【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、イミノホスファゼニウム塩と活性水素化合物を減圧下、脱水して得られる活性種を用いてポリアルキレングリコールを製造する際に、開環重合反応時の水分量を特定の範囲に制御することにより、高い反応活性で効率的にポリアルキレングリコールを製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、少なくとも下記(A)工程と(B)工程とを経てなることを特徴とするポリアルキレングリコールの製造方法に関するものである。
(A)工程;下記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩1モルに対して活性水素化合物0.2〜10000モルを混合し、減圧下にて脱水を行うことにより活性種を生成する工程。
【0010】
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。なお、R
1とR
2が互いに結合して環構造を形成していても良いし、R
1同士又はR
2同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。X
−はヒドロキシアニオン、炭素数1〜4のアルコキシアニオン、カルボキシアニオン、炭素数2〜5のアルキルカルボキシアニオン、または炭酸水素アニオンを表す。)
(B)工程;(A)工程により得られた活性種1モルに対して、アルキレンオキシド20〜20000モルを用い、該活性種を構成するイミノホスファゼニウムイオン1モルに対して水分量が4.0モル以下となる反応条件下でアルキレンオキシドの開環重合反応を行う工程。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリアルキレングリコールの製造方法は、少なくも上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩1モルに対して活性水素化合物0.2〜10000モルを混合し、減圧下にて脱水を行うことにより活性種を生成する(A)工程、と(A)工程により得られた活性種1モルに対して、アルキレンオキシド20〜20000モルを用い、該活性種を構成するイミノホスファゼニウムイオン1モルに対して水分量が4.0モル以下となる反応条件下でアルキレンオキシドの開環重合反応を行う(B)工程、とを経てなるものである。
【0013】
本発明のポリアルキレングリコールの製造方法における(A)工程は、ポリアルキレングリコールを製造する際の活性種を生成する工程であり、上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩1モルに対して活性水素化合物0.2〜10000モルを混合し、減圧下にて脱水を行うものである。
【0014】
この際のイミノホスファゼニウム塩は、上記一般式(1)で示されるものである。そして、R
1及びR
2は、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。なお、R
1とR
2が互いに結合して環構造を形成していても良いし、R
1同士又はR
2同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。そして、炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、ビニル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、へプチル基、シクロヘプチル基、オクチル基、シクロオクチル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、シクロデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等を挙げることができる。また、R
1とR
2が互いに結合した環構造としては、ピロリジニル基、ピロリル基、ピペリジニル基、インドリル基、イソインドリル基等を挙げることができ、R
1同士又はR
2同士が互いに結合した環構造としては、例えば一方の置換基がエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基となって、他方の置換基と互いに結合し環構造を形成している構造を挙げることができる。
【0015】
そして、特に有機強塩基性を示し、ポリアルキレングリコールを製造する際の活性種として適したイミノホスファゼニウム塩となることから、R
1、R
2としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基であることが好ましい。
【0016】
また、上記一般式(1)におけるX
−としては、ヒドロキシアニオン、炭素数1〜4のアルコキシアニオン、カルボキシアニオン、炭素数2〜5のアルキルカルボキシアニオン、または炭酸水素アニオンを表す。ここで、炭素数1〜4のアルコキシアニオンとしては、例えばメトキシアニオン、エトキシアニオン、n−プロポキシアニオン、イソプロポキシアニオン、n−ブトキシアニオン、イソブトキシアニオン、t−ブトキシアニオン等が挙げられ、炭素数2〜5のアルキルカルボキシアニオンとしては、例えばアセトキシアニオン、エチルカルボキシアニオン、n−プロピルカルボキシアニオン、イソプロピルカルボキシアニオン、n−ブチルカルボキシアニオン、イソブチルカルボキシアニオン、t−ブチルカルボキシアニオン等が挙げられる。
【0017】
そして、特に強塩基性を示し、ポリアルキレングリコールを製造する際の活性種として適したイミノホスファゼニウム塩となることからX
−としては、ヒドロキシアニオンであることが好ましい。
【0018】
上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩の具体的例示としては、例えばテトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムメトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムエトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムプロポキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムイソプロポキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムブトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムアセトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムヒドロカーボネート、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムメトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムエトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムプロポキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムイソプロポキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムブトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムアセトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスホニウムヒドロカーボネート、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムメトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムエトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムプロポキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムイソプロポキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムブトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムアセトキシド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスホニウムヒドロカーボネート、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムメトキシド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムエトキシド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムプロポキシド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムイソプロポキシド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムブトキシド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムアセトキシド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスホニウムヒドロカーボネート等を例示でき、その中でも強塩基性を示すイミノホスファゼニウム塩となることからテトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスホニウムヒドロキシドが好ましい。
【0019】
そして、(A)工程においてイミノホスファゼニウム塩を取り扱う際には、単離して固体としての使用、溶剤等に分散した分散液としての使用、溶剤等に溶解した溶液としての使用を挙げることができ、その中でも、特にイミノホスファゼニウム塩の生産性や安定性に優れることから、特定の溶媒に溶解し溶液として使用することが好ましい。その際の溶剤としては、溶解度パラメータ10(cal/cm
3)
1/2以上であるプロトン性有機溶媒を少なくとも1種類以上含有する溶媒であることが好ましい。
【0020】
該溶解度パラメータ10(cal/cm
3)
1/2以上であるプロトン性有機溶媒としては、例えばメタノール(溶解度パラメータ14.5(cal/cm
3)
1/2)、エタノール(溶解度パラメータ12.7(cal/cm
3)
1/2)、n−プロパノール(溶解度パラメータ11.9(cal/cm
3)
1/2)、イソプロパノール(溶解度パラメータ11.5(cal/cm
3)
1/2)、n−ブタノール(溶解度パラメータ11.4(cal/cm
3)
1/2)、イソブタノール(溶解度パラメータ10.5(cal/cm
3)
1/2)、t−ブタノール(溶解度パラメータ10.6(cal/cm
3)
1/2)等のモノアルコール;エチレングリコール(溶解度パラメータ14.6(cal/cm
3)
1/2)、ジエチレングリコール(溶解度パラメータ12.1(cal/cm
3)
1/2)、プロピレングリコール(溶解度パラメータ12.6(cal/cm
3)
1/2)、1,4−ブタンジオール(溶解度パラメータ12.1(cal/cm
3)
1/2)、グリセリン(溶解度パラメータ16.5(cal/cm
3)
1/2)等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル(溶解度パラメータ11.4(cal/cm
3)
1/2)、エチレングリコールモノエチルエーテル(溶解度パラメータ10.5(cal/cm
3)
1/2)等の多価アルコール;蟻酸(溶解度パラメータ12.1(cal/cm
3)
1/2)、酢酸(溶解度パラメータ10.1(cal/cm
3)
1/2)等の脂肪酸;エチレンジアミン(溶解度パラメータ12.3(cal/cm
3)
1/2)、アニリン(溶解度パラメータ10.3(cal/cm
3)
1/2)、アセトニトリル(溶解度パラメータ11.9(cal/cm
3)
1/2)等の含窒素化合物等を挙げることができ、その中でも、入手及び溶媒の除去が容易で特に保存安定性にも優れるイミノホスファゼニウム塩溶液となることから、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4であるモノアルコール;アセトニトリルが好ましい。または、2種以上混合溶媒であってもよい。
【0021】
その際のイミノホスファゼニウム塩の溶液は、溶液の形態をとりうる範囲であれば如何なる濃度であってもよく、その中でもイミノホスファゼニウム塩の安定性に優れる溶液となることから、溶液中のイミノホスファゼニウム塩の濃度は1〜99重量%であることが好ましく、さらに20〜80重量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の(A)工程で用いられる活性水素化合物としては、活性水素を有する化合物であれば如何なるものでもよく、例えばヒドロキシ化合物、アミン化合物、カルボン酸化合物、フェノール化合物、チオール化合物等を挙げることができ、より具体的には、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール、シュークローズ、グルコース等のヒドロキシ化合物;エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、ピペリジン、ピペラジン等のアミン化合物;安息香酸、アジピン酸等のカルボン酸化合物;2−ナフトール、ビスフェノール等のフェノール化合物;エタンジチオール、ブタンジチオール等のチオール化合物等を挙げることができる。また、水酸基を有するポリエーテルポリオールを用いることも可能であり、例えばポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールグリセリンエーテル等を挙げることができ、この際のポリエーテルポリオールの分子量に特に制限はなく、その中でも低粘度で流動性に優れる分子量200〜3000のポリエーテルポリオールが好ましい。また、これら活性水素化合物は単独でも数種類を混合して用いても良い。
【0023】
(A)工程において活性種を調製する際のイミノホスファゼニウム塩と活性水素化合物の割合は、効率よくポリアルキレングリコールを製造することが可能な活性種となることから、イミノホスファゼニウム塩1モルに対して活性水素化合物0.2〜10000モルであり、1〜200モルとなる範囲であることが好ましい。ここで、活性水素化合物が0.2モル未満である場合、又は10000モルを越える場合得られる活性種は、反応効率に劣るものとなる。
【0024】
該(A)工程では、イミノホスファゼニウム塩と活性水素化合物から活性種を調製する際、減圧下とすることにより副生する水の脱水、場合によっては用いられた溶媒の除去を行うものである。また、その際には加熱条件下とすることが好ましい。そして、その際の減圧度としては、例えば6.65kPa以下、好ましく0.1〜6.65kPa、更に好ましくは2kPa以下、特に好ましくは、0.5kPa以下である。また、加熱条件とする際には、例えば70〜150℃の温度範囲であり、好ましくは80〜130℃の範囲である。
【0025】
(A)工程において、脱水、場合によっては溶媒除去に要する時間は、条件により異なり、中でも活性に優れる活性種を調製することが可能となることから活性種を構成するイミノホスファゼニウムイオン1モルに対して水分量が2.5モル以下となるまで継続することが好ましく、具体的には1〜10時間の範囲である。
【0026】
本発明のポリアルキレングリコールの製造方法は、(B)工程として、(A)工程により得られた活性種1モルに対して、アルキレンオキシド20〜20000モルを用い、該活性種を構成するイミノホスファゼニウムイオン1モルに対して水分量が4.0モル以下となる反応条件下でアルキレンオキシドの開環重合反応を行うものである。ここで、水分量が活性種を構成するイミノホスファゼニウムイオン1モルに対して4.0モルを越える場合、アルキレンオキシドの開環重合反応時に活性種の失活が起こりやすく、生産効率に劣るものとなる。
【0027】
該アルキレンオキシドとしては、例えば炭素数2〜20のアルキレンオキシドを挙げることができ、具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、ペンテンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等を挙げることができる。これらの中で、入手容易で工業的価値の高いことから、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましい。アルキレンオキシドは、単一で用いても2種以上を混合して用いても良い。2種以上を混合して用いる場合は、例えば第1のアルキレンオキシドを反応させた後、第2のアルキレンオキシドを反応させても良いし、2種以上のアルキレンオキシドを同時に反応させても良い。また、効率的に水分量の少ない反応性を維持できることから、水分量が10〜90ppmのアルキレンオキシドであることが好ましい。
【0028】
該(B)工程において、アルキレンオキシドの開環重合反応を行う際の圧力としては、任意であり、特に効率に優れるものとなることから0.05〜1.0MPaであることが好ましく、特に0.1〜0.6MPaであることが好ましい。また、反応温度についても任意であり、その中でも30〜150℃が好ましく、特に80〜130℃であることが好ましい。
【0029】
本発明のポリアルキレングリコールの製造方法においては、少なくとも該(A)工程と該(B)工程とを経てなるものであれば、回収工程等の付加的工程を経てなるものであってもよい。
【0030】
本発明のポリアルキレングリコールの製造方法により得られるポリアルキレングリコールは、水酸基価の異なるポリアルキレングリコールとすることが可能であり、得られるポリアルキレングリコールの水酸基価に特に制限は無く、その中でも、5〜500mgKOH/gの範囲が好ましく、特に10〜170mgKOH/gの範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明のポリアルキレングリコールの製造方法により得られるポリアルキレングリコールは、ポリウレタン原料、ポリエステル原料、界面活性剤原料、潤滑剤原料等に有用である。特に各種イソシアネート化合物と反応させることにより、断熱材等に使用される硬質フォームや、自動車のシート・クッション、寝具等に使用される軟質フォーム、接着剤、塗料、シーリング材、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーへの展開が期待される。