(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6326773
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】ポリエチレン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/06 20060101AFI20180514BHJP
【FI】
C08L23/06
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-235462(P2013-235462)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-93962(P2015-93962A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山川 浩
(72)【発明者】
【氏名】逸見 隆史
【審査官】
安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−265440(JP,A)
【文献】
特開2013−112794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnにより定義される分子量分布Mw/Mnが3以上7未満の高圧法低密度ポリエチレン(A)100重量部に対し、ビニリデン基量(Vd)が1.2個/104C以上2.1個/104C以下であり、メルトフローレート(MFR)(測定条件:190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10分以上6.0g/10分以下であり、分子量分布Mw/Mnが7以上12未満である高圧法低密度ポリエチレン(B)を1〜100重量部含むことを特徴とするポリエチレン組成物。
【請求項2】
高圧法低密度ポリエチレン(B)の溶融張力(測定条件:温度190℃、引取速度0.5m/分)が50mN以上200mN以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な押出成形加工性を有するポリエチレン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に高圧ラジカル重合法により製造される高圧法低密度ポリエチレンは押出ラミネート成形において優れた製膜性を有しており、各種の樹脂フィルム、紙、アルミニウム箔等の基材フィルムへの押出ラミネート用材料として用いられている。
【0003】
押出ラミネート成形ではTダイから垂直下方に押し出された溶融樹脂膜は冷却ロールによって搬送されている紙等の基材上にラミネートされる。この際、Tダイ出口における吐出速度と基材の移動速度の差により、溶融樹脂膜はTダイ出口と冷却ロール間の間隙(エアギャップ)で延伸されて、その巾が狭くなる。この巾の減少量をネックイン(NI)と呼ぶ。NIが小さいほどラミネート製品の歩留りが高くなり好ましい。延伸する力に対して溶融膜自体が持つ抗力は溶融張力(MS)と呼ばれ、MSが大きいほど樹脂の弾性が高いことを意味し、MSが大きいほどNIは小さくなる。樹脂の吐出量を一定とした条件で溶融膜を破断させることなく安定して製膜出来る最大の引取速度をドローダウン(DD)と呼ぶ。DDが大きいほど成形速度を上げられ、生産性が高くなるため好ましい。一般的にはNIが小さい溶融膜ではDDも小さくなり、両者は相反することが知られている。押出ラミネート成形においてはラミネート製品の生産性の観点から相反するNIとDDのバランスが重要であり、高DD、かつ低NIの樹脂が最もラミネート成形性に優れている。
【0004】
以下、高圧法低密度ポリエチレンのMSに影響を与える分子量について説明する。数平均分子量Mn、及び重量平均分子量Mwから計算される分散度QはQ=Mw/Mnで定義され、高圧法低密度ポリエチレンの分散度Qは一般に3〜12の範囲にある。高圧法低密度ポリエチレンの分散度が大きくなる原因は、重合反応中に長鎖分岐(LCB)が生成することにより高分子量成分の存在比率が高まることが主な原因である。LCBはMSの増大に寄与するため、高圧法低密度ポリエチレンに対しては、一般的にQが大きいものほどMSが大きくなる。一般的にMSが大きな高圧法低密度ポリエチレンのQは7以上であり、逆にQが7未満の高圧法低密度ポリエチレンのMSは小さいことが知られている。Qが
7未満の高圧法低密度ポリエチレンを製造する方法としては攪拌機の無い螺旋状管式反応器を用いるチューブラー法が適しており、Qが7以上の高圧法低密度ポリエチレンを製造する方法としては攪拌機を備えた筒状反応器が用いられる。以下、便宜上、Qが7未満の高圧法低密度ポリエチレンをチューブラーLDPE、Qが7以上の高圧法低密度ポリエチレンをベッセルLDPEと呼ぶ。
【0005】
チューブラーLDPEはベッセルLDPEに比べ、LCBが少ないため、MSが小さく、押出ラミネート成形において、DDが大きく高速成形性に優れるという特長を有している。一方、MSが小さいためNIが大きいという問題を有しており、NIのより小さいチューブラーLDPEが求められていた。
【0006】
このような特性を有するLDPEを得る方法として、DDが大きく高速加工性を有するチューブラーLDPEに、よりMSが高く、NIが小さいベッセルLDPEをブレンドするという方法が知られている。本手法においては、ベッセルLDPEの添加量に比例して、MSが増大し、NIは小さくなるが、ブレンド物のDDは低下する。従い、DDとNIのバランスを取るためには、出来るだけ高いMSを有するベッセルLDPEを用い、更にベッセルLDPEの添加量を出来る限り少量に留めることがポイントとなる。ベッセルLDPEの添加量が少量であれば、NI改良効果に比べDDの低下が実用上問題ないレベルに抑制されるため、NIとDDのバランスに優れたブレンド物となることが期待される。
【0007】
高MSのベッセルLDPEは、反応器で製造された製品ペレットを後処理することにより得られることが知られている。例えば、電子線或いは放射線を照射してベッセルLDPEを部分的に架橋する方法が知られている(例えば特許文献1,2)。しかし、この方法を実施する為には専用の照射装置が必要であり、大量の樹脂の処理には高いコストがかかるため経済性に劣っていた。また、ベッセルLDPEに有機過酸化物を添加し溶融混合し、部分的に架橋することによりMSを増大させる方法が知られている(例えば、特許文献3)。この手法は通常の押出機による処理が可能であるが、均一に架橋させるのが難しい上に、コストがかかるため経済性にも劣っていた。また、電子線或いは有機過酸化物で架橋されたベッセルLDPEのMSは高くなり、NIを小さくするメリットがあるが架橋反応による溶融流動性の低下に伴い、DDが大きく低下するという致命的な欠点があった。
【0008】
上記問題を解決するため、何らの添加剤も添加せず、LDPEのみを溶融混練することでMSを増大させる手法が開示されている(例えば特許文献4,5)。しかし、本手法においても重合反応器で製造されたLDPEのペレットを再度、溶融混練するため、コストがかかり経済性には劣っていた。
【0009】
上記のように、従来開示されている技術により得られたベッセルLDPEをチューブラーLDPEにブレンドする為には、先ず、ベッセルLDPEのMSを更に増大させるため、製造されたベッセルLDPEのペレットを溶融混練加工し、再度ペレット化した上で、チューブラーLDPEに配合する必要があり、煩雑かつ経済性に劣っていた。また、架橋したベッセルLDPEはチューブラーLDPEと均一に溶融混合しにくい。このため、添加したベッセルLDPEの性能が十分発揮されず、NIを小さくするためにベッセルLDPEを添加量を多くせざるを得ず、その結果DDの低下を招き、NIとDDのバランスに優れたブレンド物を得るのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−31256号公報
【特許文献2】特開2000−159947号公報
【特許文献3】特許第3044256号公報
【特許文献4】特願2012−235696号
【特許文献5】特願2012−286960号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、優れた押出加工性を有するポリエチレン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、経済性に優れた押出加工性を有するポリエチレン組成物を提供することを目的とする。本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の高圧法低密度ポリエチレン(B)が溶融押出成形中に溶融張力が著しく増大する特徴を有していることに着目し、溶融張力を増大させるために溶融混練等の加熱処理、或いは、架橋剤等の添加による架橋反応を行わず、高圧法製造装置により製造して得られた該高圧法低密度ポリエチレン(B)のペレットを直接他のエチレン系重合体に配合するだけで、押出加工性に優れたポリエチレン組成物が得られることを見出し本発明を完成するに至った。該組成物は押出加工前にはMS、及び溶融粘度が小さいためチューブラーLDPEとブレンドした組成物のMS,及び溶融粘度の上昇を抑制出来る。その結果、該組成物はチューブラーLDPEの優れたDD性を保持することが出来る。更に、該組成物は低粘度であるため、押出機の押出負荷が小さく、経済性の面からも好ましい押出特性を有している。該組成物のMSは押出加工時に徐々に増大し、押出機出口付近で最大となり、溶融膜のNIを小さくするように作用する。即ち、NIが小さく、DDが大きいという経済性に優れた押出加工特性を有することが特長である。該低密度ポリエチレン(B)はチューブラーLDPEに対し長鎖分岐数(LCB)が多いため、分子量分布は広い。このLCBは溶融張力の増大に寄与し、通常はLCBの量が多いほどDDが小さくなることが知られている。
【0013】
すなわち、本発明は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnにより定義される分子量分布Mw/Mnが3以上7未満の高圧法低密度ポリエチレン(A)100重量部に対し、ビニリデン基量(Vd)が1.2個/10
4C以上2.1個/10
4C以下であり、メルトフローレート(MFR)(測定条件:190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10分以上6.0g/10分以下であり、Mw/Mnが7以上12以下である高圧法低密度ポリエチレン(B)を1〜100重量部含むことを特徴とするポリエチレン組成物、及び該高圧法低密度ポリエチレン(B)の溶融張力(測定条件:温度190℃、引取速度0.5m/分)が50mN以上200mN以下であることを特徴とするポリエチレン組成物に関するものである。
【0014】
本発明のポリエチレン組成物は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnにより定義される分子量分布Mw/Mnが3以上7未満の高圧法低密度ポリエチレン(A)を含む。該ポリエチレン(A)は工業的に生産、販売されているものを入手して使用することができ、一例としてチューブラー法で製造された高圧ラジカル重合法により製造されたものが有る。
【0015】
該ポリエチレン(A)は単独で、或いは複数の樹脂を混合して使用することができる。複数の樹脂ペレットを混合するドライブレンド、或いは溶融混練して混合するメルトブレンドの何れの方法も用いることが出来る。
【0016】
本発明で用いる該ポリエチレン(A)のMFRに特に制限はないが、好ましくは0.1〜10g/10分であり、更に好ましくは0.2〜5g/10分、最も好ましくは0.2〜4g/10分である。MFRが0.1〜10g/10分の範囲にあれば、良好な押出特性を有する組成物を得ることが出来る。
本発明のポリエチレン(A)の密度は特に制限されないが、915〜930kg/m
3であることが好ましい。密度が、915〜930kg/m
3の範囲にあれば、良好な押出特性を有する組成物を得ることが出来る。
【0017】
本発明のポリエチレン(A)は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を用いて、Q=Mw/Mnにより求められる分子量分布Qが3以上7未満であり、好ましくは3以上5.5未満であり、更に好ましくは3以上5未満である。Qが6以上ではポリエチレン組成物のDD性が劣る為好ましくなく、Qが3未満ではポリエチレン組成物のNIが大きくなり好ましくない。
【0018】
本発明で用いるポリエチレン(B)のビニリデン基量は1.2個/10
4C以上2.1個/10
4C以下であり、好ましくは1.3個/10
4C以上1.9個/10
4C以下であり、更に好ましくは1.5個/10
4C以上1.8個/10
4C以下である。ビニリデン基量が1.2個/10
4C未満であるとネックインが大きくなり、ラミネート加工性の改良効果が小さく、2.1個/10
4Cを超えるとドローダウンが小さくなるため好ましくない。
【0019】
本発明で用いるポリエチレン(B)のMFRは0.1g/10分以上6.0g/10分以下であり、好ましくは0.5g/10分以上5.0g/10分以下、更に好ましくは1.0g/10分以上5.0g/以下である。0.1g/10分未満ではドローダウン性が小さく、また、6.0g/10分を超えるとネックインが大きく加工性に劣るため好ましくない。
【0020】
本発明で用いるポリエチレン(B)の溶融張力(測定条件:温度190℃、引取速度0.5m/分)は50mN以上200mN以下が好ましく、好ましくは60mN以上180mN以下、更に好ましくは70mN以上160mNである。溶融張力がこの範囲内にあるとネックインが小さく、ドローダウンも大きいため製品の歩留りが高くなり、加工速度も上げられるため好ましい。
【0021】
本発明で用いるポリエチレン(B)の分子量分布は、押出加工性の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比で定義される分散度(Q)=Mw/Mnが7以上12以下であり、好ましくは8以上11以下である。
【0022】
高圧法低密度ポリエチレン中のビニリデン基、トランスビニレン基等の二重結合は重合反応器中でβ−切断反応として知られている分子鎖の切断反応により生成する。この分子切断反応の頻度は反応温度が高いほど、また反応圧力が低いほど高くなるが、分子切断反応は分子量を低下させる(MFRが増大する)ため、ビニリデン基量を上げる反応温度、及び反応圧力の条件は、高分子量化させる条件と相反する。従い、ビニリデン基量が高く、高分子量(低MFR)の高圧法低密度ポリエチレンを製造する方法は従来知られていなかった。
【0023】
本発明で用いるポリエチレン(B)の製造はラジカル重合開始剤の存在下で、溶媒の存在下あるいは不存在下において、必要に応じて主に分子量調節を目的に連鎖移動剤を添加して、高圧圧縮機を備えた連続式のベッセル型、或いはチューブラー型高圧法ポリエチレン製造装置により製造できるが、重合装置としては反応器内部の温度分布を制御し易いベッセル型重合装置が好適に用いられる。本発明で用いるポリエチレン(B)は、エチレン流量、エチレンガス温度、ラジカル開始剤量の最適化により反応器入口と出口の間に、必要に応じて予め設定した温度勾配を生じさせると同時に、この温度勾配の大きさに応じた最適な反応圧力を設定することにより容易かつ効率的に製造出来る。具体的には、本発明で用いるポリエチレン(B)は、反応器内の平均反応温度を出来る限り高温にしてビニリデン基量を高め、同時に、MFRを可能な限り低下させるため、高分子量成分を生成する低温領域を同一反応器内に設けて、反応器内部に温度勾配を生じさせた上で、所望のビニリデン基量とMFRとなるように、反応圧力、及び反応器内部に供給するエチレンの温度を最適化することで容易、かつ効率的に製造することが出来る。
【0024】
重合圧力としては100MPa以上400MPa以下、好ましくは150MPa以上190MPa以下が用いられる。この圧力の範囲内であれば、ビニリデン基量が高く、かつMFRが低いポリエチレン(B)を得ることが出来るため好ましい。
【0025】
反応温度としては100℃以上330℃以下、好ましくは200℃以上280℃以下が用いられる。反応器内部の最高温度と最低温度の差は10℃以上200℃以下、好ましくは13℃以上100℃以下の条件が用いられる。反応器の温度が100℃以上であり、かつ反応器上部と下部の温度差が上記の範囲内であれば、ビニリデン基量が高く、かつMFRが低いポリエチレン(B)を得ることが出来るため好ましい。
【0026】
反応器に供給するエチレンの供給量と温度は、反応圧力、反応温度に依存し、所望のビニリデン基量とMFRとするため、適宜変更され、エチレン供給量は生産速度に応じても適宜変更し得る。エチレン供給量としては10kg/h以上30kg/h以下が用いられ、エチレンの温度は10℃以上100℃以下が用いられる。エチレン供給量が10kg/h以上であり、エチレン温度が10℃以上であれば、ポリエチレン(B)が経済性に優れた生産速度で製造出来るため好ましい。
【0027】
ラジカル重合開始剤としては例えば酸素、過酸化水素、ジエチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシピバレート等を用いることが出来るが、反応温度に応じて最適な分解温度の開始剤を選定出来る。本発明で用いる開始剤の量は、開始剤の種類、反応器内部の温度、高圧反応器へ導入するエチレン流量、及びエチレンの温度に合わせ適宜調整されるため、厳密に特定の範囲に限定し得るものではないが、一般的には1〜25kg/hである。
【0028】
連鎖移動剤は主に分子量の増大を抑える目的で使用でき、また二重結合量を増加させる目的でも使用できる。連鎖移動剤の例としてはエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のオレフィン化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド化合物、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いるポリエチレン(B)は高圧法製造装置により製造されたペレットを、溶融混練等の後処理なく、また、架橋剤等の添加剤を添加する必要もなく、直接、チューブラーLDPEの押出加工性の改良に利用することが出来る。該ポリエチレンは押出加工前にはMS、及び溶融粘度が比較的小さいためチューブラーLDPEに添加した際の均一混合性に優れており、更に、押出加工時MS増大量が大きいため、少量の添加でチューブラーLDPEの加工性を改良出来るという特徴を有している。
【0030】
本発明のポリエチレン組成物の組成に制限はないが、例えば、押出成形加工に対してはポリエチレン(A)100重量部に対して、ポリエチレン(B)を1〜100重量部を含み、好ましくは5〜80重量部、より好ましくは10〜50重量部を含む。この配合比率であれば押出加工性に優れたポリエチレン組成物が得られるため好ましい。
本発明のポリエチレン組成物において、ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)のブレンド法は特に制限は無く、例えば、ドライブレンド、溶融ブレンド等が好適に用いられる。また、必要に応じて溶液ブレンドを行うことも出来る。
【0031】
本発明のポリエチレン組成物の加工法は特に制限されず、例えば、押出ラミネート成形、インフレーション成形、キャストフィルム成形等の押出成形により成形出来るが、特に、高い溶融張力が求められる押出ラミネート成形に好適に用いられる。押出ラミネート成形法には特に制限がなく、シングルラミネート、タンデムラミネート、共押出ラミネート、サンドイッチラミネートの何れも使用できる。押出ラミネート成形を行う場合、該重合体組成物と基材との接着性の観点から、ダイスから押出された該重合体組成物の温度が250〜350℃であることが好ましい。
【0032】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成高分子又は天然高分子からなるフィルム又はシートが例示され、アルミ蒸着、アルミナ蒸着、二酸化珪素蒸着等の蒸着処理を施したものでも良く、ウレタン系インキ等のインクを用いて印刷されたものでも良い。また、該基材としてアルミ箔若しくは銅箔等の金属箔、クラフト紙、伸長紙、上質紙、グラシン紙、カップ原紙、印画紙若しくは板紙等の紙類又はセロファン類、天然高分子若しくは合成高分子から製造される織布又は不織布が例示される。
【0033】
また、本発明のポリエチレン組成物には、本組成物の加工性を損なわない範囲で、他のポリオレフィンを混合して使用してもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明のポリエチレン組成物を用いることで、生産性が高く、経済性に優れた押出加工製品を製造することが出来る。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を限定するものではない。
【0036】
以下に本発明において用いた物性評価方法、分析方法、溶融混練方法を示す。
(1)ビニリデン基量
樹脂を窒素下、150℃、2分間プレスを行って厚み200μmのフィルムを作製し、パーキンエルマー社製Spectrum One赤外分光光度計を用い、ビニリデン基の特性吸収ピーク888cm
−1を用いて定量分析し、炭素原子10000個当たりのビニリデン基の個数(個/10
4C)を求めた。
(2)分子量分布
東ソー(株)製HLC−8121GPC/HTに、カラムTSKgel GMHhr−H(20)HTを3本連結し、カラム温度140℃、溶剤1,2,4−トリクロロベンゼン、サンプル濃度1.0mL/1mL、注入量0.3mLの条件で測定を行い、直鎖ポリエチレンに換算した数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)から分散度Qを算出した。
(3)密度
JIS K6922−1(1997年)に準拠して測定した。
(4)メルトフローレート(MFR)
JIS K6922−1に準拠して測定した。
(5)ネックイン
ポリエチレン組成物を90mm径のスクリューを有する押出ラミネータ(ムサシノキカイ製)の押出機へ供給し、340℃の温度で開口巾600mmのTダイより押出し、基材の引取速度を200m/分として、坪量50g/m
2のクラフト紙基材上に押出ラミネート用樹脂組成物が10μmの厚さになるように押出ラミネートした際の、Tダイ開口巾とポリエチレン組成物のコート巾との差を測定しネックイン(NI)とした。
(6)ドローダウン
ポリエチレン組成物を90mm径のスクリューを有する押出ラミネータ(ムサシノキカイ製)の押出機へ供給し、340℃の温度で開口巾600mmのTダイより押出し、スクリュー回転数を10回転として基材の引取速度を徐々に上げていったとき、ポリエチレン組成物の溶融膜が破断した際の最大の引取速度をドローダウンとした。
(7)溶融張力(MS)
設定温度23℃の恒温室内で、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、製品名:キャピログラフ)を用いて、長さ8mm、直径2.095φ、流入角90℃のフラットダイを使用し、温度190℃で、樹脂を18g充填し、ピストン降下速度10mm/分、引取速度0.5mで引取った際に必要な張力を溶融張力とした。
【0037】
本発明で用いた高圧法低密度ポリエチレン(B)の合成例を以下に示す。
【0038】
合成例1
[ベッセルLDPE(B−1)の製造]
ベッセル型反応器に往復型高圧圧縮機で圧縮したエチレン22.1kg/hを温度33℃で圧入し、重合開始剤としてt−ブチルパーオキサイド17.5g/hを添加し、圧力164MPa、反応器上部の温度250℃、反応器下部の温度271℃で連続的に重合して密度は918.0kg/m
3、ビニリデン基量1.21個/10
4C、Q10.5、MFR4.0g/10分、MS89mNのベッセルLDPE(B−1)を得た。
【0039】
合成例2
[ベッセルLDPE(B−2)の製造]
ベッセル型反応器に往復型高圧圧縮機で圧縮したエチレン22.8kg/hを温度35℃で圧入し、重合開始剤としてt−ブチルパーオキサイド13.8g/hを添加し、圧力180MPa、反応器上部の温度257℃、反応器下部の温度277℃で連続的に重合して密度918.3kg/m
3、ビニリデン基量1.52個/10
4C、Q10.5、MFR2.8g/10分、MS113mNのベッセルLDPE(B−2)を得た。
【0040】
合成例3
[ベッセルLDPE(B−3)の製造]
ベッセル型反応器に往復型高圧圧縮機で圧縮したエチレン21.1kg/hを温度33℃で圧入し、重合開始剤としてt−ブチルパーオキサイド13.6g/hを添加し、圧力180MPa、反応器上部の温度257℃、反応器下部の温度278℃で連続的に重合して密度917.9kg/m
3、ビニリデン基量1.63個/10
4C、Q10.7、MFR4.8g/10分、MS77mNのベッセルLDPE(B−3)を得た。
【0041】
合成例4
[ベッセルLDPE(B−4)の製造]
ベッセル型反応器に往復型高圧圧縮機で圧縮したエチレン23.4kg/hを温度33℃で圧入し、重合開始剤としてt−ブチルパーオキサイド7.3g/hを添加し、圧力185MPa、反応器上部の温度262℃、反応器下部の温度265℃で連続的に重合して密度918.3kg/m
3、ビニリデン基量1.50個/10
4C、Q8.3、MFR11.0g/10分、MS47mNのベッセルLDPE(B−4)を得た。
【0042】
合成例5
[ベッセルLDPE(B−5)の製造]
ベッセル型反応器に往復型高圧圧縮機で圧縮したエチレン20.1kg/hを温度36℃で圧入し、重合開始剤としてt−ブチルパーオキサイド8.4g/hを添加し、圧力162MPa、反応器上部の温度231℃、反応器下部の温度247℃で連続的に重合して密度924.6kg/m
3、ビニリデン基量0.70個/10
4C、Q7.6、MFR3.8g/10分、MS29mNのベッセルLDPE(B−5)を得た。
【0043】
合成例6
[ベッセルLDPE(B−6)の製造]
ベッセル型反応器に往復型高圧圧縮機で圧縮したエチレン24.0kg/hを温度29℃で圧入し、重合開始剤としてt−ブチルパーオキサイド10.9g/hを添加し、圧力183MPa、反応器上部の温度256℃、反応器下部の温度264℃で連続的に重合して密度919.2kg/m
3、ビニリデン基量1.10個/10
4C、Q9.8、MFR1.7g/10分、MS132mNのベッセルLDPE(B−6)を得た。
【0044】
実施例1
ポリエチレンとしてチューブラーLDPE(A−1)(東ソー(株)製 商品名ペトロセン173K、密度924.2kg/m
3、MFR0.3g/10分)100重量部に対し、合成例1でベッセルLDPE(B−1)25重量部を配合し、回転式タンブラーでドライブレンドしたものを、評価方法に示した方法でラミネート成形してネックイン、及びドローダウンを計測した。評価結果を表1に示す。
【0045】
実施例2
ベッセルLDPEとして合成例1で製造した高圧法低密度ポリエチレンとして(B−2)を配合した以外は、実施例1と同様の方法でポリエチレン組成物を得た後、得られた組成物を実施例1と同様にラミネート成形して成形性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0046】
実施例3
ベッセルLDPEとして、合成例1で製造した(B−3)を配合した以外は、実施例1と同様の方法でポリエチレン組成物を得た後、得られた組成物を実施例1と同様にラミネート成形して成形性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0047】
実施例4
ポリエチレンとしてチューブラーLDPE(A−2)(東ソー(株)製 商品名ペトロセン175K、密度922.5kg/m
3、MFR0.7g/10分)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、ラミネート成形評価を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
実施例5〜10
ポリエチレンとしてチューブラー法で製造された高圧法低密度ポリエチレン、(A−1)、(A−2)、及び(A−3)と、合成例1〜3で製造したベッセルLDPE(B−1)、(B−2)、及び(B−3)を表1に示した配合比率でドライブレンドしたものを、評価方法に示した方法でラミネート成形してネックイン、及びドローダウンを計測した。評価結果を表1に示す。
【0049】
比較例1
チューブラーLDPE(A−1)(東ソー(株)製 商品名ペトロセン 173K、密度924.2kg/m
3、MFR0.3g/10分)100重量部に対し、合成例4で製造したベッセルLDPE(B−4)25重量部を配合し、回転式タンブラーでドライブレンドしたものを、評価方法に示した方法でラミネート成形してネックイン、及びドローダウンを計測した結果、実施例1〜8に対し、ネックインが大きく、実用的なネックインのレベルには無かった。評価結果を表1に示す。
【0050】
比較例2〜8
ベッセルLDPEとして(B−4)、(B−5)、及び(B−6)を用い、チューブラーLDPEとして(A−1)、(A−2)、及び(A−3)を用いて、比較例1と同様の手法で得られた各種組成物をラミネート成形してネックイン、及びドローダウンを計測した結果を表1に示す。実施例1〜8に対し、何れもネックインが大きく、実用的なネックインのレベルには無かった。
【0051】
【表1】