特許第6381386号(P6381386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6381386脱硫方法および脱硫装置および燃料電池発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381386
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】脱硫方法および脱硫装置および燃料電池発電システム
(51)【国際特許分類】
   C10L 3/10 20060101AFI20180820BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 23/80 20060101ALI20180820BHJP
   C01B 3/38 20060101ALI20180820BHJP
   H01M 8/06 20160101ALI20180820BHJP
【FI】
   C10L3/10
   B01J23/46 M
   B01J23/80 M
   C01B3/38
   H01M8/06
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-193930(P2014-193930)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-64942(P2016-64942A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高見 晋
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−270704(JP,A)
【文献】 特開2006−076802(JP,A)
【文献】 特表2003−523450(JP,A)
【文献】 特開2011−184549(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/136279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B3/00−6/34
C10G1/00−99/00
C10L3/00−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄成分を含有する燃料ガスに水蒸気を添加し、水蒸気の存在下で燃料ガスから水素ガスを生成する改質反応を行う水蒸気改質触媒と、硫黄化合物を含有する燃料ガスから硫黄化合物を除去する水添脱硫剤とを順に200℃〜400℃にて通過させて、燃料ガス中の硫黄成分を除去する脱硫方法であって、
前記水添脱硫剤が、ニッケルを含浸担持した酸化銅および酸化亜鉛を主成分とするニッケル系脱硫剤であり、
前記水蒸気改質触媒が、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒である脱硫方法。
【請求項2】
硫黄成分を含有する燃料ガスに水蒸気を添加して供給する供給部と、硫黄化合物を含有する燃料ガスから硫黄化合物を除去する水添脱硫剤を設けた脱硫部とを備えた脱硫装置であって、
前記水添脱硫剤の燃料ガス流通方向における上流側に、水蒸気の存在下で前記供給部により供給される燃料ガスから水素ガスを生成する改質反応を行う水蒸気改質触媒を設けた水素生成部を備え
前記水添脱硫剤が、ニッケルを含浸担持した酸化銅および酸化亜鉛を主成分とするニッケル系脱硫剤であり、
前記水蒸気改質触媒が、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒であり、
前記水素生成部及び前記脱硫部を200℃〜400℃に加熱する加熱手段を備えた脱硫装置。
【請求項3】
前記無機酸化物担体がジルコニア、アルミナ、チタニアからなる群より選ばれる少なくとも一種を主成分とするものである請求項2に記載の脱硫装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の脱硫装置と、
前記脱硫装置によって脱硫処理された燃料ガスを改質して、水素を主成分とする改質ガスを生成させる改質装置と、
前記改質装置から供給される改質ガスを燃料として用いて発電する燃料電池と、
を備えた燃料電池発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫方法および脱硫装置および燃料電池発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気改質プロセスの燃料ガスとしては、天然ガス、石炭ガス(COG)、液化石油ガス(LPG)、ナフサなどの各種の炭化水素類が用いられるが、これらは、一般的に硫黄分を含んでいる。この硫黄分は、改質プロセスで使用される改質触媒およびその周辺のプロセス触媒を被毒し、触媒活性を低下させるので、事前に燃料ガスの脱硫処理を行う必要がある。
【0003】
このような場合に、硫黄成分からなる付臭剤成分を効率的に除去する脱硫剤として、ニッケルを含浸担持した酸化銅−酸化亜鉛系脱硫剤が知られている(特許文献1参照)。そして、特許文献1において、脱硫剤に供給される燃料ガスに微量の水素を添加することで、ニッケルを含浸担持した酸化銅−酸化亜鉛系脱硫剤は、寿命が著しく長くなることが見出されている。
【0004】
そこで、ニッケルを含浸担持した酸化銅−酸化亜鉛系脱硫剤を燃料電池で使用する場合には、燃料ガスを水蒸気改質触媒で水素主成分のガスに改質したのち、その改質されたガスを脱硫剤に一部返送して水素源としてリサイクル使用することが考えられている。しかし、この方法では、改質されたガスを返送するためのリサイクル配管が必要になり、装置構成を複雑にし、コスト高になること、リサイクル配管内でガス中の水蒸気が結露した場合に水素が安定してリサイクルされなくなるおそれがあること、などの問題があり、改善の余地があった。
【0005】
特許文献2には、改質反応に対する活性を有するNi系の脱硫剤を用いると、脱硫剤に供給される燃料ガスに水蒸気を添加することにより、脱硫剤が水蒸気の存在下に、炭化水素を水素に変換する下記改質反応(および、部分的に変成反応)を生起するとともに、そこで発生した水素を水素源として脱硫剤自身の寿命を向上できることが示されており、上述のリサイクル配管が不必要になり、安価に水素の安定供給が行えるものと期待されていた。
【0006】
(改質反応)
CmHn +mH2O→(m+n/2)H2+mCO
(変成反応)
CO+H2O→H2+CO2
【0007】
ここで、脱硫剤の寿命が延びるのは、水素の存在下において、硫黄化合物中の硫黄は硫化水素を介して脱硫剤内部に固定されるため、この一連の反応が、水素が存在しない場合の硫黄化合物中の硫黄だけが直接触媒内部に固定される反応より、早く進行するという理由に基づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−61154号公報
【特許文献2】特開2011−184549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2の技術においては、脱硫剤中に水素を発生させることで、リサイクル配管不要な構成を採用することができるものの、その水素発生量は不十分で、脱硫剤の寿命を十分効果的に向上させうるものとはなっておらず、さらに改善が求められている。
【0010】
したがって、本発明は上記実情に鑑み、簡便な装置構成でありながら、長期的に安定して脱硫剤を活性高く利用できる脱硫方法および脱硫装置を提供し、もって、燃料電池発電システム等の燃料ガス利用装置に対して硫黄成分が除去された燃料ガスを安定供給可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の脱硫方法の特徴構成は、硫黄成分を含有する燃料ガスに水蒸気を添加し、水蒸気の存在下で燃料ガスから水素ガスを生成する改質反応を行う水蒸気改質触媒と、硫黄化合物を含有する燃料ガスから硫黄化合物を除去する水添脱硫剤とを順に200℃〜400℃にて通過させて、燃料ガス中の硫黄成分を除去する脱硫方法であって、
前記水添脱硫剤が、ニッケルを含浸担持した酸化銅および酸化亜鉛を主成分とするニッケル系脱硫剤であり、
前記水蒸気改質触媒が、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒である点にある。
【0012】
記構成によると、燃料ガスは水蒸気と混合した状態で、まず白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒からなる水蒸気改質触媒と接触する。水蒸気改質触媒上では、燃料ガスの改質反応が起きるので、燃料ガスの一部が水素に変換され、燃料ガスが水蒸気と水素とを含有するものになる。このように変換された燃料ガスを、ニッケルを含浸担持した酸化銅および酸化亜鉛を主成分とするニッケル系脱硫剤からなり、硫黄化合物を除去し且つ改質反応に対する活性を有する水添脱硫剤に流通させると、燃料ガス中に含まれる硫黄成分が水添脱硫され、燃料ガス中に含まれる硫黄成分は、精度よく除去される。
【0013】
水添脱硫剤により水添脱硫が行われる際、燃料ガス中には、水蒸気改質触媒によって生じた充分な量の水素が含有されているので、さらに、水添脱硫剤の寿命を向上する効果を高めることができる。
【0014】
つまり、別途水素ガスを供給する設備を設けることなく、水蒸気改質触媒により、水添脱硫剤に安定した水素供給が行えるようになり、簡便な流通経路の追加により、長期的に安定して水添脱硫剤を活性高く利用できるようになった。したがって、簡単な構成の変更により、水添脱硫剤の吸着容量を高め、寿命を長くすることができ、脱硫装置に充填する水添脱硫剤の使用量を減少させる、もしくは、水添脱硫剤を所定容量に充填した脱硫装置を長期にわたって使用できる、もしくは、脱硫装置内に充填した水添脱硫剤の所定期間内における交換回数を減少させることができるなど、水添脱硫剤の使用効率の向上を図ることができた。
【0015】
なお、燃料ガスが都市ガスである場合には、メタンを主成分として、付臭剤を含むので、付臭剤としてのジメチルスルファイド、テトラヒドロチオフェンおよびt−ブチルメルカプタンを対象として脱硫を行えばよく、汎用的な水添脱硫剤で上記脱硫反応を生起させることができる。
【0016】
また、水添脱硫剤が使用されるシステム(例えば燃料電池発電システム)の水素リサイクル配管を不要にすることができる等、脱硫方法を実施するうえでのコスト削減、装置構成のコンパクト化にも寄与するとともに、簡単な構成の変更で済むことから、種々多様な系に適用できる。
【0017】
その結果、硫黄成分を精度よく除去した燃料ガスを長期にわたって安定して生成することができるので、燃料電池の燃料ガスを脱硫する用途などで、品質の高い燃料ガスを供給することができる。
【0018】
発明の脱硫装置の特徴構成は、硫黄成分を含有する燃料ガスに水蒸気を添加して供給する供給部と、硫黄化合物を含有する燃料ガスから硫黄化合物を除去する水添脱硫剤を設けた脱硫部とを備えた脱硫装置であって、
前記水添脱硫剤の燃料ガス流通方向における上流側に、水蒸気の存在下で前記供給部により供給される燃料ガスから水素ガスを生成する改質反応を行う水蒸気改質触媒を設けた水素生成部を備え
前記水添脱硫剤が、ニッケルを含浸担持した酸化銅および酸化亜鉛を主成分とするニッケル系脱硫剤であり、
前記水蒸気改質触媒が、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒であり、
前記水素生成部及び前記脱硫部を200℃〜400℃に加熱する加熱手段を備えた点にある。
【0019】
記構成によると、供給部において硫黄成分を含有する燃料ガスに水蒸気を添加して、当該燃料ガスを脱硫部のニッケルを含浸担持した酸化銅および酸化亜鉛を主成分とするニッケル系脱硫剤からなる水添脱硫剤に供給する。ここで、水添脱硫剤の燃料ガス流通方向における上流側に水素生成部を設けてあるから、燃料ガスは水蒸気と混合した状態で、まず白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒からなる水蒸気改質触媒と接触する。水蒸気改質触媒上では、燃料ガスの改質反応が起きるので、燃料ガスの一部が水素に変換され、燃料ガスが水蒸気と水素とを含有するものになる。このように変換された燃料ガスが、脱硫部に供給されると、脱硫部に設けられた水添脱硫剤により、燃料ガス中に含まれる硫黄成分が水添脱硫され、燃料ガス中に含まれる硫黄成分は、精度よく除去される。
【0020】
脱硫部において水添脱硫が行われる際、燃料ガス中には、水素生成部において生じた充分な量の水素が含有されているので、さらに、水添脱硫剤の寿命を向上する効果を高めることができる。
【0021】
つまり、別途水素ガスを供給する設備を設けることなく、水素生成部により脱硫部に安定した水素供給が行えるようになり、リサイクル路のような複雑な経路が不要で、簡便な装置構成でありながら、長期的に安定して水添脱硫剤を活性高く利用できるようになった。したがって、簡単な構成の変更により、水添脱硫剤の吸着容量を高め、寿命を長くすることができ、脱硫装置に充填する水添脱硫剤の使用量を減少させる、もしくは、水添脱硫剤を所定容量に充填した脱硫装置を長期にわたって使用できる、もしくは、脱硫装置内に充填した水添脱硫剤の所定期間内における交換回数を減少させることができるなど、水添脱硫剤の使用効率の向上を図ることができた。
【0022】
また、水添脱硫剤が使用されるシステム(例えば燃料電池発電システム)の水素リサイクル配管を不要にすることができる等、脱硫装置を構成するうえでのコスト削減、装置構成のコンパクト化にも寄与するとともに、簡単な構成の変更で済むことから、種々多様な系に適用できる。
【0023】
その結果、硫黄成分を精度よく除去した燃料ガスを長期にわたって安定して生成することができるので、燃料電池の燃料ガスを脱硫する用途などで、品質の高い燃料ガスを供給することができる。
【0025】
硫装置としては、脱硫部に流通されるガスのうち燃料ガス中の硫黄成分を水添脱硫する反応が主であり、脱硫部の大きさは、燃料ガス供給量に応じた適切な大きさに設定することができる。これに対して水素生成部において脱硫部に供給すべき水素ガスを生成する反応は、脱硫部の水添脱硫剤を長寿命化するために要する必要最小限に抑制しておくことができる。すると、脱硫部は十分量の燃料ガスを処理できる大きさに設定する一方、それに対して供給すべき水素ガスを生成するのに必要な水素生成部の容量は、理論上、脱硫部に対して十分小容量で構わないことになる。そのため、水素生成部を脱硫部に対して小容量に形成することにより、バランスよく水素生成部による水素精製が行え、脱硫装置を必要以上に大型化することなく構成できる。
【0027】
また、ニッケル系脱硫剤は、ニッケルによる改質反応および水添分解反応と、酸化銅、酸化亜鉛による吸着反応とがバランスよく活性を発揮し、全体として高い脱硫活性を発揮するものとなる。ニッケル系脱硫剤は改質反応に対する活性を有するので、燃料ガスを改質して水素を生成し、当該水素によりニッケル系脱硫剤自身の寿命を向上する効果を発揮するので、水素生成部による脱硫部への水素供給を補助する機能も発揮する。
また、水蒸気による劣化も少なく、長期にわたって高い脱硫活性を維持できる構成となる。
【0029】
また、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある水蒸気改質触媒としての耐硫黄水蒸気改質触媒は水蒸気活性が高くかつ硫黄耐久性が高いものとなる。そのため、脱硫部の上流側において未脱硫の燃料ガスを流通させる環境にあっても、長期にわたって安定に用いることができる。また、水蒸気の存在下で燃料ガスから水素ガスを生成する改質反応を行う能力が高く、200℃〜400℃において脱硫部の水添脱硫剤を長寿命に使用するのに十分な水素を生成する能力を有している。
なお、理論に拘泥されるものではないが、これは、以下のように説明できる。
すなわち、白金とイリジウムは周期律表では隣接する金属であり、そのため非常に安定した合金を作るものと推察される。一方、白金は硫黄と化合物を作り難い性質を持ち、イリジウムは比較的高い水蒸気改質活性を持っている。したがって、特に、白金とイリジウムを無機酸化物に担持した水蒸気改質触媒は、白金とイリジウムの合金もしくは複合体中で、それぞれの金属の好ましい性質が安定して得られるために、比較的高い水蒸気改質活性を保った上で硫黄に対する高い耐久性を示すものと考えられる。
【0030】
記無機酸化物担体がジルコニア、アルミナ、チタニアからなる群より選ばれる少なくとも一種を主成分とするものとすることができる。
【0031】
機酸化物担体としては、αアルミナ、γアルミナ等のアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、およびそれらの混合物等から選ぶことができるが、中でも、αアルミナ、ジルコニアおよびチタニアは、耐熱性が高く、加熱状態で長期使用が想定される本発明の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の使用条件に特に適しているといえる。
【0032】
また、後述の実施例より、ジルコニアを用いた水蒸気改質触媒は、高い活性を持つことが実験的に明らかにされており、特に好ましいと考えられる。
【0033】
た、本発明の燃料電池発電システムの特徴構成は、前記脱硫装置と、
前記脱硫装置によって脱硫処理された燃料ガスを改質して、水素を主成分とする改質ガスを生成させる改質装置と、
前記改質装置から供給される改質ガスを燃料として用いて発電する燃料電池と、
を備えた点にある。
【0034】
まり、上記構成によると、燃料電池発電システムの構成要素として脱硫装置を備え、脱硫装置からの燃料ガスを改質装置にて改質し、燃料電池用燃料としての水素を製造することができるから、その水素により燃料電池を動作させて、電力を発生させることができるシステムとすることができる。
【0035】
上述のように、脱硫装置では、水蒸気の存在下に脱硫反応を行うことができる。また、脱硫部には、水添脱硫剤を収容してあるから、脱硫部内部でも改質反応が起き、前記脱硫反応は水素ガスの存在下で行われることになる。さらに、脱硫装置は、水添脱硫剤の燃料ガス流通方向における上流側に、水蒸気の存在下で前記供給部により供給される燃料ガスから水素ガスを生成する改質反応を行う水蒸気改質触媒を設けた水素生成部を備えてあるから、水蒸気改質触媒上では、燃料ガスの改質反応が起きるので、燃料ガスの一部が水素に変換され、燃料ガスが水蒸気と水素とを含有するものになる。このように変換された燃料ガスが、脱硫部に供給されると、水添脱硫剤による水添脱硫反応が進行することになるから、硫黄成分は、硫化水素として水添脱硫剤に吸着され、高い脱硫性能が発揮されるとともに、水添脱硫剤の高寿命化が図れることになる。
【0036】
したがって、簡単な構成の変更により、水添脱硫剤の吸着容量を高め、寿命を長くすることができ、脱硫装置に充填する水添脱硫剤の使用量を減少させる、もしくは、水添脱硫剤を所定容量に充填した脱硫装置を長期にわたって使用できる、もしくは、脱硫装置内に充填した水添脱硫剤の所定期間内における交換回数を減少させることができるなど、水添脱硫剤の使用効率の向上を図ることができた。そのため、燃料電池発電システムとしてもメンテナンスが少なくてすむなど、安定運転等に寄与することができる。
【発明の効果】
【0037】
したがって、簡便な装置構成でありながら、長期的に安定して水添脱硫剤を活性高く利用できる脱硫方法および脱硫装置を提供し、もって、燃料電池発電システム等の燃料ガス利用装置に対して硫黄成分の除去された燃料ガスを安定供給可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】燃料電池発電システムの概略構成図
図2】排熱回収機構および加熱手段の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の実施形態にかかる脱硫方法を、燃料電池発電システムSに用いられる脱硫装置2を例示して説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0040】
〔燃料電池発電システム〕
燃料電池発電システムSは、図1に示すように、燃料ガス供給部10と、硫黄化合物を含有する燃料ガスPから硫黄化合物を除去するための脱硫装置2と、脱硫装置2によって脱硫処理された燃料ガスPを改質して、水素を主成分とする改質ガスRを生成させる改質装置3と、改質装置3から供給される改質ガスRを燃料として用いて発電する燃料電池6と、を備えている。
【0041】
〔脱硫装置〕
脱硫装置2は、硫黄化合物を含有する燃料ガスPから硫黄化合物を除去する。脱硫装置2には、メタンやプロパン等の炭化水素を主成分とする燃料ガスPを供給する供給部20を備えており、供給部20は、燃料ガス供給部10から供給される硫黄成分を含有する燃料ガスPに、水蒸気を添加する水蒸気供給部11を設けて構成してある。
【0042】
本実施形態においては、燃料ガスPとして用いられるメタンやプロパン等は、都市ガスやLPG等の形態で供給される。都市ガスやLPG等は一般に、例えばジメチルスルフィド(DMS)等の硫黄化合物を付臭剤として含有している。燃料ガスPは、その流量を調節するガス流量調整弁12および燃料ガスPの流通を付勢するポンプ13を通過した後、水蒸気供給部11から水蒸気が添加された状態で、供給部20から脱硫装置2に供給される。脱硫装置2には、水蒸気の存在下で燃料ガスPから水素ガスを生成する改質反応に対する活性を有するニッケル系脱硫剤(水添脱硫剤2aの一例)を設けた脱硫部21を備える。脱硫装置2を構成する容器内部における燃料ガスPの流通方向における上流側には、水蒸気の存在下で供給部20により供給される燃料ガスPから水素ガスを生成する改質反応を行う水蒸気改質触媒2bを設けた水素生成部22を備えてある。
【0043】
また、水蒸気供給部11は、水蒸気流量調整弁11aにより、別途設けられる水蒸気生成装置14から燃料ガスPに水蒸気を混合供給する構成としてある。水蒸気流量調整弁11aは、水蒸気供給部11と脱硫装置2との間に設けられる水蒸気センサSe1の検出値に基づいて、水蒸気添加量が燃料ガスPの体積に対して5体積%〜20体積%に維持されるように制御される。
【0044】
燃料ガスPが供給部20から脱硫装置2に供給されると、燃料ガスPに含まれるメタンやプロパン等は、水素生成部22に備えられる、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒(水蒸気改質触媒2bの一例)により、一部が水蒸気改質反応を生起し、水素と一酸化炭素(および二酸化炭素)に変換された後、脱硫部21に供給される。一方、燃料ガスPに含まれる硫黄化合物は、水素生成部22では水蒸気改質触媒2bに接触しても反応せず、脱硫部21に備えられるニッケル系脱硫剤(水添脱硫剤2aの一例)により吸着除去される。これにより、燃料ガスPは脱硫装置2を通過する際に脱硫される。脱硫装置2によって脱硫処理された燃料ガスPは、改質装置3に供給される。また、脱硫部21においても、水添脱硫剤2aとして水蒸気の存在下で燃料ガスPから水素ガスを生成する改質反応に対する活性を有するニッケル系脱硫剤を用いることにより、燃料ガスPに含まれるメタンやプロパン等は、一部が水蒸気改質反応を生起し、水素と一酸化炭素(および二酸化炭素)に変換される。
【0045】
また、水素生成部22において生成した水素および脱硫部21で生じた水素は、脱硫部21において、水添脱硫反応による脱硫を効率よく進行させ、水添脱硫剤2aの性能向上、長寿命化に寄与する構成となっている。後述の実験例より、脱硫部21内に充填された水添脱硫剤2aは、長い寿命期間にわたって高い脱硫活性を維持できることがわかった。
【0046】
さらに、脱硫装置2は、脱硫部21内の水添脱硫剤2aを加熱する加熱手段23を備えている。加熱手段23は、脱硫装置2に設けられた温度センサSe2の温度検出値に基づき、水添脱硫剤2aを200℃〜400℃の加温状態とするように維持制御される。
これにより、水添脱硫剤2aに長期に亘ってその脱硫性能を良好に維持させることが可能となっている。その結果、所定の寿命期間に亘って水添脱硫剤2aの交換を不要、もしくは限られた回数とすることが可能となっている。
【0047】
また、水蒸気改質触媒2bは、水添脱硫剤2aに比べて十分少量であっても、水添脱硫剤2aを活性化するのに十分な水素を生成することがわかっている。以下の実施形態では、容積比率(水蒸気改質触媒2b:水添脱硫剤2a)で、ほぼ(1:2)の割合で水蒸気改質触媒2bと水添脱硫剤2aとが用いられている。この比率は、現実的には、(1:1)〜(1:5)程度に設定される。
【0048】
〔水添脱硫剤〕
上記脱硫部に充填される水添脱硫剤2aは、水添脱硫剤であれば、ニッケル−モリブデン系、コバルト−モリブデン系、ニッケル系等任意のものが用いられるが、一例として、以下に製造方法を示す、ニッケルを含浸担持した酸化銅−酸化亜鉛系脱硫剤が好適に用いられる。
【0049】
〔ニッケル系脱硫剤の製造方法〕
銅塩、亜鉛塩およびアルミニウム塩を所定の割合で含有する混合水溶液を、所定温度に保った炭酸ナトリウムの水溶液に撹拌しながら滴下し、沈殿を生じさせた後、沈殿を十分に水で洗浄し、濾過し、乾燥した。
【0050】
次いで、乾燥した沈殿を焼成し、水に加えてスラリーとした後、濾過し、乾燥し、成形助剤を添加し、押し出し成形した。
【0051】
次いで、得られた成形物をニッケル塩水溶液に含浸した後、乾燥し、焼成して、脱硫剤前駆体を得た。この脱硫剤前駆体を充填した脱硫部21に水素を含む窒素ガスを流通させ、加熱条件下で還元することにより、水添脱硫剤2aを得た。
【0052】
〔水蒸気改質触媒〕
上記水素生成部22に設けられる水蒸気改質触媒2bは、水蒸気の存在下で燃料ガスPから水素ガスを生成する改質反応を行うものであれば任意のものが用いられ、好ましくは、耐硫黄水蒸気改質触媒が用いられ、さらに好適には、以下に製造方法を示す、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒が用いられる。
【0053】
〔水蒸気改質触媒の製造方法〕
粒状の無機酸化物担体に白金塩とイリジウム塩との混合水溶液を含浸し、乾燥した。これを、NaOH水溶液に浸漬処理し、ヒドラジン水溶液で液相還元処理した。
その後、純水で洗浄処理した後、乾燥して、水蒸気改質触媒2bを得た。
【0054】
〔改質装置〕
改質装置3は、脱硫装置2によって脱硫処理された燃料ガスPを改質して、水素を主成分とする改質ガスRを生成させる。改質装置3は、ルテニウム、ニッケル、白金等の改質触媒(不図示)を有する。また、改質装置3には、水蒸気生成装置14で生成された水蒸気が、脱硫装置2によって脱硫処理後の燃料ガスPに混合される形態で供給される。燃料ガスPに混合される水蒸気量は、水蒸気流量調整弁14aによって調節される。そして、改質装置3は、燃料ガスPを、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む改質ガスRに改質する。燃料ガスPが、メタンを主成分とするガスである場合、メタンと水蒸気とが改質反応して、水素と一酸化炭素と二酸化炭素を含む改質ガスRに改質処理される。
【0055】
改質装置3によって改質処理された改質ガスRは、一酸化炭素変成装置4に供給される。
【0056】
〔一酸化炭素変成装置〕
一酸化炭素変成装置4は、改質装置3にて改質処理された改質ガスRに含まれる一酸化炭素を低減するように処理する。一酸化炭素変成装置4は、鉄−クロム系、銅−亜鉛系等の一酸化炭素変成触媒(不図示)を有する。一酸化炭素変成装置4においては、一酸化炭素変成触媒の触媒作用により、改質装置3で生成された改質ガスR中に残留する一酸化炭素と水蒸気とが、例えば200℃〜300℃程度の反応温度で変成反応して、一酸化炭素が二酸化炭素に変成処理される。
【0057】
一酸化炭素変成装置4によって変成処理された改質ガスRは、一酸化炭素除去装置5に供給される。
【0058】
〔一酸化炭素除去装置〕
一酸化炭素除去装置5は、一酸化炭素変成装置4にて変成処理された改質ガスR中に残留している一酸化炭素を選択的に酸化して除去する。一酸化炭素除去装置5は、ルテニウムや白金、パラジウム、ロジウム等の一酸化炭素除去触媒(不図示)を有する。一酸化炭素除去装置5においては、一酸化炭素除去触媒の触媒作用により、100℃〜200℃程度の反応温度で改質ガスR中に残留している一酸化炭素が、添加される空気中の酸素によって選択的に酸化される。その結果、一酸化炭素濃度の低い(例えば10ppm以下)、水素リッチな改質ガスR(燃料)が生成される。生成された水素リッチな改質ガスRは、燃料電池6に供給される。
【0059】
〔燃料電池〕
燃料電池6は、改質装置3から供給される改質ガスRを燃料として用いて発電する。本実施形態では、上記のとおり改質装置3から供給される改質ガスRは、一酸化炭素変成装置4および一酸化炭素除去装置5を経ることで水素リッチな状態となっており、燃料電池6は、この水素リッチな改質ガスRを燃料として用いて発電を行う。このような燃料電池6としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)等、各種方式のものを採用することができる。燃料電池6は、各方式に応じてそれぞれ常温よりも高い温度で運転される。本実施形態では、燃料電池6として固体高分子形燃料電池(PEFC)が採用されており、燃料電池6は80〜100℃の温度で運転される。本実施形態にかかる燃料電池6では、白金触媒の存在下、一酸化炭素除去装置5から供給される水素リッチな改質ガスRと、ブロア15から供給される酸素(空気)との反応により、直流電力DCが取り出される。
【0060】
燃料電池6により発電されて取り出された直流電力DCは、電力変換器7へ送られる。
電力変換器7は、直流電力DCを所定周波数の交流電力ACに変換する。交流電力ACは、商用電力系統と連系して電気機器等の電力負荷(不図示)に供給されるように構成されている。
【0061】
〔排熱回収機構〕
本実施形態においては、燃料電池6から排出される排熱を熱源として水添脱硫剤2aを加熱可能な状態で、加熱手段23が設けられている。
燃料電池発電システムSは、図2に示すように、燃料電池6から排出される排熱を回収する排熱回収機構8を備えている。排熱回収機構8は、燃料電池6から排出される排熱を回収するとともに、当該回収された熱を水添脱硫剤2aへ供給するための機構である。排熱回収機構8は、燃料電池6からの排ガスと排熱回収回路80内を流通する排熱回収水との間の熱交換を行わせるための熱交換器82を備えている。ポンプ81を作動させることにより、排熱回収回路80内を流通する排熱回収水は、熱交換器82で燃料電池6からの排ガスとの間で熱交換を行う。熱交換器82を通過する際に加熱された排熱回収水は、脱硫装置2の加熱手段23に供給されて脱硫部21内の水添脱硫剤2aを加熱する。水添脱硫剤2aを加熱した後の排熱回収水は、貯湯タンク83に貯えられる。すなわち、貯湯タンク83に貯えられる排熱回収水が有する熱量の形態で、回収された熱が蓄熱される。
【0062】
貯湯タンク83は、上部に高温の湯水が滞留する高温層を形成するとともに、その高温層の下部に低温の湯水が滞留する形態で湯水を貯留する、所謂温度成層型に構成されている。本実施形態では、水添脱硫剤2aを加熱した後の比較的高温の排熱回収水は、貯湯タンク83の上端近傍に供給される。そして、ポンプ81が作動することにより、貯湯タンク83の上端部に滞留する高温層から比較的高温の湯水が排熱回収水として熱交換器82に供給される。以上の動作を繰り返すことにより、燃料電池6から排出される排熱を回収するとともに水添脱硫剤2aを加熱することが可能とされている。なお、燃料電池6が発電を開始する前であっても、貯湯タンク83の上端部に滞留する比較的高温の湯水の熱が脱硫部21内の水添脱硫剤2aに供給されることにより、水添脱硫剤2aを加熱することが可能である。すなわち、貯湯タンク83内の排熱回収水が有する熱量の形態で蓄熱された熱が、脱硫部21内の水添脱硫剤2aに供給される。
【0063】
本実施形態では、回収された熱は、さらに熱負荷84へも供給されるように構成されている。すなわち、貯湯タンク83の上端部に滞留する比較的高温の湯水は、さらに熱負荷84へも供給されるように構成されている。このように、燃料電池6の発電に伴う排熱を有効利用することにより、燃料電池発電システムSの総合的なエネルギ効率の向上が図られている。なお、排熱回収機構8が、貯湯タンク83から供給される湯水を加熱するためのバックアップヒーターを備える構成としても好適である。このようにすれば、貯湯タンク83から湯水が水添脱硫剤2aや熱負荷84に供給される際に、湯水温度が脱硫剤2aや熱負荷84において要求される温度に達していない場合に、湯水を適切に加熱することができる。
【0064】
また、水添脱硫剤2aが長期に亘ってその脱硫性能が良好に維持されるので、脱硫装置2が組み込まれた燃料電池発電システムSに備えられた改質装置3の改質触媒が、DMS等の硫黄化合物によって被毒して性能劣化を引き起こすのを長期に亘って有効に抑制することも可能となる。したがって、改質装置3および燃料電池6の状態が長期に亘って良好な状態に維持されるので、本実施形態にかかる燃料電池発電システムSは、長期に亘って安定的に発電を行うことが可能となっている。
【0065】
〔制御装置〕
次に、制御装置30の構成について説明する。燃料電池発電システムSが備える制御装置30は、図1に示すように、燃料電池発電システムSの各部の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしており、脱硫制御部31とシステム制御部(不図示)との各機能部を備えて構成されている。また、制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出しおよび書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)または別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部が構成される。各機能部は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。
【0066】
また、この燃料電池発電システムSは、システム内の各部に設けられた複数のセンサ、具体的には、露点センサ等からなる水蒸気センサSe1や温度センサSe2を備えている。水蒸気センサSe1は、脱硫部21の上流側の燃料ガスPの供給路に設けられている。この水蒸気センサSe1は、脱硫部21に流入する燃料ガスPの水蒸気量を検出するセンサであり、例えば静電容量式露点計等を用いて実現できる。温度センサSe2は、脱硫部21の近傍に設けられている。この温度センサSe2は、脱硫部21内に収容された水添脱硫剤2aの温度を検出するセンサであり、放射温度計等の非接触式温度計や、表面温度計等の接触式温度計等を用いて実現できる。
これらの水蒸気センサSe1および温度センサSe2による検出結果を示す情報は、制御装置30へ出力される。制御装置30は、水蒸気センサSe1および温度センサSe2による出力を基に、加熱手段23、水蒸気生成装置14からの水蒸気供給量(水蒸気流量調整弁11a、14aの開度)、燃料電池6の加熱動作を制御する加熱制御部32を備える。
【0067】
なお、制御装置30は、ガス流量調整弁12および水蒸気流量調整弁11aの開度、ポンプ13の動作、ブロア15の動作、並びに電力変換器7の動作等の制御も行なうように構成されている。
【0068】
〔実施例1〕
(耐硫黄水蒸気改質触媒(1質量%白金−1質量%イリジウム/ジルコニア触媒)の調製)
3mm径×3mm長のタブレット形状の無機酸化物担体としてのジルコニア9.8gに塩化白金酸と塩化イリジウム混合水溶液4mL(白金、イリジウム含有量各0.1g)を全量含浸し、80℃で3時間乾燥し、0.375N−NaOH水溶液で20時間浸漬処理し、1質量%ヒドラジン水溶液で液相還元処理し、純水で洗浄処理した後、80℃で3時間乾燥して、ジルコニアに1質量%白金および1質量%イリジウムを担持させてなる触媒(1質量%白金−1質量%イリジウム/ジルコニア触媒のように略称する場合がある)を得た。
【0069】
(水素生成試験)
上記耐硫黄水蒸気改質触媒を用いて、以下の条件により都市ガスの水蒸気改質試験を行い、ガス導入1時間後の触媒出口ガス中の水素濃度を測定した。その結果、水素が生成することを確認した。その時の生成ガス中の水素濃度(試験開始1時間経過後)を表1に示す。
【0070】
(水素生成試験条件)
触媒温度:200℃、250℃、300℃、350℃、400℃
都市ガス組成:メタン88.9体積%、エタン6.8体積%、プロパン3.1体積%、ブタン1.2体積%、ジメチルサルファイド2.6体積ppm、ターシャルブチルメルカプタン1.7体積ppm
都市ガス流量:1L/min(N)
水蒸気添加量:都市ガス流量に対して10mol%
水素濃度分析方法:島津製TCD検出器付きガスクロマト分析計
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1より、1質量%白金−1質量%イリジウム/ジルコニア触媒は、水蒸気の存在下で燃料ガスPから水素ガスを生成する改質反応を行う能力が高く、200℃〜400℃において脱硫部21の水添脱硫剤2aを長寿命に使用するのに十分な水素を生成する能力を有していることがわかる。なお、水蒸気改質触媒2bとしては、触媒金属成分として、ニッケル、鉄、コバルト、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウムなどの触媒を用いたものが種々利用されており、担体としても、ジルコニア、アルミナ、チタニア等種々の金属酸化物(無機酸化物)を用いることが知られている。これらの水蒸気改質触媒2bはいずれも利用することができるが、もちろん反応性に富み耐久性の高いものを採用することが好ましく、水蒸気改質触媒2bが、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分を、無機酸化物担体に担持してある耐硫黄水蒸気改質触媒であることが好ましく、無機酸化物担体がジルコニア、アルミナ、チタニアより選ばれる群から選ばれる少なくとも一種を主成分とするものであることが好ましい。
【0073】
〔実施例2〕
(ニッケル系脱硫剤(ニッケル/銅−亜鉛−アルミナ触媒)の調製)
硝酸銅、硝酸亜鉛および水酸化アルミニウムを1:1:0.3の割合(モル比)で含有する混合水溶液(濃度はそれぞれ0.5mol/L)を、約60℃に保った炭酸ナトリウムの水溶液(濃度0.6mol/L)に撹拌しながら滴下し、沈殿を生じさせた後、沈殿を十分に水で洗浄し、濾過し、乾燥した。次いで、乾燥した沈殿を約280℃で焼成し、水に加えてスラリーとした後、濾過し、乾燥し、成形助剤(グラファイト)を添加し、直径1/8インチに押し出し成形した。次いで、得られた成形物を硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.2mol/L)に含浸した後、乾燥し、約300℃で焼成して、脱硫剤2aを得た。脱硫剤2aのニッケル含有量は5質量%であった。
【0074】
(都市ガスの脱硫試験)
図1に示す脱硫装置2に対して、上記ニッケル系脱硫剤(水添脱硫剤2a:脱硫部21に充填)と実施例1で調製した耐硫黄水蒸気改質触媒(水蒸気改質触媒2b:水素生成部22に充填)を用いて、以下の条件で都市ガスの脱硫性能試験を実施した。この試験において、脱硫ガス中にジメチルサルファイドが0.02体積ppm検出されるまでの時間(破過時間)と、その時点の脱硫ガス中の水素濃度(破過時水素濃度)を表2に示す。
【0075】
(都市ガス脱硫試験条件)
耐硫黄水蒸気改質触媒:10mL(水添脱硫剤に対しガス入口側に配置)
ニッケル系脱硫剤量:20mL(耐硫黄水蒸気改質触媒に対しガス出口側に配置)
前処理:温度250℃で、水素20体積%を含む窒素ガス1L/minを1時間流通
脱硫温度:250℃
都市ガス組成:メタン88.9体積%、エタン6.8体積%、プロパン3.1体積%、ブタン1.2体積%、ジメチルサルファイド2.6体積ppm、ターシャルブチルメルカプタン1.7体積ppm
都市ガス流量:1L/min(N)
水蒸気添加量:都市ガス流量に対して10体積%
硫黄濃度分析方法:島津製FPD検出器付きガスクロマト分析計
【0076】
〔比較例1〕
ニッケル系脱硫剤2aを充填した脱硫部21のガス入口側に耐硫黄水蒸気改質触媒2bを充填した水素生成部22を配置しない(ニッケル系脱硫剤のみ用いた)他は、実施例2と同じ条件で、都市ガスの脱硫試験を実施した。この試験において、脱硫ガス中にジメチルサルファイドが0.02体積ppm検出されるまでの時間と、その時点の脱硫ガス中の水素濃度を表2に示す。
【0077】
〔比較例2〕
水を添加しない他は、比較例1と同じ条件で、都市ガスの脱硫試験を実施した。この試験において、脱硫ガス中にジメチルサルファイドが0.02体積ppm検出されるまでの時間と、その時点の脱硫ガス中の水素濃度を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
都市ガスの脱硫試験における実施例2および比較例1、2を比較すると、従来の脱硫触媒の使用形態に対応する比較例2では、ニッケル系脱硫剤を付臭剤が破過するまでの破過時間は、十分に長いとは言えず、ニッケル系脱硫剤に水素がほとんど作用していないことがわかる。これに対し、比較例1のように、水蒸気供給が行われ、耐硫黄水蒸気改質触媒による水素生成部を設けないものの、ニッケル系脱硫剤による自己水素生成による水素が存在する条件とすると、比較例2に比べて、寿命延長効果がみられるが、破過時水素濃度は十分とは言えず、ニッケル系脱硫剤に対する寿命延長効果が十分でないことが覗える。これらに対して、実施例2のように、耐硫黄水蒸気改質触媒による水素生成部を設けた場合に、破過時間は最も長く、水素の生成量も十分高くなっていることが分かった。すなわち、水素生成部に水蒸気改質触媒を設けて脱硫部の上流側に設けてあれば、脱硫部に十分量の水素が常時供給される環境を維持することができ、脱硫剤の長寿命化に寄与していることがわかる。
【0080】
なお、実施例2によると、ここで用いた水蒸気改質触媒は、破過時水素濃度が十分に高く、耐硫黄性能が高いこともわかる。また、水蒸気改質触媒としてより高活性なものを用いれば、水素生成部が十分小さくとも、ニッケル系脱硫剤の活性維持に必要な水素を供給し続けることができる。これにより、水素生成部を設けたとしても、脱硫部が小さくても十分機能する脱硫装置を構成できるので、装置全体としてのコンパクト化に寄与し、水素生成部が脱硫部に比べて小容量に形成されていればさらに装置全体としてのコンパクト化に寄与することが明らかである。なお、水素生成部を設けるのに代えて、供給部に水素ガス供給部を設けて水添脱硫を促すための水素を供給する構成を想定しても、水素供給配管が不要であることから装置全体のコンパクト化が図られていることが明らかである。
【0081】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、水素生成部22と脱硫部21とは脱硫装置2内部の一体の容器内に配置する構成を示したが、水素生成部22と脱硫部21とは別体に構成することもできる。いずれの場合であっても、水素生成部22で生成した水素ガスが脱硫部21に供給される構成であればよく、同一容器内に設けたほうが、装置全体をコンパクトに構成することが可能であり、別体に構成した場合、水素生成部22において先に劣化した水蒸気改質触媒2bのみを容易に交換可能にする構成を採用しやすく、水蒸気改質触媒2bとして、耐硫黄性能として十分に優れたものを採用し得ないような環境では有利に働く。
【0082】
(2)先にも述べたが、水蒸気改質触媒2bや水添脱硫剤2aについては、触媒金属成分や担体の組成、成分等について、公知の種々汎用のものを採用することができるが、さらに、担体の形状や、製法についても種々公知のものを採用することができる。
すなわち、担体としてはペレット状(粒状)のものを採用するのに代えて粉末状のものであってもよいし、薄膜状に形成されるものであってもよい。製造方法としても、触媒金属成分を微粒子状に担持させるにあたって、ゾルゲル法を用いたり、含浸法で担体上に触媒金属成分を担持したり、担体に担持した後湿式還元による後処理をおこなったりしたが、これに限るものではない。たとえば、ゾルゲル法に拠らずとも触媒金属成分を微粒子化することはできるし、後処理として還元処理を行うとしても湿式である必要はない。しかし、ゾルゲル法は、比較的細かい粒子を簡便かつ効率よく製造するのに有効であり、含浸法は、微粒子を担体に供給する場合に簡便かつ汎用的であり、湿式還元処理をおこなえば特に活性の高い触媒金属成分を高分散に担体上に担持させるのに有効であることが知られている。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、長期的に安定してニッケル系の脱硫剤を活性高く利用できる脱硫方法および装置を提供し、もって、硫黄成分の除去された燃料ガスを安定供給可能な燃料電池発電システム等として利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 :燃料ガス供給部
11 :水蒸気供給部
11a :水蒸気流量調整弁
12 :ガス流量調整弁
13 :ポンプ
14 :水蒸気生成装置
14a :水蒸気流量調整弁
15 :ブロア
2 :脱硫装置
2a :水添脱硫剤
2b :水蒸気改質触媒
20 :供給部
21 :脱硫部
22 :水素生成部
23 :加熱手段
3 :改質装置
30 :制御装置
31 :脱硫制御部
32 :加熱制御部
4 :一酸化炭素変成装置
5 :一酸化炭素除去装置
6 :燃料電池
7 :電力変換器
8 :排熱回収機構
80 :排熱回収回路
81 :ポンプ
82 :熱交換器
83 :貯湯タンク
84 :熱負荷
AC :交流電力
DC :直流電力
P :燃料ガス
R :改質ガス
S :燃料電池発電システム
Se1 :水蒸気センサ
Se2 :温度センサ
図1
図2