特許第6094840号(P6094840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094840
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20170306BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170306BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/134
   H01M4/48
   H01M4/62 Z
   H01M4/139
   H01M10/052
   H01M10/0567
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-538897(P2015-538897)
(86)(22)【出願日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】JP2014004844
(87)【国際公開番号】WO2015045350
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2015年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-200451(P2013-200451)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-11667(P2014-11667)
(32)【優先日】2014年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】大島 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
(72)【発明者】
【氏名】合田 信弘
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−135104(JP,A)
【文献】 特開2010−160984(JP,A)
【文献】 特開2010−160982(JP,A)
【文献】 特開2013−114882(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/128805(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/069074(WO,A1)
【文献】 特開2009−302009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、
集電体と、
該集電体の表面に配置され、負極活物質と有機溶剤系バインダーとを含む負極活物質層と、
該負極活物質層の表面に配置され、セラミックス粉末と水系バインダーとを含み、細孔を有する被覆層と、
を有し、
前記細孔の直径は50nm以上2μm以下であり、
前記被覆層におけるセラミックス粉末と水系バインダーの質量比は、88:12〜99:1であり、
前記水系バインダーは、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つであり、
前記被覆層の厚みは2μm以上10μm以下であり、
前記セラミックス粉末は、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO、SiC、AlN、BN、タルク、マイカ、カオリナイト、CaO、ZnO及びゼオライトから選択されることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記セラミックス粉末の平均粒径D50は100nm以上1μm以下である請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質はSiまたはSiO(0.3≦x≦1.6)を含む請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記有機溶剤系バインダーはポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドから選ばれる1つである請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記非水電解液はLiPF(Cからなる添加剤を含む請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
記被覆層はさらに疎水部を有するポリカルボン酸からなる分散剤を含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記ポリカルボン酸は、スチレンとアクリル酸の共重合物からなり、前記ポリカルボン酸の分子量は5000以上50万以下である請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記被覆層の厚みムラは2μm以下である請求項6又は7に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記被覆層内の前記分散剤の含有量が、前記セラミックス粉末を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下である請求項6〜8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記セラミックス粉末の平均粒径D50は100nm以上1μm以下である請求項6〜9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
正極と、負極と、非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、
集電体と、
該集電体の表面に配置され、負極活物質と有機溶剤系バインダーとを含む負極活物質層と、
該負極活物質層の表面に配置され、セラミックス粉末と水系バインダーとを含み、細孔を有する被覆層と、
を有し、
前記水系バインダーはポリビニルアルコールを含み、
前記被覆層はさらにスチレンとアクリル酸の共重合物を含み、
前記セラミックス粉末はAl、SiO、TiO、ZrO、MgO、SiC、AlN、BN、タルク、マイカ、カオリナイト、CaO、ZnO及びゼオライトから選択され、
前記細孔の直径は50nm以上2μm以下であり、
前記被覆層におけるセラミックス粉末と水系バインダーの質量比は、88:12〜99:1であり、
前記被覆層の厚みは2μm以上10μm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
正極と、負極と、非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、
集電体と、
該集電体の表面に配置され、負極活物質と有機溶剤系バインダーとを含む負極活物質層と、
該負極活物質層の表面に配置され、水にポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つである水溶性バインダーを溶解しさらにAl、SiO、TiO、ZrO、MgO、SiC、AlN、BN、タルク、マイカ、カオリナイト、CaO、ZnO及びゼオライトから選択されるセラミックス粉末を混合した混合物を前記負極活物質層に塗布し、加熱乾燥して得られ、直径が50nm以上2μm以下である細孔を有し厚みが2μm以上10μm以下である被覆層と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
正極と、負極と、非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
集電体の表面に負極活物質と有機溶剤系バインダーとを含む負極活物質層を形成し、
前記負極活物質層の表面に、水にポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つである水溶性バインダーを溶解しさらにAl、SiO、TiO、ZrO、MgO、SiC、AlN、BN、タルク、マイカ、カオリナイト、CaO、ZnO及びゼオライトから選択されるセラミックス粉末を混合した混合物を前記負極活物質層に塗布して、加熱乾燥し、直径が50nm以上2μm以下である細孔を有し厚みが2μm以上10μm以下となる被覆層を形成して前記負極を形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、充放電容量が高く、高出力化が可能な二次電池である。現在、主として携帯電子機器用の電源として用いられており、更に、今後普及が予想される電気自動車用の電源として期待されている。リチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を挿入及び脱離することができる活物質を正極及び負極にそれぞれ有する。そして、リチウムイオン二次電池は、両極間に設けられた電解液内をリチウムイオンが移動することによって動作する。
【0003】
リチウムイオン二次電池の安全性を高めるために、負極活物質層の表面に絶縁層を設けて内部短絡の防止を図ることが検討されている。そして電極の抵抗増加を抑制するためにその絶縁層に露出部を設けることが開示されている。例えば、特許文献1(特開2010−192365号公報)には、負極活物質層が露出する露出部を残しつつ負極活物質層上に絶縁層を設ける技術が開示されている。特許文献1には、露出部の面積は3μm〜100μmが好ましく、露出部の個数は1mmあたり50個〜500個が好ましいことが開示されており、その数値から露出部の個々のサイズは大きく、露出部の個数はかなり多いことがわかる。
【0004】
特許文献1に開示された技術では、電極の抵抗増加を抑制するために上記のような直径が数μm〜数10μmのサイズの大きな孔(露出部)を絶縁層に設けている。しかしながら負極活物質層の表面に設けられた絶縁層に、例えば、特許文献1に記載のような直径が数μm〜数10μmのサイズの大きな孔があると、その孔に電流集中が起こり、Liが析出する。Liが孔に析出すると、そのLiを介在してリチウムイオン二次電池の内部短絡が起こるおそれがある。また絶縁層に上記のような大きなサイズの孔があると、絶縁層の機械的強度が低下し、絶縁層が壊れて内部短絡が起こるおそれがある。
【0005】
特許文献2には、正極の表面上に、無機粒子とポリカルボン酸塩からなる分散剤と、水系バインダーとを含む無機粒子層を備える非水電解質二次電池が開示されている。特許文献2には、無機粒子層中に分散剤が含まれるので、無機粒子層は無機粒子が均一に分散されていることが開示されている。さらに特許文献2には、水系バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(略称PTFE)、ポリアクリロニトリル(略称PAN)、またはスチレンブタジエンゴム(略称SBR)が好ましいことが開示されている。
【0006】
ここで、特許文献2に記載の水系バインダーであるPTFE、PANはいずれも還元されやすい樹脂であり、またSBRは結着性に乏しいため、膨張収縮の大きい負極に用いるのには適していない。そのため特許文献2に開示された技術を簡単には負極表面に形成する被覆層には適用できない。また水系バインダーの種類により、適した分散剤は異なることが推測される。上記PTFE、PAN、SBRは水分散性バインダーであるため、水溶性バインダーとは異なる無機粒子の分散性を示すと推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−192365号公報
【特許文献2】特開2009−302009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、細孔を有し、大きなサイズの孔を有しない被覆層を負極活物質層上に設けたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。またさらに本発明は、無機粒子が均一に分散された厚みムラの少ない被覆層を負極活物質層上に設けて、安全性が高く、かつ著しい電池容量の低下を招きにくいリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が鋭意検討した結果、負極活物質と有機溶剤系バインダーとを含む負極活物質層の表面に、セラミックス粉末と水系バインダーとを有する被覆層を配置すれば、細孔を有し、大きなサイズの孔のない被覆層を形成することができ、安全性が高く、かつ著しい電池容量の低下を招かないリチウムイオン二次電池を提供できることを見いだした。
【0010】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、負極は、集電体と、集電体の表面に配置され、負極活物質と有機溶剤系バインダーとを含む負極活物質層と、負極活物質層の表面に配置され、セラミックス粉末と水系バインダーとを含み、細孔を有する被覆層と、を有することを特徴とする。
【0011】
細孔の直径は50nm以上2μm以下であることが好ましい。
【0012】
被覆層におけるセラミックス粉末と水系バインダーの質量比は、88:12〜99:1であることが好ましい。
【0013】
水系バインダーのガラス転移点は60℃以上であることが好ましい。
【0014】
水系バインダーは、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0015】
被覆層の厚みは2μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0016】
セラミックス粉末の平均粒径D50は100nm以上1μm以下であることが好ましい。
【0017】
負極活物質はSiまたはSiO(0.3≦x≦1.6)を含むことが好ましい。
【0018】
有機溶剤系バインダーはポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドから選ばれる1つであることが好ましい。
【0019】
非水電解液はLiPF(Cからなる添加剤を含むことが好ましい。
【0020】
さらに本発明者等が鋭意検討した結果、負極活物質と有機溶剤系バインダーとを含む負極活物質層の表面に、セラミックス粉末と水溶性バインダーと疎水部を有するポリカルボン酸からなる分散剤とを含む被覆層を配置すれば、セラミックス粉末が均一に分散された厚みムラの少ない、細孔を有する被覆層を形成することができ、安全性が高く、かつ著しい電池容量の低下を招きにくいリチウムイオン二次電池を提供できることを見いだした。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池は、水系バインダーは水溶性バインダーであり、該被覆層は、疎水部を有するポリカルボン酸からなる分散剤をさらに含むことが好ましい。
【0022】
ポリカルボン酸は、スチレンとアクリル酸の共重合物からなり、ポリカルボン酸の分子量は5000以上50万以下であることが好ましい。
【0023】
水溶性バインダーは、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0024】
被覆層の厚みムラは2μm以下であることが好ましい。
【0025】
被覆層内の分散剤の含有量が、セラミックス粉末を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0026】
被覆層の厚みは2μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0027】
セラミックス粉末の平均粒径D50は100nm以上1μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極活物質層上に設けた被覆層がセラミックス粉末を含み、細孔を有し、大きなサイズの孔を有さないため、安全性が高く、かつ著しい電池容量の低下を招かない。さらに本発明のリチウムイオン二次電池は、負極活物質層上に設けた被覆層が、セラミックス粉末を含み、細孔を有し、厚みムラが少ないため、安全性が高く、かつ著しい電池容量の低下を招きにくい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を説明する模式図である。
図2】試験例F4の負極の表面の走査型電子顕微鏡の観察結果を示す。
図3】試験例F1の負極の表面の走査型電子顕微鏡の観察結果を示す。
図4】試験例F2の負極の表面の走査型電子顕微鏡の観察結果を示す。
図5】本実施形態の他のリチウムイオン二次電池用負極を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを有する。
【0031】
(負極)
負極は、集電体と、負極活物質層と、被覆層とを有する。
【0032】
集電体は、リチウムイオン二次電池において電気の取り出しを担うもので、高い電子伝導性を有することと、充放電時に電気化学的に不活性である材料が用いられる。集電体の材料として、例えば、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂を挙げることができる。特に、電気伝導性、加工性、価格の面から、集電体の材料としては、アルミニウムまたは銅が好ましい。集電体は、箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が、箔、シートまたはフィルムの場合は、集電体の厚みは10μm〜50μmであることが好ましい。集電体に高い強度を保持しつつ電池容量を高くする点から、集電体の厚みは、15μm〜30μmであることが特に好ましい。
【0033】
負極活物質層は、負極活物質、有機溶剤系バインダーを含み、必要に応じて導電助剤を含む。
【0034】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを用いることができる。
【0035】
炭素系材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が挙げられる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0036】
リチウムと合金化可能な元素としては、例えば、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb及びBiが挙げられる。中でも、リチウムと合金化可能な元素としては、珪素(Si)または錫(Sn)が好ましく、珪素(Si)が特に好ましい。
【0037】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、例えば、ZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、 CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiO 及びLiSnOが挙げられる。リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、珪素化合物または錫化合物が好ましい。珪素化合物としては、SiO(0.3≦x≦1.6)が好ましい。錫化合物としては、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)が挙げられる。
【0038】
高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリピロール等が挙げられる。
【0039】
高容量のリチウムイオン二次電池とするために、負極活物質は、SiまたはSiO(0.3≦x≦1.6)を含むことが好ましい。また負極活物質として、上記材料に加えて天然黒鉛を併用することが好ましい。
【0040】
高容量のリチウムイオン二次電池とするために、負極活物質層全体を100質量%とした場合、負極活物質層中のSiまたはSiO(0.3≦x≦1.6)の含有割合は20質量%以上あることが好ましく、30質量%以上あることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましい
【0041】
また、負極活物質層全体を100質量%とした場合、負極活物質層中の負極活物質の含有割合は60質量%以上97質量%以下であることが好ましく、70質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、75質量%以上90質量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
負極活物質は粉末形状であることが好ましい。負極活物質が粉末形状の場合、負極活物質の平均粒径D50は0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、3μm以上15μm以下であることがより好ましく、2μm以上8μm以下であることがさらに好ましい。負極活物質の平均粒径D50が小さすぎると、負極活物質の粉末の比表面積が大きくなり、負極活物質の粉末と非水電解液との接触面積が大きくなって、非水電解液の分解が進行しやすくなるため、サイクル特性が悪くなるおそれがある。また、負極活物質の平均粒径D50が大きすぎると、充放電時の反応抵抗が高くなるため、出力特性が低下するおそれがある。また負極活物質の平均粒径D50が大きすぎると、負極活物質層の表面粗さが大きくなってしまい、負極活物質層の上に被覆層を塗布することが困難となるおそれがある。なお、平均粒径D50は、粒度分布測定法によって計測できる。平均粒径D50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径のことである。つまり、平均粒径D50とは、体積基準で測定したメディアン径を意味する。
【0043】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために必要に応じて負極活物質層に添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(略称AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(略称KB)、気相法炭素繊維(略称VGCF)等が挙げられる。これらの導電助剤を単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、負極に含有される活物質100質量部に対して、1質量部〜30質量部程度とすることができる。
【0044】
本発明では負極活物質層に含まれるバインダーは有機溶剤系バインダーである。有機溶剤系バインダーとは、有機溶剤に溶解もしくは分散する樹脂または有機溶剤に溶解もしくは分散するゴムのことである。有機溶剤系バインダーは、上記負極活物質及び導電助剤を集電体に繋ぎ止める役割を果たす。
【0045】
有機溶剤系バインダーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(略称PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(略称PTFE)及びフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(略称SBR)等のゴムが挙げられる。有機溶剤系バインダーは、特に、N−メチル−2−ピロリドン(略称NMP)に溶解する樹脂が好ましい。NMPに溶解する樹脂として、例えば、PVDF、ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドが挙げられる。負極活物質の膨張及び収縮を抑制するのに好ましい有機溶剤系バインダーとして、ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドが挙げられる。
【0046】
集電体の表面に負極活物質層を配置するには、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に負極活物質を直接塗布すればよい。具体的には、負極活物質、有機溶剤系バインダー及び必要に応じて導電助剤を含む負極活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶媒を加えてスラリーとする。有機溶剤系バインダーは、あらかじめ有機溶剤系バインダーを溶媒に溶解させた溶液または分散させた懸濁液としてから用いてもよい。上記溶媒としては、NMP、メタノール、エタノール、メチルイソブチルケトン(略称MIBK)、N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)、ジメチルスルホキシド(略称DMSO)、γ−ブチロラクトン、アセトンを例示できる。上記スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。乾燥は、常圧条件で行ってもよいし、真空乾燥機を用いた減圧条件下で行ってもよい。乾燥温度は適宜設定すればよく、使用する溶媒の沸点以上の温度が好ましい。有機溶剤系バインダーとしてポリアミドイミド、ポリイミドを使用する場合には、イミド環を閉環させる必要があるため、乾燥温度は150℃以上が更に好ましく、180℃以上が特に好ましい。乾燥時間は塗布量及び乾燥温度に応じ適宜設定すればよい。負極活物質層の密度を高めるべく、乾燥により負極活物質層を形成させた後の集電体に対し、圧縮工程を加えてもよい。
【0047】
被覆層は、負極活物質層の表面に配置され、セラミックス粉末と水系バインダーとを含み、細孔を有する。
【0048】
被覆層には多数のセラミックス粉末が配置されている。水系バインダーは、負極活物質層と被覆層の間及び被覆層中のセラミックス粉末間に配置され、負極活物質層と被覆層の結着及び被覆層中のセラミックス粉末間を結着する。被覆層は、粉末を含むため、セラミックス粉末間及び負極活物質層とセラミックス粉末の間及びセラミックス粉末と水系バインダーとの間に形成される細孔を有する。なお被覆層は、例えばμmオーダーの大きなサイズの孔は有さない。
【0049】
負極活物質層の表面が被覆層によって被覆されるので、負極活物質は非水電解液と直接接触しにくい。そのため、負極活物質による非水電解液の分解反応が抑制され、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪化するのを抑制できる。また非水電解液中に含まれる金属成分の溶出物や非水電解液の分解物を被覆層で物理的にトラップできるので、負極活物質の表面に分解物等が堆積するのを抑制できる。その結果としてリチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪化するのを抑制できる。
【0050】
また大きなサイズの孔が被覆層に存在すると、充放電時に電流密度が孔の部分で局所的に高くなってしまうため、Li析出を誘起しやすくするおそれがある。析出したLiは更に正負極間の内部短絡や、サイクル特性などの寿命悪化を招く場合がある。本発明において、被覆層は大きなサイズの孔を有さないので、リチウムイオン二次電池の内部短絡を抑制でき、リチウムイオン二次電池の安全性を高めることができる。
【0051】
またセラミックス粉末は、導電性が低く、耐熱性が高いため、負極活物質層の表面に絶縁性と耐熱性を兼ねた被覆層が配置されることとなる。そのためリチウムイオン二次電池は高温下でも内部短絡を抑制することができ、安全性を高めることができる。
【0052】
また被覆層は細孔を有するので、リチウムイオン二次電池において被覆層は大きな抵抗とはならず、被覆層はリチウムイオン二次電池の著しい電池容量の低下を招かない。
【0053】
なお、負極活物質層に有機溶剤系バインダーを用い、被覆層にも有機溶剤系バインダーを用いると、被覆層を形成する際に用いる有機溶剤に負極活物質層の有機溶剤系バインダーが部分的に溶解してしまうおそれがあるので好ましくない。
【0054】
水系バインダーとは、水系溶剤に溶解もしくは分散する樹脂または水系溶剤に溶解もしくは分散するゴムをさす。水系バインダーとして、水溶性バインダー、水分散系バインダーが挙げられる。ここで、水系溶剤としては、水又は水とアルコールとの混合物が挙げられる。アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。水とアルコールの混合物の配合比は、質量比で水:アルコール=50:50以上100:0以下であることが好ましい。
【0055】
水系バインダーとしては、ガラス転移点が60℃以上であるものが好ましく、ガラス転移点が80℃以上であるものがより好ましい。リチウムイオン二次電池の実使用範囲が60℃程度以下であるため、水系バインダーは60℃程度まで軟化していないことが望ましい。水系バインダーのガラス転移点が60℃以上であれば、以下の効果が見込める。水系バインダーのガラス転移点が60℃以上であれば、水系バインダーのポリマーの骨格が硬いか、分子間の凝集力が高いために、強固な被覆層を形成できる。そのため、Liの吸蔵及び放出に伴って膨張及び収縮する負極活物質を用いても、被覆層が負極活物質の膨張及び収縮を抑制できる。また60℃程度の高温でも水系バインダーが軟化せず被覆層の強度が高いので、高温でのリチウムイオン二次電池の寿命及び安全性を確保できる。
【0056】
水溶性バインダーとは、水系溶剤に溶解する樹脂をさす。水溶性バインダーは、負極に用いるため、負極電位に対して十分な耐還元性を有する樹脂が好ましい。樹脂の耐酸化性、耐還元性の指標として、樹脂のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital:最高被占分子軌道エネルギー)準位の値(eV)と、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:最低空位分子軌道エネルギー)準位の値(eV)を用いることができる。HOMO準位の値が小さいほど耐酸化性が高く、LUMO準位の値が大きいほど耐還元性が高い。HOMO準位の値、LUMO準位の値は、分子軌道計算(ab initio法)により市販のプログラムを用いて計算できる。例えば、市販汎用プログラム「Gaussian 94」によって計算できる。まず、分子構造の最適化計算を行って、その分子の安定な構造を決定する。その後、その安定構造を用いて、HOMO/LUMOのエネルギー準位を計算する。水溶性バインダーは、上記LUMO準位の値が0.2eV以上であることが好ましい。
【0057】
水溶性バインダーとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸スチレン共重合体、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸系モノマー、ヒドロキシエチルセルロース、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ(メタクリル酸トリメチルアミノエチル・メチル硫酸塩)、イソブチル・無水マレイン酸、キトサン、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ポリビニルエチルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレンオキサイドが挙げられる。
【0058】
上記水溶性バインダーの中で、ガラス転移点が60℃以上であるものがより好ましい。ガラス転移点が60℃以上である水溶性バインダーとして、重合度や共重合体の組成比率によっても異なるが、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸スチレン共重合体、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸系モノマー、ヒドロキシエチルセルロース、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、イソブチル・無水マレイン酸、キトサン、ポリビニルブチラール、ゼラチン、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0059】
水溶性バインダーはポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。これらのバインダーは、水溶性が高く、また電気化学的に悪影響を与えにくい。
【0060】
水溶性バインダーがポリビニルアルコールまたはカルボキシメチルセルロースであれば、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させることができる。
【0061】
水溶性バインダーが、ポリアクリル酸またはカルボキシメチルセルロースであれば、リチウムイオン二次電池の高温保存特性を向上させることができる。
【0062】
水溶性バインダーが、ポリビニルピロリドンとポリビニルアルコールとの混合物であれば、セラミックス粉末を分散しやすく、ポットライフを長くすることができる。ここでポットライフとは可使時間のことであり、具体的には粒子が沈降しないで分散している状態でいる時間をさす。
【0063】
水分散系バインダーとしては、例えば、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、ポリウレタン、エポキシポリマー、スチレンポリマー、ビニルポリマーが挙げられる。これらの水分散系ポリマーは単独で用いられてもよいが、2種類以上の組み合わせや共重合体として用いられてもよい。
【0064】
なお被覆層は、必要に応じてさらに分散剤を含んでもよい。分散剤は市販のものを適宜使用することができる。被覆層に分散剤が含まれると、セラミックス粉末は分散剤によって被覆層中に均一に分散され、その結果、被覆層の厚みムラが小さくなる。
【0065】
水系バインダーとして、水溶性バインダーを使用する場合は、分散剤として、例えば、疎水部を有するポリカルボン酸が挙げられる。疎水部を有するポリカルボン酸は、疎水性基と親水性基を両方持っているため、電荷による静電的な分散効果に加えて、親疎水性による分散効果が加味される。そのため疎水部を有するポリカルボン酸は分散効果が大きい。
【0066】
ポリカルボン酸の有する疎水部は、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、炭素数が5以上20以下の直鎖状または分岐状アルキル基、シクロアルキル基であることが好ましい。上記疎水性官能基が、極性の低い置換基、例えば、メチル基等のアルキル基、をさらに有する構造であってもよい。
【0067】
疎水部を有するポリカルボン酸は、例えば、疎水部を導入可能なモノマーとカルボキシル基を導入可能なモノマーとを含むモノマー原料を適当な方法で重合させることにより得ることができる。
【0068】
カルボキシル基を導入可能なモノマー(以下カルボキシル基含有モノマーと称す)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等のチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸およびその無水物、イタコン酸およびその無水物、シトラコン酸およびその無水物、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその無水物;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸等の不飽和ジカルボン酸モノエステル;2−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、2−メタクリロイルオキシエチルピロメリット酸等の不飽和トリカルボン酸モノエステル;カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート等のカルボキシアルキルアクリレート;が挙げられる。上記カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、カルボキシエチルアクリレートを好ましく使用することができる。
【0069】
疎水部を導入可能なモノマー(以下疎水性官能基含有モノマーと称す)としては、一分子中に上述のような疎水性官能基とエチレン性不飽和基とを有する単量体、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ケイ皮酸が挙げられる。
【0070】
疎水部を有するポリカルボン酸は、スチレンとアクリル酸の共重合物からなることが好ましい。
【0071】
疎水部を有するポリカルボン酸の好ましい質量平均分子量は、5000以上50万以下であり、より好ましくは6000以上20万以下であり、さらに好ましくは7500以上15万以下である。質量平均分子量が50万より大きいとセラミックス粉末間を分散剤が橋渡ししてセラミックス粉末が凝集してしまうので好ましくなく、質量平均分子量が5000より小さいと分散剤分子の立体障害による反発効果が得られにくくなるため好ましくない。質量平均分子量は、分子量が既知のポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(略称GPC)を用いて測定することができる。
【0072】
被覆層内の分散剤の好ましい含有量は、セラミックス粉末を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上6質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上5質量部以下である。
【0073】
セラミックス粉末として、水系溶剤に溶解しないものが使用できる。つまりセラミックス粉末としては、酸化物、窒化物及び炭化物が望ましい。具体的にはセラミックス粉末として、例えば、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO、SiC、AlN、BN、タルク、マイカ、カオリナイト、CaO、ZnO及びゼオライトが挙げられる。セラミックス粉末としては、入手の容易さの点から、Al、SiO、TiOが好ましく、特にAlが好ましい。
【0074】
セラミックス粉末の平均粒径D50は100nm以上1μm以下であることが好ましく、
200nm以上800nm以下であることがより好ましく、300nm以上600nm以下であることが特に好ましい。セラミックス粉末の平均粒径D50が大きすぎると、被覆層の厚みが所望の厚みより大きくなるおそれがある。また被覆層形成時にセラミックス粉末がスラリー中で沈降しやすくなり、分散しにくくなる。セラミックス粉末の平均粒径D50が小さすぎると、被覆層作成時にセラミックス粉末が負極活物質層の中に入り込むおそれがある。
【0075】
被覆層におけるセラミックス粉末と水系バインダーとの好ましい質量比は88:12〜99:1であり、より好ましくは90:10〜98:2であり、さらに好ましくは92:8〜97:3である。被覆層において水系バインダーの含有量が少なすぎると、負極活物質層に対する被覆層の結着力の低下、または、被覆層中のセラミックス粉末間の結着力が低下することで被覆層の崩壊のおそれがあるので好ましくない。加えて、被覆層全体の柔軟性が失われ、電極に加わる圧力で被覆層が割れるおそれがあるので好ましくない。被覆層において水系バインダーの含有量が多すぎると、被覆層の耐熱性が低下する懸念があるので好ましくない。
【0076】
分散剤を用いる場合は、被覆層内の分散剤の好ましい含有量は、セラミックス粉末を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上6質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上5質量部以下である。
【0077】
被覆層におけるセラミックス粉末と水溶性バインダーとの好ましい質量比は99:1〜85:15であり、より好ましくは98:2〜88:12であり、さらに好ましくは97:3〜90:10である。
【0078】
被覆層において水溶性バインダーの含有量が少なすぎると、負極活物質層に対する被覆層の結着力の低下、または、被覆層中のセラミックス粉末間の結着力の低下による被覆層の崩壊のおそれがあるので好ましくない。加えて、被覆層全体の柔軟性が失われ、電極に加わる圧力で被覆層が割れるおそれがあるので好ましくない。被覆層において水溶性バインダーの含有量が多すぎると、被覆層自体の硬度が低下する懸念や、被覆層の耐熱性が低下する懸念があるので好ましくない。
【0079】
被覆層の厚みは、2μm以上10μm以下が好ましく、2μm以上8μm以下がより好ましく、3μm以上6μm以下が特に好ましい。被覆層の厚みが薄すぎると、リチウムイオン二次電池の短絡防止の効果を発揮できないおそれがある。被覆層の厚みが厚すぎると、電池全体において被覆層が占める割合が増加するためにリチウムイオン二次電池の体積・質量あたりの充放電容量が低下するおそれがある。
【0080】
被覆層の厚みムラは、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。被覆層の厚みムラが大きすぎると、厚みの薄い部分に電流が集中しやすくサイクル試験時の容量劣化を招きやすい。なお、被覆層の厚みムラは、電極の厚みを5mm間隔で10点測定し、最大値と最小値の差とした。
【0081】
被覆層に含まれる細孔は、その直径が20nm以上2μm以下であることが好ましく、20nm以上1μm以下であることがより好ましく、20nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。細孔の直径が小さすぎると、イオン伝導度が低下して抵抗が高くなるおそれがある。また細孔の直径が大きすぎると、その孔に電流集中が起こり、Liが析出するおそれがある。
【0082】
この負極活物質層へ被覆層を配置する方法は、特に限定されない。例えば、以下の方法で負極活物質層へ被覆層を配置できる。被覆層の材料を水系溶剤に分散させて混合物を作成し、その混合物を負極活物質層上に塗布し、塗布後に乾燥することによって負極活物質層に被覆層を配置することができる。塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0083】
被覆層の材料と水系溶剤の混合物中における固形分濃度は20質量%以上70質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。固形分濃度が上記範囲にあれば、混合物中に固形分が分散しやすく、混合物のポットライフを長期化できる。
【0084】
被覆層の材料を水系溶剤に分散させるには、ミキサーを用いた湿式分散法を用いるのが好ましい。ミキサーは市販品を用いることができる。セラミックス粉末の平均粒径D50は1μm以下が好ましいため、このような微細なセラミックス粉末を水系溶剤中に均一に分散させるには、機械的な分散処理を施したほうがよい。分散方法としては、例えば塗料の分散に用いられる分散方法が好適に用いられる。
【0085】
図1に本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を説明する模式図を示す。図1において、集電体1の上に負極活物質3が有機溶剤系バインダー2によって結着されている。負極活物質層4は、負極活物質3と有機溶剤系バインダー2とからなる。被覆層5は負極活物質層4の上に配置される。
【0086】
図1の被覆層5において、複数のセラミックス粉末51は負極活物質層4の表面の凹凸に沿って配置され、水系バインダー521はセラミックス粉末51同士の間及びセラミックス粉末51と負極活物質層4との間に配置されている。水系バインダー521によって、複数のセラミックス粉末51同士が結着され、またセラミックス粉末51と負極活物質層4とが結着されている。セラミックス粉末51間及び負極活物質層4とセラミックス粉末51の間及びセラミックス粉末51と水系バインダー521との間に、細孔6が形成される。図1に示すように、被覆層5には大きなサイズの孔は存在していない。
【0087】
図5に本実施形態の他のリチウムイオン二次電池用負極を説明する模式図を示す。図5に記載されている他のリチウムイオン二次電池用負極の被覆層には分散剤53が含まれており、水溶性バインダー522が用いられている。図5において、集電体1の上に負極活物質3が有機溶剤系バインダー2によって結着されている。負極活物質層4は、負極活物質3と有機溶剤系バインダー2とからなる。被覆層5は負極活物質層4の上に配置される。
【0088】
図5の被覆層5において、複数のセラミックス粉末51は負極活物質層4の表面の凹凸に沿って配置され、水溶性バインダー522はセラミックス粉末51同士の間及びセラミックス粉末51と負極活物質層4との間に配置され、分散剤53は、セラミックス粉末51同士の間及びセラミックス粉末51と負極活物質層4との間に配置されている。水溶性バインダー522によって、複数のセラミックス粉末51同士またセラミックス粉末51と負極活物質層4とが結着されている。分散剤53はセラミックス粉末51同士を反発させて、セラミックス粉末51が被覆層5内で均一に分散されるように働いている。セラミックス粉末51間及び負極活物質層4とセラミックス粉末51の間及びセラミックス粉末51と水溶性バインダー522との間に、細孔6が形成される。
【0089】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用負極を有することを特徴とする。上記リチウムイオン二次電池用負極を有するリチウムイオン二次電池は、安全性が高く、かつ著しい電池容量の低下を招かない。
【0090】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、上記したリチウムイオン二次電池用負極に加えて、正極、非水電解液を有する。
【0091】
(正極)
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は、正極活物質、結着剤を含み、必要に応じて導電助剤を含む。集電体、導電助剤はリチウムイオン二次電池用負極で説明したものと同様である。結着剤としては上記したリチウムイオン二次電池用負極において有機溶剤系バインダーとして説明したものを好適に用いることができる。
【0092】
正極活物質としては、リチウム含有化合物あるいは他の金属化合物よりなるものを用いることができる。リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、一般式:LiCoNiMn (Dは、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選択される少なくとも一種、p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物、一般式:LiMPOで示されるオリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:LiMPOFで示されるフッ化オリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:LiMSiOで示されるケイ酸塩系型リチウム複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)を用いることができる。また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの硫化物が挙げられる。
【0093】
また正極活物質は、化学式:LiMO(MはNi、Co及びMnから選択される少なくとも1つである)で表されるリチウム含有酸化物よりなることが好ましく、さらに一般式: LiCoNiMn (Dは、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選択される少なくとも一種、p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物よりなることが好ましい。
【0094】
リチウム含有酸化物としては、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiCoO、LiNi0.8Co0.2、LiCoMnOが挙げられる。リチウム含有酸化物としては、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3が、熱安定性の点で好ましい。
【0095】
正極活物質はその平均粒径D50が1μm〜20μmである粉末形状であることが好ましい。正極活物質の平均粒径D50が小さすぎると正極活物質の比表面積が大きくなり正極活物質と非水電解液との反応面積が増え、電解液の分解が進んでしまい、サイクル特性が悪くなるおそれがある。正極活物質の平均粒径D50が大きすぎるとリチウムイオン二次電池の抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池の出力特性が下がるおそれがある。
【0096】
(非水電解液)
非水電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。非水電解液にはさらに添加剤を加えても良い。
【0097】
溶媒として、例えば、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類が使用できる。環状エステル類として、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンが挙げられる。鎖状エステル類として、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステルが挙げられる。エーテル類として、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンが挙げられる。
【0098】
また上記非水電解液に溶解させる電解質として、例えば、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩が挙げられる。
【0099】
非水電解液として、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒にLiClO、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液が挙げられる。
【0100】
添加剤としては、例えば、非水電解液に含まれる他の成分である溶媒や電解質に比べて酸化還元電位が高く、還元分解されやすい性質を持つ物質が挙げられる。リチウムイオン二次電池において、還元分解されやすい性質を持つ物質は溶媒や電解質よりも先に還元分解されて、溶媒や電解質が還元分解されるのを抑制する。このような添加剤を、非水電解液を還元分解しやすい活物質、例えばSi系活物質、とあわせて用いることによって、溶媒や電解質の分解を顕著に抑制することができ、リチウムイオン二次電池の寿命を向上することができる。このような添加剤として、例えば、フルオロエチレンカーボネート、LiPF(C(略称LPFO)、LiPF(略称LPFTO)、LiB(Cが挙げられる。
【0101】
上記添加剤は、上記非水電解液1リットル当たりのモル濃度で0.01モル/L以上0.3モル/L以下となるように添加するのが好ましく、非水電解液1リットル当たりのモル濃度で0.03モル/L以上0.2モル/L以下となるように添加するのがより好ましい。
【0102】
本発明のリチウムイオン二次電池はさらに、セパレータを有してもよい。
【0103】
セパレータは正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、及びセラミックス製の多孔質膜が挙げられる。セパレータは積層された複数の多孔質膜で構成されていてもよい。また正極側及び/または負極側の表面に絶縁層もしくは耐熱層が配置されていてもよい。絶縁層または耐熱層の構成部材として、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素が挙げられる。多孔質膜の材質としてはポリエチレンやポリプロピレンが好ましく、耐熱層の構成部材はアルミナであることが好ましい。多孔質膜はポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造からなることが更に好ましく、多孔質膜の少なくとも一方の表面にアルミナを含む耐熱層を1μm以上有することが特に好ましい。
【0104】
上記リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0105】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池用の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0107】
<負極の作製>
(負極活物質層が形成された銅箔の作製)
負極活物質として、平均粒径D50が5.3μmのSiO(アルドリッチ社製)及び天然黒鉛(平均粒径D50が20.1μmのSMG(日立化成工業株式会社製))を準備した。バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂(略称PAI)(荒川化学工業株式会社製)を準備した。導電助剤としてアセチレンブラック(略称AB)を準備した。
【0108】
SiO/天然黒鉛/AB/PAI=32/50/8/10(質量比)の割合で混合して混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0109】
ドクターブレードを用いて負極用集電体である厚み20μmの銅箔にこのスラリーを膜状になるように塗布した。スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスし、接合物を得た。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極Aとした。負極Aの負極活物質層の厚みは18μmであった。この負極Aを試験例F5の負極とする。
【0110】
(試験例F1の負極)
水に水溶性バインダーであるポリアクリル酸(略称PAA)を溶解し、Al粉末(住友化学株式会社製、平均粒径D50が540nm)を混合し、被覆層用混合物No.1を得た。水とPAAとAlとの質量比は、百分率で水/PAA/Al=60/1.6/38.4とした。被覆層用混合物No.1の固形分濃度は40質量%であった。
【0111】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.1を塗布した。被覆層用混合物No.1を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F1の負極とした。試験例F1の負極の被覆層の厚みは5μmであった。
【0112】
(試験例F2の負極)
水に水溶性バインダーであるカルボキシメチルセルロース(略称CMC)を溶解し、Al粉末を混合し、被覆層用混合物No.2を得た。水とCMCとAlとの質量比は、百分率で水/CMC/Al=60/1.6/38.4とした。被覆層用混合物No.2の固形分濃度は40質量%であった。
【0113】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.2を塗布した。被覆層用混合物No.2を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F2の負極とした。試験例F2の負極の被覆層の厚みは3μmであった。
【0114】
(試験例F3の負極)
水に水溶性バインダーであるポリビニルアルコール(略称PVA)を溶解し、Al粉末を混合し、被覆層用混合物No.3を得た。水とPVAとAlとの質量比は、百分率で水/PVA/Al=60/1.6/38.4とした。被覆層用混合物No.3の固形分濃度は40質量%であった。
【0115】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.3を塗布した。被覆層用混合物No.3を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F3の負極とした。試験例F3の負極の被覆層の厚みは4μmであった。
【0116】
(試験例F4の負極)
NMPに有機溶剤系バインダーであるポリフッ化ビニリデン(略称PVDF)を溶解し、Al粉末を混合し、被覆層用混合物No.4を得た。NMPとPVDFとAlとの質量比は、百分率でNMP/PVDF/Al=60/1.6/38.4とした。
【0117】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.4を塗布した。被覆層用混合物No.4を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F4の負極とした。試験例F4の負極の被覆層の厚みは4μmであった。
【0118】
<被覆層の表面の走査型電子顕微鏡(略称SEM)観察>
試験例F1の負極の表面、試験例F2の負極の表面、試験例F4の負極の表面をSEM観察した。試験例F4の負極の表面のSEM観察結果を図2に、試験例F1の負極の表面のSEM観察結果を図3に、試験例F2の負極の表面のSEM観察結果を図4に示す。
【0119】
図2に示すように、試験例F4の負極の表面には、直径が最大30μmの孔を始めミクロンオーダーの孔が多数観察された。また試験例F4の負極の表面にあるこの孔は負極活物質層まで貫通しており、負極活物質層が露出している部分が見られた。それに対して、図3及び図4からわかるように、試験例F1の負極の表面及び試験例F2の負極の表面には直径が100nm〜600nmの細孔は観察されたが、直径が2μmより大きい孔は一切観察されなかった。
【0120】
なお図には示していないが、試験例F3の負極の表面のSEM観察も行った。その結果、直径が200nm〜500nmの細孔は観察されるが、直径が2μmより大きい孔は一切観察されなかった。
【0121】
このことから、被覆層にPAA、CMCまたはPVAが含まれれば、直径が50nm〜2μmの細孔は有するが、直径が2μmより大きい孔は有さない被覆層が形成できることが確認できた。
【0122】
(ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製)
(試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例F1の負極を負極として用いた試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。
【0123】
正極は以下のように作製した。正極活物質として平均粒径D50が5μmのLiNi0.5Co0.2Mn0.3(略称NCM523)と導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、品番HS100)と、結着剤としてPVDF(クレハ株式会社製、品番7208)とを、それぞれ94質量部、3質量部、3質量部として混合し混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0124】
集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。集電体にスラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように塗布した。得られたシートを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した。その後、ロ−ルプレス機により、集電体と集電体上の塗布物を強固に密着接合させた。この時電極密度は3.2g/cmとなるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱した。加熱後の接合物を、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極とした。正極活物質層の厚さは30μm程度であった。
【0125】
上記正極及び試験例F1の負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極及び試験例F1の負極の間に、セパレータを挟装して極板群とした。セパレータとして、ポリプロピレン樹脂/ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂の3層多孔質膜構造で、正極側及び負極側の両面にアルミナがコートされた矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を用いた。
【0126】
この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに非水電解液を注入した。非水電解液としてフルオロエチレンカーボネート(略称FEC)、エチレンカーボネート(略称EC)と、エチルメチルカーボネート(略称EMC)と、ジメチルカーボネート(略称DMC)をFEC:EC:EMC:DMC=0.4:2.6:3:4(体積比)で混合した溶媒にLiPF6を1mol/lとなるように溶解し、LiPF(C(略称LPFO)を0.01mol/lとなるように溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び非水電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0127】
(試験例D2のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F2の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0128】
(試験例D3のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F3の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D3のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0129】
(試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F4の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0130】
(試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F5の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0131】
<リチウムイオン二次電池の安全性評価>
試験例D1、試験例D4及び試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池において、各電池に非水電解液を入れずにラミネート封をした。釘径0.8mmの釘を取り付けたオートグラフ(島津製作所製、品番AGS−500D)に各ラミネート型リチウムイオン二次電池をセットし、電池に外部から強制的に電圧を印加しながら、釘刺し速度1mm/秒で刺し込んだ場合の釘にかかる荷重、電流、電圧を測定した。各ラミネート型リチウムイオン二次電池の短絡時の電流値を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
表1の結果から、試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池と試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池の短絡時の電流値とを比較すると、被覆層があれば、短絡時の電流値が大幅に抑制でき、短絡防止機能が働いていることがわかった。さらに試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池と試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池の短絡時の電流値との比較により、試験例D1によれば、短絡電流を試験例D4の1/10に低減できることがわかった。このことから被覆層の表面に直径が2μmより大きい孔のない試験例F1の負極を用いると、被覆層の表面に直径が最大30μmの孔のある試験例F4の負極を用いるよりも短絡防止機能が高く、安全性が高いことが実証できた。
【0134】
<60℃保存試験>
試験例D1、試験例D2、試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いて60℃保存特性を評価した。60℃保存試験は、60℃の温度で4.32Vの電圧をかけた状態で18日間保持した。
【0135】
なお保存試験を行う前にコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電(定電圧充電)した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電(定電圧放電)した。
【0136】
またさらにコンディショニング処理後にエージングを行った。エージングでは、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を60℃で12時間、4.32Vに保持した。
【0137】
このエージング後に、25℃で0.2Cで4.5Vまで、CCCV充電(定電流定電圧充電)をし、10分間保持して、0.33Cで2.5VまでCC放電(定電流放電)を行い、10分間保持した。このときの0.33Cでの放電容量を初期容量とした。初期容量は、試験例D1、試験例D2、被覆層の形成されていない試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池において、有意差はなかった。このことから、表面に50nm〜2μmの細孔を有し、直径が2μmより大きい孔のない被覆層を用いても、電池の容量は低下しにくいことが確認できた。
【0138】
保存試験後の各ラミネート型リチウムイオン二次電池を初期容量の測定と同様にして0.33Cでの放電容量を測定し、これを60℃保存試験後の容量とした。なお、60℃保存試験の容量維持率は、60℃保存試験後の容量維持率(%)=(60℃保存試験後の容量/初期容量)×100で求めた。結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2からわかるように、試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池に比較して、試験例D1及び試験例D2のラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存試験後の容量維持率(%)は、大幅に向上した。PAAもCMCもどちらもガラス転移点が100℃以上あり、被覆層用バインダーにPAAまたはCMCを用いれば、ラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存特性が向上することがわかった。
【0141】
<サイクル試験>
試験例D2、試験例D3及び試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いてサイクル試験を行った。サイクル試験としては、以下の条件で充放電を繰り返したサイクル試験を行い200サイクル後の放電容量を測定した。充電の際は、60℃において1Cレート、電圧4.32VでCC充電(定電流充電)をした。放電の際は3.26V、1CレートでCC放電(定電流放電)を行った。この充放電を1サイクルとし、200サイクルまでサイクル試験を行った。
【0142】
なおサイクル測定を行う前にコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電(定電圧充電)した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電(定電圧放電)した。
【0143】
またさらにコンディショニング処理後にエージングを行った。エージングでは、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を60℃で12時間、4.32Vに保持した。
【0144】
このエージング後に、25℃で0.2Cで4.5Vまで、CCCV充電(定電流定電圧充電)をし、10分間保持して、0.33Cで2.5VまでCC放電(定電流放電)を行い、10分間保持した。このときの0.33Cでの放電容量を初期容量とした。ここで、試験例D2、試験例D3及び試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期容量はほとんど同等の値であった。
【0145】
200サイクル試験後の各ラミネート型リチウムイオン二次電池を初期容量の測定と同様にして0.33Cでの放電容量を測定し、これを200サイクル後の容量とした。
【0146】
なお、サイクル試験後の容量維持率は、サイクル試験後の容量維持率(%)=(200サイクル後の容量/初期容量)×100で求めた。結果を表3に示す。
【0147】
【表3】
【0148】
表3からわかるように、試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池に比べて、試験例D2及び試験例D3のラミネート型リチウムイオン二次電池はサイクル試験後の容量維持率が向上した。このことからCMCまたはPVAを含む被覆層は、負極活物質層の表面を良好に保護して、200サイクル試験後でもリチウムイオン二次電池の容量を良好に保持できることがわかった。
【0149】
<分散性試験(分散剤なし)>
被覆層用混合物は、水に対して分散性がいいほうが、より均一な被覆層を形成でき、かつ安定的に被覆層が形成できる。そこで、セラミックス粉末の分散性を試験した。
【0150】
水にバインダーを溶解し、Al粉末を混合し、各試験例のスラリーを得た。水とバインダーとAlとの質量比は、百分率で、水/バインダー/Al=60/1.6/38.4とした。各試験例のスラリーの固形分濃度は40質量%であった。
【0151】
試験例1として、バインダーにポリビニルピロリドン(略称PVP)、試験例2として、バインダーにポリビニルアルコール(略称PVA)、試験例3として、バインダーにPVPとPVAの混合物を用いた。PVPとPVAの混合比は質量比で50:50とした。
【0152】
各サンプル瓶に各試験例の混合物を入れた状態で1日、静置させ、水相と固相が分離するか否かを目視で確認した。さらに1日静置後のサンプル瓶の、液体中の各Alのキュムラント平均粒径を動的光散乱法によって測定した。結果を表4に示す。キュムラント平均粒径とは、動的光散乱法により得られたデータをCumulant法により解析して算出した平均粒径である。なお、材料のAl粉末の粒径は平均粒径D50が540nmである。
【0153】
【表4】
【0154】
試験例1〜試験例3を比較すると、試験例1は、Alのキュムラント平均粒径は一番小さいが、経時で水相と固相とに分離した。試験例2はキュムラント平均粒径が大きく、凝集して肥大していると考えられる。試験例3はキュムラント平均粒径が比較的小さく、なおかつ1日の静置試験後も水相と固相とへの分離は見られなかった。従って水系バインダーとしてPVPとPVAを併用することによって、セラミックス粉末が分散しやすく、またポットライフが長いことがわかった。PVPとPVAの組み合わせが、セラミックス粉末を分散させるとともに沈降させにくいのは、セラミックス粉末をPVPが被覆することでPVP間の立体反発によりセラミックス粉末の分散が促され、さらにセラミックス粉末とPVAとの間で働く水素結合によって、溶液中にセラミックス粉末とPVAとがネットワークを形成し、水相と固相とに分離しにくい安定な溶液が得られるものと考えられる。
【0155】
<分散性試験(分散剤あり)>
分散剤の種類によるセラミックス粉末の分散性試験を行った。
水に水溶性バインダーを溶解し、Al粉末及び各分散剤を添加し、ミキサー(株式会社シンキー製、品番:AR−100)で2時間、混合して、下記試験例4〜12のスラリーを得た。試験例4〜12において水とバインダーとAlと分散剤の質量比は、百分率で、水/バインダー/Al/分散剤=50/2/46/2とした。試験例4〜12のスラリーの固形分濃度は50質量%であった。
【0156】
Al粉末として、平均粒径D50=600nmのAl粉末を準備し、水溶性バインダーとしてポリビニルアルコール(略称PVA)(Mw=2200)を準備した。
【0157】
分散剤として、スチレン−アクリル酸共重合体(BASFジャパン株式会社製、品番:HPD96J、Mw=16,500)、スチレン−アクリル酸共重合体(BASFジャパン株式会社製、品番:J−60J、Mw=8,500)、スチレン−アクリル酸共重合体(BASFジャパン株式会社製、品番:J−63J、Mw=12,500)、ポリアクリル酸(略称PAA)(和光純薬工業株式会社製、Mw=250,000)、カルボキシメチルセルロース(略称CMC)、ポリビニルアルコール(略称PVA)(和光純薬工業株式会社製、Mw=2,200)、リン酸エステル系ポリマー(ビックケミージャパン株式会社製、品番BYK180)、ポリエチレングリコール(略称PEG)(Mw=20,000)を準備した。
【0158】
各サンプル瓶に各試験例4〜12のスラリーを入れた状態で1日、静置させ、1日静置後のサンプル瓶の、スラリー中の各Al粉末のキュムラント平均粒径を動的光散乱法によって測定した。結果を表5に示す。キュムラント平均粒径とは、動的光散乱法により得られたデータをCumulant法により解析して算出した平均粒径である。なお、材料のAl粉末の平均粒径D50は600nmである。
【0159】
【表5】
【0160】
まず分散剤を入れなかった試験例12のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径は1961nmとなり、Al粉末は凝集していることがわかった。一方で、試験例4〜6のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径は全て小さかった。また試験例7〜11のスラリーと、試験例4〜6のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径を比較すると、試験例4〜6のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径が大幅に小さいことがわかった。材料として入れたAl粉末の平均粒径D50が600nmであるので、試験例4〜6のスラリー中のAl粉末は、ほとんど凝集せず、良好に分散していることがわかった。
【0161】
ここで試験例10のスラリーに用いた分散剤はリン酸系分散剤である。試験例10のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径は1804nmとなり、分散剤を用いていない試験例12のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径とほとんど同じである。このことからリン酸系分散剤は、この被覆層の材料を用いた場合は分散効果がないことがわかった。試験例8、9及び11のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径は分散剤を用いていない試験例12のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径より若干小さくなったが大幅な低下はなかった。また試験例7のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径は7094nmとなり、分散剤を用いていない試験例12のスラリーのAl粉末のキュムラント平均粒径よりも大幅に大きくなった。試験例7のスラリーに添加した分散剤はポリアクリル酸である。ポリアクリル酸はカルボン酸基を有しているが、疎水部は有しておらず、さらに分子量が25万と大変大きい。試験例7のスラリーに添加した分散剤は、分子量が大きすぎてAl粉末同士間に橋渡しをおこなってしまい、分散させるどころか、かえって凝集させてしまったことが予測される。
【0162】
また試験例4〜6のスラリーは、1日静置しておいても、水相と固相とには分離していなかった。スラリー中で、Al粉末が凝集しにくく、Al粉末が沈降しにくいことから試験例4〜6のスラリーは、ポットライフが長いことがわかった。
【0163】
<負極の作製>
(負極活物質層が形成された銅箔の作製)
負極活物質として、平均粒径D50が5μmのSiO及び天然黒鉛(平均粒径D50が20μmのSMG(日立化成工業株式会社製))を準備した。バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂(略称PAI)(荒川化学工業株式会社製)を準備した。導電助剤としてアセチレンブラック(略称AB)を準備した。
【0164】
SiO/SMG/AB/PAI=32/50/8/10(質量比)の割合で混合して混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0165】
このスラリーを負極用集電体である厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスし、接合物を得た。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極Bとした。負極Bの負極活物質層の厚みは17μmであった。この負極Bを試験例F15の負極とする。試験例F15の負極は被覆層が形成されていない負極である。
【0166】
(試験例F6の負極)
負極Bに試験例4のスラリーはアプリケーターを用いて塗布した。試験例4のスラリーを塗布した負極Bを200℃で2時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F6の負極とした。試験例F6の負極の被覆層の厚みは5.1μmであり、その厚みムラは1μmであった。
【0167】
ここで被覆層の厚みは、試験例F6の負極の厚みから負極Bの厚みを引くことで求めた。各負極の厚みは、各負極を5mm間隔で10点測定した結果の平均値とした。また被覆層の厚みムラは、各負極の厚みを5mm間隔で10点測定し、その最大値と最小値との差とした。
【0168】
(試験例F7の負極)
試験例4のスラリーを試験例5のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F7の負極を作製した。試験例F7の負極の被覆層の厚みは4.6μmであり、その厚みムラは1μmであった。
【0169】
(試験例F8の負極)
試験例4のスラリーを試験例6のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F8の負極を作製した。試験例F8の負極の被覆層の厚みは4.4μmであり、その厚みムラは1μmであった。
【0170】
(試験例F9の負極)
試験例4のスラリーを試験例7のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F9の負極を作製した。試験例F9の負極の被覆層の厚みは5.8μmであり、その厚みムラは5μmであった。
【0171】
(試験例F10の負極)
試験例4のスラリーを試験例8のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F10の負極を作製した。試験例F10の負極の被覆層の厚みは5.6μmであり、その厚みムラは3μmであった。
【0172】
(試験例F11の負極)
試験例4のスラリーを試験例9のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F11の負極を作製した。試験例F11の負極の被覆層の厚みは5.1μmであり、その厚みムラは3μmであった。
【0173】
(試験例F12の負極)
試験例4のスラリーを試験例10のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F12の負極を作製した。試験例F12の負極の被覆層の厚みは5.7μmであり、その厚みムラは3μmであった。
【0174】
(試験例F13の負極)
試験例4のスラリーを試験例11のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F13の負極を作製した。試験例F13の負極の被覆層の厚みは6.2μmであり、その厚みムラは4μmであった。
【0175】
(試験例F14の負極)
試験例4のスラリーを試験例12のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F14の負極を作製した。試験例F14の負極の被覆層の厚みは5.8μmであり、その厚みムラは4μmであった。
【0176】
各試験例F6〜F14の負極の被覆層の厚み及び厚みムラの結果及び各スラリー中のAl粉末のキュムラント平均粒径を表6に示す。
【0177】
【表6】
【0178】
表6から、試験例F6〜F8の負極の被覆層の厚みムラは、試験例F9〜F14の負極の被覆層の厚みムラより大幅に小さいことがわかった。
【0179】
(ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製)
(試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例F6の負極を負極として用いた試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。
【0180】
正極は以下のように作製した。正極活物質として平均粒径D50が5μmのLiNi0.5Co0.2Mn0.3(略称NCM523)と導電助剤としてアセチレンブラック(品番HS100)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(略称PVDF)とを、それぞれ94質量部、3質量部、3質量部として混合し混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0181】
集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。集電体にスラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように塗布した。得られたシートを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した。その後、ロ−ルプレス機により、集電体と集電体上の塗布物を強固に密着接合させた。この時電極密度は3.2g/cmとなるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱した。加熱後の接合物を、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極とした。正極活物質層の厚さは42μm程度であった。
【0182】
上記正極及び試験例F6の負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極及び試験例F6の負極の間に、セパレータを挟装して極板群とした。セパレータとして、ポリプロピレン樹脂/ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂の3層多孔質膜構造で、正極側及び負極側の両面にアルミナがコートされた矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を用いた。
【0183】
この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに非水電解液を注入した。非水電解液としてフルオロエチレンカーボネート(略称FEC)、エチレンカーボネート(略称EC)と、エチルメチルカーボネート(略称EMC)と、ジメチルカーボネート(略称DMC)をFEC:EC:EMC:DMC=0.4:2.6:3:4(体積比)で混合した溶媒にLiPF6を1mol/lとなるように溶解し、LiPF(Cを0.01mol/lとなるように溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び非水電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0184】
(試験例D7のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F7の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D7のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0185】
(試験例D8のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F8の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D8のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0186】
(試験例D9のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F9の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D9のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0187】
(試験例D10のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F10の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D10のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0188】
(試験例D11のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F11の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D11のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0189】
(試験例D12のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F12の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D12のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0190】
(試験例D13のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F13の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D13のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0191】
(試験例D14のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F14の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D14のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0192】
(試験例D15のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F15の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D15のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0193】
<60℃保存試験>
試験例D6、試験例D7、試験例D9、試験例D10及び試験例D15のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いて60℃保存特性を評価した。60℃保存試験は、60℃の温度で4.32Vの電圧をかけた状態で18日間保持した。
【0194】
なお保存試験を行う前にコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電した。
【0195】
またさらにコンディショニング処理後にエージングを行った。エージングでは、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を60℃で12時間、4.32Vに保持した。このエージング後に、25℃で0.2Cで4.5Vまで、CCCV充電をし、10分間保持して、0.33Cで3,0VまでCC放電を行い、10分間保持した。0.33Cでの放電容量を測定し、これを初期容量とした。
【0196】
保存試験後の各ラミネート型リチウムイオン二次電池を初期容量の測定と同様にして0.33Cでの放電容量を測定し、これを60℃保存試験後の容量とした。なお、60℃保存試験の容量維持率は、60℃保存試験後の容量維持率(%)=(60℃保存試験後の容量/初期容量)×100で求めた。結果を表7に示す。
【0197】
【表7】
【0198】
表7からわかるように、試験例D15、試験例D9、試験例D10のラミネート型リチウムイオン二次電池に比較して、試験例D6及び試験例D7のラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存試験後の容量維持率(%)は、大幅に向上した。被覆層の厚みムラを少なくすることによりラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存特性が向上することがわかった。
【符号の説明】
【0199】
1:集電体、2:有機溶剤系バインダー、3:負極活物質、4:負極活物質層、5:被覆層、51:セラミックス粉末、521:水系バインダー、522:水溶性バインダー、53:分散剤、6:細孔。
図1
図2
図3
図4
図5