特許第6379508号(P6379508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000004
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000005
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000006
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000007
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000008
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000009
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000010
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000011
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000012
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000013
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000014
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000015
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000016
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000017
  • 特許6379508-不透明石英ガラスおよびその製造方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6379508
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】不透明石英ガラスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 11/00 20060101AFI20180820BHJP
   C03B 19/06 20060101ALI20180820BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20180820BHJP
   C03C 3/06 20060101ALI20180820BHJP
   C03C 4/08 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C03C11/00
   C03B19/06 C
   C03B20/00 G
   C03C3/06
   C03C4/08
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-27910(P2014-27910)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151320(P2015-151320A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 聡里
(72)【発明者】
【氏名】山田 修輔
(72)【発明者】
【氏名】新井 一喜
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−139018(JP,A)
【文献】 特開平09−012325(JP,A)
【文献】 特開平11−199252(JP,A)
【文献】 特開平10−203839(JP,A)
【文献】 特開平10−152332(JP,A)
【文献】 特開2001−180955(JP,A)
【文献】 特表2000−504668(JP,A)
【文献】 特開2014−091634(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/069194(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0085056(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 11/00
C03B 19/06 − 19/08
C03B 20/00
C03C 3/06
C03C 4/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が1.95g/cm以上2.15g/cm以下であり、平均気孔径が5〜20μmであり、試料厚さ1mmのときの波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下であり、吸水率が0.1wt%以下であることを特徴とする不透明石英ガラス。
【請求項2】
密度が1.95g/cm以上2.15g/cm以下であり、平均気孔径が5〜20μmであり、試料厚さ1mmのときの波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下であり、含まれる気孔が閉気孔である不透明石英ガラス。
【請求項3】
密度が1.97g/cm以上2.08g/cm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の不透明石英ガラス。
【請求項4】
平均気孔径が9〜15μmであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の不透明石英ガラス。
【請求項5】
非晶質シリカ粉末に、黒鉛粉末、アモルファスカーボン粉末、フェノール樹脂粉末、アクリル樹脂粉末又はポリスチレン粉末からなる群の少なくとも一種であり、かつ、平均粒径5〜40μmの造孔剤粉末が非晶質シリカ粉末との体積比で0.04以上0.35以下となるように混合し、前記混合粉末を乾式プレスによって成形し、造孔剤が消失する温度で加熱して造孔剤を除去した後、シリカ粉末の焼結が進行する温度で焼結体に含まれる気孔が閉気孔となるまで焼結させることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスを製造する方法。
【請求項6】
加熱の雰囲気が大気雰囲気下であることを特徴とする請求項に記載の不透明石英ガラスを製造する方法。
【請求項7】
非晶質シリカ粉末の平均粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項またはに記載の不透明石英ガラスを製造する方法。
【請求項8】
前記造孔剤粉末が平均粒径5〜40μmの黒鉛粉末であり、造孔剤粉末の添加量が、非晶質シリカ粉末との体積比で0.04〜0.35であることを特徴とする請求項5乃至7いずれか一項に記載の不透明石英ガラスを製造する方法。
【請求項9】
前記造孔剤粉末が平均粒径5〜40μmのアモルファスカーボン粉末であり、造孔剤粉末の添加量が、非晶質シリカ粉末との体積比で0.04〜0.35であることを特徴とする請求項5乃至7いずれか一項に記載の不透明石英ガラスを製造する方法。
【請求項10】
前記造孔剤粉末が平均粒径9〜30μmであることを特徴とする請求項5乃至9いずれか一項に記載の不透明石英ガラスを製造する方法。
【請求項11】
前記造孔剤粉末がアスペクト比3.0以下の球状粉末であることを特徴とする請求項5乃至10いずれか一項に記載の不透明石英ガラスを製造する方法。
【請求項12】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスの表面に透明石英ガラス層を有していることを特徴とする石英ガラス。
【請求項13】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスによって一部または全体が形成されていることを特徴とする熱処理装置用部材。
【請求項14】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスによって一部または全体が形成されていることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項15】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスによって一部または全体が形成されていることを特徴とするFPD製造装置用部材。
【請求項16】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスによって一部または全体が形成されていることを特徴とする太陽電池製造装置用部材。
【請求項17】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスによって一部または全体が形成されていることを特徴とするLED製造装置用部材。
【請求項18】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスによって一部または全体が形成されていることを特徴とするMEMS製造装置用部材。
【請求項19】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の不透明石英ガラスによって一部または全体が形成されていることを特徴とする光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性がなく、かつ赤外光の遮光性に優れる不透明石英ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不透明石英ガラスは熱遮断性を要する用途に使用される。熱遮断性は赤外光の遮光性と関係があり、遮光性が高い不透明石英ガラスほど熱遮断性に優れている。
【0003】
従来、不透明石英ガラスの製造方法としては、結晶質シリカまたは非晶質シリカに窒化珪素等の発泡剤を添加して溶融する方法(例えば、特許文献1〜3)などが知られている。しかしながら、このような製造方法で製造された不透明石英ガラスでは、発泡剤が気化して気孔を形成するため、気孔の平均径が大きく赤外光の遮光性が低下するという問題がある。
【0004】
一方、発泡剤を添加することなく、非晶質シリカ粉末の成形体をその溶融温度以下の温度で加熱し、完全に緻密化する前に熱処理を中断し、部分的に焼結する方法(例えば、特許文献4)も提案されているが、このような製造方法で製造された不透明石英ガラスでは、気孔の平均径を小さくすることが可能であるが、気孔が閉気孔となるまで焼結させると、平均径が小さくなりすぎ、長波長の赤外光の遮光性が低下するという問題がある。
【0005】
また、石英ガラス多孔質体を高圧条件下で加熱焼成する方法(例えば、特許文献5)も提案されているが、このような製造方法で製造された不透明石英ガラスでは、波長200〜5000nmの光の透過率が0.5〜2.0%となっており、長波長側の赤外光の遮光性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−65328号公報
【特許文献2】特開平5−254882号公報
【特許文献3】特開平7−61827号公報
【特許文献4】特開平7−267724号公報
【特許文献5】WO2008/069194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、吸水性がなく、かつ赤外光の遮光性に優れる不透明石英ガラスおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末(以下、単に造孔剤と言うことがある)を混合し、成形したのち、所定の温度で焼結することによって、含まれる気孔が閉気孔であると共に、気孔の含有密度が高く、広い波長領域で赤外光を遮光する不透明石英ガラスを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0010】
本発明は、密度が1.95g/cm以上2.15g/cm以下であり、平均気孔径が5〜20μmであり、試料厚さ1mmのときの波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下であり、吸水率が0.1wt%以下であることを特徴とする不透明石英ガラスである。
【0011】
気孔の平均径が光の波長よりも小さい場合、散乱強度は波長に依存し、長波長の赤外光は短波長の赤外光に比べ散乱されにくい傾向がある。一方、気孔の平均径が光の波長と同程度か、光の波長よりも大きい場合、散乱強度の波長依存性は小さい。また、同じ密度の不透明石英ガラスを比較すると、気孔の平均径が小さいものほど散乱強度は大きくなる傾向がある。これは、気孔の平均径が小さいものほど気孔の含有密度が高くなるためと考えられる。
【0012】
したがって、不透明石英ガラスの遮光性を向上するためには、遮光したい赤外光と同程度以上のサイズの気孔を有することと、気孔の含有密度が高いことが有効である。遮光したい赤外光の波長は1.5〜5μmであるため、平均気孔径は5μm以上であることが求められる。一方で、平均気孔径が大きく、気孔の含有密度が高くなりすぎると、不透明石英ガラスの密度が低くなり、強度が低下するため好ましくない。赤外光の遮光性と不透明石英ガラスの強度のバランスを考慮して、平均気孔径は5〜20μmであることが必要であり、9〜15μmであることが好ましい。密度は1.95g/cm以上2.15g/cm以下であることが必要であり、1.97g/cm以上2.08g/cm未満であることが好ましい。
【0013】
本発明の不透明石英ガラスは、波長1.5μmから5μmにおける試料厚さ1mmの直線透過率が1%以下であることが求められる。換言すれば、本発明の不透明石英ガラスは、波長1.5μm〜5μmのいずれの波長であっても、試料厚さ1mmの直線透過率が1%を超えることはない。熱遮断性は赤外光の透過率と関係し、波長1.5μmから5μmにおける試料厚さ1mmの直線透過率が1%以下である本発明の不透明石英ガラスは熱遮断性に非常に優れている。
【0014】
本発明の不透明石英ガラスに含まれる気孔は閉気孔である必要があり、すなわち吸水率が0.1wt%以下であることが求められる。不透明石英ガラスの吸水率が0.1wt%より大きいと、不透明石英ガラスの研削、研磨などの機械加工中に不純物を吸着するため、加工後に純化処理が必要となり好ましくない。
【0015】
本発明の不透明石英ガラスの純度は特に限定されず、その用途に要求される純度であればよく、例えば半導体熱処理治具に用いる不透明石英ガラスの場合は各金属不純物量が20ppm以下、より好ましくは1ppm以下である必要がある。
【0016】
次に、本発明の不透明石英ガラスの製造方法について説明する。
【0017】
本発明の不透明石英ガラスの製造方法は、非晶質シリカ粉末に、造孔剤粉末が非晶質シリカ粉末との体積比で0.04以上となるように混合し、前記混合粉末を乾式プレスによって成形し、造孔剤が消失する温度で加熱して造孔剤を除去した後、シリカ粉末の焼結が進行する温度で焼結体に含まれる気孔が閉気孔となるまで焼結させることを特徴とする。
【0018】
以下、本発明の不透明石英ガラスの製造方法について工程ごとに詳細に説明する。
【0019】
(1)原料粉末の選定
まず、本発明で用いる非晶質シリカ粉末を選定する。非晶質シリカ粉末の製造方法はとくに限定されないが、例えばシリコンアルコキシドの加水分解によって製造された非晶質シリカ粉末や、四塩化珪素を酸水素炎等で加水分解して作製した非晶質シリカ粉末等を用いることができる。また、石英ガラスを破砕した粉末も用いることができる。
【0020】
本発明で使用する非晶質シリカ粉末の平均粒径は、20μm以下が好ましい。粒径が大きすぎると、焼結に高温、長時間を要するため好ましくない。各種製造法で作製された非晶質シリカ粉末は、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等で粉砕、分級することで上記粒径に調整することができる。
【0021】
次に、本発明で用いる造孔剤粉末を選定する。造孔剤粉末の種類は、非晶質シリカの焼結温度以下の温度で熱分解して気化し消失するものであれば特に限定されず、黒鉛粉末やアモルファスカーボン粉末、フェノール樹脂粉末、アクリル樹脂粉末、ポリスチレン粉末などを使用することができる。このうち、黒鉛粉末またはアモルファスカーボン粉末は熱分解の際に発生するガス成分が無害、無臭であるという点で好ましい。
【0022】
本発明の造孔剤の粒径は不透明石英ガラスの平均気孔径と深く関係し、得たい平均気孔径と同等あるいはそれ以上の粒径の造孔剤を用いる必要がある。気孔径より大きい粒径の造孔剤を用いる理由は、造孔剤の消失後の焼結段階において、気孔が当初のサイズよりも小さくなる場合があるためである。造孔剤として黒鉛またはアモルファスカーボンの球状粉末を用いる場合、平均気孔径5〜20μmの不透明石英ガラスを得るためには、造孔剤の粒径は5〜40μmであることが好ましく、9〜30μmであることがより好ましい。
【0023】
本発明で使用する造孔剤の形状は特に限定されないが、非晶質シリカ粉末と均質に混合することができる点で球状であることが好ましく、粒子の長軸と短軸の比率を表すアスペクト比が3.0以下であることが好ましい。
【0024】
本発明で使用する非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末に求められる純度は、不透明石英ガラスの用途によって異なり、例えば半導体熱処理治具に用いる場合は、非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の混合粉末に含まれる各金属不純物量が20ppm以下、より好ましくは1ppm以下である必要がある。非晶質シリカ粉末と造孔剤粉末の純度が低い場合は、純化処理を行なうとよい。純化の方法は特に限定されず、薬液処理や乾式ガス精製、高温焼成による不純物の蒸散などを行うことができる。
【0025】
(2)原料粉末の混合
次に、選定した非晶質シリカ粉末及び造孔剤粉末を混合する。造孔剤粉末の添加量は、非晶質シリカ粉末に対して体積比で0.04以上となるように混合する必要があるが、好ましい範囲は造孔剤の種類、平均粒径によって異なり、造孔剤粉末が平均粒径5〜40μmの黒鉛粉末又はアモルファスカーボン粉末であれば、非晶質シリカ粉末との体積比で0.04〜0.35であることが好ましい。造孔剤粉末の添加量が少ないと、不透明石英ガラスに含まれる気孔量が少なくなり赤外光の遮光性が低下するため好ましくない。一方、添加量が多すぎると、不透明石英ガラスの密度が低くなりすぎるため好ましくない。
【0026】
非晶質シリカ粉末と造孔剤の混合方法は特に限定されず、ロッキングミキサー、クロスミキサー、ポットミル、ボールミル等を用いることができる。
【0027】
(3)混合粉末の成形
次に、混合粉末を乾式プレス成形する。成形方法は、鋳込み成型法、冷間静水圧プレス(CIP)法、金型プレス法等を用いることができる。特に本発明の成型には、CIP法を用いると、工程が少なく容易に成形体を得ることができる点で好ましい。さらにCIP法を用いて、円板形状や円筒形状、リング形状の成形体を作製する方法としては、特に限定しないが、発泡スチロールのような塑性変形可能な鋳型を用いる成形法(例えば、特開平4−105797参照)や、底板が上パンチよりも圧縮変形の少ない材料で構成されている組立式型枠を用いる方法(例えば、特開2006−241595参照)で成形することが可能である。
【0028】
(4)成形体の焼結
次に、上記の方法により成形した成形体を所定の温度で加熱し、成形体内に含まれる造孔剤を消失させる。加熱温度は造孔剤の種類によって異なるが、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用いる場合、加熱温度は700℃から1000℃で行う。
【0029】
造孔剤の消失のための加熱は造孔剤の種類や造孔剤の添加量、成形体のサイズ、加熱温度によって任意の時間行われるが、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用い、添加量が非晶質シリカ粉末との体積比で0.1〜0.2、成形体の体積が2×10cm、加熱温度が800℃の場合、加熱時間は24時間から100時間で行う。
【0030】
次に、造孔剤が消失した成形体を所定の温度で、焼結体に含まれる気孔が閉気孔となるまで焼成する。焼成温度は特に限定されないが、1350〜1500℃が好ましい。焼成温度が1350℃より低いと、気孔が閉気孔となるまでに長時間の焼成が必要となるため好ましくない。焼成温度が1500℃を超えると、焼成体内に含まれるクリストバライト量が多くなり、クリストバライトの高温型から低温型への相転移に伴う体積収縮によって、焼成体にクラックが発生する恐れがあり好ましくない。
【0031】
焼成時間は造孔剤の添加量や焼成温度に応じて任意の時間行われるが、例えば添加量が非晶質シリカ粉末との体積比で0.1〜0.2、焼成温度が1350〜1500℃の場合、焼成時間は1時間から20時間で行う。焼成時間が短いと焼結が十分進まず、気孔が開気孔となるため好ましくない。また、焼成時間が長すぎると焼結が進み過ぎ気孔が小さくなるため赤外光の遮光性が低下するとともに、焼成体内に含まれるクリストバライト量が多くなり、クリストバライトの高温型から低温型への相転移に伴う体積収縮によって、焼成体にクラックが発生する恐れがあり好ましくない。
【0032】
造孔剤の消失のための加熱は造孔剤が消失する雰囲気で行われ、例えば造孔剤として黒鉛粉末やアモルファスカーボンを用いる場合は、酸素が存在する雰囲気下で行われる。
【0033】
閉気孔化のための焼成の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下で行うことができる。
【0034】
本発明により形成された不透明石英ガラスは、熱遮断性能に優れることから、熱処理装置用部材、半導体製造装置用部材、FPD製造装置用部材、太陽電池製造装置用部材、LED製造装置用部材、MEMS製造装置用部材、光学部材などに利用することができる。具体的には、フランジ、断熱フィン、炉芯管、均熱管、薬液精製筒等の構成材料、シリコン溶融用ルツボ等の構成材料などが挙げられる。
【0035】
上記のような部材は、不透明石英ガラス単独で使用してもよいし、不透明石英ガラスの表面に透明石英ガラス層を付与して使用してもよい。透明石英ガラス層は、不透明石英ガラスをシール性の要求される用途に使用する場合に、不透明石英ガラス中に含まれている気孔がシール面に露出しパッキンを使用しても完全なシールをすることが困難であることを考慮して付与される。また、不透明石英ガラスを各種用途で使用する中で随時行われる洗浄工程において、その最表面に露出している気孔が削られ、不透明石英ガラスの表面の一部が脱落し、パーティクルの発生の原因となる場合がある。これを防止する目的でも透明石英ガラス層は付与される。
【0036】
不透明石英ガラスへの透明石英ガラス層の付与の方法は特に限定されず、不透明ガラスの表面を酸水素炎で溶融して透明石英ガラスとする方法、不透明石英ガラスと透明石英ガラスとを酸水素炎や電気炉で加熱して貼り合わせる手法、不透明石英ガラスとなる非晶質シリカ粉末と造孔剤の混合粉末と透明石英ガラスとなる非晶質シリカ粉末とを所望のガラスにおける透明部及び不透明部の位置に対応させて成形し焼成する方法などがある。
【発明の効果】
【0037】
本発明の不透明石英ガラスは、熱遮断性に優れるため、特に半導体製造分野で使用される各種の炉芯管、治具類及びベルジャー等の容器類、例えば、シリコンウェーハ処理用の炉芯管やそのフランジ部、断熱フィン、薬液精製筒及びシリコン溶解用ルツボ等の構成材料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施例1で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図2】実施例2で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図3】実施例3で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図4】実施例4で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図5】実施例5で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図6】実施例6で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図7】実施例7で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図8】実施例8で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図9】比較例1で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図10】比較例2で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図11】比較例3で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図12】比較例4で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図13】比較例5で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図14】比較例6で作製した不透明石英ガラスの赤外スペクトルである。
図15】実施例1〜8、比較例2〜4で作製した不透明石英ガラスの吸水率と波長4μmにおける透過率の関係を示す図である。
【実施例】
【0039】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0040】
非晶質シリカ粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、商品名「SALD−7100」)を用いて測定されるメディアン径(D50)の値を用いた。
【0041】
造孔剤粉末のアスペクト比は、粉末の長軸径と短軸径を光学顕微鏡により観察し、(長軸径/短軸径)により求めた。
【0042】
不透明石英ガラスの赤外スペクトルはFTIR装置((株)島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて測定した。測定試料は、平面研削により加工し、140番ダイヤモンド砥石仕上げ、厚さ1mmとした。
【0043】
不透明石英ガラスの密度および吸水率は次の方法で測定した。まず試料を乾燥した後、質量W1を測定する。次に試料を水中に保って2時間煮沸したのち放冷により常温に戻し、この試料の水中での質量W2を測定する。次に試料に撥水性の有機溶剤を塗布し、乾燥した後、この試料の水中での質量W3を測定する。密度および吸水率をW1、W2、W3から次式で求める。
【0044】
密度=W1/((W1−W3)/ρ)
吸水率(%)=((W2−W3)/W1)×100
ここでρは測定時の水温での水の密度である。
【0045】
不透明石英ガラスの平均気孔径は不透明石英ガラスの切断面を光学研磨し、光学顕微鏡像を画像解析して算出した。画像解析にはImageJ1.47v(National Institutes of Health)を用い、光学顕微鏡像に写る気孔の平均面積を求め、この平均面積から気孔を円径と仮定した場合の気孔径を求め、これを平均気孔径とした。
【0046】
不透明石英ガラスに含有する金属およびアルカリ、アルカリ土類元素の不純物量はICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメンツ(株)製、商品名「Vista−PRO」)を用いて分析した。
【0047】
(実施例1)
原料粉末として平均粒径が6μmの合成非晶質シリカ粉末を選定した。
【0048】
造孔剤粉末として、平均粒径18μm、アスペクト比1.5、Na、K、Ca、Cr、Fe、Tiの濃度が0.1ppm以下の球状黒鉛粉末を選定した。
【0049】
合成非晶質シリカ粉末に黒鉛粉末を添加し、ポットミルで3時間混合した。黒鉛粉末の添加量は、非晶質シリカ粉末との体積比で0.16であった。
【0050】
発泡スチロール製の型に混合粉末を充填し、発泡スチロール型全体をポリスチレン製袋で減圧封入し、圧力は200MPa、保持時間は1分間の条件でCIP成形した。
【0051】
CIP成形後の直径170mm、厚み85mmの円柱状成形体を、炉床昇降式抵抗加熱電気炉((株)広築製)にて、大気雰囲気下で、室温から650℃までは100℃/時、650℃から800℃まで50℃/時、800℃で72時間保持、800℃から最高焼成温度1425℃までは50℃/時で昇温し、最高焼成温度1425℃で2時間保持して焼成した。100℃/時で50℃まで降温し、その後炉冷し不透明石英ガラスを得た。
【0052】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0053】
図1に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0054】
表2に不透明石英ガラスに含まれる不純物濃度を示す。測定した各種アルカリ金属、アルカリ土類金属、金属元素濃度は1ppm以下であった。
【0055】
(実施例2)
実施例1と同様の原料粉末と造孔剤を選定し、実施例1と同様の手順で直径170mm、厚み85mmの円柱状成形体を得た。
【0056】
得られた成形体を最高焼成温度1425℃で4時間保持した以外は実施例1と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0057】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0058】
図2に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0059】
(実施例3)
実施例1と同様の原料粉末と造孔剤を選定し、実施例1と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの半円柱状成形体を得た。
【0060】
得られた成形体を、シリコニット電気炉(シリコニット高熱工業(株)製)にて、大気雰囲気下、室温から700℃までは5℃/分、700℃以上から最高焼成温度1450℃までは1℃/分で昇温し、最高焼成温度1450℃で6時間保持して焼成した。5℃/分で1000℃まで降温し、その後炉冷し不透明石英ガラスを得た。
【0061】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0062】
図3に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0063】
(実施例4)
実施例1と同様の原料粉末と造孔剤を選定し、実施例1と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの半円柱状成形体を得た。
【0064】
得られた成形体を最高焼成温度1450℃で10時間保持した以外は実施例3と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0065】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0066】
図4に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0067】
(実施例5)
実施例1と同様の原料粉末を選定し、造孔剤として平均粒径15μm、アスペクト比1.0の球状アモルファスカーボン粉末を選定した。
【0068】
合成非晶質シリカ粉末にアモルファスカーボン粉末を添加し、ロッキングミキサーで3時間混合した。アモルファスカーボン粉末の添加量は、非晶質シリカ粉末との体積比で0.16であった。
【0069】
混合粉末を実施例1と同様の方法でCIP成形した。
【0070】
CIP成形後の直径60mm、厚み20mmの半円柱状成形体を、シリコニット電気炉(シリコニット高熱工業(株)製)にて、大気雰囲気下で、室温から650℃までは5℃/分、650から850℃までは1℃/分、850℃以上から最高焼成温度1425℃までは5℃/分で昇温し、最高焼成温度1425℃で8時間保持して焼成した。5℃/分で1000℃まで降温し、その後炉冷し不透明石英ガラスを得た。
【0071】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0072】
図5に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0073】
(実施例6)
実施例5と同様の原料粉末と造孔剤を選定し、実施例5と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの半円柱状成形体を得た。
【0074】
得られた成形体を最高焼成温度1450℃で6時間保持した以外は実施例5と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0075】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0076】
図6に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0077】
(実施例7)
実施例5と同様の原料粉末と造孔剤を選定し、実施例5と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの半円柱状成形体を得た。
【0078】
得られた成形体を最高焼成温度1450℃で10時間保持した以外は実施例5と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0079】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0080】
図7に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0081】
(実施例8)
実施例5と同様の原料粉末と造孔剤を選定し、アモルファスカーボン粉末の添加量を非晶質シリカ粉末との体積比で0.13に変更した以外は、実施例5と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの半円柱状成形体を得た。
【0082】
得られた成形体を最高焼成温度1450℃で8時間保持した以外は実施例5と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0083】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0084】
図8に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下である。
【0085】
(比較例1)
実施例1と同様の原料粉末のみを実施例1と同様の方法でCIP成形し、直径60mm、厚み20mmの円柱状成形体を得た。
【0086】
得られた成形体を、抵抗加熱式真空加圧焼成炉(富士電波工業(株)製)にて、1気圧窒素雰囲気下で、室温から1000℃までは5℃/分、1000℃以上から最高焼成温度1350℃までは1℃/分で昇温し、最高焼成温度1350℃で10時間保持して焼成した。その後に5℃/分で1000℃まで降温し、その後炉冷し不透明石英ガラスを得た。
【0087】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0088】
図9に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下であるが、焼結が不十分であるため吸水率が高い。
【0089】
(比較例2)
比較例1と同様の原料粉末を選定し、比較例1と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの円柱状成形体を得た。
【0090】
得られた成形体を最高焼成温度1350℃で15時間保持した以外は比較例1と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0091】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0092】
図10に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmのうち3から5μmにおける直線透過率が1%より大きい。平均気孔径が小さいために長波長の赤外光の透過率が高かった。
【0093】
(比較例3)
比較例1と同様の原料粉末を選定し、比較例1と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの円柱状成形体を得た。
【0094】
得られた成形体を最高焼成温度1400℃で3時間保持した以外は比較例1と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0095】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0096】
図11に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%以下であるが、焼結が不十分であるため吸水率が高い。
【0097】
(比較例4)
比較例1と同様の原料粉末を選定し、比較例1と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの円柱状成形体を得た。
【0098】
得られた成形体を最高焼成温度1400℃で4時間保持した以外は比較例1と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0099】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0100】
図12に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmのうち2.5μmから5μmにおける直線透過率が1%より大きい。平均気孔径が小さいために長波長の赤外光の透過率が高かった。
【0101】
(比較例5)
実施例5と同様の原料粉末と造孔剤を選定し、アモルファスカーボン粉末の添加量を非晶質シリカ粉末との体積比で0.02に変更した以外は、実施例5と同様の手順で直径60mm、厚み20mmの半円柱状成形体を得た。
【0102】
得られた成形体を最高焼成温度1450℃で6時間保持した以外は実施例5と同様の焼成条件で焼成を行い、不透明石英ガラスを得た。
【0103】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0104】
図13に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%より大きい。造孔剤の添加量が少ないために透過率が高かった。
【0105】
(比較例6)
水晶粉末に粒径1〜10μmの窒化ケイ素粉末を0.2wt%混合し、酸水素火炎溶融法により溶融し、不透明石英ガラスを得た。
【0106】
得られた不透明石英ガラスの密度、吸水率、平均気孔径、波長2μmおよび4μmにおける透過率を表1に示す。
【0107】
図14に不透明石英ガラスの赤外スペクトルを示す。これによると波長1.5μmから5μmにおける直線透過率が1%より大きい。平均気孔径が大きいために透過率が高かった。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
吸水率と波長4μmの透過率の関係について、実施例1〜8を▲印、比較例2〜4を●印でプロットしたものを図15に示す。造孔剤を添加して作製した不透明石英ガラスは、非晶質シリカ粉のみで作製した不透明石英ガラスに比べて、低透過率、低吸水率を達成していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
熱遮断効果が高い不透明石英ガラスおよびその製造方法であり、半導体製造装置用部材などに好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15