特許第6381470号(P6381470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381470
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】熱音響設備、及びそれを備えた気化器
(51)【国際特許分類】
   F03G 7/00 20060101AFI20180820BHJP
   F02G 1/055 20060101ALI20180820BHJP
   F25B 9/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   F03G7/00 B
   F02G1/055 G
   F25B9/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-65317(P2015-65317)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-183655(P2016-183655A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2017年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】金内 健
(72)【発明者】
【氏名】高谷 怜
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−266571(JP,A)
【文献】 特開2011−214424(JP,A)
【文献】 特開2000−205677(JP,A)
【文献】 特開2011−127870(JP,A)
【文献】 特開2010−071238(JP,A)
【文献】 特開2011−002119(JP,A)
【文献】 米国特許第2836033(US,A)
【文献】 米国特許第4114380(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/00
F02G 1/055
F25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動媒体が充填され音波が伝播する音響筒に、前記作動媒体を外部から加熱する加熱器と前記作動媒体を外部から冷却する冷却器と前記加熱器と前記冷却器との間で音波を増幅する再生器とから成る原動機を少なくとも1つ以上設けると共に、音波の振動から電力を発生させる電力発生機を設ける熱音響機関を、少なくとも1つ以上有する熱音響設備であって、
前記冷却器は、外部から供給される低温冷媒と前記音響筒の内部の前記作動媒体とを熱交換可能に構成されており、
前記音響筒で前記原動機と前記電力発生機とが備えられた部分以外で音波が共鳴する共鳴部において、外部から供給される低温冷媒を当該共鳴部の近傍に通流させて前記作動媒体と熱交換する形態で、当該共鳴部の内部の作動媒体を冷却する作動媒体冷却機構を備え、
一の熱音響機関に関し、外部から供給される低温冷媒を、前記冷却器にて前記作動媒体と熱交換させた後に、前記作動媒体冷却機構にて前記作動媒体と熱交換させる低温冷媒通流路が設けられている熱音響設備。
【請求項2】
前記作動媒体冷却機構は、内部に低温冷媒を通流すると共に前記共鳴部として働く前記音響筒の外周面に、外面が密接して設けられる低温冷媒通流体から構成されている請求項1に記載の熱音響設備。
【請求項3】
前記低温冷媒通流体は、前記共鳴部として働く前記音響筒の回りを気密に外囲する外囲筒から構成されており、前記共鳴部として働く前記音響筒との間に低温冷媒を通流する形態で前記作動媒体を冷却する請求項2に記載の熱音響設備。
【請求項4】
前記音響筒の筒軸心方向において、前記加熱器が設けられている部位の端部と、前記作動媒体冷却機構としての前記低温冷媒通流体の端部とは、当該低温冷媒通流体による冷却効果が前記加熱器へ及ぶことを抑制する冷却抑制距離だけ離間して設けられている請求項2又は3に記載の熱音響設備。
【請求項5】
前記共鳴部として働く前記音響筒の内部には、前記音響筒の筒軸心方向において、前記加熱器が設けられている部位の端部と、前記作動媒体冷却機構としての前記低温冷媒通流体の端部との間で、前記再生器が設けられていない領域に、前記作動媒体の流動を抑制する流動抑制機構が設けられている請求項2〜4の何れか一項に記載の熱音響設備。
【請求項6】
前記音響筒の外径部位には、前記音響筒の筒軸心方向において、前記再生器が設けられている部分の筒外周部位に沿い、且つ前記音響筒の筒径よりも大径の外形を有する円環状の断熱部材が設けられている請求項1〜5の何れか一項に記載の熱音響設備。
【請求項7】
前記熱音響機関が複数設けられ、
前記低温冷媒通流路は、前記熱音響機関のすべての前記冷却器に低温冷媒を導いて前記作動媒体と熱交換させた後に、前記作動媒体冷却機構に低温冷媒を導いて前記作動媒体と熱交換させるように配設されている請求項1〜6の何れか一項に記載の熱音響設備。
【請求項8】
一の前記熱音響機関に複数の前記原動機が設けられ、
前記低温冷媒通流路は、上流にて低温冷媒を通流する低温冷媒通流本管と、当該低温冷媒通流本管から分岐する複数の低温冷媒分岐支管とから構成され、
前記低温冷媒分岐支管の夫々は、前記原動機の前記冷却器の夫々に1対1で対応して配設されている請求項1〜7の何れか一項に記載の熱音響設備。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の熱音響設備を備えた気化器であって、
低温冷媒を加熱する加熱用熱交換器と、当該加熱用熱交換器にて加熱された低温冷媒を直接膨張する直膨タービンと、当該直膨タービンにて回転駆動される発電機とを備える直膨流路とを備え、
前記低温冷媒通流路は、前記低温冷媒を、前記原動機の前記冷却器と前記作動媒体冷却機構とを通過した後に、前記直膨流路へ導くように配設されている気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動媒体が充填され音波が伝播する音響筒に、前記作動媒体を外部から加熱する加熱器と前記作動媒体を外部から冷却する冷却器と前記加熱器と前記冷却器との間で音波を増幅する再生器とから成る原動機を少なくとも1つ以上有すると共に、前記音波の振動から電力を発生させる電力発生機を有する熱音響機関を、少なくとも1つ以上有する熱音響設備、及びそれを備えた気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる温度の熱媒が保有する熱エネルギを音波の振動エネルギに変換するものとして、熱音響機関が知られている(特許文献1を参照)。
このような熱音響機関は、例えばヘリウム等の作動媒体が充填され音波が伝播する音響筒と、当該作動媒体を外部から加熱する加熱器と作動媒体を外部から冷却する冷却器と加熱器と冷却器との間で音波の振動エネルギを増幅する再生器とから成る原動機を少なくとも1つ以上有する。
【0003】
このように、音響筒の内部にて増幅された音波の振動エネルギは、例えば、特許文献2に示すように、音波を受ける受波部材(振動部材)と、受波部材に固定された磁石と、磁石の周囲に配置されたインダクタンスコイル等から成る発電機により、電気エネルギに変換される形態で、取り出される。
【0004】
熱音響機関において、再生器は、例えば、特許文献3に示すように、音響筒の筒軸心方向に沿って音響筒の内部空間を埋める筒状体から成り、当該筒状体には、音響筒の筒軸心方向に沿う貫通軸を有する複数の貫通孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−096387号公報
【特許文献2】特開2005−180396号公報
【特許文献3】特許第5616287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に開示の熱音響機関では、全体を小型化することが一つの課題となっており、小型化を図ることにより単位体積あたりのエネルギ変換効率を高めることができる。ここで、当該熱音響機関の体積は、音響筒の長さに大きく依存し、上記特許文献3に示されるように、音響筒の長さを決定する一つのパラメータは、音響筒の内部を伝播する音波の波長であるが、当該音波の波長は、再生器の貫通孔の開孔径に依存する。
【0007】
一方で、当該貫通孔の開孔径は、熱音響機関の音波の振動エネルギの増幅率の一つのパラメータとなっており、当該開孔径は、音波の振動エネルギの増幅率を大きくするように決定される。従って、貫通孔の開孔径は、音波の波長を小さくして、音響筒の長さを短くするためだけに決定することはできなかった。
以上のような状況であるため、現状の熱音響機関は、全体の小型化を図りつつ単位体積あたりのエネルギ変換効率を高める観点からは、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、全体の小型化を図り、単位体積当たりのエネルギ変換効率を高めることができる熱音響設備、及びそれを備えた気化器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための熱音響設備は、作動媒体が充填され音波が伝播する音響筒に、前記作動媒体を外部から加熱する加熱器と前記作動媒体を外部から冷却する冷却器と前記加熱器と前記冷却器との間で音波を増幅する再生器とから成る原動機を少なくとも1つ以上設けると共に、音波の振動から電力を発生させる電力発生機を設ける熱音響機関を、少なくとも1つ以上有する熱音響設備であって、その特徴構成は、
前記冷却器は、外部から供給される低温冷媒と前記音響筒の内部の前記作動媒体とを熱交換可能に構成されており、
前記音響筒で前記原動機と前記電力発生機とが備えられた部分以外で音波が共鳴する共鳴部において、外部から供給される低温冷媒を当該共鳴部の近傍に通流させて前記作動媒体と熱交換する形態で、当該共鳴部の内部の作動媒体を冷却する作動媒体冷却機構を備え、
一の熱音響機関に関し、外部から供給される低温冷媒を、前記冷却器にて前記作動媒体と熱交換させた後に、前記作動媒体冷却機構にて前記作動媒体と熱交換させる低温冷媒通流路が設けられている点にある。
【0010】
上記特徴構成によれば、熱音響機関の冷却器に導かれる冷熱源としての冷媒として低温の冷媒を用いているから、例えば、加熱器へコジェネレーションシステム等からの排熱を保有する熱媒を供給することで、冷却器での低温側温度と加熱器での高温側温度との温度差を十分に大きくして、再生器にて音波の振動エネルギを良好に増幅できる。
更に、上記特徴構成にあっては、共鳴部の内部の作動媒体を冷却する作動媒体冷却機構を備えると共に、当該作動媒体冷却機構に原動機の冷却器を通過した後の低温冷媒を供給する低温冷媒通流路を備えているから、音波の振動エネルギの増幅に用いられた残りの低温冷媒の冷熱を用いて、共鳴部の作動媒体を冷却することで、下記の〔式1〕の関係式に従う形態で、当該作動媒体を伝播する音波の波長を短くできる。
【0011】
【0012】
熱音響機関においては、作動媒体の物性、圧力、再生器の流路径によって決定される熱緩和時間τと角振動数ωの積ωτが0.1〜3.0程度になるときに、再生器で音波が増幅される。上記の条件を満たす振動数において、音響筒が共鳴を生じる長さである時に、熱音響機関は発振する。発振可能な周波数は上記の条件で制限されるため、音響筒を小型化する場合、波長を短くする必要がある。
そこで、本発明にあっては、音響筒の共鳴部の作動媒体を冷却することで、上記〔式1〕に従って音速Cを小さくし、音波の波長を短くすることで、筒長さを短くしているのである。
結果、音響筒の長さを短くして、全体としての小型化を図りつつ、単位体積あたりのエネルギ変換効率を高めることができる熱音響設備を提供できる。
【0013】
熱音響設備の更なる特徴構成は、
前記作動媒体冷却機構は、内部に低温冷媒を通流すると共に前記共鳴部として働く前記音響筒の外周面に、外面が密接して設けられる低温冷媒通流体から構成されている点にある。
【0014】
例えば、低温冷媒としてLNGを用いる場合、初期供給温度が−160℃程度となり、当該LNGが、空気中に配設される配管等の内部を通流する場合、その配管の外面には着霜が発生する場合がある。
上記特徴構成によれば、内部に低温冷媒を通流する低温冷媒通流体は、その外面が共鳴部として働く音響筒の外周面に密接する形態で設けられるから、当該低温冷媒通流体と音響筒の間に着霜が発生することを防止でき、低温冷媒通流体を通流する低温冷媒と音響筒内の作動媒体との熱交換を良好に行わせることができる。結果、作動媒体を適切に冷却し当該作動媒体を伝播する音波の波長を短くして、音響筒を短く構成することができる。
【0015】
熱音響設備の更なる特徴構成は、
前記低温冷媒通流体は、前記共鳴部として働く前記音響筒の回りを気密に外囲する外囲筒から構成されており、前記共鳴部として働く前記音響筒との間に低温冷媒を通流する形態で前記作動媒体を冷却する点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、低温冷媒を共鳴部として働く音響筒の外周面に直接接触させる形態で、作動媒体を冷却できるから、作動媒体の冷却効率を高めることができる。
結果、より効率良く、作動媒体を冷却して作動媒体を伝播する音波の波長を短くして、音響筒を短くできる。
【0017】
熱音響設備の更なる特徴構成は、
前記音響筒の筒軸心方向において、前記加熱器が設けられている部位の端部と、前記作動媒体冷却機構としての前記低温冷媒通流体の端部とは、当該低温冷媒通流体による冷却効果が前記加熱器へ及ぶことを抑制する冷却抑制距離だけ離間して設けられている点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、音響筒の筒軸心方向に於いて、加熱器が設けられている部位と、作動媒体冷却機構としての低温冷媒通流体の端部とは、低温冷媒通流体による冷却効果が加熱器へ及ぶことを抑制する冷却抑制距離だけ離間して設けられているから、例えば、低温冷媒の冷熱により加熱器での作動媒体の加熱の効果が低下することを抑制できる。これにより、共鳴部として働く音響筒を低温冷媒で冷却する構成を採用する場合であっても、原動機での音波の振動エネルギの増幅効果が低減することを防止できる。
【0019】
熱音響設備の更なる特徴構成は、
前記共鳴部として働く前記音響筒の内部には、前記音響筒の筒軸心方向において、前記加熱器が設けられている部位の端部と、前記作動媒体冷却機構としての前記低温冷媒通流体の端部との間で、前記再生器が設けられていない領域に、前記作動媒体の流動を抑制する流動抑制機構が設けられている点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、作動媒体の流動を抑制する流動抑制機構を、筒軸心方向において、加熱器が設けられている部位の端部と、作動媒体冷却機構としての低温冷媒通流体の端部との間で、前記再生器が設けられていない領域に設けているから、低温冷媒通流体にて冷却された作動媒体が、加熱器が設けられている部位へ移動することを抑制し、加熱器による加熱の効果が低減することを防止できる。
結果、熱源機での音波の振動エネルギの増幅効果が低減することを防止できる。
【0021】
熱音響設備の更なる特徴構成は、
前記音響筒の外径部位には、前記音響筒の筒軸心方向において、前記再生器が設けられている部分の筒外周部位に沿い、且つ前記音響筒の筒径よりも大径の外形を有する円環状の断熱部材が設けられている点にある。
【0022】
これまで説明してきた熱音響設備の冷却器には、冷媒として低温冷媒を導く構成を採用しているが、低温冷媒としてLNG(初期導入温度がー60℃程度)を用いる場合、当該構成にあっては、冷却器の周囲において外気に含まれる水蒸気が冷却され凝固して着霜する場合がある。
このように形成された霜は、冷却器の周囲にあっては、低温冷媒の冷熱が大気へ放熱することを防止する効果を発揮するため、好ましいが、加熱器の周囲にまで広がって形成されると、加熱器の温熱を奪う虞がある。
そこで、上記特徴構成にあっては、音響筒の再生器が設けられている部分の筒外周部位に沿い且つ音響筒の筒径よりも大径の外形を有する円環状の断熱部材を設けることで、冷却器の周囲に形成される霜が、加熱器の側まで広がることを防止し、加熱器の回りに霜が形成され加熱器の温熱が当該霜により奪われることを良好に防止できる。
【0023】
熱音響設備の更なる特徴構成は、
前記熱音響機関が複数設けられ、
前記低温冷媒通流路は、前記熱音響機関のすべての前記冷却器に低温冷媒を導いて前記作動媒体と熱交換させた後に、前記作動媒体冷却機構に低温冷媒を導いて前記作動媒体と熱交換させるように配設されている点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、低温冷媒通流路は、熱音響機関のすべての冷却器に低温冷媒を導いた後に、作動媒体冷却機構に低温冷媒を導くように配設されているから、まずもって、低温冷媒が保有する冷熱のうち、熱音響機関で有用な低温の低温冷媒を用いることで、冷却器での低温の作動媒体と加熱器での高温の作動媒体との温度差を十分に大きくして、熱エネルギを、音波の振動エネルギとして、効率良く取り出すことができる。
さらに、低温冷媒の保有する冷熱のうち、比較的高温の冷熱で、熱音響機関としては有用性が低い比較的高温の低温冷媒にて、作動媒体冷却機構により共鳴部として働く音響筒内に位置する作動媒体を冷却するから、熱音響機関としては有用性が低い比較的高温の低温冷媒の冷熱を有効利用して、熱音響機関の小型化を図り、省スペース化を図ることができる。
【0025】
熱音響設備の更なる特徴構成は、
一の前記熱音響機関に複数の前記原動機が設けられ、
前記低温冷媒通流路は、上流にて低温冷媒を通流する低温冷媒通流本管と、当該低温冷媒通流本管から分岐する複数の低温冷媒分岐支管とから構成され、
前記低温冷媒分岐支管の夫々は、前記原動機の前記冷却器の夫々に1対1で対応して配設されている点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、一の熱音響機関に複数設けられる原動機の冷却器の夫々に対し、低温冷媒分岐支管を1対1対応で配設するから、複数の冷却器の夫々に、略等しい温度で低温の低温冷媒を導くことができる。これにより、例えば、複数の加熱器の側にも略等しい温度の熱媒を導く構成を採用すれば、複数の原動機で略等しい温度差で、音波の振動エネルギを効率良く増幅できる。
【0027】
これまで説明してきた熱音響設備を備えた気化器の特徴構成は、
低温冷媒を加熱する加熱用熱交換器と、当該加熱用熱交換器にて加熱された低温冷媒を直接膨張する直膨タービンと、当該直膨タービンにて回転駆動される発電機とを備える直膨流路とを備え、
前記低温冷媒通流路は、前記低温冷媒を、前記原動機の前記冷却器と前記作動媒体冷却機構とを通過した後に、前記直膨流路へ導くように配設されている点にある。
【0028】
熱音響設備に導かれた低温冷媒は、熱音響機関の作動媒体との熱交換だけでは十分に気化しきれない場合が考えられる。
上記特徴構成によれば、熱音響機関に導かれた後の低温冷媒が保有する残りの冷熱エネルギにて、直膨タービンを回転させ、当該直膨タービンにより発電機を回転駆動して電力を得るから、低温冷媒の保有する冷熱エネルギのうち、比較的高温のエネルギまでをも良好に回収できると共に、LNGを良好に気化できる気化器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係る熱音響設備の概略構成図
図2】別実施形態に係る熱音響設備の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施形態に係る熱音響設備100は、全体の小型化を図ることができると共に、単位体積当たりのエネルギ変換効率を高めることができるものに関する。
当該熱音響設備100は、図1に示すように、作動媒体が充填され音波が伝播するループ管から成る円筒状の音響筒Cと、作動媒体を外部から加熱する加熱器11a、11bと、作動媒体を外部から冷却する冷却器12a、12bと、当該冷却器12a、12bと加熱器11a、11bとの間で音波を増幅する再生器13a、13bとから成る原動機10a、10bを少なくとも1つ以上(当該実施形態では、2つ)有すると共に、音波の振動から電力を発生する電力発生機40を有する。
【0031】
音響筒Cは、図1に示すように、一対の直管状部位を有しており、一対の原動機10a、10bの夫々は、一対の直管状部位の夫々に対し1つづつ設けられている。また、当該実施形態においては、一対の原動機10a、10bは、音響筒Cの筒軸心方向において、両者の距離が最も遠くなる位置に配設されている。
【0032】
詳細な図示は省略するが、加熱器11a、11bは、外部から導かれ温熱を有する第2熱媒HW(例えば、エンジン冷却水)を通流するジャケット部(図示せず)と、当該ジャケット部から音響筒Cの内部に延びるフィン(図示せず)とから成る。加熱器11a、11bは、フィンがジャケット部を通流する第2熱媒HWにて加熱され、当該フィンから音響筒Cの内部の作動流体へ温熱を伝導する形態で、作動流体を加熱する。
【0033】
同様に、冷却器12a、12bは、外部から導かれる冷熱を有する第1熱媒CW(低温冷媒の一例:当該実施形態では、LNG)を通流するジャケット部(図示せず)と、当該ジャケット部から音響筒Cの内部に延びるフィン(図示せず)とから成る。冷却器12a、12bは、フィンがジャケット部を通流する第1熱媒CWにて冷却され、当該フィンから音響筒Cの内部の作動流体へ冷熱を伝導する形態で、作動流体が冷却される。
【0034】
加熱器11a、11bと冷却器12a、12bとの間に設けられる再生器13a、13bは、例えば、音響筒Cの筒軸心方向に直交する方向に板面を沿わせた状態で、当該筒軸心方向に沿って複数並べられる薄板状部材(図示せず)から構成されている。
当該薄板状部材は、例えば、厚さが50μm以上100μm以下で、300枚〜600枚程度設けられる。当該薄板状部材には、筒軸心方向に沿う方向に貫通する多数の貫通孔(図示せず)が、その直径が200μm〜300μm程度で、設けられる。
【0035】
作動流体は、音響筒Cの内部において、その筒軸心方向で、微小な揺らぎを生じる状態で、存在している。換言すると、作動流体は、加熱器11a、11bと冷却器12a、12bとの両者間において、一方側から他方側への進行波と、他方側から一方側への進行波とを形成する形態で、揺らいでいる。
作動流体は、冷却器12a、12bから加熱器11a、11bの側への進行波を形成する場合、加熱器11a、11b近傍での再生器13a、13bとしての薄板状部材の複数の貫通孔を通過するときに当該貫通孔の内壁に接触して加熱されると共に、加熱器11a、11bのフィンにて直接加熱されることで、膨張する。一方、作動流体は、加熱器11a、11bから冷却器12a、12bの側への進行波を形成する場合、冷却器12a、12bの近傍での再生器13a、13bとしての薄板状部材の複数の貫通孔を通過するときに当該貫通孔の内壁に接触して冷却されると共に、冷却器12a、12bのフィンにて直接冷却されることで、収縮する。
これにより、進行波としての音波が自己励起振動を起こし、その振動エネルギが増幅される形態で、熱エネルギが音波の振動エネルギに変換される。
【0036】
作動媒体としては、酸素や窒素等からなる空気から構成することができる。ここで、再生器13a、13bでの熱交換が迅速になされることが望ましいため、作動媒体としては、熱拡散係数の高いヘリウム、水素が望ましい。また、発電を目的とする場合には、分子量の高い気体が望ましいため、アルゴン等の気体を混合しても良い。尚、熱的に安定していることから、当該実施形態では、作動媒体としてヘリウムを用いている。
【0037】
以上の如く、原動機10a、10bにて増幅された音波の振動エネルギは、音響筒Cにおいて、音波の振動から電力を発生させる電力発生機40にて電力へ変換される。
当該電力発生機40は、図1に示すように、音響筒Cの筒内部において、一の回転翼40cと、当該回転翼40cを挟む状態で設けられる一対の固定翼40a、40bを備えている。当該構成においては、回転翼40cは、一方の固定翼40aにて旋回され回転翼40cへ向かう音波と、他方の固定翼40bにて旋回され回転翼40cへ向かう音波との双方により、回転力を付与されることとなるが、一対の固定翼40a、40bは、両者により旋回される音波が回転翼40cへ付与する回転力の回転方向が同一方向となるように設けられている。
更に、回転翼40cには、誘導発電機としての回転子(図示せず)が設けられると共に、音響筒Cの筒軸心方向で回転翼40cが設けられている部位で音響筒Cの筒外径部位には、誘導発電機としての固定子40dが設けられおり、回転翼40cと共に回転子が回転することで固定子40dとしてのコイルにて誘導起電力Eを発生する。
当該構成を採用することにより、音響筒Cの内部で発生する音波の振動エネルギが、電気エネルギに変換される。
【0038】
さらに、一対の原動機10a、10bにおいて、音波の振動エネルギの増幅率は、加熱器11a、11bに導かれる第2熱媒HWと、冷却器12a、12bに導かれる第1熱媒CWと温度差が大きいほど大きくなる。そこで、本発明にあっては、特に、第1熱媒CWとして、LNGサテライト基地に備蓄されNG(天然ガス)へ気化される前の低温のLNG(例えば、−162℃程度の初期導入温度を有するLNG)を用いている。
【0039】
ここで、熱音響設備100は、音響筒Cの筒長さは、原動機10a、10bでの音波の振動エネルギの増幅率を所定以上に維持するべく、再生器13a、13bの貫通孔の孔径に依存する形態で音響筒C内で自励される音波の波長により決定される。例えば、作動媒体としてヘリウムを用いる場合で、筒内圧力が1MPa、筒内温度が20℃の場合、音響筒Cの筒軸長さは7m程度のものが用いられる。
尚、当該熱音響設備100の体積は、音響筒Cの筒軸長さに依存しているため、その全体を小型化して、単位体積あたりのエネルギ変換効率(熱から音波の振動エネルギへの変換効率)を高める意味からは、音響筒Cの筒軸長さを短くすることが好ましい。
一方で、原動機10a、10bの冷却器12a、12bを通過した後の第1熱媒CWとしてのLNGは、冷却器12a、12bでの熱交換量にもよるが、音響筒Cの内部の作動流体の温度よりも十分に低い温度となっている。
そこで、当該実施形態においては、冷却器12a、12bを通過した後の第1熱媒CWにて、音響筒Cの内部に充填される作動流体を冷却することで、音響筒Cの内部で自励される音波の波長を短くし、音響筒Cの筒軸長さを短くし小型化を図っている。
ここで、作動媒体の温度と作動媒体を伝播する音波の音速は、以下の〔式1〕に示す関係を有する。
【0040】
【0041】
説明を追加すると、音響筒Cで原動機10a、10bと電力発生機40とが備えられた部分以外で音波が共鳴する共鳴部において、第1熱媒CWとしてのLNGを、共鳴部の近傍に通流させて作動媒体と熱交換する形態で、共鳴部の内部の作動媒体を冷却する作動媒体冷却機構を備えている。
より詳しくは、当該作動媒体冷却機構は、図1に示すように、共鳴部として働く音響筒の回りを気密に外囲する外囲筒30から構成されており、共鳴部として働く音響筒Cとの間に第1熱媒CW(LNG)を通流する形態で、作動媒体を冷却する。
【0042】
以上の構成により、音響筒Cの内部の作動媒体は、良好に冷却されることになるのであるが、原動機10a、10bにおける音波の振動エネルギの増幅率を高める観点からは、加熱器11a、11bの近傍での作動媒体の温度は高いことが好ましい。
そこで、当該実施形態においては、音響筒Cの筒軸心方向において、加熱器11a、11bが設けられている部位の端部と、作動媒体冷却機構としての外囲筒30とが設けられている部位の端部とは、当該外囲筒30による作動媒体の冷却効果が加熱器11a、11bで加熱される作動媒体へ及ぶことを抑制する冷却抑制距離(図1でLで示す距離)だけ離間して設けられる。
当該冷却抑制距離は、共鳴部の作動流体の冷却度合を高める観点からは小さいことが好ましく、加熱器11a、11bにて作動流体の加熱度合を高める観点からは大きいことが好ましく、当該実施形態では、双方のバランスが取れる適切な距離に設定される。
【0043】
更に、音響筒Cの内部には、音響筒Cの筒軸心方向において、加熱器11a、11bが設けられている部位の端部と、作動媒体冷却機構としての外囲筒30とが設けられている部位の端部との間に、音響筒Cの内部空間を気密に仕切り、作動流体の流動を阻止する遮断壁50(流動抑制機構の一例)が設けられている。
これにより、作動媒体冷却機構としての外囲筒30にて冷却される作動流体から加熱器11a、11bにて加熱される作動流体への冷熱の拡散を防止すると共に、加熱器11a、11bにて加熱される作動流体から作動媒体冷却機構としての外囲筒30にて冷却される作動流体への温熱の拡散を防止する。
尚、遮断壁50は、音響筒Cの筒軸心方向において、音波の振動の伝播を阻害しない状態で設けられることが好ましく、音響筒C筒軸心方向で振動できる程度の柔軟性を有するものが好ましい。材料としては、金属、ガラス、セラミックス、樹脂、ゴム、繊維等が挙げられる。
【0044】
更に、当該実施形態にあっては、第1熱媒CWとしてLNGを用いている関係で、冷却器12a、12bの周囲に着霜する場合がある。当該霜は、冷却器12a、12bの周囲に付着する分には、冷却器12a、12bからの冷熱の外部への拡散を抑制する意味で好ましいが、加熱器11a、11bの側まで広がると、加熱器11a、11bから温熱を奪う虞がある。
音響筒Cには、音響筒Cの筒軸心方向において、再生器13a、13bが設けられている部分の筒外周部位に沿い且つ音響筒Cの筒径よりも大径の外形を有する円環状の断熱部材51a、51bが設けられている。これにより、原動機10a、10bの夫々において、冷却器12a、12bの周囲に付着する霜が、加熱器11a、11bの側へ広がることを防止している。
【0045】
第1熱媒CWを通流する第1熱媒通流路20(低温冷媒通流路の一例)について説明を加える。
当該実施形態にあっては、第1熱媒通流路20は、第1熱媒CWを、一対の原動機10a、10bの冷却器12a、12bの夫々に、順に通流させた後、作動流体冷却機構としての外囲筒30と音響筒Cとの間の部位に通流させるように配設されている。これにより、第1熱媒CWとしてのLNGが保有する冷熱を、原動機10a、10bにて音波の振動エネルギへ変換させ、残りの冷熱にて、音響筒Cの共鳴部に位置する作動流体を冷却している。
一方、第2熱媒HWを通流する第2熱媒通流路70は、原動機10a、10bの加熱器11a、11bの夫々に対し、順に第2熱媒HWを通流させるように配設されている。
尚、一対の原動機10a、10bに対する第1熱媒CW、第2熱媒HWの通流順序に関し、第1熱媒CWの通流順序と、第2熱媒HWの通流順序とが逆順序となるように、第1熱媒通流路20及び第2熱媒通流路70が配設されている。これにより、各原動機10a、10bの夫々での温度差を大きくしている。
【0046】
尚、当該実施形態に係る構成を用いることで、作動流体を20℃程度から−100℃程度まで冷却することができ、これにより、音響筒Cを伝播する音波の音速を低下して、音響筒Cの筒長さを20%短くすることができる。
【0047】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、熱音響設備100の一の熱音響機関に対し、複数(2つ)の原動機10a、10bを備え、第1熱媒通流路20が、夫々の原動機10a、10bに対して、順に(直列に)第1熱媒CWを導く例を示した。しかしながら、当該複数の原動機10a、10bに対しては、第1熱媒CWを並列に導くようにしても構わない。
例えば、第1熱媒通流路20は、図2に示すように、上流側にて第1熱媒CWを通流する第1熱媒通流本管20aと、当該第1熱媒通流本管20aから分岐する複数の第1熱媒通流支管20b、20cとから構成され、当該第1熱媒通流支管20b、20cの夫々は、原動機10a、10bの冷却器12a、12bの夫々に1対1で対応する状態で配設される。これにより、原動機10a、10bの冷却器12a、12bの夫々に対して、同一温度の第1熱媒CWを通流することができる。
【0048】
更に、当該別実施形態においては、熱音響設備100は、複数(当該別実施形態では2つ)の熱音響機関として、第1熱音響機関100a、第2熱音響機関100bを備えて構成されており、複数(当該別実施形態では2つ)の音響筒C1、C2の夫々は、図2に示すように、同数(当該別実施形態では2つ)の原動機10を備えている。換言すると、第1音響筒C1は、2つの原動機10a、10bを備えると共に、第2音響筒C2は、2つの原動機10c、10dを備えている。
第1熱媒通流支管20bは、第1音響筒C1の一の原動機10aの冷却器12aを通流した後、第2音響筒C2の一の原動機10cの冷却器12cを通流する。また、第1熱媒通流支管20cは、第1音響筒C1の一の原動機10bの冷却器12bを通流した後、第2音響筒C2の一の原動機10dの冷却器12dを通流する。
当該構成を採用することにより、第1熱音響機関100a、第2熱音響機関100bの夫々において、複数の原動機に供給される第1熱媒CWの温度を略等しい温度にすることができる。
【0049】
第1熱媒通流支管20bと第1熱媒通流支管20cとは、原動機10a、10b、10c、10dを通過した後に合流し、第2熱音響機関100bの作動流体冷却機構としての外囲筒32と第2音響筒C2との間に第1熱媒CWを通流させた後、第1熱音響機関100aの作動流体冷却機構としての外囲筒31と第1音響筒C1との間に第1熱媒CWを通流する。
尚、第2熱媒通流路70については、図示を省略すると共に、詳細な説明を省略及びするが、第1熱媒通流路20と同様に、複数(当該別実施形態では2つ)の第1熱媒通流支管(図示せず)に分岐され、各熱音響機関100a、100bの夫々に設けられる原動機に対して、各熱音響機関100a、100bの夫々で同一の温度の第2熱媒HWを導くように配設される。
【0050】
(2)上記実施形態では、一の熱音響機関に設けられる原動機は、2つとしたが、別に1つでも構わないし、3つ以上を設ける構成を採用しても構わない。
【0051】
(3)音響筒Cは、上記実施形態に示すように、ループ形状のもののみでなく、直管形状のものも含むものとする。また、ループ形状の筒に直管形状の筒を連結した形状の音響筒も含むものとする。
【0052】
(4)上記実施形態にあっては、作動媒体冷却機構の一例として、外囲筒30を備える例を示した。
しかしながら、当該作動媒体冷却機構としては、例えば、内部に第1熱媒CWを通流すると共に共鳴部として働く音響筒Cの外周面に、外面が密接して設けられる低温冷媒通流体を備える構成を採用しても構わない。
【0053】
(5)本発明にあっては、上記実施形態に示した熱音響設備100を備える気化器として構成することができる。
即ち、上記実施形態に示した熱音響設備100に加え、図示は省略するが、LNGとしての第1熱媒CWを加熱する加熱用熱交換器と、当該加熱用熱区間器にて加熱された第1熱媒CWを直接膨張する直膨タービンと、当該直膨タービンにて回転駆動される発電機とを備える直膨流路とを備え、第1熱媒通流路20を、原動機10の冷却器12と作動媒体冷却機構とを通過した後に、前記直膨流路に低温冷媒を導くように配設した気化器とすることができる。
【0054】
(6)上記実施形態では、第1熱媒CWとしては、LNGを用いる例を示したが、別に、他の熱媒を用いても構わない。
【0055】
(7)上記実施形態では、第2熱媒HWとしては、エンジン冷却水を用いる例を示したが、別にエンジンの排ガス等の他の熱媒を用いても構わない。
【0056】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の熱音響設備、及びそれを備えた気化器は、全体の小型化を図り、単位体積当たりのエネルギ変換効率を高めることができる熱音響設備、及びそれを備えた気化器を提供する装置として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 :原動機
11 :加熱器
12 :冷却器
13 :再生器
20 :第1熱媒通流路
20a :第1熱媒通流本管
20b :第1熱媒通流支管
20c :第1熱媒通流支管
30 :外囲筒
40 :電力発生機
50 :遮断壁
51 :断熱部材
70 :第2熱媒通流路
100 :熱音響設備
C :音響筒
CW :第1熱媒
図1
図2