特許第6142208号(P6142208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6142208ダイパック、サファイア単結晶育成装置、およびサファイア単結晶の育成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6142208
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ダイパック、サファイア単結晶育成装置、およびサファイア単結晶の育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20170529BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C30B29/20
   C30B15/34
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-142035(P2016-142035)
(22)【出願日】2016年7月20日
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-10313(P2016-10313)
(32)【優先日】2016年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 弘倫
(72)【発明者】
【氏名】古滝 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 数人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 次男
(72)【発明者】
【氏名】矢口 洋一
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0272413(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/20
C30B 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EFG法によるサファイア単結晶の育成に使用するダイパックであって、
前記ダイパックの中心からの距離xにおいて
前記ダイパック中で最も低いダイ高さに対する段差Hを有し、
前記段差Hが、前記xの2次以上4次以下の、1つの共通の関数で規定されることを特徴とするダイパック。
【請求項2】
前記関数が、前記xの2次以上4次以下であり、かつ
前記ダイパックの中心における前記段差Hをc、
前記ダイパックの最も外側における前記段差Hをdとし、
前記ダイパックの幅、長さ、坩堝の直径をそれぞれW、L、φとしたとき、
前記cは、c=L/W/4
前記dは、
【数1】
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のダイパック。
【請求項3】
前記関数が、H=ax3+bx2+cであり、
前記aは、a=L/W/100、
前記cは、c=L/W/4
を満たし、かつ、
前記bが、前記dを満たすように最小二乗法により求められた係数
であることを特徴とする請求項2に記載のダイパック。
【請求項4】
EFG法におけるサファイア単結晶の育成装置であって、請求項1〜3のいずれかに記載のダイパックを用いることを特徴とするサファイア単結晶育成装置。
【請求項5】
EFG法におけるサファイア単結晶の育成方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載のダイパックを使用することを特徴とするサファイア単結晶の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイパック、サファイア単結晶育成装置、およびサファイア単結晶の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶を成長させる方法として、チョクラルスキー(CZ)法、ヒートエクスチェンジ(HEM)法、ベルヌイ法、エッジデファインド・フィルムフェッド・グロース(EFG)法などが知られている。このうち、平板形状の単結晶を製造する方法としてはEFG法が唯一の方法として知られている。EFG法は、所定の結晶方位を有する単結晶を製造する場合に極めて利用価値が高い結晶製造方法であり、EFG法を用いて育成されたサファイア単結晶は、薄板状の基板加工への工数を減らすことができるという利点があることから、青色発光素子のエピタキシャル成長基板をはじめとする様々な用途に用いられている。
【0003】
EFG法を用いたサファイア単結晶の量産方法として、特許文献1が知られている。特許文献1には、一枚の種結晶から複数枚の単結晶材を育成するサファイア単結晶の製造方法とダイパックが開示されている。
【0004】
特許文献2には、EFG法を用いたサファイアリボンの製造方法および製造装置が開示されている。Fig.2には、中央から外側に向かってダイの高さを変化させたダイの形態が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4465481号公報
【特許文献2】米国特許公報2014/272413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人らは、従来からEFG法を用いたサファイア単結晶の生産を行っていたが、さらに量産性を高めるため、坩堝径とダイパックを大型化し育成枚数を増やすことを検討していた。しかしながら、単にダイの枚数を増やしただけでは、結晶欠陥や結晶外形の細りが発生し、結晶品質のばらつきが大きくなることが問題となっていた。このばらつきは、特にダイパックの中心と外側の育成結晶において顕著であることから、ダイパックの枚数方向の温度勾配に起因していると考えられた。
【0007】
このようなEFG法特有の問題に対して、特許文献2のようにダイの高さを変化させる方法が開示されているが、あらゆるサイズの育成結晶に対応できる何らかの法則性を提供するものではなかった。一方、量産性を向上させるためには、あらゆるサイズ、すなわち、結晶幅や厚みの異なるサファイア単結晶を、坩堝径を最大限に生かした枚数で効率良く生産する必要がある。従来、このダイの高さは、育成試験を繰り返すことによって決定していたため、長い時間とコストがかかっていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、サファイア単結晶の結晶品質のばらつきを抑え、量産性を向上させることが可能なダイパックと、これを用いたサファイア単結晶育成装置、およびサファイア単結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、育成試験の結果から、結晶品質のばらつきを抑え、量産性を向上できるダイパックの段差形状を見出した。さらに、育成結晶のサイズに応じたダイパックの段差形状を迅速に決定する手法を見出し、本発明を完成させた。すなわち、
【0010】
(1)本発明に係るEFG法によるサファイア単結晶の育成に使用するダイパックは、ダイパックの中心からの距離xにおいて、ダイパック中で最も低いダイ高さに対する段差Hを有し、この段差Hが、xの2次以上4次以下の、1つの共通の関数で規定されることを特徴とする。
【0011】
(2)また、本発明に係るダイの一実施形態は、この関数が、xの2次以上4次以下であり、かつ、ダイパックの中心における段差Hをc、ダイパックの最も外側における段差Hをdとし、ダイパックの幅、長さ、坩堝の直径をそれぞれW、L、φとしたとき、cは、c=L/W/4、dは、
【数1】
を満たすことを特徴とする。
【0012】
(3)また、本発明に係るダイパックの別の実施形態は、この関数が、H=ax3+bx2+cであり、aは、a=L/W/100、cは、c=L/W/4を満たし、かつ、bが、dを満たすように最小二乗法により求められた係数であることを特徴とする。
【0013】
(4)また、本発明に係るサファイア単結晶の育成装置は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のダイパックを用いることを特徴とする。
【0014】
(5)また、本発明に係るサファイア単結晶の育成方法は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のダイパックを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サファイア単結晶の結晶品質のばらつきを抑え、量産性を向上させることが可能なダイパックと、これを用いたサファイア単結晶育成装置、およびサファイア単結晶の育成方法を提供することができる。また、長い時間やコストをかけることなくダイパックの段差を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るダイパックを説明する図である。
図2】本発明に係るダイパックの距離xと段差Hの関係を示すグラフである。
図3】EFG法の坩堝とダイパックを示す概略構成図である。
図4】EFG法によるサファイア単結晶製造装置を示す概略構成図である。
図5】(a) 本発明の実施形態における種結晶とダイおよびダイパックの位置関係を模式的に示す図である。(b) 本発明の実施形態における、種結晶の一部を溶融する様子を示す説明図である。 (c) 本発明の実施形態における、ネッキング工程およびスプレーディング工程を示す図である。
図6】本発明により得られる複数枚のサファイア単結晶を模式的に示す図である。
図7】本実施例1および比較例1の結果を示すグラフである。
図8】本実施例2および比較例2の結果を示すグラフである。
図9】本実施例3および比較例3の結果を示すグラフである。
図10】本実施例4および比較例4の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に本発明に係るダイパックの一例を示す。本明細書中で記載する「ダイ」(101)とは、一対の仕切り板(201,201)によって構成されるものを呼ぶものとする。そして「ダイパック」(102)とは、前記ダイ101が複数組互いのスリットが平行になるように対向配置したものを呼ぶものとする。
【0018】
ダイ101において、対向する仕切り板201は同一の平板形状を有し、微少間隙(スリット202)を形成するように平行に配置されている。原料溶融液は、該微小間隙を伝ってダイ上部に導かれ、原料溶融液面を形成する。
【0019】
図1に示すように、本発明のダイパックは、ダイパックの中心(x=0)からの距離xにおいて、ダイパック中で最も低いダイ高さに対する段差Hを有し、この段差Hが、xの2次以上4次以下の関数で規定されるように構成される。以下の説明では、xとは絶対値のことを意味するものとする。すなわち、段差Hは、xに対して曲線的に変化するのが好ましく、その中でも、2次関数、3次関数、又は4次関数的に変化する構成とするのが好ましい。これは、本発明者らが実際に数種類のダイパックを準備して行った育成試験の結果導出されたものであり、育成結晶の幅、厚み、枚数やダイパックの大きさ、坩堝の大きさ等にはよらないものである。
【0020】
「段差H」とは、図1に例示するように、ダイパック中で最も低いダイ高さh1と、最も低いダイを除くその他のダイ高さh2との差である。なお、図1では一例として、x=0においてダイ高さが最も低いダイパックを示しているが、後述する実施例及び比較例の結果を示す図7〜10を見ると分かるように、ダイ高さが最も低くなる位置が必ずしもダイパックの中心、すなわちx=0の位置になるとは限らない。また、段差Hは、ダイの上面の同じ位置同士(例えば図1中、h1およびh2の矢印が示す点)で計測されるものとする。ダイの上面の形状が図1のようにV字型であっても、あるいは水平面であっても、ダイの上面の同じ位置同士での差をとるものとする。また、段差Hは、ダイの側面で計測されるものとし、ダイの幅方向の形状は特に限定されない。
【0021】
段差Hをxの2次以上4次以下の関数となるように構成することによって、ダイパックの中心と外側での温度勾配がより緩やかになるため、結晶品質のばらつきを抑えることができる。曲線が5次以上の関数になると、特にダイパックの中心付近において良好な温度勾配が得られないため、好ましくない。
【0022】
さらに、本発明者らの育成試験による検証によれば、段差Hが、xの2次以上4次以下の関数で規定されることに加えて、ダイパックの中心と最も外側の段差Hが以下の条件を満たす構成とするのが好ましい。図3に示すように、直径φの坩堝の中に、長さL、幅Wを有するダイパックを設置する場合を考える。この場合、ダイパックの中心からの距離xと段差Hとの関係は、図2に示すように、xの2次以上4次以下の関数で規定されることに加えて、ダイパックの中心(x=0)における段差c、およびダイパックの最も外側(x=L/2)における段差dが、
c=L/W/4、および
【数2】
を満たす構成とするのが好ましい。
【0023】
このような構成とすることによって、結晶品質のばらつきを抑えるという効果に加え、ダイパックの初期設計で特に重要となるダイパックの中心と最も外側の段差Hを迅速に決定できる。この手法は、本発明者らが育成試験の結果をもとに検証し、あらゆるサイズのサファイア単結晶を効率良く生産するために見出した手法である。
【0024】
さらに本発明者らの検証によれば、ダイパックの中心と最も外側の段差Hを上記の構成とすることに加え、段差Hが、H=ax3+bx2+cを満たす構成とするのが最も好ましい。本発明者らが見出した手法によれば、係数であるa, b, cは以下の手順で求められる。
【0025】
図3に示すように、直径φの坩堝の中に、長さL、幅Wを有するダイパックを設置するものとする。このとき、係数aはa= L/W/100として求めることができる。係数cは上述したようにc=L/W/4として求めることができる。ここで、係数bは、ダイパックの最も外側(x=L/2)において段差H=dを満たすように最小二乗法によって調整された値となる。
【0026】
以上述べたように、本発明のダイパックは、段差Hを、坩堝の直径φ、ダイパックの長さL、ダイパックの幅Wといった簡単なパラメータを用いて計算により求めることが可能である。また、上記計算式により求められた段差形状を最終形状とせず、初期設計として用いてもよい。すなわち、初期設計のダイパックを用いて育成試験を行い、育成結晶の状態から段差を微調整した結果、段差の曲線が最終的に2次関数や4次関数になってもよい。上記計算式を用いた初期設計を行うことにより、目安となる段差形状が示されるため、育成試験が必要な場合でも大幅にその回数を減らすことが可能となり、時間とコストの両方に対する効果を有する。
【0027】
本発明によれば、長い時間やコストをかけることなく、ダイパックの段差形状を決定できるため、結晶品質のばらつきのないサファイア単結晶およびサファイア基板の量産が可能になる。さらに、ダイパックの設計が容易になるという効果をも有する。本発明のダイパックは、EFG法で用いるものであればサファイア以外の単結晶にも適用できる。
【0028】
本発明のダイパックの材質は、サファイア単結晶育成時において2000℃を超える高温下での使用に適している高融点金属のモリブデン又はモリブデンの合金が好ましい。
【0029】
本発明のダイパックを設置する坩堝の直径φは、量産への実用上、150mm以上500mm以下であることが望ましい。
【0030】
本発明のダイパックにおいて、ダイパックの長さLは、坩堝直径の30%以上80%以下であることが望ましい。30%以下に設定すると育成枚数が少なくなるため量産効率が悪くなり、80%以上に設定すると安定したダイパックの温度分布が得られにくいため好ましくない。
【0031】
上記と同様の理由により、ダイパックの幅Wおよび対角方向の長さも、坩堝直径の30%以上80%以下であることが望ましい。
【0032】
図1に示すように、育成結晶の厚みに対応するダイ101の厚みtは、1mm以上10mm以下とすることが望ましい。厚みtを1mm以上とすることで、育成されたサファイア単結晶自身の強度と自立性を確保することができる。さらに、サファイア基板に加工する場合でも、十分な加工しろを確保することができる。また、厚みtが10mmを超えると結晶品質に優れたサファイア単結晶を得ることが困難となるため、10mm以下とするのが好ましい。
【0033】
また本発明のダイパックにおいて、育成結晶の枚数に対応するダイ101の組数は、2以上80以下とすることが好ましい。育成結晶の枚数は、上述したダイパック長さLおよび厚みtによって制限を受けるものであるが、量産性を考慮しても、その数が80を超えると枚数方向の温度バランス調整が難しくなるため好ましくない。
【0034】
以下、本発明に係るダイパックを使用して、EFG法においてサファイア単結晶を育成する方法について、図4図6を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
図4に示すように、サファイア単結晶の製造装置3は、サファイア単結晶を育成する育成容器4と、育成したサファイア単結晶を引き上げる引き上げ容器5とから構成され、EFG法により複数枚のサファイア単結晶20(以下、単にサファイア単結晶20と記載する)を成長させる。
【0036】
育成容器4は、坩堝6、坩堝駆動部7、ヒータ8、電極9、ダイパック102、および断熱材10を備える。坩堝6はモリブデン又はモリブデンの合金製であり、酸化アルミニウム原料を溶融する。坩堝駆動部7は、坩堝6をその鉛直方向を軸として回転させる。ヒータ8は坩堝6を加熱する。また、電極9はヒータ8を通電する。
【0037】
ダイパック102は坩堝6内に設置され、サファイア単結晶を引き上げる際の酸化アルミニウム融液(以下、必要に応じて単に「融液」と表記)の液面形状を決定する。また断熱材10は、坩堝6とヒータ8とダイパック102を取り囲んでいる。
【0038】
更に育成容器4は、雰囲気ガス導入口11と排気口12を備える。雰囲気ガス導入口11は、雰囲気ガスとして例えばアルゴンガスを育成容器4内に導入するための導入口であり、坩堝6やヒータ8、およびダイパック102の酸化消耗を防止する。一方、排気口12は育成容器4内を排気するために備えられる。
【0039】
引き上げ容器5は、シャフト13、シャフト駆動部14、ゲートバルブ15、および基板出入口16を備え、種結晶21から結晶成長した複数枚のサファイア単結晶20を引き上げる。シャフト13は種結晶21を保持する。またシャフト駆動部14は、シャフト13を坩堝6に向けて昇降させると共に、その昇降方向を軸としてシャフト13を回転させる。ゲートバルブ15は育成容器4と引き上げ容器5とを仕切る。また基板出入口16は、種結晶21を出し入れする。
【0040】
なお製造装置3は、図示されない制御部も有し、この制御部により坩堝駆動部7およびシャフト駆動部14の回転を制御する。
【0041】
次に、前記製造装置3を使用したサファイア単結晶20の製造方法について、図4図6を参照しながら説明する。最初にサファイア単結晶の原料である造粒された酸化アルミニウム原料粉末(99.99%酸化アルミニウム)をダイパック102が収納された坩堝6に所定量投入して充填する。酸化アルミニウム原料粉末には、製造しようとするサファイア単結晶の純度又は組成に応じて、酸化アルミニウム以外の化合物や元素が含まれていても良い。
【0042】
続いて、坩堝6やヒータ8若しくはダイパック102を酸化消耗させないために、育成容器4内をアルゴンガスで置換し、酸素濃度を所定値以下とする。
【0043】
次に、ヒータ8で加熱して坩堝6を所定の温度とし、酸化アルミニウム原料粉末を溶融する。酸化アルミニウムの融点は2050℃〜2072℃程度なので、坩堝6の加熱温度はその融点以上の温度(例えば2100℃)に設定する。加熱後しばらくすると原料粉末が溶融して、酸化アルミニウム融液17が用意される。図5(a)に示すように、融液の一部はダイのスリット202を毛細管現象により上昇してダイパック102の表面に達し、スリット上部に融液溜まり18が形成される。
【0044】
次に、図5(b)に示すように、スリット上部の融液溜まり18の長手方向に対して垂直な角度に種結晶21を保持しつつ、種結晶21の下端が全てのダイの融液溜まり18の融液面に接触するまで降下させる。なお、種結晶21は、予め基板出入口16から引き上げ容器5内に導入しておく。
【0045】
図5(a),(b)に示す種結晶21の形状は一例である。種結晶21の平面方向とダイパック102の長手方向が、互いに90°の角度で直交となるように配置されることによって、一枚の種結晶から複数枚のサファイア単結晶を同時に育成することが可能となる。従って、育成されたサファイア単結晶20の平面方向も、種結晶21の平面方向に90°の角度で以て直交することになる。
【0046】
次に、図5(c)に示すようにネック部分22を形成する。具体的には、まずシャフト13により基板保持具を高速で上昇させながら細いネック部分22を作製(ネッキング)する。以降ではこの工程をネッキング工程と称する。
【0047】
ネッキング工程を経た後、ヒータ8を制御して坩堝6の温度を降下させると共に、基板保持具の上昇速度を所定の速度に設定し、種結晶21を中心に、サファイア単結晶20をダイパックの幅方向に拡幅するように結晶成長させる(スプレーディング工程)。
【0048】
サファイア単結晶20が、ダイの全幅まで拡幅すると(フルスプレッド)、ダイパックの幅Wで規定される結晶幅を有する直胴部分23の育成が開始される(直胴工程)。直胴工程では、互いに略平行で対向する側面で規定される直胴部分を有する複数のサファイア単結晶20が製造される。直胴長さは特に限定されないが、2インチ以上(50.8mm以上)が好ましい。
【0049】
前述のネッキング工程、スプレーディング工程および直胴工程を経て、図6に示すようなサファイア単結晶20が得られる。
【0050】
この後、得られたサファイア単結晶20を放冷し、ゲートバルブ15を空け、引き上げ容器5側に移動して、基板出入口16から取り出す。
【0051】
尚、種結晶21の結晶面を任意に設定することで、サファイア単結晶20の主面の結晶面も任意に変更することが可能となる。サファイア単結晶20の主面は、a面に限定されず、例えばc面、r面、m面等、所望の結晶面に設定することが可能である。
【0052】
図6に示すように、本発明のダイパックを用いて育成されたサファイア単結晶20は、種結晶と少なくとも直胴部分を有し、前記直胴部分の下端が前記各ダイの段差Hに応じた段差形状を有している。さらに、ダイパックの温度勾配が良好な状態で結晶育成が行われるため、直胴部分に結晶外形の細りが発生せず、育成結晶幅および厚みが均一なサファイア単結晶が得られる。
【0053】
また同様の理由で、直胴部分に線欠陥(slip)や結晶粒界(grain boundary)等の結晶欠陥のない結晶品質に優れたサファイア単結晶が得られる。「直胴部分に結晶欠陥を有さない」とは、育成結晶の直胴部分のうち、基板加工に使用される領域に上記のような結晶欠陥が存在しないことを意味する。具体的には、育成結晶の幅に対し95%以内の領域に結晶欠陥がないことを意味する。
【0054】
以上説明したような製造装置3、およびダイパック102を用いることにより、共通の種結晶21から結晶品質にばらつきのないサファイア単結晶20を製造することが出来るため、サファイア単結晶の量産性を向上させることが可能となる。このようにして得られたサファイア単結晶に研磨加工を施し、サファイア基板を提供することができるため、サファイア基板の量産性をも向上させることが可能となる。
【実施例】
【0055】
図1に一例として示すダイパック102および図4に示すサファイア単結晶製造装置を用いて、上述した方法でc面を主面とする複数のサファイア単結晶20を製造した。
【0056】
表1に実施例1〜4で使用したダイパックの長さL、幅W、および坩堝の直径φの条件を示す。また、実施例1〜4のダイパックを用いてサファイア単結晶を育成した結果、結晶欠陥や結晶外形の細りが発生せず、最も良好な育成が行われたダイパックの段差Hを◆印でプロットし、図7〜10に示す。
【比較例】
【0057】
表2の比較例1〜4には、実施例1〜4と同じL、W、φの条件を用いて、すでに説明した方法により求められた係数a、c、dを示す。また、係数bを調整し得られた曲線を図7〜10に示す。
【0058】
図7〜10に示すように、最も良好な育成が行われたダイパックの段差Hの変化は、xの2次以上4次以下の関数として規定されることがわかった。さらに、計算によって求めた比較例1〜4の曲線は、実際の段差形状を示す実施例1〜4の結果とよく合うという結果が得られた。従って、計算によって段差形状を決定する本発明の手法は有効であるという結果が示された。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【符号の説明】
【0061】
101 ダイ
102 ダイパック
201 仕切り板
202 スリット
3 サファイア単結晶の製造装置
4 育成容器
5 引き上げ容器
6 坩堝
7 坩堝駆動部
8 ヒータ
9 電極
10 断熱材
11 雰囲気ガス導入口
12 排気口
13 シャフト
14 シャフト駆動部
15 ゲートバルブ
16 基板出入口
17 酸化アルミニウム融液
18 酸化アルミニウム融液溜まり
20 複数枚のサファイア単結晶
21 種結晶
22 ネック部分
23 直胴部分
L ダイパックの長さ
W ダイパックの幅
φ 坩堝の直径
【要約】
【課題】
EFG法によるサファイア単結晶育成に使用するダイパックにおいて、枚数方向の段差Hを迅速に決定することにより、サファイア単結晶の結晶品質のばらつきを抑え、量産性を向上させることが可能なダイパックと、これを用いたサファイア単結晶育成装置、およびサファイア単結晶の育成方法を提供すること。
【解決手段】
ダイパックの中心からの距離xにおいて、ダイパック中で最も低いダイ高さに対する段差Hを有し、段差Hが、xの2次以上4次以下の関数で規定されるように構成される。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10