【文献】
Jakub Novak,Nonlinear System Identification and Control Using Local Model Networks
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、PIDコントローラ(比例・積分・微分コントローラ)などの線形コントローラは、線形システムの制御のために広く普及している。しかし、従来の線形コントローラは、非線形システムに対して不十分にしか機能していない。しかし、大抵の実際のプロセスは非線形である。従って、非線形システムをローカル線形化により近似することが既に提案されており、ローカル線形システムに対しては、線形コントローラを設計することができる。そのような非線形システムのローカル線形化は、例えば、複式モデルアプローチ、例えば、ローカルモデルネットワーク(local model networks: LMN)により行なわれている。そのために、ローカルモデルネットワーク(LMN)の使用は、異なる動作範囲(入力変数)内で有効な異なるローカルモデルの間を補間する周知の方法である。そして、異なるローカルモデルに関して、例えば、PIDコントローラなどの線形コントローラが設計されて、グローバルなコントローラ出力が、又もやローカルコントローラ出力の補間によって決定されている。それに代わるアプローチは、ニューラルネットワーク又はファジーロジックを用いたモデル化である。
【0003】
各制御システムにおいて決定的な判定基準は、閉じた制御ループの安定性である。従って、設計されたコントローラは、制御ループ内で、例えば、既知の有界入力・有界出力(BIBO)又はリヤプノフ判定基準などの所定の安定性判定基準を満たさなければならない。
【0004】
同様に、閉じた制御ループの所望の挙動が出力変数範囲全体に渡って達成されることが望ましい、即ち、例えば、所定の出力変数範囲において、望ましくない大きな制御偏差又はオーバーシュートが起こらないことが望ましい。
【0005】
標準的なコントローラ設計では、コントローラを設計した後、閉じた制御ループの安定性と挙動を調べている。品質値が満たされない場合、コントローラ設計を繰り返さなければならず、そのことは、当然のことながら実際に負担がかかり、有効でない。従って、更に、事前にコントローラ設計において、閉じた制御ループの安定性と挙動の二つの品質値を最適化することは不可能であるか、或いは非常に負担のかかる形でしか移行されない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の目的は、非線形制御系又は非線形プロセスのための非線形コントローラを設計することである。そのために、先ずは、非線形プロセスを離散時間のローカルモデルネットワーク(LMN)の形でモデル化することから出発する。LMNは、十分に周知であり、LMNを用いた非線形プロセスの識別方法に関する広範囲の文献が存在し、そのため、ここでは、
図1で簡単にしか取り上げていない。LMNは、それぞれ所定の動作範囲(又は入力変数u
iの範囲)内で有効なローカルモデルLM
iの間を補間したものである。この場合、このLMNの各i番目のローカルモデルLM
iは、二つの部分、即ち、有効性関数Φ
iとモデルパラメータベクトルθ
iから構成することができる。このモデルパラメータベクトルθ
iは、i番目のモデルに関する全てのパラメータを含み、この有効性関数Φ
iは、入力空間のサブ空間である分割空間内におけるi番目のローカルモデルの有効性範囲を定義する。時点tでのi番目のローカルモデルLM
iの出力としての出力変数
【0014】
【数1】
のローカル推定値は、次の式
【0015】
【数2】
から得られ、ここで、x(k)は、現在(k)と過去(k−n)の入出力u
i,
【0016】
【数3】
を含む回帰ベクトルを表す。そして、このグローバルなモデル出力
【0018】
【数5】
の形で有効性関数Φ
iによってM個のローカルモデル出力を重み付けした線形的な組合せから得られる。
【0019】
ここで、各ローカルモデルLM
iに対して、
図2に図示されている通り、ローカル線形コントローラLC
iを作成する。その結果、ローカルコントローラネットワーク(LCN)が得られる。このグローバルな非線形コントローラ1は、LMNと同様に、ローカル線形コントローラLC
iのその有効性範囲に応じた線形的な組合せによって得られる。
【0020】
そして、この制御ループは、
図3に図示されている通り、周知の手法で得られる。この出力変数
【0021】
【数6】
は、入力にフィードバックされて、目標値w(k)から引き算され、その結果、コントローラ1に供給される制御偏差e(k)が得られ、コントローラは、その偏差から、非線形プロセス2又はそのプロセスをモデル化したLMNに関する制御変数u(k)(=モデル入力)を計算する。更に、外乱変数z(k)も考慮することができる。この周知の離散時間の線形制御方式は、周知の手法により、次の式として得られる。
【0022】
【数7】
この場合、K
P、T
N及びT
Vは、コントローラパラメータであり、T
Nは、サンプリング時間である。この制御方式は、次の式
【0023】
【数8】
を用いて公式変換することができる。そして、i番目のローカルPIDコントローラに関して、この離散時間の線形制御方式は、次の式
【0025】
【数10】
は、個々のローカルPIDコントローラのコントローラパラメータK
P、T
N及びT
Vを含む。そして、このコントローラパラメータK
PID(k)のグローバルな行列は、又もやLMNに応じて、次の式
【0026】
【数11】
による線形的な組合せとして得られる。それにより、異なる入力変数に関して、非線形コントローラ1の異なるコントローラパラメータK
PID(k)が得られる。
【0027】
周知の手法により、この制御方式は、(LMNの回帰ベクトルxと混同すべきでない)状態xを用いた状態空間表現において、次の式の形で
【0028】
【数12】
同様に表すことができ、ここで、システム行列A(Φ)=ΣΦ
iA
i(k)、入力行列B(Φ)=ΣΦ
iB
i(k)、外乱行列E(Φ)=ΣΦ
iE
i(k)及び出力行列Cである。Δu(k)は、次の式
【0029】
【数13】
から得られる。この状態空間表現は、例えば、
図4に図示されている。状態変数の数を少なくするために、(外乱変数z(k)を受け取るブロックにより表示される)外側への外乱変数の時間シフトが行なわれる。この外乱行列Eは、それに対応したモデルパラメータを含む。同様に、それ以外の線形コントローラに関して等価な制御方式と状態空間表現も存在する。それは標準的な制御理論であり、そのため、ここでは詳しく取り上げない。
【0030】
ここで、上記の定義した線形コントローラ1のコントローラパラメータK
PID(k)は、多基準進化アルゴリズムを用いて決定される。そのようなアルゴリズムは、例えば、多基準遺伝アルゴリズム(mult−objective Genetic algorithm又は短くmultiGA)として、同じく十分に周知である。一般的に進化アルゴリズムは、より強い個体がより高い確率で生き残る自然の進化と同様に機能する。この場合、個体の「強さ」とは、品質値f
i(フィットネス関数)を用いて測定される。多基準進化アルゴリズムの工程毎に、多数の個体が作り出されて、個体毎に、それに関して定義された品質値f
iが計算される。これらの新しい個体を作り出す時に、自然と同様に、遺伝と突然変異の二つのメカニズムが作用する。一つの世代の個体は、次の世代の個体を作り出すために混合されて、新たに組み合わされる。この場合、品質値f
iに基づき、より良い個体は、その遺伝子(コントローラパラメータ)を次の世代に遺すチャンスがより高い(より良く受け継がれる)。この突然変異とは、遺伝情報(コントローラパラメータ)の偶然の変化である。この場合、最適化は、通常品質値f
iの最小化と逆に作用し、その最大化も最適化の目標である。そのようなアルゴリズムは、十分に周知であり、それに関する十分な文献も存在し、例えば、非特許文献1と2が存在する。
【0031】
この場合、
図5に図示された具体的な用途事例では、コントローラ1の一つのパラメータセットK
PID(k)は、一つの個体を表し、品質値f
s,f
pとして、安定性判定基準と制御ループの挙動に関する判定基準が使用される。初期化のために、任意のパラメータK
PID(k)を規定することができる。しかし、初期化のために、例えば、多基準進化アルゴリズムに関するコントローラパラメータK
PID(k)の良好な出力ベースを決定する、MATLAB(登録商標)の周知のコマンドpidtuneなどの既存の方法を操作することもできる。この進化アルゴリズムの工程毎に、纏めて進化アルゴリズムの母集団Pを表す個体I
1...I
nのプールが決定される。そして、個体I
1...I
nの各プールの個々の個体毎に、品質値f
s,f
pが決定される。次に、これらの品質値f
s,f
pに基づき、多基準進化アルゴリズムの制御により、次の世代の個体が決定される。この最適化の停止は、所定の数の世代後に、或いは所望の品質値f
s,f
pの達成時に行なわれる。
【0032】
ここで、閉じた制御ループの安定性と挙動を評価するための二つの品質値f
s,f
pに関して、例えば、次のアプローチが行なわれる。
【0033】
安定性に関して、例えば、以下の要件を満たすリヤプノフ関数V(x)を探す、上記の状態空間表現に基づくリヤプノフによる周知のアプローチが行なわれる。
【0035】
この場合、LMNに関して、リヤプノフ関数V(x)を次の二次関数に制限するのが一般的である。
【0036】
【数15】
この場合、Pは正定値行列であり、αは減衰度である。それに代わって、当然のことながら、例えば、断片的な二次又はファジーリヤプノフ関数などの、それ以外の周知のリヤプノフ関数も考えられる。
【0037】
そして、安定性に関する判定基準は、二次リヤプノフ関数V(x)に対して、次の通り得られる。
【0039】
コントローラ1により制御されるLMNは、上記の条件を満たす対称的な行列P、X
ij、及び減衰度αが存在する場合、指数関数的に安定する。この上記の方程式体系は、入手可能な方程式の解法を用いて解くことができ、この場合、安定性に関する品質値f
sとして、減衰度αが使用される、即ち、次の通りとなる。
【0041】
閉じた制御ループの挙動に関して、先ずは、出力
【0042】
【数18】
に対して、閉じた制御ループのグローバルな挙動を把握するために、例えば、有利には、LMNの出力範囲全体をカバーする実験計画法を用いて、時間長Kの目標値信号w
p(k)を生成する。この場合、閉じた制御ループの挙動に関する品質値f
pは、基準信号w
p(k)に対する上と下の限界値y
ub,y
lbと、例えば、オーバーシュートΔy
os、アンダーシュートΔy
us、立ち上がり時間k
r、修正時間k
s及び帯域幅b
wなどの従来の挙動判定基準とをベースとする。即ち、目標値信号w
pの周りの許容し得る許容範囲が定義される。この場合、出力変数の許容される範囲は、
図6に例示されている通り、上と下の限界値y
ub,y
lbの間で、即ち、許容範囲内に定義される。そして、品質値f
pは、以下の式から得られる。
【0044】
これらの係数c
osとc
usは、システム出力
【0045】
【数20】
が限界値y
ub,y
lbの間の許容範囲から外れた場合の品質値f
pの上昇を規定している。そのため、制御ループの挙動に関する品質値f
pは、許容範囲の遵守に関する尺度である。この品質値f
pを決定するために、制御ループ(
図3)は、各パラメータセットK
PID(k)に対して目標値信号w
pを加える。これらの限界値y
ub,y
lbは、例えば、ユーザによって、立ち上がり時間k
r、修正時間k
s、オーバーシュートΔy
os、アンダーシュートΔy
us、及び帯域幅b
wなどの従来のパラメータを用いて決定又は規定される。
【0046】
この多基準進化アルゴリズムによって、複数の品質値f
iを最適化(最小化又は最大化)して、それに対応するパラメータK
PID(k)を決定することができ、複数の実現可能な最適なソリューションが存在する。この場合、これらの最適なソリューションの集合をパレートフロントとして表すことができる。このパレートフロントは、周知の手法により、一つの品質値f
iを改善すると同時に、別の品質値f
iを悪化させないことが不可能である全てのソリューションを含む。両方の品質値f
s,f
pの場合に対して、例えば、
図7に図示されている通りのパレートフロントPが得られる。このパレートフロントPの各点の下には、それぞれコントローラデザインの実現可能な最適なソリューションを表す、それに対応するコントローラ1のパラメータセットK
PID(k)が有る。従って、これらの実現可能な最適なソリューションから所定のソリューションを、そのため、所定のパラメータセットK
PID(k)を選定することしか残っていない。
【0047】
更に、これらの品質判定基準f
iは、その重要性を評価するために、最適化において重み付けすることもできる。
【0048】
図8には、上記の方法によるPIDコントローラの設計結果が図示されている。上のグラフには、目標値wp(k)と出力変数
【0049】
【数21】
が、品質値f
pに関する限界値y
ub,y
lbと一緒に図示されている。下のグラフには、入力変数u
1とu
2が図示されている。目標値基準が設計されたコントローラによって良く近似されていることが分かる。
【0050】
本方法は、有利には、本方法の移行のためにプログラミングされたコンピュータ上で実施される。それに代わって、必要な計算能力を複数のコンピュータに配分するために、コンピュータクラスタを使用することもできる。
【0051】
そして、この決定された非線形コントローラは、入力変数に応じて制御変数をリアルタイムに決定して、非線形プロセスを制御するために、例えば、制御ユニットに実装することができる。
【0052】
しかし、この決定した非線形コントローラ1又は決定したパラメータセットK
PID(k)から、入力変数に応じて、コントローラパラメータK
P、T
N及びT
V(又はd
0,d
1,d
2)に関する性能特性を決定又は入力することもできる。本方法は、例えば、自動車分野において、自動車10の燃焼エンジン12の制御機器11で使用され(
図12)、その場合、制御機器11に実装された性能特性13の構造が規定されて、校正の途上で、この性能特性13にデータを充填すべきである。この制御機器11の所与のコントローラ構造において、大抵は負荷(燃料噴射量又は回転モーメントT)と回転数nに依存する、コントローラパラメータに関する性能特性が使用される。この場合、更に別の変数もセンサ14によって検出されて、制御機器に供給される。本方法によって、これらの性能特性13をモデルに基づき全自動で生成することが可能となる。この性能特性に基づくコントローラ構造により、例えば、ターボチャージャ及び/又は排ガスフィードバックを用いて、ブースト圧力が制御される。そのために、非線形区間に関する非線形コントローラを決定することができる。そして、このコントローラを用いて、コントローラパラメータK
P、T
N及びT
Vの探している性能特性13を決定することができる。
図9〜11には、そのようにして決定した入力変数回転モーメントTと回転数nに依存するコントローラパラメータK
P、T
N及びT
Vに関する性能特性13の例が図示されている。それに代わって、パラメータd
0,d
1,d
2に関する性能特性を作成することができる。