(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該加工液供給手段は、インゴットと該ワイヤとを該加工液に浸漬する加工槽、又はインゴットに向けて該加工液を噴射し該ワイヤに沿って加工液を供給するノズルであることを特徴とする請求項1記載のワイヤ放電加工装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したワイヤ放電加工装置では、インゴットとワイヤとの隙間に加工の屑が滞留してしまうことがある。この場合、滞留した屑を通じて不要な放電が発生し易くなるので、加工精度の低下や、熱によるワイヤの切断等が問題となる。
【0007】
これに対し、インゴット及びワイヤを純水等の加工液に浸漬する方法や、加工によって形成されるインゴットの溝に加工液を噴射する方法等が検討されている。しかしながら、例えば、ウェーハを大口径化し、又は、切り出しのロスを低減するために溝の幅を縮小すると、上述の方法では必ずしも十分に屑を除去できなくなる。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インゴットとワイヤとの隙間に加工の屑が滞留するのを防止できるワイヤ放電加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、間隔をおいて配置された複数のガイドローラに巻き掛けられ、該ガイドローラの回転に伴い走行するワイヤと、インゴットに該ワイヤを切り込ませるように、インゴットを固定する基台部と該ワイヤとを相対的に移動させて加工送りする駆動手段と、該基台部に固定されたインゴットと該ワイヤとに高周波パルス電力を供給する高周波パルス電源ユニットと、インゴットと該ワイヤとの間に加工屑が滞留するのを防ぐ屑除去手段と、を備え、該屑除去手段は、インゴットと該ワイヤとに高周波パルス電力を供給しながら加工送りすることでインゴットに形成される溝に加工液を供給する加工液供給手段と、該溝内への該加工液の供給を促進する供給促進手段と、を備え、該供給促進手段は、加工送りの際に該ワイヤに追従するように該溝に侵入し、該溝内で該ワイヤと併走するクリーニングワイヤであることを特徴とするワイヤ放電加工装置が提供される。
【0010】
本発明において、該加工液供給手段は、インゴットと該ワイヤとを該加工液に浸漬する加工槽、又はインゴットに向けて該加工液を噴射し該ワイヤに沿って加工液を供給するノズルであることが好ましい。
【0011】
また、本発明において、該クリーニングワイヤは、周面に凹凸を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明において、該クリーニングワイヤを加工送りの方向に沿って進退させる進退手段を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、該ワイヤを該ガイドローラの軸方向に間隔をあけて複数回巻き掛けることで、並列する複数の切断部が形成され、該複数の切断部をインゴットに切り込ませるように加工送りすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るワイヤ放電加工装置は、インゴットに形成される溝への加工液の供給を促進する供給促進手段として、加工送りの際にワイヤに追従するように溝に侵入し、溝内でワイヤと併走するクリーニングワイヤを備えるので、溝内へ加工液を十分に行き渡らせて、インゴットとワイヤとの隙間に加工の屑が滞留するのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、ワイヤ放電加工装置の構成例を模式的に示す一部断面側面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るワイヤ放電加工装置2は、ワイヤ4が巻回された繰り出しボビン6を支持する円柱状の繰り出しローラ8を備えている。
【0017】
繰り出しローラ8から水平方向に離れた所定の位置には、巻き取りボビン10を支持する巻き取りローラ12が配置されている。繰り出しボビン6から繰り出されたワイヤ4は、放電加工に使用された後、巻き取りボビン10で巻き取られる。ワイヤ4は、例えば、ピアノ線等をベースに構成され、インゴット11の放電加工に必要な導電性を備えている。
【0018】
繰り出しローラ8の近傍には、ワイヤ4を案内する円柱状の第1ガイドローラ14が配置されている。繰り出しボビン6から繰り出されたワイヤ4は、第1ガイドローラ14に巻き掛けられて水平方向に案内される。
【0019】
一方、巻き取りローラ12の近傍には、第1ガイドローラ14で案内されたワイヤ4をさらに案内する円柱状の第2ガイドローラ16が配置されている。第1ガイドローラ14で案内されたワイヤ4は、第2ガイドローラ16に巻き掛けられて下方に案内される。
【0020】
第2ガイドローラ16の下方には、第2ガイドローラ16で案内されたワイヤ4をさらに案内する円柱状の第3ガイドローラ18が配置されている。第2ガイドローラ16で案内されたワイヤ4は、第3ガイドローラ18に巻き掛けられて水平方向に案内される。この水平方向に案内されたワイヤ4の一部によって、インゴット11を加工する加工部4aが構成される。
【0021】
第1ガイドローラ14の下方には、第3ガイドローラ18で案内されたワイヤ4をさらに案内する円柱状の第4ガイドローラ20が配置されている。第3ガイドローラ18で案内されたワイヤ4は、第4ガイドローラ20に巻き掛けられて上方に案内される。
【0022】
第4ガイドローラ20で案内されたワイヤ4は、第1ガイドローラ14に再び巻き掛けられて第2ガイドローラ16に案内される。上述のように、第1ガイドローラ14には既にワイヤ4が巻き掛けられているので、ここでは、別の位置にワイヤ4が巻き掛けられる。具体的には、既に巻き掛けられているワイヤ4に対して第1ガイドローラ14の軸方向に所定の間隔をあけてワイヤ4が再度巻き掛けられる。
【0023】
同様に、第1ガイドローラ14で案内されたワイヤ4は、第2ガイドローラ16に再び巻き掛けられて第3ガイドローラ18に案内される。また、第2ガイドローラ16で案内されたワイヤ4は、第3ガイドローラ18に再び巻き掛けられて第4ガイドローラ20に案内される。さらに、第3ガイドローラ18で案内されたワイヤ4は、第4ガイドローラ20に再び巻き掛けられて第1ガイドローラ14に案内される。
【0024】
上述のように、第2ガイドローラ16、第3ガイドローラ18、及び第4ガイドローラ20には既にワイヤ4が巻き掛けられているので、ここでは、別の位置にワイヤ4が巻き掛けられる。具体的には、既に巻き掛けられているワイヤ4に対して、第2ガイドローラ16、第3ガイドローラ18、又は第4ガイドローラ20の軸方向に所定の間隔をあけてワイヤ4が再度巻き掛けられる。
【0025】
第4ガイドローラ20で案内されたワイヤ4は、第1ガイドローラ14にさらに巻き掛けられて第2ガイドローラ16に案内される。ここでも、ワイヤ4は、第1ガイドローラ14の軸方向に所定の間隔をあけて巻き掛けられる。
【0026】
このように、第1ガイドローラ14、第2ガイドローラ16、第3ガイドローラ18、及び第4ガイドローラ20には、軸方向に所定の間隔をあけてワイヤ4が複数回巻き掛けられる。ワイヤ4を巻き掛ける回数は、加工条件等に応じて任意に設定される。あらかじめ設定された回数に達するまでワイヤ4を巻き掛けた後には、第2ガイドローラ16を経て巻き取りボビン10にワイヤ4を固定する。
【0027】
これにより、第3ガイドローラ18と第4ガイドローラ20との間には複数の加工部4aが並列されて、インゴット11から複数のウェーハを一度に切り出すことができる。第3ガイドローラ18、及び第4ガイドローラ20に巻き掛けられるワイヤ4の軸方向の間隔(すなわち、加工部4aの間隔)は、切り出されるウェーハの厚みに対応し、例えば、1mmである。ただし、ワイヤ4の軸方向の間隔(加工部4aの間隔)はこれに限定されない。
【0028】
また、繰り出しローラ8、巻き取りローラ12、及び各ガイドローラには、モータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。この回転駆動源で、繰り出しローラ8、巻き取りローラ12、及び各ガイドローラを回転させれば、ワイヤ4は、繰り出しローラ8、巻き取りローラ12、及び各ガイドローラを回転に伴い所定のワイヤ送り方向に送られる(走行する)。なお、第3ガイドローラ18及び第4ガイドローラ20の回転量は、ワイヤ4の加工部4aに所定の張力が掛かるように制御される。
【0029】
加工部4aの上方には、インゴット11を支持する基台(基台部)22が配置されている。基台22は、例えば、カーボン等の導電性材料で構成されており、下面側には、導電性接着剤24を介してインゴット11が固定される。
【0030】
インゴット11は、例えば、SiCやダイヤモンド(単結晶ダイヤモンド)等の材料で円柱状に形成されており、ワイヤ送り方向に対してインゴット11の高さ方向(結晶成長方向)が直交するように基台22に固定される。
【0031】
この基台22は、上方に配置された駆動ユニット(駆動手段)26によって、インゴット11の高さ方向に直交する上下方向(加工送り方向)に移動する。これにより、インゴット11にワイヤ4(加工部4a)を切り込ませるように、基台22とワイヤ4とを相対的に移動(加工送り)できる。
【0032】
基台22には、放電加工用の高周波パルス電力を供給する高周波パルス電源(高周波パルス電源ユニット)28が接続されている。この高周波パルス電源28は、基台22及び導電性接着剤24を介して、インゴット11に第1の高周波パルス電力を供給する。
【0033】
一方、第1ガイドローラ14と第4ガイドローラ20との間、及び、第2ガイドローラ16と第3ガイドローラ18との間には、それぞれ高周波パルス電源28に接続されワイヤ4と接触する給電用の端子30,32が配置されている。高周波パルス電源28は、端子30,32を介して、ワイヤ4に第1の高周波パルス電力と極性の異なる第2の高周波パルス電力を供給する。
【0034】
第3ガイドローラ18及び第4ガイドローラ20を囲む位置には、加工槽(加工液供給手段,屑除去手段)34が配置されている。加工槽34の内部には純水等の加工液36が貯留されており、少なくとも、ワイヤ4の加工部4a及びインゴット11の一部が加工液36に浸漬している。
【0035】
また、加工部4aの近傍には、インゴット11に向けて加工液36を噴射する一対のノズル(加工液供給手段,屑除去手段)38,40が、インゴット11を挟むように配置されている。このノズル38,40は、ワイヤ4の加工部4aに沿って加工液36をインゴット11に供給する。
【0036】
複数の加工部4aの下方には、それぞれクリーニングワイヤ(供給促進手段,屑除去手段)42が配置されている。このクリーニングワイヤ42は、第4ガイドローラ20の近傍に配置された円柱状の第1クリーニングガイドローラ44、及び第3ガイドローラ18の近傍に配置された円柱状の第2クリーニングガイドローラ46に巻き掛けられている。
【0037】
第1クリーニングガイドローラ44、及び第2クリーニングガイドローラ46には、モータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。この回転駆動源で、第1クリーニングガイドローラ44、及び第2クリーニングガイドローラ46を回転させれば、ワイヤ4(加工部4a)と並走するようにクリーニングワイヤ42を所定のクリーニングワイヤ送り方向に送ることができる。
【0038】
また、第1クリーニングガイドローラ44、及び第2クリーニングガイドローラ46は、それぞれ、移動ユニット(進退手段)48,50に支持されている。この移動ユニット48,50は、第1クリーニングガイドローラ44、及び第2クリーニングガイドローラ46を上下方向(加工送り方向)に移動(進退)させる。すなわち、クリーニングワイヤ42を上下方向に移動できる。
【0039】
次に、上述したワイヤ放電加工装置2を用いるインゴット11の放電加工方法について説明する。
図2は、インゴット11が放電加工される様子を模式的に示す一部断面側面図であり、
図3(A)は、インゴット11が放電加工される様子を模式的に示す一部断面側面図であり、
図3(B)は、
図3(A)の一部を拡大した拡大図である。
【0040】
本実施形態の加工方法では、まず、高周波パルス電源28からインゴット11に第1の高周波パルス電力を供給し、ワイヤ4に第1の高周波パルス電力と極性の異なる第2の高周波パルス電力を供給する。また、各ガイドローラを回転させて、
図2に示すように、ワイヤ4を所定のワイヤ送り方向に送る。
【0041】
さらに、インゴット11にワイヤ4(加工部4a)を切り込ませるように、駆動ユニット26でインゴット11を下方に移動(加工送り)させる。これにより加工液36中で絶縁状態にあるインゴット11とワイヤ4の加工部4aとが十分に近づくと、絶縁が破壊されてインゴット11と加工部4aとの間で放電が生じる。
【0042】
その結果、放電による熱でインゴット11は溶融される。また、加工液36の温度が急激に上昇して沸騰し、体積が膨張してインゴット11の溶融部分を飛散させる。このように、インゴット11及びワイヤ4に高周波パルス電力を供給しながらインゴット11を下方に移動させることで、
図3(A)に示すように、加工部4aの移動経路に対応する溝11aをインゴット11に形成できる。
【0043】
インゴット11の下方への移動は、ワイヤ4の加工部4aが基台22に僅かに切り込むまで続けられる。これにより、インゴット11を切断して複数のウェーハを切り出すことができる。
【0044】
上述のように、ワイヤ4の加工部4a及びインゴット11の一部は加工液36に浸漬しており、また、一対のノズル38,40からワイヤ4の加工部4aに沿って加工液36が噴射される。そのため、
図3(B)に示すように、加工によって生じる屑(加工屑)11bの大部分は滞留せずに除去される。
【0045】
ところが、この屑11bの一部がインゴット11とワイヤ4の加工部4aとの間に滞留することがある。特に、インゴット11(ウェーハ)を大口径化し、又は、切り出しのロスを低減するために溝11aの幅を縮小すると、屑11bの滞留はより顕著になる。
【0046】
そこで、本実施形態では、各加工部4aの下方に、ワイヤ4と並走するように送られるクリーニングワイヤ42を配置している。これにより、インゴット11を下方に移動させて溝11aを形成すると、クリーニングワイヤ42はワイヤ4の加工部4aに追従するように溝11aに進入し、溝11a内には加工液36の流れが形成される。すなわち、溝11a内への加工液36の供給が促進される。
【0047】
その結果、インゴット11とワイヤ4の加工部4aとの間に加工の屑11bが滞留するのを防止できる。なお、クリーニングワイヤ42は、移動ユニット48,50で上下方向に搖動させておくことが好ましい。
【0048】
これにより、溝11a内への加工液36の供給をさらに促進させて、屑11bの滞留をより適切に防止できる。クリーニングワイヤ42の搖動は、例えば、クリーニングワイヤ42と加工部4aとを平行に保ちながら行っても良いし、加工部4aに対してクリーニングワイヤ42を傾けるように行っても良い。
【0049】
なお、このクリーニングワイヤ42の形状等は、任意に選択、変更できる。
図4(A)は、クリーニングワイヤ42の第1例を模式的に示す側面図であり、
図4(B)は、クリーニングワイヤ42の第2例を模式的に示す側面図であり、
図4(C)は、クリーニングワイヤ42の第3例を模式的に示す断面図である。
【0050】
第1例に係るクリーニングワイヤ42aは、ピアノ線等の一般的なワイヤである。第2例に係るクリーニングワイヤ42bは、例えば、複数のワイヤを捩じって形成され、周面には凹凸を有している。第3例に係るクリーニングワイヤ42cは、例えば、一般的なワイヤの周面を凹凸加工して形成される。
【0051】
溝11a内に形成される加工液36の流れを大きくするには、第2例に係るクリーニングワイヤ42bや、第3例に係るクリーニングワイヤ42cのように、周面に凹凸を有するクリーニングワイヤ42を用いると良い。
【0052】
以上のように、本実施形態のワイヤ放電加工装置2は、インゴット11に形成される溝11aへの加工液36の供給を促進する供給促進手段として、インゴット11を下方に移動させる際(加工送りの際)にワイヤ4に追従するように溝11aに侵入し、溝11a内でワイヤ4と併走するように送られるクリーニングワイヤ42を備えるので、溝11a内へ加工液36を十分に行き渡らせて、インゴット11とワイヤ4との隙間に加工の屑11bが滞留するのを防止できる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、各ガイドローラにワイヤ4を複数回巻き掛けて、並列する複数の加工部4aを構成しているが、加工部4aは1つでも良い。
【0054】
その他、上記実施形態に係る構成、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。