特許第6285466号(P6285466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285466非線形プロセス用非線形コントローラの設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285466
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】非線形プロセス用非線形コントローラの設計方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   G05B13/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-559467(P2015-559467)
(86)(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公表番号】特表2016-510151(P2016-510151A)
(43)【公表日】2016年4月4日
(86)【国際出願番号】EP2014053180
(87)【国際公開番号】WO2014131661
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】A50129/2013
(32)【優先日】2013年2月28日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】398055255
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】マイル・クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤクベク・シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ハーメトナー・クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】コイト・ニコラウス
【審査官】 黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−522074(JP,A)
【文献】 特開2002−163005(JP,A)
【文献】 特開2005−285090(JP,A)
【文献】 特開2008−117059(JP,A)
【文献】 Jakub Novak,Nonlinear System Identification and Control Using Local Model Networks
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローカルモデルネットワーク(LMN)の形でモデル化された非線形プロセスのための非線形コントローラ(1)の設計方法において、
進化工程毎に、それぞれ最適化の実現可能なソリューションを示す多数のパラメータセット(KPID(k))を決定し、その際、パラメータセット(KPID(k))毎に、制御ループの安定性に関する品質値(f)と制御ループの挙動に関する品質値(fを決定して、これらの品質値(s,)を多基準進化アルゴリズムにより最適化する、多基準進化アルゴリズムを用いた最適化によって、このコントローラ(1)のパラメータセット(KPID(k))を決定することを特徴とする方法。
【請求項2】
減衰度(α)を用いたリヤプノフ判定基準により、当該の制御ループの安定性に関する品質値(f)を決定し、その際、品質値(f)として、減衰度(α)を使用することを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
目標値信号(w)と、この目標値信号(w)の周りの出力変数
【数1】
の許容し得る許容範囲とを定義して、当該の制御ループの挙動に関する品質値(f)として、この許容範囲の遵守に関する尺度を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
当該の最適化の結果として、実現可能な最適なパラメータセット(KPID(k))から成るパレートフロント(P)を決定して、その中の一つのパラメータセット(KPID(k))をソリューションとして選定することを特徴とする請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
当該パラメータセット(KPID(k))の一つのパラメータ(d,d,d,K,T,T)に対して、入力変数に応じた性能特性を作成することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローカルモデルネットワークの形でモデル化された非線形プロセスのための非線形コントローラの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、PIDコントローラ(比例・積分・微分コントローラ)などの線形コントローラは、線形システムの制御のために広く普及している。しかし、従来の線形コントローラは、非線形システムに対して不十分にしか機能していない。しかし、大抵の実際のプロセスは非線形である。従って、非線形システムをローカル線形化により近似することが既に提案されており、ローカル線形システムに対しては、線形コントローラを設計することができる。そのような非線形システムのローカル線形化は、例えば、複式モデルアプローチ、例えば、ローカルモデルネットワーク(local model networks: LMN)により行なわれている。そのために、ローカルモデルネットワーク(LMN)の使用は、異なる動作範囲(入力変数)内で有効な異なるローカルモデルの間を補間する周知の方法である。そして、異なるローカルモデルに関して、例えば、PIDコントローラなどの線形コントローラが設計されて、グローバルなコントローラ出力が、又もやローカルコントローラ出力の補間によって決定されている。それに代わるアプローチは、ニューラルネットワーク又はファジーロジックを用いたモデル化である。
【0003】
各制御システムにおいて決定的な判定基準は、閉じた制御ループの安定性である。従って、設計されたコントローラは、制御ループ内で、例えば、既知の有界入力・有界出力(BIBO)又はリヤプノフ判定基準などの所定の安定性判定基準を満たさなければならない。
【0004】
同様に、閉じた制御ループの所望の挙動が出力変数範囲全体に渡って達成されることが望ましい、即ち、例えば、所定の出力変数範囲において、望ましくない大きな制御偏差又はオーバーシュートが起こらないことが望ましい。
【0005】
標準的なコントローラ設計では、コントローラを設計した後、閉じた制御ループの安定性と挙動を調べている。品質値が満たされない場合、コントローラ設計を繰り返さなければならず、そのことは、当然のことながら実際に負担がかかり、有効でない。従って、更に、事前にコントローラ設計において、閉じた制御ループの安定性と挙動の二つの品質値を最適化することは不可能であるか、或いは非常に負担のかかる形でしか移行されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Deb,“Multi−objective optimization using evolutionary algorithms”, Cinchester: John Wiley & Sons Ltd., 2009
【非特許文献2】L. D. Li, X. Yu, X. Li, and W. Guo, “A Modified PSO Algorithm for Constrained Multi−objective Optimization”, presented at the International Conference on Network and System Security, 2009, pp.462−467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことから、本発明の課題は、閉じた制御ループに関する所定の品質値を考慮することができる、ローカルモデルネットワークの形でモデル化された非線形プロセスのための非線形コントローラの設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、本発明により、進化工程毎に、それぞれ最適化の実現可能なソリューションを示す多数のパラメータセットを決定し、その際、パラメータセット毎に、少なくとも二つの品質値を決定して、これらの品質値を多基準進化アルゴリズムにより最適化する、多基準進化アルゴリズムを用いた最適化によって、コントローラの一つのパラメータセットを決定することにより解決される。このようにして、所望の品質値が事前にコントローラ設計で考慮され、コントローラ設計後に初めて決定されることがなくなる。しかし、この場合、これらの品質値は、考慮されるだけでなく、コントローラ設計の途上で最適化もされ、そのため、設計されたコントローラは、その品質値に関して、確かに最適なものとなる、即ち、それに関して最善のコントローラデザインとなる。
【0009】
制御ループの評価に関する一般的な判定基準であるので、有利には、品質値として、制御ループの安定性に関する品質値と、制御ループの挙動に関する品質値とが決定、最適化される。そのために、この制御ループの安定性に関する品質値は、有利には、減衰度を用いたリヤプノフ判定基準により決定され、品質値として、この減衰度が使用される。この制御ループの挙動に関する品質値に関して、出力変数の目標値信号と、この目標値信号の周りの許容し得る許容範囲とが定義され、品質値として、この許容範囲の遵守に関する尺度が使用される。
【0010】
全く特に有利には、決定した非線形コントローラから、決定したコントローラパラメータに関して、例えば、車両の制御機器で、別途所定の変数を制御するために使用できる性能特性を作成することができる。このようにして、車両制御機器で性能特性を直接決定して、入力することができ、最早検査台で苦労して校正する必要が無くなり、従来は、そのために、常に検査試料(例えば、燃焼エンジン、トランスミッション、パワートレイン、車両)を用いた多数の検査の実施も必要であった。そのために、この最適化の結果として、実現可能な最適なコントローラパラメータから成るパレートフロントを決定することができ、その中の一つのパラメータセットをソリューションとして選定することができる。そして、例えば、一つの検査試料に関する検査台での一回の検査の実施によって、それを調べることができる。
【0011】
以下において、本発明を制限するものではない模式的な有利な実施例を図示した図1〜11を参照して、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ローカルモデルネットワークの例の模式図
図2】ローカルコントローラネットワークから成るローカルモデルネットワークの模式図
図3】制御ループのブロック接続図
図4】状態空間表現による制御ループのブロック接続図
図5】コントローラデザインフローの模式図
図6】制御ループの挙動に関する品質値を決定する例のグラフ
図7】パレートフロントの形のコントローラデザインのソリューションのグラフ
図8】設計した非線形コントローラによる非線形プロセスの制御結果のグラフ
図9】コントローラパラメータの性能特性例のグラフ
図10】コントローラパラメータの性能特性例のグラフ
図11】コントローラパラメータの性能特性例のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の目的は、非線形制御系又は非線形プロセスのための非線形コントローラを設計することである。そのために、先ずは、非線形プロセスを離散時間のローカルモデルネットワーク(LMN)の形でモデル化することから出発する。LMNは、十分に周知であり、LMNを用いた非線形プロセスの識別方法に関する広範囲の文献が存在し、そのため、ここでは、図1で簡単にしか取り上げていない。LMNは、それぞれ所定の動作範囲(又は入力変数uの範囲)内で有効なローカルモデルLMの間を補間したものである。この場合、このLMNの各i番目のローカルモデルLMは、二つの部分、即ち、有効性関数Φとモデルパラメータベクトルθから構成することができる。このモデルパラメータベクトルθは、i番目のモデルに関する全てのパラメータを含み、この有効性関数Φは、入力空間のサブ空間である分割空間内におけるi番目のローカルモデルの有効性範囲を定義する。時点tでのi番目のローカルモデルLMの出力としての出力変数
【0014】
【数1】
のローカル推定値は、次の式
【0015】
【数2】
から得られ、ここで、x(k)は、現在(k)と過去(k−n)の入出力u
【0016】
【数3】
を含む回帰ベクトルを表す。そして、このグローバルなモデル出力
【0017】
【数4】
は、次の式
【0018】
【数5】
の形で有効性関数ΦによってM個のローカルモデル出力を重み付けした線形的な組合せから得られる。
【0019】
ここで、各ローカルモデルLMに対して、図2に図示されている通り、ローカル線形コントローラLCを作成する。その結果、ローカルコントローラネットワーク(LCN)が得られる。このグローバルな非線形コントローラ1は、LMNと同様に、ローカル線形コントローラLCのその有効性範囲に応じた線形的な組合せによって得られる。
【0020】
そして、この制御ループは、図3に図示されている通り、周知の手法で得られる。この出力変数
【0021】
【数6】
は、入力にフィードバックされて、目標値w(k)から引き算され、その結果、コントローラ1に供給される制御偏差e(k)が得られ、コントローラは、その偏差から、非線形プロセス2又はそのプロセスをモデル化したLMNに関する制御変数u(k)(=モデル入力)を計算する。更に、外乱変数z(k)も考慮することができる。この周知の離散時間の線形制御方式は、周知の手法により、次の式として得られる。
【0022】
【数7】
この場合、K、T及びTは、コントローラパラメータであり、Tは、サンプリング時間である。この制御方式は、次の式
【0023】
【数8】
を用いて公式変換することができる。そして、i番目のローカルPIDコントローラに関して、この離散時間の線形制御方式は、次の式
【0024】
【数9】
の通りとなり、この行列
【0025】
【数10】
は、個々のローカルPIDコントローラのコントローラパラメータK、T及びTを含む。そして、このコントローラパラメータKPID(k)のグローバルな行列は、又もやLMNに応じて、次の式
【0026】
【数11】
による線形的な組合せとして得られる。それにより、異なる入力変数に関して、非線形コントローラ1の異なるコントローラパラメータKPID(k)が得られる。
【0027】
周知の手法により、この制御方式は、(LMNの回帰ベクトルxと混同すべきでない)状態xを用いた状態空間表現において、次の式の形で
【0028】
【数12】
同様に表すことができ、ここで、システム行列A(Φ)=ΣΦ(k)、入力行列B(Φ)=ΣΦ(k)、外乱行列E(Φ)=ΣΦ(k)及び出力行列Cである。Δu(k)は、次の式
【0029】
【数13】
から得られる。この状態空間表現は、例えば、図4に図示されている。状態変数の数を少なくするために、(外乱変数z(k)を受け取るブロックにより表示される)外側への外乱変数の時間シフトが行なわれる。この外乱行列Eは、それに対応したモデルパラメータを含む。同様に、それ以外の線形コントローラに関して等価な制御方式と状態空間表現も存在する。それは標準的な制御理論であり、そのため、ここでは詳しく取り上げない。
【0030】
ここで、上記の定義した線形コントローラ1のコントローラパラメータKPID(k)は、多基準進化アルゴリズムを用いて決定される。そのようなアルゴリズムは、例えば、多基準遺伝アルゴリズム(mult−objective Genetic algorithm又は短くmultiGA)として、同じく十分に周知である。一般的に進化アルゴリズムは、より強い個体がより高い確率で生き残る自然の進化と同様に機能する。この場合、個体の「強さ」とは、品質値f(フィットネス関数)を用いて測定される。多基準進化アルゴリズムの工程毎に、多数の個体が作り出されて、個体毎に、それに関して定義された品質値fが計算される。これらの新しい個体を作り出す時に、自然と同様に、遺伝と突然変異の二つのメカニズムが作用する。一つの世代の個体は、次の世代の個体を作り出すために混合されて、新たに組み合わされる。この場合、品質値fに基づき、より良い個体は、その遺伝子(コントローラパラメータ)を次の世代に遺すチャンスがより高い(より良く受け継がれる)。この突然変異とは、遺伝情報(コントローラパラメータ)の偶然の変化である。この場合、最適化は、通常品質値fの最小化と逆に作用し、その最大化も最適化の目標である。そのようなアルゴリズムは、十分に周知であり、それに関する十分な文献も存在し、例えば、非特許文献1と2が存在する。
【0031】
この場合、図5に図示された具体的な用途事例では、コントローラ1の一つのパラメータセットKPID(k)は、一つの個体を表し、品質値f,fとして、安定性判定基準と制御ループの挙動に関する判定基準が使用される。初期化のために、任意のパラメータKPID(k)を規定することができる。しかし、初期化のために、例えば、多基準進化アルゴリズムに関するコントローラパラメータKPID(k)の良好な出力ベースを決定する、MATLAB(登録商標)の周知のコマンドpidtuneなどの既存の方法を操作することもできる。この進化アルゴリズムの工程毎に、纏めて進化アルゴリズムの母集団Pを表す個体I...Iのプールが決定される。そして、個体I...Iの各プールの個々の個体毎に、品質値f,fが決定される。次に、これらの品質値f,fに基づき、多基準進化アルゴリズムの制御により、次の世代の個体が決定される。この最適化の停止は、所定の数の世代後に、或いは所望の品質値f,fの達成時に行なわれる。
【0032】
ここで、閉じた制御ループの安定性と挙動を評価するための二つの品質値f,fに関して、例えば、次のアプローチが行なわれる。
【0033】
安定性に関して、例えば、以下の要件を満たすリヤプノフ関数V(x)を探す、上記の状態空間表現に基づくリヤプノフによる周知のアプローチが行なわれる。
【0034】
【数14】
【0035】
この場合、LMNに関して、リヤプノフ関数V(x)を次の二次関数に制限するのが一般的である。
【0036】
【数15】
この場合、Pは正定値行列であり、αは減衰度である。それに代わって、当然のことながら、例えば、断片的な二次又はファジーリヤプノフ関数などの、それ以外の周知のリヤプノフ関数も考えられる。
【0037】
そして、安定性に関する判定基準は、二次リヤプノフ関数V(x)に対して、次の通り得られる。
【0038】
【数16】
【0039】
コントローラ1により制御されるLMNは、上記の条件を満たす対称的な行列P、Xij、及び減衰度αが存在する場合、指数関数的に安定する。この上記の方程式体系は、入手可能な方程式の解法を用いて解くことができ、この場合、安定性に関する品質値fとして、減衰度αが使用される、即ち、次の通りとなる。
【0040】
【数17】
【0041】
閉じた制御ループの挙動に関して、先ずは、出力
【0042】
【数18】
に対して、閉じた制御ループのグローバルな挙動を把握するために、例えば、有利には、LMNの出力範囲全体をカバーする実験計画法を用いて、時間長Kの目標値信号w(k)を生成する。この場合、閉じた制御ループの挙動に関する品質値fは、基準信号w(k)に対する上と下の限界値yub,ylbと、例えば、オーバーシュートΔyos、アンダーシュートΔyus、立ち上がり時間k、修正時間k及び帯域幅bなどの従来の挙動判定基準とをベースとする。即ち、目標値信号wの周りの許容し得る許容範囲が定義される。この場合、出力変数の許容される範囲は、図6に例示されている通り、上と下の限界値yub,ylbの間で、即ち、許容範囲内に定義される。そして、品質値fは、以下の式から得られる。
【0043】
【数19】
【0044】
これらの係数cosとcusは、システム出力
【0045】
【数20】
が限界値yub,ylbの間の許容範囲から外れた場合の品質値fの上昇を規定している。そのため、制御ループの挙動に関する品質値fは、許容範囲の遵守に関する尺度である。この品質値fを決定するために、制御ループ(図3)は、各パラメータセットKPID(k)に対して目標値信号wを加える。これらの限界値yub,ylbは、例えば、ユーザによって、立ち上がり時間k、修正時間k、オーバーシュートΔyos、アンダーシュートΔyus、及び帯域幅bなどの従来のパラメータを用いて決定又は規定される。
【0046】
この多基準進化アルゴリズムによって、複数の品質値fを最適化(最小化又は最大化)して、それに対応するパラメータKPID(k)を決定することができ、複数の実現可能な最適なソリューションが存在する。この場合、これらの最適なソリューションの集合をパレートフロントとして表すことができる。このパレートフロントは、周知の手法により、一つの品質値fを改善すると同時に、別の品質値fを悪化させないことが不可能である全てのソリューションを含む。両方の品質値f,fの場合に対して、例えば、図7に図示されている通りのパレートフロントPが得られる。このパレートフロントPの各点の下には、それぞれコントローラデザインの実現可能な最適なソリューションを表す、それに対応するコントローラ1のパラメータセットKPID(k)が有る。従って、これらの実現可能な最適なソリューションから所定のソリューションを、そのため、所定のパラメータセットKPID(k)を選定することしか残っていない。
【0047】
更に、これらの品質判定基準fは、その重要性を評価するために、最適化において重み付けすることもできる。
【0048】
図8には、上記の方法によるPIDコントローラの設計結果が図示されている。上のグラフには、目標値wp(k)と出力変数
【0049】
【数21】
が、品質値fに関する限界値yub,ylbと一緒に図示されている。下のグラフには、入力変数uとuが図示されている。目標値基準が設計されたコントローラによって良く近似されていることが分かる。
【0050】
本方法は、有利には、本方法の移行のためにプログラミングされたコンピュータ上で実施される。それに代わって、必要な計算能力を複数のコンピュータに配分するために、コンピュータクラスタを使用することもできる。
【0051】
そして、この決定された非線形コントローラは、入力変数に応じて制御変数をリアルタイムに決定して、非線形プロセスを制御するために、例えば、制御ユニットに実装することができる。
【0052】
しかし、この決定した非線形コントローラ1又は決定したパラメータセットKPID(k)から、入力変数に応じて、コントローラパラメータK、T及びT(又はd,d,d)に関する性能特性を決定又は入力することもできる。本方法は、例えば、自動車分野において、自動車10の燃焼エンジン12の制御機器11で使用され(図12)、その場合、制御機器11に実装された性能特性13の構造が規定されて、校正の途上で、この性能特性13にデータを充填すべきである。この制御機器11の所与のコントローラ構造において、大抵は負荷(燃料噴射量又は回転モーメントT)と回転数nに依存する、コントローラパラメータに関する性能特性が使用される。この場合、更に別の変数もセンサ14によって検出されて、制御機器に供給される。本方法によって、これらの性能特性13をモデルに基づき全自動で生成することが可能となる。この性能特性に基づくコントローラ構造により、例えば、ターボチャージャ及び/又は排ガスフィードバックを用いて、ブースト圧力が制御される。そのために、非線形区間に関する非線形コントローラを決定することができる。そして、このコントローラを用いて、コントローラパラメータK、T及びTの探している性能特性13を決定することができる。図9〜11には、そのようにして決定した入力変数回転モーメントTと回転数nに依存するコントローラパラメータK、T及びTに関する性能特性13の例が図示されている。それに代わって、パラメータd,d,dに関する性能特性を作成することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12