特許第6217921号(P6217921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6217921鉛蓄電池とその負極板及び鉛蓄電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6217921
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池とその負極板及び鉛蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20171016BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20171016BHJP
   H01M 4/20 20060101ALI20171016BHJP
【FI】
   H01M4/62 B
   H01M4/14 Q
   H01M4/20 Z
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-27216(P2014-27216)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-153642(P2015-153642A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】元井 郁美
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−111198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極板と正極板と電解液とを有し、
前記負極板の負極電極材料は、DBP吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムと、ビスフェノール類縮合物とを含有し、
かつ、前記ビスフェノール類縮合物が前記硫酸バリウムに吸収されていることを特徴とする、鉛蓄電池。
【請求項2】
硫酸バリウムのDBP吸油量が14mL/100g以上で20mL/100g以下であることを特徴とする、請求項1の鉛蓄電池。
【請求項3】
負極電極材料中の硫酸バリウム濃度が0.4mass%以上で1.2mass%以下であることを特徴とする、請求項1または2の鉛蓄電池。
【請求項4】
負極電極材料中のビスフェノール類縮合物濃度が0.03mass%以上で0.25mass%以下であることを特徴とする、請求項の鉛蓄電池。
【請求項5】
負極電極材料と集電体とから成り、
負極電極材料が、DBP吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムと、ビスフェノール類縮合物とを含有し、
かつ、前記ビスフェノール類縮合物が前記硫酸バリウムに吸収されていることを特徴とする、鉛蓄電池用の負極板。
【請求項6】
DBP吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムにビスフェノール類縮合物を吸収させた後に、
ビスフェノール類縮合物を吸収させた硫酸バリウムと、鉛粉とを含むペーストを、負極集電体に充填することにより負極板を製造することを特徴とする、鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、負極電極材料がビスフェノール類縮合物を含有する鉛蓄電池と、その負極板、及び鉛蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の負極電極材料は、海綿状鉛の他に、硫酸バリウムと、リグニンスルホン酸、及びカーボンブラック等のカーボンを含有している。そしてリグニンスルホン酸に代えて、ビスフェノール類縮合物を加えると、サイクル寿命性能が向上することが知られている。
【0003】
特許文献1(特許4400028)は、硫酸バリウムの1次粒子を分散させた硫酸バリウム分散液の製造方法を開示している。特許文献1では、重晶石(天然硫酸バリウム)をコークスで還元して水溶性の硫化バリウムとし、これを硫酸と反応させて硫酸バリウム分散液とする。分散液中の硫酸バリウムを乾燥せずに水洗し、鉛蓄電池の負極電極材料に加える。硫化バリウムと硫酸との反応で生成した硫酸バリウムは、水に分散させたまま使用するので、1次粒子が凝集した2次粒子が成長することはない。また特許文献1は、硫酸バリウムの1/100質量のビスフェノール類縮合物を硫酸バリウム分散液に添加すると、鉛蓄電池の寿命性能が向上することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4400028
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、負極電極材料にビスフェノール類縮合物を含有させると、正極電極材料の軟化が進みやすいことを確認した。発明者は、この機構を以下のように推定した。ビスフェノール類縮合物は、リグニンスルホン酸(以下「リグニン」)に比べ、電解液である硫酸へ溶解しやすい。ビスフェノール類縮合物が負極から電解液へ溶出し、正極に達すると、正極電極材料の軟化を促進する。
【0006】
発明者は次に、ビスフェノール類縮合物を負極に固定することを検討した。負極電極材料には親油性のカーボンが含有され、ビスフェノール類縮合物が吸着しやすい。しかしカーボンは負極電極材料中に導電性のネットワークを形成するために加えるので、絶縁性のビスフェノール類縮合物が吸着していることは好ましくない。そこで発明者は、カーボンに頼らずに、ビスフェノール類縮合物を負極電極材料中に固定することを検討した。
【0007】
この発明の基本的課題は、ビスフェノール類縮合物を負極電極材料中の硫酸バリウムにより固定し、ビスフェノール類縮合物の電解液への溶出を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の鉛蓄電池は、負極板と正極板と電解液とを有し、負極板の負極電極材料は、DBP吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムと、ビスフェノール類縮合物とを含有することを特徴とする。
【0009】
この発明の鉛蓄電池用の負極板は、負極電極材料と集電体とから成り、負極電極材料が、DBP吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムと、ビスフェノール類縮合物とを含有することを特徴とする。
【0010】
この発明の鉛蓄電池の製造方法は、DBP吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムにビスフェノール類縮合物を吸収させた後に、ビスフェノール類縮合物を吸収させた硫酸バリウムと、鉛粉とを含むペーストを、負極集電体に充填することにより負極板を製造することを特徴とする。この明細書において、鉛蓄電池に関する記載は、そのまま負極板及び鉛蓄電池の製造方法にも当てはまる。
【0011】
DBP吸油量は粉体がフタル酸ジブチル(DBP)を吸収する量を表し、単位はmL/100gで、測定法はJIS K 6217-4に規定されている。硫酸バリウムは一次粒子が凝集してアグリゲート(2次粒子)を成し、1次粒子間の空隙にDBPが吸収される。DBP吸油量は硫酸バリウムでの1次粒子が凝集して作るストラクチャーの強さ、言い換えるとアグリゲートの発達の程度を表している。
【0012】
発明者は、アグリゲートが発達している硫酸バリウムに予めビスフェノール類縮合物を吸収させておくと、ビスフェノール類縮合物の電解液への溶出を減らすことができるのではないか、と予想した。そこで硫酸バリウムに予めビスフェノール類縮合物を吸収させた後に、鉛粉、カーボン等と混合して、負極電極材料のペーストとした。このペーストを用いて鉛蓄電池を製造し、鉛蓄電池のサイクル寿命性能を測定し、寿命に達した後に電解液を採取し、KMnO4の消費量を測定した。すると図1に示すように、硫酸バリウムのDBP吸油量と共に、寿命性能が向上し、かつKMnO4消費量が減少した。KMnO4の消費量は、電解液に流出したビスフェノール類縮合物の濃度を表す。
【0013】
図1の結果は、硫酸バリウムのDBP吸油量を大きくすることにより、
・ ビスフェノール類縮合物を負極電極材料中に固定でき、
・ これによって、正極電極材料の軟化を抑制すると共に、
・ 負極電極材料中でのビスフェノール類縮合物の効果を保つことができる、ことを示している。従来から鉛蓄電池に使用されてきた硫酸バリウムでは、DBP吸油量が12mL/100g以下である。なおDBP吸油量が大きい硫酸バリウムは、一般に平均2次粒子径も大きい。また硫酸バリウムがビスフェノール類縮合物を鉛蓄電池の寿命まで保持していることから、ビスフェノールは液体として保持されているのではなく、硫酸バリウム表面に吸着されているものと考えられる。この発明では、硫酸バリウムのDBP吸油量を14mL/100g以上にすることにより、ビスフェノール類縮合物を予め硫酸バリウムに吸収させて、寿命まで保持させることを可能にし、鉛蓄電池の寿命性能を向上させる。
【0014】
なお特許文献1でも、硫酸バリウムの分散液にビスフェノール類縮合物を加えることを開示しているが、特許文献1の硫酸バリウムは単分散で、DBP吸油量は小さいと考えられる。またビスフェノール類縮合物の量は硫酸バリウムに対して1mass%で、多量のビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに固定することは難しいはずである。
【0015】
硫酸バリウムはDBP吸油量が14mL/100g以上であることが重要で、吸油量に上限はない。しかし現時点では、吸油量が20mL/100gを超える硫酸バリウムは、実用的に添加できるレベルまでの製法が確立されていない。そこでDBP吸油量は、14mL/100g以上20mL/100g以下が好ましい。
【0016】
ビスフェノール類縮合物は、例えばビスフェノールA,F,S等のビスフェノールのスルホン化物を縮重合させた物で、
・ スルホン基以外にカルボキシ基、アミノ基等を含んでいても良く、
・ 縮合は、例えばホルムアルデヒドによる脱水縮合である。なおビスフェノール類縮合物を負極電極材料に加えることは周知であり、その種類、分子量等は公知技術に従って適宜に変更できる。
【0017】
負極電極材料中の硫酸バリウム濃度は、好ましくは0.4mass%以上で1.2mass%以下、より好ましくは0.6mass%以上で1.0mass%以下である。またビスフェノール類縮合物の濃度は、好ましくは0.03mass%以上で0.25mass%以下、より好ましくは0.05mass%以上で0.2mass%以下である。これらの範囲で高い寿命性能が得られる(表2,表3)。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例での、硫酸バリウムの吸油量と、KMnO4消費量及び寿命との関係を示す特性図
図2】サイクル寿命試験を1440サイクル経験した際の、正極板の外観を示す写真
図3】実施例の鉛蓄電池の製造方法を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。極板は格子等の集電体と電極材料から成り、極板に含浸している電解液は電極材料には含めない。実施例では、負極活物質の海綿状鉛以外に、ビスフェノール類縮合物、硫酸バリウム等の他の電極材料を含めて、負極活物質と呼び、正極活物質がPbO2以外の添加物を含む場合でも、正極電極材料を正極活物質と呼ぶ。
【実施例】
【0020】
鉛蓄電池の製造
DBP吸油量を10mL/100g〜20mL/100gの範囲で変化させるように、硫酸バリウムを用意した。この内、吸油量が10mL/100g及び12mL/100gのものは従来から鉛蓄電池に使用されてきた物で、吸油量が12mL/100gの硫酸バリウムでの結果を100%として、鉛蓄電池の特性を示す。なおDBP吸油量の精度は±1mL/100gの範囲である。
【0021】
ビスフェノール類縮合物として、ビスフェノールAのスルホン化物をホルムアルデヒドで脱水縮合させた物を用いた。活物質に対して所定の添加量となるビスフェノール類縮合物を、負極活物質ペースト作製時に必要な水分量の60mass%の水に溶解させた水溶液と、硫酸バリウムとをミキサーに投入し、20分以上撹拌することによりビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに吸着させた。これ以外に、在来のリグニンスルホン酸(以下単にリグニンと呼ぶ)を、硫酸バリウムに吸収させずに用いたものを比較例とした。
【0022】
ビスフェノール類縮合物を吸着させた硫酸バリウムを含む上記の水溶液、あるいはリグニンと硫酸バリウムとを、鉛粉とカーボンブラックと合成繊維補強剤と混合し、硫酸で混練して負極活物質ペーストとした。鉛粉の種類、カーボンブラック等のカーボンブラックの種類と含有量、合成繊維補強剤の有無、その他の添加物の種類と有無等は任意である。
【0023】
負極活物質ペーストをPb-Ca-Sn系のエキスパンド格子に充填し、乾燥と熟成とを施して未化成の負極板とした。鉛粉に合成繊維補強剤を加え、硫酸でペースト化して正極活物質ペーストとした。正極活物質ペーストをPb-Ca-Sn系のエキスパンド格子に充填し、乾 燥と熟成とを施して未化成の正極板とした。負極板をポリエチレンの微多孔質の袋から成るセパレータで包み、正極板と共に電槽にセットして、硫酸を加えて電槽化成を行い、液式の鉛蓄電池とした。鉛蓄電池は正極板が5枚、負極板が4枚、出力は2Vである。正極板に用いる鉛粉の種類、合成繊維補強剤の有無、その他の添加物の有無、正極と負極の集電体の格子、芯金等の種類、格子の鋳造、エキスパンド等の種類と組成、液式かVRLAか等の蓄電池の種類、セパレータの種類、等は任意である。また電槽化成かタンク化成か等の化成条件も任意である。
【0024】
図3に、鉛蓄電池の製造方法を示し、ステップaで吸油量が14mL/100g以上の硫酸バリウムにビスフェノール類縮合物を吸着させる。ステップbで、鉛粉等の他の負極活物質材料と共に、ビスフェノール類縮合物を吸着させた硫酸バリウムを硫酸でペースト化し、格子に充填後に乾燥と熟成とを施す。ステップcで、正極板と共に電槽にセットし、セパレータにより正極板と負極板とを分離し、電解液あるいはこれを保持するゲル等を加えて、鉛蓄電池とする。
【0025】
測定法
負極活物質(正確には負極電極材料)中の硫酸バリウムの含有量とDBP吸油量、ビスフェノール類縮合物の含有量等は、以下のようにして測定できる。必要であれば充電して硫酸鉛を金属鉛に還元した後に、負極板から負極活物質を取り出し、水洗と乾燥を施し、硫酸分を除去し、負極活物質の乾燥質量を測定する。負極活物質を粉砕し、硝酸などの試薬を用いて鉛化合物を全て溶解させた後に、遠心分離により、カーボン等の低比重物質、硫酸バリウムに分離する。抽出した硫酸バリウムから所定の割合で試料を取り出し、空気中700℃でビスフェノール類縮合物等を燃焼させると共に、硫酸バリウムを酸化バリウムに変化させて秤量する。このようにして硫酸バリウム含有量を測定できる。残りの硫酸バリウムを、例えば50℃の強アルカリ水溶液に浸漬し、浸漬液のUV吸収スペクトル等から、硫酸バリウム中のビスフェノール類縮合物濃度を測定できる。硫酸バリウム中のビスフェノール類縮合物濃度は、ビスフェノール類縮合物による茶色の呈色の強弱からも、比色法で測定できる。また浸漬液を濾過して硫酸バリウムを分離し、乾燥すると、DBP吸油量を測定できる。ビスフェノール類縮合物の総量を測定するには、水洗乾燥後の負極活物質を例えば50℃の強アルカリ水溶液に浸漬することにより、鉛とビスフェノール類縮合物とを浸漬液中に抽出し、浸漬液のUV吸収スペクトル等を測定すれば良い。
【0026】
鉛蓄電池の特性
鉛蓄電池を40℃の雰囲気下で、25Aで4分間の放電と、2.47Vで最大25A、10分間の充電とから成るサイクルを経験させ、480サイクル毎に40℃で265Aで放電し、30秒目の端子電圧が1.2V未満になると寿命とした。寿命に達した鉛蓄電池を解体し、電解液中のビスフェノール類縮合物濃度をKMnO4の消費量により測定した。また1440サイクル経過後に、正極板での正極活物質の脱落状況を観察した。
【0027】
表1〜表3と図1とに、硫酸バリウムのDBP吸油量、平均2次粒子径、及び含有量と、ビスフェノール類縮合物の含有量等に対して、サイクル寿命試験での寿命性能、及び寿命に達した後の電解液のKMnO4消費量を示す。また図2に、1440サイクル後の正極板の外観を示す。結果は、DBP吸油量が12mL/100gの比較例(ビスフェノール類縮合物を、ペースト化前に硫酸バリウムに吸着)での値を100%とする相対値で示す。また添加量の単位は正極活物質中のmass%である。
【0028】
表1,図1に、硫酸バリウムの濃度を0.8mass%に固定し、DBP吸油量を変化させた際の結果を示す。硫酸バリウムの平均2次粒子径はDBP吸油量と共に増し、14mL/100g〜20mL/100gの範囲では3.8〜9.2μmであった。ビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに吸着させておくと、サイクル寿命はDBP吸油量と共に増し、寿命後のKMnO4消費量は、DBP吸油量を大きくすると、小さくなった。なお図1でのグレーのマークは、リグニン0.2mass%と12mL/100gの硫酸バリウムを0.8mass%含有する比較例を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表2は、DBP吸油量が16mL/100gの硫酸バリウム0.8mass%の条件で、防縮剤であるビスフェノール類縮合物とリグニンとの含有量を変化させた際の結果を示す。表2には他に、DBP吸油量が12mL/100gの硫酸バリウムを0.8mass%とビスフェノール類縮合物を0.1mass%含有させた比較例を示す。DBP吸油量が16mL/100gの硫酸バリウムにビスフェノール類縮合物を吸着させると、12mL/100gの硫酸バリウムに最適濃度(0.1mass%)のビスフェノール類縮合物を吸着させた場合よりも、寿命性能が向上した。そしてビスフェノール類縮合物の濃度は、0.03mass%以上で0.25mass%以下が好ましく、特に0.05mass%以上で0.2mass%以下が好ましいことが分かる。
【0032】
【表3】
【0033】
表3は、ビスフェノール類縮合物の濃度を0.1mass%に固定し、DBP吸油量が16mL/100gの硫酸バリウム濃度を変化させた際の結果を示す。硫酸バリウム濃度を0.4mass%以上で1.2mass%以下とすると、DBP吸油量が12mL/100gの硫酸バリウム0.8mass%よりも寿命性能が向上し、特に硫酸バリウム濃度が0.6mass%以上で1.0mass%以下で寿命性能が著しく向上した。
【0034】
寿命後の負極板を解体し、硫酸バリウムを遠心分離により抽出した。DBP吸油量が高いほど、ビスフェノール類縮合物に由来する茶色の呈色が強く、KMnO4消費量の測定と同様に、寿命に達するまでビスフェノール類縮合物が硫酸バリウムに吸着されていることが判明した。
【0035】
図2に1440サイクル後の正極板の外観を示す。硫酸バリウムのDBP吸油量が10mL/100gでは正極活物質の脱落が著しく、12mL/100gでも脱落が目立つが、14mL/100gでは、脱落個所が12mL/100gの場合の、1/2程度となった。そして16mL/100gでは脱落個所はかなり少なく、18mL/100gと20mL/100gでは正極活物質の脱落は極く僅かであった。
【0036】
補足
ビスフェノール類縮合物に加えて、リグニンスルホン酸を少量、例えば負極活物質に対して0.1mass%以下、加えても良い。本発明では、ビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに吸着させることにより負極活物質中に固定する。しかし、ビスフェノール類縮合物が全量硫酸バリウムに吸着されている必要はない。負極活物質中のビスフェノール類縮合物の濃度は蓄電池の使用と共に低下し、硫酸バリウムの2次粒子径も蓄電池の使用と共に減少し、これに伴ってDBP吸油量も変化する。そこでこれらの値が問題になる場合、蓄電池の寿命の初期での値を用いる。
図1
図2
図3