特許第6065746号(P6065746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6065746層状岩塩構造の活物質の製造方法、層状岩塩構造の活物質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6065746
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】層状岩塩構造の活物質の製造方法、層状岩塩構造の活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20170116BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170116BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-107773(P2013-107773)
(22)【出願日】2013年5月22日
(65)【公開番号】特開2014-229465(P2014-229465A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】福本 武文
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】松代 大
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−093139(JP,A)
【文献】 特開2008−277152(JP,A)
【文献】 特表2009−534288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOSO及びMPO(MはH、Li、Na、K、NHからそれぞれ独立に選択される。)を含む活物質改質用水溶液を調製する水溶液調製工程と、
層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料を前記活物質改質用水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程を経た前記材料を焼成する焼成工程と、
を含むことを特徴とする層状岩塩構造の一般式:Lia’Nib’Coc’Mnd’e’f’(0.2≦a’≦1、b’+c’+d’+e’=1、0≦e’<1、D’はLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f’≦2.1) で表される活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は層状岩塩構造の活物質の製造方法、層状岩塩構造の活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン二次電池の活物質として、種々の材料が用いられている。特に、層状岩塩構造のリチウム複合酸化物である一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料はリチウムイオン二次電池用活物質として汎用されている。そして、より優れたリチウムイオン二次電池用活物質を提供するべく、上記材料に関する検討がさかんに行われている。例えば、特許文献1には、粉末X線回折測定において、(104)面に由来するピーク強度I(104)に対する(003)面に由来するピーク強度I(003)の強度比I(003)/I(104)が0.8以上であるリチウム複合酸化物が記載され、当該リチウム複合酸化物を種々の方法で製造することが記載されている。その他、特許文献2〜3に開示されるように、リチウム複合酸化物の粉末X線回折測定における強度比I(003)/I(104)に着目した多くの研究がおこなわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−25957号公報
【特許文献2】特開2013−073833号公報
【特許文献3】特開2013−069583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池用活物質に求められる要求は依然として高く、より優れた性能の活物質となり得る材料が切望されている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、活物質となり得る材料を原料とする優れた性能の活物質の製造方法、及び、かかる製造方法で製造される活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が鋭意検討した結果、層状岩塩構造のリチウム複合酸化物である一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料に対し、特定の処理を行うと、粉末X線回折測定における(104)面に由来するピーク強度I(104)に対する(003)面に由来するピーク強度I(003)の強度比I(003)/I(104)が向上することを知見した。しかも、当該強度比が向上した材料をリチウムイオン二次電池の活物質として用いると、当該電池の初期容量が増加することを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の活物質の製造方法は、VOSO及びMPO(MはH、Li、Na、K、NHからそれぞれ独立に選択される。)を含む活物質改質用水溶液を調製する水溶液調製工程と、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料を前記活物質改質用水溶液に浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
ここで、本発明の製造方法で得られる層状岩塩構造の活物質は一般式:Lia’Nib’Coc’Mnd’e’f’(0.2≦a’≦1、b’+c’+d’+e’=1、0≦e’<1、D’はLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f’≦2.1) で表される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の活物質の製造方法により得られた活物質は、該活物質を用いたリチウムイオン二次電池の初期容量を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の活物質の製造方法を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0011】
本発明の活物質の製造方法は、VOSO及びMPO(MはH、Li、Na、K、NHからそれぞれ独立に選択される。)を含む活物質改質用水溶液を調製する水溶液調製工程と、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料を前記活物質改質用水溶液に浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、本発明の製造方法で得られる層状岩塩構造の活物質は一般式:Lia’Nib’Coc’Mnd’e’f’(0.2≦a’≦1、b’+c’+d’+e’=1、0≦e’<1、D’はLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f’≦2.1) で表される。
【0013】
水溶液調製工程は、VOSO及びMPO(MはH、Li、Na、K、NHからそれぞれ独立に選択される。)を含む活物質改質用水溶液を調製する工程である。MPOとしては、HPO、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、LiHPO、LiHPO、LiPO、NaHPO、NaHPO、NaPO、KHPO、KHPO、KPOを具体的に例示することができる。MPOとしては、HPO、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、LiHPO、LiHPO、LiPOが好ましく、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、LiHPO、LiHPOが特に好ましい。水溶液調製工程のMPOとしては、上記の単独の化合物を採用しても良いし、複数の化合物を併用しても良い。また、MPOの無水物を採用しても良いし、各水和物を採用しても良い。水溶液調製工程のVOSOについても同様に、VOSOの無水物を採用しても良いし、各水和物を採用しても良い。
【0014】
水溶液調製工程で用いられるVOSO及びMPOのモル比は特に限定されない。好ましいモル比を例示すると、VOSO:MPO=1:10〜10:1の範囲内が好ましく、1:5〜5:1の範囲内がより好ましく、1:2〜2:1の範囲内が特に好ましい。
【0015】
活物質改質用水溶液におけるVOSO又はMPOの濃度は特に限定されない。VOSO又はMPOの好ましいモル濃度を例示すると、0.1mmol/L〜1mol/Lの範囲内が好ましく、0.5mmol/L〜0.5mol/Lの範囲内がより好ましく、1mmol/L〜100mmol/Lの範囲内が特に好ましい。
【0016】
浸漬工程は、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料を水溶液調製工程で調製された活物質改質用水溶液に浸漬する工程である。浸漬工程においては、撹拌を伴うことが好ましい。
【0017】
上記層状岩塩構造について説明する。一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)で表されるリチウム複合金属酸化物の結晶構造は、菱面体晶系であって反転対称のある3回軸と鏡映面を有するものであり、空間群R−3mで表される。なお、「R−3m」において、「−3」は上線を付した3を表したものである。そして、上記一般式の層状岩塩構造は、Liを有する層(面)の3aサイト、NiCoMnを有する層(面)の3bサイト、Oを有する層(面)の6cサイトが、6cサイト、3bサイト、6cサイト、3aサイトの順に繰り返されてなる。ここで、3aサイト、3bサイト、6cサイトとは、Wyckoff記号に従って表した記載である。
【0018】
一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)において、a、b、c、d、e及びfの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、b、c、dの少なくともいずれか一つが0<b<80/100、0<c<50/100、10/100<d<1の範囲であることが好ましく、30/100<b<70/100、10/100<c<30/100、20/100<d<40/100の範囲であることがより好ましく、b=50/100、c=20/100、d=30/100が特に好ましい。層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料は、市販のものを用いても良いし、公知の製造方法で適宜製造したものを用いても良い。
【0019】
活物質改質用水溶液に浸漬する層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料の量は、当該材料が活物質改質用水溶液に浸漬できる範囲内であれば特に制限は無い。活物質改質用水溶液100質量部に対する前記材料の量を例示すると、1〜500質量部の範囲内が好ましく、10〜300質量部の範囲内がより好ましく、50〜150質量部の範囲内が特に好ましい。
【0020】
前記材料が活物質改質用水溶液に浸漬される時間は、特に制限が無い。好ましい浸漬時間を例示すると、1〜200分の範囲内が好ましく、10〜150分の範囲内がより好ましく、30〜100分の範囲内が特に好ましい。
【0021】
所定の浸漬時間経過後に、活物質改質用水溶液から固形物が取り出されて浸漬工程は終了する。活物質改質用水溶液から固形物を取り出す工程としては、濾過工程を採用するのが好ましい。濾過は常圧条件下で行われても良いが、減圧条件下による濾過、すなわち吸引濾過が好ましい。濾過工程後に得られる固形物を乾燥炉にて100〜140℃の条件で乾燥し、固形物に付着した水分を除去する乾燥工程を採用するのが好ましい。乾燥工程の乾燥時間は水分の除去の程度を確認しながら適宜決定すればよい。乾燥後の固形物は粉砕工程にて粉砕されることが好ましい。粉砕工程においては、乳鉢や各種のミキサーを用いて固形物を粉砕する。
【0022】
次いで前記固形物は焼成工程にて焼成され、本発明の製造方法で製造された活物質となる。焼成温度は300〜1000℃の範囲内が好ましく、350〜800℃の範囲内がより好ましい。焼成時間は1〜10時間程度でよい。焼成工程後に上記粉砕工程と同様の方法で活物質の粉砕処理を行い、活物質を所望の粒径にしても良い。
【0023】
浸漬工程、焼成工程を経ることで前記材料の一般式は、Lia’Nib’Coc’Mnd’e’f’(0.2≦a’≦1、b’+c’+d’+e’=1、0≦e’<1、D’はLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f’≦2.1) で表されるものとなる。ただし、浸漬工程前の材料の組成と、焼成工程後の活物質の組成には、実質的な変化が観察されない。
【0024】
ここで、浸漬工程前の材料及び焼成工程後の本発明の活物質の両者を粉末X線回折装置で測定し、(104)面に由来するピーク強度I(104)に対する(003)面に由来するピーク強度I(003)の強度比I(003)/I(104)を比較すると、焼成工程後の本発明の活物質の方が向上していることが確認できた。上述した特許文献などの記載によると、リチウム複合酸化物の層状岩塩構造における各サイト、すなわち、3aサイト、3bサイト、6cサイトのいずれか又はそれぞれにおける含有元素の均一性が高いほど、強度比I(003)/I(104)が向上するといえる。そうすると、本発明の浸漬工程、焼成工程を経ることで、リチウム複合酸化物の層状岩塩構造におけるサイト含有元素の均一性が高くなったと考えられる。なお、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される材料を粉末X線回折装置で測定した際に、(003)面に由来するピークは2θ=18°付近に観察され、(104)面に由来するピークは2θ=44°付近に観察される。
【0025】
本発明の活物質の製造方法は、活物質の改質方法、及び、活物質の粉末X線回折測定における(104)面に由来するピーク強度I(104)に対する(003)面に由来するピーク強度I(003)の強度比I(003)/I(104)向上方法と把握することもできる。
【0026】
本発明の活物質の改質方法は、VOSO及びMPO(MはH、Li、Na、K、NHからそれぞれ独立に選択される。)を含む活物質改質用水溶液を調製する水溶液調製工程と、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される活物質を前記活物質改質用水溶液に浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の、粉末X線回折測定における、活物質の(104)面に由来するピーク強度I(104)に対する(003)面に由来するピーク強度I(003)の強度比I(003)/I(104)向上方法は、VOSO及びMPO(MはH、Li、Na、K、NHからそれぞれ独立に選択される。)を含む活物質改質用水溶液を調製する水溶液調製工程と、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される活物質を前記活物質改質用水溶液に浸漬する浸漬工程と、を含むことを特徴とする。
【0028】
例えば、強度比I(003)/I(104)が1.20未満の層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される活物質に対し、本発明の改質方法を適用することで、強度比I(003)/I(104)が1.20以上の活物質を得ることができる。強度比I(003)/I(104)が1.20以上の層状岩塩構造の一般式:Lia’Nib’Coc’Mnd’e’f’(0.2≦a’≦1、b’+c’+d’+e’=1、0≦e’<1、D’はLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f’≦2.1)で表される活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、初期容量の向上を示す。強度比I(003)/I(104)の上限値には特に制限は無いが、上記の特許文献1−3の記載や以下に示す実施例の値から、上限値として2.0、1.5、1.3を示すことができる。
【0029】
本発明の活物質を用いて、リチウムイオン二次電池を製造できる。上記リチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、本発明の活物質を有する電極(例えば正極)に加えて、負極、セパレータ及び電解液を含む。
【0030】
正極は、集電体と、本発明の活物質を含む活物質層で構成される。
【0031】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。
【0032】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
集電体の表面に活物質層を形成することで正極とすることができる。
【0034】
活物質層は導電助剤を含んでもよい。導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては、炭素質微粒子であるカーボンブラック、天然黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。導電助剤の使用量については特に制限はないが、例えば、本発明の活物質100質量部に対して0.5〜30質量部とすることができる。
【0035】
活物質層は結着剤を含んでもよい。結着剤は本発明の活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンーブタジエンゴム等の共重合体、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体を例示することができる。これらの結着剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。結着剤の使用量については特に制限はないが、例えば、活物質100質量部に対して0.5〜30質量部とすることができる。
【0036】
集電体の表面に活物質層を形成させる方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に本発明の活物質を塗布すればよい。具体的には、本発明の活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。必要に応じて電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、エタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。
【0037】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。集電体、結着剤及び導電助剤は正極で説明したものと同様である。
【0038】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
【0039】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0040】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、珪素(Si)または錫(Sn)が好ましい。
【0041】
リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、 CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiO あるいはLiSnOを例示でき、特に、SiO(0.5≦x≦1.5)が好ましい。また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する元素化合物として、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
【0042】
高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
【0043】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン若しくはポリエチレンなどの合成樹脂を1種又は複数用いた多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が例示できる。
【0044】
電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0045】
溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等を使用することができる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。これらの溶媒は、単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。
【0046】
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を例示できる。
【0047】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒に、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0048】
リチウムイオン二次電池の製造方法は以下のとおりである。正極および負極でセパレータを挟持し電極体とする。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等で接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とする。リチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、積層型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0049】
本発明の活物質を用いたリチウムイオン二次電池は初期容量の改善を示す。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
【0052】
(実施例1)
VOSO2水和物0.06g及び(NHHPO無水物0.04gを50mLの純水に溶解させ、活物質改質用水溶液とした。市販の層状岩塩構造のLiNi5/10Co2/10Mn3/10で表される材料50gを前記活物質改質用水溶液に加えて浸漬させ、1時間撹拌した。撹拌後、液を吸引濾過し、固形物を分離した。固形物を乾燥炉にて120℃の条件で乾燥し、固形物の水分を除去した。ミキサーを用いて、乾燥後の固形物を粉砕した。次いで、粉砕後の固形物を400℃で5時間焼成し、活物質を得た。ミキサーを用いて、焼成後の活物質の粉砕処理を行い、実施例1の活物質とした。
【0053】
実施例1の活物質を用いて、以下のとおり、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0054】
実施例1の活物質88質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック6質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン6質量部とを混合し、次いで、この混合物をN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。集電体である厚み20μmのアルミニウム箔にスラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように集電体に塗布しシートとした。得られたシートにつき80℃で20分間乾燥し、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、ロ−ルプレス機を用いて、電極密度が2.3g/cmとなるように集電体と塗布物を強固に接合させた。真空乾燥機を用いた減圧条件下、120℃にて、6時間、接合物を加熱し、その後、接合物を25mm×30mmの矩形状に切り取り、厚さ50μm程度の正極とした。
【0055】
負極は以下のように作製した。活物質である黒鉛粉末97質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック1質量部と、結着剤であるスチレン−ブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部とを混合し、この混合物をイオン交換水に分散させてスラリーを作製した。負極用集電体である厚み20μmの銅箔にスラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように集電体に塗布しシートとした。得られたシートにつき乾燥し、水分を除去した。その後、ロ−ルプレス機を用いて、集電体と塗布物を強固に接合させた。真空乾燥機を用いた減圧条件下、120℃にて、6時間、接合物を加熱し、その後、接合物を25mm×30mmの矩形状に切り取り、厚さ45μm程度の負極とした。
【0056】
上記の正極および負極を用いて、以下のとおり、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。正極および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン樹脂からなる矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟持させ電極体とした。この電極体をラミネートフィルムで覆い、次いで、ラミネートフィルムの三辺をシールして袋状とした。袋状のラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としては、エチレンカーボネート3体積部及びジエチルカーボネート7体積部の混合溶媒にLiBFを1mol/Lの濃度で溶解した溶液を用いた。電解液注入後、袋状のラミネートフィルムの残りの一辺をシールし、ラミネート型リチウムイオン二次電池とした。なお、当該ラミネート型リチウムイオン二次電池の各集電体は外部と電気的に接続可能なタブを備え、これらタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。
【0057】
(実施例2)
VOSO2水和物を0.301gに及び(NHHPO無水物を0.2gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の活物質及びリチウムイオン二次電池を作製した。
【0058】
(実施例3)
VOSO2水和物を0.603gに及び(NHHPO無水物を0.4gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の活物質及びリチウムイオン二次電池を作製した。
【0059】
(比較例1)
市販の層状岩塩構造のLiNi5/10Co2/10Mn3/10で表される材料を比較例1の活物質とした。それ以外は実施例1と同様の方法で、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0060】
<粉末X線回折測定>
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1の活物質につき、以下の条件で粉末X線回折測定を行った。
X線:CuKα線、管電圧:45kV、管電流:200mA、
走査軸:2θ/θ、走査モード:連続、スキャンステップ:0.01°
2θ=18°付近に観察される(003)面由来のピーク強度I(003)と、2θ=44°付近に観察される(104)面由来のピーク強度I(104)と、強度比I(003)/I(104)を算出した。結果を表1に示す。
【0061】
<初期容量測定>
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1の活物質を用いたリチウムイオン二次電池の初期容量を測定した。まず、電池に対し、25℃、1Cレート、電圧4.5VでCCCV充電(定電流定電圧充電)をした。そして、電圧を一時間保持させた。次いで、電池から電圧3.0V、1CレートでCCCV放電(定電流定電圧放電)を行った。CCCV放電における容量を測定し、これを初期容量とした。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1のI(003)/I(104)の結果から、比較例1の活物質と比較して、実施例1〜3の活物質はいずれも強度比I(003)/I(104)が高くなった。また、実施例1〜3においては、浸漬工程で用いられた活物質改質用水溶液におけるVOSO及び(NHHPOの濃度が異なるにも関わらず、いずれの活物質も一様に強度比I(003)/I(104)が高くなったことがわかる。そして、表1の初期容量の結果から、比較例1の活物質を用いた電池と比較して、実施例1〜3の活物質を用いた電池は、いずれも初期容量の向上を示したことがわかる。