特許第6350160号(P6350160)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350160
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20180625BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20180625BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C01B39/48ZAB
   B01D53/90
   B01J29/76 A
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-188780(P2014-188780)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-60660(P2016-60660A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高光 泰之
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0197519(US,A1)
【文献】 米国特許第05958370(US,A)
【文献】 特開昭61−275129(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0018379(US,A1)
【文献】 特開昭61−205615(JP,A)
【文献】 特開昭57−077015(JP,A)
【文献】 特開2011−184277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ源、アルミナ源、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン源、アルカリ源、及び水を含む組成物に、2θ=21.36±0.3°に粉末X線回折ピークを有するゼオライトを混合した後、前記組成物を結晶化する結晶化工程を含む、下表に記載の粉末X線回折ピークを有する構造を有するゼオライトの製造方法。
【表1】
【請求項2】
前記シリカ源及びアルミナ源が、結晶性アルミノシリケートであることを特徴とする請求項1に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項3】
前記シリカ源及びアルミナ源が、FAU型ゼオライトであることを特徴する請求項1又は2に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記トリエチルプロピルアンモニウムカチオン源が、トリエチルプロピルアンモニウム水酸化物、トリエチルプロピルアンモニウムブロミド、トリエチルプロピルアンモニウムクロライド、及びトリエチルプロピルアンモニウムヨージドの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記組成物が、以下のモル組成であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のゼオライトの製造方法。
SiO/Al比 =10以上、35以下
アルカリ/SiO比 =0.05以上、0.3以下
TEMPA/SiO比 =0.01以上、0.5以下
OH/SiO比 =0.1以上、0.3以下
O/SiO比 =3以上、20以下
(但し、TEMPAはトリエチルプロピルアンモニウムカチオン)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規構造を有するゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトはアルミノシリケートからなる分子篩であり、これには天然に存在するゼオライト(以下、「天然ゼオライト」とする。)と、人工的に合成されたゼオライト(以下、「合成ゼオライト」とする。)とが存在する。ゼオライトは構造の違いにより様々な特性を示す。そのため、炭化水素合成触媒、窒素酸化物還元触媒、又は石油精製触媒などの各種触媒用途や、各種吸着剤用途をはじめとする幅広い用途で、ゼオライトは使用されている。これまで、天然ゼオライトと合成ゼオライトを合わせて200種を超える構造のゼオライトが報告されている。さらに、各種用途での使用により適した特性を得るため、従来のゼオライトとは異なる構造を有する合成ゼオライトが検討されている。
【0003】
例えば、窒素酸化物還元触媒として高い性能を示し、従来とは異なる構造を有する合成ゼオライトとしてAFX型ゼオライト(SSZ−16)が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
ところで、200種を超える構造のゼオライトが報告されているにも関わらず、工業的に使用できるゼオライトは、わずか20種程度である。工業的に使用されているゼオライトは、優れた特性を有することに加え、構造指向剤を使用することなく製造できるゼオライト、又は安価な構造指向剤を使用して製造できるゼオライトである。
【0005】
例えば、MFI構造を有するゼオライトは、構造指向剤を使用せずに製造することができるため、工業的に製造され、炭化水素合成触媒等として使用されている(例えば、非特許文献2)。さらに、*BEA構造を有するゼオライトは、通常、安価なテトラエチルアンモニウム塩を構造指向剤とする製造方法により得られるため、工業的に製造され、吸着剤や窒素酸化物還元触媒として使用されている(例えば、非特許文献3)。
【0006】
このように、一部の合成ゼオライトは工業的に製造されているが、非特許文献1で報告されたAFX型ゼオライトを含め、ほとんどのゼオライトはその存在が知られているに過ぎず、工業的に使用することができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Applied Catalysis B: Environmental、第102巻、441−448頁(2011年)
【非特許文献2】小野嘉夫編「ゼオライトの化学と工学」講談社サイエンティフィク、2000年7月10日、178頁
【非特許文献3】Catalysis Letters、第130巻、525−531頁(2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで報告されている新規の構造を有する合成ゼオライトであって、触媒性能の高いものは、そのほとんどが環状4級アンモニウム塩等の高価な構造指向剤を必須とする。そのため、これらを工業的に使用するためには、安価な構造指向剤の開発、又は、全く新規の製造方法を開発する必要がある。一方、これまで実用化されているゼオライトは、より一層の触媒性能の向上が求められている。例えば、窒素酸化物還元触媒としての*BEA構造のゼオライトでは、高温高湿雰囲気下に晒された後の窒素酸化物還元率の改善、特に200℃以下の低温域における窒素酸化物還元率の改善が求められている。
【0009】
これらの課題に鑑み、本発明は、新規の構造を有し、なおかつ、工業的な製造が可能であるアルミノシリケートからなるゼオライト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、実用的な触媒特性を有する合成ゼオライト及びその工業的な製造方法について検討した。その結果、トリエチルプロピルアンモニウムカチオンを構造指向剤とすることで、新規の構造を有するゼオライトが得られること、更には、得られたゼオライトが高い窒素酸化物還元特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、シリカ源、アルミナ源、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン源、アルカリ源、及び水を含む組成物に、2θ=21.36±0.3°に粉末X線回折ピークを有するゼオライトを混合した後、前記組成物を結晶化する結晶化工程を含む、下表に記載の粉末X線回折ピークを有する構造を有するゼオライトの製造方法である。
【0012】
【表1】
【0013】
なお、本発明において、粉末X線回折ピークの回折角2θは、線源としてCuKα線(λ=1.5405Å)を用いた場合の値である。
【0014】
以下、本発明のゼオライトの製造方法について説明する。
【0015】
本発明の製造方法は、シリカ源、アルミナ源、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン(以下、「TEMPA」とする。)源、アルカリ源及び水を含む組成物(以下、「原料組成物」とする。)を結晶化する結晶化工程、を有する。
【0016】
シリカ源はケイ素(Si)を含む化合物であり、例えば、テトラエトキシラン、シリカゾル、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、無定型ケイ酸、無定形アルミノシリケート、及び結晶性アルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。工業的な製造に適しているため、本発明の製造方法におけるシリカ源はシリカゾル、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、無定型ケイ酸、無定形アルミノシリケート、及び結晶性アルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
アルミナ源はアルミニウム(Al)を含む化合物であり、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、アルミナゾル、無定形アルミノシリケート、及び結晶性アルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種が例示できる。工業的な製造に適しているため、本発明の製造方法におけるアルミナ源は硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、アルミナゾル、無定形アルミノシリケート及び結晶性アルミノシリケートの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
さらに、シリカ源及びアルミナ源は、いずれもケイ素及びアルミニウムを含む化合物、すなわちシリカアルミナ源となる化合物であることが好ましい。これにより、シリカ源及びアルミナ源を同一の化合物とすることができ、製造時の操作性がより高くなる。シリカアルミナ源として、無定形アルミノシリケート又は結晶性アルミノシリケートの少なくともいずれかを挙げることができる。
【0019】
特に原料組成物に含まれるシリカ源及びアルミナ源は、結晶性アルミノシリケート(ゼオライト)であることが好ましい。結晶性アルミノシリケートは、規則性がある構造をしている。TEMPAの存在下で結晶性アルミシリケートを処理することにより、結晶性アルミノシリケートの構造の規則性が適度に維持されながら結晶化が進行すると考えられる。そのため、シリカ源とアルミナ源が個別の化合物である場合、若しくはシリカ源及びアルミナ源が非結晶性の化合物である場合と比べ、シリカ源及びアルミナ源が結晶性アルミノシリケートであることで、ゼオライトがより効率よく結晶化して生産性が向上しやすくなる。
【0020】
目的の構造のゼオライトを得るため、結晶性アルミノシリケートはFAU型ゼオライト、更にはX型ゼオライト又はY型ゼオライトの少なくともいずれか、また更にはY型ゼオライトであることがより好ましい。原料組成物が含有する結晶性アルミノシリケートは、任意のカチオンタイプのものであればよい。原料組成物が含有する結晶性アルミノシリケートのカチオンタイプとして、ナトリウム型(Na型)、プロトン型(H型)及びアンモニウム型(NH型)の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、プロトン型であることが好ましい。
【0021】
原料組成物はTEMPA源を含む。TEMPAは構造の簡易な鎖状の4級アンモニウム塩である。環状4級アンモニウム塩及び多環環状4級アンモニウム塩とは異なり、鎖状の4級アンモニウム塩は、容易に合成することができる。中でも合成が容易、かつ、安価であるため、TEMPAは工業的な構造指向剤として適している。
【0022】
TEMPA源として、TEMPAを含む化合物、更にはTEMPAの硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物及び水酸化物の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。より具体的なTEMPA源として、トリエチルプロピルアンモニウム水酸化物(以下、「TEMPAOH」とする。)、トリエチルプロピルアンモニウムブロミド(以下、「TEMPABr」とする。)、トリエチルプロピルアンモニウムクロライド(以下、「TEMPACl」とする。)、及びトリエチルプロピルアンモニウムヨージド(以下、「TEMPAI」とする。)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。より安価な汎用製造設備を使用したゼオライトの製造ができるため、TEMPA源はTEMPAOHであることがより好ましい。
【0023】
アルカリ源は、アルカリ金属を含む水酸化物を挙げることができる。より具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムの群からなる少なくとも1種を含む水酸化物であり、更にはナトリウム又はカリウムの少なくともいずれかを含む水酸化物であり、また更にはナトリウムを含む水酸化物である。また、シリカ源及びアルミナ源がアルカリ金属を含む場合、当該アルカリ金属もアルカリ源とすることができる。
【0024】
水は純水を使用してもよいが、各原料を水溶液として使用してもよい。
【0025】
原料組成物のアルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO/Al比」とする。)は10以上、更には15以上であればよい。一方、SiO/Al比は100以下、更には50以下、また更に35以下であればよい。
【0026】
原料組成物のシリカに対するアルカリ金属カチオンのモル比(以下、「アルカリ/SiO比」とする。)は0.01以上、更には0.05以上である。一方、アルカリ/SiO比は0.5以下、更には0.3以下であればよい。
【0027】
原料組成物のシリカに対するTEMPAのモル比(以下、「TEMPA/SiO比」とする。)は0.01以上、更には0.05以上である。一方、TEMPA/SiO比は0.5以下、更には0.3以下、更には0.2以下である。
【0028】
原料組成物のシリカに対するOHのモル比(以下、「OH/SiO比」とする。)は0.5以下、更には0.3以下である。OH/SiO比が0.5以下であることで、より高い収率でゼオライトを得ることができる。通常、原料組成物のOH/SiO比は、0.1以上となる。
【0029】
原料組成物のシリカに対する水(HO)のモル比(以下、「HO/SiO比」とする。)は20以下、更には15以下であれば、より効率よくゼオライトが得られる。適度な流動性を有する原料組成物とするため、HO/SiO比は3以上、更には5以上であればよい。
【0030】
好ましい原料組成物の組成として、以下のモル組成を挙げることができる。
【0031】
SiO/Al比 =10以上、100以下
アルカリ/SiO比 =0.01以上、0.5以下
TEMPA/SiO比 =0.01以上、0.5以下
OH/SiO比 =0.1以上、0.5以下
O/SiO比 =3以上、20以下
【0032】
特に好ましい原料組成物の組成として以下のモル組成を挙げることができる。
【0033】
SiO/Al比 =10以上、35以下
アルカリ/SiO比 =0.05以上、0.3以下
TEMPA/SiO比 =0.01以上、0.3以下
OH/SiO比 =0.1以上、0.3以下
O/SiO比 =3以上、20以下
【0034】
本発明の製造方法では、原料組成物にゼオライトを混合する。当該ゼオライトは種結晶として機能する。このような種結晶として混合するゼオライト(以下、単に「種結晶」ともいう。)は、2θ=21.36±0.3°に粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)ピークを有するゼオライトであり、更には、当該ゼオライトのXRDパターンにおける2θ=9.46±0.3°のXRDピーク強度に対する2θ=21.36±0.3°のXRDピーク強度が3〜60%であるゼオライトであることが好ましく、下表に示したXRDピーク有するゼオライトがより好ましい。このようなゼオライトとして、例えば、AEI型ゼオライトを挙げることができる。種結晶を含む原料組成物が結晶化することで、前述のXRDピークを有する構造、を有するゼオライトが得られる。なお、回折角2θは、線源としてCuKα線(λ=1.5405Å)を用いた場合の値である。
【0035】
【表2】
【0036】
種結晶となるゼオライトのカチオンタイプはナトリウム型、カリウム型、アンモニウム型及びプロトン型の群から選ばれる少なくともいずれかであればよい。
【0037】
種結晶としてのゼオライトのSiO/Al比は任意であるが、原料組成物のSiO/Al比と同程度であることが挙げられ、10以上、100以下、更には10以上、35以下を例示することができる。
【0038】
種結晶の混合量は、原料組成物に含まれるシリカ及びアルミナの合計重量に対する、種結晶のシリカ及びアルミナの合計重量として0重量%を超えていればよく、更には0.1重量%以上、また更には1重量%以上であればよい。種結晶の混合量が増加するほど結晶化は促進される。種結晶の混合量は20重量%以下、更には15%以下、また更には10%以下、であれば、前述のXRDパターンを有するゼオライトが得られる。
【0039】
種結晶は原料組成物に混合すればよいが、シリカ源、アルミナ源、TEMPA源、及び水を混合するときに種結晶を混合してもよい。
【0040】
なお、原料組成物にフッ素を含む化合物が含まれると、その製造コストが高くなりやすい。そのため、原料組成物はフッ素(F)及びフッ素化合物を実質的に含んでいないこと、すなわち、フッ素含有量が0重量ppmであることが好ましい。組成分析等による測定誤差を考慮すると、原料組成物のフッ素含有量は100重量ppm以下、更には50重量ppm以下であることが挙げられる。
【0041】
結晶化工程では、上記の各原料を含む原料組成物を水熱合成することにより、これを結晶化処理する。結晶化処理は、原料組成物を密閉容器に充填し、これを加熱すればよい。
【0042】
結晶化温度は100℃以上であれば、原料組成物の結晶化が進行する。温度が高いほど、結晶化が促進される。そのため、結晶化温度は130℃以上であることが好ましい。原料組成物が結晶化すれば、必要以上に結晶化温度を高くする必要はない。そのため、結晶化温度は200℃以下、更には180℃以下、また更には160℃以下であればよい。また、結晶化は原料組成物を攪拌した状態、又は静置した状態のいずれの状態でも行うことができる。
【0043】
本発明の製造方法では、結晶化工程の後、洗浄工程、乾燥工程及びイオン交換工程の少なくともいずれか(以下、「後処理工程」とする。)を含んでいてもよい。
【0044】
洗浄工程は、結晶化後のゼオライトと液相とを固液分離する。洗浄工程は、公知の方法で固液分離をし、固相として得られるゼオライトを純水で洗浄すればよい。
【0045】
乾燥工程は、結晶化工程後又は洗浄工程後のゼオライトから水分を除去する。乾燥工程の条件は任意であるが、結晶化工程後又は洗浄工程後のゼオライトを、大気中、50℃以上、150℃以下で2時間以上、静置することが例示できる。
【0046】
結晶化後のゼオライトは、そのイオン交換サイト上にアルカリ金属イオン等の金属イオンを有する場合がある。イオン交換工程では、これをアンモニウムイオン(NH)や、プロトン(H)等の非金属カチオンにイオン交換する。アンモニウムイオンへのイオン交換は、ゼオライトを塩化アンモニウム水溶液に混合、攪拌することが挙げられる。また、プロトンへのイオン交換は、ゼオライトをアンモニアでイオン交換した後、これを焼成することが挙げられる。
【0047】
以下、本発明の製造方法で製造されるゼオライトについて説明する。
【0048】
また、本発明の方法で製造されるゼオライト(以下、「本発明のゼオライト」ともいう。)は、結晶性アルミノシリケートである。結晶性アルミノシリケートは、骨格金属(以下、「T原子」とする。)がアルミニウム(Al)とケイ素(Si)であり、これらと酸素(O)のネットワークからなる構造を有する。本発明のゼオライトは、アルミノホスフェート(AlPO)及びシリコアルミノホスフェート(SAPO)をはじめとする、T原子としてリンを含むゼオライト類縁物質や、T原子として鉄を含むフェロシリケートなど、アルミノシリケート以外の結晶性メタロシリケートとは異なる。リンを含まないことで廃液処理の工程が不要になるため、より安価に製造することができる。
【0049】
さらに、本発明のゼオライトは、下表に記載のXRDピークを有する構造を有する。
【0050】
【表3】
【0051】
一般的に、ゼオライトのXRDパターンは、非常に弱い強度のXRDピーク(以下、「微小ピーク」ともいう。)を含む。微小ピークは、測定ノイズを多く含むため、ゼオライトの構造の特定に寄与しない。本発明においては、d=9.34Åに相当するXRDピークのピーク強度に対する強度が3%未満のXRDピークを微小ピークとみなした。本発明のゼオライトの構造の特定に影響しないため、上記の表において微小ピーク、並びに、d=29Å以上、及びd=2.1Å以下に相当するXRDピーク、は示していない。
【0052】
本発明のゼオライトは上記のXRDピークによって、その構造を同定することができる。そのため、本発明のゼオライトは、実質的に上記のXRDピークからなるXRDパターンを有していてもよいが、微小ピーク以外に、構造の同定に影響しないXRDピークを含んでいてもよい。このようなピークとしては、以下のXRDピークの少なくとも1つを例示することができる。
【0053】
【表4】
【0054】
ここで、異なる構造を有するゼオライトを物理的に混合した組成物(以下、「ゼオライト混合組成物」という。)は、異なる2種以上の構造が物理的に共存したものである。ゼオライト混合組成物が本発明のゼオライトと同様なXRDピークを有する場合であっても、当該ゼオライト混合組成物は、本発明のゼオライトのXRDピークの一部のXRDピークを有する複数のゼオライトの混合物である。このようなゼオライト混合組成物は、本発明のゼオライトと構造が異なる。
【0055】
ゼオライト混合組成物であるか否かは、その粒子形態からも推測することができる。通常、ゼオライト混合組成物は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とする。)観察などにおいて、異なる形状の一次粒子が共存していることが確認できる。これに対し、本発明のゼオライトは実質的に同様な形状の一次粒子からなることがSEM観察などから確認することができる。
【0056】
本発明のゼオライトのSiO/Al比は10以上、100以下、更には10以上、35以下を挙げることができる。
【0057】
本発明のゼオライトは、アルコールやケトンからの低級オレフィン製造用触媒、クラッキング触媒、脱ろう触媒、異性化触媒、及び窒素酸化物還元触媒などの各種の触媒として使用することができる。また、酸化触媒や窒素酸化物還元触媒などの酸化還元触媒用途においては、本発明のゼオライトに遷移金属をイオン交換サイト、又は細孔の少なくともいずれかに含有させて、遷移金属を含有したゼオライト(以下、「金属含有ゼオライト」とする。)として使用することができる。
【0058】
本発明のゼオライトを金属含有ゼオライトとする場合、任意の遷移金属を含有させることができる。本発明のゼオライトを窒素酸化物還元触媒として使用する場合、含有する遷移金属は、銅(Cu)又は鉄(Fe)の少なくともいずれか、更には銅であることが好ましい。また、エタノール転換触媒として使用する場合、含有する遷移金属は、鉄(Fe)またはタングステン(W)であることが好ましい。
【0059】
銅又は鉄の少なくともいずれか、更には銅を含有する金属含有ゼオライトは、窒素酸化物還元触媒として使用することが更に好ましい。
【0060】
また、本発明のゼオライトを用いた金属含有ゼオライトは、従来の金属含有ゼオライトよりも窒素酸化物還元率が高く、特に水熱耐久処理等の高温高湿雰囲気に晒された後においてその傾向が顕著である。
【0061】
このように、高い窒素酸化物還元率と耐久性を有するため、本発明のゼオライトを含む金属含有ゼオライトは、自動車用排ガス触媒などの使用温度が変化する用途における窒素酸化物還元触媒として使用することができる。
【0062】
ここで、高温高湿雰囲気として、900℃で、10体積%のHOを含む空気を300mL/分で流通させた雰囲気を挙げることができる。当該雰囲気に晒される時間が長くなることで、ゼオライトへの熱負荷が大きくなる。一般的には高温高湿下に晒される時間が長くなるほど、脱アルミニウムをはじめとする、ゼオライトの結晶性の低下が生じやすくなる。
【0063】
金属含有ゼオライトは、本発明のゼオライトと遷移金属化合物とを接触させる金属含有工程を有する製造方法により得ることができる。
【0064】
金属含有工程においては、ゼオライトのイオン交換サイト又は細孔の少なくともいずれかに遷移金属が含有される方法であればよい。具体的な方法として、イオン交換法、蒸発乾固法及び含浸担持法の群から選ばれる少なくともいずれかを挙げることができ、含浸担持法、更には遷移金属化合物を含む水溶液とゼオライトとを混合する方法が挙げることができる。
【0065】
遷移金属化合物は、遷移金属の無機酸塩、更には遷移金属の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及び塩化物の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0066】
金属含有ゼオライトの製造においては、金属含有工程の後、洗浄工程、乾燥工程、又は活性化工程の少なくともいずれか1以上の工程を含んでいてもよい。
【0067】
洗浄工程は、金属含有ゼオライトの不純物等を除去されれば、任意の洗浄方法を用いることができる。例えば、金属含有ゼオライトを十分量の純水で洗浄することが挙げられる。
【0068】
乾燥工程は、金属含有ゼオライトの水分を除去する。金属含有ゼオライトを、大気中で、100℃以上、200℃以下で処理することが例示できる。
【0069】
活性化工程は、金属含有ゼオライトに含まれる有機物を除去する。金属含有ゼオライトを、大気中、200℃を超え、600℃以下で処理することが例示できる。
【発明の効果】
【0070】
本発明により、工業的な製造が可能であるゼオライトであって、新規の構造を有し、特に窒素酸化物還元触媒として適するもの及びその製造方法を提供することができる。
【0071】
トリエチルプロピルアンモニウムカチオンは合成の容易な4級アンモニウム塩であるため、工業的に安価に得ることができる。
【0072】
本発明の製造方法で得られたゼオライトは、窒素酸化物還元触媒などとして適している。
【0073】
さらに、本発明の製造方法において、非晶質のシリカ源及びアルミナ源を使用しないことで、より高い効率でゼオライトの結晶化をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】実施例1のゼオライトのXRDパターンである ((a)合成後のゼオライト、(b)焼成後のゼオライト)
図2】実施例1のゼオライトの走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例2のゼオライトの走査型電子顕微鏡写真である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、「比」は特に断らない限り、「モル比」である。
【0076】
(構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:MXP−3、Material Analysis and Characterization社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりとした。
【0077】
線源 :CuKα線(λ=1.5405Å)
測定範囲 :2θ=3〜43°
ステップ幅 :0.02°
計測時間 :1秒/ステップ
【0078】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)で測定した。
【0079】
得られたSi及びAlの測定値から、試料のSiO/Al比を求めた。
【0080】
実施例1
純水、水酸化ナトリウム、及び、Y型ゼオライト(カチオンタイプ:プロトン型、SiO/Al比=15)を35%TEMPAOH水溶液に添加し、これを混合して以下の組成からなる原料組成物を得た。
【0081】
SiO/Al比 =15
Na/SiO比 =0.1
TEMPA/SiO比 =0.2
OH/SiO比 =0.3
O/SiO比 =10
【0082】
得られた原料組成物に、10重量%となるように種結晶を混合した。種結晶には、AEI型ゼオライトであり、2θ=9.44°のXRDピーク強度に対する21.38°のXRDピーク強度が45%及び、SiO/Al比=19のものを使用した。
【0083】
種結晶を含む原料組成物を密閉容器内に充填し、当該密閉容器を回転することで原料組成物を撹拌しながら、原料組成物を結晶化させた。結晶化は、150℃で8日間行った。結晶化後の原料組成物は、固液分離及び純水洗浄した後に回収し、110℃で乾燥して本実施例のゼオライトとした。
【0084】
本実施例のゼオライトのXRDパターンを図1(a)及び表5に、SEM写真を図2に示した。ゼオライトのSiO/Al比は14であった。なお、表5においては、2θ=9.46°のXRDピークに対する強度(相対強度)が3%以上のXRDピークを示した。
【0085】
【表5】
【0086】
実施例2
実施例1と同様な方法によりゼオライトを得た。得られたゼオライトを、大気中、600℃で10時間焼成した後、塩化アンモニウム水溶液を用いてイオン交換して、NH型のゼオライトとし、これを本実施例のゼオライトとした。本実施例のゼオライトのXRDパターンより、当該ゼオライトは、焼成・イオン交換後も図1(a)と同一の構造を維持していることが確認できた。本実施例のゼオライトのXRDパターンを図1(b)と表6に示す。なお、表6においては、2θ=9.46°のXRDピークに対する強度(相対強度)が3%以上のXRDピークを示した。
【0087】
【表6】
【0088】
実施例3
FAU型ゼオライトとして、カチオンタイプがプロトン型であってSiO/Al比が20のY型ゼオライトを使用したこと、原料組成物を以下の組成としたこと、及び、密閉容器を回転させずに結晶化したこと以外は、実施例1と同様な方法により本実施例のゼオライトを得た。
【0089】
SiO/Al比 =20
Na/SiO比 =0.05
K/SiO比 =0.05
TEMPA/SiO比 =0.2
OH/SiO比 =0.3
O/SiO比 =10
【0090】
本実施例のゼオライトのXRDパターンを表7に、SEM写真を図3に示した。ゼオライトのSiO/Al比は18であった。なお、表7においては、2θ=9.48°のXRDピークに対する強度(相対強度)が3%以上のXRDピークを示した。
【0091】
【表7】
【0092】
実施例4
実施例3と同様な方法によりゼオライトを得た。得られたゼオライトを、実施例2と同様の方法でNH型のゼオライトとし、本実施例のゼオライトとした。本実施例のゼオライトのXRDパターンを表8に示す。なお、表8においては、2θ=9.52°のXRDピークに対する強度(相対強度)が3%以上のXRDピークを示した。
【0093】
【表8】
【0094】
比較例1
種結晶としてゼオライトを混合しなかったこと以外は実施例1と同様な方法により、結晶化、固液分離、純水洗浄、及び乾燥して本比較例のゼオライトとした。
【0095】
本比較例のゼオライトのXRDパターンを表9に示した。なお、表9においては、2θ=6.24°のXRDピークに対する強度(相対強度)が3%以上のXRDピークを示した。表9より、本比較例のゼオライトは、本発明のXRDピークを示す構造を有さないことが確認できた。さらに、本比較例のゼオライトは2θ=12.52°のピーク以外は全てY型ゼオライトに帰属されるピークを示し、原料組成物の結晶化がほとんど進行していないことが確認できた。
【0096】
【表9】
【0097】
比較例2
2θ=21.36±0.3°のXRDピークを有さないゼオライトとしてCHA型ゼオライトを種結晶として使用したこと、当該種結晶を原料組成物に混合したこと以外は実施例3と同様な方法により、結晶化、固液分離、純水洗浄、及び乾燥して本比較例のゼオライトとした。
【0098】
本比較例のゼオライトのXRDパターンを表10に示した。なお、表10においては、2θ=9.48°のXRDピークに対する強度(相対強度)が3%以上のXRDピークを示した。
【0099】
表10より、本比較例のゼオライトは表1の2θ=16.90°のXRDピーク、及び、2θ=17.22°のXRDピークを含まないことが確認できた。これより、本比較例のゼオライトは、本発明のXRDピークを示す構造を有さないことが確認できた。
【0100】
【表10】
【0101】
次に、本発明の製造方法で得られたゼオライトを金属含有ゼオライトとした。得られた金属含有ゼオライトに水熱耐久処理を施し、水熱耐久処理前後の窒素酸化物還元特性を評価した。処理条件及び評価条件は以下のとおりである。
【0102】
(水熱耐久処理)
試料をプレス成形後、凝集径12メッシュ〜20メッシュの凝集粒子とした。得られた凝集粒子3mLを常圧固定床流通式反応管に充填し、これに10体積%のHOを含む空気を300mL/分で流通させて水熱耐久処理を行った。水熱耐久処理は、900℃で1時間及び4時間のいずれかの時間で行った。
【0103】
(窒素酸化物還元率の測定)
試料の窒素酸化物還元率は、以下に示すアンモニアSCR方法により測定した。
【0104】
すなわち、試料をプレス成形した後、凝集径12〜20メッシュの凝集粒子とした。得られた凝集粒子体を1.5mL量りとり、これを反応管に充填した。その後、150℃、200℃、300℃、400℃及び500℃のいずれかの温度で、窒素酸化物を含む以下の組成からなる処理ガスを当該反応管に流通させた。処理ガスの流量は1.5L/分、及び空間速度(SV)は60,000h−1として測定を行った。
【0105】
<処理ガス組成>
NO :200ppm
NH :200ppm
:10容量%
O :3容量%
残部 :N
【0106】
反応管に流通させた処理ガス中の窒素酸化物濃度(200ppm)に対する、触媒流通後の処理ガス中の窒素酸化物濃度(ppm)を求め、以下の式に従って、窒素酸化物還元率を求めた。
【0107】
窒素酸化物還元率(%)={1−(接触後の処理ガス中の窒素酸化物濃度/接触前の処理ガス中の窒素酸化物濃度)}×100。
【0108】
実施例5
実施例4で得られたNH型ゼオライトに1.6gに硝酸銅水溶液を添加し、これを乳鉢で混合した。なお、硝酸銅水溶液は硝酸銅3水和物152mgを純水0.5gに溶解して硝酸銅水溶液を調製したものを使用した。
【0109】
混合後の試料を110℃で一晩乾燥した後、空気中、550℃で1時間焼成し、これを本実施例のゼオライトとした。得られたゼオライトの評価結果を表11に示す。
【0110】
【表11】
【0111】
参考例1
窒素酸化物還元触媒として一般的なアルミノシリケートとして、銅を担持した*BEA型ゼオライトを用意した。
【0112】
*BEA型ゼオライトに硝酸銅水溶液を添加し、これを乳鉢で混合した。混合後の試料を110℃で一晩乾燥した後、空気中、550℃で1時間焼成し、これを本参考例のゼオライトとした。得られたゼオライトの評価結果を表12に示した。
【0113】
【表12】
【0114】
測定例1
実施例5及び参考例1のゼオライトについて、水熱耐久処理を施し、水熱耐久処理前後の窒素酸化物還元特性を評価した、窒素酸化物還元特性の評価結果を表13に示す。なお、水熱耐久処理の時間は、実施例5のゼオライトについては4時間、及び、参考例1のゼオライトについては1時間とした。
【0115】
【表13】
【0116】
表13より、*BEA型ゼオライトと比べ、本発明のゼオライトは、200℃以下の低温域において、水熱耐久処理前の窒素酸化物還元率が低い。しかしながら、*BEA型ゼオライトは1時間の水熱耐久処理において、窒素酸化物還元率が大幅に低下した。これに対し、本発明のゼオライトは4時間の水熱耐久処理後であっても、200℃以下の低温域のみならず、150℃から500℃の広い範囲おいて、*BEA型ゼオライトの窒素酸化物還元率よりも高くなった。
【0117】
この結果より、本発明のゼオライトは安価な製造方法により得られることに加え、窒素酸化物還元触媒として、熱負荷のかかる条件で使用された場合であっても、優れた特性を有すること、特に熱負荷がかかった状態であっても200℃以下の低温域における窒素酸化物還元特性が高い触媒となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のゼオライトは、例えば、アルコールやケトンからの低級オレフィン製造用触媒、クラッキング触媒、脱ろう触媒、異性化触媒、及び排気ガスからの窒素酸化物還元触媒として使用することが期待できる。さらに、窒素酸化物還元触媒として使用することができる。
図1
図2
図3