(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス転移温度が5℃以下である第1の粒子状結着剤、ガラス転移温度が10〜80℃であり、ゲル含量が70重量%以上である第2の粒子状結着剤、及び、電極活物質を含有してなる電気化学素子電極用複合粒子であって、
前記電気化学素子電極用複合粒子に含有される全結着剤中における、前記第1の粒子状結着剤の含有割合が、5〜40重量%であり、前記第2の粒子状結着剤の含有割合が、60〜95重量%であることを特徴とする電気化学素子電極用複合粒子。
前記第1の粒子状結着剤、及び前記第2の粒子状結着剤が、酸性官能基を有する単量体単位を0.5重量%以上含有する重合体を含むものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子。
前記電気化学素子電極用複合粒子を2段階以上ロール加圧する際における、第1段目のロール加圧温度を60℃以下、第2段目以降のロール加圧温度を80℃以上とすることを特徴とする請求項10または11に記載の電気化学素子電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、ガラス転移温度が5℃以下である第1の粒子状結着剤、ガラス転移温度が10〜80℃であり、ゲル含量が70重量%以上である第2の粒子状結着剤、及び、電極活物質を含有してなり、前記電気化学素子電極用複合粒子に含有される全結着剤中における、前記第2の粒子状結着剤の含有割合が、30〜95重量%であることを特徴とする。
【0017】
(電極活物質)
本発明で用いる電極活物質は、電気化学素子の種類によって適宜選択される。たとえば、リチウムイオン二次電池の正極用の電極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な金属酸化物が挙げられる。このような金属酸化物としては、たとえば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、燐酸鉄リチウム、燐酸マンガンリチウム、燐酸バナジウムリチウム、バナジン酸鉄リチウム、ニッケル−マンガン−コバルト酸リチウム、ニッケル−コバルト酸リチウム、ニッケル−マンガン酸リチウム、鉄−マンガン酸リチウム、鉄−マンガン−コバルト酸リチウム、珪酸鉄リチウム、珪酸鉄−マンガンリチウム、酸化バナジウム、バナジン酸銅、酸化ニオブ、硫化チタン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、等を挙げることができる。なお、上記にて例示した正極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリキノンなどのポリマーが挙げられる。これらのうち、リチウム含有金属酸化物を用いることが好ましい。
ここで、本発明においてドープとは、吸蔵、担持、吸着または挿入を意味し、正極にリチウムイオン及び/又はアニオンが入る現象、あるいは負極にリチウムイオンが入る現象などが挙げられる。また、脱ドープとは、上記ドープの逆の現象、すなわち、放出、脱着、脱離を意味する。
【0018】
また、リチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質としては、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料、錫やケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物、ポリアセン等が挙げられる。なお、上記に例示した電極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0019】
リチウムイオン二次電池の正極用及び負極用の電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。また、リチウムイオン二次電池の正極用及び負極用の電極活物質の体積平均粒子径は、正極用、負極用ともに通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは0.8〜20μmである。さらに、リチウムイオン二次電池用の正極用及び負極用の電極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、正極用では2g/cm
3以上、負極用では0.6g/cm
3以上のものが好適に用いられる。
【0020】
リチウムイオンキャパシタの正極用の電極活物質としては、アニオン及び/又はカチオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な活性炭、ポリアセン系有機半導体(PAS)、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、グラファイト等が挙げられる。これらのなかでも、活性炭、カーボンナノチューブが好ましい。
【0021】
また、リチウムイオンキャパシタの負極用の電極活物質としては、上述したリチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質として例示した材料を使用することができる。
【0022】
リチウムイオンキャパシタの正極用及び負極用の電極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは0.8〜20μmである。また、リチウムイオンキャパシタの正極用の電極活物質として活性炭を用いる場合、活性炭の比表面積は、30m
2/g以上、好ましくは500〜3,000m
2/g、より好ましくは1,500〜2,600m
2/gである。比表面積が約2,000m
2/gまでは比表面積が大きくなるほど活性炭の単位重量あたりの静電容量は増加する傾向にあるが、比表面積が約2,000m
2/gを超えると、静電容量はそれほど増加せず、かえって電極活物質層の密度が低下し、静電容量密度が低下する傾向にある。また、活性炭が有する細孔のサイズは電解質イオンのサイズに適合していることがリチウムイオンキャパシタとしての特徴である急速充放電特性の面で好ましい。したがって、電極活物質を適宜選択することで、所望の容量密度、入出力特性を有する電極活物質層を得ることができる。
【0023】
あるいは、電気二重層キャパシタ用の正極用及び負極用の電極活物質としては、上述したリチウムイオンキャパシタの正極用の電極活物質として例示した材料を使用することができる。
【0024】
(第1の粒子状結着剤)
本発明で用いる第1の粒子状結着剤は、ガラス転移温度が5℃以下である粒子状の結着剤である。
【0025】
本発明で用いる第1の粒子状結着剤は、粒子形状を有するものであればよいが、本発明の電気化学素子電極用複合粒子内においても、粒子状態を保持した状態、すなわち、電極活物質上に粒子状態を保持した状態で存在できるものであることが好ましい。電気化学素子電極用複合粒子内において、粒子状態を保持した状態で存在することにより、電子伝導を阻害することなく、電極活物質同士を良好に結着することが可能となる。すなわち、内部抵抗を増大させることなく、電極活物質同士の結着性を良好なものとすることができる。なお、本発明において、“粒子状態を保持した状態”とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよく、たとえば、電極活物質同士を結着した結果、これら電極活物質同士によりある程度押しつぶされたような形状となっていてもよい。
【0026】
本発明で用いる第1の粒子状結着剤は、ガラス転移温度(Tg)が5℃以下であり、好ましくは−40〜+5℃であり、より好ましくは−40〜−5℃、さらに好ましくは−40〜−10℃である。本発明においては、ガラス転移温度が5℃以下である第1の粒子状結着剤と、後述するガラス転移温度が10〜80℃であり、ゲル含量が70重量%以上である第2の粒子状結着剤とを組み合わせて用いることにより、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られる電極活物質層を、電極活物質層の厚みの均一性及び集電体に対する密着性が高く、低温サイクル特性に優れたものとすることができる。第1の粒子状結着剤のガラス転移温度が高すぎると、第1の粒子状結着剤を軟化させ、電極活物質層を形成する際における加圧温度を高くする必要があり、その結果として、得られる電極活物質層の厚みの均一性が低下してしまう。また、得られる電極活物質層の柔軟性が低下してしまう。一方、第1の粒子状結着剤のガラス転移温度が低すぎると、得られる電極活物質層の強度が低下してしまう場合があるため、ガラス転移温度は上記温度範囲であることが好ましい。
【0027】
また、本発明で用いる第1の粒子状結着剤は、ガラス転移温度が上記範囲にあればよいが、ガラス転移温度が上記範囲にあることに加えて、ゲル含量が35重量%以上であることが好ましく、より好ましくは35〜95重量%、さらに好ましくは50〜95重量%、特に好ましくは70〜95重量%である。第1の粒子状結着剤として、ゲル含量が上記範囲にあるものを用いることにより、得られる電極活物質層の強度をより高めることができる。なお、本発明において、第1の粒子状結着剤のゲル含量は、第1の粒子状結着剤中のテトラヒドロフランに対する不溶分として算出されるものであり、具体的には第1の粒子状結着剤の乾燥重量を測定後、テトラヒドロフランに24時間浸漬し、テトラヒドロフランにより抽出されなかった成分の重量割合を求めることにより算出することができる。
【0028】
このような第1の粒子状結着剤としては、たとえば、分散媒として水を用いた乳化重合により得られる重合体などが挙げられ、この場合には、第1の粒子状結着剤は、通常、分散媒としての水に分散させた状態で用いられる。このような重合体の具体例としては、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、シリコン系重合体などが挙げられ、これらのなかでも、ジエン系重合体、アクリレート系重合体が好ましく、アクリレート系重合体が特に好ましく用いられる。
【0029】
アクリレート系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル〔アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの意。以下、同様。〕の単独重合体又はこれらを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
【0031】
これら(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、第1の粒子状結着剤を電解液に対する膨潤性の低いものとすることができ、これにより、電極とした際におけるサイクル特性を向上させることができるという点より、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0032】
第1の粒子状結着剤を構成する重合体中における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合は、好ましくは50〜99重量%であり、より好ましくは80〜99重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合を上記範囲とすることにより、電気化学素子電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる。なお、本発明においては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステルとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いる場合には、たとえば、アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの割合を調整することにより、第1の粒子状結着剤のガラス転移温度を制御することができる。
【0033】
なお、上記説明においては、ガラス転移温度を制御する方法の一例として、アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位と、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位との割合を調整する方法を示したが、ガラス転移温度を制御するための方法としては、このような方法に特に限定されるものではない。たとえば、これらの割合を調整することにより、ガラス転移温度を制御する場合には、第1の粒子状結着剤を構成する重合体中におけるアルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の含有割合を、好ましくは48〜98重量%、より好ましくは58〜98重量%、さらに好ましくは63〜98重量%とする。また、第1の粒子状結着剤を構成する重合体中におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の含有割合を、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜40重量%、さらに好ましくは0〜35重量%とする。
【0034】
また、アクリレート系重合体としては、上述した(メタ)アクリル酸エステルと、これと共重合可能な単量体との共重合体であってもよく、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を得る際に、第1の粒子状結着剤を含む各成分を用いてスラリーを得た際に、得られるスラリーの安定性を向上させることができるという点より、共重合可能な単量体として、酸性官能基を有する単量体を用い、酸性官能基を有する単量体単位を含有するものとすることが好ましい。
【0035】
酸性官能基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、メタクリル酸、イタコン酸がより好ましく、特に、メタクリル酸が好ましい。
【0036】
第1の粒子状結着剤を構成する重合体中における酸性官能基を有する単量体単位の含有割合は、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%、特に好ましくは0.5〜3重量%である。酸性官能基を有する単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性の向上効果をより高めることができる。
【0037】
また、アクリレート系重合体としては、上述した(メタ)アクリル酸エステル、及び酸性官能基を有する単量体に加えて、さらにこれらと共重合可能な単量体を共重合したものであってもよく、このような共重合可能な単量体としては、たとえば、架橋性単量体が挙げられる。
【0038】
架橋性単量体としては、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸スチリル、(メタ)アクリル酸ウンデセニル、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレートなどの炭素−炭素不飽和結合を2つ以上有する単量体が挙げられる。
【0039】
第1の粒子状結着剤を構成する重合体中における架橋性単量体単位の含有割合は、ゲル含量が上述した好ましい範囲になるように、用いる架橋性単量体の種類に応じて適宜調整すればよく、その結果、得られる電極活物質層の強度をより高めることができる。
【0040】
さらに、アクリレート系重合体としては、上述した各単量体と共重合可能な他の単量体を共重合したものであってもよく、このような他の単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリルモノマー、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などが挙げられる。
【0041】
また、第1の粒子状結着剤の体積平均粒子径は、好ましくは10〜50,000nm、より好ましくは10〜10,000nm、さらに好ましくは50〜5,000nm、特に好ましくは100〜3,000nmである。第1の粒子状結着剤の体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、結着剤としての結着力を向上させることができる。
【0042】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、第1の粒子状結着剤の含有割合は、電気化学素子電極用複合粒子に含有される全結着剤100重量%に対して、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは5〜40重量%である。また、電極活物質100重量部に対する第1の粒子状結着剤の含有割合は、好ましくは0.2〜7重量部、より好ましくは0.2〜4重量部、さらに好ましくは0.2〜2重量部である。第1の粒子状結着剤の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電極の厚みが均一になり、さらに、電極の柔軟性及び強度を良好なものとすることができる。
【0043】
(第2の粒子状結着剤)
本発明で用いる第2の粒子状結着剤は、ガラス転移温度が10〜80℃であり、ゲル含量が70重量%以上である粒子状の結着剤である。
【0044】
本発明で用いる第2の粒子状結着剤は、上述した第1の粒子状結着剤と同様に、粒子形状を有するものであればよいが、本発明の電気化学素子電極用複合粒子内においても、粒子状態を保持した状態、すなわち、電極活物質上に粒子状態を保持した状態で存在できるものであることが好ましく、これにより、内部抵抗を増大させることなく、電極活物質同士の結着性を良好なものとすることができる。
【0045】
本発明で用いる第2の粒子状結着剤は、ガラス転移温度(Tg)が10〜80℃であり、好ましくは10〜65℃、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜50℃である。第2の粒子状結着剤のガラス転移温度が低すぎると、得られる電極活物質層の厚みの均一性が低下してしまう。一方、第2の粒子状結着剤のガラス転移温度が高すぎると、電極活物質層と集電体との密着性を向上させるための加圧を所定の温度にて行った際に、第2の粒子状結着剤の軟化が不十分となり、結果として、得られる電極活物質層の集電体に対する密着性が悪化してしまう。あるいは、電極活物質層と集電体との密着性を向上させるための加圧を行う際の温度を高くした場合には、電極活物質層を形成する各種成分が劣化してしまうおそれがある。また、得られる電極活物質層の柔軟性が低下してしまうおそれがある。
【0046】
また、本発明で用いる第2の粒子状結着剤は、ゲル含量が70重量%以上であり、好ましくは70〜95重量%、より好ましくは75〜95重量%、さらに好ましくは75〜90重量%である。第2の粒子状結着剤のゲル含量が低すぎると、電極活物質層の集電体に対する密着性が悪化してしまう。一方、第2の粒子状結着剤のゲル含量が高すぎると、得られる電極活物質層の強度が低下してしまう。なお、本発明において、第2の粒子状結着剤のゲル含量は、上述した第1の粒子状結着剤と同様に、第2の粒子状結着剤中のテトラヒドロフランに対する不溶分として算出されるものである。
【0047】
また、第2の粒子状結着剤のガラス転移温度は、上記範囲にあればよいが、上述した第1の粒子状結着剤のガラス転移温度との関係で、これらの差、すなわち、「(第2の粒子状結着剤のガラス転移温度)−(第1の粒子状結着剤のガラス転移温度)」が、20℃以上であることが好ましく、より好ましくは20〜150℃の範囲、さらに好ましくは20〜100℃の範囲、特に好ましくは30〜80℃の範囲である。ガラス転移温度の差がこの範囲にあることにより、得られる電極活物質層を、厚みの均一性により優れたものとすることができる。
【0048】
このような第2の粒子状結着剤としては、上述した第1の粒子状結着剤と同様に、たとえば、分散媒として水を用いた乳化重合により得られる重合体などが挙げられ、この場合には、第2の粒子状結着剤は、通常、分散媒としての水に分散させた状態で用いられる。このような重合体の具体例としては、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、シリコン系重合体などが挙げられ、これらのなかでも、ジエン系重合体、アクリレート系重合体が好ましく、アクリレート系重合体が特に好ましく用いられる。
【0049】
アクリレート系重合体は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又はこれらを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、上述した第1の粒子状結着剤と同様のものを挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、(メタ)アクリル酸エステルのなかでも、第2の粒子状結着剤を電解液に対する膨潤性の低いものとすることができ、これにより、電極とした際におけるサイクル特性を向上させることができるという点より、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0051】
第2の粒子状結着剤を構成する重合体中における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合は、好ましくは50〜99重量%であり、より好ましくは70〜99重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合を上記範囲とすることにより、電気化学素子電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる。なお、本発明においては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステルとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いる場合には、たとえば、アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの割合を調整することにより、第2の粒子状結着剤のガラス転移温度を制御することができる。
【0052】
なお、上記説明においては、ガラス転移温度を制御する方法の一例として、アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位と、アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位との割合を調整する方法を示したが、ガラス転移温度を制御する方法としては、このような方法に特に限定されるものではない。たとえば、これらの割合を調整することにより、ガラス転移温度を制御する場合には、第2の粒子状結着剤を構成する重合体中におけるアルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の含有割合を、好ましくは0〜44重量%、より好ましくは3〜44重量%、さらに好ましくは12〜40重量%とする。また、第2の粒子状結着剤を構成する重合体中におけるアルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の含有割合を、好ましくは53〜98重量%、より好ましくは53〜95重量%、さらに好ましくは57〜86重量%とする。
【0053】
また、アクリレート系重合体としては、上述した(メタ)アクリル酸エステルと、これと共重合可能な単量体との共重合体であってもよく、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を得る際に、第2の粒子状結着剤を含む各成分を用いてスラリーを得た際に、得られるスラリーの安定性を向上させることができるという点より、共重合可能な単量体として、酸性官能基を有する単量体を用い、酸性官能基を有する単量体単位を含有するものとすることが好ましい。
【0054】
酸性官能基を有する単量体としては、上述した第1の粒子状結着剤と同様のものを用いることができる。第2の粒子状結着剤を構成する重合体中における酸性官能基を有する単量体単位の含有割合は、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%、特に好ましくは0.5〜3重量%である。酸性官能基を有する単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性の向上効果をより高めることができる。
【0055】
また、アクリレート系重合体としては、上述した(メタ)アクリル酸エステル、及び酸性官能基を有する単量体に加えて、さらにこれらと共重合可能な単量体を共重合したものであってもよく、このような共重合可能な単量体としては、たとえば、架橋性単量体が挙げられる。
【0056】
架橋性単量体としては、上述した第1の粒子状結着剤と同様のものを用いることができる。第2の粒子状結着剤を構成する重合体中における架橋性単量体単位の含有割合は、用いる架橋性単量体の種類に応じて適宜調整することにより、第2の粒子状結着剤のゲル含量を上述した所定の範囲とすることができる。
【0057】
さらに、アクリレート系重合体としては、上述した各単量体と共重合可能な他の単量体を共重合したものであってもよく、このような他の単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリルモノマー、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などが挙げられる。
【0058】
また、第2の粒子状結着剤の体積平均粒子径は、好ましくは10〜50,000nm、より好ましくは10〜10,000nm、さらに好ましくは50〜5,000nm、特に好ましくは100〜3,000nmである。第2の粒子状結着剤の体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、結着剤としての結着力を向上させることができる。
【0059】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、第2の粒子状結着剤の含有割合は、電気化学素子電極用複合粒子に含有される全結着剤100重量%に対して、30〜95重量%であり、好ましくは40〜95重量%、より好ましくは50〜95重量%、さらに好ましくは60〜95重量%である。第2の粒子状結着剤の含有割合が少なすぎると、電極活物質層とした場合における、集電体に対する密着性が悪化してしまう。一方、第2の粒子状結着剤の含有割合が多すぎると、上述した第1の粒子状結着剤の含有割合が相対的に少なくってしまい、結果として、得られる電極活物質層の厚みの均一性が低下してしまう。なお、電極活物質100重量部に対する第2の粒子状結着剤の含有割合は、好ましくは0.2〜20重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。
【0060】
(電気化学素子電極用複合粒子)
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、上述した第1の粒子状結着剤、第2の粒子状結着剤、及び、電極活物質を含んでなるが、前記のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、これら各成分の、少なくとも2成分、好ましくは全成分で一粒子を形成するものである。
【0061】
具体的には、各成分の個々の粒子の複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の電極活物質が、第1の粒子状結着剤及び第2の粒子状結着剤によって結着されて塊状の粒子を形成しているものが好ましい。
【0062】
また、電気化学素子電極用複合粒子としての形状及び構造は特に限定されないが、流動性の観点から、形状は球状に近いものが好ましく、構造は、第1の粒子状結着剤及び第2の粒子状結着剤が、複合粒子の表面に偏在することなく、複合粒子内に均一に分散する構造が好ましい。
【0063】
次いで、本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法を説明する。
本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法としては、特に限定されないが、次に述べる二つの製造方法によって電極用複合粒子を容易に得ることができる。
【0064】
まず、第一の製造方法は、噴霧乾燥造粒法である。以下に説明する噴霧乾燥造粒法によれば、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を比較的容易に得ることができるため、好ましい。以下、噴霧乾燥造粒法について説明する。
【0065】
まず、第1の粒子状結着剤、第2の粒子状結着剤、及び、電極活物質を含有する複合粒子用スラリーを調製する。複合粒子用スラリーは、第1の粒子状結着剤、第2の粒子状結着剤、及び、電極活物質、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を、溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。なお、この場合において、第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤が分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。複合粒子用スラリーを得るために用いる溶媒としては、通常、水が用いられるが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどのアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類などが挙げられるが、アルキルアルコール類が好ましい。水よりも沸点の低い有機溶媒を併用すると、噴霧乾燥造粒時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水よりも沸点の低い有機溶媒を併用すると、第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤の分散性が変わると共に、スラリーの粘度や流動性を溶媒の量又は種類によって調製できるので、生産効率を向上させることができる。
【0066】
複合粒子用スラリーを調製する際に使用する溶媒の量は、複合粒子用スラリー中の固形分濃度が、好ましくは1〜65重量%、より好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは15〜60重量%の範囲となる量である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、バインダを均一に分散させることができるため、好適である。
【0067】
また、複合粒子用スラリーの粘度は、室温において、好ましくは10〜3,000mPa・s、より好ましくは30〜1,500mPa・s、さらに好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。複合粒子用スラリーの粘度がこの範囲にあると、噴霧乾燥造粒工程の生産性を上げることができる。
【0068】
また、本発明においては、複合粒子用スラリーを調製する際に、必要に応じて、導電材や分散剤を添加してもよい。
【0069】
導電材としては、導電性を有する粒子状の材料であればよく、特に限定されないが、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;が挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック及びケッチェンブラックが好ましい。導電材の体積平均粒子径は、特に限定されないが、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましく、通常、0.001〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の体積平均粒子径が上記範囲にあると、より少ない使用量で十分な導電性を発現させることができる。導電材を添加する場合における、導電材の使用量は、本発明の効果を損ねない範囲であれば格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。導電材の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電気化学素子の容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減することが可能となる。
【0070】
分散剤としては、溶媒に溶解可能な樹脂であればよく特に限定されないが、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及び、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体等が挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、分散剤としては、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0071】
第1の粒子状結着剤、第2の粒子状結着剤、及び、電極活物質、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されない。また、混合装置としては、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどの混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0072】
次いで、得られた複合粒子用スラリーを噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥する方法である。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーとしては、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置が挙げられ、回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。回転円盤方式において、円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の体積平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられる。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。また、ベーン型アトマイザーは、噴霧盤の内側にスリットが切ってあり、複合粒子用スラリーがその中を通過するように形成されている。一方、加圧方式は、複合粒子用スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式であり、加圧ノズル方式や、加圧二流体ノズル方式などが挙げられる。
【0073】
噴霧される複合粒子用スラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、たとえば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0074】
噴霧乾燥造粒法によれば、以上の製造方法によって、第1の粒子状結着剤、第2の粒子状結着剤、及び、電極活物質、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含む電気化学素子電極用複合粒子を得ることができる。
【0075】
あるいは、電気化学素子電極用複合粒子の第二の製造方法は、流動層造粒法である。流動層造粒法は、第1の粒子状結着剤、及び、第2の粒子状結着剤、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含有するスラリーを得る工程、加熱された気流中に電極活物質を流動させ、そこに得られたスラリーを噴霧し、電極活物質同士を結着させると共に乾燥する工程を有するものである。
以下、流動層造粒法について説明する。
【0076】
まず、第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含有するスラリーを得る。なお、この場合において、第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤が分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。また、スラリーを得るために用いる溶媒として、最も好適には水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできる。有機溶媒としては、上述した噴霧乾燥造粒法と同様のものを用いることができる。
【0077】
スラリーを調製する際に使用する溶媒の量は、スラリーの固形分濃度が、通常は1〜50重量%、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%の範囲となるような量である。溶媒の量がこの範囲にあるときに、第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤が均一に分散するため好適である。
【0078】
また、第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されない。また、混合装置としては、上述した噴霧乾燥造粒法と同様のものを用いることができる。
【0079】
次いで、電極活物質を流動化させ、そこに上記にて得られたスラリーを噴霧して、流動造粒する。流動造粒としては、流動層によるもの、変形流動層によるもの、噴流層によるものなどが挙げられる。流動層によるものは、熱風で電極活物質を流動化させ、これにスプレー等から、上記にて得られたスラリーを噴霧して凝集造粒を行う方法である。変形流動層によるものは、上述した流動層によるものと同様であるが、層内の粉体に循環流を与え、かつ分級効果を利用して比較的大きく成長した造粒物を排出させる方法である。また、噴流層によるものは、噴流層の特徴を利用して粗い粒子にスプレー等からのスラリーを付着させ、同時に乾燥させながら造粒する方法である。本発明においては、この3つ方式のうち流動層又は変形流動層によるものが好ましい。
【0080】
噴霧されるスラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温以上にしたものであってもよい。流動化に用いる熱風の温度は、通常70〜300℃、好ましくは80〜200℃である。
【0081】
流動層造粒法によれば、以上の製造方法によって、第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤、ならびに必要に応じて添加される導電材、分散剤等の任意成分を含む電気化学素子電極用複合粒子を得ることができる。
以上のようにして、本発明の電気化学素子電極用複合粒子は製造される。
【0082】
(電気化学素子電極)
本発明の電気化学素子電極は、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子を含む電極活物質層を集電体上に積層してなる。集電体用材料としては、たとえば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、銅、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から、銅、アルミニウム又はアルミニウム合金を使用するのが好ましい。また、高い耐電圧性が要求される場合には特開2001−176757号公報等で開示される高純度のアルミニウムを好適に用いることができる。集電体は、フィルム又はシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。
【0083】
なお、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を含む電極活物質層を形成する方法としては、たとえば、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子を、2段階以上ロール加圧する方法などが挙げられる。この場合においては、2段階以上ロール加圧する際に、2段階以上のロール加圧を、全て集電体上で行ってもよいし、あるいは、第1段目のロール加圧を集電体とは別の支持体上で行い、第1段目のロール加圧を行うことにより得られた活物質層を、支持体から集電体に転写し、第2段目以降のロール加圧を行うような構成としてもよい。
【0084】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子を、集電体上でロール加圧する際における、ロール加圧温度としては、次の通りとすることが好ましい。すなわち、第1段目のロール加圧を行う際におけるロール温度を、好ましくは60℃以下、より好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは25〜60℃、特に好ましくは30〜50℃とし、第2段目以降のロール加圧を行う際におけるロール温度を、好ましくは80℃以上、より好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは80〜130℃、特に好ましくは80〜120℃とする。
【0085】
本発明においては、第1段目及び第2段目以降のロール加圧温度を上記範囲とすることにより、電極活物質層の厚みの均一性及び集電体に対する密着性が高く、低温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を適切に得ることができる。特に、第1段目のロール加圧を上記温度条件にて行うことにより、第1段目のロール加圧を行った際に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子に含有される第2の粒子状結着剤を軟化させずに、第1の粒子状結着剤のみを軟化させることができ、これにより、当該複合粒子の流動性が適当に保持される。その結果、複合粒子を成形ゾーンに逐次一定量供給することができ、第1段目の加圧によって、電極活物質層の厚みの均一性を良好なものとすることができる。これに加えて、第2段目以降のロール加圧を上記温度条件にて行うことにより、第2段目以降のロール加圧を行った際に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子に含有される第2の粒子状結着剤を適切に軟化させることができ、これにより、第2段目の加圧によって、第1段目の加圧によって得られた均一性に優れた電極活物質層形状を保持したまま、集電体に対する密着性を向上させることが可能となる。そして、その結果として、電極活物質層の厚みの均一性及び集電体に対する密着性が高く、低温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を適切に得ることができる。
【0086】
なお、第1段目の加圧温度が高すぎると、得られる電極活物質層の厚みの均一性及び集電体に対する密着性が低下するとともに、電気化学素子とした場合に低温サイクル特性が低下してしまうおそれがある。また、第2段目以降の加圧温度が低すぎると、得られる電極活物質層の集電体に対する密着性及び、電気化学素子電極用複合粒子同士の密着性が低下してしまうおそれがある。さらには、第2段目以降の加圧を行わず、第1段目の加圧のみを行った場合には、得られる電極活物質層の集電体に対する密着性が低下するとともに、電気化学素子とした場合に低温サイクル特性が低下してしまうおそれがある。
【0087】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子を、集電体上でロール加圧する際における、ロール加圧温度以外の条件は、たとえば、次の通りとすることができる。すなわち、第1段目及び第2段目以降のロール加圧を行う際における成形速度は、好ましくは0.5〜35m/分、より好ましくは1〜30m/分であり、また、ロール間のプレス線圧は、好ましくは0.05〜3kN/cm、より好ましくは0.05〜2.5kN/cmである。
【0088】
このようにして得られる本発明の電気化学素子電極は、電極活物質層に、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られるものであるため、電極活物質層の厚みの均一性及び集電体に対する密着性が高く、低温サイクル特性に優れたものである。そのため、本発明の電気化学素子電極は、各種電気化学素子用の電極として好適に用いることができ、なかでも、リチウムイオン二次電池、およびリチウムイオンキャパシタ用の電極として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
また、以下の実施例においては、本発明の電気化学素子電極用複合粒子及び電気化学素子電極を、リチウムイオンキャパシタの正極に適用した例を挙げて説明するが、リチウムイオンキャパシタの正極に限定されるものではなく、他の電気化学素子用の電極、たとえば、リチウムイオン電池の電極に適用した場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0090】
<粒子状結着剤の体積平均粒子径>
粒子状結着剤の体積平均粒子径は、レーザー光を用いた光回折による粒度分布測定装置(コールターカウンターLS230、コールター社製)を用いて、積分粒径分布における50%積分値に相当する粒径を測定することで求めた。
【0091】
<粒子状結着剤のゲル含量>
粒子状結着剤の水分散液をPTFEシャーレ上で48時間風乾することで、厚み100μmの粒子状結着剤のフィルムを作製し、得られたフィルムを100℃のオーブンにて30分間加熱し、2mm×2mmのサイズに切断した。次いで、切断したフィルムを0.2〜0.3gの範囲内で精秤し、これを、抽出前の結着剤の重量B0とした。次いで、このフィルムを重量B1の円筒濾紙(商品名「No.86R」、東洋濾紙社製)に入れ、フィルムの入った円筒濾紙をソックスレー抽出器に入れた後、テトラヒドロフラン溶媒100mlを用いて24時間抽出した。次いで、抽出後のフィルムの入った円筒濾紙を、12時間風乾した後、さらに、50℃で1時間真空乾燥した。そして、真空乾燥後のフィルムの入った円筒濾紙の重量B2を秤量し、下記式(1)により、ゲル含量(%)を算出した。
ゲル含量(%)=〔(B2−B1)/B0〕×100 ・・・(1)
【0092】
<粒子状結着剤のガラス転移温度(Tg)>
粒子状結着剤の水分散液をPTFEシャーレ上で一週間風乾し、幅1cm×長さ2cm×厚み200μmの粒子状結着剤のフィルムを作製した後、粘弾性スペクトロメータ(DMS)(SIIナノテクノロジー社製、DMS6100標準型)を用いて最小張力を98.0mNとし、毎分5℃で−50℃から+150℃まで昇温し、引っ張りモード(試料の伸長補正:自動測定モードにて調整)で測定し、1Hzにおける損失正接(tanδ)のピークトップ温度をガラス転移温度とした。
【0093】
<ピール強度>
実施例及び比較例で得られた正極を、幅1cm×長さ10cmの矩形状にカットし、カットした正極を、正極活物質層面を上にして固定し、正極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。そして、この測定を10回行い、その平均値を求め、これをピール強度とし、下記基準にて評価した。なお、ピール強度が高いほど、正極活物質層内における密着強度、及び正極活物質層と集電体との間の密着強度が高いと判断できる。
A:ピール強度が20N/m以上
B:ピール強度が7N/m以上、20N/m未満
C:ピール強度が3N/m以上、7N/m未満
D:ピール強度が3N/m未満
E:評価不能
【0094】
<厚みの均一性>
実施例及び比較例で得られた正極を、幅方向(TD方向)10cm、長さ方向(MD方向)1mにカットし、カットした正極について、TD方向に均等に3点、及びMD方向に均等に5点の合計15点(=3点×5点)の膜厚測定を行い、膜厚の平均値A及び平均値から最も離れた値Bを求めた。そして、平均値A及び最も離れた値Bから、下記式(2)にしたがって、厚みムラを算出し、下記基準にて成形性を評価した。厚みムラが小さいほど、厚みの均一性に優れていると判断できる。
厚みムラ(%)=(|A−B|)×100/A ・・・(2)
A:厚みムラが5%未満
B:厚みムラが5%以上、10%未満
C:厚みムラが10%以上、15%未満
D:厚みムラが15%以上
E:正極活物質層に穴が開いている。
【0095】
<低温サイクル特性>
各実施例及び比較例で得られたラミネート型のリチウムイオンキャパシタ(評価セル)について、温度−20℃の条件にて、2000mAの定電流にて、3.6Vまで充電を行なった後、3.6Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、200mAの定電流で、電圧が2.2Vになるまで放電した。そして、このような充電及び放電条件にて充放電試験を1000回繰り返し、10回目の充放電試験後における評価セルの直流抵抗IR
10th、及び1000回目の充放電試験後における評価セルの直流抵抗IR
1000thを測定し、下記式(3)にしたがって、抵抗増加率を算出し、下記基準にて低温サイクル特性を評価した。抵抗増加率が小さいほど、低温サイクル特性に優れていると判断できる。
抵抗増加率(%)=((IR
1000th/IR
10th)×100)−100 ・・・(3)
A:抵抗増加率が10%未満
B:抵抗増加率が10%以上、20%未満
C:抵抗増加率が20%以上、30%未満
D:抵抗増加率が30%以上
E:評価不能
【0096】
(製造例1:粒子状結着剤Aの製造)
メカニカルスターラー及びコンデンサを装着した反応器に、窒素雰囲気下、脱イオン水210部を仕込み、撹拌しながら70℃に加熱し、1.96%過硫酸カリウム水溶液25.5部を反応器に添加した。次いで、メカニカルスターラーを装着した上記とは別の容器に、窒素雰囲気下、アクリル酸ブチル81.2部、メタクリル酸エチル16.3部、メタクリル酸2.4部、メタクリル酸アリル0.1部、濃度30%のアルキル
ジフェニルオキシドジスルホネート(ダウファックス(登録商標)2A1、ダウ・ケミカル社製)3.34部、及び脱イオン水22.7部を添加し、これを攪拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌乳化させた状態にて、2.5時間かけて一定の速度で、脱イオン水210部及び過硫酸カリウム水溶液を仕込んだ反応器に添加し、重合転化率が95%になるまで反応させて、粒子状結着剤Aの水分散液を得た。得られた粒子状結着剤Aの組成は、アクリル酸ブチル単位81.2%、メタクリル酸エチル単位16.3%、メタクリル酸単位2.4%、及びメタクリル酸アリル単位0.1%であった。また、粒子状結着剤Aのガラス転移温度(Tg)は−25℃であり、ゲル含量は87%、体積平均粒子径は340nmであった。
【0097】
(製造例2〜12:粒子状結着剤B〜Lの製造)
重合に用いる単量体として、表1に示す単量体を表1に示す量用いた以外は、製造例1と同様にして、粒子状結着剤B〜Lの各水分散液を得た。得られた粒子状結着剤B〜Lの組成、ガラス転移温度、ゲル含量及び体積平均粒子径を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
(実施例1)
<正極用スラリーの製造>
正極電極活物質として、比表面積2000m
2/gのアルカリ賦活活性炭100部、導電材としてアセチレンブラック7.5部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の1.5%水溶液(セロゲンBSH−6、第一工業製薬社製)を固形分換算で1.4部、製造例1で得られた粒子状結着剤Aの水分散液を固形分換算で1.5部、及び製造例2で得られた粒子状結着剤Bの水分散液を固形分換算で4.5部を、イオン交換水中に分散させ、固形分濃度が20%となるように調整した。続いて、プラネタリーミキサーにて混合分散を行うことで、正極用スラリーを得た。
【0100】
<正極用複合粒子の製造>
上記にて得られた正極用スラリーを、スプレー乾燥機を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)の回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃の条件で噴霧乾燥造粒を行い、正極用複合粒子を得た。
【0101】
<正極の製造>
そして、上記にて得られた正極用複合粒子と、長尺のシート状支持体(粗面化処理として、表面粗さRaが0.4μmとなるようにサンドブラスト処理を施したPETフィルム〔厚み50μm、引っ張り強度200MPa〕)、長尺のシート状のアルミニウム製エキスパンドメタル集電体(4μmの接着剤層を両面塗工済みの厚み30μmのシート状のアルミニウムに、開口率50%となるように直径1mmの穴を開けたもの)を使用し、
図1に示す装置を用いて、集電体の両面に平均厚み90μmの正極活物質層を有する正極を得た。
【0102】
なお、
図1に示す装置においては、以下のようにして正極が製造されるようになっている。すなわち、ホッパH1に貯蔵されている正極用複合粒子を、ロールB1から繰り出されるシート状支持体とともに、一対のロールS1及びS2により加圧圧縮することで(第1段目のロール加圧)、シート状支持体上に、正極用複合粒子からなる層が形成される。また、同様に、ホッパH2に貯蔵されている正極用複合粒子を、ロールB2から繰り出されるシート状支持体とともに、一対のロールS3及びS4により加圧圧縮することで(第1段目のロール加圧)、シート状支持体上に、正極用複合粒子からなる層が形成される。
【0103】
そして、ロールB1から繰り出されたシート状支持体上に形成された正極用複合粒子からなる層、及びロールB2から繰り出されたシート状支持体上に形成された正極用複合粒子からなる層が、集電体と共に、一対のロールA1及びA2により加圧されることにより、シート状支持体から集電体の両表面に正極用複合粒子からなる層が転写され、次いで、一対のロールA3及びA4により加圧圧縮されることにより(第2段目のロール加圧)、集電体の両表面に正極活物質層が形成されることとなる。なお、この際において、ロールB1,B2から繰り出されたシート状支持体は、正極用複合粒子からなる層から剥離し、ロールB3,B4により巻き取られることとなる。本実施例においては、ロールS1,S2,S3及びS4については、各ロール間の間隔を100μmとし、ロール温度(第1段目のロール加圧温度)を45℃、線圧を0.1kN/cmとした。また、ロールA1及びA2については、各ロール間の間隔を50μmとし、ロール温度を30℃、線圧を1kN/cmとし、さらに、ロールA3及びA4については、各ロール間の間隔を100μmとし、ロール温度(第2段目のロール加圧温度)を100℃、線圧を1kN/cmとした。なお、各ロールの周速は12m/分とした。
【0104】
<負極用スラリーの製造>
負極活物質として、体積平均粒子径が2.7μmの黒鉛(KS−4、ティムカル社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の1.5%水溶液(品番2200、ダイセル化学工業社製)を固形分換算で2部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状、電気化学工業社製)5部、結着剤としてガラス転移温度が−40℃で、体積平均粒子径が0.25μmのジエン重合体(スチレン60部、ブタジエン35部、イタコン酸5部を乳化重合して得られた共重合体)の40%水分散体を固形分換算で3部、及びイオン交換水を、全固形分濃度が35%となるようにプラネタリーミキサーにより混合することで、負極用スラリーを得た。
【0105】
<負極の製造>
基材として、アルキド樹脂により剥離処理を施してなる厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック社製、基材の剥離処理面の水との接触角:97°)を用いて、水平方向に40m/分の速度で走行する該基材に、上記にて得られた負極用スラリーをダイから吐出することで、塗布し、120℃で、5分間乾燥することで、基材上に厚さ60μmの負極活物質層を有する基材を得て、これを巻き取った。
【0106】
次いで、上記にて形成した負極活物質層を有する基材と、孔開き集電体として厚み20μm、開口率50面積%の銅製エキスパンドメタルとを重ねて、これを温度100℃の連続式ロールプレスを通し、負極活物質層と孔開き集電体とを貼り合わせ、さらに負極活物質層から基材をロールにて分離した。そして、最後に、孔開き集電体のもう一方の面に負極活物質層を形成するために、上記にて形成した負極活物質層を有する基材を、一方の面に負極活物質層を形成した孔開き集電体とともに、連続式ロールプレスに通し、負極活物質層と孔開き集電体とを貼り合わせ、さらに負極活物質層から基材をロールにて分離し、孔開き集電体の両面に片面厚さ30μmの負極活物質層が形成されてなる負極を得た。
【0107】
<評価用セルの作製>
そして、上記にて作製した正極及び負極を、活物質層が形成されていない未塗工部の大きさが縦2cm×横2cmであり、かつ、活物質層が形成されている部分の大きさが縦5cm×横5cmとなるように切り抜いた。なお、この際において、未塗工部は、活物質層が形成されている5cm×5cmの正方形の一辺が、そのまま延長したような形態で形成した。そして、このように切り抜いた正極を10組、負極を11組それぞれ用意し、これらをそれぞれ積層し、それぞれの未塗工部を積層した状態で超音波溶接した後、正極にはアルミニウムからなるタブ材を、負極にはニッケルからなるタブ材を、それぞれ積層溶接した未塗工部へ超音波溶接により接合することにより、測定用電極を得た。なお、正極用及び負極用のタブ材としては、縦7cm×横1cm×厚み0.01cmのサイズのものを使用した。そして、得られた測定用電極を200℃で24時間真空乾燥し、セパレータとして厚さ35μmのセルロース/レーヨン混合不織布を用いて、正極及び負極のタブ溶接部がそれぞれ反対側になるよう配置し、かつ、正極及び負極を、セパレータを介して、交互に積層した。なお、この際においては、積層体の最外部に位置する電極がいずれも負極となるように積層し、かつ、最上部及び最下部には、セパレータを配置して、4辺をテープ留めした。
【0108】
次いで、リチウム極として、リチウム金属箔(厚み51μm、縦5cm×横5cm)を厚さ80μmのステンレス網に圧着したものを用い、該リチウム極を最外部の負極と完全に対向するように積層することで、積層体の上部及び下部に各一枚のリチウム極を配置した。また、積層体の上部及び下部に配置した二枚のリチウム極の集電体となるステンレス網のタブ溶接部を、負極のタブ溶接部に抵抗溶接した。
【0109】
そして、上記のようにして得られたリチウム極を上部及び下部に配置してなる積層体を、深絞り加工された下外装ラミネートフィルムの内部へ設置し、次いで、これを上外装ラミネートフィルムで覆って、下外装ラミネートフィルム及び上外装ラミネートフィルムの三辺を融着した後、電解液を真空含浸させた後、残りの一辺を融着することで、フィルム型(フィルムラミネート型)ハイブリッドキャパシタ(評価用セル)を作製した。なお、電解液としては、混合溶媒(エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:プロピレンカーボネート=3:4:1(重量比))に、LiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。
【0110】
そして、上記にて得られた正極について、上述した方法にしたがい、ピール強度及び厚みの均一性の評価を、上記にて得られた評価用セルについて、低温サイクル特性の評価をそれぞれ行った。結果を表2に示す。
【0111】
(実施例2〜6)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Aの水分散液の代わりに、製造例3で得られた粒子状結着剤Cの水分散液(実施例2)、製造例4で得られた粒子状結着剤Dの水分散液(実施例3)、製造例5で得られた粒子状結着剤Eの水分散液(実施例4)、製造例6で得られた粒子状結着剤Fの水分散液(実施例5)、及び製造例7で得られた粒子状結着剤Gの水分散液(実施例6)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0112】
(実施例7,8)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Bの水分散液の代わりに、製造例8で得られた粒子状結着剤Hの水分散液(実施例7)、及び製造例9で得られた粒子状結着剤Iの水分散液(実施例8)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0113】
(実施例9)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Aの水分散液の配合量を、固形分換算で1.5部から3部に変更し、粒子状結着剤Bの水分散液の配合量を、固形分換算で4.5部から3部に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0114】
(実施例10)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Bの水分散液の配合量を、固形分換算で4.5部から8.5部に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0115】
(実施例11)
正極を製造する際における、第1段目のロール加圧温度(すなわち、
図1に示すロールS1,S2,S3及びS4の温度)を45℃から、60℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0116】
(実施例12)
正極を製造する際における、第1段目のロール加圧温度(すなわち、
図1に示すロールS1,S2,S3及びS4の温度)を45℃から、25℃に変更した以外は、実施例5と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0117】
(実施例13)
正極を製造する際における、第2段目のロール加圧温度(すなわち、
図1に示すロールA3及びA4の温度)を100℃から、80℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0118】
(実施例14)
正極を製造する際における、第2段目のロール加圧温度(すなわち、
図1に示すロールA3及びA4の温度)を100℃から、120℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0119】
(比較例1)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Aの水分散液の代わりに、製造例10で得られた粒子状結着剤Jの水分散液を使用した以外は、実施例8と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0120】
(比較例2〜4)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Bの水分散液の代わりに、製造例4で得られた粒子状結着剤Dの水分散液(比較例2)、製造例11で得られた粒子状結着剤Kの水分散液(比較例3)、及び製造例12で得られた粒子状結着剤Lの水分散液(比較例4)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0121】
(比較例5)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Aの水分散液の配合量を、固形分換算で1.5部から4.5部に変更し、粒子状結着剤Bの水分散液の配合量を、固形分換算で4.5部から1.5部に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0122】
(比較例6)
正極を製造する際に、粒子状結着剤Aの水分散液を使用せず、かつ、粒子状結着剤Bの水分散液の配合量を、固形分換算で4.5部から6部に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極及び評価用セルを作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表2に示すように、結着剤として、本発明所定の第1の粒子状結着剤、及び第2の粒子状結着剤を用い、かつ、第2の粒子状結着剤の配合割合を所定範囲とした場合には、得られる電極は、電極活物質層の厚みの均一性に優れ、電極活物質層と集電体との密着性が高く、しかも、リチウムイオンキャパシタとした場合における低温サイクル特性に優れるものであった(実施例1〜14)
【0125】
一方、第1の粒子状結着剤(ガラス転移温度が第2の粒子状結着剤よりも低い結着剤)として、ガラス転移温度が5℃超であるものを用いた場合、及び、第2の粒子状結着剤(ガラス転移温度が第1の粒子状結着剤よりも高い結着剤)として、ガラス転移温度が10℃未満であるものを用いた場合には、得られる電極は、電極活物質層の厚みの均一性が低く、しかも、リチウムイオンキャパシタとした場合における低温サイクル特性に劣る結果となった(比較例1,2)。
第2の粒子状結着剤(ガラス転移温度が第1の粒子状結着剤よりも高い結着剤)として、ガラス転移温度が80℃超であるものを用いた場合、及び、第2の粒子状結着剤(ガラス転移温度が第1の粒子状結着剤よりも高い結着剤)として、ゲル含量が70重量%未満であるものを用いた場合には、得られる電極は、ピール強度に劣り、しかも、リチウムイオンキャパシタとした場合における低温サイクル特性に劣る結果となった(比較例3,4)。
また、第2の粒子状結着剤の含有割合が少なすぎる場合には、得られる電極は、電極活物質層の厚みの均一性が低く、しかも、リチウムイオンキャパシタとした場合における低温サイクル特性に劣る結果となった(比較例5)。
さらに、第1の粒子状結着剤(ガラス転移温度が第2の粒子状結着剤よりも低い結着剤)を配合しない場合には、得られる電極は、電極活物質層の厚みの均一性が低く、さらには、ピール強度にも劣り、しかも、リチウムイオンキャパシタとした場合における低温サイクル特性に劣る結果となった(比較例6)。