【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
(実施例1)
【0090】
濃度46質量%のHF水溶液7mlと、濃度36質量%のHCl水溶液56mlとの混合溶液を氷浴中で0℃とし、アルゴンガス気流中にてそこへ3.3gの二ケイ化カルシウム(CaSi
2)を加えて撹拌した。発泡が完了したのを確認した後に室温まで昇温し、室温でさらに2時間撹拌した後、蒸留水20mlを加えてさらに10分間撹拌した。このとき黄色粉末が浮遊した。
【0091】
得られた混合溶液を濾過し、残渣を10mlの蒸留水で洗浄した後、10mlのエタノールで洗浄し、真空乾燥して2.5gの層状ポリシランを得た。そのラマンスペクトルを
図3に示す。ラマンシフトの341±10cm
−1、360±10cm
−1、498±10cm
−1、638±10cm
−1、734±10cm
−1にピークが存在した。
【0092】
この層状ポリシランを1g秤量し、O
2の量が1体積%以下のアルゴンガス中にて500℃で1時間保持する熱処理を行い、ナノシリコン凝集粒子を得た。このナノシリコン凝集粒子に対してCuKα線を用いたX線回折測定(XRD測定)を行った。XRD測定によれば、Si微粒子由来と考えられるハローを観測した。Si微粒子は、X線回折測定結果の(111)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式より算出される結晶子サイズが約7nmであった。
【0093】
なお上記熱処理においては、Si-H結合が切断されて水素(H)が離脱し、Si-Si結合の切断と再結合が生じる。Si-Si結合の再結合は、同じ層内で生じると共に隣接する層どうしでも生じ、これによってナノレベルの径を有するナノシリコン一次粒子が生成する。このナノシリコン一次粒子どうしが凝集し、ナノシリコン凝集粒子(二次粒子)が生成する。
【0094】
得られたナノシリコン凝集粒子のSEM画像を
図4,5に示す。ナノシリコン凝集粒子(二次粒子)は、複数枚の板状シリコン体が厚み方向に積層されてなる構造を有している。なお、
図4に示す長方形部分を拡大したものが
図5に示されている。板状シリコン体は厚みが約10nm〜約100nmに観察されるが、強度やリチウムイオンなどの挿入・離脱の容易性などの観点から、板状シリコン体の厚みは20nm〜50nmの範囲が好ましい。また長軸方向の長さは、0.1μm〜50μmであった。板状シリコン体は、アスペクト比(長軸方向の長さ/厚み)が2〜1000であるのが好ましいと考えられる。
【0095】
板状シリコン体を、さらにTEM(Transmission Electron
Microscopy)-EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)によって観察した。
図6に示すように、板状シリコン体には濃淡のある縞状構造が認められる。なお、
図5に示す正方形部分を拡大したものが
図6に相当し、
図7には板状シリコン体の要部を拡大して示す模式的な断面図を示している。
図6の薄い灰色の部分は、一次粒子である扁平状ナノシリコン粒子(1)が長辺に対して垂直に配向して層状に配列した構造であり、扁平状ナノシリコン粒子(1)の層どうしの間に存在する濃い灰色の部分は空隙及び/又はシリコン酸化物(2)と考えられる。扁平状ナノシリコン粒子(1)は長軸方向長さ(a)が5nm〜20nm、短軸方向長さ(b)が2〜5nm、であり、長軸と短軸の長さの比(a/b)が2.5〜10である。また空隙及び/又はシリコン酸化物(2)の厚みは2nm〜10nmであり、扁平状ナノシリコン粒子(1)の厚みに対する空隙及び/又はシリコン酸化物(2)の厚みの比は0.5〜2である。
【0096】
このナノシリコン凝集粒子1gに対してフラン1.1mlを3時間真空含浸させ、濃塩酸を加えた。濃塩酸添加後、60℃で3時間処理してフランを重合させ、濾過、洗浄して濃塩酸を除去した。得られた粉末を3時間真空乾燥し、その後、アルゴンガス中にて500℃で焼成し、フラン重合物を炭素化して灰色の複合体粉末を得た。複合体粉末の収率は、ナノシリコン凝集粒子1gに対して1.22gであった。回収粉末の重量と、層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、82/18であった。
【0097】
得られた複合体粉末のSEM写真を
図8に示す。
図8から、μmオーダーのナノシリコン凝集粒子が、最大厚み約200nmの炭素層に包まれた複合体構造が確認される。またこの複合体粉末と、複合体粉末の製造に用いたナノシリコン凝集粒子の比表面積をそれぞれBET法により測定した結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
ナノシリコン凝集粒子を炭素層で被覆することで、比表面積が小さくなっていることがわかる。
【0099】
この複合体粉末に対して、CuKα線を用いたX線回折測定(XRD測定)を行った。そのXRDスペクトルを
図9に示す。
図9には、アセチレンブラックのXRDスペクトルも示している。複合体粉末には、アセチレンブラックに存在する2θ=26°のピーク(結晶性炭素ピーク)が認められず、複合体粉末に含まれる炭素は非晶質であることがわかる。また半値幅から、複合体粉末中のSiの結晶子サイズは10nm以下であることもわかる。
【0100】
得られた複合体粉末45質量部と、天然黒鉛粉末40質量部と、アセチレンブラック5質量部と、バインダー溶液33質量部とを混合してスラリーを調製した。バインダー溶液には、ポリアミドイミド(PAI)樹脂がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に30質量%溶解した溶液を用いている。このスラリーを、厚さ約20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空乾燥し、負極活物質層の厚さが16μmの負極を形成した。
【0101】
上記の手順で作製した負極を評価極として用い、リチウム二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は金属リチウム箔(厚さ500μm)とした。
【0102】
対極をφ13mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びCelgard社製「Celgard2400」)を両者の間に介装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解した非水電解液を注入し、電池ケースを密閉してリチウム二次電池を得た。
[比較例1]
【0103】
複合体粉末に代えて、実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子(フランの添加無し、重合無し)を用いたこと以外は実施例1と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験1>
【0104】
実施例1及び比較例1のリチウム二次電池について、温度25℃、電流0.2mAの条件で充電した際の初期の充電容量を測定し、結果を表2に示す。また電流0.2mAの条件で放電させた際の放電容量を測定して、初期効率(充電容量/放電容量)を算出し、結果を表2に示す。
【0105】
実施例1及び比較例1のリチウム二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件下において1Vまで充電し、10分間休止した後、電流0.2mAの条件で0.01Vまで放電し、10分間休止するサイクルを20サイクル繰り返すサイクル試験を行った。そして1サイクル目の充電容量に対するNサイクル目の充電容量の割合である容量維持率を測定し、結果を
図10に示す。また20サイクル目の充電容量と容量維持率を表2に示す。
【0106】
【表2】
図10及び表2より、ナノシリコン凝集粒子を非晶質炭素からなる炭素層で被覆した複合体粉末を負極活物質とすることで、初期効率が向上するとともに、サイクル特性が大幅に改善されたことがわかる。
(実施例2)
【0107】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対してピロール1mlを3時間真空含浸させ、濃塩酸を加えた。濃塩酸添加後、60℃で3時間処理してピロールを重合させ、濾過、洗浄して濃塩酸を除去した。得られた粉末を3時間真空乾燥し、その後、アルゴンガス中にて500℃で焼成し、ピロール重合物を炭素化して灰色の複合体粉末を得た。複合体粉末の収率は、ナノシリコン凝集粒子1gに対して1.29gであった。また回収粉末の重量と、層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、75/25であった。
【0108】
この複合体粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例3)
【0109】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対してピロール1mlを3時間真空含浸させ、そこへ三塩化鉄10mgをジクロロメタン10mlに溶解させた溶液を加えた。これを60℃で3時間処理してピロールを重合させ、濾過し、エタノールで洗浄した。得られた粉末を3時間真空乾燥し、その後、アルゴンガス中にて500℃で焼成し、ピロール重合物を炭素化して灰色の複合体粉末を得た。複合体粉末の収率は、ナノシリコン凝集粒子1gに対して1.35gであった。また回収粉末の重量と、層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、78/22であった。
【0110】
この複合体粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験2>
【0111】
実施例1〜3及び比較例1のリチウムイオン二次電池を用い、電池特性試験1と同様にして初期効率と初期充電容量を測定した。また電池特性試験1と同様のサイクル試験を行い、10サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表3に示す。
【0112】
【表3】
フランに代えてピロールを用いることで、サイクル特性がさらに向上したことがわかる。そしてポリマー化触媒として、濃塩酸に代えて三塩化鉄を用いて非水雰囲気で重合させることで、初期効率が向上することもわかる。
(実施例4)
【0113】
実施例1で得られた複合体粉末を平均粒子径が10μmとなるようにボールミルで粉砕した。粉砕は、複合体粉末1gに対して100gのジルコニアボール(4mmφ)を加え、70rpmで2時間行った。粉砕後の複合体粉末85質量部と、アセチレンブラック5質量部と、バインダー溶液33質量部とを混合してスラリーを調製した。バインダー溶液には、ポリアミドイミド(PAI)樹脂がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に30質量%溶解した溶液を用いている。このスラリーを、厚さ約20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空乾燥し、負極活物質層の厚さが16μmの負極を形成した。
【0114】
この負極を用い、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例5)
【0115】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対して、アセトンとメタノールからなる混合溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)0.86gを添加(仕込み重量比Si/C=2/1)し、よく撹拌した。これから溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱してフェノール樹脂を硬化させ、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、80/20であった。得られた黒色粉末を平均粒子径が10μmとなるようにボールミルで粉砕し、複合体粉末を調製した。粉砕は、黒色粉末1gに対して100gのジルコニアボール(4mmφ)を加え、70rpmで2時間行った。
【0116】
この複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例6)
【0117】
回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比が95/5となるように仕込み重量比を調整したこと以外は実施例5と同様にして複合体粉末を調製し、この複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
[比較例2]
【0118】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子(炭素層無し)を実施例5と同様に粉砕した粉末85質量部と、アセチレンブラック5質量部と、バインダー溶液33質量部とを混合してスラリーを調製した。バインダー溶液には、ポリアミドイミド(PAI)樹脂がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に30質量%溶解した溶液を用いている。このスラリーを、厚さ約20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空乾燥し、負極活物質層の厚さが16μmの負極を形成した。
【0119】
この負極を用い、実施例4と同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験3>
【0120】
実施例4〜6及び比較例2のリチウム二次電池を用い、電池特性試験1と同様にして初期効率と初期充電容量を測定した。また電池特性試験1と同様のサイクル試験を行い、20サイクル目の充電容量を測定した。結果を表4に示す。
【0121】
【表4】
実施例5,6に係るリチウム二次電池は、実施例4に比べて初期充電容量及び初期効率ともに高く、サイクル特性が優れていることがわかる。また複合体組成中における炭素の割合が5質量%でも十分な効果が発現されている。
(実施例7)
【0122】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子粉末1gに対して、ポリカーボネートを仕込み重量比がSi/C=2/1となるように添加した。このときポリカーボネートは、固形分20質量%となるようにNMPに溶解した溶液として添加し、よく撹拌した。これから溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱し、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、80/20であった。得られた黒色粉末を平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕し、複合体粉末を調製した。
【0123】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例8)
【0124】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対して、エポキシ樹脂を仕込み重量比がSi/C=2/1となるように添加した。エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型の液状エポキシ樹脂(三菱化学社製「jER828」)を用いた。またエポキシ樹脂は、固形分50質量%となるようにNMPに溶解した溶液として添加し、よく撹拌した。これから溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱し、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、80/20であった。得られた黒色粉末を平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕し、複合体粉末を調製した。
【0125】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験4>
【0126】
実施例5,7,8に係るリチウム二次電池を用い、電池特性試験1と同様にして初期効率と初期充電容量を測定した。結果を表5に示す。
【0127】
【表5】
表4と表5から、ポリカーボネートとエポキシ樹脂を炭素層源としても、実施例5には及ばないものの、二次電池として機能する負極活物質が得られている。そしてフェノール樹脂を用いることで、効果が最大に発現されていることがわかる。
(実施例9)
【0128】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対して、アセトンとメタノールからなる混合溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)0.43gを添加(仕込み重量比Si/C=3/1)し、よく撹拌した。これから溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱し、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、86/14であった。得られた黒色粉末を平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕し、複合体粉末を調製した。
【0129】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例10)
【0130】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対して、アセトンとメタノールからなる混合溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)1.15gを添加(仕込み重量比Si/C=6/4)し、よく撹拌した。これから溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱し、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、75/25であった。得られた黒色粉末を平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕し、複合体粉末を調製した。
【0131】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例11)
【0132】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対して、アセトンとメタノールを等量混合した溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)1.72gを添加(仕込み重量比Si/C=1/1)し、よく撹拌した。これから溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱し、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、67/33であった。得られた黒色粉末を平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕し、複合体粉末を調製した。
【0133】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
[比較例3]
【0134】
アセトンとメタノールを等量混合した溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)から溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱し、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。この炭素粉末を負極活物質粉末として用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験5>
【0135】
実施例5,9〜11及び比較例2,3に係るリチウムイオン二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件で充電した際の初期の充電容量を測定し、電流0.2mAの条件で放電させた際の放電容量を測定して、初期効率(充電容量/放電容量)を算出し、結果を初期充電容量とともに表6及び
図11に示す。
【0136】
また実施例5,8〜10及び比較例2,3のリチウムイオン二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件下において1Vまで充電し、10分間休止した後、電流0.2mAの条件で0.01Vまで放電し、10分間休止するサイクルを20サイクル繰り返すサイクル試験を行った。そして1サイクル目の充電容量に対する20サイクル目の充電容量の割合である容量維持率を測定し、結果を表6及び
図11に示す。
【0137】
【表6】
表6及び
図11より、比較例2に係るリチウムイオン二次電池では、ナノシリコンからなる凝集粒子に炭素を複合化していないため、サイクル試験時にSEIが多く生成したと考えられ、容量維持率が低い。また比較例3に係るリチウムイオン二次電池のようにフェノール樹脂由来の炭素のみを負極活物質としても二次電池として機能するものの、初期充電容量及び初期効率共に低く、実用的とはいえない。
【0138】
一方、各実施例に係るリチウムイオン二次電池は高い電池特性を発現している。
(実施例12)
【0139】
炭素化工程における焼成温度を500℃としたこと以外は実施例5と同様にして複合体粉末を調製し、この複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
(実施例13)
【0140】
炭素化工程における焼成温度を1100℃としたこと以外は実施例5と同様にして複合体粉末を調製し、この複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
<電池特性試験6>
【0141】
実施例5,12,13で得られた複合体粉末の炭素層のラマンスペクトルを測定し、そのスペクトルからG-bandとD-bandの比であるG/D比をそれぞれ算出し、結果を表7に示す。なおラマンスペクトル測定用の試料は、各実施例で用いたフェノール樹脂のみを各実施例と同様に熱処理して炭素化したものを用いた。
【0142】
実施例5,12,13に係るリチウムイオン二次電池を用い、電池特性試験1と同様にして初期効率と初期充電容量を測定した。結果を表7に示す。
【0143】
【表7】
実施例12,13では、実施例5に比べて初期容量と初期効率が共に低下している。実施例12ではG/D比が小さいことから、欠陥が多く非晶質炭素の純度が低いことが原因と考えられる。また実施例13では、G/D比は高いものの、高温により副反応が生じてSiCが生成したと考えられ、初期容量が著しく低下している。したがって、炭素化工程における焼成温度は500℃を超えて1100℃未満が好ましく、G/D比は0.21以上であるのが好ましい。
<電池特性試験7>
【0144】
実施例5,7,8,12で得られた負極活物質に電子線を照射し、発生したX線発光スペクトルCKαを
図12に示す。なお
図12には、アセチレンブラックと、実施例1で調製された複合体粉末から発生したX線発光スペクトルCKαも示している。
【0145】
電子線照射条件は以下のとおりである。
【0146】
加速電圧:2kV、電子線照射エリア3μm、照射電流:80nA
【0147】
これらのCKαスペクトルからhν=277.5〜279.5eV(h:プランク定数、ν:振動数)付近のピーク(A)は、アセチレンブラックに特有のピークであることが分かり、炭素のsp
2軌道に由来すると考えられる。ピーク(A)の高さに対するhν=279.5〜281.0eV付近のピーク(B)の高さの比{ピーク(B)/ピーク(A)}を算出した。結果を表8にB/Aとして示す。
【0148】
実施例5,7,8,12に係るリチウムイオン二次電池を用い、電池特性試験1と同様にして初期効率と初期充電容量を測定した。結果を表8に示す。
【0149】
【表8】
実施例5が特に電池特性に優れ、実施例12がそれに次いでいる。実施例7,8の電池特性は、実施例5,12に比べて低い。この特性の順序はピーク比(B/A)の大小とほぼ相関し、ピーク比(B/A)が1.0により近い炭素を用いることでリチウムイオン二次電池の特性が向上することがわかる。ピーク比(B/A)が1.0により近いということは、電池特性が向上する炭素の電子状態に共通する特徴と言える。換言すれば、用いようとする樹脂を炭素化しそのピーク比(B/A)を測定することで、電池を作製することなく電池特性を推測することができるので、実験工数を低減することができる。
(実施例14)
【0150】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gと、フタロシアニン銅100mgとを、アセトンとメタノールを等量混合した溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)0.86gに添加し、自公転式の撹拌脱泡機にて2000rpmで8分間撹拌した後、2200rpmで2分間脱泡した。得られた分散液を基材に塗布し溶媒を除去した後、減圧下にて、120℃、1時間加熱しさらに900℃で20分間焼成して樹脂を炭素化し、黒色粉体を得た。この黒色粉体を平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕し、複合体粉末を調製した。
【0151】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
[比較例4]
【0152】
フタロシアニン銅に代えて酢酸銅36mgを用いたこと以外は実施例13と同様にして複合体粉末を調製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験8>
【0153】
実施例5,14と比較例4に係るリチウム二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件で充電した際の初期の充電容量を測定し、電流0.2mAの条件で放電させた際の放電容量を測定して、初期効率(充電容量/放電容量)を算出し、結果を初期充電容量とともに表9に示す。また電池特性試験1と同様のサイクル試験を行い、20サイクル目の容量維持率を測定した。
【0154】
【表9】
実施例14のリチウム二次電池は、実施例5のリチウム二次電池と同等の初期容量を発現しながら初期効率が向上しており、これは複合体粒子の炭素層に銅原子を含んだことによる効果である。一方、比較例4のリチウム二次電池は、銅原子を含んでいるものの、初期容量と初期効率は共に実施例より劣っている。これは、酢酸銅中の酸素原子が複合体粒子中に含まれているために、リチウムと酸素とが反応したためと考えられる。したがって銅原子を含ませるには、出発原料として銅錯体の内、酸素を含まないものを用いるべきである。なお錯体は、有機物に金属原子が配位した構造であると、有機溶剤に溶解し易く好ましい。
(実施例15)
【0155】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gと、アセチレンブラック0.05gとを、アセトンとメタノールの混合溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)0.78gに添加し、自公転式の撹拌脱泡機にて2000rpmで8分間撹拌した後、2200rpmで2分間脱泡した。得られた分散液を基材に塗布し溶媒を除去した後、減圧下にて、120℃、1時間加熱しさらに900℃で20分間焼成して樹脂を炭素化し、黒色粉体を得た。この黒色粉体を平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕し、複合体粉末を調製した。
【0156】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験9>
【0157】
実施例15と実施例5に係るリチウム二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件で充電した際の初期の充電容量を測定し、電流0.2mAの条件で放電させた際の放電容量を測定して、初期効率(充電容量/放電容量)を算出し、結果を初期充電容量とともに表10に示す。また温度25℃、電流0.2mAの条件下において1Vまで充電し、10分間休止した後、電流0.2mAの条件で0.01Vまで放電し、10分間休止するサイクルを20サイクル繰り返すサイクル試験を行った。そして1サイクル目の充電容量に対する20サイクル目の充電容量の割合である容量維持率を測定し、結果を表10に示す。
【0158】
【表10】
実施例15のリチウム二次電池は、実施例5のリチウム二次電池と同等の初期容量と容量維持率を発現しながら初期効率が向上しており、これは複合体粒子がアセチレンブラックを含む炭素層をもつことによる効果である。
(実施例16)
【0159】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子を用い、平均粒子径が10μmとなるように実施例5と同様に粉砕した。この予め粉砕された凝集流離1gと、アセチレンブラック0.05gとを、アセトンとメタノールの混合溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)0.78gに添加し、自公転式の撹拌脱泡機にて2000rpmで8分間撹拌した後、2200rpmで2分間脱泡した。得られた分散液を基材に塗布し溶媒を除去した後、減圧下にて、120℃、1時間加熱しさらに900℃で20分間焼成して樹脂を炭素化し、複合体粉末を調製した。
【0160】
この複合体粉末粒子の断面のSEM像を
図13に、その模式図を
図14に示す。複合体粒子(3)どうしの間に、長手方向の長さが5μm〜数十μmの繊維状物(4)が介在している。繊維状物(4)は、長手方向に直交する方向(以下、幅方向)の長さが100nm〜500nmであった。
【0161】
繊維状物(4)の暗視野走査型透過電子顕微鏡(ADF-STEM)像を
図15に示す。幅方向の両端部が明るく、幅方向の中央部が暗いことから、表面近傍と内部とで構造が異なっていることが推測される。そこで電子エネルギー損失分光法(EELS)を用い、
図15の紙面と垂直方向に照射した場合の端部(A部)と中央部(B部)のスペクトルを比較した。その結果、
図16に示すようにA部にπ結合が多くB部は少ないことが明らかとなった。このことより、表面近傍と内部とで構造が異なることが分かる。またグラファイトのEELSスペクトルと比較したところ、A部のスペクトルはグラファイトのC軸と垂直方向(グラフェンの六角セル面に対して平行方向)で測定したスペクトルに対応し、B部のスペクトルはグラファイトのC軸と平行方向(グラフェンの六角セル面に対して垂直方向)で測定したスペクトルに対応することが分かった。これらの結果から、繊維状物(4)は内部が中空の筒状であり、グラフェンシートが筒状に多層積層された構造であると判断される。
【0162】
得られた複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例17)
【0163】
リチウム二次電池の製造の際にバインダーとして、ポリアミドイミド(PAI)に代えてポリアクリル酸(PAA)を用いたこと以外は実施例16と同様である。
<電池特性試験10>
【0164】
実施例16,17と実施例5に係るリチウムイオン二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件で充電した際の初期の充電容量を測定し、電流0.2mAの条件で放電させた際の放電容量を測定して、初期効率(充電容量/放電容量)を算出し、結果を初期充電容量とともに表11に示す。また温度25℃、電流0.2mAの条件下において1Vまで充電し、10分間休止した後、電流0.2mAの条件で0.01Vまで放電し、10分間休止するサイクルを20サイクル繰り返すサイクル試験を行った。そして1サイクル目の充電容量に対する20サイクル目の充電容量の割合である容量維持率を測定し、結果を表11に示す。
【0165】
【表11】
実施例16のリチウムイオン二次電池は、実施例5と成分が同一であるのに電池特性が良い。これは粉砕時期の差であり、実施例5では炭素化工程後に粉砕しているため、繊維状物が切断されたためと考えられる。また実施例16は実施例17より容量維持率が高く、バインダーとしてはPAAよりPAIが好ましいことがわかる。
<分析試験>
【0166】
実施例5で調製された複合体粉末をイオンミリング法によって薄片化し、その粒子についてTEM(Transmission Electron Microscopy)測定を行い、そのTEM画像を
図17に示す。濃い灰色の粒子(長径の粒径約10nm)が長辺に対して垂直に配向して層状に配列した部分と、薄い灰色の部分とが層状に積層された構造となっていることがわかる。
【0167】
そこで
図17のPoint1〜5の各点についてその組成を確認すべく、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)分析を行った。結果を
図18〜22にそれぞれ示す。Point1〜3はシリコン(Si)が91.5atm%以上の組成であり、濃い灰色の粒子はナノシリコン粒子であることが確認された。またPoint4,5からはSi以外に多量の炭素(C)と微量の酸素(O)が検出され、薄い灰色の部分は炭素(C)が多い炭素層であることがわかった。
【0168】
すなわち実施例5における炭素化工程において、
図7に示した空隙及び/又はシリコン酸化物(2)に相当する部位にフェノール樹脂が含浸して炭素化されたと考えられる。
図7に示した空隙及び/又はシリコン酸化物(2)が空隙である場合には、電池とした場合にその空隙に電解液が含浸することによって負極活物質層の構造崩壊が生じる場合がある。しかし表4に示したように、実施例5の電池は比較例2の電池に比べてサイクル特性が格段に向上し、これはその空隙に炭素層が形成されたことによる効果であると考えられる。
(実施例18)
【0169】
実施例1で調製されたナノシリコン凝集粒子1gに対して、アセトンとメタノールからなる混合溶媒に溶解したレゾール型フェノール樹脂溶液(固形分58質量%)0.86gを添加(仕込み重量比Si/C=2/1)し、よく撹拌した。これから溶媒を除去した後、減圧下で120℃にて1時間加熱してフェノール樹脂を硬化させ、次いでアルゴンガス中にて900℃で20分間焼成して炭素化した。回収粉末の重量と層状ポリシランの仕込み量とから算出されたSi/C重量比は、88/12であった。得られた黒色粉末を平均粒子径が10μmとなるようにボールミルで粉砕し、複合体粉末を調製した。粉砕は、黒色粉末1gに対して100gのジルコニアボール(4mmφ)を加え、70rpmで2時間行った。
【0170】
この複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
(実施例19)
【0171】
乾式分級機を用い、実施例18における粉砕後の複合体粉末を粒径が2μm〜20μmの範囲に分級し、粒径が2μm未満のものと20μmを超えるものを除去した。分級後の複合体粉末を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作製し、同様にしてリチウム二次電池を得た。
<電池特性試験11>
【0172】
実施例18と実施例19に係るリチウムイオン二次電池を用い、温度25℃、電流0.2mAの条件で0.8Vまで充電した際の初期の充電容量を測定し、電流0.2mAの条件で0.01Vまで放電させた際の放電容量を測定して、初期効率(充電容量/放電容量)を算出し、結果を初期充電容量とともに表12に示す。
【0173】
【表12】
分級処理によって粒径が2μm〜20μmの範囲とされた複合体粉末を用いることで、初期効率と初期容量が向上していることがわかる。