【文献】
MOHSEN SHAHMOHAMMADI,Turnover Temperature Point in Extensional-Mode Highly Doped Silicon Microresonators,IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES,米国,IEEE SERVICE CENTER,2013年 3月 1日,V60 N3,P1213-1220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動作温度範囲全体にわたっての、基準温度における周波数に対する周波数の最大差から、前記周波数誤差の前記数値を決定することによって特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
前記ばね軸に沿った前記細長い本体の寸法が、前記細長い本体の前記ばね軸を横切る方向の寸法の少なくとも三倍となるように、前記細長い本体を形成することによって特徴付けられる、請求項1−3のいずれか1項に記載の方法。
前記細長い本体をビーム状に形成することにより特徴付けられ、前記ばね軸に沿った前記ビームの寸法が、前記ビームの前記ばね軸を横切る方向の寸法の少なくとも十倍である、請求項1−3のいずれか1項に記載の方法。
前記半導体ウエハーの前記平面に関する面内たわみまたは面外たわみのために、固定点を介して前記変形要素を前記微小電気機械的共振器に固定することにより特徴付けられる、請求項4または5に記載の方法。
前記細長い本体をビーム状に形成することにより特徴付けられ、ここで、前記ばね軸に沿った前記ビームの寸法が、前記ビームの前記ばね軸を横切る方向の寸法の少なくとも十倍である、請求項7に記載の共振器。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
微小電気機械システム(Micro-Electro-Mechanical System)、即ち、MEMSは、電気的および機械的部品を組み合わせた、小型化されたデバイスとして定義され得る。微小電気機械デバイスは、典型的には、機械的要素および静電的もしくは電磁的に作動する要素、または直接的に電気機械的な要素を有する。MEMSデバイスは、ミクロスケールでは機械的プロセスを感知、制御および駆動でき、マクロスケールでは、効果を生成するために、単独で、または配列されて機能できる。
【0003】
MEMSデバイスは、組み込まれた質量構造(incorporated mass structure)における非常に小さな変形を通して、力を素早くかつ正確に検知または生成するために適用され得る。例えば、電気周波数基準用途(electronic frequency reference application)においては、電圧は、特別に設計された結晶構造において震え(vibration)を誘導するために使用され得る。この震えは、高スペクトルの純度および安定性を有する、対応する出力電圧を生成する。質量構造は、ある周波数(共振周波数と呼ばれる)で他の周波数より大きな振幅で自然に震えるまたは振動すること(oscillating)により、共振または共振挙動を示す。微小電気機械的デバイスにおける何らかの様式で変形する(震える、振動する、たわむ、またはその他の共振挙動を示すこと)質量構造を、本明細書では共振器という。
【0004】
従来、周波数基準を作るために高い支持を集めていた技術は、石英結晶共振器に基づいていた。しかしながら、近年の開発は、部品の小型化および製造適合性を可能にするものとして、共振器構造において、いずれはシリコンが石英に取って代わり得ることを示した。周波数基準の主要な性能特性は、生成される信号の安定性である。当技術分野では、中期安定性とは、数秒から数時間の時間間隔における変化をいうものとして特徴付けられている。中期安定性は、温度感応性に支配されており、その制御は、必要とされる周波数基準性能を確実にするための最も重要な課題の一つである。
【0005】
非常に小さい温度ドリフトを有する共振器、またはさらに過補償の共振器が、n−型ドーピング剤の実質的な濃度で、本質的に均質に変形要素をドーピングすることにより達成され得ることが認められる。例えば、文献FI20115151は、拡張モードビーム共振器(extensional mode beam resonator)を開示しており、ここでは、共振が共振器の収縮または拡張により特徴付けられる。該文献は、結晶方向に関してビーム共振器の方向が変化するにつれて、一次(線形)周波数温度係数(temperature coefficient of frequency;TCF)がどのように変化するかを説明している。
【0006】
しかしながら、先行技術のこれら理論モデルは、実際の実施では十分正確にはそのように機能しないことが認められる。このことは、共振が共振器の面内および面外の屈曲により特徴付けられる共振器に特に当てはまる。先行技術は、一次の理論的な線形のTCF曲線をゼロにする面内回転角の使用を提案する。提示された曲線では、一次線形TCFは、[100]結晶方向からおよそ21度ずれたところでゼロになり、高ドーパント濃度では、さらに大きい角度の最適なずれが予測される。しかしながら、ドーピング濃度と>22度結晶方位の予測される最適な組み合わせにより提供される周波数安定性が、産業上の利用のための十分な正確性を提供するとは証明されていない。屈曲モード共振器における中期安定性の制御は、先行技術の理論予測によっては制御できない種々の複雑性を含むと思われる。
【0007】
そのような複雑性を扱う方法の一つが、先行技術文献FI20115465において提案されている。それは、共振器中に少なくとも二種の、異なる材料特性を有する領域を含むことで、材料の組み合わせが効果的な材料を規定することにより、総合的な温度感応特性を管理することを提案する。材料特性と相対体積は、異なる領域の温度係数が互いを補償するような、所望の温度補償特性を提供するように調節される。しかしながら、単一構造の挙動についての完全な理解なしに、そのような複数の領域を有する構成を実際に設計し製造することは、非常に困難であることが理解される。さらに、微小規模の要素を扱う際、材料特性における小さな公差の影響、ドーピング濃度および要素方位を、必要とされる正確性で制御することは非常に困難である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
いくつかの実施形態の詳細な説明
以下の実施形態は、例示的なものである。明細書は、「ある(an)」、「1つの(one)」、または、「いくつかの(some)」実施形態に言及するであろうが、これは、そのような言及それぞれが、同じ実施形態を指すことや、その特徴が単一の実施形態だけに適用されることを必ずしも意味しない。異なる実施形態の単一の特徴は、さらなる実施形態を提供するべく、組み合わせられ得る。
【0014】
以下では、発明の特徴がデバイスのアーキテクチャーの簡単な例を用いて説明されるが、該アーキテクチャーでは、発明の様々な実施形態が実施され得る。実施形態を説明するのに関係する要素についてのみ、詳細に説明される。微小電気機械デバイスの様々な実施およびそれらの製造工程は、一般的に当業者に知られており、ここでは具体的には説明されないであろう要素を含む。
【0015】
微小電気機械デバイスは、ここでは、半導体構造のことをいい、該半導体構造は、機械的変形要素と、電気ドメインと機械ドメインとの間でエネルギーを変換するための関連する電気機械変換手段とを含む。変形要素は、構成が変形の間に変化し得、その後元の形状に戻り得る体粒子の連続体からなる。変形は、変形要素にかかるエネルギーの現れとして機能する。固体物体の弾性変形は、典型的には、その材料特性に特有の周波数および振幅で振動し、かつ共振する傾向にある。
【0016】
他方、変換器は、一のエネルギーの形態を他の形態に変換する。電気機械変換器を用いれば、変形要素の寸法の変化にしたがって電気信号を生成または調節することにより、変形要素に作用する機械的な力を感知することが可能である。他方、電気機械変換器は、外部の電気的エネルギーを変形要素に作用する運動に変換することにより、変形要素を作動させるために用いられ得る。電気機械変換器は、例えば、変形要素と共に移動するように配置された電極、または変形要素と共に変形するように配置された圧電層を有していてもよい。この変形要素と関連する変換器との組み合わせを、ここでは共振器という。共振器は、ミクロスケールで機械的プロセスを感知、制御、駆動するために、またはマクロスケールで、効果を生成するために、単独で、または配列されて機能するために、微小電気機械デバイス中で使用され得る。共振器本体の大部分は、典型的には変形要素からなり、共振器の振動特性の多くは、変形要素の特性を調節することにより制御されてもよい。
【0017】
図1は、微小電気機械デバイス用の共振器の製造に用いられ得る半導体ウエハー10を説明する。ウエハーとは、ここでは、結晶半導体材料の平面要素をいう。ウエハーは、例えば、シリコンのような高純度単一結晶の半導体の円筒状インゴットから薄く切り取られていてもよい。発明の実施形態では、かなりの量のn−型ドナー不純物原子が、結晶中に強力に過度の負電子電荷キャリアを提供するために、溶融内因性材料(molten intrinsic material)に加えられていてもよい。該実施形態では、ウエハーは、典型的には、名目上のn−型ドーピング濃度を有し、それが半導体ウエハー全体を特徴付けるために使用される。ウエハーの材料は、独特の結晶構造を有しており、ウエハーの平面を薄く切ると、表面は、典型的には、半導体材料の結晶方位の一つと整列している。以下では、シリコン結晶格子における平面を記録するために、ミラー指数が使用される。
図1は、ダイヤモンド立方構造ならびにミラー指数により規定されるシリコンウエハーの[100]および[010]結晶軸の方位を有する、例示的なシリコンウエハー10を説明する。
図1のシリコンウエハーの平面は、シリコンの(001)平面({100}等価平面)と整列している。
【0018】
図1はまた、シリコンウエハー10の平面における結晶方位に関して、たわみモード共振器の変形要素12の寸法の可能な方位を示す。製造時、変形要素の寸法は、シリコンウエハーから、例えば、フォトリソグラフィーおよびエッチングを用いて形成されてもよい。変形要素12は、細長い本体を有する機械的構造でモデル化されてもよく、該細長い本体の一端は固定点(anchor point)14であり、変形要素はこれに関して動作中に振動するため固定されていてもよい。静止時、本体は、その長さ方向に沿って原則直線状に延びる。力が本体の質量(mass)に作用するとき、それはその直線状の形状からたわんでもよい。したがって、本体の長さ寸法の方向は、ばね軸を形成する。
【0019】
変形要素は、変形要素の一端に固定点があり、変形要素のもう一端に地震性マス(seismic mass)があり、これら両端の間には静止時は原則直線状であるばね構造が延びているような、ばね構造と地震性マスの組み合わせとして、さらにモデル化および/または実行されてもよい。作動時、固定点は、支持構造体にしっかりと固定されていてもよく、一定の位置を維持し、それにより変形要素の変形に基準点を提供すると考えることができる。地震性マスは、質量のある物体であり、その上に力が作用し、マスの速度を変化させ得る。ばねは、固定点と地震性マスに固定された弾性の要素であって、その端点は、変形要素のばね軸を形成する。たわみモードとは、ここでは、ばね軸に対して横方向の力に対する、ばねのたわみまたは屈曲をいう。
【0020】
たわみモードは、本体またはその一端から固定されているばねがシリコンウエハーの平面の方向に曲がる、面内たわみを含んでいてもよい。たわみモードはまた、本体または固定されているばねがシリコンウエハーの平面の方向に対して横方向に曲がる、面外たわみを含んでいてもよい。
【0021】
図2A−
図2Cは、
図1の変形要素の例示的な構成および方位を説明する。
図2Aは、固定点200、地震性マス201およびビームとして実施されるばね構造202を有する変形要素を説明する。ビームの長さは、その幅および厚さより数倍長く、ビームは、ばね軸204に沿って長手方向に延びる。ビームの長さは、その幅および厚さより少なくとも三倍長くてもよい。付加された可動性のためには、ビームの長さは、その幅および厚さより十倍以上長くてもよい。
【0022】
変形要素の結晶方位角θは、ここでは、シリコンの<100>結晶軸(ミラー指数が適用された)に関するビームの方位を意味する。一例として、ウエハー表面が半導体材料ウエハーの(001)平面と整列していれば、ばね軸はウエハーの平面と整列しており、結晶方位角θは、ばね軸とシリコンウエハーの平面における[100]結晶軸との間の角度として現れる。θ=0であるとき、変形要素は[100]軸に沿って整列している。ウエハーの平面におけるばねのビームの方位が変更されると、変形要素は[100]軸からオフセットされ、角度θは、ビーム軸と[100]結晶軸との間に形成される。θ=45であるとき、変形要素は[110]結晶軸に沿って整列している。しかしながら、ウエハー表面は、シリコン結晶のいかなる平面とも整列し得ることが注目される。結晶方位角θは、それがウエハー表面と一致しているか否かに関わらず、シリコン結晶格子の<100>結晶軸との関係で定義される。
【0023】
図2Bは、固定点200、地震性マス201および折り畳まれたビームとして実施されるばね構造202を有する別の構成を説明する。折り畳まれたビームは、四つの相互接続したビーム210、211、212、213から形成されると考えてよく、ここで、ビームのそれぞれの長さは、この場合もやはり、その幅および厚さより数倍長い。静止時は、ビーム210、211、212、213は、そのそれぞれのばね軸220、221、222、223に沿って長手方向に延びる。
図2Bに示されるように、ばね軸のうち二つは一致する。ビーム210、211は、固定点200に固定されていると考えられてよく、ビーム212、213はそれぞれ、ビーム210、211に対する相互接続の点230、231に固定されていると考えられてよい。地震性マスが矢印で示される方向に移動するとき、ビーム210、211は、固定点200と相互接続の点230、231との間の面内でたわむと考えられ得る。対応して、ビーム212、213は、相互接続の点230、231と地震性マス201との間の面内でたわむと考えられ得る。
【0024】
図2Cは、固定点200、地震性マス201およびばね軸240、241を持つばね構造202を有するさらなる構成を説明する。ここでは、ばねは二つの平行のビームから形成され、その両方が、固定点および地震性マスに固定されている。
図2Cはまた、この構成のばね軸204を示す。
図2A−
図2Cの構造は例示的であり、他の対応する構造が、保護の範囲内で適用されていてもよいことが注目される。
【0025】
共振器の周波数温度特性は、その共振周波数が、温度の変化に対応してどのように変化するかを規定する。周波数温度特性は、典型的には、周波数温度係数(TCF)によって定量化される。ほぼ10
19cm
−3の高いn−型ドーピング濃度は、シリコン製の共振器の一次TCFを有意に減少させ得ることが知られている。先行技術は、シリコン結晶方位に関する共振器方位およびドーピング濃度を最適化することにより、線形のTCFがゼロまたは他の所望の水準に調節され得ることを示唆する。しかしながら、線形のTCFを単にゼロにすることが、実際の利用のほとんどにおいて実現できるとは証明されていない。
【0026】
最初に、理論上の線形のTCF曲線は、たわみ共振器の実施にとっては高くなり過ぎる傾向のある、平面内回転角の使用を提案する。理論的には、一次元ヤング率の周波数依存性は、平面内、平面外屈曲−ビームおよび長さ伸長モード−共振器において同じであると考えることができる。以前は、これら共振器は全て同一のTCFを有し、n−ドーピングおよび回転角の関数として同様に変化するとみなされていた。しかしながら、これらの仮定は、長さ伸長モードビーム共振器においては有効かも知れないが、たわみモード共振器のTCFは、選択された結晶軸に関して純粋に一次元ではないことが注目された。たわみ共振器のヤング率は、その本体に沿ったばねの有限の曲げおよびばねの本体にかかる固定力(anchoring force)による、いくつかの結晶角方位の組み合わせに依存する。
【0027】
さらに、半導体ウエハー(ここから変形要素が製造される)のドーピング水準が、限られた精度でのみ決定され得ることは明らかである。市販のウエハーは、典型的には、最小/最大抵抗率水準(Ωm)で特徴付けられる。必須の半導体材料の抵抗率とドーパント密度値との間の変換におけるいくつかの一般的な慣習があるが、典型的には、おおよその名目上の数値のみが製造に使用可能である。結晶インゴットの形成は、温度勾配、引っ張り速度および回転速度の正確な制御を要し、インゴット内のドーピング濃度の変化は、推定された名目上の数値からほぼ数十パーセントの範囲であってもよいこともまた知られている。これらの問題は、理論上、結晶およびウエハー製造における公差を低減させることにより、または、製造工程に供する前にそれぞれの半導体ウエハーの特性を正確に評価することにより、解決され得る。しかしながら、そのような作業が、ある程度でしか、かつ高額な関連費用を伴ってしかなされ得ないことは明らかである。真に産業水準の工程では、改良された寸法が必要とされる。
【0028】
変形体は、さまざまな方法で寸法取りおよび固定され得、このことは、固定点に関するさまざまな共振器の曲げをもたらす。しかしながら、発明者らは、たわみモードにおける共振器の周波数温度特性により引き起こされる総周波数誤差を最小化し、同時に、名目上の数値からのずれに対する感度を小さくする、予想外のn−ドーピング濃度の範囲およびシリコン結晶方位の組み合わせを見出した。
【0029】
図3は、変形における総周波数誤差の計測値を、二つの例示的なドーピング濃度における結晶方位角θの関数として説明する。総周波数誤差は、ここでは、セ氏−40度から+85度の例示的な動作温度範囲における、変形要素の平面内たわみまたは平面外たわみモード振動の全温度ドリフトを表す。総周波数誤差は、まず特定のドーピング濃度および結晶方位における周波数誤差の熱依存性を評価することにより計算され得る。それぞれの特定の構成における総周波数誤差は、全動作温度範囲にわたる基準温度における周波数との周波数の最大差と一致すると考えられ得る。選択された動作温度範囲が例示的であり、他の範囲が保護の範囲で適用されてもよいことは注目される。しかしながら、共振器の設計は、微小電気機械デバイスの設計において重要な要素であるべきではなく、したがって、広い動作温度範囲が典型的には好ましい。ここで採用された基準温度はセ氏25度であり、総周波数誤差は、
図1に示されるように、変形要素のばね軸とシリコンウエハーの平面における[100]結晶軸との間の結晶方位角θの関数として描かれている。
【0030】
たわみ共振器では、最小限の総周波数誤差を提供する計測された結晶方位角θは、先行技術により提案された最適値から著しく外れていることが見出された。先行技術は、ほぼ1.8・10
19cm
−3から5・10
19cm
−3のドーピング濃度を適用し、例えば、5・10
19cm
−3のドーピング濃度水準で線形のTCFをゼロにする最適な面内回転角が、ほぼ22度であることを示す。
図3は、たわみ共振器では、4.4・10
19cm
−3のドーピング濃度水準で計測された周波数誤差の値が、14度の角度で既にその最大になることを示す。2・10
19cm
−3より低いドーピング濃度水準では、400ppmを超える総周波数誤差水準のみが達成され得る。
【0031】
異なったドーピング濃度間における総周波数誤差の差異は、異なった角度によって非常に強く変化するかもしれないこともまた見出されている。例えば、θが14°であるとき、より低いドーピング濃度4.4・10
19cm
−3における総周波数誤差は、〜290ppmでその最小になる(Bで示される)。より高いドーピング濃度7.1・10
19cm
−3では、その結晶方位における総周波数誤差は、ほぼ350ppmである(Cで示される)。角度が〜14.8度であるとき、たとえドーピング濃度が4.4・10
19cm
−3から7.1・10
19cm
−3までで変動しても、総周波数誤差は310ppmより低いままである。点Bと点Cとの総周波数誤差の差異は、このように比較的小さく、このことは、ドーピング濃度のずれは、総周波数誤差に対して限られた影響のみを有することを意味する。比較すると、例えば、θがほぼ17度であるとき、より高いドーピング濃度7.1・10
19cm
−3における総周波数誤差は、〜180ppmでその最大になる(Aで示される)。より低いドーピング濃度4.4・10
19cm
−3では、17度の角度における総周波数誤差は、既にはるかに高い。
【0032】
たわみモード共振器の周波数誤差は、一次および二次TCFに依存する。したがって、周波数誤差は、
【0034】
として表すことができ、ここでαは一次TCF、βは二次TCF、ΔTは基準温度からの温度変化である。異なった構造の全周波数誤差を見積もるためには、一次TCFαおよび二次TCFβの挙動が考慮されなければならない。
図4は、一次TCFを、
図3の広い動作温度範囲における二つの異なった強さのn−ドーピング濃度の{100}平面における共振器方位θの関数として説明する。
図5は、対応する例示的な二次TCFを、二つの異なったドーピング濃度における共振器方位θの関数として説明する。見出された最適範囲は、ドーピング濃度および変形要素の結晶方位を考慮した、一次および二次TCFの組み合わされた全体的挙動についての新しい理解に基づく。
【0035】
さらに、総周波数誤差が産業上の利用に十分なほど低く、かつ、ドーピング濃度のずれに対して感度の低い範囲は非常に限られていることもまた見て取れる。例えば、より高いドーピング濃度7.1・10
19cm
−3では、θがほぼ17度であるとき、測定される総周波数誤差は最小になる(Aで示される)。その点において、より低いドーピング濃度の曲線は、既にその最小を過ぎており、非常に急激に上昇する。適用可能な濃度水準がその最小に達する結晶方位の非常に限られた範囲の外では、濃度または共振器寸法のずれは、非常に大きな総周波数誤差を生成する。描かれた曲線は、例示的な強くドープされたシリコン結晶材料の、計測された、および/または、シミュレーションされた数値を含むことが注目される。それらは、角度、ドーピング濃度およびそれらの総周波数誤差に対する影響の間の複雑な依存性を説明するため、ここに提供される。
【0036】
発明は、結晶方位とドーピング濃度の数値の最適な組み合わせは、先行技術において提案された数値よりはるかに低い、限られた範囲にあるとの知見に基づく。同じ範囲内で、半導体ウエハーにおける結晶方位およびドーピング濃度の名目上の数値からのずれは、変形要素の変形の総温度ドリフトへの影響が驚くほど少ないこともまた認められた。適用可能な名目上の数値の組み合わせは、このようにその範囲から選択され得、半導体ウエハーにおける結晶方位およびドーピング濃度のずれた数値の組み合わせにより引き起こされる総周波数誤差は、安全に所定の誤差閾値より下のままである。
【0037】
図6は、発明による微小電気機械的共振器の製造方法の実施形態の段階を説明する。方法は、半導体ウエハーwに名目上の結晶方位θ
nomおよび名目上のn−型ドーピング濃度C
nomを提供すること(段階600)により始まる。半導体ウエハーは、ここでは、製品の単一平面要素をいい、その平面には一以上の微小電気機械的共振器が平行に形成されていてもよい。半導体ウエハー材料は、特定の結晶構造を有しており、半導体ウエハーの平面は、半導体材料の結晶方位の一つと整列している。一例として、本実施形態では、半導体ウエハーはダイヤモンド立方構造のシリコンウエハーであり、半導体ウエハーの(001)平面では、[100]および[010]結晶軸の方位は、
図1に示されたとおりであると仮定する。該例では、名目上の結晶方位は、共振器の変形要素のばね軸の方向と、シリコン半導体ウエハーの平面における[100]結晶軸との間に形成される、結晶方位角θで定量化される。
【0038】
名目上のn−型ドーピング濃度は、全体として半導体ウエハーに適用すると考えられる、設計パラメーターである。ドーピングとは、内因性半導体材料に意図的に導入され、その電気特性を変える不純物のことをいう。ドーピング濃度は、典型的には、半導体材料における特定のドーピング剤の最低濃度として表される。前記例では、名目上のドーピング濃度は、例えばシリコン半導体材料における、リン、アンチモンまたはヒ素のようなn−型ドーピング剤の最低濃度により定量化される。温度ドリフトが制御された構造におけるn−型ドーピング剤の濃度は、>10
19cm
−3の範囲で有利に変化する。
【0039】
理解され得るように、名目上の数値は、半導体ウエハー全体を特徴付けるために用いられる平均値である。先に議論されたように、ウエハーの平面における異なった位置でのドーピング濃度の実際の数値は、名目上の数値から数十パーセント程度ずれるかもしれない。さらに、結晶方位の実際の数値もまた、名目上の設計値からずれるかもしれない。インゴットの成長の間、結晶の方向は、種と整列している。しかしながら、インゴットが成長の間、完全に垂直を向いていなかったため、結晶方位が、ウエハーの平面に垂直な方向に関して、微妙に整列していないこと、および/または、ウエハーの薄切りがインゴットに対して完全に水平ではないことが考えられる。ウエハーの平面が、シリコン・オン・インシュレーター(silicon on insulator;SOI)工程のいずれかの段階で整列していないこと、または、平面の切り取りが完全に正確でないこともまた考えられる。共振器の製造中、マスクの方位が完全に正確ではないこともまた起こり得る。したがって、半導体ウエハーにおける結晶方位の名目上の数値からのずれも、たとえ典型的にはドーピング濃度のずれより小さいとしても、同様に考慮される必要があるかもしれない。
【0040】
したがって、次のステップは、提供された半導体ウエハーにおける、名目上の結晶方位からの最大の正のずれΔ
θ+および最大の負のずれΔ
θ−、ならびに半導体ウエハーにおける、名目上の濃度からの最大の正のずれΔ
C+および最大の負のずれΔ
C−を決定すること(段階602)を含む。名目上の数値からの最大のずれは、提供された半導体の特性を計測することにより決定されてもよいし、同様の半導体ウエハーの先の計測結果に基づいて見積もられてもよいし、理論的に見積もられ、または、半導体ウエハー製造業者により提供された許容範囲から採用されてもよい。最大のずれはまた、これらのメカニズムの少なくともいくつかの組み合わせを用いて決定されてもよい。材料により、正および負の最大のずれは、等しくても、互いに異なっていてもよい。本例では、半導体ウエハーにおけるドーピング濃度の名目上の数値は、n−型ドーピング剤の最低濃度として与えられる。このことは、該例では、最大の負のずれΔ
C−はゼロであると考えられてもよく、最大の正のずれΔ
C+はゼロではない数値を有することを意味する。
【0041】
提供された半導体ウエハーについて、名目上の数値および起こり得る名目上の数値からのずれが既知であるとき、それのために結晶方位の極値θ1、θ2およびドーピング濃度の極値C1、C2を決定すること(段階604)が可能である。極値は、ここでは名目上の量と該名目上の量からの最大のずれとの合計と一致する。したがって:
θ1=θ
nom+Δ
θ+
θ2=θ
nom−Δ
θ+
C1=C
nom+Δ
C+
C2=C
nom−Δ
C−
【0042】
上記で議論されたように、ずれΔ
θ+、Δ
θ−、Δ
C+およびΔ
C−の温度ドリフトの総周波数誤差に対する影響は、半導体ウエハーにおける名目上の数値の組み合わせによって変化し得る。しかしながら、シミュレーションおよび/または計測を通して、異なった数値の組み合わせについて総周波数誤差の数値を決定することが可能である。
図7は、
図1の半導体ウエハーのために定義された、例示的な総周波数誤差ポテンシャル曲線を説明する。
図7における二つの同様の曲線の間の領域は、総周波数誤差が示された閾値水準より低いままである、結晶方位とドーピング濃度の組み合わせを含む。本例における総周波数誤差曲線は、選択された設計温度範囲であるセ氏−40...+85度のために生成されたものであるが、保護の範囲から外れることなく、他の温度範囲が適用され得る。
【0043】
図6の方法では、したがって、極値の組み合わせ(θ1、C1)、(θ1、C2)、(θ2、C1)および(θ2、C2)のそれぞれについての総周波数誤差ERR(θ1、θ2、C1、C2)を決定し(段階606)、これらの周波数誤差の数値を、極値のそれぞれにおける誤差ERR(θ1、θ2、C1、C2)が定められた閾値誤差水準ERR
THより小さいか否か決定する(段階608)ために使用することができる。小さければ、名目上のドーピング濃度および名目上の結晶方位の半導体ウエハーが微小電気機械的共振器の製造に適用可能であり(段階610)、小さくなければ適用不可である(段階612)。
【0044】
図8は、特定の半導体ウエハーの極値の組み合わせ(θ1、C1)、(θ1、C2)、(θ2、C1)がどのように長方形として描かれ得るかを説明する。先に議論されたように、前記例では、最大の負のずれΔ
C−はゼロであると考えられた一方、最大の正のずれΔ
C+はゼロではない数値を有する。この配置に対応する長方形700は、
図7の誤差ポテンシャル曲線の中に描かれている。半導体ウエハーは、すべての極値の組み合わせの決定された値が所定の誤差閾値より低いままであれば、微小機械的共振器の製造のために、名目上の結晶方位で使用され得る。したがって、所定の総周波数誤差閾値では、特定の半導体ウエハーの種類のために長方形を描き、その境界がその特定の誤差ポテンシャルの領域内に留まるかどうかを確認することができる。留まっていれば、その特定の名目上の数値を有する半導体ウエハーは、製造のために選択され得る。
【0045】
例えば、
図7は例示的な半導体ウエハーの材料特性と一致する長方形700を示し、ここでは、名目上の結晶方位からの最大の正のずれΔ
θ+および最大の負のずれΔ
θ−は等しく、ほぼ1°である。名目上の濃度からの最大の正のずれΔ
C+はほぼ1・10
19cm
−3であり、最大の負のずれはゼロである。名目上の数値(ここからずれが定義される)は、長方形の底辺に名目上の数値位置702として現れる。その特定のウエハー特性では、既に最も低い200ppm総周波数誤差閾値領域において、長方形のとり得る位置が存在することを見て取ることができる。長方形の名目上の数値位置702(θ=17度、c=7.1・10
19cm
−3)は、ウエハーのドーピング濃度の適用可能な最小値およびウエハー上に製造される共振器の方位の適用可能な名目上の数値を示す。特に、
図7の誤差ポテンシャル曲線はまた、異なった総周波数誤差水準では、特定の寸法領域があり、ここでは、名目上のドーピング濃度からのずれが予想より大きくても、総周波数誤差を実質的に増加させないことを示す。
【0046】
従来のkHz範囲の音叉石英結晶共振器の総周波数誤差は、典型的には、ほぼ200ppmである。それらと確実に対抗するためには、シリコン構造の総周波数誤差は、有利にはほぼ300ppm以下であるべきである。この基準に基づき、たわみモード共振器に適用可能な結晶方位の数値は13度から始まり、ドーピング濃度の数値は約4・10
19cm
−3から始まることが、
図7から見て取れ得る。総誤差とドーピング濃度の変化に対する感度の両方を考慮した最適な結晶方位角は約14.8度であり、上記で議論されたように、方位角が最適値から離れて増加するにつれて、同水準の総周波数誤差を維持するためには、より高いドーピング率が必要とされる。典型的には、半導体ウエハーの価格は、ドーピング濃度の水準とともに増加する。他方、9・10
19cm
−3ドーピング濃度水準を超える実用可能な数値はほとんどない。したがって、たわみモード共振器の適用可能な結晶方位の数値が、典型的には22度の前に終わることもまた、
図7から見て取ることができる。適用可能な数値の組み合わせの範囲は、
図7に示される300ppm誤差ポテンシャル曲線により限定された角状の領域内にある。
【0047】
図9は、
図7のポテンシャル曲線における適用可能な数値の組み合わせの範囲を説明する。適用可能な範囲は、例えば、式(Cは1・10
19cm
−3を単位とする):
【0049】
によって定義される面積を用いて見積もられ得る。
ここで
k1=0.0027deg
−3cm
−3
k2=−0.0886deg
−2cm
−3
k3=1.1667deg
−1cm
−3
k4=−2.2624cm
−3
【0050】
実際には、結晶方位のずれは、ほぼ0.5度であり、すなわち、最低ドーピング濃度からのずれより比較的小さい。さらに、ポテンシャル曲線の特定の形状により、特定された範囲では、最低ドーピング濃度からの上向きのずれは、ポテンシャル曲線外の最も高いドーピング濃度C2の極値(θ1、C2)、(θ2、C2)における総周波数誤差ERR(θ1、θ2、C1、C2)を支配しないことが容易に見て取ることができる。したがって、変形要素の実際の寸法は、半導体ウエハーのn−型ドーピング濃度の最小値Cを決定すること、およびこのn−型ドーピング濃度の最小値Cによって変形要素の結晶方位角Θの数値を、数値が上記曲線内に形成された範囲内になるよう調節することにより、安全になされ得る。
【0051】
図9は、
図7の総ポテンシャル誤差曲線を説明し、ここでは、二つの長方形が、
図7の特定の種類の半導体ウエハー700に対応する。
図9は、300ppm総周波数誤差閾値領域における長方形の二つの異なった位置を説明する。これらの位置は、特定の種類の半導体ウエハーおよび結晶方位の特徴的なばらつきに関する知識を用いて、共振器の技術的および商業的に最適な名目上の数値の組み合わせを検索するために、所定の総周波数誤差水準の領域において長方形を移動させることもまた可能であることを説明する。ポテンシャル曲線は、ドーピング濃度および結晶方位の数値の適用可能な範囲を示し、その範囲では、名目上の数値の組み合わせAまたはBのいずれかが製造のために選択され得る。決定は、装置設計全体の温度安定動作を実質的に損なうことなく、他の、潜在的には非技術的観点にさえ基づいていてもよい。
【0052】
図7は、
図1の[100]方位(<100>方向族の一つ)に45°間隔で描かれた、例示的な総周波数誤差ポテンシャル曲線を説明した。シリコン結晶の対称性では、結晶方位は、シリコンの対称性により{100}平面で繰り返すと考えられ得ること、すなわち、総周波数誤差に対する同様の影響が、名目上の角度n
*90°(ここで、n=1、2または3)で検出され得ることが注目されるべきである。
【0053】
さらに、
図7は、共振器の平面内および平面外のたわみモード振動の総周波数誤差ポテンシャルを説明した。
図10は、規定されたドーピング濃度および{100}平面での切り取りを用いて、シリコンウエハーの方位を説明する。三つの破線の円900、902、904は、結晶方位角θの例示的な最適範囲を示し、その範囲では、シリコンウエハーの特定のドーピング濃度および結晶方位角θの組み合わせにより提供される総周波数誤差は、特定の閾値の下に留まる。図は、範囲が主要な結晶軸[100]、[010]、[001]に関して回転対称であることを説明する。対称性は負の方向にも適用され、すなわち、結晶方位角θの計6つの最適範囲が存在する(図示せず)。
【0054】
発明の実施形態は、例えば、
図6の方法で製造された
図1の実施形態として、微小機械的共振器102もまた含む。該微小機械的共振器は、設計の公表された最大温度ドリフトについて共振器の変形要素のシリコン材料の名目上のドーピング濃度および名目上の結晶方位の組み合わせが、
図7に開示された対応する総周波数誤差ポテンシャル範囲内にあるという点で先行技術の解決策と差別化され得る。上記で議論されたように、範囲は、式:
【0056】
で定義される領域内にある、名目上の結晶方位の数値Θ、および名目上の最低ドーピング濃度の数値Cを含む。
ここで
k1=0.0027deg
−3cm
−3
k2=−0.0886deg
−2cm
−3
k3=1.1667deg
−1cm
−3
k4=−2.2624cm
−3
【0057】
微小電気機械的共振器は、有利には周波数基準装置であるが、発明は、内蔵されたたわみモード共振器の周波数安定性が重要である、いかなる種類の微小電気機械的共振器にも適用される。微小機械的共振器は、微小電気機械デバイス(例えば、加速度計、角速度センサーもしくは磁場センサーのようなセンサーデバイス、または、光学機械デバイスもしくはスイッチングデバイスのようなアクチュエータデバイス)に含まれていてもよい。
【0058】
技術が進歩するに連れ、発明の基本的な考え方がさまざまな方法で実施され得ることは、当業者にとって明らかである。例えば、説明された変形要素は、多層共振器構造の一部であってもよい。発明とその実施形態は、したがって、上記実施例に限定されず、特許請求の範囲内で変化してもよい。