特許第6065216号(P6065216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6065216給気システム及びこれを備えた微生物培養装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6065216
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】給気システム及びこれを備えた微生物培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/04 20060101AFI20170116BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C12M1/04
   C12M1/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-85066(P2013-85066)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-204698(P2014-204698A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 雅晴
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/017567(WO,A1)
【文献】 特開2007−167856(JP,A)
【文献】 特開2009−106874(JP,A)
【文献】 特開平04−200381(JP,A)
【文献】 特開平05−328963(JP,A)
【文献】 特開平07−079654(JP,A)
【文献】 特開2012−179018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−1/09
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分である溶解性物質を含む液体中に気体を供給するための給気システムであって、
内部を前記液体中に連通させて配設された送気管と、
前記送気管の内部に気体を流通させるための送気手段と、
前記送気管の内部に目詰り防止用液分を供給する目詰り防止用液分供給手段とを備え
且つ、前記目詰り防止用液分供給手段が、純水である目詰り防止用液体を前記送気管の内部に供給する給液手段を備え、前記目詰り防止用液体とともに気体を前記送気管の内部に流通させて前記液体中に給送するように構成されていることを特徴とする給気システム。
【請求項2】
請求項記載の給気システムにおいて、
前記目詰り防止用液分供給手段が、気体に対して前記目詰り防止用液体が0.025体積%以上含まれるように前記目詰り防止用液体を前記送気管の内部に供給することを特徴とする給気システム。
【請求項3】
培養槽に貯留した培養液中で微生物を培養するための微生物培養装置であって、
前記培養液中に酸素を含む気体を供給する給気システムとして、請求項1または請求項2に記載の給気システムを備えていることを特徴とする微生物培養装置。
【請求項4】
請求項記載の微生物培養装置において、
塩分を含む前記培養液を用い、好塩性微生物を培養する装置であることを特徴とする微生物培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給気システム及びこれを備えた微生物培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばクロレラ属、クラミドモナス属、ドナリエラ属、セネデスムス属、シネココッカス属、スピルリナ属の微細藻類などの微生物を食品や燃料などに利用することが注目されている(例えば、特許文献1参照)。そして、一般に、この種の微生物を培養する装置は、培養槽の底部側から給気システムによって空気を供給して培養液を曝気し、また、撹拌翼で培養液を撹拌するなどして、培養液中の微生物に酸素、栄養源を十分に接触させて供給できるように構成されている。
【0003】
一方、上記のように微細藻類などの微生物を大量に培養する場合には、微生物が培養槽内壁や培養槽内部の構造物に付着したり、微生物の集塊が形成されて沈殿し、微生物の培養効率の低下を招くことが多々ある。これに対し、微生物の培養を行う際に、培養槽に間欠的に超音波を印加することによって微生物の培養槽内部への付着や集塊の形成による沈殿を防止する技術が提案、実用化されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−239423号公報
【特許文献2】特開平7−298869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、例えば、好塩性の微生物を培養する際には、培養液中の塩分(液体に溶解した溶存物質)が給気システムの送気管やエアストーン、散気ボール(散気手段)等に析出/付着してしまい、その給気能力が低下する。特に、塩分濃度が0.5〜2.5Mで好適に生育する中度好塩微生物、さらに2.5M以上の塩分濃度で好適に生育する高度好塩微生物を培養する際には、培養液の塩分濃度が高くなるほど、給気能力の低下の発生率が高くなり、また給気能力が低下するまでの時間が短くなる。
【0006】
そして、このような給気システムの送気管やエアストーン等に析出/付着した塩分などの固形物質は、超音波を用いても十分に除去することが難しい。これにより、従来、給気能力が低下してきた時点で、給気システムの部品を交換するという対応を取らざるを得ないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、送気管などに目詰りが生じることを確実に防止できる給気システム及びこれを備えた微生物培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の給気システムは、塩分である溶解性物質を含む液体中に気体を供給するための給気システムであって、内部を前記液体中に連通させて配設された送気管と、前記送気管の内部に気体を流通させるための送気手段と、前記送気管の内部に目詰り防止用液分を供給する目詰り防止用液分供給手段とを備え、且つ、前記目詰り防止用液分供給手段が、純水である目詰り防止用液体を前記送気管の内部に供給する給液手段を備え、前記目詰り防止用液体とともに気体を前記送気管の内部に流通させて前記液体中に給送するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
この発明においては、目詰り防止用液分供給手段を備えることによって、送気管の内部に気体とともに目詰り防止用液分を流通させて液体中に供給・放出させることが可能になる。そして、従来のように気体だけでなく目詰り防止用液分が送気管の内部を流通することで、液体中に含まれる溶解性物質が給気システムの送気管の内部などに析出/付着することを防止できる。
また、給液手段から送気管の内部に目詰り防止用液体を供給することで、送気管の内部に気体とともに目詰り防止用液分(目詰り防止用液体)を流通させて液体中に供給・放出させることが可能になる。これにより、液体中に含まれる溶解性物質が給気システムの送気管の内部などに析出/付着することを防止できる。
【0015】
また、本発明の給気システムにおいては、前記目詰り防止用液分供給手段が、気体に対して前記目詰り防止用液体が0.025体積%以上含まれるように前記目詰り防止用液体を前記送気管の内部に供給することがさらに望ましい。
【0016】
この発明においては、送気管の内部を流通する気体量に対して0.025体積%以上となるように目詰り防止用液体を供給することにより、確実に液体中に含まれる溶解性物質が給気システムの送気管の内部などに析出/付着することを防止できる。
【0017】
本発明の微生物培養装置は、培養槽に貯留した培養液中で微生物を培養するための微生物培養装置であって、前記培養液中に酸素を含む気体を供給する給気システムとして、上記のいずれかの給気システムを備えていることを特徴とする。
【0018】
この発明においては、微生物を培養する培養液中に空気などの酸素を含む気体を供給するために、上記のいずれかの給気システムを用いることで、給気システムの送気管の内部などに析出/付着することを防止でき、好適に微生物の培養を行うことが可能になる。
【0019】
また、本発明の微生物培養装置においては、塩分を含む前記培養液を用い、好塩性微生物を培養する装置であることが望ましい。
【0020】
この発明においては、給気システムの送気管の内部などに塩分が析出/付着してしまい、従来、この塩分の析出/付着を防止・除去する手段がなく、給気能力を長期にわたって維持することが不可能とされていた好塩性微生物の培養装置に上記のいずれかの給気システムを適用することで、確実且つ効果的に給気システムの送気管の内部などに塩分が析出/付着することを防止でき、好塩性微生物に対しても好適に培養を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の給気システム及びこれを備えた微生物培養装置においては、給気システムが目詰り防止用液分供給手段を備えることによって、送気管の内部に気体とともに目詰り防止用液分を流通させて液体中に供給・放出させることが可能になる。そして、従来のように気体だけでなく目詰り防止用液分が送気管の内部を流通することで、液体中に含まれる溶解性物質が給気システムの送気管の内部などに析出/付着することを防止できる。
【0022】
これにより、例えば、塩分濃度が高い培養液に空気などの酸素を含む気体を供給する必要がある好塩性微生物の培養に対しても、この給気システムを適用することで、確実且つ効果的に給気システムの送気管の内部などに塩分が析出/付着することを防止でき、好塩性微生物に対しても好適に培養を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係る給気システム及び微生物培養装置を示す図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る給気システム及び微生物培養装置を示す図である。
図3】本発明に係る給気システムの優位性を確認した実証実験の結果を示す図である。
図4】本発明に係る給気システムの優位性を確認した実証実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1から図4を参照し、本発明の一実施形態に係る給気システム及びこれを備えた微生物培養装置について説明する。
【0025】
ここで、本実施形態は、塩分濃度が低い条件下では生育しない、もしくは生育が悪く、塩分濃度が高い培養液中でよく生育する好塩性微生物を培養するための微生物培養装置に関するものであり、特に、塩分による目詰りを防止することを可能にしつつ、培養液中に酸素を含む気体(空気)を供給することを可能にする給気システムを備えた微生物培養装置に関するものである。
なお、本発明に係る給気システムは、本実施形態のような微生物培養装置への適用に限定する必要はなく、溶解性物質を含む液体に対して気体を供給することが必要なあらゆるケースに適用可能であり、以下に説明する本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0026】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態の微生物培養装置Aは、図1に示すように、塩分とともに好塩性微生物を含む培養液(溶解性物質を含む液体)1を貯留する培養槽2と、培養液中に空気(酸素を含む気体)Gを供給するための給気システムBとを備えて構成されている。
【0027】
また、本実施形態の給気システムBは、先端に取り付けられたエアストーンなどの散気手段3を培養液1中に配し、内部を培養液1中に連通させて配設された送気管4(4a)と、送気管4(4b)の内部に空気Gを供給して流通させるための送気ポンプなどの送気手段5と、送気手段5とエアストーン3の間の送気管4に取り付けられ、送気管4を流通する空気Gを除菌処理するための除菌フィルタ6と、送気管4(4a)(エアストーン3含む)の内部に目詰り防止用液分を供給する目詰り防止用液分供給手段7とを備えて構成されている。
【0028】
さらに、この給気システムBにおいては、目詰り防止用液分供給手段7が純水等の目詰り防止用液体8を貯留する目詰り防止用液体貯留槽9を備え、送気手段5によって送気管4(4b)の内部を流通する空気G1を目詰り防止用液体貯留槽9内の目詰り防止用液体8中に供給し、目詰り防止用液分を含んだ空気G2を目詰り防止用液体貯留槽9から送気管4(4a)の内部に流通させて培養液1中に給送するように構成されている。
【0029】
すなわち、本実施形態の微生物培養装置Aの給気システムBにおいては、送気ポンプ(送気手段)5と培養槽2内のエアストーン3との間に、純水等の水(目詰り防止用液体)8を密閉状態で貯留するバブリング槽(目詰り防止用液体貯留槽)9が設けられ、送気ポンプ5から除菌フィルタ6を通って送られた空気G1がバブリング槽9の水8中に排出され、この水8を曝気するように構成されている。さらに、バブリング槽9の水8を曝気し、この水8からバブリング槽9の上方の気相に浮上した空気G2がバブリング槽9から送気管4(4a)を通じてエアストーン3に送られて、培養槽2の培養液1中に供給されるように構成されている。
【0030】
上記のように構成した本実施形態の微生物培養装置A及び給気システムBにおいて、送気ポンプ5からエアストーン3に送られる空気Gは、その途中のバブリング槽9内の水8を通過することでその湿度が増加する(目詰り防止用液分が含まれる)。そして、このように加湿された空気G2が送気管4を流通してエアストーン3に送られ、培養液1に供給・放出されることにより、従来と比較し、給気システムBの送気管4(4a)及びエアストーン3内での塩分の析出量/付着量が大幅に減少する。
【0031】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の微生物培養装置Cは、図2に示すように、塩分とともに好塩性微生物を含む培養液(溶解性物質を含む液体)1を貯留する培養槽2と、培養液中に空気(酸素を含む気体)Gを供給するための給気システムDとを備えて構成されている。
【0032】
また、本実施形態の給気システムDは、先端に取り付けられたエアストーンなどの散気手段3を培養液1中に配し、内部を培養液1中に連通させて配設された送気管4と、送気管4の内部に空気Gを供給して流通させるための送気ポンプなどの送気手段5と、送気手段5とエアストーン3の間の送気管4に取り付けられ、送気管4を流通する空気Gを除菌処理するための除菌フィルタ6と、送気管4(4a)(エアストーン3含む)の内部に目詰り防止用液分を供給する目詰り防止用液分供給手段10とを備えて構成されている。
【0033】
さらに、この給気システムDにおいては、目詰り防止用液分供給手段10が純水等の目詰り防止用液体8を送気管4の内部に供給する給液手段11を備え、目詰り防止用液体8とともに空気Gを送気管4の内部に流通させて培養液1中に給送するように構成されている。
【0034】
また、本実施形態の給液手段11は、目詰り防止用液体8を貯留する目詰り防止用液体貯留槽9と、目詰り防止用液体貯留槽9から送気管4に接続した送水管12と、送水管12の途中に設けられ、目詰り防止用液体貯留槽9から目詰り防止用液体8を送水管12に流通させて送気管4に供給するための送水ポンプなどの送液手段13と、送水管12を流通する目詰り防止用液体8を除菌・清浄化処理するフィルタ14とを備えて構成されている。
【0035】
すなわち、本実施形態の微生物培養装置Cの給気システムDにおいては、送気ポンプ(送気手段)5から除菌フィルタ6を通って送られた空気G1が直接的にエアストーン3に供給されるように構成されている。一方、この微生物培養装置Cの給気システムDでは、除菌フィルタ6とエアストーン3の間の送気管4内に純水等の水(目詰り防止用液体)8を供給する給液手段11が設けられている。この給液手段11は、純水等の水8を貯留する水槽(目詰り防止用液体貯留槽)9と、水槽9内の水8をフィルタ14を通じて送気管4内に供給するための送水ポンプ(送液手段)13とを備えて構成されている。また、送水ポンプ13には、適宜所定の量の水を供給可能な定量ポンプが用いられている。
【0036】
上記のように構成した本実施形態の微生物培養装置C及び給気システムDにおいて、送気ポンプ5から空気G1がエアストーン3に送られる途中で、この空気G1が流通する送気管4内に給液手段11から適量の水8が供給される。これにより、空気Gとともに水8が送気管4の内部を流通し、エアストーン3から培養液1中に供給・放出される。そして、このように、水8を含んだ空気G2が送気管4を流通してエアストーン3に送られることにより、従来と比較し、給気システムDの送気管4及びエアストーン3内での塩分の析出量/付着量が大幅に減少する。
【0037】
ここで、上記の第1実施形態の微生物培養装置A及び給気システムBと第2実施形態の微生物培養装置C及び給気システムDの優位性を確認した実証実験について説明する。
【0038】
本実証実験では、まず、通気量を0.2L/min、培養液1の温度を40℃、培養液1の塩分濃度を20%とした。また、給気システムB、Dの散気手段3として木下式ガラスボールフィルタ(エアストーン)を使用した。
【0039】
そして、従来の直接通気を行う従来ケースと、純水バブリングを行う第1実施形態に示した発明ケース1と、純水添加を行う第2実施形態に示した発明ケース2とでそれぞれ通気試験を行った。さらに、発明ケース2では、純水8の添加量を0.1mL/minとした発明ケース2−1と、純水8の添加量を0.05mL/minとした発明ケース2−2の2ケースで通気試験を行った。
【0040】
図3は、上記の各条件、各ケースでの通気量の経時変化を示している。この図3に示す結果から、まず、直接通気を行った従来ケースでは、通気直後に通気量が低下し始め、24時間後には初期設定通気量(0.2L/min)の約半量まで急激に低下し、48時間後には、エアストーン3に析出/付着した塩分によって目詰りが生じ、ほとんど通気が認められなくなった。なお、ほとんど通気が認められなくなった時点(約55時間後)の送気管4を観察したところ、管内部に塩分が多量に析出して目詰りが生じていることが確認された。また、管表面も白色に変色しており、塩分による管表面への付着、それに伴う劣化が確認された。
【0041】
一方、純水バブリング処理を行う発明ケース1(第1実施形態の微生物培養装置A、給気システムB)では、始めに若干の通気量の低下(約25%低下)が確認されるが、その後は、純水8でバブリングして加湿した空気G2を通気することにより、安定した通気量が維持できることが確認された。
【0042】
次に、微量の純水8を空気Gに添加する発明ケース2、さらに、純水の添加量を0.1mL/minとした発明ケース2−1と、純水の添加量を0.05mL/minとした発明ケース2−2の両ケース(第2実施形態の微生物培養装置C、給気システムD)では、いずれも試験期間中の通気量の減少がほとんど生じないことが確認された。
【0043】
また、図4は、発明ケース2−2に対し、純水8の添加を途中で停止した結果を示しており、この結果から、やはり停止後すぐに通気量の減少が確認され、約3時間後には設定通気量の約15%まで低下してしまうことが確認された。
【0044】
ここで、培養液1などの液体に通気を行う場合、通気対象の液体1に対して加圧した状態で空気などの気体Gを送り込むことになる。このため、通常、連続的に気体Gを供給している場合には、液体1が送気管4内に逆流することはなく、送気管4内で塩分(溶解性物質)の析出や付着が生じることはないと考えられる。しかしながら、上記の実証実験でも確認されたように、実際には、単に通気を行う従来ケースにおいて、連続的に通気を行っているにもかかわらず、送気管4内での塩分の析出が生じている。
【0045】
これに対し、本願の発明者は、塩分を含んだ水蒸気分などが加圧状態においても徐々に送気管4の内部に入り込んでいると考えた。そして、創意工夫を重ね、発明ケース1や発明ケース2のように、加湿した気体G2を送気するようにしたり、気体G1に水などの液体8を添加し、液体分8とともに気体G2を送気することにより、送気管4内の湿度を高いレベルで維持することができ、また、湿度の高い気体G2や液体分8が送気管4の内部を流通することで塩分(溶解性物質)を洗い流すように排出させることができ、送気管4の内部で塩分が析出することを防止できるという格別顕著な作用効果を得ることに成功した。
【0046】
したがって、本実施形態の給気システムB、D及びこれを備えた微生物培養装置A、Cにおいては、目詰り防止用液分供給手段7、10を備えることによって、送気管4の内部に空気(気体)Gとともに目詰り防止用液分の水8を流通させて培養液(液体)1中に供給・放出させることが可能になる。そして、従来のように空気Gだけでなく目詰り防止用液分の水8が送気管4の内部を流通することで、培養液1中に含まれる溶解性物質の塩分が給気システムB、Dの送気管4の内部などに析出/付着することを防止できる。
【0047】
また、送気ポンプなどの送気手段5によって送気管4の内部を流通する空気Gが目詰り防止用液体貯留槽9内の水(目詰り防止用液体)8中に供給されることで、空気G中に水分(目詰り防止用液分)を含ませることができる。すなわち、空気の湿度を上昇させることができる。これにより、送気管4の内部に空気Gとともに水分を流通させて培養液1中に供給・放出させることが可能になり、培養液1に含まれる塩分が給気システムBの送気管4の内部などに析出/付着することを防止できる。
【0048】
さらに、給液手段11から送気管4の内部に水(目詰り防止用液体)8を供給することで、送気管4の内部に空気Gとともに水(目詰り防止用液分)8を流通させて培養液1中に供給・放出させることが可能になる。これにより、培養液1中に含まれる塩分が給気システムDの送気管4の内部などに析出/付着することを防止できる。
【0049】
また、このとき、送気管4の内部を流通する空気量(通気量)に対して0.025体積%以上となるように水(目詰り防止用液体)8を供給することにより、確実に培養液1中に含まれる塩分が給気システムDの送気管4の内部などに析出/付着することを防止できる。すなわち、微量の水8を添加して空気Gとともに供給するように構成した場合には、非常に微量な水8の添加量で顕著な通気量維持効果を得ることができる。また、このとき、通気量の0.025%で水8を添加すると、顕著な通気量維持効果を得ることが可能になるとともに、培養液1の塩分濃度に与える影響(塩分濃度の低下、希釈)も少なくて済む。ちなみに、5Lの培養液(培地)において、0.2L/minの通気量に添加する水8の量は、0.05mL/minであり、この量は、72mL/day程度で非常に少量である。
【0050】
これにより、塩分濃度が高い培養液1に空気Gなどの酸素を含む気体を供給する必要がある好塩性微生物の培養に対しても、この給気システムB、Dを適用することで、確実且つ効果的に給気システムB、Dの送気管4の内部などに塩分が析出/付着することを防止でき、好塩性微生物に対しても好適に培養を行うことが可能になる。
【0051】
すなわち、従来のように給気能力(通気能力)が早期に低下してしまうことがなく、給気能力が落ちる度に培養槽2から給気システムB、Dの送気管4、エアストーン3等を取り出して交換することを不要にすることが可能になる。または給気システムB、Dを取り出して交換する頻度を大幅に下げることが可能になる。そして、このように給気システムB、Dの交換が不要になることで、これに伴う培養条件のブレをなくすこともできるようになり、安定した培養を継続的に行うことが可能になる。また、交換部品コストの低減、培養条件の不安定化による培養生成物ロスの低減を図ることが可能になる。
【0052】
さらに、塩分が析出し、目詰りが生じて徐々に通気量が減少することがなく、培養中の通気量の定量性が保たれるため、通気条件の厳しい物質生産培養であっても好適に行うことが可能になる。また、定量性が保たれることで、通気効率、生物反応計算などのエンジニアリング設計を行う場合などにおいても、その計算値の正確性が上がり、信頼性の高いシステムを構築することが可能になる。
【0053】
また、バブリングによる加湿処理の手法(第1実施形態の装置A、給気システムB)を用いるか、純水添加処理の手法(第2実施形態の装置C、給気システムD)を用いるかは、通気対象となる液体1の塩分などの溶解性物質濃度により選択すればよい。例えば、海水観賞用水槽等における給気に適用する場合には、塩分濃度が3%程度と比較的低濃度であるため、加湿通気の手法を用いても十分な効果を得ることができる。また、研究や産業用途で高塩分条件での給気に適用する場合には、やはり純水添加による手法を適用することが効果的である。
【0054】
以上、本発明に係る給気システム及びこれを備えた微生物培養装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0055】
例えば、本実施形態では、除菌フィルタ6が設けられているものとしたが、特に除菌フィルタ6を備えることに限定する必要はない。特に、コンタミや滅菌の必要がない鑑賞用水槽等に給気システムB、Dで空気Gを供給する場合には、除菌フィルタ6は必要ない。
【0056】
また、生物培養を行う微生物培養装置A、Cについて説明を行ったが、本発明に係る給気システムB、Dは、化学反応や水処理プロセスなど、槽内に貯留された液体に対して気体を供給するあらゆるケースで適用可能である。すなわち、高塩分溶液の各種ガス通気手段として適用することができる
【符号の説明】
【0057】
1 培養液(溶解性物質を含む液体)
2 培養槽
3 エアストーン(散気手段)
4 送気管
5 送気ポンプ(送気手段)
6 除菌フィルタ
7 目詰り防止用液分供給手段
8 水(水分、目詰り防止用液体、目詰り防止用液分)
9 バブリング槽、水槽(目詰り防止用液体貯留槽)
10 目詰り防止用液分供給手段
11 給液手段
12 送水管
13 送水ポンプ(送液手段)
14 フィルタ
A 微生物培養装置
B 給気システム
C 微生物培養装置
D 給気システム
G 空気(気体)
図1
図2
図3
図4