特許第6364038号(P6364038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6364038エピラム化剤でコーティングされた表面を含む基板およびこのような基板のエピラム化のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6364038
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】エピラム化剤でコーティングされた表面を含む基板およびこのような基板のエピラム化のための方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20180712BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180712BHJP
   G04B 31/08 20060101ALI20180712BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C08F293/00
   B32B27/30 A
   G04B31/08 Z
   A44C27/00
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-53417(P2016-53417)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2016-188358(P2016-188358A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2016年4月6日
(31)【優先権主張番号】15159582.4
(32)【優先日】2015年3月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ルトンドール
(72)【発明者】
【氏名】クレール・ラヌー
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−079389(JP,A)
【文献】 特開2016−138243(JP,A)
【文献】 特開2016−121239(JP,A)
【文献】 特表2014−513174(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0098926(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/113646(WO,A1)
【文献】 特開2007−284644(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/009058(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/116153(WO,A1)
【文献】 特開2002−266257(JP,A)
【文献】 特開平10−130348(JP,A)
【文献】 特表2009−520074(JP,A)
【文献】 特開2002−105152(JP,A)
【文献】 特開2007−246600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6−246,251−289,293−297
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がエピラム化剤でコーティングされた表面を含む基板であって、前記エピラム化剤は、少なくとも1種類の化合物を、主鎖による共有結合により連結されたM単位の少なくとも1つのブロックと主鎖による共有結合により連結されたN単位の少なくとも1つのブロックとを含むブロックコポリマーの形態で含み、前記ブロックは直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されており、ここで、
【化1】
式中、R1、R2は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1−C10アルキル基、C1−C10アルケニル基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、M単位のブロックは、二つの異なるAアンカー部分を含み、その一つがチオエーテルでありもう一つがアルコキシシランであり、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、フッ素化C1−C20炭素部分であることを特徴とする、基板。
【請求項2】
1、R2は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3基である、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、C1−C20エステル基、アミド基、およびスチレン誘導体基を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、C2−C10エステル基である、請求項3に記載の基板。
【請求項5】
前記M単位のブロックは少なくとも2つの異なるAアンカー部分を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板。
【請求項6】
LはC2−C20炭素部分であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板。
【請求項7】
LはC4−C10炭素部分である、請求項6に記載の基板。
【請求項8】
少なくとも一部がエピラム化剤でコーティングされた表面は、金属、金属酸化物、ポリマー、サファイア、ルビー、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ダイヤモンドライクカーボン、およびそれらの合金からなる群から選択される材料から製造されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板。
【請求項9】
基板表面の少なくとも1つの部分のエピラム化のための方法であって、
a)請求項1〜8のいずれか一項に定義されるエピラム化剤を調製する工程;
b)任意選択により前記基板表面を準備する工程;
c)前記基板表面をエピラム化剤と接触させる工程;
d)乾燥させる工程
を含む、方法。
【請求項10】
前記エピラム化剤の調製は、少なくとも1つのM単位のブロックを形成し得るモノマーと少なくとも1つのN単位のブロックを形成し得るモノマーのブロック共重合により達成されることを特徴とする、請求項に記載のエピラム化法。
【請求項11】
前記モノマーはアクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルおよびスチレンモノマーを含む群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載のエピラム化法。
【請求項12】
基板表面の少なくとも1つの部分のためのエピラム化剤としての、主鎖による共有結合により連結されたM単位の少なくとも1つのブロック、主鎖による共有結合により連結されたN単位の少なくとも1つのブロックを含み、前記ブロックは直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されているブロックコポリマーの使用であって、ここで、
【化2】
式中、R1、R2、同じであっても異なっていてもよく、H、C1−C10アルキル基、C1−C10アルケニル基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、M単位のブロックは、二つの異なるAアンカー部分を含み、その1つがチオエーテルでありもう一つがアルコキシシランであり、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、フッ素化C1−C20炭素部分である
使用。
【請求項13】
1、R2は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3基である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の基板を含む部材を含む時計または装身具部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械学、特に、時計製作法または装身具の分野に関する。本発明は、より詳しくは、基板、特に、エピラム化剤で少なくとも部分的にコーティングされた表面を含む時計または装身具の部品の部材のための基板に関する。本発明はまた、このような基板、およびこのような基板を含む部材を含む時計または装身具の部品にエピラム化を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面状態を、ある特定の表面特性を特異的に改良するための適当な薬剤を用いた処理により改質するためには様々な方法がある。例えば、機械学の分野、特に、時計製作法の分野、また、装身具の分野では、部品または部材の表面は、使用中に前記表面の表面エネルギーを制御および低減するために、エピラム化剤を用いてエピラム化が行われる場合が多い。より具体的には、エピラム化剤の目的は、処理済み表面の所定の場所に潤滑油を残存させることができる疎水性かつ疎油性の表面を形成させることにより時計または装身具部品の部材上のオイルまたは潤滑油の展延を防ぐことである。
【0003】
しかしながら、エピラム化に現行使用されている物質には様々な欠点がある。より具体的には、Moebius(登録商標)Fixodrop(登録商標)FK/BSまたは3M(商標)Fluorad(商標)種などの既知のエピラムエピラム化剤は、時計メーカーの洗浄操作に対する耐性が不十分である。特許文献1は、カテコール鎖末端官能基を有するエピラムエピラム化剤の使用を提案することによりこの問題をある程度解決するものであり、このカテコール官能基には基板の表面への固着能がある。しかしながら、時計メーカーの洗浄操作に対するこれらのエピラム化剤の耐性は、全ての基板に対して向上しているわけではなく、特に、時計製作法および装身具の分野で汎用性の高い基板である金およびスチールがそうである。従って、既知のエピラム化剤の使用は一般に特定の材料に限定され、このためユーザーは被処理表面の性質に応じて利用可能な様々なタイプのエピラム化剤を保持する必要がある。この問題を克服するための1つの解決策は例えば、特許文献2に開示されている。この解決策は、エピラム化組成物に、相乗作用が基板に対するエピラムの接着を促進するタイプの異なる化合物(チオール化合物およびビホスホン酸化合物)の混合物を使用することからなる。しかしながら、これらの各化合物の合成には少なくとも4工程が必要であり、従って、エピラム化組成物全体を合成する方法は時間がかかり、複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第2012/0088099号明細書
【特許文献2】国際公開第2012/085130号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、既知のエピラム化剤の様々な欠点を克服することである。
【0006】
より具体的には、本発明の目的は、既知のエピラム化剤に比べて洗浄耐性が増強されたエピラム化剤を提供することである。
【0007】
本発明の目的はまた、いずれのタイプの材料にも使用可能な万能エピラム化剤を提供することである。
【0008】
本発明の目的はまた、数工程で製造が簡単なエピラム化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的で、本発明は、少なくとも一部がエピラム化剤でコーティングされた表面を含む基板に関する。
【0010】
本発明によれば、前記エピラム化剤は少なくとも1種類の化合物を、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのM単位のブロックと、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのN単位のブロックとを含み、前記ブロックは直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されているブロックコポリマーの形態で含み、ここで、
【0011】
【化1】
【0012】
式中、R1、R2は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1−C10アルキル基、C1−C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環、カルボン酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1−C20炭素部分である。
【0013】
このようなエピラム化剤は洗浄耐性が改善され、万能性を備え、いずれのタイプの材料にも使用可能となる。
【0014】
本発明はまた、基板表面の少なくとも1つの部分のエピラム化のための方法であって、
a)上記で定義される少なくとも1つのブロックコポリマーを含むエピラム化剤を調製する工程;
b)任意選択により基板表面を準備する工程;
c)基板表面をエピラム化剤と接触させる工程;
d)乾燥させる工程
を含む方法に関する。
【0015】
本発明はまた、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのM単位のブロックと、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのN単位のブロックとを含み、前記ブロックは直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されているブロックコポリマーに関し、ここで、
【0016】
【化2】
【0017】
式中、R1、R2は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1−C10アルキル基、C1−C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環、カルボン酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1−C20炭素部分であり、
ただし、以下のコポリマーは除く。
【0018】
【化3】
【0019】
本発明はまた、特に時計または装身具を意図した基板表面の少なくとも1つの部分のためのエピラム化剤としての、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのM単位のブロックと主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのN単位のブロックを含み、M単位のブロックとN単位のブロックのうち少なくとも一方は、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのP単位を任意選択により含み、前記ブロックは直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されているブロックコポリマーの使用に関し、ここで、
【0020】
【化4】
【0021】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1−C10アルキル基、C1−C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環、カルボン酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1−C20炭素部分であり、
4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽和炭化水素鎖である。
【0022】
本発明はまた、上記で定義される基板を含む部材を備えた時計または装身具部品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によれば、基板、特に、時計または装身具部品の部材の基板は、少なくとも一部がエピラム化剤でコーティングされた表面を有し、前記エピラム化剤は、少なくとも1種類の化合物を、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのM単位のブロックと主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのN単位のブロックを含むブロックコポリマーの形態で含み、M単位のブロックとN単位のブロックのうち少なくとも一方は、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのP単位を任意選択により含み、前記ブロックは直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されており、ここで、
【0024】
【化5】
【0025】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1−C10アルキル基、C1−C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環(例えばイミダゾールまたはピリジン)、カルボン酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1−C20炭素部分であり、
R4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽和炭化水素鎖である。
【0026】
好ましくは、ブロックコポリマーは、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのM単位のブロックと主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのN単位のブロックとを含み、M単位のブロックとN単位のブロックのうち少なくとも一方は、主鎖による共有結合により連結された少なくとも1つのP単位を任意選択により含み、前記ブロックは直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されており、ここで、
【0027】
【化6】
【0028】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1−C10アルキル基、C1−C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アルコキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環(例えばイミダゾールまたはピリジン)、カルボン酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1−C20炭素部分であり、
4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽和炭化水素鎖である。
【0029】
好ましくは、ブロックコポリマーは、M単位のブロックおよびN単位のブロックのみを含むかまたはM単位のブロックおよびN単位のブロックのみから形成され、M単位のブロックおよびとN単位のブロックのうち少なくとも一方は少なくとも1つのP単位を任意選択により含む。
【0030】
任意選択により少なくとも1つのP単位を含む単位MおよびNのブロックは、直鎖配列において主鎖による共有結合により互いに接続されており、従って、ブロックコポリマーは以下の形式で記載することができる。
【0031】
【化7】
【0032】
好ましくは、ブロックコポリマーは、M単位の単一ブロックとN単位の単一ブロックとを含み、M単位のブロックとN単位のブロックのうち少なくとも一方は少なくとも1つのP単位を任意選択により含む。存在する場合、M単位のブロック中のP単位の数zは、N単位のブロック中のP単位の数wと異なってもよい。
【0033】
好ましくは、P単位は、例えば、P単位とN単位の統計的共重合による、ほとんどがN単位から形成されかつN単位のブロック中に組み込まれた単一ブロックの形成によって、N単位から形成されるブロック内に組み込まれ、分布している。
【0034】
有利には、同じまたは異なるY、X部分は、C1−C20エステル基、好ましくはC2−C10エステル基、より好ましくはC2−C6エステル基、いっそうより好ましくはC2−C5エステル基、好ましくはアルキルエステル基、好ましくは直鎖アミド基、およびスチレン誘導体基からなる群から選択される。
【0035】
対象とするA官能基は、エピラム化を行う基板表面と反応して、基板表面においてエピラム化剤のためのアンカー部分を形成することができる。有利には、A基はM単位のブロックの末端に提供され得る。
【0036】
有利には、M単位のブロックは、少なくとも2つの異なるAアンカー部分を含む。
【0037】
対象とするL官能基は、エピラム効果を担う。L官能基は少なくとも1個のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を含む。好ましくは、Lは炭素部分、すなわちC2−C20、好ましくはC4−C10、より好ましくはC6−C9アルキル鎖であり、環式であってもよく、好ましくはヘテロ原子を含まない。Lは部分的または完全にハロゲン化されている。有利には、Lは少なくとも部分的にフッ素化された、好ましくは完全にフッ素化された部分である。Lはまた末端基に水素原子を含んでもよい。Lは好ましくは過フッ素化アルキル鎖である。
【0038】
P単位の対象とするR4官能基は、エピラム化剤の特性を改質するため、かつ/または他の機能を提供するために用いられる。例えば、R4は、相補的架橋工程(工程e)において得られる接触の角度または形成可能な鎖の架橋点を変更するために使用されるアルキル鎖、好ましくはC8−C20アルキル鎖であり得る。例えば、P単位は、ステアリルメタクリレートから誘導することができる。M単位のブロック中に存在するR4は、N単位のブロック中に存在するR4と異なっていてもよいことは明らかである。
【0039】
好ましくは、ブロックコポリマーは、0.1%〜50%の間、好ましくは5%〜30%の間、より好ましくは5%〜20%の間のM単位、1%〜99.9%の間、好ましくは50%〜99.9%の間、より好ましくは80%〜95%の間のN単位、および0%〜50%の間、好ましくは0%〜30%の間、より好ましくは0%〜10%の間のP単位を含み、これらのパーセンテージは単位の総数(x+y+z+w)に対して表される。
【0040】
有利には、ブロックコポリマーは10〜350の間の単位(x+y+z+w)を含む。
【0041】
特に有利な様式では、M単位、N単位、P単位は、より具体的には、基板との親和性が改良された万能エピラム化剤を得るためエピラム化剤の特性を精密化および改良するためには、タイプの異なる数個のA基、好ましくは同じタイプの数個のL基、およびあり得る場合として、タイプは同じであっても異なっていてもよい1個以上のR4基を有するように選択される。
【0042】
好ましくは、少なくとも一部がエピラム化剤でコーティングされた基板表面は、金属、ドープまたは非ドープ金属酸化物、ポリマー、サファイア、ルビー、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、およびそれらの合金からなる群から選択される材料から製造される。
【0043】
より具体的には、基板表面は、スチール製、金、ロジウム、パラジウム、白金などの貴金属製、またはアルミニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、銀、タングステンのドープもしくは非ドープ金属酸化物、またはポリオキシメチレンもしくはアクリルアミド、およびそれらの合金製であり得る。
【0044】
本発明はまた、基板表面の少なくとも1つの部分のエピラム化のための方法であって、
a)上記で定義される少なくとも1つのブロックコポリマーを含むエピラム化剤を調製する工程;
b)任意選択により特に標準的な時計メーカーの方法に従った洗浄により基板表面を準備する工程;
c)基板表面をエピラム化剤と接触させる工程;
d)乾燥させる工程
を含む方法に関する。
【0045】
好ましくは、エピラム化剤の調製は、少なくとも1つのM単位のブロックを形成し得るモノマーと少なくとも1つのN単位のブロックを形成し得るモノマーのブロック共重合により達成され、少なくとも1つのM単位のブロックまたは少なくとも1つのN単位のブロックを形成し得るモノマーのブロック共重合は、任意選択により少なくとも1つのP単位を形成し得るモノマーを用いて行われる。
【0046】
共重合技術は当業者に周知であり、詳細に記載する必要はない。特に好適な重合法は、
・少なくとも1つのM単位のブロックを形成し得るモノマーと任意選択により少なくとも1つのP単位を形成し得るモノマー
・少なくとも1つのN単位のブロックを形成し得るモノマーと任意選択により少なくとも1つのP単位を形成し得るモノマー(Pは同じまたは異なる)
の制御型連続共重合である。
【0047】
2つの特に好適な重合法は、溶液またはエマルジョン中での原子移動ラジカル重合(atom−transfer radical−polymerisation)(ATRP)および可逆的付加開裂連鎖移動重合(reversible addition−fragmentation chain−transfer polymerisation)(RAFT)である。
【0048】
第1の変形形態によれば、ブロックコポリマーは、Y−A側鎖を有するモノマーとあり得る場合としてR4側鎖を有するモノマーとの重合、好ましくは制御ラジカル重合と、その後のX−L側鎖を有するモノマーとあり得る場合としてR4側鎖(R4は同じまたは異なる)を有するモノマーとの共重合、好ましくは制御ラジカル重合により得ることができる。
【0049】
別の変形形態によれば、ブロックコポリマーは、適当なY側鎖を有するモノマーとあり得る場合としてR4を有することが意図される側鎖を有するモノマーとの重合、好ましくは制御ラジカル重合と、その後の適当なX側鎖を有するモノマーとあり得る場合としてR4を有することが意図される側鎖を有するモノマーとの共重合、好ましくは制御ラジカル重合により得ることができ、次に、これらの側鎖は、例えばクリックケミストリーにより、対象とするA、L官能基、およびR4基を導入するように修飾される。
【0050】
好ましくは、モノマーは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニル、ジエン、スチレンおよびオレフィンモノマーからなる群から選択される。
【0051】
アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルおよびスチレンモノマーは特に好ましい。これらの製品は既知であり、大抵の場合、市場で入手可能であるか、または合成工程で入手することができる。
【0052】
特に好ましいモノマーは以下のものである。
【0053】
【化8】
【0054】
よって、エピラム化剤として使用するコポリマーは、市販の製品から限定数の工程で容易に得ることができる。
【0055】
本発明で好ましく使用されるコポリマーの1つは下記の構造(I)を有する。
【0056】
【化9】
【0057】
本発明で好ましく使用されるコポリマーの別のものは下記の構造(II)を有する。
【0058】
【化10】
【0059】
本発明で使用されるコポリマーは、粉末または粘稠な液体形態で得ることができる。次に、それらを過フッ素化またはフッ素化炭化水素、ペルフルオロポリエーテル、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロエーテルなどのフッ素化溶媒中、好ましくは50mg/L〜250mg/Lの間に含まれる濃度の溶液に入れ、エピラム化を行う表面を処理するために使用されるエピラム化剤溶液を得ることができる。
【0060】
変形形態では、本発明によるエピラム化法は、工程c)の後に、特に、P単位のR4側鎖に提供される、対象とする適当な官能基の存在により可能となる相補的架橋工程e)をさらに含んでよい。
【0061】
本発明による基板は、合成が簡単かつ経済的であり、いずれの基板タイプとも親和性を示し、しかも既知のエピラム化剤に比べて洗浄操作に対する耐性が改良されたエピラム化剤でコーティングされた表面を有する。本発明による基板を備えた部材または部品は、機械学、およびより詳しくは、精密機械学、および特に時計製作法および装身具の分野で、いずれのタイプの適用にも使用可能である。
【0062】
以下の例は、その範囲を限定することなく本発明を説明する。
【実施例】
【0063】
実施例1
ブロックコポリマーの形態のエピラム化剤を、以下の手順に従い、
・1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルメタクリレート
・3−アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン/3−アクリルオキシプロピルメチルチオエーテル(文献:Preparation of biomimetic polymer hydrogel materials for contact lenses,Bertozzi, Carolyn et al.US Patent 6552103に記載の手順を用いて得る)
の制御ラジカル重合により合成した:
RAFT剤(42μL)および1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルアクリレートを、予め窒素で脱気したシクロヘキサノン(1mL)および2mLの3M(商標)Novec(商標)ヒドロフルオロエーテルHFE−7200を含有するシュランク管に加えた。0.2mLの0.122mol/Lアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)溶液を加えた。この反応媒体を撹拌し、6時間85℃に加熱した。このポリマーをメタノール中で凝固させた後に洗浄した(3×30mL)。ポリマーは帯黄色粉末の形態で得られた。得られたポリマーを、予め窒素で脱気したシクロヘキサノン(1mL)および2mLのNovec(商標)ヒドロフルオロエーテルHFE−7200(3M(商標))に溶かした後、3−アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(211μL)および3−アクリルオキシプロピルメチルチオエーテル(154μL)を加えた。0.2mLの0.122mol/L AIBN溶液を加えた。この反応媒体を撹拌し、12時間85℃に加熱した。このポリマーをメタノール中で凝固させた後に洗浄した(3×50mL)。ポリマーは帯黄色粉末の形態で得られた(収率=76%)。
【0064】
以下のブロックコポリマーが得られる。
【0065】
【化11】
【0066】
実施例2:洗浄耐性
使用手順:
基板の準備
エピラム処理の前に、種々のタイプの基板を標準的な時計メーカーの方法を用いて洗浄した。より具体的には、これらのパーツを超音波の存在下、ルビソール溶液で洗浄し、イソプロピルアルコールで3回すすぎ、その後、温風で乾燥させる。
【0067】
基板のエピラム処理
基板を、エピラム化剤の溶液:(溶媒:250mg/L DuPont(商標)Vertrel(登録商標)Suprion(商標))中に浸漬(5分前後)した後に温風で乾燥させることによりエピラム化した。
【0068】
洗浄耐性
エピラム化剤の洗浄耐性を、エピラム化パーツの3回の連続洗浄操作(ルビソール溶液を用いた標準的な時計メーカーの洗浄)後に評価した。
【0069】
接触の角度
エピラム化剤の有効性を、2種類の潤滑油:MOEBIUS Testol 3および9010オイルの油滴を付着させることにより評価した。各潤滑油および各エピラム化剤について、基板と潤滑油との接触の角度をOCA Dataphysics装置で測定した。
【0070】
結果:
種々の基板を実施例1のエピラム化剤でエピラム化した。次に、これらの基板を3回の時計メーカーの洗浄操作で洗浄した。
【0071】
比較のため、種々の基板を
・Moebius(登録商標)Fixodrop(登録商標)FK/BS(最もよく用いられている市販のエピラムの1つ)または
・国際公開第2014/009058号に記載されている、後述のエピラム化剤M51
のいずれかを用いてエピラム化した後、3回の時計メーカーの洗浄操作を行う。
【0072】
【化12】
【0073】
M51エピラム化剤は、時計メーカーの洗浄操作に対して最も耐性のあるエピラム化剤の1つであることが知られている。
【0074】
Testol 3オイルおよび9010オイルそれぞれの油滴を各エピラム化基板に付 着させ、基板と潤滑油との接触の角度を測定した。
【0075】
結果を下表に示すが、これらの表は測定された接触の角度の値を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
結論:
上記の結果は、2種類のオイル(Testol 3および9010)を用いた3回の時計メーカーの洗浄操作後に得られた接触の角度は、既知のエピラム化剤でエピラム化した基板に比べて、本発明のエピラム化基板ではるかに大きいことを示す。従って、3回の時計メーカーの洗浄操作後のエピラム化効果は、本発明に従ってエピラム化した基板ではるかに高い。これは本発明に従ってエピラム化した基板が、その基板のタイプが何であれ、洗浄耐性の向上を与えることを示す。