【実施例】
【0020】
鉛蓄電池の製造
DBP吸油量を10mL/100g〜20mL/100gの範囲で変化させるように、硫酸バリウムを用意した。この内、吸油量が10mL/100g及び12mL/100gのものは従来から鉛蓄電池に使用されてきた物で、吸油量が12mL/100gの硫酸バリウムでの結果を100%として、鉛蓄電池の特性を示す。なおDBP吸油量の精度は±1mL/100gの範囲である。
【0021】
ビスフェノール類縮合物として、ビスフェノールAのスルホン化物をホルムアルデヒドで脱水縮合させた物を用いた。活物質に対して所定の添加量となるビスフェノール類縮合物を、負極活物質ペースト作製時に必要な水分量の60mass%の水に溶解させた水溶液と、硫酸バリウムとをミキサーに投入し、20分以上撹拌することによりビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに吸着させた。これ以外に、在来のリグニンスルホン酸(以下単にリグニンと呼ぶ)を、硫酸バリウムに吸収させずに用いたものを比較例とした。
【0022】
ビスフェノール類縮合物を吸着させた硫酸バリウムを含む上記の水溶液、あるいはリグニンと硫酸バリウムとを、鉛粉とカーボンブラックと合成繊維補強剤と混合し、硫酸で混練して負極活物質ペーストとした。鉛粉の種類、カーボンブラック等のカーボンブラックの種類と含有量、合成繊維補強剤の有無、その他の添加物の種類と有無等は任意である。
【0023】
負極活物質ペーストをPb-Ca-Sn系のエキスパンド格子に充填し、乾燥と熟成とを施して未化成の負極板とした。鉛粉に合成繊維補強剤を加え、硫酸でペースト化して正極活物質ペーストとした。正極活物質ペーストをPb-Ca-Sn系のエキスパンド格子に充填し、乾 燥と熟成とを施して未化成の正極板とした。負極板をポリエチレンの微多孔質の袋から成るセパレータで包み、正極板と共に電槽にセットして、硫酸を加えて電槽化成を行い、液式の鉛蓄電池とした。鉛蓄電池は正極板が5枚、負極板が4枚、出力は2Vである。正極板に用いる鉛粉の種類、合成繊維補強剤の有無、その他の添加物の有無、正極と負極の集電体の格子、芯金等の種類、格子の鋳造、エキスパンド等の種類と組成、液式かVRLAか等の蓄電池の種類、セパレータの種類、等は任意である。また電槽化成かタンク化成か等の化成条件も任意である。
【0024】
図3に、鉛蓄電池の製造方法を示し、ステップaで吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムにビスフェノール類縮合物を吸着させる。ステップbで、鉛粉等の他の負極活物質材料と共に、ビスフェノール類縮合物を吸着させた硫酸バリウムを硫酸でペースト化し、格子に充填後に乾燥と熟成とを施す。ステップcで、正極板と共に電槽にセットし、セパレータにより正極板と負極板とを分離し、電解液あるいはこれを保持するゲル等を加えて、鉛蓄電池とする。
【0025】
測定法
負極活物質(正確には負極電極材料)中の硫酸バリウムの含有量とDBP吸油量、ビスフェノール類縮合物の含有量等は、以下のようにして測定できる。必要であれば充電して硫酸鉛を金属鉛に還元した後に、負極板から負極活物質を取り出し、水洗と乾燥を施し、硫酸分を除去し、負極活物質の乾燥質量を測定する。負極活物質を粉砕し、硝酸などの試薬を用いて鉛化合物を全て溶解させた後に、遠心分離により、カーボン等の低比重物質、硫酸バリウムに分離する。抽出した硫酸バリウムから所定の割合で試料を取り出し、空気中700℃でビスフェノール類縮合物等を燃焼させると共に、硫酸バリウムを酸化バリウムに変化させて秤量する。このようにして硫酸バリウム含有量を測定できる。残りの硫酸バリウムを、例えば50℃の強アルカリ水溶液に浸漬し、浸漬液のUV吸収スペクトル等から、硫酸バリウム中のビスフェノール類縮合物濃度を測定できる。硫酸バリウム中のビスフェノール類縮合物濃度は、ビスフェノール類縮合物による茶色の呈色の強弱からも、比色法で測定できる。また浸漬液を濾過して硫酸バリウムを分離し、乾燥すると、DBP吸油量を測定できる。ビスフェノール類縮合物の総量を測定するには、水洗乾燥後の負極活物質を例えば50℃の強アルカリ水溶液に浸漬することにより、鉛とビスフェノール類縮合物とを浸漬液中に抽出し、浸漬液のUV吸収スペクトル等を測定すれば良い。
【0026】
鉛蓄電池の特性
鉛蓄電池を40℃の雰囲気下で、25Aで4分間の放電と、2.47Vで最大25A、10分間の充電とから成るサイクルを経験させ、480サイクル毎に40℃で265Aで放電し、30秒目の端子電圧が1.2V未満になると寿命とした。寿命に達した鉛蓄電池を解体し、電解液中のビスフェノール類縮合物濃度をKMnO
4の消費量により測定した。また1440サイクル経過後に、正極板での正極活物質の脱落状況を観察した。
【0027】
表1〜表3と
図1とに、硫酸バリウムのDBP吸油量、平均2次粒子径、及び含有量と、ビスフェノール類縮合物の含有量等に対して、サイクル寿命試験での寿命性能、及び寿命に達した後の電解液のKMnO
4消費量を示す。また
図2に、1440サイクル後の正極板の外観を示す。結果は、DBP吸油量が12mL/100gの比較例(ビスフェノール類縮合物を、ペースト化前に硫酸バリウムに吸着)での値を100%とする相対値で示す。また添加量の単位は正極活物質中のmass%である。
【0028】
表1,
図1に、硫酸バリウムの濃度を0.8mass%に固定し、DBP吸油量を変化させた際の結果を示す。硫酸バリウムの平均2次粒子径はDBP吸油量と共に増し、14mL/100g〜20mL/100gの範囲では3.8〜9.2μmであった。ビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに吸着させておくと、サイクル寿命はDBP吸油量と共に増し、寿命後のKMnO
4消費量は、DBP吸油量を大きくすると、小さくなった。なお
図1でのグレーのマークは、リグニン0.2mass%と12mL/100gの硫酸バリウムを0.8mass%含有する比較例を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表2は、DBP吸油量が16mL/100gの硫酸バリウム0.8mass%の条件で、防縮剤であるビスフェノール類縮合物とリグニンとの含有量を変化させた際の結果を示す。表2には他に、DBP吸油量が12mL/100gの硫酸バリウムを0.8mass%とビスフェノール類縮合物を0.1mass%含有させた比較例を示す。DBP吸油量が16mL/100gの硫酸バリウムにビスフェノール類縮合物を吸着させると、12mL/100gの硫酸バリウムに最適濃度(0.1mass%)のビスフェノール類縮合物を吸着させた場合よりも、寿命性能が向上した。そしてビスフェノール類縮合物の濃度は、0.03mass%以上で0.25mass%以下が好ましく、特に0.05mass%以上で0.2mass%以下が好ましいことが分かる。
【0032】
【表3】
【0033】
表3は、ビスフェノール類縮合物の濃度を0.1mass%に固定し、DBP吸油量が16mL/100gの硫酸バリウム濃度を変化させた際の結果を示す。硫酸バリウム濃度を0.4mass%以上で1.2mass%以下とすると、DBP吸油量が12mL/100gの硫酸バリウム0.8mass%よりも寿命性能が向上し、特に硫酸バリウム濃度が0.6mass%以上で1.0mass%以下で寿命性能が著しく向上した。
【0034】
寿命後の負極板を解体し、硫酸バリウムを遠心分離により抽出した。DBP吸油量が高いほど、ビスフェノール類縮合物に由来する茶色の呈色が強く、KMnO
4消費量の測定と同様に、寿命に達するまでビスフェノール類縮合物が硫酸バリウムに吸着されていることが判明した。
【0035】
図2に1440サイクル後の正極板の外観を示す。硫酸バリウムのDBP吸油量が10mL/100gでは正極活物質の脱落が著しく、12mL/100gでも脱落が目立つが、14mL/100gでは、脱落個所が12mL/100gの場合の、1/2程度となった。そして16mL/100gでは脱落個所はかなり少なく、18mL/100gと20mL/100gでは正極活物質の脱落は極く僅かであった。
【0036】
補足
ビスフェノール類縮合物に加えて、リグニンスルホン酸を少量、例えば負極活物質に対して0.1mass%以下、加えても良い。本発明では、ビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに吸着させることにより負極活物質中に固定する。しかし、ビスフェノール類縮合物が全量硫酸バリウムに吸着されている必要はない。負極活物質中のビスフェノール類縮合物の濃度は蓄電池の使用と共に低下し、硫酸バリウムの2次粒子径も蓄電池の使用と共に減少し、これに伴ってDBP吸油量も変化する。そこでこれらの値が問題になる場合、蓄電池の寿命の初期での値を用いる。