特許第6271241号(P6271241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特許6271241-蒸着装置、及び有機EL装置の製造方法 図000002
  • 特許6271241-蒸着装置、及び有機EL装置の製造方法 図000003
  • 特許6271241-蒸着装置、及び有機EL装置の製造方法 図000004
  • 特許6271241-蒸着装置、及び有機EL装置の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6271241
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】蒸着装置、及び有機EL装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20180122BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20180122BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   C23C14/24 J
   C23C14/24 A
   H05B33/10
   H05B33/14 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-263651(P2013-263651)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-117429(P2015-117429A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】木村 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】栗部 栄史
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−019477(JP,A)
【文献】 特開2007−146219(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/046795(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 − 14/58
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室と、材料を蒸発する複数の蒸発装置とを有し、真空室内に設置した基板の一方の主面である蒸着面に、蒸発した有機材料を着膜する蒸着装置であって、
真空室は、少なくとも2枚の基板を、それらの蒸着面を互いに対向させて設置可能であり、かつ、該2枚の基板の互いに対向する蒸着面の間に、該蒸発装置から供給を受けた蒸発した有機材料の放出が可能な放出部として、有機材料放出部1、及び有機材料放出部2を備え、
前記有機材料放出部1及び前記有機材料放出部2の両方の放出部の各々が、
互いに反対方向に有機材料を放出する開口として、一方の放出面を構成する短菅開口、及び他方の放出面を構成する長管開口と、
前記一方の放出面側の本体部であって、該短管開口、及び、該長管開口の長管の根元が設けられてなる本体部と、
該長管とを備え、
これらの放出面は多数の管または孔の開口で構成される、エリアソースと称される原料供給方式を採用するものであり、即ち、
前記基板の大きさは、前記放出面の大きさと略等しく、かつ、
前記開口は、前記真空室の中心近傍から外側に面して配されており、いずれも中心近傍から外側に向かって開いており、さらに、
有機材料放出部1、及び、有機材料放出部2の一方の放出部に属する該長管が、他方の放出部に属する該本体部を貫通していることにより、
該有機材料放出部1及び該有機材料放出部2の両方により、該両方の蒸着面に、複数の種類の有機材料が同時に該着膜可能とされていることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記複数の蒸発装置の各々が独立して、有機材料放出部1又は有機材料放出部2に、有機材料を供給可能であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
少なくともホスト材料及び発光材料を含む発光層を有する有機EL装置の製造方法であって、請求項1、又は2に記載の蒸着装置で該発光層を成膜し、かつ、有機材料放出部1から該ホスト材料を放出し、有機材料放出部2から該発光材料を放出すること特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
有機材料放出部1の有機材料の放出量が、有機材料放出部2の有機材料の放出量の2倍以上であることが特徴とする請求項に記載の有機EL装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置に関する。特に有機EL(Electro Luminescence)装置の製造に用いる蒸着装置として好適である。また、本発明は、該蒸着装置を用いた有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に変わる照明装置として有機EL装置が注目され、多くの研究がなされている。また、テレビに代表されるディスプレイ部材においても液晶方式やプラズマ方式に変わる方式として有機EL方式が注目されている。
【0003】
ここで有機EL装置は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基板に、有機EL素子を積層したものである。また有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL素子は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。有機EL装置は、自発光デバイスであるため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。また白熱灯や蛍光灯に比べて厚さが極めて薄く、且つ面状に発光するので、設置場所の制約が少ない。
【0004】
有機EL装置の代表的な層構成は、図2の通りである。図2に示される有機EL装置200は、ボトムエミッション型と称される構成であり、ガラス基板201に、透明電極層202と、機能層203と、裏面電極層205が積層され、これらが封止部206によって封止されたものである。また機能層203は、複数の有機化合物の薄膜が積層されたものである。代表的な機能層203の層構成は、図3の通りであり、正孔注入層210、正孔輸送層211、発光層212、及び電子輸送層213を有している。
【0005】
有機EL装置は、ガラス基板201上に、前記した層を順次成膜することによって製造される。ここで上記した各層の内、透明電極層202は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明導電膜層であり、主にスパッタ法あるいはCVD法によって成膜される。機能層203は、前記した様に複数の有機化合物の薄膜が積層されたものであり、各薄膜はいずれも真空蒸着法によって成膜される。裏面電極層205は、アルミニウムや銀等の金属薄膜であり、真空蒸着法によって成膜される。
【0006】
この様に有機EL装置を製造する際には、真空蒸着法が多用される。ここで真空蒸着法は、例えば特許文献1に開示された様な真空蒸着装置を使用して成膜する技術である。即ち真空蒸着装置は、真空室と、有機材料を蒸発させる蒸発装置によって構成されるものである。真空室は、ガラス基板を設置することができるものである。蒸発装置は、電気抵抗や電子ビームを利用した加熱装置と、有機材料を入れる坩堝とよって構成されている。
【0007】
そして多くの場合、ガラス基板は、真空室の天井側に水平姿勢に設置される。一方、蒸発装置の坩堝は、ガラス基板の下部に設置されている。そして坩堝内の有機材料が、電気抵抗等によって加熱され、蒸発して上方に向かって飛散し、ガラス基板の下面に付着して成膜される。
【0008】
ここで従来技術の真空蒸着装置は、ガラス基板を一枚ずつ成膜するものであった。即ち従来技術の真空蒸着装置の真空室は、ガラス基板をただ一枚しか設置することができず、且つ、ガラス基板の下面側にのみ成膜するものであった。即ち、従来技術の真空蒸着装置は、所望の品質の膜を成膜することができるものであったが、生産性が低いという不満があった。特に、真空蒸着は、基板を高真空の雰囲気下において成膜を行うものであるから、成膜したガラス基板を取り出す際に、真空室内の圧力を大気圧に戻す必要がある。そして新たなガラス基板を真空室に設置し、再度、真空室内を減圧して所望の真空度に調整する必要がある。そのため単にガラス基板の出し入れに要する作業時間だけでなく、その前後に、真空室内の圧力を大気圧に戻す作業と、真空室を高真空状態に減圧する作業が必須であり、ガラス基板の入替えに要する総時間が長い。そしてそれにも係わらず従来技術の蒸着装置は、基板を一枚ずつしか成膜することができず、単位時間あたりの成膜能力が低いものであった。
【0009】
このような従来技術の蒸着装置に対して、特許文献1、即ち、WO2012/046795に記載の蒸着装置では、着膜する材料の飛散方向が水平となるように、また、基板の蒸着面が鉛直に直立するように工夫されており、二枚のガラス基板に同時蒸着可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2012/046795国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、この特許文献1の装置では、ガラス基板に有機材料を放出するマニホールドが一個しかないため、複数の有機材料を同時かつ正確に成膜速度制御しながら製膜することができないという問題があり、対向する2枚の基板に対して、精密に組成が制御された複数の材料を共蒸着可能な装置が望まれていた。
【0012】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、複数の有機材料を精密に組成が制御された状態で共蒸着可能な生産性の高い蒸着装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決した本発明は、真空室と、材料を蒸発する複数の蒸発装置とを有し、真空室内に設置した基板の一方の主面である蒸着面に、蒸発した有機材料を着膜する蒸着装置であって、真空室は、少なくとも2枚の基板を、それらの蒸着面を互いに対向させて設置可能であり、かつ、該2枚の基板の互いに対向する蒸着面の間に、該蒸発装置から供給を受けた蒸発した有機材料の放出が可能な放出部として、有機材料放出部1、及び有機材料放出部2を備え、前記有機材料放出部1及び前記有機材料放出部2の両方の放出部の各々が、互いに反対方向に有機材料を放出する開口として、一方の放出面を構成する短菅開口、及び他方の放出面を構成する長管開口と、前記一方の放出面側の本体部であって、該短管開口、及び、該長管開口の長管の根元が設けられてなる本体部と、該長管とを備え、これらの放出面は多数の管または孔の開口で構成される、エリアソースと称される原料供給方式を採用するものであり、即ち、前記基板の大きさは、前記放出面の大きさと略等しく、かつ、前記開口は、前記真空室の中心近傍から外側に面して配されており、いずれも中心近傍から外側に向かって開いており、さらに、有機材料放出部1、及び、有機材料放出部2の一方の放出部に属する該長管が、他方の放出部に属する該本体部を貫通していることにより、該有機材料放出部1及び該有機材料放出部2の両方により、該両方の蒸着面に、複数の種類の有機材料が同時に該着膜可能とされていることを特徴とする蒸着装置に関する。
【0014】
このような本発明の蒸着装置は、同時に2枚以上の複数の基板に対して成膜することができるので、単位時間あたりに成膜処理可能な基板数が多く、生産性が高い。
【0015】
また、本発明の蒸着装置は、共蒸着する有機材料、例えば、発光層におけるホスト材料と発光材料、の成膜速度制御を各々の有機材料を蒸発する蒸発装置のみに連結した放出部毎に、例えば、マニホールド毎に設けた材料放出量モニター毎、例えば、膜厚計で個別に、設定し、各々の材料の放出状態が個別に安定したことを同時並行的に確認した後、両面同時に成膜を開始することができるので、短時間で面内均一性に優れる有機EL装置を量産することができる。即ち、このような本発明の蒸着装置を用いる薄膜の成膜方法によれば、複数の基板に同時に成膜可能であるだけでなく、放出部(本明細書において「マニホールド」と呼称する場合がある。)に設けたモニターで、成膜速度を設定し、また、その安定性を確認できるので、成膜開始までのリードタイムの短縮が可能であり、短時間でより多くの基板に成膜することができるので、生産性が高い。
【0016】
さらに、本発明の蒸着装置は、二つの基板の間に有機材料放出部が設置されているので、真空室内の空間を有効に活用することができ、装置の全体形状を小型化することができる。
【0017】
前記複数の蒸発装置の各々が独立して、前記有機材料放出部1又は前記有機材料放出部2に、有機材料を供給可能であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、このような本発明の蒸着装置を用いた有機EL装置の製造方法に関し、少なくともホスト材料及び発光材料を含む発光層を有する有機EL装置の製造方法であって、本発明の蒸着装置で該発光層を成膜し、かつ、前記有機材料放出部1から該ホスト材料を放出し、前記有機材料放出部2から該発光材料を放出すること特徴とする有機EL装置の製造方法とすることが好ましい。このような本発明の製造方法とすることで、有機EL装置において最も重要な層である発光層を制御性良く成膜できるので、短時間でより多くの有機EL装置を製造することができ、生産性が高い。
【0020】
有機材料放出部1の有機材料の放出量が、有機材料放出部2の有機材料の放出量の2倍以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の蒸着装置は、複数の有機材料を精密に組成が制御された状態で共蒸着可能な、また、面内均一性に優れた、さらに、装置の全体形状を小型化できる、生産性の高い蒸着装置である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一つの実施形態の蒸着装置の概念図である。
図2】有機EL装置の代表的な層構成を示す断面図である。
図3】有機EL素子の代表的な層構成を示す断面図である。
図4】本発明の別の一つの実施態様の蒸着装置の放出部の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
(蒸着装置)
本発明の実施形態に蒸着装置は、真空室内に設置した基板の一方の主面である蒸着面に、蒸発した有機材料を着膜し成膜するための装置である。
【0025】
図1は、本発明の一つの実施形態の蒸着装置の概念図である。図1に示す様に、本発明の蒸着装置は、真空室1、及び蒸発装置7を有し、本発明の優れた共蒸着組成制御性の効果を有効に奏さしめるため、異なる材料を共蒸着するために複数の蒸発装置7a、7bを有する。
【0026】
(真空室)
真空室1は、その内部に基板設置台2と有機材料放出部19,20とを備える。本発明の蒸着装置の特徴の一つは、共蒸着する材料に応じた有機材料放出部を複数、例えば、図1の19,20のように、複数有することである。蒸発装置15で蒸発した有機材料は、膜蒸気輸送路3a,3bを介して、真空室1内に設けられた放出部に供給される。
【0027】
真空室1は、公知のそれと同様に、例えば、ガラスをその材料とするガラス基板のような基板4a,4bを設置することができる広い空間5を有する。真空室1は、気密性を有している。また真空室1には、真空ポンプ6が接続されており、内部を高真空雰囲気に保つことができる。
【0028】
真空室内に、少なくとも2枚の基板を、複数の基板設置台2を用いて、それらの蒸着面を互いに対向させて設置可能としていることが本発明の蒸着装置の一つの特徴である。各々の基板設置台に複数の基板をその面内方向に並べて設置することで、対向設置することで成膜基板の枚数を2倍にするだけでなく、さらに多数の基板に同時に成膜することもできる。即ち、本実施形態の真空蒸着装置1では、ガラス基板4a,4bは、基板設置台2の台座部8に縦置き状に設置される。そしてガラス基板4a,4bの一方の面である非蒸着面が、基板設置台2の基板保持壁9a,9bと接し、ガラス基板4a,4bは図示しない基板保持具で基板設置台2に固定されている。
【0029】
基板設置台2は、台座部8と、基板保持壁9a,9bとによって構成されている。基板保持壁9a,9bは、台座部8の上部に立設された壁状の部位であり、図示しない基板保持具が設けられている。また基板保持壁9a,9bの裏面には、冷却配管10が取り付けられていることが好ましく、このような冷却配管10に、冷却液が循環し、基板保持壁9a,9bの温度を一定の温度に維持することが可能とされていることが好ましい。
【0030】
(蒸発装置)
蒸発装置7a,7bは、有機材料を蒸発するための装置であり、真空室1の外側に設置されることが好ましく、その一部が真空室1に内蔵される膜蒸気輸送路3a,3bと連通している。
【0031】
蒸発装置7a,7bは、公知の坩堝11a,11bと気化用電気ヒータ12a,12bによって構成されている。蒸発装置7a,7bの構造及び機能は、公知のそれと同一であり、坩堝11a,11b内に有機材料を入れ、電気ヒータ12a,12bで有機材料を溶融し、さらに気化させることができる。
【0032】
膜蒸気輸送路3a,3bは、有機材料の蒸気が通過する通路として機能するものであり、坩堝設置部15aと有機材料放出部19、坩堝設置部15bと有機材料放出部20とを連通するための通路である。
【0033】
坩堝設置部15a, 15bの上部には、それぞれ流量調整弁(絞り装置)16a,16bが介在されている。このようにすることで、各々の蒸発装置が独立して、材料放出部1又は有機材料放出部2に、有機材料を供給可能であり、その供給の開始及び停止を独立に可能としている。また、本実施形態の真空蒸着装置では、膜蒸気輸送路3a,3bに、有機材料の流量を調節する絞り装置として機能する、流量調整弁(絞り装置)16a,16bが設けられているので、左右の平面部17a,17bから放出される有機材料のバランスを調整することができる。さらに、本実施形態では、膜蒸気輸送路3a,3bの外周部には、保温用電気ヒータ18a,18bが取り付けられていることが好ましく、輸送路中で有機材料が安定して蒸気として維持されるので、制御性良く蒸着することができる。
【0034】
(放出部)
本発明の蒸着装置の特徴の一つは、2枚の基板の互いに対向する蒸着面の間に、複数の放出部、有機材料放出部1、有機材料放出部2・・・を備えることである。放出部は、蒸発装置から供給を受けて、蒸発した有機材料の放出が可能とされている。
【0035】
このような複数の放出部、例えば、2つの有機材料放出部1、及び有機材料放出部2は、その全ての、例えば両方の放出部により、両方の蒸着面に、有機材料が同時に着膜可能とされていることも本発明の蒸着装置の特徴である。この際、異なる種類の材料を蒸発する蒸発装置が、各々別の放出部に材料を供給し、全体として、複数の種類の材料が真空室に供給されている場合に、その複数の種類の材料が同時に同じ蒸着面に放出であることが本発明の蒸着装置の効果である。
【0036】
本発明の一つの実施形態の蒸着装置に係る図1において、有機材料放出部19には、
ガラス基板(基板)4aに向いて有機材料を放出する短管開口13aと、有機材料放出部20を貫通しガラス基板(基板)4bに向いて有機材料を放出する長管開口13bとが属しており、各々、放出部の本体部から分岐しており、有機材料放出部20には、ガラス基板(基板)4bに向いて有機材料を放出する短管開口14bと、有機材料放出部19を貫通しガラス基板(基板)4aに向いて有機材料を放出する長管開口14aとが属しており、各々、放出部の本体部からに分岐している。
【0037】
従って、ガラス基板4a,4bの蒸着面である被成膜面21は、それぞれ有機材料放出部有機材料放出開口部13a、14a、13b、14bに対向する位置にあり、ガラス基板4aと有機材料放出開口部13a,14a、ガラス基板4bと有機材料放出開口部13b,14bとはそれぞれ平行に向き合うこととなる。本実施形態では、ガラス基板4a,4bの有機材料放出開口部13a,14a,13b,14bと向き合う面が被成膜面21となる。なお、ガラス基板4a,4bの大きさは、有機材料放出開口部13a,14a,13b,14bが属する放出面17の大きさと略等しいが、基板の大きさいの方が、放出面の大きさよりひとまわり小さい。。
【0038】
ここで、短管開口については、必ずしも管となっていなくても、開口であれば使用可能である。即ち、本実施形態では、各放出面である平面部17a,17bの各々には、それぞれ有機材料を放出する、開口13a,14a、開口13b,14bが含まれ、これらの放出面17a,17bは多数の管または孔の開口で構成される。このような平面部17a,17bは、当業者の間で、エリアソースと称される原料供給方式を採用するものである。
【0039】
このように、図1に係る実施形態においては、各放出部の本体部は、短管開口と、長管の根元とを含み、また、各放出部には、他の放出部の本体部を貫通する長管であって、基板と対向する長管開口を有する長管が属する。
【0040】
図4は、本発明の別の一つの実施態様の蒸着装置の放出部の概念図である。この場合には、中央に位置する放出部の本体部は、逆方向に延びる2種類の長管の根元を含み、その2種類の長管は、他の放出部の本体部を貫通する長管であって、基板と対向する長管開口を有する。
【0041】
このように、本発明の蒸着装置は、その一の放出部に属する長管が、他の放出部に属する本体部を貫通する放出部を備えることを特徴としており、図1のように、2つの放出部を含む場合には、一方の放出部に属する長管が、他方の放出部に属する本体部を貫通する放出部を備えることとなる。
【0042】
図1において、左側の放出面17aを構成する、短管開口13a、長管開口14aとガラス基板(基板)4a、右側の放出面17bを構成する、長管開口13b、短管開口14bとガラス基板(基板)4bの、各々の放出面と基板との間には、それぞれ図示しない複数の開口部と遮蔽部を持つシャッターが設けられていることが好ましく、基板の交換時等にはシャッターを閉じることで、開口部13a,14a,13b,14bの任意の位置から有機材料の蒸気が放出されることを防止できる。
【0043】
シャッターと各開口13a、14a、13b、14bとの間、各放出部の本体部、または膜蒸気輸送路3a,3bには図示しない材料放出量モニター、例えば、膜厚計が設置されており、各々のモニターで個別に成膜速度制御を設定できる。好ましくは、各本体部に材料放出量モニターを設けることであり、放出部毎の少ないモニター数で、蒸着に供する有機材料として各放出部に割り当てた有機材料毎に、かつ同時に、設定された放出量が安定して放出されることを、短時間に確認した後、蒸着を開始可能となるので、制御性良く、高品質の有機膜を短タクトタイムで蒸着可能となる。
【0044】
本実施形態の真空蒸着装置1では、図1のレイアウトに示す様に、有機材料放出部19, 20の坩堝設置部15a, 15bは真空室1の下部にあり、有機材料放出部19, 20の膜蒸気輸送路3a,3bは真空室1の中心軸近傍に立設している。従って平面部17a, 17b(有機材料放出開口13a,14a,13b,14b)は、真空室1の中心近傍から外側に面して配されており、いずれも中心近傍から外側に向かって開いている。
【0045】
(成膜方法)
有機EL装置の製造方法における発光層の成膜工程に、このような本発明の蒸着装置を用いた成膜方法は適している。勿論、該装置中の発光層以外の層である、電子や正孔の注入層、輸送層、及びスタック型装置の接続層から選ばれる1種以上の有機層の成膜工程に適用することも好ましく、より好ましくは、本発明の蒸着装置から基板を取り出すことなく、発光層の前後の層を、そのまま蒸着面に形成する工程とすることである。即ち、各種有機材料を仕込んだ複数の蒸発装置7を、複数の放出部に切替可能に接続して、1以上の放出部を用いて、有機層を成膜することで、複数の有機層を積層構造として含む有機EL装置の有機層部分の一部、より好ましくはその全部を、本発明の蒸着装置で成膜する工程とすることが、低コストで高品質の有機EL装置を製造する観点から好ましい。
【0046】
ここで、発光層は一般に、ホスト材料となる有機化合物と、発光材料となる有機化合物とを、ホスト材料80〜99.9:発光材料20〜0.1の質量比で同時に成膜することで得られる有機物の混合物からなる層、即ち、有機化合物共蒸着層である。このような発光層を、本発明の蒸着装置で成膜する場合には、例えば、ホスト材料を有機材料放出部1から放出し、発光材料を有機材料放出部2からを放出し、その放出量を、有機材料放出部1の放出量が、有機材料放出部2の放出量の2倍以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは、有機材料放出部1の放出量を有機材料放出部2の放出量の5倍以上とすることであり、さらに好ましくは10倍以上とすることである。このようにすることで、共蒸着層を含む有機EL装置であっても、本発明の蒸着装置を用いることで、面内分布が小さく、安定した成膜ができるので、高い品質の有機EL装置を低コストで製造できる。
【0047】
このような有機物共蒸着層としては、有機EL装置中の前記注入層や接続層を構成する層のように、輸送材料中に有機ドーパントをドーピングした層もあり、このような層を、面内分布が小さく、安定した、混合物層を蒸着する方法である、本発明の蒸着装置を用いる方法で成膜することは、低コストで高い品質の有機EL装置を製造する観点から好ましい。
【0048】
本発明の蒸着装置を用いた具体的な成膜方法としては、例えば、管または孔の有機材料放出開口13a、14a、13b、14bから有機材料の蒸気を放出し、該蒸気をガラス基板4a,4bの被成膜面21に当てて、ガラス基板4a,4bに成膜する。即ち坩堝11a,11b内に所望の有機材料を入れ、気化用電気ヒータ12a,12bで有機材料を溶融し、さらに有機材料を気化させる。気化した有機材料は、坩堝設置部15a, 15bから膜蒸気輸送路3a,3bを通って有機材料放出部19,20の、放出部内空間(マニホールド内部空間)である蒸気通過空間22に入り、有機材料放出部19,20に設けられた管または孔の有機材料放出開口13a、14a、13b、14bからガラス基板4a,4bに向かって放出される。
【0049】
ここで本実施形態では、有機材料放出部19,20の外周部に図示しない保温用電気ヒータが取り付けられており、有機材料放出部19,20内の蒸気通過空間22は相当の高温に維持されている。そのため坩堝11a,11bで気化した有機材料は、気化状態を維持したままで有機材料放出部19,20に設けられた管または孔の有機材料放出開口13a、14a、13b、14bから放出される。ガラス基板4a、4bの外側の面には、基板設置台2の基板保持壁9a,9bが接しており、基板保持壁9a,9bには冷却機能があるから、ガラス基板4a、4bの温度は、低温に維持されている。
【0050】
そのため、管または孔の有機材料放出開口13a、14a、13b、14bから放出された有機材料の蒸気は、ガラス基板4a、4bの全面に均等に吹きつけられ、ガラス基板4a、4bの表面で熱を奪われて固化する。その結果、ガラス基板4a、4bの表面に同時に所望の成膜が行われる。
【0051】
成膜されたガラス基板4a、4bは、真空室1から取り出され、所望の後加工を経て有機EL装置等となる。
【符号の説明】
【0052】
1 真空室
2 基板設置台
3 膜蒸気輸送路
4 基板
5 空間
6 真空ポンプ
7 蒸発装置
8 台座部
9 基板保持壁
10 冷却配管
11 坩堝
12 気化用電気ヒータ
13 有機材料放出部19に属する開口
14 有機材料放出部20に属する開口
15 坩堝設置部
16 流量調整弁
17 放出面
18 保温用電気ヒータ
19 有機材料放出部
20 有機材料放出部
21 被成膜面(蒸着面)
22 放出部内空間(マニホールド内部空間)
図1
図2
図3
図4