(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ディーゼルエンジンにおいては、エンジンの回転数と負荷に応じた燃料噴射量を設定するのが一般的である。また排気循環装置を備えたエンジンにおいては、燃料噴射量と共に排気循環ガス(EGRガス)の流量も適宜制御されている。そして、EGRガスの流量を適切に制御するために、所定のタイミングで、吸気通路(例えば、吸気マニホールド)内の酸素量の推定が行われることがある。すなわち、吸気通路の推定酸素量に応じて、EGRガスの流量調整が行われることがある。
【0003】
ここで、吸気通路(吸気マニホールド)内の酸素量は、EGRガス(排ガス)中の酸素濃度を含む各種情報に基づいて推定される。EGRガス中の酸素濃度は、例えば、目標噴射量等から計算により求められる。このように計算で求めた場合、時間的な遅れが生じることはないが、酸素濃度の絶対値の信頼性が低いという問題がある。このため、EGRガス(排ガス)中の酸素濃度は、排気通路に設けた酸素濃度センサによって検出することが好ましい。
【0004】
酸素濃度センサは、一般的に、排気循環通路(EGR通路)よりも下流側の排気通路に設けられる。このため、排ガスが筒内から排出されてから酸素濃度センサによって酸素濃度が検出されるまでには、所定の時間を要する。つまり筒内から排ガスが排出されてから酸素濃度センサによる酸素濃度の検出までには、時間的な遅れ(検出遅れ)が生じてしまう。その結果、酸素濃度センサによって検出された酸素濃度と、EGRガスの実際の酸素濃度との間で誤差が生じてしまう虞がある。
【0005】
このため、EGRガス中の酸素濃度は、酸素濃度センサによって検出された酸素濃度を適宜補正して算出する必要がある。例えば、特許文献1に記載の発明では、排気マニホールドよりも下流側に設けられた酸素濃度センサによって検出された酸素濃度から排気マニホールド位置での酸素濃度を推定している。またこの結果に基づいてシリンダに流入する燃焼前の吸気の酸素量を算出している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明のように酸素濃度センサによって検出された酸素濃度から排気マニホールド位置での酸素濃度(排気酸素濃度)を推定することによっても、排気酸素濃度を比較的正確に求めることができ、吸気通路に供給されるEGRガスの酸素濃度も比較的正確に求めることができるかもしれない。
【0008】
しかしながら、上述した検出遅れが比較的長くなると、EGRガスの酸素濃度を正確に求めることができない虞がある。例えば、筒内から排ガスが排出されてから吸気マニホールドにEGRガスが供給されるまでには、時間的な遅れ(輸送遅れ)が生じる。上述した検出遅れが、この輸送遅れよりも長くなると、特許文献1に記載の方法では、排気マニホールド位置での酸素濃度を正確に推定することができない虞があり、それに伴い、EGRガスの酸素濃度を正確に求めることができなくなる虞がある。
【0009】
なお、上記検出遅れは、酸素濃度センサを設ける位置によっても変化するが、例えば、EGRガスを吸気通路に大量に導入し、排気通路を流れる排ガスの量が少なくなると、検出遅れが長くなる。したがって、酸素濃度センサの位置に拘わらず、エンジンの運転状態によっても、EGRガスの酸素濃度を正確に求めることができなくなる虞がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、吸気通路に供給されるEGRガスの酸素濃度を正確に求めることができ、その結果に基づいてEGRガスの流量を適切に制御することができるエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、エンジンの排気通路と吸気通路とを繋ぐ排気循環通路と、該排気循環通路を通過する排気の流量を調整する流量調整手段と、を有する排気循環装置を備えたエンジンの制御装置であって、前記排気通路と前記排気循環通路との分岐部分よりも排気通路下流側に設けられ、排気酸素濃度を検出する検出手段と、目標燃料噴射量に基づいて前記エンジンの燃焼室で生成される排気酸素濃度を推定する第1推定手段と、前記燃焼室から前記検出手段に排気が到達するまでの
排気の輸送時間である検出遅れ時間を演算する検出遅れ時間演算手段と、前記第1推定手段の推定結果を、前記検出手段の検出結果及び前記検出遅れ時間に基づいて補正する補正手段と、前記補正手段の補正結果に基づいて、前記吸気通路と前記排気循環通路との分岐部分よりも吸気通路下流側の吸気酸素濃度を推定する第2推定手段と、該第2推定手段の推定結果に基づいて前記流量調整手段を制御する排気循環制御手段と、を備えることを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0012】
かかる第1の態様では、還流される排気濃度の検出遅れがある場合でも排気が混合した吸気の酸素濃度を正確に推定することができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様のエンジンの制御装置において、前記燃焼室で生成された排気が前記排気循環通路を介して前記吸気通路に到達するまでの時間である輸送遅れ時間を演算する輸送遅れ時間演算手段を備え、前記検出遅れ時間が前記輸送遅れ時間以上である場合には、前記補正手段が前記第1推定手段の推定結果を補正すると共に、前記第2推定手段が、前記補正手段の補正結果に基づいて前記吸気酸素濃度を推定し、前記検出遅れ時間が前記輸送遅れ時間よりも短い場合には、前記第2推定手段が前記検出手段によって検出された排気酸素濃度に基づいて
前記補正手段による前記第1推定手段の推定結果の補正を行わず前記吸気酸素濃度を推定することを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様のエンジンの制御装置において、前記補正手段は、前記検出遅れ時間が前記輸送遅れ時間に比べて所定時間以上長い場合にのみ、前記第1推定手段の推定結果を補正することを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0015】
かかる第2及び第3の態様では、検出遅れ時間と輸送遅れ時間との関係に応じて、吸気酸素濃度の推定方法を変更するようにしたので、排気が混合した吸気の酸素濃度をさらに正確に推定することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1から3の何れか一つの態様のエンジンの制御装置において、前記補正手段は、前記第1推定手段によって推定された排気酸素濃度を前記検出遅れ時間に基づいて補正して第1の補正値を算出し、該第1の補正値と前記検出手段によって検出された排気酸素濃度との差分に基づいて前記第1推定手段によって推定された排気酸素濃度を補正して第2の補正値を算出し、前記第2推定手段は、前記第2の補正値に基づいて前記吸気酸素濃度を算出することを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0017】
かかる第4の態様では、吸気酸素濃度をより適切に算出することができる。
本発明の第5の態様は、エンジンの排気通路と吸気通路とを繋ぐ排気循環通路と、該排気循環通路を通過する排気の流量を調整する流量調整手段と、を有する排気循環装置を備えたエンジンの制御装置であって、前記排気通路と前記排気循環通路との分岐部分よりも排気通路下流側に設けられ、排気酸素濃度を検出する検出手段と、目標燃料噴射量に基づいて前記エンジンの燃焼室で生成される排気酸素濃度を推定する第1推定手段と、前記燃焼室から前記検出手段に排気が到達するまでの時間である検出遅れ時間を演算する検出遅れ時間演算手段と、前記第1推定手段の推定結果を、前記検出手段の検出結果及び前記検出遅れ時間に基づいて補正する補正手段と、前記補正手段の補正結果に基づいて、前記吸気通路と前記排気循環通路との分岐部分よりも吸気通路下流側の吸気酸素濃度を推定する第2推定手段と、該第2推定手段の推定結果に基づいて前記流量調整手段を制御する排気循環制御手段と、前記燃焼室で生成された排気が前記排気循環通路を介して前記吸気通路に到達するまでの時間である輸送遅れ時間を演算する輸送遅れ時間演算手段を備え、前記検出遅れ時間が前記輸送遅れ時間以上である場合には、前記補正手段が前記第1推定手段の推定結果を補正すると共に、前記第2推定手段が、前記補正手段の補正結果に基づいて前記吸気酸素濃度を推定し、前記検出遅れ時間が前記輸送遅れ時間よりも短い場合には、前記第2推定手段が前記検出手段によって検出された排気酸素濃度に基づいて前記補正手段による前記第1推定手段の推定結果の補正を行わず前記吸気酸素濃度を推定することを特徴とするエンジンの制御装置にある。
かかる第5の態様では、環流される排気濃度の検出遅れがある場合でも排気が混合した吸気の酸素濃度を正確に推定することができる。また検出遅れ時間と輸送遅れ時間との関係に応じて、吸気酸素濃度の推定方法を変更するようにしたので、排気が混合した吸気の酸素濃度をさらに正確に推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
かかる本発明によれば、吸気酸素濃度を正確に推定することができるため、この推定結果に基づいてEGRガス(例えば、高圧EGRガス)の流量を調整することで、吸気酸度濃度を適正濃度(予め設定された目標酸素濃度)に近づけることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
まずは本発明の一実施形態に係るエンジンの構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン10は、直列4気筒のディーゼルエンジンであり、4つの気筒(燃焼室)11が形成されたエンジン本体12を備える。各気筒11の吸気ポート(図示なし)には、吸気マニホールド13が接続され、吸気マニホールド13には吸気管(吸気通路)14が接続されている。一方、各気筒11の排気ポート(図示なし)には、排気マニホールド15が接続され、排気マニホールド15には排気管(排気通路)16が接続されている。
【0022】
また燃料を噴射するためのインジェクタ(燃料噴射弁)17が各気筒11に対応して設けられており、各インジェクタ17はそれぞれコモンレール18に接続されている。コモンレール18には、図示しないがサプライポンプ(高圧ポンプ)を介して燃料タンクに接続されている。このサプライポンプによって燃料タンクから燃料が圧送され、コモンレール18内の高圧の燃料がインジェクタ17から各気筒11内に噴射されるようになっている。
【0023】
吸気管14及び排気管16の途中には、ターボチャージャ(過給機)19が設けられている。ターボチャージャ19は、エンジン本体12からの排ガスが流れ込むと、排ガスの流れによってタービンが回転し、このタービンの回転に伴ってコンプレッサが回転して吸気管14からターボチャージャ19内に空気が吸い込まれて加圧されるように構成されている。
【0024】
ターボチャージャ19の上流側の吸気管14には、エアクリーナ20と、エアフローセンサ21と、第1のスロットルバルブ22と、が設けられている。エアクリーナ20には吸気の湿度を検出する湿度センサ23が設けられている。なお第1のスロットルバルブ22は、エアクリーナ20を通過した新気の量(新気量)を調整すると共に、この調整によって、後述する低圧EGR管(低圧EGR通路)を介して吸気管14に循環される排ガス量(低圧EGRガス量)を間接的に調整する。
【0025】
ターボチャージャ19の下流側の吸気管14には、ターボチャージャ19での加圧により温度が上昇した吸気を冷却するインタークーラ24が配されている。インタークーラ24の下流側の吸気管14には、電動アクチュエータの駆動により吸気管14を開閉する第2のスロットルバルブ25が設けられている。
【0026】
第2のスロットルバルブ25は、インタークーラ24を通過した吸気量(新気量+低圧EGRガス量)を調整するとともに、この調整によって、後述する高圧EGR管(高圧EGR通路)を介して吸気管14に導入される排ガス量(高圧EGRガス量)を間接的に調整する。
【0027】
吸気管14の第2のスロットルバルブ25よりも下流側には、ターボチャージャ(タービン)19よりも上流側の排ガス(高圧EGRガス)が環流する高圧EGR管26の一端が接続されている。高圧EGR管26の他端は排気管16のターボチャージャ19よりも上流側に接続されている。高圧EGR管26には高圧EGRクーラ27が設けられ、高圧EGR管26の吸気管14との接続部分には、流量調整手段としての高圧EGR弁28が設けられている。この高圧EGR弁28が開弁することで、排気管16のターボチャージャ19よりも上流側を流れる高圧の排ガスの一部が高圧EGR管26に流れ込み、高圧EGRクーラ27によって冷却された後、吸気管14に供給されるようになっている。
【0028】
なお排気管16のターボチャージャ19よりも下流側には、排気浄化用触媒であるディーゼル酸化触媒(以下、単に「酸化触媒」という)32と、ディーゼル微粒子捕集フィルタ33とが上流側から順に配されている。またディーゼル微粒子捕集フィルタ33の下流側には、検出手段としての空燃比センサ34が設けられている。なお検出手段としての空燃比センサ34を設ける位置は、排気管(排気通路)16と高圧EGR管(排気循環通路)26との分岐部分よりも排気管16の下流側であれば、特に限定されるものではない。
【0029】
さらに、排気管16のターボチャージャ19よりも下流側、本実施形態ではディーゼル微粒子捕集フィルタ33の下流側には、低圧の排ガスの一部(低圧EGRガス)が環流する低圧EGR管35の一端が接続されている。低圧EGR管35の他端は、ターボチャージャ19と第1のスロットルバルブ22との間で、吸気管14に接続されている。この低圧EGR管35には、高圧EGR管26の場合と同様に、低圧EGRクーラ36及び低圧EGR弁37が設けられている。そして低圧EGR弁37が開弁することで、排気管16のターボチャージャ19よりも下流側を流れる低圧の排ガスの一部(低圧EGRガス)が低圧EGRクーラ36によって冷却されて吸気管14に供給されるようになっている。
【0030】
また低圧EGR管35の両端部には、差圧センサ38が設けられている。この差圧センサ38は、吸気管14のターボチャージャ19よりも上流側の圧力と、排気管16のターボチャージャ19よりも下流側の圧力との差圧を検出する。すなわち差圧センサ38の検出結果から低圧EGR管35を流れる低圧EGRガスの流速や流量等が求められる。
【0031】
このようなエンジン10は、ECU(電子コントロールユニット)40によって制御されている。エンジン10の制御装置を構成するECU40は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等で構成され、上記の各種センサからの信号に基づいてエンジン10の総合的な制御を行う。
【0032】
ECU40の入力側には、上述したエアフローセンサ21、湿度センサ23、空燃比センサ34、差圧センサ38の他、エンジン本体12のクランク角を検出するクランク角センサ等の各種センサ類が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力される。一方、ECU40の出力側には、インジェクタ17、第1及び第2のスロットルバルブ22,25、高圧EGR弁28及び低圧EGR弁37等の各種出力デバイスが接続されている。これら各種出力デバイスには、上記のような各種センサ類によって検出された検出情報に基づきECU40で演算された燃料噴射量、バルブ開度等の各種情報がそれぞれ出力される。
【0033】
ここで本実施形態に係るエンジン10の制御装置では、所定のタイミングで、吸気マニホールド13内の酸素量を推定、つまり燃焼室11に導入される吸気に含まれる酸素量を推定し、この推定結果に基づいて高圧EGR弁28を制御する。すなわち高圧EGR弁28を制御して吸気管14に供給される高圧EGRガスの流量を調整する。結果として、吸気マニホールド13内の酸素量が適正な量に調整されることになる。
【0034】
吸気マニホールド13内の酸素量は、例えば、エアフローセンサ21の検出結果、空気中酸素濃度(定数)、EGRガス量(高圧EGRガス量及び低圧EGRガス量)、EGRガス中の酸素濃度等、に基づいて推定される。またEGRガス(高圧EGRガス及び低圧EGRガス)中の酸素濃度は、空燃比センサ34の検出結果に基づいて推定されるが、高圧EGRガスの酸素濃度は、空燃比センサ34による酸素濃(空燃比)の検出遅れ、及び吸気マニホールド13への輸送遅れ、に起因して大きなズレが生じる虞がある。
【0035】
そこで、本発明では、以下に説明するように、上記「検出遅れ」及び「輸送遅れ」を考慮して高圧EGRガスの酸素濃度を推定することで、推定結果の正確性を高めている。これにより、高圧EGRガスの流量を高精度に調整することができ、その結果、吸気マニホールド13内の酸素量を高精度に調整することができる。
【0036】
具体的には、
図2に示すように、エンジン10の制御装置を構成するECU40は、排気酸素濃度推定手段(第1推定手段)41と、遅れ時間演算手段(検出遅れ時間演算手段及び輸送遅れ時間演算手段)42と、推定排気酸素濃度補正手段(補正手段)43と、吸気酸素濃度推定手段(第2推定手段)44と、排気循環制御手段45と、を備えている。
【0037】
排気酸素濃度推定手段41は、例えば、空燃比センサ34で検出された排気空燃比に応じて設定された目標噴射量に基づいて、排気マニホールド15における排ガス、すなわち筒内(燃焼室)11で生成される排気の酸素濃度(推定排気酸素濃度:O2ex_est)を推定する。
【0038】
遅れ時間演算手段42は、排気マニホールド15から空燃比センサ34に排ガスが到達するまでの時間、すなわち筒内(燃焼室)11から空燃比センサ34に排ガスが到達するまでの時間である検出遅れ時間を演算する。上述のように空燃比センサ34はディーゼル微粒子捕集フィルタ33の下流側に、排気マニホールド15とは離れた位置に設けられている。このため各燃焼室11から排気マニホールド15に排出された排ガスが空燃比センサ34に到達するにはある程度の時間がかかる。遅れ時間演算手段42は、この時間を「検出遅れ時間Dly_sn」として求める。
【0039】
なお「検出遅れ時間Dly_sn」は、例えば、排気管16を流れる排ガスの流量(質量流量)、温度、圧力、等に基づいて演算される。排ガスの流量、温度、圧力等は、センサによって検出してもよいし、推定により求めるようにしてもよい。
【0040】
また本実施形態では、遅れ時間演算手段42は、「検出遅れ時間Dly_sn」と共に、排気マニホールド15から高圧EGR管(排気循環通路)26を介して吸気マニホールド13に高圧EGRガス(排気循環ガス)が到達するまでの時間、すなわち筒内(燃焼室)11で生成された排気が高圧EGR管(排気循環通路)26を介して吸気マニホールド(吸気通路)13に到達するまでの時間である輸送遅れ時間である「輸送遅れ時間Dly_egr」を演算する。
【0041】
「輸送遅れ時間Dly_egr」は、「検出遅れ時間Dly_sn」と同様に求められる。例えば、高圧EGR管26を流れる高圧EGRガスの流量(質量流量)、温度、圧力等に基づいて演算される。高圧EGRガスの流量、温度、圧力等は、センサによって検出してもよいし、推定により求めるようにしてもよい。
【0042】
なお、本実施形態では遅れ時間演算手段42が「検出遅れ時間Dly_sn」を検出する検出遅れ時間演算手段と、「輸送遅れ時間Dly_egr」を演算する輸送遅れ時間演算手段とを兼ねるようにしたが、勿論、検出遅れ時間演算手段と輸送遅れ時間演算手段とを独立して設けた構成としてもよい。
【0043】
推定排気酸素濃度補正手段43は、排気酸素濃度推定手段41の推定結果である推定排気酸素濃度:O2ex_estを、空燃比センサ34の検出結果である「排気酸素濃度O2ex_sn」と、遅れ時間演算手段42による演算結果である「検出遅れ時間Dly_sn」とに基づいて補正して、補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′を算出する。
【0044】
具体的には、
図3(a)に示すように、まず排気酸素濃度推定手段41によって推定された排気酸素濃度O2ex_estを、上記「検出遅れ時間Dly_sn」に基づいて補正して遅れ考慮推定排気酸素濃度O2ex_est_dlyを算出する。つまり排気酸素濃度O2ex_estを、検出遅れ時間Dly_sn分だけ(図中右側に)移動させる。そして、空燃比センサ34によって検出された排気酸素濃度O2ex_snと、遅れ考慮推定排気酸素濃度O2ex_est_dlyとの差分に基づいて補正値dO2ex_estを算出する。具体的には、遅れ考慮推定排気酸素濃度O2ex_est_dlyは下記式(1)から算出され、上記補正値dO2ex_estは、下記式(2)から算出される。
【0045】
O2ex_est_dly(n)=O2ex_est(n-Dly_sn) (1)
n:現演算時刻
【0046】
dO2ex_est(n)=k×{O2ex_sn(n)-O2ex_est_dly(n)}+(1-k)×dO2ex_est(n-1) (2)
k:フィルタ係数 n:現演算時刻 n-1:前回演算時刻
【0047】
そして、このように算出された遅れ考慮推定排気酸素濃度O2ex_est_dlyと空燃比センサ34によって検出された排気酸素濃度O2ex_snとの差分から算出した補正値dO2ex_estに基づいて、
図3(b)に示すように、排気酸素濃度推定手段41によって推定された推定排気酸素濃度O2ex_estを補正して、補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′を算出する。
【0048】
また吸気酸素濃度推定手段44は、推定排気酸素濃度補正手段43によって算出された補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′に基づいて、吸気マニホールド13における吸気酸素濃度、つまり吸気管(吸気通路)14と高圧EGR管(排気循環通路)26との分岐部分よりも吸気管(吸気通路)14の下流側の吸気酸素濃度を推定する。
【0049】
排気循環制御手段45は、吸気酸素濃度推定手段44の推定結果に基づいて、例えば、高圧EGR弁28の開度を調整して、吸気マニホールド13に供給される高圧EGRガスの流量を制御する。すなわち排気循環制御手段45は、吸気マニホールド(吸気通路)13における吸気酸素濃度が適正濃度(予め設定された目標酸素濃度)となるように、高圧EGR弁28を制御して高圧EGRガスの流量を制御する。
【0050】
以上のように、本実施形態では、推定排気酸素濃度補正手段43が算出した補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′に基づいて、吸気酸素濃度推定手段44が、吸気マニホールド13内の酸素濃度(吸気酸素濃度)を推定するようにした。これにより吸気酸素濃度を正確に推定することができる。したがって、この推定結果に基づいて高圧EGRガスの流量を調整することで、吸気マニホールド13内の酸度濃度を適正濃度(予め設定された目標酸素濃度)に近づけることができる。
【0051】
なお本実施形態では、検出遅れ時間Dly_snの長さに拘わらず、推定排気酸素濃度補正手段43が算出した補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′に基づいて、吸気酸素濃度推定手段44が吸気酸素濃度を推定するようにしたが、検出遅れ時間Dly_snに応じて吸気酸素濃度の推定方法を変更するようにしてもよい。
【0052】
上述のように遅れ時間演算手段42は、「検出遅れ時間Dly_sn」及び「輸送遅れ時間Dly_egr」を演算している。
図4(a)に示すように、この検出遅れ時間Dly_snが輸送遅れ時間Dly_egr以上である場合(期間T1)には、上述のように推定排気酸素濃度補正手段43が補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′を算出すると共に、吸気酸素濃度推定手段44が、補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′に基づいて吸気酸素濃度を推定し、検出遅れ時間Dly_snが輸送遅れ時間Dly_egrよりも短い場合(期間T1以外)には、吸気酸素濃度推定手段44が、空燃比センサ34によって検出された排気酸素濃度O2ex_snに基づいて吸気酸素濃度を推定するようにしてもよい。
【0053】
検出遅れ時間Dly_snが輸送遅れ時間Dly_egr以上である場合(期間T1)、つまり高圧EGRガスが吸気マニホールド13に到達した後に空燃比センサ34によって排ガスの酸素濃度(排気酸素濃度)が検出される場合には、空燃比センサ34の検出結果に基づいて吸気マニホールド13の酸素濃度を推定しても、正確な推定結果が得られない。このため、上述したように推定排気酸素濃度を補正した補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′に基づいて吸気酸素濃度を推定することが好ましい。
【0054】
一方、検出遅れ時間Dly_snが輸送遅れ時間Dly_egrよりも短い場合(期間T1以外)、つまり高圧EGRガスが吸気マニホールド13に到達する前に空燃比センサ34によって排ガスの酸素濃度(排気酸素濃度)が検出される場合には、空燃比センサ34の検出結果に基づいて吸気マニホールド13の酸素濃度を推定することが好ましい。上述のように補正後推定排気酸素濃度度O2ex_est′からも吸気酸素濃度を推定することはできるものの、補正値(補正後推定排気酸素濃度)を用いた場合、誤差が生じやすいからである。
【0055】
このため、検出遅れ時間Dly_snが輸送遅れ時間Dly_egr以上である場合であっても、例えば、
図4(b)に示すように、検出遅れ時間Dly_snと輸送遅れ時間Dly_egrとの差が所定値D1以内である場合(期間T2)には、空燃比センサ34の検出結果に基づいて吸気マニホールド13の酸素濃度を推定するようにしてもよい。すなわち、推定排気酸素濃度補正手段43は、検出遅れ時間Dly_snと輸送遅れ時間Dly_egrとの差が所定値D1よりも大きい場合(期間T3)にのみ、補正後推定排気酸素濃度O2ex_est′を算出するようにしてもよい。これにより、吸気マニホールド13の酸素濃度(吸気酸素濃度)をより正確に推定することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【0057】
例えば、上述の実施形態では、高圧EGRガスの流量を制御する例を説明したが、勿論、本発明は、低圧EGRガスの制御にも適用することができる。また上述の実施形態では、高圧EGR通路及び低圧EGR通路を備えた構成を例示したが、少なくとも何れか一方が設けられていればよい。