(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下では、まず、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液について説明し、次いで、本発明に係る、感光性ポリイミド樹脂組成物の現像処理方法及びパターン形成方法について説明する。
【0014】
<ポリイミド前駆体用現像液>
本発明に係るポリイミド前駆体用現像液は、(a)N,N,N’,N’−テトラメチルウレア及び(b)炭素数1〜5の低級アルコールを少なくとも含有する。
【0015】
[(a)N,N,N’,N’−テトラメチルウレア]
(a)N,N,N’,N’−テトラメチルウレアは、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液に現像性を付与する成分であり、従来のポリイミド前駆体用現像液に含有されているN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の双極性非プロトン性極性有機溶剤と同様に、ポリイミド前駆体の現像処理に用いることができる。また、(a)N,N,N’,N’−テトラメチルウレアは、ポリイミド前駆体用現像液に含有されることにより、このような現像液を用いた現像工程において、現像マージンを大きくすることができ、ポリイミド系樹脂膜の膜厚を減少しにくくすることができる。更に、(a)N,N,N’,N’−テトラメチルウレアは、高懸念物質(SVHC)に指定されておらず、毒性の低い化合物であるため、安全性が高い。
【0016】
(a)N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの配合量は、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液100質量部に対して10〜99質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜98質量部である。(a)N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの配合量が上記範囲内であると、得られる現像液は、優れた現像効果を有したものになりやすく、膜への浸透性及び膜の溶解性が効果的に発揮され、膜にクラックを生じさせにくい。
【0017】
[(b)炭素数1〜5の低級アルコール]
(b)炭素数1〜5の低級アルコールは、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液において、溶剤成分として用いられる。(b)炭素数1〜5の低級アルコールとしては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルキニル基を有するアルコール等が挙げられ、より具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、iso−アミルアルコール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等が挙げられ、特にメチルアルコール及びイソプロピルアルコールが好適である。(b)炭素数1〜5の低級アルコールは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
(b)炭素数1〜5の低級アルコールの配合量は、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液100質量部に対して1〜90質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜80質量部である。(b)炭素数1〜5の低級アルコールの配合量が上記範囲内であると、以下の点で好ましい。第一に、得られる現像液は、膜への浸透性が低下しにくいため、膜の溶解性が低下しにくく、膜にクラックを生じさせにくい。第二に、現像処理後の樹脂膜又は樹脂成形体は、白化しにくく、パターン形状が良好となりやすい。第三に、以上の第一及び第二の点から、現像処理がより容易なものとなる。
【0019】
[(c)グリコール及び/又はグリコールエーテル]
本発明に係るポリイミド前駆体用現像液は、(c)グリコール及び/又はグリコールエーテルを含有してもよい。本発明に係るポリイミド前駆体用現像液は、(c)グリコール及び/又はグリコールエーテルを含有すると、現像処理後の樹脂膜又は樹脂成形体の面内寸法均一性が向上しやすくなる。
【0020】
(c)グリコール及び/又はグリコールエーテルとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。(c)成分として用いられるグリコール及びグリコールエーテルの各々は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
HO−R
A−O−R
B (1)
上記式(1)中、R
Aは炭素数2〜5のアルキレン基を表し、R
Bは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族基を示す。芳香族基としては、例えば、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜11のアラルキル基等が挙げられる。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0022】
(c)グリコール及び/又はグリコールエーテルの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコール等のグリコール;エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ブチレングリコールメチルエーテル、ブチレングリコールエチルエーテル、ブチレングリコールプロピルエーテル、ブチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ブチレングリコールフェニルエーテル等のグリコールエーテルが挙げられる。
【0023】
(c)グリコール及び/又はグリコールエーテルの配合量は、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。(c)グリコール及び/又はグリコールエーテルの配合量が上記範囲内であると、第一に、(c)成分はポリアミド前駆体に対して貧溶剤となりにくいため、現像処理後の樹脂膜又は樹脂成形体は、白化しにくく、パターン形状が良好となりやすく、第二に、現像処理後の樹脂膜又は樹脂成形体の面内寸法均一性が向上しやすくなる。
【0024】
[その他の成分]
本発明に係るポリイミド前駆体用現像液は、現像性等に悪影響を及ぼさない範囲内で、上記以外の溶剤を含有してもよい。これらの溶剤としては、アルコール類、エステル類、炭化水素類、エーテル類等が好適なものとして挙げられる。
【0025】
[ポリイミド前駆体]
本明細書において、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液を適用する対象となるポリイミド前駆体とは、加熱や触媒による閉環(イミド化)により、ポリイミド樹脂を与える化合物をいう。ポリイミド前駆体は1種単独の化合物であっても、2種以上の混合物であってもよい。ポリイミド前駆体としては、例えば、ポリアミック酸が挙げられ、下記式(1)で表されるポリアミック酸が好ましい。
【化1】
(式中、R
1Aは4価の有機基であり、R
2Aは2価の有機基であり、nは括弧内に示される構成単位の繰り返し数である。
【0026】
式(1)中、R
1A及びR
2Aは、それぞれ、4価の有機基であり、その炭素数は2〜50が好ましく、2〜30がより好ましい。R
1A及びR
2Aは、それぞれ、脂肪族基であっても、芳香族基であっても、これらの構造を組合せた基であってもよい。R
1A及びR
2Aは、炭素原子及び水素原子の他に、ハロゲン原子、酸素原子、及び硫黄原子を含んでいてもよい。R
1A及びR
2Aが酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含む場合、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子は、含窒素複素環基、−CONH−、−NH−、−N=N−、−CH=N−、−COO−、−O−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、R
1A及びR
2Aに含まれてもよく、−O−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−S−、及び−S−S−から選択される基として、R
1A及びR
2Aに含まれるのがより好ましい。
【0027】
上記式(1)で表されるポリアミック酸を加熱や触媒によって閉環させることにより、下記式(2)で表されるポリイミド樹脂が得られる。
【化2】
(式中、R
1A及びR
2Aは式(1)と同義であり、nは括弧内に示される構成単位の繰り返し数である。)
【0028】
上記式(1)で表されるポリアミック酸は、溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させることにより得られる。ポリアミック酸の合成原料となるテトラカルボン酸二無水物、及びジアミンは、酸無水物基とアミノ基との反応によりポリアミック酸を形成可能なものであれば特に限定されない。
【0029】
ポリアミック酸を合成する際の、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0030】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0031】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、及び3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び4,4’−オキシジフタル酸二無水物が好ましい。
【0032】
ジアミンは、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。ジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0033】
芳香族ジアミンの好適な具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、及び2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及び2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0034】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、及びN,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、及びε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、及び乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、及びエチルセルソルブアセテート等のエーテル類が挙げられる。
【0036】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミック酸やポリイミド樹脂の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、及びN,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましく、安全性の観点から、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアがより好ましい。
【0037】
上記ポリイミド前駆体は、光の作用によりイミド化する感光性ポリイミド前駆体であることが好ましい。上記感光性ポリイミド前駆体は、光が当たった部分がイミド化して、現像液に対して不溶性となるので、ネガ型感光性ポリイミド前駆体である。感光性ポリイミド前駆体は、例えば、ポリイミド前駆体に感光剤を添加することにより得られる。感光剤としては、例えば、光塩基発生剤や光酸発生剤が挙げられる。光塩基発生剤又は光酸発生剤の存在下でポリイミド前駆体を露光することにより、光塩基発生剤又は光酸発生剤が分解して塩基又は酸を発生し、発生した塩基又は酸が、イミド化触媒として、ポリイミド前駆体に作用して、ポリイミド前駆体の閉環を促進する。
【0038】
光塩基発生剤としては、特に限定されず、公知のものも含めて、種々のものを使用できる。好適な光塩基発生剤としては、例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。下記式(3)で表される化合物は、光の作用により分解して、下記式(4)で表されるイミダゾール化合物を発生する。このイミダゾール化合物は、塩基性のイミド化触媒として、ポリイミド前駆体の閉環を促進する。
【化3】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、ホスフィノ基、スルホナト基、ホスフィニル基、ホスホナト基、又は有機基を示す。R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、又は有機基を示す。R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、又は有機基を示す。R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。)
【化4】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は、式(3)と同義である。)
【0039】
式(3)及び(4)において、R
1、R
2、又はR
3により示される有機基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。この有機基は、ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。この有機基は、通常は1価であるが、環状構造を形成する場合等には、2価以上となり得る。
【0040】
R
1及びR
2は、それらが結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。環状構造としては、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基等が挙げられ、縮合環であってもよい。
【0041】
R
1、R
2、又はR
3により示される有機基がヘテロ原子を含む場合、そのヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、珪素原子が挙げられる。ヘテロ原子を含む結合の具体例としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(−N=C(−R)−又は−C(=NR)−(ただし、Rは水素原子又は有機基を示す)。以下、同じ)、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合、アゾ結合等が挙げられる。中でも、イミダゾール化合物の耐熱性の観点から、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合が好ましい。
【0042】
R
1、R
2、又はR
3により示される、有機基以外の基に含まれる水素原子は、炭化水素基によって置換されていてもよい。この炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれでもよい。
【0043】
R
1、R
2、及びR
3としては、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、及びハロゲン原子が好ましく、水素原子がより好ましい。R
1、R
2、及びR
3がいずれも水素原子であると、式(4)で表されるイミダゾール化合物は、立体的な障害の少ない単純な構造となるため、イミド化触媒としてポリイミド前駆体に容易に作用することができる。
【0044】
式(3)において、R
4又はR
5により示される有機基としては、R
1、R
2、及びR
3について例示したものが挙げられる。この有機基は、R
1、R
2、及びR
3の場合と同様に、ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。
【0045】
R
4及びR
5としては、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数4〜13のシクロアルキル基、炭素数4〜13のシクロアルケニル基、炭素数7〜16のアリールオキシアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基、シアノ基を有する炭素数2〜11のアルキル基、水酸基を有する炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜11のアミド基、炭素数1〜10のアルキルチオ基、炭素数1〜10のアシル基、炭素数2〜11のエステル基(−COOR又は−OCOR(ただし、Rは炭化水素基を示す。))、炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換した炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換したベンジル基、シアノ基、メチルチオ基であることが好ましい。より好ましくは、R
4及びR
5の両方が水素原子であるか、又はR
4がメチル基であり、R
5が水素原子である。
【0046】
式(3)において、R
6、R
7、R
8、R
9、又はR
10により示される有機基としては、R
1、R
2、及びR
3において例示したものが挙げられる。この有機基は、R
1及びR
2の場合と同様に、ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。
【0047】
R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。環状構造としては、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基等が挙げられ、縮合環であってもよい。例えば、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、それらの2つ以上が結合して、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10が結合しているベンゼン環の原子を共有してナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン等の縮合環を形成してもよい。
【0048】
R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10としては、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数4〜13のシクロアルキル基、炭素数4〜13のシクロアルケニル基、炭素数7〜16のアリールオキシアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基、シアノ基を有する炭素数2〜11のアルキル基、水酸基を有する炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜11のアミド基、炭素数1〜10のアルキルチオ基、炭素数1〜10のアシル基、炭素数2〜11のエステル基、炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換した炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換したベンジル基、シアノ基、メチルチオ基、ニトロ基であることが好ましい。
【0049】
また、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10としては、それらの2つ以上が結合して、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10が結合しているベンゼン環の原子を共有してナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン等の縮合環を形成している場合も、吸収波長が長波長化する点から好ましい。
【0050】
式(3)で表される化合物において、式(4)で表されるイミダゾール化合物に由来する骨格を、アミンに由来する骨格に置換した化合物は、従来から感光性組成物に配合されており、光の作用によりアミンを発生する。式(3)で表される化合物は、従来から感光性組成物に配合されているこのような化合物について、露光時に発生するアミンに由来する骨格を、式(4)で表されるイミダゾール化合物に由来する骨格に置換することにより、得ることができる。
【0051】
上記式(3)で表される化合物の中では、下記式(5)で表される化合物が好ましい。
【化5】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は、式(3)及び(4)と同義である。R
4〜R
9は式(4)と同義である。R
11は、水素原子又は有機基を示す。R
6及びR
7が水酸基となることはない。R
6、R
7、R
8、及びR
9は、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していてもよく、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。)
【0052】
式(5)で表される化合物は、置換基−O−R
11を有するため、有機溶剤に対する溶解性に優れる。
【0053】
式(5)において、R
11が有機基である場合、その有機基としては、R
1、R
2、及びR
3において例示したものが挙げられる。この有機基は、ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、この有機基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。R
11としては、水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0054】
光酸発生剤としては、特に限定されず種々のものを使用できる。好適な光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩、ジアゾメタン誘導体、グリオキシム誘導体、ビススルホン誘導体、β−ケトスルホン誘導体、ジスルホン誘導体、ニトロベンジルスルホネート誘導体、スルホン酸エステル誘導体、及びN−ヒドロキシイミド化合物のスルホン酸エステル誘導体等の、公知の酸発生剤が挙げられる。
【0055】
<感光性ポリイミド樹脂組成物の現像処理方法>
本発明に係る、感光性ポリイミド樹脂組成物の現像処理方法は、ポリイミド前駆体が光の作用によりイミド化する感光性ポリイミド前駆体である場合において、少なくとも一部分が露光された感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物を、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液で現像処理する工程を含むものである。
【0056】
上記感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物としては、例えば、上記ポリイミド前駆体と上記感光剤とを含有するものが挙げられる。感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物における感光剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物における感光剤の含有量は、ポリイミド前駆体100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、1〜25質量部がより好ましい。上記感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物は、上記成分以外にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、消泡剤、着色剤、高解像添加剤、付加重合性化合物、シランカップリング剤、ポリイミド末端封止剤等の添加剤や、ポリイミド前駆体に関する説明中で挙げた溶剤が挙げられる。
【0057】
高解像添加剤としては、下記式で表されるものが例示される。
【化6】
【0058】
付加重合性化合物としては、下記式で表されるものが例示される。
【化7】
【0059】
シランカップリング剤としては、下記式で表されるものが例示される。
【化8】
【0060】
ポリイミド末端封止剤としては、下記式で表されるものが例示される。
【化9】
【0061】
感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物の少なくとも一部分を露光するために用いられる放射線としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、g線ステッパー、i線ステッパー等から放射される紫外線、電子線、レーザー光線等が挙げられる。露光量は、使用する光源や塗膜の膜厚等によっても異なるが、通常、1〜1000mJ/cm
2、好ましくは10〜500mJ/cm
2である。
【0062】
少なくとも一部分が露光された感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物のうち、露光部では、イミド化が進行し、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液に対して不溶化が起こる。一方、未露光部は、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液に可溶である。よって、上記感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物を、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液で現像処理することにより、未露光部は、上記現像液に溶解し除去され、露光部は、上記現像液に不溶のため、残存する。現像方法としては、例えば、シャワー現像法、スプレー現像法、浸漬現像法、パドル現像法等が挙げられる。
【0063】
<パターン形成方法>
本発明に係るパターン形成方法は、感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する形成工程と、上記塗膜又は成形体を選択的に露光する露光工程と、露光後の塗膜又は成形体を本発明に係る現像処理方法で現像する現像工程とを含むものである。以下、各工程について説明する。
【0064】
[形成工程]
形成工程では、感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物を被塗布体の表面に塗布したり、感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物を適当な成形方法で成形したりして、感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物からなる塗膜又は成形体を形成する。塗布方法としては、例えば、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法等が挙げられる。塗膜の厚さは、特に限定されない。典型的には、塗膜の厚さは、2〜100μmが好ましく、3〜50μmがより好ましい。塗膜の厚さは、塗布方法や感エネルギー性樹脂組成物の固形分濃度や粘度を調節することにより、適宜制御することができる。
【0065】
塗膜又は成形体の形成後、露光工程に移行する前に、塗膜又は成形体中の溶剤を除去する目的で、塗膜又は成形体を加熱してもよい。加熱温度や加熱時間は、感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物に含まれる成分に熱劣化や熱分解が生じない限り特に限定されない。塗膜又は成形体中の溶剤の沸点が高い場合、減圧下に塗膜又は成形体を加熱してもよい。
【0066】
[露光工程]
露光工程では、形成工程で得られる塗膜又は成形体を、所定のパターンに選択的に露光する。選択的露光は、通常、所定のパターンのマスクを用いて行われる。露光に用いられる放射線や露光量は、感光性ポリイミド樹脂組成物の現像処理方法の説明中で述べたのと同様である。
【0067】
[現像工程]
現像工程では、露光工程において所定のパターンに選択的に露光された塗膜又は成形体を本発明に係る現像処理方法で現像する。これにより、未露光部は、本発明に係るポリイミド前駆体用現像液に溶解し、上記選択的に露光された塗膜又は成形体から除去される。現像方法は、感光性ポリイミド樹脂組成物の現像処理方法の説明中で述べたのと同様である。
【0068】
[加熱工程]
本発明に係るパターン形成方法は、現像後の塗膜又は成形体を加熱する加熱工程を含んでもよい。これにより、露光工程を経ても塗膜又は成形体中にポリイミド前駆体が残存していた場合に、このようなポリイミド前駆体の閉環が更に促進され、イミド化がより十分なものとなる。加熱温度は、適宜、調整されるが、例えば、120〜350℃、好ましくは150〜350℃に設定される。このような範囲の温度でポリイミド前駆体を加熱することにより、ポリイミド樹脂の熱劣化や熱分解を抑制しつつ、イミド化をより十分なものとすることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例1〜40、比較例1〜21>
実施例及び比較例では、以下に示す(a)成分、(a’)成分、(b)成分、(c)成分、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン、溶剤、感光剤、及び添加剤を用いた。
・(a)成分
TMU:N,N,N’,N’−テトラメチルウレア
・(a’)成分
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
・(b)成分
MeOH:メチルアルコール
iPrOH:イソプロパノール
・(c)成分
EGBE:エチレングリコールモノブチルエーテル
DEG:ジエチレングリコール
・テトラカルボン酸二無水物
【化10】
・ジアミン
【化11】
・溶剤
TMU:N,N,N’,N’−テトラメチルウレア
・感光剤
【化12】
感光剤5:ビス(シクロペンタジエニル)−ビス−[2,6−ジフルオロ−3−(ピリ−1−イル)フェニル]チタン
【化13】
・添加剤
【化14】
【0071】
[ポリイミド前駆体用現像液の調製]
撹拌機、温度計、及び窒素導入管を備えた三口フラスコに、表1〜3に記載の種類及び量の、(a)成分又は(a’)成分と、(b)成分と、(c)成分とを入れ、室温で1時間撹拌混合して、ポリイミド前駆体用現像液を得た。
【0072】
[感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物の調製]
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた容量5Lのセパラブルフラスコに、表1〜3に記載の種類及び量の、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンと、溶剤と、添加剤3及び4とを投入した。窒素ガス導入管よりフラスコ内に窒素を導入し、フラスコ内を窒素雰囲気とした。次いで、フラスコの内容物を撹拌しながら、50℃で20時間撹拌して、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて、ポリアミック酸溶液を得た。
続いて、得られたポリアミック酸溶液10gに、撹拌しながら、表1〜3に記載の種類及び量の、感光剤と、添加剤1又は2とを加えて混合した後、フィルタ濾過して感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。
【0073】
[パターン形成方法]
得られた感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物をシリコンウエハ上に滴下し、スピンコートした。次に、ホットプレートを用いて、90℃で120秒加熱し、膜厚12μmの感光性ポリイミド前駆体塗膜を形成した。ラインアンドスペースパターンのマスクを用いて、i線ステッパーで0.5秒間、上記塗膜を露光した。露光された塗膜について、130℃のホットプレート上で60秒加熱した後、上記で調製したポリイミド前駆体用現像液を用いて60秒間パドル現像し、エタノールでリンスした。
【0074】
[評価]
(環境毒性)
2012年12月1日現在で、高懸念物質(SVHC)に指定されている物質が現像液に含まれていない場合、環境毒性が低い(○)と判定し、そのような物質が現像液に含まれている場合、環境毒性が高い(×)と判定した。結果を表1〜3に示す。
【0075】
(現像残膜)
スピンコート後の膜厚に対する、i線ステッパーで露光し、60秒間現像後の膜厚の比率を算出した。上記比率が85%以上であった場合を良(◎)と判定し、80%以上85%未満であった場合をやや良(○)と判定し、80%未満であった場合を不良(×)と判定した。結果を表1〜3に示す。
【0076】
(現像マージン)
i線ステッパーで露光し、60秒間現像した後で、形成されたラインの幅を測定し、最小の線幅を求めた。上記最小の線幅が10μm以下であった場合を良(◎)と判定し、10μm超15μm以下であった場合をやや良(○)と判定し、15μm以上であった場合を不良(×)と判定した。結果を表1〜3に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表1〜3に示すとおり、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアを含有する実施例1〜40のポリイミド前駆体用現像液は、環境毒性が低く、現像工程におけるポリイミド系樹脂膜の膜厚の減少が小さく、現像マージンを大きくすることができた。
一方、N−メチル−2−ピロリドンを含有する比較例1〜21のポリイミド前駆体用現像液は、環境毒性が高く、現像工程におけるポリイミド系樹脂膜の膜厚の減少が大きくなる場合や現像マージンが小さくなる場合があった。