく把握できることを知見した。なお、測温面に塗布するラッカーは、放射率が0.94以上で、耐熱温度が500℃以上の耐熱性を有し、変形後に剥離等の状態変化の少ないものとすることが好ましいことも知見した。
【0015】
そして、上記した条件で、曲げ変形時に時系列的に、曲げ変形部の温度分布画像を測定(記録)すると、曲げ加工による発熱で温度上昇したのち、割れ発生に関連して温度が低下するという現象があることを見出した。
【0016】
図1に、熱延鋼板(曲げ試験片)の密着曲げ試験において、曲げ変形部を赤外線サーモグラフィで時系列的に測定した一例として、割れ発生直前、微小割れ発生、大割れ発生の各時点における温度分布画像(図1(a))、および、曲げ試験片の幅方向に直交する向きに測定した温度分布(ラインプロット)(図1(b))を示す。なお、図1(a)は、白色の程度で温度を表示しており、白色が強い領域が高い温度を示していることになる。温度分布画像をカラー表示すれば、なお明瞭となる。
【0017】
割れが発生するまで(割れ発生直前)は、加工発熱等により曲げ変形部の温度が上昇している(図1(b)(1))。一方、曲げ変形が進むと、微小割れが発生(図1(b)(2))、さらには大きな割れに至る(図1(b)(3))と、割れの周辺で温度が低下していることがわかる。
【0018】
このような現象を利用することにより、割れ発生位置、割れ発生のタイミングが特定できることを知見した。しかも、上記した画像を、負荷荷重、変位(ストローク)に同期して測定(記録)すれば、局所的な加工発熱および変態発熱の観点から、割れ発生位置および割れ発生タイミング、さらには割れ進展過程を、荷重−変位(ストローク)曲線と対応して可視化することができる。さらに曲げ試験中に、曲げ試験片の曲げ変形部近傍の外観を時系列的に撮影(記録)できれば、曲げ変形挙動の局所的な解析に有効であることに想到した。
【0019】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、つぎのとおりである。
(1)曲げ金型と荷重負荷手段とを有し、前記曲げ金型にセットされた金属材料の曲げ試験片に曲げ荷重を負荷する曲げ試験装置と、該荷重負荷手段により前記曲げ試験片に負荷される荷重を時系列的に測定可能な荷重測定手段と前記曲げ試験片の変位を時系列的に測定可能な変位測定手段とを有する計測装置と、前記曲げ試験装置に配設され前記曲げ試験片の温度分布を時系列的に測定可能な試験片温度測定装置と、前記曲げ試験装置に配設され前記曲げ試験片の変形状況を時系列的に測定可能な試験片撮影装置と、前記計測装置、前記試験片温度測定装置、前記試験片撮影装置により得られた各データを演算する演算手段と、前記得られた各データおよび前記演算手段で演算されて得られたデータを取り出し可能に格納する記憶手段とを有する記憶演算装置と、前記記憶演算装置からのデータを表示する表示装置とを有する金属材料の曲げ特性評価装置であって、前記曲げ金型を、表面に反射防止処理を施された曲げ金型とし、前記曲げ試験装置を、周囲を遮光用暗幕で囲まれた曲げ試験装置とすることを特徴とする金属材料の曲げ特性評価装置。
(2)(1)において、前記試験片撮影装置がデジタルカメラ、またはデジタルビデオカメラであり、前記試験片測温装置が二次元の温度分布画像を測定可能な赤外線サーモグラフィであることを特徴とする金属材料の曲げ特性評価装置。
(3)対象とする金属材料から採取した曲げ試験片を、曲げ試験装置の曲げ金型にセットし、該曲げ試験装置の荷重負荷手段で曲げ変形させて金属材料の曲げ特性を評価するにあたり、前記曲げ金型を、表面に反射防止処理を施した曲げ金型とし、前記曲げ試験装置を、前記曲げ試験片の発熱状態が測定容易となるように、遮光用暗幕で囲んだ曲げ試験装置とし、該曲げ試験装置による曲げ試験の開始から終了まで時系列的に、前記曲げ試験片に負荷された荷重を荷重計測手段で、前記曲げ試験片の変位を変位計測手段でそれぞれ計測するとともに、前記曲げ試験の開始から終了まで時系列的に、前記曲げ試験装置に配設された試験片撮影装置により前記曲げ試験片の曲げ変形部の外観を撮影し、かつ前記曲げ試験装置に配設された試験片温度測定装置で前記曲げ試験片の曲げ変形部の温度分布画像を測定し、得られた各データを記憶演算装置に入力し、該記憶演算装置の演算手段で演算処理して得られたデータから、荷重−変位曲線および対応する温度分布画像を作成し、前記金属材料の曲げ特性および曲げ加工時の局所的割れ発生・進展挙動を評価することを特徴とする金属材料の曲げ特性評価方法。
(4)(3)において、前記試験片撮影装置がデジタルカメラ、またはデジタルビデオカメラであり、前記試験片測温装置が二次元の温度分布画像を測定可能な赤外線サーモグラフィであることを特徴とする金属材料の曲げ特性評価方法。
(5)(3)または(4)において、前記曲げ試験片を、表面に黒体ラッカーを塗布した曲げ試験片とすることを特徴とする金属材料の曲げ特性評価方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、曲げ試験における曲げ試験片の変形挙動と温度分布とを対応して時系列的に可視化することができ、局所的な温度上昇−温度低下の発生位置および発生タイミング等から、鋼板等の金属材料の曲げ加工による変形時の割れ発生・進展挙動を解析し、曲げ特性を評価することができる。本発明は、例えば、自動車、缶、建築等用高強度鋼板の開発に大きく寄与することが期待され、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】曲げ試験時の曲げ変形部温度分布画像(a)と、それに対応する、曲げ変形部の幅方向に直交する方向の温度分布(b)の一例を示すグラフである。
図2】本発明金属材料の曲げ特性評価装置の構成の一例を模式的に示す説明図である。
図3】V型曲げ試験を行う場合の好ましい金型の一例を模式的に示す説明図である。
図4】実施例において使用した鋼板の密着曲げ試験における曲げ変形挙動と曲げ変形部温度分布画像、試験片外観画像との対応の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の金属材料の曲げ特性評価装置は、曲げ試験装置2と、荷重測定手段3aと変位測定手段3bとを有する計測装置3と、記憶演算装置6と、表示装置7とを有する。曲げ試験装置2は、曲げ金型2aと荷重負荷手段2bとを有し、曲げ金型2aにセットされた曲げ試験片1に曲げ荷重を負荷する。曲げ金型の表面には、黒体テープを貼付するなど、反射防止処理を施す。これにより、曲げ試験片の変形部の温度測定を精度良く行うことができる。
【0023】
なお、曲げ試験は、密着曲げ、V型曲げ、U型曲げ等があるが、本発明ではとくに限定しない。曲げ金型2aを変更すれば、上記した各種の曲げ試験を実施することができる。
【0024】
密着曲げの場合には、図2に示すように、曲げ金型2aはフラットな面を有する上金型2a1,下金型2a2を曲げ試験片1を挟んで上下に配置して、曲げ試験片1の表面同士が密着するまで、荷重負荷手段2bにより曲げ荷重を負荷する。
【0025】
なお、V型曲げの場合には、図3に示すように、曲げ試験片1を、V型形状の下金型2a2のうえに配置し、上金型2a1(先端半径R)を用いて、所定の曲げ半径となるまで荷重負荷手段2bにより曲げ荷重を負荷する。この場合、下金型2a2には、曲げ変形部近傍が観察可能なように、所定の大きさの穴を予め形成しておく必要がある。
【0026】
なお、荷重負荷手段2bは、通常の曲げ試験が実施できるものであればよく、とくに限定する必要はない。
【0027】
さらに、本発明曲げ特性評価装置では、試験片の温度を精度良く測定するため、曲げ試験装置2の周囲を遮光用暗幕2cで覆うこととする。遮光用暗幕2cは、曲げ試験での破片の飛散防止という観点から、安全カバーの役割をも持たせる必要があり、完全遮光暗幕とすることが好ましい。なお、安全カバーとして、暗幕に加えて、透明樹脂等による安全カバーを設けてもよい。遮光用暗幕2cには、曲げ試験片の変形部を観察可能なように、窓部を設定しておくことは言うまでもない。
【0028】
以下、密着曲げの場合を例にして説明する。
【0029】
計測装置3は、負荷荷重を時系列的に計測する荷重計測手段3aと、荷重負荷手段2bにより曲げ試験片1の変位(荷重負荷手段2bのストローク)を時系列的に計測する変位計測手段3bとを有する。なお、荷重計測手段3aとしてはロードセルが、また、変位計測手段3bとしては荷重負荷手段2bの変位(ストローク)を測定するリニアゲージセンサ(変位計)が例示できる。
【0030】
計測装置3では、荷重計測手段3aで時系列的に計測された荷重データを記録するか、あるいは記憶演算装置6に接続されて、該荷重データを記憶演算装置6に入力して、演算手段6aで演算処理し、取り出し可能に記憶手段6bに格納する。なお、荷重データはデジタル変換されて格納することは言うまでもない。
【0031】
また、計測装置3では、変位計測手段3bで時系列的に計測された変位(ストローク)を、デジタル変換して記録するか、記憶演算装置6に接続され、さらに該デジタル変換された変位(ストローク)データを記憶演算装置6に入力して、演算手段6aで演算処理し、取り出し可能に記憶手段6bに格納する。なお、変位(ストローク)データはデジタル変換されて格納することは言うまでもない。
【0032】
さらに、曲げ試験装置2には、曲げ試験片1の曲げ変形部の温度分布を時系列的に測定可能な試験片温度測定装置4と、曲げ試験片1の曲げ変形部の変形状況を時系列的に測定可能な試験片撮影装置5と、が配設される。
【0033】
試験片温度測定装置4は、曲げ試験片1の曲げ変形部(被測温面)の温度分布を計測可能なように、曲げ試験装置2に配設される。精度良く計測するためには、曲げ試験片の被測温面に、試験片温度測定装置4のカメラのピントが合うような位置(好ましくは被測温面から300mm以上離れた位置)に配設することが好ましい。なお、計測開始前に、カメラのピントを曲げ変形部(被計測面)に合わせておくことはいうまでもない。
【0034】
試験片温度測定装置4としては、曲げ試験片1の曲げ変形部(測温面)のような二次元の温度分布(画像)を撮影(測温)可能なように、赤外線サーモグラフィとすることが好ましい。なお、曲げ試験における局部的な発熱現象、温度低下現象を精度良く測定するために、赤外線サーモグラフィの解像度は、320×256ピクセル以上、ピクセルピッチは50μm以下、インターバル記録は2秒以下であり、200℃以上の温度で測定可能であることが好ましい。
【0035】
なお、予め、曲げ試験片に熱電対を溶接して、試験片温度測定装置4で得られた温度と、熱電対で計測された温度(実温)とが一致するように、試験片温度測定装置4の放射率を調整しておく必要がある。
【0036】
試験片温度測定装置4は、記憶演算装置6に接続され、時系列的に計測されたデータ(画像)(温度分布画像)を記憶演算装置6に入力し、そのまま記憶手段に格納するか、あるいは演算手段6aで演算処理し、記憶手段6bに取り出し可能に格納する。
【0037】
また、試験片撮影装置5は、曲げ試験片1の曲げ変形部(被撮影面)の外観を時系列的に撮影可能なように、曲げ試験装置2に配設される。試験片撮影装置5は、被撮影面である曲げ試験片の曲げ変形部に試験片撮影装置5のカメラのピントが合うような位置に配設される。試験片撮影装置5としては、デジタルカメラ、またはデジタルビデオカメラが例示できる。なお、ここでいう「デジタルビデオカメラ」はCCDカメラ、ハイスピードカメラを含むものとする。試験開始前に、試験片撮影装置5のカメラのピントを被撮影面に合わせることはいうまでもない。曲げ変形部(被撮影面)の外観を時系列的に撮影することにより、曲げ変形部における変形状況、割れの発生、進展挙動を解析するための参考データとすることができる。
【0038】
さらに、試験片撮影装置5は、記憶演算装置6に接続され、時系列的に計測されたデータ(外観画像)を記憶演算装置6に入力し、そのまま記憶手段6bに格納するか、あるいは演算手段6aで演算処理し、記憶手段6bに取り出し可能に格納する。
【0039】
また、記憶演算装置6は、演算手段6aと記憶手段6bとを有する。記憶演算装置6としては、パソコン等が例示できる。演算手段6aでは,得られたデータを用いて演算処理がなされ、曲げ試験中の荷重−変位曲線、曲げ変形部の温度分布画像など、所望の関係図等を作成でき、表示装置7に表示可能とされる。記憶手段6bでは、各装置で採取されたデータ、あるいは演算処理して得られたデータを取り出し可能に記憶できる。
【0040】
さらに、曲げ試験における変形挙動、割れ発生位置、割れ発生タイミング、さらには割れ進展挙動等は、記憶演算装置6で演算処理され表示装置7に表示された荷重−変位曲線と曲げ変形部の温度分布画像等とを対応させて、解析することができる。なお、表示装置7としては、プリンター、CRT等が例示できが、いずれもカラー表示可能な装置とすることが好ましい。
【0041】
つぎに、本発明の金属材料の曲げ特性評価方法について説明する。
【0042】
本発明の金属材料の曲げ試験方法では、例えば図2に示す曲げ特性評価装置を用いて行うことが好ましい。
【0043】
まず、対象とする金属材料から曲げ試験片1を採取する。なお、曲げ試験片1の形状は、とくに限定する必要はないが、JIS Z 2248(2006)の規定に準拠して決定することが好ましい。
【0044】
採取された曲げ試験片1は、曲げ試験装置の曲げ金型2aにセットされ、該曲げ試験装置の荷重負荷手段2bで曲げ変形させる。密着曲げでは、曲げ試験片1を予めU型に曲げ加工したのち、上金型2a1、下金型2a2との間に挟むようにセットし、密着するまで曲げ変形させる。
【0045】
なお、曲げ試験片の曲げ変形部の外面に相当する側の表面(被測温面)には、黒体ラッカーを塗布しておくことが好ましい。これにより、曲げ変形部の測温が容易となる。被測温面に塗布するラッカーは、放射率が0.94以上で、耐熱温度が500℃以上となる耐熱性を有し、変形後に剥離等の状態変化の少ないものとすることが好ましい。放射率が0.94未満では、観測される試験片表面の温度が低く、測定される温度分布画像が所望の精度を確保できない。また、耐熱温度が500℃未満では、曲げ試験時に所望の温度分布画像を得ることができない。本発明で使用する黒体ラッカーとしては、市販品である、カンペパピオ(株)製「テルモスプレー」(商品名)、あるいは(株)キーエンス製「黒体スプレー」(商品名)等が例示できる。なお、黒体ラッカーを塗布した状態で、試験片測温装置(赤外線サーモグラフィ)による撮影(測温)で表示される温度と、試験片の実体温度とが誤差のないように、試験片測温装置における放射率等の調整を行っておくことはいうまでもない。
【0046】
なお、曲げ試験を開始する前に、好ましくは被測温面から300mm以上離れた位置に配設された試験片温度測定装置4のカメラのピントを被測温面に合わせ、また試験片撮影装置5のカメラのピントを被撮影面に合わせる。
【0047】
本発明では、荷重負荷手段2bにより、上金型2a1を一定速度で押し下げ、下金型2a2にセットされた曲げ試験片1に曲げ変形を付与する。
【0048】
曲げ試験開始から終了まで時系列的に、荷重計測手段3aを用いて曲げ試験片1に負荷された荷重を、また、変位計測手段3bを用いて上金型2a1を介して曲げ試験片に負荷された変位(ストローク)を、計測する。得られたデータは、記憶演算装置6に入力され、記憶手段6bに格納されるか、あるいは演算手段6aにより演算処理されて、取り出し可能に記憶手段6bに記憶される。
【0049】
また、同時に、曲げ開始から終了まで時系列的に、試験片温度測定装置4を用いて、曲げ試験片の曲げ変形部の温度分布画像を測定(撮影)する。好ましくは赤外線サーモグラフィで、曲げ試験片の曲げ変形部全域で二次元の温度分布画像が得られるように、被測温面を撮影する。得られたデータは、記憶演算装置6に入力され、記憶手段6bに格納されるか、あるいは演算手段6aにより演算処理されて、取り出し可能に記憶手段6bに記憶(格納)される。
【0050】
また、同時に、曲げ試験開始から終了まで、試験片撮影装置5、好ましくはデジタルカメラを用いて、時系列的に、曲げ試験片1の曲げ変形部の外観を撮影し、試験片の変形状況を確認する。得られたデータは、記憶演算装置6に入力され、記憶手段6bに格納されるか、あるいは演算手段6aにより演算処理されて、取り出し可能に記憶手段6bに記憶(格納)される。
【0051】
記憶手段6bに格納されたデータは、曲げ試験開始から終了まで、時系列的に採取されていることから、演算手段6aにより荷重と変位とを同期させて、荷重と変位の関係(荷重−変位曲線)として表示可能とすることができ、さらに、曲げ試験片の曲げ変形部の温度分布画像が時系列的に採取されていることから、本発明では、局所的な加工発熱あるいは局所的な変態発熱の発生位置、発生タイミングを可視化でき、荷重−変位曲線と対応させることにより、とくに微小割れの発生の有無など、金属材料の曲げ変形挙動を解析することが可能となる。本発明によれば、「割れた」「割れなかった」の評価しかできなかった従来の曲げ特性の評価を、より詳細な評価を行うことができるようになる。とくに、曲げ加工時の微小割れの発生の有無が明確に評価でき、高張力鋼板の成形性の判断の基礎的データとすることもできる。とくに、曲げ加工時に微小割れが発生すると、その後の部品組立時等で亀裂へ進展し、部品の破壊に至ることも考えられ、微小割れの検知は重要となる。また、微小割れ部から腐食が進行したり、遅れ破壊の起点ともなる。
【0052】
以下、さらに本発明を実施例に基づき、説明する。
【実施例】
【0053】
質量%で、0.25%C−1.54%Si−1.92%Mn−0.006%P−0.0026%S−0.039%Al−0.020%Ti−0.0022%Bを含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延板に、酸洗、冷間圧延を施し、ついで、焼鈍処理を条件を変えて実施し、冷延焼鈍板(板厚:1.2mm)(鋼板A、鋼板B)とした。得られた鋼板Aは、引張強さTS:1004MPa、降伏強さYS:715MPa、伸びEl:31%(GL:50mm)の引張特性を有し、フェライト相を主相とし、残留γ:17%を含む組織を有する鋼板である。また、得られた鋼板Bは、引張強さTS:1070MPa、降伏強さYS:479MPa、伸びEl:18%(GL:50mm)の引張特性を有し、フェライト相を主相とし、残留γ:8%(鋼板B)を含む組織を有する鋼板である。
【0054】
これら鋼板から、曲げ試験片(30mm幅×60mm長さ)を採取し、予め曲げ加工でU型に加工したのち、図2に示す構成の曲げ特性評価装置を用いて、密着曲げ試験を行い、高張力鋼板の密着曲げ特性を評価した。予めU型に曲げた曲げ試験片1を、上金型2a1と下金型2a2との間に挟み、荷重負荷手段2bを25mm/minで押し下げ、変位(ストローク)の増加が停滞し、荷重が増加して曲げ試験片が密着するまで押し込んだ。
【0055】
なお、曲げ試験に際しては、曲げ試験開始から終了(密着完了)まで時系列的に、荷重計測手段3a(ロードセル)で荷重を計測し、変位計測手段3bで荷重負荷手段2bのストローク(変位)を計測し、デジタル値に変換して、得られた各データを記憶演算装置6に入力した。また、同時に、試験片温度測定装置4として赤外線サーモグラフィを用いて時系列的に、曲げ試験片の曲げ変形部の温度分布画像を測定(撮影)し、得られたデータを記憶演算装置6に入力した。なお、曲げ試験開始から終了(密着完了)まで時系列的に、試験片撮影装置5で曲げ試験片の曲げ変形部の外観を撮影し、得られたデータを記憶演算装置6に入力した。
【0056】
得られたデータから演算手段6aにより、荷重と変位とを同期して、荷重−変位曲線をもとめ、表示装置7に表示した。得られた各鋼板の荷重−変位(ストローク)曲線を図4に示す。鋼板Bでは、荷重−変位曲線で示されるように、早期に荷重の低減が認められ、割れが発生している。なお、この割れの発生は、曲げ試験片の曲げ変形部の温度分布画像における時系列変化からも明らかに認められている。
【0057】
一方、鋼板Aでは、密着完了まで、荷重−変位曲線における荷重の大きな低下は認められなかった。しかし、鋼板Bでは、曲げ試験片の曲げ変形部の温度分布画像における時系列変化から、荷重−変位曲線においては特段の変化のない領域で、温度が上昇した後、低下する、いわゆる割れの発生に対応する現象が明らかに認められた。この時点で、微小割れが発生したと判断した。このような割れは、従来では全く発生時点を検知することができなかったものである。本発明では、曲げ変形部の温度分布画像を時系列的に測定し、その時系列変化から、このような割れの発生を明瞭に検知できる。なお、鋼板Aにおいても、最終的には、大きな割れが発生していることが、外観画像および温度分布画像から明らかに認められた。
【0058】
なお、曲げ変形部の温度分布画像の比較から、鋼板Aは、曲げ変形による温度上昇量が、鋼板Bに比べて2〜3℃高いことがわかった。これは、鋼板Aは、鋼板Bに比べて残留γ量が多く、これは、残留γの変態発熱による相違と考えられる。
【0059】
このような、荷重−変位曲線と曲げ変形部の温度分布画像との対応から、曲げ変形に伴う鋼板の曲げ変形挙動を追跡することが可能となり、より詳細な曲げ特性の評価が可能となる。
【0060】
なお、比較として、曲げ金型に反射防止処理を施さない場合、遮光用暗幕を使用しない場合には、曲げ変形部の温度分布画像を精度よく測定できず、上記した微小割れの検知を十分に行うことができなかった。
【符号の説明】
【0061】
1 曲げ試験片
2 曲げ試験装置
3 計測装置
4 試験片温度測定装置
5 試験片撮影装置
6 記憶演算装置
7 表示装置
図2
図3
図1
図4