特許第6188289号(P6188289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188289熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188289
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   E04B1/94 R
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-164235(P2012-164235)
(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-25213(P2014-25213A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127579
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌己
(72)【発明者】
【氏名】矢野 秀明
(72)【発明者】
【氏名】岩曽 完
【審査官】 生駒 勇人
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3171133(JP,U)
【文献】 特開2010−216228(JP,A)
【文献】 特開2003−105890(JP,A)
【文献】 特開2012−072649(JP,A)
【文献】 特開2002−013224(JP,A)
【文献】 特開平03−000235(JP,A)
【文献】 特開2010−138612(JP,A)
【文献】 特開平11−117422(JP,A)
【文献】 特開2008−031802(JP,A)
【文献】 山本泰四郎,建築大辞典,日本,彰国社,1993年 6月10日,第2版(普及版),1388、1389
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62−94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に対向する二本のフランジおよび前記フランジを両端に連結した一本のウェブからなる断面H字状の鉄骨と、前記鉄骨を前記鉄骨の長手方向に覆う二以上の熱膨張性耐火シートと、を有する鉄骨の耐火被覆構造に形成された前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分のうち、前記二本のフランジ間にある前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分であって、前記熱膨張性耐火シートの内側面と外側面とが接するように重ね合わせて形成された継ぎ目の重なり部分に、前記熱膨張性耐火シートの外側面から尖った先端を有する不燃性ねじを回転させ、前記重なり部分に挿通させて固定し、挿通した前記尖った先端を有する不燃性ねじの先端が前記熱膨張性耐火シートの内側から露出していることを特徴とする、熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項2】
前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分が、第一の熱膨張性耐火シートと第二の熱膨張性耐火シートにより形成され、
(1)前記尖った先端を有する不燃性ねじの先端を第一の熱膨張性耐火シートの外側の表面に接触させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記第一の熱膨張性耐火シートを挿通させるステップと、
(2)前記第一の熱膨張性耐火シートを挿通した前記尖った先端を有する不燃性ねじの先端を第二の熱膨張性耐火シートの外側の表面に接触させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記第二の熱膨張性耐火シートを挿通させるステップと、
(3)前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記第二の熱膨張性耐火シートを、前記第一の熱膨張性耐火シート側に引き付けるステップと、
を有する、請求項1に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項3】
前記尖った先端を有する不燃性ねじが、ねじ軸部とねじ頭部とを有し、
前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させることにより、前記第一の熱膨張性耐火シートが、前記ねじ頭部と前記第二の熱膨張性耐火シートとの間に密着して固定される、請求項2に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項4】
(4)開口部を有する固定補助具の前記開口部に前記尖った先端を有する不燃性ねじを挿通させるステップを有し、
前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させることにより、前記第一の熱膨張性耐火シートが、前記固定補助具と前記第二の熱膨張性耐火シートとの間に密着して固定される、請求項3に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項5】
前記熱膨張性耐火シートが、熱膨張性樹脂組成物層と不燃材層とを含み、前記不燃材層が前記熱膨張性耐火シートの最外面に配置されている、請求項1〜4のいずれかに記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項6】
前記鉄骨に拡張具が設置され、前記熱膨張性耐火シートが、前記鉄骨および前記拡張具を覆う、請求項1〜5のいずれかに記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項7】
前記拡張具が、下記(a)、(b)および(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項6に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
(a)前記鉄骨の下フランジの端部に設置される可燃部材
(b)前記鉄骨の上フランジと下フランジとの間に設置される可燃部材
(c)前記鉄骨の下フランジの外面に設置される可燃部材
【請求項8】
前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記拡張具に前記尖った先端を有する不燃性ねじを侵入させるステップを有する、請求項6または7に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項9】
前記熱膨張性耐火シートの一方の表面と他方の表面とを綴じる結合部が、前記鉄骨の長手方向に沿って前記熱膨張性耐火シートに連続または断続して設置されている、請求項1〜8のいずれかに記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法。
【請求項10】
平行に対向する二本のフランジおよび前記フランジを両端に連結した一本のウェブからなる断面H字状の鉄骨と、前記鉄骨を前記鉄骨の長手方向に覆う二以上の熱膨張性耐火シートと、を有する鉄骨の耐火被覆構造に形成された前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分のうち、前記二本のフランジ間にある前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分であって、前記熱膨張性耐火シートの内側面と外側面とが接するように重ね合わせて形成された継ぎ目の重なり部分に、前記熱膨張性耐火シートの外側面から尖った先端を有する不燃性ねじが、前記重なり部分に回転しながら挿通された状態で固定されており、挿通された前記尖った先端を有する不燃性ねじの先端が前記熱膨張性耐火シートの内側から露出していることを特徴とする、熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法に関し、詳しくは鉄骨の耐火被覆構造に使用される熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
戸建住宅、集合住宅、高層ビル、各種商業施設等の建築物は複数の建築材料から形成されているが、建築物に採用される代表的な建築材料の一つに鉄骨がある。
この鉄骨は火災等の熱にさらされた場合、鉄骨の主成分である鉄の融点に到達しない温度であっても鉄骨の強度が大幅に減少する。
鉄骨が火災等の熱にさらされると、鉄骨が融ける1500℃以上の温度に到達する前に鉄骨が座屈等を起こし、一定形状を保つことができなくなる。この結果、建築物が倒壊等する場合もある。
火災等の熱により建築物が簡単に倒壊等すると避難活動、消防活動等の妨げとなるため、建築材料に使用される鉄骨に対して適切な耐火被覆を行うことが求められている。
【0003】
図28は第一の従来の鉄骨の耐火被覆構造を示した模式斜視図である。第一の従来の鉄骨の耐火被覆構造500は鉄骨1を熱膨張性耐火シート10により覆うことにより得られるが、その構造の詳細は次の通りである。
図28に示されるように鉄骨1に床材501が設置されている。この鉄骨1を覆う様に熱膨張性耐火シート10が設置され、留め具11により、前記熱膨張性耐火シート10が前記床材501に固定されている。
また二以上の前記熱膨張性耐火シート10,10が前記鉄骨1の長手方向に配置されている。前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目には重なり部分が設けられていて、前記重なり部分は接着剤により固定されている(特許文献1)。
前記従来の鉄骨の耐火被覆構造500によれば、前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目に隙間が生じず、耐火性に優れるとされる。
【0004】
図29は第二の従来の鉄骨の耐火被覆構造を示した模式斜視図である。先の第一の従来の鉄骨の耐火被覆構造500は前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目には重なり部分が設けられていて、前記重なり部分は接着剤により固定されていた。
これに対して第二の従来の鉄骨の耐火被覆構造510の場合は、前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分が鉄骨1に対して溶接ピン12のみで留められている点が異なる。
図29の場合では前記溶接ピン12は前記熱膨張性耐火シート10,10を挿通して鉄骨1に溶接されている(特許文献2)。
前記従来の鉄骨の耐火被覆構造510は、耐火性および施工性に優れるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3171133号公報
【特許文献2】特開2006−161435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし本発明者らが第一の従来の鉄骨被覆構造500、第二の従来の鉄骨被覆構造510等を検討した結果、次の問題があることに気がついた。
先に説明した図28および図29の場合はそれぞれ第一の従来の鉄骨被覆構造500と第二の従来の鉄骨被覆構造510とが設計通りに施工されているならそれぞれの前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分に隙間は存在しないはずである。
ところが実際には前記熱膨張性耐火シート10,10により鉄骨1を覆う際に生じた前記熱膨張性耐火シート10,10のしわ、弛み等が原因となって前記重なり部分に隙間が生じる場合のあることを本発明者らは発見した。
さらに本発明者らが検討を続けると、第一の従来の鉄骨被覆構造500、第二の従来の鉄骨被覆構造510等が火災等の熱にさらされた場合に、前記重なり部分に明らかな隙間が生じる場合のあることも突き止めた。
【0007】
前記床材501の下に設置された前記鉄骨1は、火災等の熱にさらされると中央部がたわむ。前記鉄骨1がたわむと前記鉄骨1を覆っている前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分が開く。
さらに火災等の熱により鉄骨1の下フランジ3が加熱されると前記鉄骨1の下フランジ3は膨張する。この下フランジ3の膨張および膨張に伴う歪みにより前記鉄骨1の周囲を覆う前記熱膨張性耐火シート10,10に対する張力、捻れが増加し、前記鉄骨1を覆っている前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分はさらに開く。
火災等の熱により鉄骨1が加熱され続けると前記熱膨張性耐火シート10,10はそれぞれ膨張する。
しかし前記鉄骨1の周囲を覆う前記熱膨張性耐火シート10,10に対する張力、捻れ等の作用より、前記鉄骨1の外側にある前記熱膨張性耐火シート10は鉄骨1の外側に膨張するが、前記鉄骨1の内側にある前記熱膨張性耐火シート10は鉄骨1の内側に膨張する場合がある。
この場合には、膨張した前記熱膨張性耐火シート10,10により形成されたそれぞれの膨張残渣同士に隙間が生じる。
前記熱膨張性耐火シート10,10により形成されたそれぞれの膨張残渣同士に隙間が生じると、この隙間を通して火災等の熱が直接鉄骨1に伝わるため、期待される耐火性能が発揮されず、前記鉄骨1が短時間で座屈を起こす可能性が考えられる。
【0008】
前記熱膨張性耐火シート10,10により形成されたそれぞれの膨張残渣同士に隙間が生じる問題を防止するためには、例えば、前記熱膨張性耐火シート10,10により前記鉄骨1を覆う前に、前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を耐熱糸等によりあらかじめ縫い合わせておく方法、前記重なり部分の表と裏からボルトおよびナット等を使用して前記重なり部分をあらかじめ固定しておく方法等により、前記熱膨張性耐火シート10,10同士を最初に連結しておく方法も考えられる。
しかしながら前記熱膨張性耐火シート10,10同士を最初に連結しておく方法では、前記連結された前記熱膨張性耐火シート10,10が前記鉄骨1の長手方向に長くなるため、実際に前記鉄骨1を覆う工程が非常に難しくなる。
また連結された前記熱膨張性耐火シート10,10を施工現場に搬入する工程、前記熱膨張性耐火シート10,10により前記鉄骨1を覆う工程等の過程で前記熱膨張性耐火シート10,10に不具合を発見したり、損傷を与えたりした場合には、施工者は連結された前記熱膨張性耐火シート10,10全体を取り替えなければならず、施工に時間を要するばかりか施工費用増大の原因にもなり好ましくない。
【0009】
本発明の目的は、前記鉄骨を二以上の熱膨張性耐火シートにより覆った後に生じる前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を簡単に固定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、鉄骨を覆う熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を、尖った先端を有する不燃性ねじにより固定する方法が本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
[1]平行に対向する二本のフランジおよび前記フランジを両端に連結した一本のウェブからなる断面H字状の鉄骨と、前記鉄骨を前記鉄骨の長手方向に覆う二以上の熱膨張性耐火シートと、を有する鉄骨の耐火被覆構造に形成された前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分のうち、前記二本のフランジ間にある前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を、尖った先端を有する不燃性ねじを回転させ、前記重なり部分に挿通させて固定することを特徴とする、熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0012】
また本発明の一つは、
[2]前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分が、第一の熱膨張性耐火シートと第二の熱膨張性耐火シートにより形成され、
(1)前記尖った先端を有する不燃性ねじの先端を第一の熱膨張性耐火シートの外側の表面に接触させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記第一の熱膨張性耐火シートを挿通させるステップと、
(2)前記第一の熱膨張性耐火シートを挿通した前記尖った先端を有する不燃性ねじの先端を第二の熱膨張性耐火シートの外側の表面に接触させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記第二の熱膨張性耐火シートを挿通させるステップと、
(3)前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記第二の熱膨張性耐火シートを、前記第一の熱膨張性耐火シート側に引き付けるステップと、
を有する、上記[1]に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0013】
また本発明の一つは、
[3]前記尖った先端を有する不燃性ねじが、ねじ軸部とねじ頭部とを有し、
前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させることにより、前記第一の熱膨張性耐火シートが、前記ねじ頭部と前記第二の熱膨張性耐火シートとの間に密着して固定される、上記[2]に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0014】
また本発明の一つは、
[4](4)開口部を有する固定補助具の前記開口部に前記尖った先端を有する不燃性ねじを挿通させるステップを有し、
前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させることにより、前記第一の熱膨張性耐火シートが、前記固定補助具と前記第二の熱膨張性耐火シートとの間に密着して固定される、上記[3]に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0015】
また本発明の一つは、
[5]前記熱膨張性耐火シートが、熱膨張性樹脂組成物層と不燃材層とを含み、前記不燃材層が前記熱膨張性耐火シートの最外面に配置されている、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0016】
また本発明の一つは、
[6]前記鉄骨に拡張具が設置され、前記熱膨張性耐火シートが、前記鉄骨および前記拡張具を覆う、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0017】
また本発明の一つは、
[7]前記拡張具が、下記(a)、(b)および(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、上記[6]に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
(a)前記鉄骨の下フランジの端部に設置される可燃部材
(b)前記鉄骨の上フランジと下フランジとの間に設置される可燃部材
(c)前記鉄骨の下フランジの外面に設置される可燃部材
【0018】
また本発明の一つは、
[8]前記尖った先端を有する不燃性ねじを回転させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじを前記拡張具に侵入させるステップを有する、上記[6]または[7]に記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0019】
また本発明の一つは、
[9]前記熱膨張性耐火シートの一方の表面と他方の表面とを綴じる結合部が、前記鉄骨の長手方向に沿って前記熱膨張性耐火シートに連続または断続して設置されている、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を提供するものである。
【0020】
また本発明は、
[10]平行に対向する二本のフランジおよび前記フランジを両端に連結した一本のウェブからなる断面H字状の鉄骨と、前記鉄骨を前記鉄骨の長手方向に覆う二以上の熱膨張性耐火シートと、を有する鉄骨の耐火被覆構造に形成された前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分のうち、前記二本のフランジ間にある前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分に、尖った先端を有する不燃性ねじが、前記重なり部分に回転しながら挿通された状態で固定されており、挿通された前記尖った先端を有する不燃性ねじの先端が前記熱膨張性耐火シートから露出していることを特徴とする、熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
鉄骨を熱膨張性耐火シートにより覆って鉄骨の耐火被覆構造を施工した後は、外側から鉄骨の二本のフランジ間にある前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定することが困難であった。
これに対し本発明によれば、外側から鉄骨の二本のフランジ間にある前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を簡単に固定することができる。
【0022】
また従来の鉄骨の耐火被覆構造の場合、鉄骨の二本のフランジ間にある前記熱膨張性耐火シートの熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定するためには、前記鉄骨を前記熱膨張性耐火シートにより覆う前に前記熱膨張性耐火シートの熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を前もって固定しておく必要があった。
これに対し本発明によれば、前記鉄骨を前記熱膨張性耐火シートにより覆う前に熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定する必要がないことから、前記熱膨張性耐火シートの重なり部分が固定された鉄骨の耐火被覆構造の生産性に優れる。
【0023】
また従来の鉄骨の耐火被覆構造は、火災等の熱にさらされた場合に鉄骨の膨張による変形等の原因により前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分が開く場合があった。
これに対し、本発明の熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法によれば、前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定することができるので、前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分が開くことを防止することができる。
この結果、火災等の熱が鉄骨に直接達するのを防止することができ、鉄骨の耐火被覆構造の耐火性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施例1に使用する鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図である。
図2図2は、実施例1に係る熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を説明するための模式斜視図である。
図3図3は、前記尖った先端を有する不燃性ねじにより前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定するステップを説明するための模式断面図である。
図4図4は、前記尖った先端を有する不燃性ねじにより前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定するステップを説明するための模式断面図である。
図5図5は、前記尖った先端を有する不燃性ねじにより前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定するステップを説明するための模式断面図である。
図6図6は、前記尖った先端を有する不燃性ねじにより前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定するステップを説明するための模式断面図である。
図7図7は、実施例2に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図である。
図8図8は、実施例2に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
図9図9は、本発明に使用する拡張具の形状を説明するための斜視図である。
図10図10は、本発明に使用する拡張具の形状を説明するための斜視図である。
図11図11は、本発明に使用する拡張具の形状を説明するための斜視図である。
図12図12は、本発明に使用する拡張具の形状を説明するための斜視図である。
図13図13は、本発明に使用する拡張具の形状を説明するための斜視図である。
図14図14は、本発明に使用する拡張具の一実施形態を説明するための平面図である。
図15図15は、本発明に使用する拡張具の一実施形態を説明するための斜視図である。
図16図16は、本発明に使用する拡張具の一実施形態を説明するための平面図である。
図17図17は、本発明に使用する拡張具の一実施形態を説明するための斜視図である。
図18図18は、本発明に使用する拡張具を鉄骨に設置した状態を説明するための模式斜視図である。
図19図19は、本発明に使用する拡張具を鉄骨に設置した状態を説明するための模式斜視図である。
図20図20は、実施例3に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図である。
図21図21は、実施例3に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
図22図22は、実施例4に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図である。
図23図23は、実施例4に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
図24図24は、実施例5に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図である。
図25図25は、実施例5に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
図26図26は、実施例6に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図である。
図27図27は、実施例6に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
図28図28は、第一の従来の鉄骨の耐火被覆構造を示した模式斜視図である。
図29図29は、第二の従来の鉄骨の耐火被覆構造を示した模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照しつつ、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は、実施例1に使用する鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図である。
図1に例示された鉄骨1は、その断面がH字状の構造を有するものであり、2本のフランジ2,3と1本のウェブ4とを備えるものである。前記2本のフランジ2,3のうち、上フランジ2と下フランジ3とは平行に対向していて、上フランジ2および下フランジ3の中央部に前記ウェブ4の両端が接続されている。
この鉄骨1は公知であり、市販品等を適宜選択して使用することができる。
【0027】
ここで前記鉄骨1は建物の床や天井等の構造材5を支える梁としての機能を有するものであり、前記構造材5と直接または金属接続部材等を介してボルト、溶接等の固定手段により固定されている(図示せず)。
なお図1では前記鉄骨1が梁として水平方向に設置された場合について説明しているが、前記鉄骨1を柱として垂直方向に設置した場合も同様に本発明に使用することが可能である。
【0028】
前記鉄骨1は熱膨張性耐火シート10により覆われている。
前記熱膨張性耐火シート10を、ビス、タッカー、溶接ピン、ボルト、タッピングねじ等の固定手段により前記鉄骨1および前記構造材5の少なくとも一方に対して固定することができる。
図1の場合ではビス11により、前記熱膨張性耐火シート10が、床や天井等に対応する前記構造材5に固定されている。
【0029】
必要に応じて前記熱膨張性耐火シート10の端面を、溶接ピン等の固定手段により前記鉄骨1に固定することもできる。
前記構造材5に対して前記熱膨張性耐火シート10を固定する際には、例えば前記構造材5に予め埋込ピン等の突起物を設置しておき、外側から押して前記熱膨張性耐火シート10に前記突起物を貫通させ、前記突起物の貫通部分を曲げる等の固定手段等によっても固定することも可能である。
【0030】
図2は、実施例1に係る熱膨張性耐火シートの重なり部分の固定方法を説明するための模式斜視図である。
図2に示されるように、前記鉄骨1の長手方向に250mm毎に前記熱膨張性耐火シート10が前記構造材5に対してビス11により固定されている。
前記熱膨張性耐火シート10を前記構造材5および鉄骨1の少なくとも一方に固定する際には、前記ビスなどの固定部材は、鉄骨1の長手方向を基準として10〜1000mm間隔で設置することが好ましく、200〜500mmの範囲であれば好ましい。
【0031】
また実施例1の場合では前記熱膨張性耐火シート10,10が二枚以上使用されていて、図2に示されるように、前記熱膨張性耐火シート10,10同士の継ぎ目を重ね合わせて固定されている。
図2の場合では前記熱膨張性耐火シート10,10が、鉄骨1の長手方向を基準として100mmの長さに重ねられている。
本発明における前記熱膨張性耐火シート10,10の重なり部分の長さは、10〜300mmの範囲が好ましく、30〜200mmの範囲であれば好ましい。
図2に示されるように、前記鉄骨1に対する火災等の熱の影響を排除するために、本発明に使用される鉄骨の耐火被覆構造は、前記熱膨張性耐火シート10により前記鉄骨1が隙間なく覆われていることが好ましい。
【0032】
本発明の方法では、前記鉄骨1と、前記鉄骨1を前記鉄骨1の長手方向に覆う二以上の熱膨張性耐火シート10,10とを有する鉄骨の耐火被覆構造100に形成された前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分のうち、前記二本のフランジ2,3間にある前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を、尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させ、前記重なり部分に挿通させて固定する。
図3図6は、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20により前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を固定するステップを説明するための模式断面図である。
【0033】
図3に示されるように、前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分のうち、前記鉄骨1を基準として外側にあるものを第一の熱膨張性耐火シート10とし、内側にあるものを第二の熱膨張性耐火シート10として説明する。
まず前記尖った先端を有する不燃性ねじ20の先端を第一の熱膨張性耐火シート10の外側の表面に接触させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させて、前記第一の熱膨張性耐火シート10を挿通させる(ステップ1)。
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20は、前記鉄骨1の長手方向に対する垂直方向を基準として、前記鉄骨1の上フランジ2および下フランジ3の中央部付近に1個設置するか、または前記鉄骨1の上フランジ2および下フランジ3の間に複数個設置することが好ましい。
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を複数個設置する場合には、前記鉄骨1の長手方向に対して垂直方向に100〜400mmの範囲で設置することが好ましい。
【0034】
図3図4に示されるように、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を前記第一の熱膨張性耐火シート10に接触させると、前記第一の熱膨張性耐火シート10および第二の熱膨張性耐火シート10は前記鉄骨1方向へ曲がる。
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させ続けると前記尖った先端を有する不燃性ねじ20は前記第一の熱膨張性耐火シート10の内部に侵入を始める。そして図5に示す通り、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20は前記第一の熱膨張性耐火シート10を挿通する。
【0035】
次に前記第一の熱膨張性耐火シート10を挿通した前記尖った先端を有する不燃性ねじ20の先端を第二の熱膨張性耐火シート10の外側の表面に接触させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させて、前記第二の熱膨張性耐火シート10を挿通させる(ステップ2)。
図5に示されるように、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20の先端が前記第二の熱膨張性耐火シート10に接触して前記第二の熱膨張性耐火シート10は前記鉄骨1方向に曲がる。
しかしそのまま前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させ続けると前記尖った先端を有する不燃性ねじ20は前記第二の熱膨張性耐火シート10の内部に侵入を始める。
そして前記尖った先端を有する不燃性ねじ20の先端を第二の熱膨張性耐火シート10に挿通させることができる。
【0036】
次に前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させて、前記第二の熱膨張性耐火シート10を、前記第一の熱膨張性耐火シート10側に引き付ける(ステップ3)。
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20の先端を第二の熱膨張性耐火シート10に挿通させた後は、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させ続けることにより前記第二の熱膨張性耐火シート10が前記第一の熱膨張性耐火シート10側に移動し、前記第二の熱膨張性耐火シート10を前記第一の熱膨張性耐火シート10側に引き付けることができる。
【0037】
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20は、ねじ軸部21とねじ頭部22とを有する。
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させることにより、前記第一の熱膨張性耐火シート10が、前記ねじ頭部22と前記第二の熱膨張性耐火シート10との間に密着して固定される。
【0038】
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を使用した上記のステップ1〜3により、先の図2に示されるように前記第一の熱膨張性耐火シート10および第二の熱膨張性耐火シート10を互いに接触させて固定することができる。
【0039】
なお使用する熱膨張性耐火シートのの継ぎ目の重なり部分が三枚以上の熱膨張性耐火シートから形成される場合も同様である。
【0040】
本発明に使用する前記尖った先端を有する不燃性ねじ20の具体例としては、例えば、タッピンねじ、ドリリングタッピンねじ、木ねじ等が挙げられる。具体的にはJIS B 1122等に規定されるもの等を使用することができる。
また前記尖った先端を有する不燃性ねじ20は金属製、無機製等の不燃性のものであれば特に限定はないが、例えば、鋼製、銅製、セラミック製等のものを使用することができる。
【0041】
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20のねじ軸部21の直径は2〜6mmの範囲であることが好ましい。
また前記尖った先端を有する不燃性ねじ20の長さは、4〜50mmの範囲が好ましく、10〜40mmの範囲であればより好ましい。
【0042】
また必要に応じて、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20と開口部を有する固定補助具とを組み合わせて使用することもできる。
前記開口部を有する固定補助具の具体例としては、例えば、金属製、無機製等のワッシャー等を挙げることができ、先の先端を有する不燃性ねじ20の場合と同様に鋼製、銅製、セラミック製等のものを使用することができる。
前記固定補助具は、前記不燃性ねじ20のねじ頭部22よりも小さい開口部を有し、かつ前記開口部に前記不燃性ねじ20のねじ軸部21を挿通させるものであればその形状に限定はなく、用途に応じて適宜選択して使用することができる。
【0043】
次に本発明に使用する熱膨張性耐火シートについて説明する。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、エポキシ樹脂やゴム等の樹脂成分、リン化合物、熱膨張性黒鉛、無機充填材等を含有する熱膨張性樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。
前記熱膨張性耐火シートは、ガラスクロス等の無機繊維シート、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔等の不燃材層の一種もしくは二種以上を積層したものを使用することができる。
【0044】
前記無機繊維シートに使用する無機繊維としては、例えば、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、石膏繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。
前記無機繊維層は、前記無機繊維を用いた無機繊維クロスを使用することが好ましい。
また前記無機繊維シートに使用する無機繊維は、金属箔をラミネートしたものを使用することが好ましい。
金属箔ラミネート無機繊維の具体例としては、例えば、アルミニウム箔ラミネートガラスクロス、銅箔ラミネートガラスクロス等がさらに好ましい。
【0045】
前記熱膨張性耐火シートは、例えば金属箔層、無機繊維層および熱膨張性樹脂層等を積層すること等により得ることができる。これらの積層には溶融同時押出、熱プレス等の他、接着剤により各層を貼着する手段等を挙げることができる。
【0046】
本発明に使用する熱膨張性耐火シートの構成に限定はなく、複数の不燃材層、熱膨張性樹脂組成物層等を含む構成であってもよい。
前記不燃材層としては、例えば、金属箔層、無機繊維層等が挙げられる。
前記熱膨張性耐火シートは、火災等の熱にさらされた場合に前記熱膨張性樹脂組成物層が膨張して形成される熱膨張残渣が、表面の不燃材層に支持される構造であれば特に限定はない。
【0047】
前記熱膨張性耐火シートの構成の具体例を挙げるとすれば、例えば、
(1)不燃材層−熱膨張性樹脂組成物層
(2)不燃材層−熱膨張性樹脂組成物層−不燃材層
(3)不燃材層−熱膨張性樹脂組成物層−不燃材層−熱膨張性樹脂組成物
(4)不燃材層−不燃材層−熱膨張性樹脂組成物層−不燃材層−不燃材層
(5)不燃材層−熱膨張性樹脂組成物層−不燃材層−熱膨張性樹脂組成物層−不燃材層−熱膨張性樹脂組成物層−不燃材層
等の構成が挙げられる。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは不燃材層が最外面にあることが好ましく、金属箔層が最外面にあればより好ましい。
前記不燃材層が最外面にある場合は、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を使用した際に効率よく前記第一の熱膨張性耐火シート10および前記第二の熱膨張性耐火シート10を固定することができる。
また金属箔層が最外面にあれば、さらに効率よく前記第一の熱膨張性耐火シート10および前記第二の熱膨張性耐火シート10を固定することができる。
【0048】
なお使用する熱膨張性耐火シートのの継ぎ目の重なり部分が三枚以上の熱膨張性耐火シートから形成される場合も同様である。
【0049】
前記熱膨張性耐火シートは市販品を使用することができ、例えば積水化学工業社製フィブロック等(登録商標。エポキシ樹脂やゴムを樹脂成分とし、リン化合物および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物、前記樹脂成分、リン化合物、発泡材および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物、前記樹脂成分、リン化合物、熱膨張性黒鉛および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物等)を入手して使用することが可能である。
なお前記熱膨張性黒鉛を含有する前記熱膨張性耐火シートを使用する場合には、前記熱膨張性黒鉛は、中和された熱膨張性黒鉛を使用することが好ましい。
【0050】
前記熱膨張性耐火シートは火災等の熱により膨張し、膨張残渣を形成する。この膨張残渣が前記鉄骨に対する火災等の炎を遮断する。このため火災等が発生した場合であっても前記鉄骨の強度が低下すること等を防止することができる。
【0051】
本発明によれば、前記鉄骨1を熱膨張性耐火シート10により覆った後に、簡単に前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分10,10を固定することができる。
また本発明に使用される鉄骨の耐火被覆構造100が火災等の熱にさらされた場合でも、前記熱膨張性耐火シート10,10の重なり部分が開くことを防止できるから、前記鉄骨の耐火被覆構造100は耐火性に優れる。
【実施例2】
【0052】
実施例2は実施例1の変形例である。
図7は、実施例2に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図であり、図8は、実施例2に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
実施例2に使用する鉄骨の耐火被覆構造110は、実施例1に使用する鉄骨の耐火被覆構造100と比較して、前記鉄骨1の下フランジ3の両端に拡張具30,30が設置されている点が異なる。それ以外は実施例1の場合と同様である。
図7および図8に示した通り、前記鉄骨1の下フランジ3の両端に拡張具30,30が設置されている場合でも実施例1の場合と同様、前記鉄骨1および拡張具30,30を熱膨張性耐火シート10により覆った後に、簡単に前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定することができる。
【0053】
図9図11は本発明に使用する拡張具の形状を説明するための斜視図である。
図9および図10に例示されるように、本発明に使用する拡張具の形状としては、例えば球、立方体、直方体等の他、円柱、四角柱、多角柱等の形状が挙げられる。
図9および図10に例示される拡張具はそれぞれ本発明に使用する鉄骨のフランジの端部の外形に略合致する設置溝60を有する。
【0054】
また図11に例示されるように、前記設置溝は段差60aを備えるものであってもよい。
この段差60aを前記鉄骨1に設置する際は耐熱粘着テープ等により、段差60aを、前記鉄骨1のフランジ3の両端部に貼着することにより設置することができる。
【0055】
図12に例示される拡張具は両端に段差60b,60cが設けられていて、これらをそれぞれ鉄骨1の上フランジ2の端部と下フランジ3の端部にはめ合わせることにより鉄骨1に設置することができる。
【0056】
また図13に例示されるように、本発明に使用する拡張具は、鉄骨のフランジにはめ合わせるためのフランジ接合部70,70と、前記フランジ接合部70,70同士を連結する連結部材61を有するものであってもよい。
【0057】
図14および図16は本発明に使用する拡張具の一実施形態を説明するための平面図であり、図15および図17は本発明に使用する拡張具の一実施形態を説明するための斜視図である。
図14および15に例示されるように、拡張具600は本体板610と、前記本体板610の両端に設置された相対する二つの側面板620,630とを有する。
前記側面620,630はそれぞれ前記本体板610に対して屈曲可能に接続されている。
前記側面620,630はそれぞれ支持部640,650ならびにフランジ保持部660,670を有する。
前記本体板610、前記側面板620の支持部640および前記側面板620のフランジ保持部660により囲まれる切欠き680、ならびに前記本体板610、前記側面板630の支持部650および前記側面板630のフランジ保持部670により囲まれる切欠き690が、鉄骨のフランジに設置するための設置溝を形成する。
【0058】
また前記側面板620の支持部640と前記側面板620のフランジ保持部660との接合部に、前記側面板620の支持部640に対して前記側面板620のフランジ保持部660を傾斜可能に連結する切込み700ならびに前記側面板630の支持部650と前記側面板630のフランジ保持部670との接合部に、前記側面板630の支持部650に対して前記側面板630のフランジ保持部670を傾斜可能に連結する切込み710が形成されている。
【0059】
図15および図17に示される拡張具601は図14および図15に示される拡張具600の変形例である。
前記拡張具601は、鉄骨に対する設置作業を高めるため側面板621,631の端部が丸く成形されている。
【0060】
図18および図19はそれぞれ本発明に使用する拡張具を鉄骨に設置した状態を説明するための模式斜視図である。
図18に例示されるように、前記拡張具600には前記鉄骨1のフランジ3の端部の外形に合致する設置溝を有することから、前記設置溝を前記鉄骨1のフランジ3の端部に挿入することにより、前記鉄骨1に対して前記拡張具600を設置することができる。
【0061】
また図19に例示されるように、前記側面板620のフランジ保持部660が前記側面板620の支持部640に対して傾斜可能に連結されていることから、前記側面板620のフランジ保持部660を前記側面板620の支持部640に対して傾斜させることにより、前記設置溝の幅が前記鉄骨1のフランジ3の端部の厚みより狭い場合であっても、前記拡張具600を前記鉄骨1のフランジ3の端部に設置することができる。
【0062】
同様に前記側面板630のフランジ保持部670が前記側面板630の支持部650に対して傾斜可能に連結されていることから、前記側面板630のフランジ保持部670を前記側面板630の支持部650に対して傾斜させることにより、前記設置溝の幅が前記鉄骨1のフランジ3の端部の厚みより狭い場合であっても、前記拡張具600を前記鉄骨1のフランジ3の端部に設置することができる。
【0063】
次に本発明に使用する拡張具の素材について説明する。
本発明に使用する拡張具は、先に説明した通り、火災等の熱により加熱された場合に変形するものが好ましい。
【0064】
前記拡張具の素材としては、例えば、紙材、木材、天然樹脂、合成樹脂等の一種もしくは二種以上を含むものが挙げられる。
【0065】
前記紙材としては、例えば、木材等の植物から取り出した繊維状物質や化学繊維を水等の分散媒中に分散させ、これを濾過して均一層を形成してから乾燥させた紙等が挙げられる。
前記紙に対して、塗料、撥水剤等を塗布して得られる加工紙、波状の紙をライナーと呼ばれる平面の紙により挟んで接着した段ボール等が挙げられる。
【0066】
前記木材としては、例えば、天然木材から得られる木素材に限られず、木素材を含む集成木材、積層木材、積層木板等が挙げられる。
【0067】
前記天然樹脂としては、例えば、セルロース誘導体、ゼラチン、アルギン酸塩、キトサン、プルラン、ペクチン、カラゲナン、タンパク質、タンニン、リグニン、ロジン酸等を主成分とする高分子、ろう、ワックス、天然ゴム等が挙げられる。
【0068】
前記合成樹脂としては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリイソブチレンゴム、塩化ブチルゴム等の合成ゴム、
ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、
ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0069】
実施例2に使用する鉄骨の耐火被覆構造110が火災等の熱にさらされた場合には、先に説明した拡張具30,30は焼失するか体積が減少する。このため前記熱膨張性耐火シート10,10は円滑に膨張することができ、前記鉄骨1の周囲に膨張残渣が形成される。前記膨張残渣が火災等の熱を遮断するため、耐火性に優れる。
【0070】
本発明によれば、前記鉄骨1および拡張具30,30を熱膨張性耐火シート10により覆った後に、簡単に前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を固定することができる。
また本発明に使用される鉄骨の耐火被覆構造110が火災等の熱にさらされた場合でも、前記熱膨張性耐火シート10,10の重なり部分が開くことを防止できるから、前記鉄骨の耐火被覆構造110は耐火性に優れる。
【実施例3】
【0071】
実施例3は実施例2の変形例である。
図20は、実施例3に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図であり、図21は、実施例3に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
図20および図21に例示されるように、前記鉄骨1の下側から上側に向かって前記尖った先端を有する不燃性ねじ20により、簡単に前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を固定することができる。前記熱膨張性耐火シート10,10に指で触れた場合、前記拡張具30がある場所は前記熱膨張性耐火シート10,10が動かない。前記熱膨張性耐火シート10,10を指により押すことにより前記熱膨張性耐火シート10,10が動くかどうかを確認する。外側から前記拡張具30が見えない場合でも外側から前記拡張具30の位置を確認することができる。
前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を前記拡張具30に侵入させて、簡単に前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を固定することもできる。
【実施例4】
【0072】
実施例4は実施例2の変形例である。
図22は、実施例4に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図であり、図23は、実施例4に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
実施例4に使用する鉄骨の耐火被覆構造120に使用する拡張具40は、実施例2に使用する鉄骨の耐火被覆構造110の拡張具30,30と比較して、前記鉄骨1の下フランジ3の下面に設置されている点が異なる。それ以外は実施例2の場合と同様である。
図22および図23に示した通り、前記鉄骨1の下フランジ3の下面に拡張具40が設置されている場合でも実施例2の場合と同様、前記鉄骨1および拡張具40を熱膨張性耐火シート10により覆った後に、簡単に前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定することができる。
【0073】
前記拡張具としては、可燃材および不燃材の少なくとも一方を使用することができる。
【0074】
本発明に使用する可燃材としては、例えば、紙材、木材、天然樹脂、合成樹脂等の一種もしくは二種以上により形成されたもの等を挙げることができる。
【0075】
前記紙材としては、例えば、木材等の植物から取り出した繊維状物質や化学繊維を水等の分散媒中に分散させ、これを濾過して均一層を形成してから乾燥させた紙等が挙げられる。
前記紙に対して、塗料、撥水剤等を塗布して得られる加工紙、波状の紙をライナーと呼ばれる平面の紙により挟んで接着した段ボール等が挙げられる。
【0076】
前記木材としては、例えば、天然木材から得られる木素材に限られず、木素材を含む集成木材、積層木材、積層木板等が挙げられる。
【0077】
前記天然樹脂としては、例えば、セルロース誘導体、ゼラチン、アルギン酸塩、キトサン、プルラン、ペクチン、カラゲナン、タンパク質、タンニン、リグニン、ロジン酸等を主成分とする高分子、ろう、ワックス、天然ゴム等が挙げられる。
【0078】
前記合成樹脂としては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1、2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリイソブチレンゴム、塩化ブチルゴム等の合成ゴム、
ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、
ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0079】
前記可燃材を使用する際には可燃板状体を使用することが好ましく、中でも取り扱い易いこと、入手し易いことから合成樹脂板状体を使用することがより好ましく、内部に気泡を有する板状発泡体は断熱性に優れることから前記板状発泡体を使用することがさらに好ましい。
【0080】
前記板状発泡体を用いた場合、火災等の熱により前記板状発泡体が溶融、焼失等して体積が減少するため、前記熱膨張性耐火シートの膨張を妨げることを防止することができる。
【0081】
本発明に使用する不燃材としては、例えば、金属、無機材等の一種もしくは二種以上により形成されたもの等を挙げることができる。
【0082】
前記金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス、錫、鉛、錫鉛合金、銅等が挙げられる。
前記金属を用いることにより、前記鉄骨と前記熱膨張性耐火シートとに隙間が存在したとしても前記熱膨張性耐火シートに対して前記金属を介して前記鉄骨と接触させることにより、この隙間により熱が伝わらなくなるのを防止することができる。
例えば、金属板等を使用することにより火災等の熱を前記熱膨張性耐火シート10に均等に伝えることができ、前記熱膨張性耐火シート10,10により十分な膨張残渣の形成を補助することができる。
【0083】
前記無機材としては、例えば、ロックウール、セラミックウール、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、セラミックブランケット等が挙げられる。
前記無機材を用いることにより、火災等の熱が鉄骨柱に到達することを遅延させることができる。
【0084】
前記不燃材を使用する際には不燃板状体を使用することが好ましい。
前記不燃板状体の具体例としては、例えば、金属板、無機繊維を成形した無機繊維マット、無機繊維を成形した無機繊維ボード、耐熱パネル等を挙げることができる。
【0085】
本発明によれば、前記鉄骨1および拡張具40を熱膨張性耐火シート10により覆った後に、簡単に前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を固定することができる。
また本発明に使用される鉄骨の耐火被覆構造120が火災等の熱にさらされた場合でも、前記熱膨張性耐火シート10,10の重なり部分が開くことを防止できるから、前記鉄骨の耐火被覆構造120は耐火性に優れる。
【実施例5】
【0086】
実施例5は実施例4の変形例である。
図24は、実施例5に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図であり、図25は、実施例5に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
図24および図25に例示されるように、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を回転させて、前記尖った先端を有する不燃性ねじ20を前記拡張具40に侵入て、簡単に前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を固定することもできる。
【実施例6】
【0087】
実施例6は実施例1の変形例である。
図26は、実施例6に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式断面図であり、図27は、実施例6に使用される鉄骨の耐火被覆構造を説明するための模式斜視図である。
実施例6に使用する鉄骨の耐火被覆構造130は、実施例1に使用する鉄骨の耐火被覆構造100と比較して、前記熱膨張性耐火シート10,10の鉄骨長手方向に結合部50が設置されている点が異なる。それ以外は実施例1の場合と同様である。
図26および図27に示した通り、前記熱膨張性耐火シート10,10の鉄骨長手方向に結合部50が設置されている場合でも実施例1の場合と同様、前記鉄骨1を熱膨張性耐火シート10により覆った後に、簡単に前記熱膨張性耐火シートの継ぎ目の重なり部分を固定することができる。
【0088】
前記結合部50を設置することにより、前記熱膨張性耐火シート10,10が火災等の熱にさらされた場合に、前記熱膨張性耐火シート10,10の内容物が下へ落下することを防止することができる。
前記結合部50は、例えば、金属製のタッカー、ステープル、金属繊維、無機繊維等で形成されている。
【0089】
本発明によれば、前記鉄骨1を熱膨張性耐火シート10により覆った後に、簡単に前記熱膨張性耐火シート10,10の継ぎ目の重なり部分を固定することができる。
また本発明に使用される鉄骨の耐火被覆構造130が火災等の熱にさらされた場合でも、前記熱膨張性耐火シート10,10の重なり部分が開くことを防止できるから、前記鉄骨の耐火被覆構造130は耐火性に優れる。
【符号の説明】
【0090】
1 鉄骨
2、3 フランジ
4 ウェブ
5 構造材
10 熱膨張性耐火シート
11 留め具
12 溶接ピン
20 尖った先端を有する不燃性ねじ
21 ねじ軸部
22 ねじ頭部
30,40,600,601 拡張具
50 結合部
60 設置溝
60a,60b,60c 段差
61 連結部材
70 フランジ接合部
100,110,120,130,500,510 鉄骨の耐火被覆構造
501 床材
610,611 本体板
620,621,630,631 側面板
640,641,650,651 支持部
660,661,670,671 フランジ保持部
680,681,690,691 切欠き
700,701,710,711 切込み
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