(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362005
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】シルクフィブロイン水溶液、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/42 20170101AFI20180712BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20180712BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20180712BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
A61K47/42
A61K47/40
A61K47/18
A61K9/08
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-15166(P2014-15166)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140328(P2015-140328A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】397036365
【氏名又は名称】株式会社アイビー化粧品
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】亀田 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏史
(72)【発明者】
【氏名】外岡 憲明
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼ 行貴
【審査官】
佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−006746(JP,A)
【文献】
特開2010−163402(JP,A)
【文献】
Clin. Exp. Dermatol., 2012, Vol.37, No.7, pp.762-771
【文献】
J. Industrial and Engineering Chemistry, 2011, Vol.17, No.1, pp.10-13
【文献】
Chem. Pharm. Bull., 1995, Vol.43, No.5, pp.872-876
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量シルクフィブロイン水溶液と、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の1種又は2種以上と、有効成分とを含む、液剤である、経皮吸収用剤。
【請求項2】
前記シクロデキストリンは、HP-β-CDである、請求項1に記載の経皮吸収用剤。
【請求項3】
グアニジノ基含有化合物をさらに含む、請求項1又は2に記載の経皮吸収用剤。
【請求項4】
前記グアニジノ基含有化合物は、アルギニン、アミノグアニジン、又はグアニジノ基導入アミノ酸である、請求項3に記載の経皮吸収用剤。
【請求項5】
化粧料、薬用化粧料、治療薬、医薬部外品、又は外用薬である、請求項1乃至4のいずれかに記載の経皮吸収用剤。
【請求項6】
高分子量シルクフィブロイン水溶液と、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の1種又は2種以上と、有効成分と、を混合する工程を含む、液剤である、経皮吸収用剤の生産方法。
【請求項7】
グアニジノ基含有化合物を混合する工程を更に含む、請求項6に記載の生産方法。
【請求項8】
高分子量シルクフィブロイン水溶液と、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の1種又は2種以上とを含む、液剤である、経皮吸収用剤のための基材。
【請求項9】
グアニジノ基含有化合物を更に含む、請求項8に記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリン(CD)等の環状化合物は、化粧品や治療薬等に含まれる有効成分の「徐放性能」を促進させる成分として一般的に使用されている。環状化合物が徐放性能を促進させるメカニズムは、典型的には、環状化合物が低分子の有効成分を包摂して、その後、包摂物質を徐々に放出していくことに因る。また、環状化合物は有効成分を包摂できることから、難水溶性の有効成分を水中で安定に維持させるためにも使用されている。環状化合物を利用した化粧品や治療薬は、例えば、特許文献1〜3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-227517
【特許文献2】特表2008-514198
【特許文献3】特開2005-22975
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、環状化合物は有効成分の徐放性を向上させる効果はあるが、徐放後の有効成分の経皮吸収性を促進させる効果はない。つまり、化粧品や治療薬等に環状化合物だけを配合した場合、有効成分の徐放効果は期待できるものの、経皮吸収を促進させる効果は望めない。このことから、上記特許文献1〜3では、有効成分が溶けた環状化合物水溶液に、高い経皮吸収能を付与させることができなかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、有効成分の徐放性と経皮吸収性に優れた経皮吸収用剤を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、後述する実施例に記載の通り、環状化合物を含有する薬剤水溶液に高分子量シルクフィブロインを添加すると、薬剤の経皮吸収性が向上することを見いだし、その結果に基づき本発明を完成するに至った。またこのとき、グアニジノ基含有化合物をさらに添加すると、混合溶液の水溶液状態が長期間維持できていた。
【0007】
即ち、本発明の一態様によれば、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分とを含む、経皮吸収用剤が提供される。
【0008】
また本発明の一態様によれば、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分と、を混合する工程を含む、経皮吸収用剤の生産方法が提供される。
【0009】
また本発明の一態様によれば、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物とを含む、経皮吸収用剤のための基材が提供される。
【0010】
また本発明の一態様によれば、上記環状化合物は、環状オリゴ糖、又は有効成分包摂用環状化合物であってもよい。また本発明の一態様によれば、上記環状化合物は、シクロデキストリン、又はシクロデキストリン誘導体の1種又は2種以上であってもよい。また本発明の一態様によれば、上記経皮吸収用剤は、グアニジノ基含有化合物をさらに含んでいてもよい。また本発明の一態様によれば、上記経皮吸収用剤は、化粧料、薬用化粧料、治療薬、医薬部外品、又は外用薬であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有効成分の徐放性と経皮吸収性に優れた経皮吸収用剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、低分子フィブロイン水溶液及び高分子フィブロイン水溶液を、SDS-PAGEに供した結果を示した図である。
【
図2】
図2は、7-メトキシクマリンをHPLC測定した結果である。
【
図3】
図3は、フィブロインをHPLC測定した結果である。
【
図4】
図4は、グリシンをHPLC測定した結果である。
【
図5】
図5は、アラニンをHPLC測定した結果である。
【
図6】
図6は、HPLC測定の結果の概要を示した表である。
【
図7】
図7は、高分子量シルクフィブロインを含有する試料溶液について、経皮吸収試験を行った結果を示した図である。
【
図8】
図8は、低分子量シルクフィブロインを含有する試料溶液について、経皮吸収試験を行った結果を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0014】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分とを含む、経皮吸収用剤である。この経皮吸収用剤は、後述の実施例に記載のように、有効成分の経皮吸収性に優れている。またこの経皮吸収用剤は、環状化合物が有効成分を包摂することによって、難水溶性の有効成分を水中で安定に維持させることができる。またこの経皮吸収用剤は、有効成分を徐放することができる。
【0015】
本発明の一実施形態において「シルクフィブロイン」は、繭から精製可能な繊維状蛋白質の1種を含む。シルクフィブロインの精製は、例えば、WO2006/101223に記載の方法で行ってもよい。シルクフィブロインは典型的には、グリシン、アラニン、セリン、チロシンの割合が高いという特徴を持っている。シルクフィブロインは、例えば、チョウ目、蜂目、又はクモ目に分類される生物由来のシルクフィブロインであってもよい。繭は、例えば、巣から得ることができる。シルクフィブロインは、遺伝子組換え技術によって得られたシルクフィブロインであってもよい。シルクフィブロインのGenBank Accession No.は、例えば、AF226688.1であってもよい。
【0016】
チョウ目は、下位分類として、例えば、カイコガ科、カレハガ科、オビガ科、イボタガ科、ヤママユガ科を含む。またカイコガ科は、下位分類として、例えば、カイコガ属を挙げることができる。カイコガ属としては、例えば、カイコガ、クワコを挙げることができる。なお、本発明の一実施形態において「蚕」は、カイコガ科に分類される生物であってもよい。また蚕は、例えば、遺伝子組換え蚕、家蚕、セリシン蚕、又は野蚕であってもよい。シルクフィブロインは、経皮吸収用剤の経皮吸収能を上げる観点からは、カイコガ科由来が好ましく、カイコガ属由来であることがより好ましい。
【0017】
蜂目は、下位分類として、例えば、ハナバチ科、スズメバチ科、アリ科を含む。またスズメバチ科は、下位分類として、例えば、スズメバチ属、クロスズメバチ属、ホオナガスズメバチ属、又はヤミスズメバチ属を含む。スズメバチ属は、下位分類として、例えば、キイロスズメバチ、オオスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、チャイロスズメバチ、ツマグロスズメバチを含む。
【0018】
クモ目は、下位分類として、例えば、トタテグモ科群、ジョウゴグモ科群、単性域類、古篩板類、完性域類、無篩板類を含む。無篩板類は、下位分類として、例えば、ニワオニグモ、ナガコガネグモを含む。
【0019】
本発明の一実施形態において「高分子量シルクフィブロイン」の分子量は、例えば、15、20、25、37、50、75、100、150、200、250、300、400、又は500kDa以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この分子量は、経皮吸収用剤の経皮吸収能を上げる観点からは、25kDa以上が好ましく、35kDa以上がより好ましく、50kDa以上が最も好ましい。分子量の評価は、例えば、非還元SDS-PAGEに精製サンプルを供し、最も強いバンドが見られた領域の分子量に基づいて評価してもよい。その他、例えば、密度勾配超遠心分離法、ゲル濾過クロマトグラフィー、又はMS-MS法で評価してもよい。本発明の一実施形態において「低分子量シルクフィブロイン」は、例えば、低分子化され、水溶解性が高められたシルクフィブロイン(例えば、低分子化されたシルク蛋白質分解ペプチド、加水分解シルク、又はシルクエキス)であってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において「環状化合物」は、内部に有効成分等の成分を包接可能な空孔を有していてもよい。空孔内部は、疎水性の分子を包接し易くするために疎水性となっていることが望ましい。環状化合物の空孔の内径は、例えば、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.2、又は1.5nm以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また環状化合物は、有効成分を徐放性可能な環状化合物を含む。環状化合物は、有効成分等の成分を包摂可能であれば特に限定されず、例えば、環状オリゴ糖、又は有効成分包摂用環状化合物であってもよい。環状オリゴ糖、又は有効成分包摂用環状化合物は、例えば、シクロデキストリン、又はシクロデキストリン誘導体であってもよい。環状オリゴ糖、又は有効成分包摂用環状化合物に含まれる糖の数は、有効成分を包摂可能であれば特に限定されず、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12個であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。環状化合物は、経皮吸収用剤の経皮吸収能を上げる観点からは、シクロデキストリン、又はシクロデキストリン誘導体の1種又は2種以上で有ることが好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態において「シクロデキストリン(CD)」は、環状オリゴ糖の一種である。CDは、例えば、D-グルコースが α-1,4グルコシド結合によって結合したものを含み、α-CD、β- CD、γ- CD、又はHP-β-CD等を含む。CDは、経皮吸収用剤の経皮吸収能を上げる観点、又は経皮吸収用剤の固化を抑制する観点からは、HP-β-CDが好ましい。CDに含まれる糖の数は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12個であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。CDは、化学修飾型又は非修飾型の形態であってもよく、多量体を形成していてもよい。CDは、例えば、グリコシル化、マルトシル化、メチル化、ヒドロキシアルキル化、アシル化、イオン化、硫酸化、リン酸化CDであってもよい。メチル化CDは、例えば、2,6-di-O-methyl-α, β, γ-CD、又は2,3,6-tri-O-methyl-α, β, γ-CDであってもよい。ヒドロキシアルキル化CDは、例えば、2-hydroxyethyl-α, β, γ-CD、2-hydroxypropyl-α, β, γ-CD、3-hydroxypropyl-α, β, γ-CD、又は2,3-hydroxypropyl-α, β, γ-CDであってもよい。アルキル化CDは、例えば、2,6-di-O-ethyl-α, β, γ-CD、又は2,3,6-tri-O-ethyl-α, β, γ-CDであってもよい。アシル化CDは、例えば、2,3,6-tri-O-acyl-α, β, γ-CDであってもよい。イオン化CDは、例えば、O-carboxylmethyl-O-ethyl-α, β, γ-CDであってもよい。CDは、例えば、デンプンにシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることによって得てもよい。CDは、和光純薬工業(株)等の会社から購入してもよい。本発明の一実施形態において「シクロデキストリン誘導体」は、有効成分等の成分を包摂可能であれば特に限定されない。
【0022】
本発明の一実施形態において「有効成分」は、例えば、化粧料、薬用化粧料、治療薬、医薬部外品、又は外用薬等に含まれる成分のうち生理活性を示す成分を含む。有効成分は、例えば、美白化成分、美肌化成分、整肌成分、抗酸化成分、抗紫外線成分、抗しみ成分、抗しわ成分、抗たるみ成分、抗乾燥成分、抗くすみ成分、抗色素沈着成分、抗ニキビ成分、抗狭心症成分、抗疼痛成分、抗認知症成分、抗パーキンソン病成分等であってもよい。有効成分は、疎水性であってもよく、低子化合物又は高分子化合物であってもよい。有効成分が低分子化合物の場合、その分子量は、例えば、50、100、150、200、300、500、1000、2500、5000、10000以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。さらに、経皮吸収性の観点からは 2000以下が好ましく、さらには1000以下が好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態において経皮吸収用剤の「剤型」は、例えば、貼付剤、塗布剤、液剤、懸濁剤、噴霧剤、又はエアロゾル剤等であってもよい。経皮吸収剤において、高分子量シルクフィブロインの濃度は、例えば、0.001、0.01、0.05、0.1、0.5、1,1.5、2、2.5、3、5、7.5、10、又は50%(w/w)以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この濃度は、経皮吸収用剤の経皮吸収能を上げる観点からは、0.1〜5.0%(w/w)が好ましく、0.5〜3%(w/w)がより好ましい。経皮吸収剤において、環状化合物の濃度は、例えば、1、10、15、50、100、150、200、250、300、350、400、又は500mM以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この濃度は、経皮吸収用剤の徐放能を上げる観点、又は有効成分の水安定化能を上げる観点からは、100〜300mMが好ましく、120〜250mMがより好ましい。経皮吸収剤において、有効成分の濃度は、例えば、0.1、0.5、1、5、10、25、50、又は100mM以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。経皮吸収用剤のpHは、例えば、3、4、5、6、7、8、又は9であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。pHは、経皮吸収用剤の水溶液状態を長期間維持させ、且つ加水分解を抑制する観点からは、4〜8が好ましい。また経皮吸収剤は、長期間保存可能な経皮吸収剤であってもよい。この保存期間は、例えば、10、30、60、又は90日以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。経皮吸収剤の保存温度は、例えば、40℃以下が好ましい。この温度は、例えば、0、5、10、15、20、25、30、35、又は40℃であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態に係る経皮吸収用剤は、経皮吸収用剤の固化を抑制する観点、又は経皮吸収用剤の水溶液状態を長期間維持する観点からは、グアニジノ基含有化合物を含有していることが好ましい。グアニジノ基含有化合物は、例えば、アルギニン、アミノグアニジン、又はグアニジノ基導入アミノ酸等であってもよい。経皮吸収剤中のグアニジノ基含有化合物の濃度は、例えば、1、10、50、80、100、120、150、200、又は300、500mM、以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この濃度は、経皮吸収用剤の固化を抑制する観点、又は経皮吸収用剤の水溶液状態を長期間維持する観点からは、80〜120mMが好ましく、90〜110mMがより好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分と、を混合する工程を含む、経皮吸収用剤の生産方法である。この生産方法によれば、有効成分の経皮吸収性に優れた経皮吸収用剤を生産できる。
【0026】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分と、を混合する工程を経て得られる、経皮吸収用剤である。この経皮吸収用剤は、有効成分の経皮吸収性に優れている。
【0027】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物とを含む、経皮吸収用剤のための基材である。この基材は、有効成分の経皮吸収を補助するために使用できる。
【0028】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、有効成分包摂環状化合物とを含む、経皮吸収用剤である。この経皮吸収用剤は、有効成分の経皮吸収性に優れている。有効成分包摂環状化合物は、環状化合物水溶液に有効成分を混合することで製造してもよい。
【0029】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロイン水溶液と、環状化合物と、有効成分とを含む、経皮吸収用剤である。この経皮吸収用剤は、有効成分の経皮吸収性に優れている。本発明の一実施形態において「高分子量シルクフィブロイン水溶液」は、高分子量シルクフィブロインを主原料として含有する水溶液である。
【0030】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分とを含む、組成物である。この組成物は、有効成分の経皮吸収性に優れている。またこの組成物は、環状化合物が有効成分を包摂することによって、難水溶性の有効成分を水中で安定に維持させることができる。またこの組成物は、有効成分を徐放することができる。またこの組成物は、例えば、グアニジノ基含有化合物を含んでもよい。
【0031】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物とを含む、組成物である。この組成物は、有効成分の経皮吸収を補助するために使用できる。
【0032】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分とを含む組成物を、患者の経皮に投与する工程を含む、疾患の治療方法である。
【0033】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分とを含む組成物を、哺乳類の経皮に投与する工程を含む、症状の改善又は予防方法である。症状は、例えば、しみ、しわ、たるみ、乾燥、くすみ、色素沈着、及びニキビからなる群から選ばれる1種以上であってもよい。
【0034】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分とを含む組成物を、ヒトの経皮に投与する工程を含む、美容方法である。
【0035】
本発明の一実施形態は、経皮投与に使用するための、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物とを含む、組成物である。経皮投与は、例えば、貼付、又は塗布等の投与形態を含む。塗布は、液体塗布、クリーム塗布、噴霧、又はエアロゾル等の投与形態を含む。
【0036】
本発明の一実施形態は、高分子量シルクフィブロイン及び環状化合物を含む組成物と、有効成分とを混合する工程を含む、経皮吸収用剤の生産方法である。この生産方法によれば、有効成分の経皮吸収性に優れた経皮吸収用剤を生産できる。
【0037】
本発明の一実施形態は、経皮吸収用剤を生産するための、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物と、有効成分とを含む組成物の使用である。本発明の一実施形態は、経皮吸収用剤を生産するための、高分子量シルクフィブロインと、環状化合物とを含む組成物の使用である。
【0038】
本発明の一実施形態において「剤」は、機能性を有する組成物であれば特に限定されず、例えば、化粧料、薬用化粧料、治療薬、医薬部外品、又は外用薬を含む概念である。この剤は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む組成物であってもよい。剤は、例えば、有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体又は液体(例えば、緩衝液)であってもよい。剤の投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.01〜10000mg/kg体重であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1〜30日に1回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、対象者の年齢や体重、症状、対象部位等により、適宜選択してもよい。また剤は、美容有効量、治療有効量、又は所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態において「美容」は、容姿を美しくすることを含み、例えば、美白化、美肌化、整肌、抗酸化、抗紫外線、抗しみ、抗しわ、抗たるみ、抗乾燥、抗くすみ、抗色素沈着、又は抗ニキビ等の作用を含む。
【0040】
本発明の一実施形態において「治療」は、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。
【0041】
本発明の一実施形態において「患者」は、ヒト、又はヒトを除く哺乳類(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、又はチンパンジー等の1種以上)を含む。
【0042】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0043】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>有効成分の経皮吸収性の評価
下記(1)〜(2)の手順で、有効成分を包摂したシクロデキストリン(CD)水溶液について、有効成分の皮膚透過量を測定した。また、さらに高分子量シルクフィブロインを添加した場合、及び低分子量シルクフィブロインを添加した場合の、有効成分の皮膚透過量を測定した。
【0046】
(1) 混合溶液の調製
表1及び2に示す成分組成比の、コントロール及び試料溶液A〜Fを調製した。2%高分子量シルクフィブロイン水溶液は、以下の手順で調製した。まず、精錬によって家蚕繭からセリシンを除いて得られたシルクフィブロインを、2.0g当たり20mLの臭化リチウム水溶液に浸し、37℃で1時間振とうして完全に溶解させた。この溶液をセルロースチューブの中に入れて縛り、60℃の純水中で脱塩(透析)処理を行った。十分に透析を行った後、透析後水溶液を回収し、全体が100mLになるまで純水を加えて2%水溶液とした。最後に、容器のフタを閉めた後、60℃雰囲気中で30分間以上放置した。
【0047】
比較のために作製した2%低分子量フィブロイン水溶液は、2%高分子量シルクフィブロイン水溶液に対して132℃ 240分のオートクレーブ処理を行うことで調製した。また、2%低分子フィブロイン水溶液及び2%高分子量フィブロイン水溶液をSDS-PAGEに供し、上記のオートクレーブ処理によって高分子量フィブロインが低分子化したことを確認した(
図1、それぞれレーン2-4、5-9)。なお、表1及び2中の7-メトキシクマリン(ACROS ORGANICS社、MW179.17)(終濃度11.94mM)は美白効果を有する有効成分であり、アルギニン(終濃度100mM)は後述の実施例2において水溶液の固化抑制効果が示唆された成分である。HP-β-CD(終濃度150mM)は、日本食品化工(株)から購入したものを使用した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(2) 経皮吸収実験
経皮吸収試験にはフランツ型セルを用いた。レシーバー側に精製水を満たし、ウォータージャケットに32.5℃の水を還流させ、スターラーにより撹拌状態に保った。フランツ型セルに皮膜を装着し、ドナー側にコントロール及び試料溶液A〜Fを1mL適用した。このとき、皮膜にはヘアレスラット(オス、10週齢、腹部)の皮膚を使用した。その後、レシーバー液を1時間ごとサンプリングし、7-メトキシクマリンの透過量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて定量した。皮膚の単位面積当たりの累積透過濃量(μg/cm
2)を透過時間(h)に対してプロットした(
図7)。
・高速液体クロマトグラフー条件
カラム: ODS 粒径5μm、内径4.6mm、長さ150mm
カラム温度: 40℃
移動相: 水/アセトニトリル混液(6:4)
流量: 1.0mL/分
注入量: 20μL
測定波長: 325nm
【0051】
なお、上記と同じ条件において、フィブロイン及びグリシン、アラニンをHPLC測定した場合に、7-メトキシクマリンと同じリテンションタイムにピークが検出されないことは確認済みである(
図2-6)。また、本実施例では、フィブロインのUV吸収がほとんどゼロに近い325nmでのUV吸収によって定量評価した。
【0052】
図7の結果から、ある測定時間における7-メトキシクマリンの透過量は試料中に含まれる高分子量フィブロインの濃度が増加することによって増加することが確認された。つまり、高分子量フィブロインの添加が経皮吸収性の促進に寄与していることを示唆している。さらに、比較のためにオートクレーブによる加熱分解で低分子化したフィブロイン水溶液を用いて同様の実験を行ったところ(
図8)、7-メトキシクマリンの透過量はフィブロイン濃度に関係なく一定であった。すなわち、低分子量フィブロインでは経皮吸収性の促進効果が見られないことを示唆している。以上のことから、7-メトキシクマリンの経皮吸収性は、フィブロインが高分子である場合にのみ見られる現象であることが分った。つまり、経皮吸収性の促進にはフィブロインが高分子である必要がある。
【0053】
<実施例2>水溶液状態の評価
(1) 固化までの日数計測
高分子量シルクフィブロインが溶解した水溶液は、長期間放置後に固化(ゲル化又は沈殿)することがある。実施例2の(1)では、CDと高分子量シルクフィブロインとを含有する水溶液を40℃中で放置したときの固化までの日数を計測した。このとき、CDにはα型、β型、γ型、又はヒドロキシプロピル基(HP)を側鎖に持つβ型の4種類を使用した。以下では、それぞれのシクロデキストリンをα-CD,β-CD,γ-CDおよびHP-β-CDと略す。β-CDは飽和溶解度が低いため、15mMの濃度までしか試すことができなかった。一方、α-CD,γ-CDおよびHP-β-CDは100mM以上の濃度にて試験を行った。
また、CDと高分子量シルクフィブロインとを含有する水溶液は、放置前に、希塩酸でpH5.0に調製した。また、高分子量シルクフィブロインの濃度は、混合溶液中の終濃度が1%(w/w)となるように調製した。また、アルギニン、尿素、アミノグアニジン、又はリシンをそれぞれ100mM添加、又は非添加の条件で行った。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3の結果、CDと高分子量シルクフィブロインとを含有する水溶液は、HP-β-CDを使用した場合に最も水溶液状態を長期間維持していた。また、アルギニン又はアミノグアニジン(グアニジノ基含有化合物)を添加した場合、非添加の場合に比べて、固化までの日数が延長していた。また、リシンを加えたことによる効果は認められなかった。また、添加物を加えなかった場合でも、少なくとも9日間は水溶液状態を維持していた。
【0056】
特に、CDにHP-β-CDを使用し、アルギニン又はアミノグアニジンを添加した系では、90日経過した時点でも水溶液状態を維持していた。これは、最も早く固化したα-CDと尿素の組合わせの系(3日間)に比べて、固化までの日数が30倍以上延長したことを示している。
【0057】
また表3の結果から、表1の試料溶液A〜Cは、40℃の環境下で90日以上放置された後でも、有効成分の徐放効果と、高効率な経皮吸収性能を有する水溶液ということができる。
【0058】
(2) CDの影響
上記(1)と同様の手順において、CD濃度を0、10、15、100、又は150mMの各濃度に設定し、添加物を加えずに固化までの日数を計測した。このとき、タカジアスターゼの存在下、又は非存在下で行った。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4の(i)は、CDと1%高分子量シルクフィブロインとを含有する水溶液を40℃で放置した場合の結果である。(ii)は、(i)の条件に対して、実験開始後6-7日後にタカジアスターゼ酢酸緩衝液(pH5.0)を添加した場合の結果である。タカジアスターゼは、シクロデキストリンを分解する酵素である。予備試験で、タカジアスターゼが、50mMの塩化カルシウムを含有するpH5の酢酸酸性水溶液中で効果的な分解活性を示すことを確認済である。表中の「-」は未実施を意味している。
【0061】
以上の実施例で使用した溶液は、以下の手順で調製した。
(A) pH5.0酢酸緩衝液(50mM CaCl
2)
1) 0.1M酢酸: 酢酸5.8mLを水で1Lに希釈。
2) 0.1M酢酸Na: 酢酸Na(無水)8.2gを水で1Lに希釈。
3) 0.1M酢酸と0.1M酢酸Naを次の比率で混合。
0.1M酢酸/0.1M酢酸Na=14.8mL/35.2mL
4) 塩化カルシウム0.11098gを加え、溶解(塩化カルシウムは酵素反応を安定化するために添加)。
5) 全量を100MLに調製。
【0062】
(B) タカジアスターゼ酢酸緩衝液(pH5.0)
タカジアスターゼ0.1gに対し、pH5.0酢酸緩衝液を加えて、20mLに調製する。40℃の水浴中で約30分放置する。それを濾過し、不溶物を取り除いた濾液をタカジアスターゼ水溶液(酵素液)とする。
【0063】
(C) 希塩酸
塩酸1mLを精製水で約300倍希釈に希釈する。
【0064】
以上の実施例で使用した試薬のメーカーと規格を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
表4の結果、CDを添加すると、非添加のときに比べて、高分子シルクフィブロイン水溶液の固化までの日数が増加していた。特に、HP-β-CDの効果が大きく、添加によって固化までの日数は大幅に増加した。しかも、酵素反応によってシクロデキストリンを分解すると、短時間で固化したことから、シクロデキストリンが固化抑制に寄与していることは明瞭である。
【0067】
(3) 温度の影響
上記(1)と同様の手順において、放置温度を25℃又は0℃に、CD濃度を0、10、15、100、又は150mMの各濃度に設定し、添加物を加えずに固化までの日数を計測した。結果を表6及び7に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
放置温度が低くなると、固化までに要する日数が大幅に長くなっていることが分かる。この結果から、40℃よりも低い温度では、40℃で観察された固化までの日数以上の間、水溶液として安定に存在できることになる。
【0071】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。