(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記真空センサからの出力電圧の時間変化が予め定められた値よりも小さくなった場合に、前記ロータ室が大気圧となったと判定することを特徴とする請求項2に記載の遠心機。
前記ロータ室に大気が導入されてから前記報知がなされるまでの間において、前記発光部のうちの一つの点灯の移動は、一定の時間間隔で、あるいは前記ロータ室の圧力の上昇に応じて行われることを特徴とする請求項7に記載の遠心機。
【背景技術】
【0002】
高速回転時の遠心力によって密度の異なる物質を分離あるいは分析するために、遠心機(遠心分離機)が用いられている。遠心機においては、ロータを回転させるモータの回転速度(回転数:rpm)が定められ、ロータに試料が装着された状態で、所定の時間だけこの回転数でロータが回転し、この間に試料には強い遠心力が加わる。この際の遠心力(遠心加速度)は、重力加速度Gを単位として数万G以上となる場合もあり、この場合には、ロータの回転数は10万rpm以上とされる場合もある。この回転数が4万rpm以上となる超高速の遠心機(超遠心機)においては、ロータの回転運動に伴う風損(ロータとその周りの空気との間の摩擦等による回転運動に対する阻害要因)によって、ロータ及び試料が発熱する、あるいは所望の回転速度を得ることが困難である、等の問題が発生する。
【0003】
このため、超遠心機においては、ロータが設置されたロータ室は厚い鋼板のドアで封止され、高真空に排気される。このドアは、水平方向にスライドしてその開閉動作が行われる。作業者は、このドアを開けた状態でロータに試料を装着し、その後でドアを閉めてからロータ室を真空排気した後に、モータを回転させることによって、遠心分離処理が行われる。その後、ロータが停止した後に、リークバルブを開けてロータ室に大気を導入して大気圧とした後で、作業者がドアを開けて試料が取り出される。
【0004】
こうした構成の遠心機の構造は、例えば特許文献1に記載されている。ロータ室には、バルブを介して真空排気系が接続され、ロータ室の真空度(圧力)を計測するための真空計も設けられる。これによって、ロータ室が高真空となったのを確認してからモータを回転させ、遠心分離処理を開始させることができる。
【0005】
真空排気系(真空ポンプ)は、主ポンプとなる高真空用の油拡散真空ポンプと、油拡散真空ポンプを排気する低真空用の補助ポンプとが組み合わされて構成される。ロータ室には、主バルブを介して油拡散真空ポンプが接続され、油拡散真空ポンプの排気口に補助ポンプが接続される。また、補助ポンプは、油拡散真空ポンプの排気口とロータ室を切り替えて排気できるように設けられる。この構成により、ロータ室が大気圧の状態からの排気は補助ポンプのみを用いて行い、これによってロータ室の圧力が20Pa以下(中真空)となった場合に、高真空用の油拡散真空ポンプでロータ室を排気し、かつ油拡散真空ポンプの排気口を補助ポンプで排気し、ロータ室を高真空まで排気することができる。
【0006】
ここで、油拡散真空ポンプにおいては、拡散油を貯留するボイラがヒータによって加熱され、気化した拡散油蒸気を排気対象となる気体分子と共に排気方向にジェット流として噴射させることによって排気が行われる。噴射された拡散油蒸気は冷却器で冷却されることによって液化し、再びボイラに導かれる。特許文献1に記載の技術においては、このボイラの温度が温度センサによって管理されることによって、真空排気系の状態が適正に維持され、真空排気性能を安定して高く維持し、遠心機の信頼性を高めることができる。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術においては、真空計で計測されたロータ室の真空度(圧力)に応じて油回転真空ポンプの動作を制御することによって、ロータ室の真空度を適正にすると共に、遠心機全体の消費電力を低減することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の遠心機において、遠心分離処理が終了した際には、リークバルブを開け、ロータ室が大気圧となってから、作業者がドアを開け、試料がロータ(ロータ室)から取り出される。この際、ドアの開閉は一般には手動で行われる。また、このドアは、前記の通り厚く重い鋼板で構成され、かつこのドアが真空と大気とを仕切る壁となっているため、ロータ室と大気との圧力差が少しでもある場合には、手動でドアを開けることは実質的に不可能である。ロータ室に導入されるのは大気であるため、ロータ室の圧力が大気圧を超えることはないが、このために、作業者がドアを開けるためには、ロータ室の圧力と大気圧とが等しくなるまで待つ必要があった。
【0010】
一般に、リークバルブが開いてからロータ室が大気圧となるまでには20〜40sec程度の時間を要するが、この時間は、例えば使用するロータの種類等にも依存し、必ずしも一定ではない。このため、作業者がドアを開けるタイミングを判断することが困難であり、ロータ室がまだ大気圧となっていない間に作業者が誤ってドアを開ける操作を行うことがあった。あるいは、リークバルブを開けてからロータ室が確実に大気圧となる時刻まで充分に長時間待つことが必要であった。
【0011】
このため、ロータ室が真空とされる遠心機において、処理後の試料取り出し作業を効率的に行うことは困難であった。
【0012】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記の問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の遠心機(遠心分離機)は、ロータと、該ロータを収納し密封可能とされたロータ室と、前記ロータを回転駆動する駆動部と、前記ロータ室内を減圧する真空ポンプと、前記ロータ室の減圧状態を検出するための真空センサと、運転条件が入力される操作部と、
前記真空ポンプの運転を制御する真空ボタンと、該操作部から入力された運転条件によって前記駆動部を制御する制御部とを備えた遠心機において、前記制御部
は、前記ロータが回転している場合は、前記真空ボタンが操作されても、前記真空ポンプの運転を停止させないように制御し、前記ロータ室内が大気圧になったと判定した場合に、報知手段を用いて報知することを特徴とする。
本発明の遠心機において、前記制御部は、前記真空センサの出力信号から、前記ロータ室内が大気圧になったと判定することを特徴とする。
本発明の遠心機において、前記制御部は、前記真空センサからの出力電圧の時間変化が予め定められた値よりも小さくなった場合に、前記ロータ室が大気圧となったと判定することを特徴とする。
本発明の遠心機において、前記報知手段は、前記報知の際に音を発することを特徴とする。
本発明の遠心機は、運転状況を表示する表示部を具備することを特徴とする。
本発明の遠心機は、前記表示部が前記報知手段として用いられることを特徴とする。
本発明の遠心機は、前記表示部において、配列された3つ以上の発光部が設けられ、減圧中における前記ロータ室の真空度が、真空度が高まるに従って、前記発光部が配列の一方の側から他方の側に向かって順次点灯することによって表示され、前記ロータ室に大気が導入されてから前記報知がなされるまでの間において、前記発光部のうちの一つが配列の前記他方の側から前記一方の側に向かってサイクリックに移動して点灯することを特徴とする。
本発明の遠心機は、前記ロータ室に大気が導入されてから前記報知がなされるまでの間において、前記発光部のうちの一つの点灯の移動は、一定の時間間隔で、あるいは前記ロータ室の圧力の上昇に応じて行われることを特徴とする。
本発明の遠心機は、開閉可能であり閉じた状態において前記ロータ室を密封するドアと、前記ドアが閉じた状態において前記ドアを固定するロック機構とを具備し、前記駆動部及び前記ロータが停止し、前記ロック機構が解除され、かつ前記ロータ室が大気圧になったと判断された際に、前記報知がなされることを特徴とする
。
本発明の遠心機において、前記制御部は、前記真空ボタンが操作されたら、操作表示部から入力された設定温度での温度制御をやめるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されているので、ロータ室が真空とされる遠心機(遠心分離機)において、処理後の試料取り出し作業を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る遠心機(遠心分離機)について説明する。
図1は、この遠心機1の構造を主に説明するための断面図である。この遠心機1は、遠心分離処理の対象となる試料を保持して回転するロータ2と、ロータ2を収容し密閉空間を画定するロータ室4を具備する。ロータ室4へロータ2や試料の出し入れを行うために上側の開口部に開閉可能なドア5が設けられ、ドア5が閉じた状態でロータ室4を減圧する2つの真空ポンプ(油回転真空ポンプ6と油拡散真空ポンプ7)が設けられる。作業者による遠心分離条件の設定操作を受け付けると共に、作業者に対して運転状態等の各種情報を表示する操作表示部8も設けられる。また、モータを具備しロータ2を回転させる駆動部9がロータ室4の下側に設けられる。
【0017】
ロータ室4には、減圧されたロータ室4に対して空気の流入を行うための開閉動作が行われるエアリークバルブ10と、ロータ室4内部の圧力(真空度)を測定する真空センサ11と、ロータ2の回転速度を測定する回転センサ13が接続される。また、ロータ室4内において、ロータ2を囲んでボウル3が設けられ、ボウル3を冷却または加熱することで間接的にロータ2の温度制御を行うサーモモジュール14が設けられる。制御部12は、操作表示部8と接続されることによって各種の設定条件を受け付け、かつ各種情報を操作表示部8に表示させる。制御部12は、2つの真空ポンプの制御も行う。
【0018】
ロータ室4の下部には、ロータ室4の内外を連通する貫通孔が設けられ、駆動部9から延びるシャフトケース9a内を通る回転軸91(
図2参照)がシャフトケース9aと共に貫通孔を貫通し、さらに回転軸91の先端の嵌合部9bにロータ2が取り付けられる。なお、貫通孔においてシャフトケース9aは図示せぬシール部材によってシールされるため、ロータ室4の気密性が保持できる。ロータ2には、試料が入ったチューブ等を挿入するための孔2aが複数形成される。ロータ2は、ロータ室4内で毎分4万回転以上で回転することができ、この遠心機1では、駆動部9の回転速度は、例えば最高で毎分10万回転とすることができ、この回転によって発生する遠心力により試料が遠心分離される。ここで、大気圧下でロータ2が高速回転すると、風損によりロータ2が発熱し、かつ空気抵抗がロータ2の高速回転の障害となる。このため、ロータ2を高速で回転させる場合は、ロータ室4内を減圧状態にし、風損を抑制することが重要である。
【0019】
ロータ室4内を減圧するために、2つの真空ポンプ(油回転真空ポンプ6、油拡散真空ポンプ7)が設けられる。油拡散真空ポンプ(DP)7は、吸引側が真空配管21によりロータ室4に接続され、排出側が真空配管(真空ホース)22を介して油回転真空ポンプ(RP)6の吸引口に接続される。油拡散真空ポンプ7は内部に液体の油を備え、この油の内部での蒸発・凝縮によってロータ室4内の空気を排出させる公知の装置である。この構成においては、ロータ室4を減圧させる真空ポンプとして、油拡散真空ポンプ7と油回転真空ポンプ6を直列に接続している。これは、油回転真空ポンプ6だけで要求される真空度(例えば1Pa以下)とするには長時間を要するためである。一方、油拡散真空ポンプ7を動作させるためのある程度の背圧(臨界背圧:20Pa程度)が必要であり、臨界背圧を得るための補助ポンプが必要とされ、単独での使用が難しい。そこで油回転真空ポンプ6を油拡散真空ポンプ7の補助ポンプとして機能させることによって、短い時間でロータ室4内を必要とされる真空度まで減圧することができる。油回転真空ポンプ6の排出側には、排気に含まれるオイルミストを補足するためのオイルミストトラップ61が設けられる。
【0020】
制御部12は、遠心機1の全体の制御をするために設けられ、マイクロコンピュータや、ROM/RAM等の記憶装置を含んで構成される。制御部12には図示しない信号線により真空センサ11および回転センサ13の信号が入力し、制御部12は、駆動部9の回転制御や、油回転真空ポンプ6の起動・停止制御、油拡散真空ポンプ7の起動・停止制御、サーモモジュール14の冷却・加熱制御、操作表示部8への情報の表示と入力データの取得、エアリークバルブ10の開閉等の制御等を行う。
【0021】
図2は、この遠心機1における制御系統の構成を模式的に示す図である。ここでは、主に制御系統の構成が主に示され、各部の構造は模式的に示されているため、各部の形状は
図1とは異なって示されている。ロータ室4には、閉じた状態でドア5を固定するロック機構15が設けられている。また、ロータ室4には、ロータ2の温度を測定するロータ温度センサ(図示せず)も設けられている。
【0022】
駆動部9において用いられるモータとしては、例えばU、V、W配線がスター結線された固定子界磁巻線が用いられた3相ブラシレスモータが用いられる。この固定子界磁巻線の電流が制御部12によって制御されることによって、回転軸91の回転速度(回転数)が制御される。この制御の際には、回転センサ13の出力が用いられる。
【0023】
ロータ室4を排気するための真空排気系(真空ポンプ)40は、前記の油回転真空ポンプ6、油拡散真空ポンプ7を組み合わせて構成され、制御部12は、これらを制御する。油拡散真空ポンプ吸気口71は、真空配管21を介してロータ室4と接続され、油拡散真空ポンプ排気口72は、真空配管22を介して油回転真空ポンプ6に接続され、油回転真空ポンプ6によって排気される。油拡散真空ポンプ7においては、円筒部73中に、拡散油74を溜めたボイラ75が設けられ、ボイラ75は、ヒータ76で加熱される。加熱された拡散油74は蒸気となり、ジェット部(図示せず)によって油拡散真空ポンプ吸気口71側から排気方向(
図2における下方向)に噴出する。この際に拡散油蒸気に気体分子が吸着されることによって、油拡散真空ポンプ排気口72に向かって排気が行われる。その後、拡散油蒸気は冷却され再びボイラ75に導かれる。この冷却(空冷)のために、円筒部73には冷却フィン77が設けられている。また、ボイラ75には、その温度を検出するためのボイラ温度センサ78が設置されている。制御部12による油拡散真空ポンプ7の制御は、主にボイラ温度センサ78の出力を元にしてボイラ75(ヒータ76)の温度を調整することによって行われる。
【0024】
油回転真空ポンプ6においては、例えば油内で回転するポンプロータが用いられ、このポンプロータの回転に伴って、ポンプロータ自身あるいはポンプロータに装着された翼を用いて排気を行う。油回転真空ポンプ6の排気能力は0.1〜0.01Pa程度の高真空域で高く高真空までの排気が可能である一方で、大気圧(10
5Pa程度)からの排気が困難である。このため、上記のように、油拡散真空ポンプ7と油回転真空ポンプ6とが組み合わせて使用される。
【0025】
制御部12には、真空センサ11、回転センサ13、ロータ温度センサ、ボイラ温度センサ78等の出力信号が入力し、これらの出力信号と、作業者による操作に応じて、制御部12は、駆動部9、ロック機構15、エアリークバルブ10、真空排気系40等の制御を行う。制御部12には、中央処理装置(CPU)121、ROM(Read Only Memory)122、RAM(Random Access Memory)123が設けられている。中央処理装置121は、例えばマイクロコンピュータであり、ROM122に記憶された制御プログラムを実行する。この際に、一時記憶等のためにRAM123が用いられる。
【0026】
制御部12と利用者との間のインターフェースとして、操作表示部8が設けられる。操作表示部8は、作業者の操作を受け付ける操作部81と、作業者に対して操作内容等の各種情報を表示する表示部82で構成される。ただし、実際には、操作表示部8(操作部81、表示部82)は単一のLCD(Liquid Crystal Display)によって構成され、操作部81はこのLCDにおけるタッチパネルとして表示部82と一体化されて構成されている。このLCDを用いて、作業者は、駆動部9におけるモータの回転数、モータの回転時間、ボウル3の温度等を設定することができると共に、これらの実際の状態(運転状況)を確認することができる。また、LCDにおいて、操作部81の一部として、駆動部9におけるモータの回転のオン・オフを制御するためのSTARTボタン、STOPボタンをタッチパネルに設けることができる。遠心分離処理は、このモータが回転することによって開始され、その後にこの回転が設定回転数に達し所定時間維持された後に、このモータが再び停止して終了する。
【0027】
図3は、この操作表示部8(LCD)における表示画面の一例である。この中には、回転速度情報表示部L1、運転時間表示部L2、ロータ温度情報表示部L3が設けられている。回転速度情報表示部L1においては、上段において回転センサ13で実測された現在の回転数が大きく上段に、作業者によって設定された設定回転数が小さく下段に、それぞれ表示されている。運転時間表示部L2においては、運転開始時から現在までの経過時間が大きく上段に、作業者によって設定された運転(回転)時間が小さく下段に、それぞれ表示されている。ロータ温度情報表示部L3においては、現在におけるボウル3の温度が大きく上段に、作業者によって設定された温度が小さく下段に、それぞれ表示されている。作業者が画面上における回転速度情報表示部L1、運転時間表示部L2、ロータ温度情報表示部L3をそれぞれ触れると、各々に0〜9までの数値キーが表示され、これを操作することによって、設定回転数、運転時間、ボウル3の設定温度、をそれぞれ設定することができる。
【0028】
また、ロータ種表示部L4には、使用するロータ2の型式(識別記号)が表示される。作業者がロータ種表示部L4に触れることによって、選択可能なロータ2の型式(識別記号)の一覧が表示され、作業者がこの中から一つを選択して触れることによって、選択がなされる。ただし、ロータ2自身に識別マークを形成し、ロータ室4にこの識別マークを読み取る識別センサを設けることもできる。この場合には、作業者がロータ2を回転軸91の先端の嵌合部9bに装着することによって、制御部12が自動的にロータ2の種類を認識し、対応する型式(識別記号)をロータ種表示部L4で表示することもできる。
【0029】
加減速情報表示部L5には、運転開始時にロータ2が静止状態から設定回転数に達するまでの回転の加速勾配(ACCEL)、運転停止時にロータ2が設定回転数から静止状態になるまでの回転の減速勾配(DECEL)が、それぞれ数値レベルで対応づけて表示されている。この設定も、作業者が加減速情報表示部L5における加速勾配、減速勾配がそれぞれ表示された箇所に触れることによって、数値キーを表示させて行うことができる。
【0030】
上記のとおり、回転速度情報表示部L1、運転時間表示部L2、ロータ温度情報表示部L3、ロータ種表示部L4、加減速情報表示部L5は、操作部81、表示部82のどちらとしても機能する。
【0031】
一方、STARTボタンL6、STOPボタンL7は、操作部81としてのみ機能する。作業者がSTARTボタンL6を押すことによって、駆動部9におけるモータ(回転軸91)は、前記の加速勾配で加速されて設定回転数に達し、この設定回転が維持される整定運転が行われる。その後、前記の設定時間が経過した後に、このモータは前記の減速勾配で減速し、停止状態となり、遠心分離処理が終了する。この間に、加速時あるいは整定運転時に作業者がSTOPボタンL7を押すことによっても、駆動部9におけるモータを停止させることができる。
【0032】
真空表示部L8は、ロータ室4の真空度(圧力)を表示している。ここで、真空度は、右側に向かって大きくされた3つの台形の発光部を用いた棒グラフ表示で示される。ここでは、配列された3つの発光部が全て消灯している場合にはロータ室4は大気圧、左側の発光部のみが点灯した場合には低真空(例えば100Pa以上で大気圧未満)、左側と中央の発光部が点灯し右側の発光部が消灯した場合には中真空(例えば0.1Pa以上で100Pa未満)、3つの発光部全てが点灯した場合には高真空(0.1Pa未満)とされる。大気圧、低真空、中真空、高真空の識別は、制御部12が真空センサ11の出力信号より判定することができる。このため、
図4に示されるように、ロータ室4を真空排気系40で排気中の場合には、真空表示部L8における3つの発光部は左側(一方の側)から右側(他方の側)に向かって順に点灯し、最後に全部点灯する。
【0033】
遠心分離処理は高真空(3つの発光部全てが点灯した状態)でのみ行うことが好ましい。このため、制御部12は、ロータ室4が高真空であると認識された場合でなければ、STARTボタンL6が押された場合においても駆動部9におけるモータの回転を一定回転数以下(例えば4000rpm)までしか上がらないように制御し、真空度が一定以上(圧力が所定の値以下)になったら設定回転速度までロータを回転させるように制御することができる。また、ロータ温度情報表示部L3で表示されたボウル3の温度が設定温度に近づいた場合、かつSTARTボタンL6が押された場合に駆動部9におけるモータを回転させるように制御することもできる。
【0034】
また、真空表示部L8はタッチパネルとされ、真空排気系40のオン・オフスイッチ(真空ボタン)も兼ねている。すなわち、真空表示部L8も、操作部81、表示部82のどちらとしても機能する。ロータ室4が真空排気系40で排気されていない時に作業者が真空表示部L8に触れると、前記のように真空排気系40を用いて、ロータ室4の排気が行われる。この動作は、通常は作業者が試料をロータ2に装着し、ドア5を閉じた後に行われる。このため、制御部12は、閉じたドア5がロック機構15で固定された場合においてのみ、この真空排気動作を開始する設定とすることができる。また、通常は、この動作の後にロータ室4が高真空となったのを作業者が確認した後に、STARTボタンL6の操作によって遠心分離処理が開始される。
【0035】
遠心分離処理が終わりロータ2が停止したら、制御部12は、ロータ室4の真空排気系40による排気を終了させ、エアリークバルブ10を開け、ロータ室4に大気を導入する設定とすることができる。あるいは、STOPボタンL7が押された場合にも駆動部9におけるモータを停止させ、その後で同様の制御をすることができる。また、ロータ室4が高真空となった後に自動的にこのモータを所定の時間だけ回転させ、その後で停止させ、同様の制御をすることもできる。この際、エアリークバルブ10を開く前に、ロック機構15を解除することが好ましい。これらの動作を、自動的にではなく、作業者が操作部81を操作することによって順次行わせることもできる。この場合、ロータ室4の真空排気中に真空表示部L8が押された場合に、真空排気系40による排気を停止し、代わりにエアリークバルブ10を開く設定とすることもできる。なお、制御部12はロータ2が回転していると判断した場合は、真空表示部L8(真空ボタン)が押されても、エアリークバルブ10を開放しないように制御する。更に、ロータ2が停止して真空表示部L8が押された場合は、エアリークバルブ10を開放して、ロータ室4の温度制御も停止させる、あるいは、ロータ室を室温と同じ温度になるように温度に制御することもできる。
【0036】
その後、ロータ室4が大気圧となった後に、作業者はドア5を開け、試料をロータ2(ロータ室4)から取り出すことができる。ただし、ロータ室4が大気圧に達した後でないと、作業者が重いドア5を横方向にスライドさせてこれを開けることは不可能である。上記の遠心機1においては、この際の作業者がドア5を開けるタイミングが、表示部82によって適切に指示される。
【0037】
以下では、このように遠心分離処理を終了し、作業者がドア5を開けるまでの動作について説明する。
図5は、この際の動作を示すフローチャートである。ここでは、STOPボタンL7が押された(S1)以降の動作が記載されている。
【0038】
STOPボタンL7が押されたことにより、制御部12は、駆動部9におけるモータの動作電流を、DECELで設定された減速勾配をもって停止する方向に制御する(S2)。これによって、モータの回転軸91及びロータ2の回転は停止する(S3)。制御部12は、回転センサ13の出力より、ロータ2が完全停止したことを認識することができ、回転速度情報表示部L1における現在の回転数に0(rpm)を表示させる。
【0039】
その後、制御部12は、ロック機構15を解除し、閉じたドア5の固定を解除する(S4)。ただし、この状態ではドア5の内外で大気圧に相当する大きな圧力差が存在するために、作業者がドア5を開けることは実質的には不可能である。このため、ドア5が閉じた状態が維持される。
【0040】
次に、ロータ室4の真空の解除をするために、制御部12は、エアリークバルブ10を開け、ロータ室4に大気を導入する(S5)。前記の通り、この動作は、真空表示部L8が押されたことによって行われる設定とすることもできる。ただし、ロータ室4内が大気圧となるためには、エアリークバルブ10が開いてからある程度の時間を要する。この時間は、ロータ室4内の空間の容積等に依存するため、使用されたロータ2の種類等にも依存し、一定ではない。
ただし、制御部12は、ロータ2が回転していると判断した場合は、真空表示部L8(真空ボタン)が押されても、エアリークバルブ10を開放しないように制御する。更に、ロータ2が停止して真空表示部L8が押された場合は、エアリークバルブ10を開放し、ロータ室4の温度制御も停止させる、あるいは、ロータ室を室温と同じ温度になるように温度制御することができる。
【0041】
このため、制御部12は、真空センサ11の出力電圧(真空度検出電圧)をモニターする。ここでは、ピラニゲージが真空センサ11として特に好ましく用いられる。ピラニゲージにおいては、細い白金のフィラメントに電流が流れた際に発熱し、その放熱が周囲の圧力(真空度)によって変わり、フィラメントの電気抵抗が圧力(真空度)に依存することを利用して圧力が検出される。
図6は、エアリークバルブ10を開けてからのフィラメント電圧(真空度検出電圧)の時間変化の一例を示す図である。
図6において、aの時点でエアリークバルブ10が開き、大気が導入されている。これによって、bの区間で圧力は単調に上昇を続け、真空度検出電圧は単調に増大する。ここでエアリークバルブ10から導入されるのは大気であるために、最終的には、cの区間以降において、圧力が大気圧となった後にはこの圧力(真空度検出電圧)は増大せず一定となる。このため、ロータ室4が大気圧となった否かは、この真空度検出電圧の値あるいは真空度検出電圧の時間変化量によって判定することができる。ただし、大気圧は厳密には環境等によって変動するため、大気圧となったか否かを真空度検出電圧の値(絶対値)で判定するよりも、真空度検出電圧の時間変化量が充分に小さくなったか否かによって大気圧となったか否かを判定する方が、好ましい。この場合には、一定時間経過後の真空度検出電圧の変化が零となったと判定されるdの時点で、ロータ室4が大気圧となったと判定することができる。この一定時間は、判定が充分に可能な範囲で短く設定することができる。
【0042】
このため、制御部12は、エアリークバルブ10を開けた後で、真空センサ11の出力電圧をA/D変換してこの時間変化(増加率)をモニターする(S6)。このモニター間隔は、前記の一定時間とすることができる。この場合、n回目の出力電圧V
nとその直前の出力電圧V
n−1の差V
n−V
n−1の差が、予め設定された微少な値δよりも小さくなっているか否かを調べ(S7)、小さくなった場合には、区間cに到達し、待ち時間が経過した(ロータ室4が大気圧となった)と判定する(S8)。
【0043】
この判定により、制御部12は、ドア5を開けることができる状態に達した旨(DOOR OPEN)を表示部82に表示させる(S9)。作業者は、これを見て、ドア5を開けることができる。すなわち、この遠心機1においては、ロータ室4が大気圧となった場合(ドア5を開けることが可能となった場合)に、報知手段によってその旨が報知される。この報知手段としては、表示部82が用いられる。この際、制御部12は、ロータ室4が大気圧となっただけではなく、安全のために、駆動部9におけるモータ及びロータ2が完全に停止し、かつロック機構15が実際に解除されたと確認された場合にのみドア5を開けることができる状態に達した旨を表示させることが好ましい。
【0044】
上記の動作において、エアリークバルブ10から大気導入中であり真空センサ11の検出電圧をモニター中である場合(S6、S7)、ロータ室4が大気圧であると認識されドア5を開けることができる状態に達した旨を表示(報知)させる場合(S9)、のそれぞれにおける表示部82(真空表示部L8)の画面の一例を
図7(a)、(b)にそれぞれ示す。
【0045】
真空センサ11の出力電圧をモニター中(S6、S7)においては、
図7(a)に示されるように、3つの発光部のうちの一つが、右側(他方の側)から左側(一方の側)に向かって一定間隔でサイクリックに点灯する。すなわち、この状態においては、3つの発光部のうちのどれか一つのみが点灯した状態となるように、点灯した発光部が右から左に向かって見かけ上移動する。この移動の時間間隔は、例えば前記の出力電圧の比較(S7)の間隔とすることができる。この動きは、点灯する発光部の数が増加していく前記の真空排気の際の動きとは異なる。特に、右側の発光部のみが点灯した状態(
図7(a)上段)、中央の発光部のみが点灯した状態(
図7(a)中段)は、真空排気時には存在しない状態であるため、作業者は、この画面を見て、現在ロータ室4への大気の導入中である旨を容易に知ることができる。この場合には、現時点でどの発光部が点灯しているかは現時点でのロータ室の圧力とは無関係となるが、ロータ室4への大気導入中であり、待機すべき状態であることが作業者にとって明らとなる。
【0046】
また、真空センサ11の出力電圧から算出された真空度(圧力の上昇)に応じて
図7(a)に示されるように点灯する発光部を移動させてもよい。この場合には、
図4に示された真空排気中の表示と類似するが、
図7(a)の場合には、点灯する発光部が常時一つである点が
図4の場合と異なるため、作業者は、現在ロータ室4への大気導入中であることを容易に識別できる。
【0047】
ロータ室4が大気圧となったと判定され(S8)、ドア5を開けることができる状態に達した場合(S9)には、
図7(b)に示されるように、真空表示部L8における3つの発光部はいずれも消灯し、その上側に「DOOR OPEN」と表示される。
【0048】
このように、単純な構成の真空表示部L8を用いて、ロータ室4を真空排気する際の真空度と、ロータ室4に大気を導入してドア5を作業者に開けさせるまでの状況とを、共に表示することができる。ここで、上記の真空表示部L8においては、3つの発光部が用いられたが、3つ以上であれば同様の表示が可能である。
【0049】
更に、上記の例では、上記のとおりに真空表示部L8を用いてロータ室4に大気導入中である旨及びドア5を開けることができる旨が表示部82(報知手段)によって表示されたが、代わりに他の報知手段を用いる、あるいは他の報知手段を併用することもできる。他の報知手段としては、例えば
図2におけるスピーカ90から信号音を発することができる。更に、他の形態のものを代わりに用いる、あるいは他の形態のものをこれらと併用することもできる。
【0050】
また、上記の例では、真空排気系40として、油拡散真空ポンプ7と油回転真空ポンプ6を用いたが、同様に制御部12等によって制御が行える限りにおいて、他種類の真空ポンプをいることもできる。真空センサ11についても、その出力を電圧として検出できるものであれば、同様にこの電圧の変化率を調べることによって、ロータ室が大気圧となったことを検知することができる。この点について、上記の例ではこの検出電圧が圧力の上昇と共に増大したが、検出電圧が圧力の上昇と共に減少する場合でも、検出電圧の時間変化が小さくなったことによってロータ室が大気圧となったことを検知することができる。