【実施例】
【0106】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0107】
<負極の作製>
(負極活物質層が形成された銅箔の作製)
負極活物質として、平均粒径D
50が5.3μmのSiO(アルドリッチ社製)及び天然黒鉛(平均粒径D
50が20.1μmのSMG(日立化成工業株式会社製))を準備した。バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂(略称PAI)(荒川化学工業株式会社製)を準備した。導電助剤としてアセチレンブラック(略称AB)を準備した。
【0108】
SiO/天然黒鉛/AB/PAI=32/50/8/10(質量比)の割合で混合して混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0109】
ドクターブレードを用いて負極用集電体である厚み20μmの銅箔にこのスラリーを膜状になるように塗布した。スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスし、接合物を得た。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極Aとした。負極Aの負極活物質層の厚みは18μmであった。この負極Aを試験例F5の負極とする。
【0110】
(試験例F1の負極)
水に水溶性バインダーであるポリアクリル酸(略称PAA)を溶解し、Al
2O
3粉末(住友化学株式会社製、平均粒径D
50が540nm)を混合し、被覆層用混合物No.1を得た。水とPAAとAl
2O
3との質量比は、百分率で水/PAA/Al
2O
3=60/1.6/38.4とした。被覆層用混合物No.1の固形分濃度は40質量%であった。
【0111】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.1を塗布した。被覆層用混合物No.1を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F1の負極とした。試験例F1の負極の被覆層の厚みは5μmであった。
【0112】
(試験例F2の負極)
水に水溶性バインダーであるカルボキシメチルセルロース(略称CMC)を溶解し、Al
2O
3粉末を混合し、被覆層用混合物No.2を得た。水とCMCとAl
2O
3との質量比は、百分率で水/CMC/Al
2O
3=60/1.6/38.4とした。被覆層用混合物No.2の固形分濃度は40質量%であった。
【0113】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.2を塗布した。被覆層用混合物No.2を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F2の負極とした。試験例F2の負極の被覆層の厚みは3μmであった。
【0114】
(試験例F3の負極)
水に水溶性バインダーであるポリビニルアルコール(略称PVA)を溶解し、Al
2O
3粉末を混合し、被覆層用混合物No.3を得た。水とPVAとAl
2O
3との質量比は、百分率で水/PVA/Al
2O
3=60/1.6/38.4とした。被覆層用混合物No.3の固形分濃度は40質量%であった。
【0115】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.3を塗布した。被覆層用混合物No.3を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F3の負極とした。試験例F3の負極の被覆層の厚みは4μmであった。
【0116】
(試験例F4の負極)
NMPに有機溶剤系バインダーであるポリフッ化ビニリデン(略称PVDF)を溶解し、Al
2O
3粉末を混合し、被覆層用混合物No.4を得た。NMPとPVDFとAl
2O
3との質量比は、百分率でNMP/PVDF/Al
2O
3=60/1.6/38.4とした。
【0117】
アプリケーターを用いて負極Aに被覆層用混合物No.4を塗布した。被覆層用混合物No.4を塗布した負極Aを120℃で6時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F4の負極とした。試験例F4の負極の被覆層の厚みは4μmであった。
【0118】
<被覆層の表面の走査型電子顕微鏡(略称SEM)観察>
試験例F1の負極の表面、試験例F2の負極の表面、試験例F4の負極の表面をSEM観察した。試験例F4の負極の表面のSEM観察結果を
図2に、試験例F1の負極の表面のSEM観察結果を
図3に、試験例F2の負極の表面のSEM観察結果を
図4に示す。
【0119】
図2に示すように、試験例F4の負極の表面には、直径が最大30μmの孔を始めミクロンオーダーの孔が多数観察された。また試験例F4の負極の表面にあるこの孔は負極活物質層まで貫通しており、負極活物質層が露出している部分が見られた。それに対して、
図3及び
図4からわかるように、試験例F1の負極の表面及び試験例F2の負極の表面には直径が100nm〜600nmの細孔は観察されたが、直径が2μmより大きい孔は一切観察されなかった。
【0120】
なお図には示していないが、試験例F3の負極の表面のSEM観察も行った。その結果、直径が200nm〜500nmの細孔は観察されるが、直径が2μmより大きい孔は一切観察されなかった。
【0121】
このことから、被覆層にPAA、CMCまたはPVAが含まれれば、直径が50nm〜2μmの細孔は有するが、直径が2μmより大きい孔は有さない被覆層が形成できることが確認できた。
【0122】
(ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製)
(試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例F1の負極を負極として用いた試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。
【0123】
正極は以下のように作製した。正極活物質として平均粒径D
50が5μmのLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(略称NCM523)と導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、品番HS100)と、結着剤としてPVDF(クレハ株式会社製、品番7208)とを、それぞれ94質量部、3質量部、3質量部として混合し混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0124】
集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。集電体にスラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように塗布した。得られたシートを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した。その後、ロ−ルプレス機により、集電体と集電体上の塗布物を強固に密着接合させた。この時電極密度は3.2g/cm
2となるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱した。加熱後の接合物を、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極とした。正極活物質層の厚さは30μm程度であった。
【0125】
上記正極及び試験例F1の負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極及び試験例F1の負極の間に、セパレータを挟装して極板群とした。セパレータとして、ポリプロピレン樹脂/ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂の3層多孔質膜構造で、正極側及び負極側の両面にアルミナがコートされた矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を用いた。
【0126】
この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに非水電解液を注入した。非水電解液としてフルオロエチレンカーボネート(略称FEC)、エチレンカーボネート(略称EC)と、エチルメチルカーボネート(略称EMC)と、ジメチルカーボネート(略称DMC)をFEC:EC:EMC:DMC=0.4:2.6:3:4(体積比)で混合した溶媒にLiPF
6を1mol/lとなるように溶解し、LiPF
2(C
2O
4)
2(略称LPFO)を0.01mol/lとなるように溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び非水電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0127】
(試験例D2のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F2の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0128】
(試験例D3のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F3の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D3のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0129】
(試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F4の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0130】
(試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F1の負極を試験例F5の負極に変更した以外は試験例D1と同様にして試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0131】
<リチウムイオン二次電池の安全性評価>
試験例D1、試験例D4及び試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池において、各電池に非水電解液を入れずにラミネート封をした。釘径0.8mmの釘を取り付けたオートグラフ(島津製作所製、品番AGS−500D)に各ラミネート型リチウムイオン二次電池をセットし、電池に外部から強制的に電圧を印加しながら、釘刺し速度1mm/秒で刺し込んだ場合の釘にかかる荷重、電流、電圧を測定した。各ラミネート型リチウムイオン二次電池の短絡時の電流値を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
表1の結果から、試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池と試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池の短絡時の電流値とを比較すると、被覆層があれば、短絡時の電流値が大幅に抑制でき、短絡防止機能が働いていることがわかった。さらに試験例D1のラミネート型リチウムイオン二次電池と試験例D4のラミネート型リチウムイオン二次電池の短絡時の電流値との比較により、試験例D1によれば、短絡電流を試験例D4の1/10に低減できることがわかった。このことから被覆層の表面に直径が2μmより大きい孔のない試験例F1の負極を用いると、被覆層の表面に直径が最大30μmの孔のある試験例F4の負極を用いるよりも短絡防止機能が高く、安全性が高いことが実証できた。
【0134】
<60℃保存試験>
試験例D1、試験例D2、試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いて60℃保存特性を評価した。60℃保存試験は、60℃の温度で4.32Vの電圧をかけた状態で18日間保持した。
【0135】
なお保存試験を行う前にコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電(定電圧充電)した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電(定電圧放電)した。
【0136】
またさらにコンディショニング処理後にエージングを行った。エージングでは、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を60℃で12時間、4.32Vに保持した。
【0137】
このエージング後に、25℃で0.2Cで4.5Vまで、CCCV充電(定電流定電圧充電)をし、10分間保持して、0.33Cで2.5VまでCC放電(定電流放電)を行い、10分間保持した。このときの0.33Cでの放電容量を初期容量とした。初期容量は、試験例D1、試験例D2、被覆層の形成されていない試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池において、有意差はなかった。このことから、表面に50nm〜2μmの細孔を有し、直径が2μmより大きい孔のない被覆層を用いても、電池の容量は低下しにくいことが確認できた。
【0138】
保存試験後の各ラミネート型リチウムイオン二次電池を初期容量の測定と同様にして0.33Cでの放電容量を測定し、これを60℃保存試験後の容量とした。なお、60℃保存試験の容量維持率は、60℃保存試験後の容量維持率(%)=(60℃保存試験後の容量/初期容量)×100で求めた。結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2からわかるように、試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池に比較して、試験例D1及び試験例D2のラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存試験後の容量維持率(%)は、大幅に向上した。PAAもCMCもどちらもガラス転移点が100℃以上あり、被覆層用バインダーにPAAまたはCMCを用いれば、ラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存特性が向上することがわかった。
【0141】
<サイクル試験>
試験例D2、試験例D3及び試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いてサイクル試験を行った。サイクル試験としては、以下の条件で充放電を繰り返したサイクル試験を行い200サイクル後の放電容量を測定した。充電の際は、60℃において1Cレート、電圧4.32VでCC充電(定電流充電)をした。放電の際は3.26V、1CレートでCC放電(定電流放電)を行った。この充放電を1サイクルとし、200サイクルまでサイクル試験を行った。
【0142】
なおサイクル測定を行う前にコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電(定電圧充電)した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電(定電圧放電)した。
【0143】
またさらにコンディショニング処理後にエージングを行った。エージングでは、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を60℃で12時間、4.32Vに保持した。
【0144】
このエージング後に、25℃で0.2Cで4.5Vまで、CCCV充電(定電流定電圧充電)をし、10分間保持して、0.33Cで2.5VまでCC放電(定電流放電)を行い、10分間保持した。このときの0.33Cでの放電容量を初期容量とした。ここで、試験例D2、試験例D3及び試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期容量はほとんど同等の値であった。
【0145】
200サイクル試験後の各ラミネート型リチウムイオン二次電池を初期容量の測定と同様にして0.33Cでの放電容量を測定し、これを200サイクル後の容量とした。
【0146】
なお、サイクル試験後の容量維持率は、サイクル試験後の容量維持率(%)=(200サイクル後の容量/初期容量)×100で求めた。結果を表3に示す。
【0147】
【表3】
【0148】
表3からわかるように、試験例D5のラミネート型リチウムイオン二次電池に比べて、試験例D2及び試験例D3のラミネート型リチウムイオン二次電池はサイクル試験後の容量維持率が向上した。このことからCMCまたはPVAを含む被覆層は、負極活物質層の表面を良好に保護して、200サイクル試験後でもリチウムイオン二次電池の容量を良好に保持できることがわかった。
【0149】
<分散性試験(分散剤なし)>
被覆層用混合物は、水に対して分散性がいいほうが、より均一な被覆層を形成でき、かつ安定的に被覆層が形成できる。そこで、セラミックス粉末の分散性を試験した。
【0150】
水にバインダーを溶解し、Al
2O
3粉末を混合し、各試験例のスラリーを得た。水とバインダーとAl
2O
3との質量比は、百分率で、水/バインダー/Al
2O
3=60/1.6/38.4とした。各試験例のスラリーの固形分濃度は40質量%であった。
【0151】
試験例1として、バインダーにポリビニルピロリドン(略称PVP)、試験例2として、バインダーにポリビニルアルコール(略称PVA)、試験例3として、バインダーにPVPとPVAの混合物を用いた。PVPとPVAの混合比は質量比で50:50とした。
【0152】
各サンプル瓶に各試験例の混合物を入れた状態で1日、静置させ、水相と固相が分離するか否かを目視で確認した。さらに1日静置後のサンプル瓶の、液体中の各Al
2O
3のキュムラント平均粒径を動的光散乱法によって測定した。結果を表4に示す。キュムラント平均粒径とは、動的光散乱法により得られたデータをCumulant法により解析して算出した平均粒径である。なお、材料のAl
2O
3粉末の粒径は平均粒径D
50が540nmである。
【0153】
【表4】
【0154】
試験例1〜試験例3を比較すると、試験例1は、Al
2O
3のキュムラント平均粒径は一番小さいが、経時で水相と固相とに分離した。試験例2はキュムラント平均粒径が大きく、凝集して肥大していると考えられる。試験例3はキュムラント平均粒径が比較的小さく、なおかつ1日の静置試験後も水相と固相とへの分離は見られなかった。従って水系バインダーとしてPVPとPVAを併用することによって、セラミックス粉末が分散しやすく、またポットライフが長いことがわかった。PVPとPVAの組み合わせが、セラミックス粉末を分散させるとともに沈降させにくいのは、セラミックス粉末をPVPが被覆することでPVP間の立体反発によりセラミックス粉末の分散が促され、さらにセラミックス粉末とPVAとの間で働く水素結合によって、溶液中にセラミックス粉末とPVAとがネットワークを形成し、水相と固相とに分離しにくい安定な溶液が得られるものと考えられる。
【0155】
<分散性試験(分散剤あり)>
分散剤の種類によるセラミックス粉末の分散性試験を行った。
水に水溶性バインダーを溶解し、Al
2O
3粉末及び各分散剤を添加し、ミキサー(株式会社シンキー製、品番:AR−100)で2時間、混合して、下記試験例4〜12のスラリーを得た。試験例4〜12において水とバインダーとAl
2O
3と分散剤の質量比は、百分率で、水/バインダー/Al
2O
3/分散剤=50/2/46/2とした。試験例4〜12のスラリーの固形分濃度は50質量%であった。
【0156】
Al
2O
3粉末として、平均粒径D
50=600nmのAl
2O
3粉末を準備し、水溶性バインダーとしてポリビニルアルコール(略称PVA)(Mw=2200)を準備した。
【0157】
分散剤として、スチレン−アクリル酸共重合体(BASFジャパン株式会社製、品番:HPD96J、Mw=16,500)、スチレン−アクリル酸共重合体(BASFジャパン株式会社製、品番:J−60J、Mw=8,500)、スチレン−アクリル酸共重合体(BASFジャパン株式会社製、品番:J−63J、Mw=12,500)、ポリアクリル酸(略称PAA)(和光純薬工業株式会社製、Mw=250,000)、カルボキシメチルセルロース(略称CMC)、ポリビニルアルコール(略称PVA)(和光純薬工業株式会社製、Mw=2,200)、リン酸エステル系ポリマー(ビックケミージャパン株式会社製、品番BYK180)、ポリエチレングリコール(略称PEG)(Mw=20,000)を準備した。
【0158】
各サンプル瓶に各試験例4〜12のスラリーを入れた状態で1日、静置させ、1日静置後のサンプル瓶の、スラリー中の各Al
2O
3粉末のキュムラント平均粒径を動的光散乱法によって測定した。結果を表5に示す。キュムラント平均粒径とは、動的光散乱法により得られたデータをCumulant法により解析して算出した平均粒径である。なお、材料のAl
2O
3粉末の平均粒径D
50は600nmである。
【0159】
【表5】
【0160】
まず分散剤を入れなかった試験例12のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径は1961nmとなり、Al
2O
3粉末は凝集していることがわかった。一方で、試験例4〜6のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径は全て小さかった。また試験例7〜11のスラリーと、試験例4〜6のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径を比較すると、試験例4〜6のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径が大幅に小さいことがわかった。材料として入れたAl
2O
3粉末の平均粒径D
50が600nmであるので、試験例4〜6のスラリー中のAl
2O
3粉末は、ほとんど凝集せず、良好に分散していることがわかった。
【0161】
ここで試験例10のスラリーに用いた分散剤はリン酸系分散剤である。試験例10のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径は1804nmとなり、分散剤を用いていない試験例12のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径とほとんど同じである。このことからリン酸系分散剤は、この被覆層の材料を用いた場合は分散効果がないことがわかった。試験例8、9及び11のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径は分散剤を用いていない試験例12のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径より若干小さくなったが大幅な低下はなかった。また試験例7のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径は7094nmとなり、分散剤を用いていない試験例12のスラリーのAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径よりも大幅に大きくなった。試験例7のスラリーに添加した分散剤はポリアクリル酸である。ポリアクリル酸はカルボン酸基を有しているが、疎水部は有しておらず、さらに分子量が25万と大変大きい。試験例7のスラリーに添加した分散剤は、分子量が大きすぎてAl
2O
3粉末同士間に橋渡しをおこなってしまい、分散させるどころか、かえって凝集させてしまったことが予測される。
【0162】
また試験例4〜6のスラリーは、1日静置しておいても、水相と固相とには分離していなかった。スラリー中で、Al
2O
3粉末が凝集しにくく、Al
2O
3粉末が沈降しにくいことから試験例4〜6のスラリーは、ポットライフが長いことがわかった。
【0163】
<負極の作製>
(負極活物質層が形成された銅箔の作製)
負極活物質として、平均粒径D
50が5μmのSiO及び天然黒鉛(平均粒径D
50が20μmのSMG(日立化成工業株式会社製))を準備した。バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂(略称PAI)(荒川化学工業株式会社製)を準備した。導電助剤としてアセチレンブラック(略称AB)を準備した。
【0164】
SiO/SMG/AB/PAI=32/50/8/10(質量比)の割合で混合して混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0165】
このスラリーを負極用集電体である厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスし、接合物を得た。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極Bとした。負極Bの負極活物質層の厚みは17μmであった。この負極Bを試験例F15の負極とする。試験例F15の負極は被覆層が形成されていない負極である。
【0166】
(試験例F6の負極)
負極Bに試験例4のスラリーはアプリケーターを用いて塗布した。試験例4のスラリーを塗布した負極Bを200℃で2時間、加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、試験例F6の負極とした。試験例F6の負極の被覆層の厚みは5.1μmであり、その厚みムラは1μmであった。
【0167】
ここで被覆層の厚みは、試験例F6の負極の厚みから負極Bの厚みを引くことで求めた。各負極の厚みは、各負極を5mm間隔で10点測定した結果の平均値とした。また被覆層の厚みムラは、各負極の厚みを5mm間隔で10点測定し、その最大値と最小値との差とした。
【0168】
(試験例F7の負極)
試験例4のスラリーを試験例5のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F7の負極を作製した。試験例F7の負極の被覆層の厚みは4.6μmであり、その厚みムラは1μmであった。
【0169】
(試験例F8の負極)
試験例4のスラリーを試験例6のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F8の負極を作製した。試験例F8の負極の被覆層の厚みは4.4μmであり、その厚みムラは1μmであった。
【0170】
(試験例F9の負極)
試験例4のスラリーを試験例7のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F9の負極を作製した。試験例F9の負極の被覆層の厚みは5.8μmであり、その厚みムラは5μmであった。
【0171】
(試験例F10の負極)
試験例4のスラリーを試験例8のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F10の負極を作製した。試験例F10の負極の被覆層の厚みは5.6μmであり、その厚みムラは3μmであった。
【0172】
(試験例F11の負極)
試験例4のスラリーを試験例9のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F11の負極を作製した。試験例F11の負極の被覆層の厚みは5.1μmであり、その厚みムラは3μmであった。
【0173】
(試験例F12の負極)
試験例4のスラリーを試験例10のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F12の負極を作製した。試験例F12の負極の被覆層の厚みは5.7μmであり、その厚みムラは3μmであった。
【0174】
(試験例F13の負極)
試験例4のスラリーを試験例11のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F13の負極を作製した。試験例F13の負極の被覆層の厚みは6.2μmであり、その厚みムラは4μmであった。
【0175】
(試験例F14の負極)
試験例4のスラリーを試験例12のスラリーに代えた以外は試験例F6の負極と同様にして、試験例F14の負極を作製した。試験例F14の負極の被覆層の厚みは5.8μmであり、その厚みムラは4μmであった。
【0176】
各試験例F6〜F14の負極の被覆層の厚み及び厚みムラの結果及び各スラリー中のAl
2O
3粉末のキュムラント平均粒径を表6に示す。
【0177】
【表6】
【0178】
表6から、試験例F6〜F8の負極の被覆層の厚みムラは、試験例F9〜F14の負極の被覆層の厚みムラより大幅に小さいことがわかった。
【0179】
(ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製)
(試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例F6の負極を負極として用いた試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。
【0180】
正極は以下のように作製した。正極活物質として平均粒径D
50が5μmのLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(略称NCM523)と導電助剤としてアセチレンブラック(品番HS100)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(略称PVDF)とを、それぞれ94質量部、3質量部、3質量部として混合し混合物とした。この混合物を適量のNMPに分散させて、スラリーを作製した。
【0181】
集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。集電体にスラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように塗布した。得られたシートを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した。その後、ロ−ルプレス機により、集電体と集電体上の塗布物を強固に密着接合させた。この時電極密度は3.2g/cm
2となるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱した。加熱後の接合物を、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極とした。正極活物質層の厚さは42μm程度であった。
【0182】
上記正極及び試験例F6の負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極及び試験例F6の負極の間に、セパレータを挟装して極板群とした。セパレータとして、ポリプロピレン樹脂/ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂の3層多孔質膜構造で、正極側及び負極側の両面にアルミナがコートされた矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を用いた。
【0183】
この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに非水電解液を注入した。非水電解液としてフルオロエチレンカーボネート(略称FEC)、エチレンカーボネート(略称EC)と、エチルメチルカーボネート(略称EMC)と、ジメチルカーボネート(略称DMC)をFEC:EC:EMC:DMC=0.4:2.6:3:4(体積比)で混合した溶媒にLiPF
6を1mol/lとなるように溶解し、LiPF
2(C
2O
4)
2を0.01mol/lとなるように溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び非水電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0184】
(試験例D7のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F7の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D7のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0185】
(試験例D8のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F8の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D8のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0186】
(試験例D9のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F9の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D9のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0187】
(試験例D10のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F10の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D10のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0188】
(試験例D11のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F11の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D11のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0189】
(試験例D12のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F12の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D12のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0190】
(試験例D13のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F13の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D13のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0191】
(試験例D14のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F14の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D14のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0192】
(試験例D15のラミネート型リチウムイオン二次電池)
試験例D6のラミネート型リチウムイオン二次電池における試験例F6の負極を試験例F15の負極に変更した以外は試験例D6と同様にして試験例D15のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0193】
<60℃保存試験>
試験例D6、試験例D7、試験例D9、試験例D10及び試験例D15のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いて60℃保存特性を評価した。60℃保存試験は、60℃の温度で4.32Vの電圧をかけた状態で18日間保持した。
【0194】
なお保存試験を行う前にコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電した。
【0195】
またさらにコンディショニング処理後にエージングを行った。エージングでは、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を60℃で12時間、4.32Vに保持した。このエージング後に、25℃で0.2Cで4.5Vまで、CCCV充電をし、10分間保持して、0.33Cで3,0VまでCC放電を行い、10分間保持した。0.33Cでの放電容量を測定し、これを初期容量とした。
【0196】
保存試験後の各ラミネート型リチウムイオン二次電池を初期容量の測定と同様にして0.33Cでの放電容量を測定し、これを60℃保存試験後の容量とした。なお、60℃保存試験の容量維持率は、60℃保存試験後の容量維持率(%)=(60℃保存試験後の容量/初期容量)×100で求めた。結果を表7に示す。
【0197】
【表7】
【0198】
表7からわかるように、試験例D15、試験例D9、試験例D10のラミネート型リチウムイオン二次電池に比較して、試験例D6及び試験例D7のラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存試験後の容量維持率(%)は、大幅に向上した。被覆層の厚みムラを少なくすることによりラミネート型リチウムイオン二次電池の60℃保存特性が向上することがわかった。