(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を有するインバータ回路の入力側に並列接続された直流電源およびコンデンサを備えるとともに出力側に電動機の巻線が接続されたインバータの暖機制御装置であって、
前記コンデンサの温度を検出する温度検出手段と、
前記コンデンサの劣化度を判定する劣化度判定手段と、
前記温度検出手段により検出された前記コンデンサの温度が規定温度よりも低い時において、前記コンデンサの劣化度および前記コンデンサの温度に基づいて設定される直流電流を前記電動機の巻線に供給するように前記インバータ回路の前記スイッチング素子を制御する暖機制御手段と、
を備え、前記劣化度判定手段は、前記コンデンサが前記直流電源に接続された時間の総和である接続時間と、前記インバータが駆動された時間の総和である駆動時間とに基づいて、前記コンデンサの劣化度を判定し、
前記暖機制御手段は、前記コンデンサの温度が低くなるほど前記直流電流を低い電流値に設定し、前記コンデンサの劣化度に応じて、前記直流電流の最大電流値を規定することを特徴とするインバータの暖機制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンデンサ温度を速やかに上昇させるためには、暖機制御において大きな電流を流せばよいが、暖機制御として低温環境時に大きな電流をインバータに流した場合、コンデンサ内部抵抗が増大していることから、電圧降下量が大きくなってしまう。電圧降下量が大きくなるとシステムが不安定になるため、マイコン等がリセットしてしまう可能性がある。また、コンデンサは通常温度であっても長期使用により劣化が進み内部抵抗が大きくなり、低温環境下で使用される場合には通常温度における内部抵抗に加えてさらに温度が低くなった分だけ内部抵抗が上昇する。そのため、従来は、
図5の特性線L10で示すようにコンデンサの劣化度が最大となった場合を想定した電流値で暖機制御を行っていた。そのような制御を行うと、コンデンサの劣化が進んでいない場合であっても暖機制御の電流値が制限されることになり、コンデンサの暖機制御に長時間を要することになる。
【0006】
本発明の目的は、低温時においてコンデンサの暖機を速やかに終了することができるインバータの暖機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明では、ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を有するインバータ回路の入力側に並列接続された直流電源およびコンデンサを備えるとともに出力側に電動機の巻線が接続されたインバータの暖機制御装置であって、前記コンデンサの温度を検出する温度検出手段と、前記コンデンサの劣化度を判定する劣化度判定手段と、前記温度検出手段により検出された前記コンデンサの温度が規定温度よりも低い時において、前記コンデンサの劣化度および前記コンデンサの温度に基づいて設定される直流電流を前記電動機の巻線に供給するように前記インバータ回路の前記スイッチング素子を制御する暖機制御手段と、を備え、前記劣化度判定手段は、前記コンデンサが前記直流電源に接続された時間の総和である接続時間と、前記インバータが駆動された時間の総和である駆動時間とに基づいて、前記コンデンサの劣化度を判定
し、前記暖機制御手段は、前記コンデンサの温度が低くなるほど前記直流電流を低い電流値に設定し、前記コンデンサの劣化度に応じて、前記直流電流の最大電流値を規定することを要旨とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、温度検出手段によりコンデンサの温度が検出され、劣化度判定手段によりコンデンサの劣化度が判定される。暖機制御手段において、温度検出手段により検出されたコンデンサの温度が規定温度よりも低い時において、コンデンサの劣化度およびコンデンサの温度に基づいて設定される直流電流を電動機の巻線に供給するようにインバータ回路のスイッチング素子が制御される。これにより、コンデンサの劣化度およびコンデンサの温度に基づいて設定される直流電流が電動機の巻線に供給されることにより、コンデンサの暖機を速やかに終了することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温時においてコンデンサの暖機を速やかに終了することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、フォークリフトに搭載されて、フォークリフトの走行用電動機や荷役用電動機を駆動するインバータ装置に具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。フォークリフトは、バッテリフォークリフトであって、走行用電動機の駆動により走行動作が行われるとともに荷役用電動機の駆動により荷役動作が行われる。つまり、キーオンされた状態において、オペレータがアクセルペダルを操作すると走行用電動機が駆動されて前進や後進などの走行動作が行われ、また、オペレータがリフトレバー等を操作すると荷役用電動機が駆動されてフォーク昇降などの荷役動作が行われる。また、このようなフォークリフトは、環境温度が−40℃以下にもなるような冷凍倉庫でも使用されることがある。
【0014】
図1に示すように、インバータ(三相インバータ)10は、インバータ回路20と駆動回路30とコントローラ40を備えている。インバータ回路20の入力側にはシステムリレースイッチSW1,SW2を介して直流電源としてのバッテリ50が接続されている。
【0015】
インバータ回路20の出力側には走行用電動機(あるいは荷役用電動機)60が接続されている。電動機60には3相交流モータが使用されている。電動機60は巻線61,62,63を有し、電動機60の各相の巻線61,62,63がインバータ回路20の出力側に接続されている。
【0016】
インバータ回路20は、6個のスイッチング素子S1〜S6が設けられている。各スイッチング素子S1〜S6には、パワーMOSFETが使用されている。なお、スイッチング素子としてIGBT(絶縁ゲートバイポーラ型トランジスタ)を使用してもよい。各スイッチング素子S1〜S6には、それぞれ帰還ダイオードD1〜D6が逆並列接続されている。
【0017】
インバータ回路20において、第1および第2のスイッチング素子S1,S2、第3および第4のスイッチング素子S3,S4、第5および第6のスイッチング素子S5,S6がそれぞれ直列に接続されている。そして、第1、第3および第5のスイッチング素子S1,S3,S5が、直流電源としてのバッテリ50のプラス端子側にシステムリレースイッチSW1を介して接続され、第2、第4および第6のスイッチング素子S2,S4,S6が、バッテリ50のマイナス端子側にシステムリレースイッチSW2を介して接続されている。
【0018】
システムリレースイッチSW1,SW2は、キースイッチのオン操作に連動して閉路するとともにキースイッチのオフ操作に伴い開路する。ここで、
図1において操作信号としてキースイッチの操作信号を含む。
【0019】
U相用の上下のアームを構成するスイッチング素子S1,S2の間の接続点は電動機60のU相端子に、V相用の上下のアームを構成するスイッチング素子S3,S4の間の接続点は電動機60のV相端子に、W相用の上下のアームを構成するスイッチング素子S5,S6の間の接続点は電動機60のW相端子に、それぞれ接続されている。そして、インバータ10により、電動機60の各相の巻線に交流電流が供給されて電動機60が駆動される。このように、インバータ回路20は、ブリッジ接続された複数のスイッチング素子S1〜S6を有する。
【0020】
バッテリ50の定格電圧は、例えば48ボルトであり、各スイッチング素子S1〜S6の耐圧は、75ボルト程度である。
インバータ回路20と電動機60との間には電流センサ70,71が設けられている。電流センサ70,71は電動機60に供給される3相の電流Iu,Iv,Iwのうちの2相(この実施形態ではU相およびW相)の電流Iu,Iwの電流値を検出する。
【0021】
インバータ回路20の入力側には、電解コンデンサ80がバッテリ50と並列に接続されている。第1、第3および第5のスイッチング素子S1,S3,S5が電解コンデンサ80のプラス端子側に接続され、第2、第4および第6のスイッチング素子S2,S4,S6が電解コンデンサ80のマイナス端子側に接続されている。ところで、コンデンサを等価的に考えると、理想的なコンデンサ成分C以外に、抵抗成分Rやインダクタ成分Lなどを含むものとして考えることができる。
図1において、電解コンデンサ80を、等価的に理想コンデンサCと抵抗成分Rが直列接続されたものとして表している。抵抗成分Rがコンデンサの等価直列抵抗(ESR)である。
【0022】
このように、インバータ回路20の入力側に、並列接続された直流電源としてのバッテリ50および電解コンデンサ80を備える。
また、電解コンデンサ80の温度を検出するコンデンサ温度センサ90が設けられる。温度検出手段としてのコンデンサ温度センサ90はコントローラ40に接続され、コントローラ40は電解コンデンサ80の温度(コンデンサ温度)を検知している。インバータ10は、低温環境下で電動機60を通常運転制御する場合に、インバータ10を構成する各素子や電動機60を保護するために、電動機60への出力電流を制限する機能を有している。例えば、電解コンデンサ80の温度(コンデンサ温度)が、低温(−20℃以下)となると、電動機60への出力電流が制限される。
【0023】
インバータ10は、電源回路45を備えている。電源回路45は、システムリレースイッチSW1,SW2を介してバッテリ50と接続されている。電源回路45はバッテリ50の電圧を入力して所定の電圧(例えば15ボルト)に降圧してコントローラ40に供給する。コントローラ40はマイコン41とメモリ42を備えている。マイコン41は電源回路45から電圧(例えば15ボルト)の供給を受けて動作する。
【0024】
メモリ42には電動機60を駆動するのに必要な各種制御プログラムおよびその実行に必要な各種データやマップが記憶されている。制御プログラムには、通常の電動機(モータ)60を回転駆動させるための制御プログラムや、低温時に暖機制御のために電動機60に直流を流すための制御プログラム等が含まれる。
【0025】
また、メモリ42には
図2に示すマップが記憶されている。
図2において横軸には電解コンデンサ80の温度をとり、縦軸には暖機時に流す最大電流値をとっている。
図2において、特性線L1,L2…が用意されている。特性線L1,L2…は点P1から右上に直線的に延びている。このとき、電解コンデンサ80の劣化度が大きいほど傾きが小さく(なだらかに)なっている。このマップを用いて、電解コンデンサ80の温度と電解コンデンサ80の劣化度から暖機時に流す最大電流値を求めることができる。
【0026】
コントローラ40は、駆動回路30を介して各スイッチング素子S1〜S6のゲートに接続されている。コントローラ40には電流センサ70,71が接続されている。そして、コントローラ40は、各センサ70,71の検出信号に基づいて、電動機60を目標出力となるように制御する制御信号を、駆動回路30を介して各スイッチング素子S1〜S6に出力する。そして、インバータ回路20はバッテリ50および電解コンデンサ80から供給される直流を適宜の周波数の3相交流に変換して電動機60に出力する。
【0027】
車両には車両制御ECU120が搭載されている。車両制御ECU120は、オペレータによる操作に伴い操作センサ(図示略)から出力される操作信号を入力して車両動作を制御する。コントローラ40は車両制御ECU120と接続されており、キースイッチの操作を検知することができるようになっている。インバータ10のコントローラ40、駆動回路30および電源回路45は制御基板110に搭載されている。
【0028】
マイコン41は、システムリレースイッチSW1,SW2の閉路時間(キースイッチのオン時間)を積算して、積算インバータオン時間としてメモリ42に記憶する。積算インバータオン時間は、電解コンデンサ80へのバッテリ50の積算の接続時間となる。即ち、接続時間は、コンデンサがバッテリ50に接続された時間の総和である。
【0029】
また、マイコン41は、インバータ10による電動機60の駆動時間(力行・回生時間)を積算して、積算モータ駆動時間としてメモリ42に記憶する。積算モータ駆動時間は、インバータ10における積算の駆動時間となる。即ち、駆動時間は、インバータ10が駆動された時間の総和である。
【0030】
次に、インバータ10の作用について説明する。
電解コンデンサ80は、通常温度であっても、長期間の使用により劣化が進んで、その内部抵抗が次第に大きくなることが知られている。そして、温度が低い低温環境下で使用される場合には、通常温度における内部抵抗に加えてさらに温度が低くなった分だけ内部抵抗が上昇するため、従来は、
図5の特性線L10で示すように、電解コンデンサの劣化度が最大となった場合に基づいた暖機制御を行っていた。しかしこのような制御では、電解コンデンサの劣化が進んでいない場合であっても暖機制御に長時間を要することになる。
【0031】
本実施形態では以下のようにして劣化度に応じて流す電流を決めている。
図3に示すように、マイコン41はキースイッチがオン操作されると、ステップ100でコンデンサ温度センサ90による電解コンデンサ80の温度を取り込んでステップ101で−20℃以下か否か判定する。電解コンデンサ80の温度が−20℃よりも高いと、マイコン41はステップ102に移行して通常制御を行う。
【0032】
マイコン41はステップ101において電解コンデンサ80の温度が−20℃以下であれば、暖機モードを設定する。暖機モードにおいてマイコン41はステップ103で積算インバータオン時間と積算モータ駆動時間とから電解コンデンサ80の劣化度(コンデンサ劣化度)を算出する。そして、マイコン41はステップ104において、コンデンサ劣化度と、コンデンサ温度センサ90による電解コンデンサ80の温度から、
図2のマップを用いて、最大電流値を算出する。つまり、電解コンデンサ80の劣化度に応じた最大電流値を算出する。具体的には、電解コンデンサ80の劣化が進んでいなければ大きな最大電流値が設定され、電解コンデンサ80の劣化が進んでいると小さな最大電流値が設定される。
【0033】
そして、マイコン41はステップ105で電解コンデンサ80の温度が−20℃以下であればステップ106に移行する。マイコン41はステップ106において、算出した最大電流値で電動機60の各相の巻線を介して電解コンデンサ80に供給するようにインバータ回路20のスイッチング素子S1〜S6を制御する(直流電流の制御を行う)。
【0034】
一方、ステップ105においてマイコン41は電解コンデンサ80の温度が−20℃よりも高くなると、ステップ102に移行して通常制御を行う。
このように、電解コンデンサ80の温度が極めて低かった場合(例えば、−40℃程度場合)には、インバータ10により電動機60に対し直流電流が供給され、電解コンデンサ80の温度を上昇させる。そして、電解コンデンサ80の温度が規定値(例えば、−20℃)、即ち、起動可能温度になると、通常運転制御が行われる。即ち、インバータ10により電動機60に対し交流電流が供給される。
【0035】
図4を用いて、最大電流値について説明する。
図4において横軸に電解コンデンサ80の温度をとり、縦軸に最大電流値をとっている。
【0036】
図5に特性線L10(
図4でも併記)で示すように、電解コンデンサ80の温度が所定温度(
図5では0℃)まで上昇する時間は、最大電流値に依存している。この最大電流値(L10)は、将来の電解コンデンサ80の劣化による内部抵抗の上昇分を含め決定している。よって、劣化前の状態の内部抵抗で決定する時間よりも長くなってしまう。
【0037】
ここで、本実施形態の
図4においては、電解コンデンサ80の劣化度に応じて最大電流値を規定している。つまり、電解コンデンサ80の劣化度が少ないほど大きな最大電流値を流すようにしている。これにより、電解コンデンサ80の劣化の進んでいないときには、最大電流値を大きくして暖機制御を早く終わらせることができる。
【0038】
具体的には、インバータ10の内部のコントローラ40により、積算インバータオン時間と積算のモータ駆動時間を算出する。コンデンサの劣化はシステムリレースイッチSW1,SW2のオン時の充電の際のコンデンサに電流が流れる時の昇温と、回生・力行を行う際にコンデンサに流れる時の発熱に起因することを考慮して、コンデンサ劣化度を推定する。そして、電解コンデンサ80の劣化度および温度から最大電流値を決定して暖機を早期に終了させることができる。
【0039】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)インバータの暖機制御装置の構成として、コンデンサ温度センサ90と、劣化度判定手段および暖機制御手段としてのマイコン41を備える。マイコン41はコンデンサの劣化度を判定し、コンデンサ温度センサ90により検出された電解コンデンサ80の温度が規定温度よりも低い時において、マイコン41は、コンデンサの劣化度およびコンデンサの温度に基づいて設定される直流電流を電動機60の巻線に供給するようにインバータ回路20のスイッチング素子S1〜S6を制御する。これにより、低温時において電解コンデンサ80の暖機を速やかに終了することができる。
【0040】
つまり、低温環境時においては、コンデンサ内部抵抗が常温時よりも大きくなるため、素子に暖機電流を流す際の電圧低下の度合いが大きくなる。また、電解コンデンサはその使用時間に応じて劣化が進み、劣化度に応じて内部抵抗が上昇し、この劣化によっても素子に暖機電流を流す際の電圧低下の度合いが大きくなる。低下した電圧値が制御基板110の設計値を下回ると、制御基板110に搭載されているマイコン41がリセットして、暖機制御が中断してしまうため従来は、各環境温度において素子に流すことができる暖気電流を、コンデンサの最大劣化度に基づいて制限していた。しかし、この方法ではコンデンサが所定温度まで上昇するのに長時間を要し、早期に運転したいというニーズに応えられない。これに対し本実施形態では、コンデンサの劣化度に基づいて設定される最適な直流電流を、電動機の巻線に供給するようにインバータ回路のスイッチング素子を制御しているので、低温時において電解コンデンサ80の暖機を速やかに終了することができる。
【0041】
(2)劣化度判定手段としてのマイコン41は、コンデンサが直流電源としてのバッテリ50に接続された時間の総和である接続時間と、インバータが駆動された時間の総和である駆動時間に基づいて、コンデンサの劣化度を判定する。よって、より正確に劣化度を算出することができる。
【0042】
(3)直流電流は、コンデンサの温度が低くなるほど低い電流値に設定されるので、よりよい。
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
【0043】
・コンデンサへのバッテリ50の積算の接続時間としての積算インバータオン時間と、インバータにおける積算の駆動時間としての積算モータ駆動時間の測定はインバータ10の内部においてコントローラ40で行ったが、これに代わり、インバータ10の外部において行ってもよい。具体的には、別のECU、例えは車両制御ECU120で行ってもよい。つまり、暖機制御装置を、車両制御ECU120を用いて構成してもよい。
【0044】
・電解コンデンサ80の温度を直接検出するコンデンサ温度センサ90を用いたが、コンデンサの温度を推定してもよい。例えば、制御基板110の温度を測定することにより電解コンデンサ80の温度を検出してもよい(推定してもよい)。