特許第6402535号(P6402535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧
特許6402535廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法
<>
  • 特許6402535-廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法 図000002
  • 特許6402535-廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402535
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20181001BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20181001BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20181001BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20181001BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20181001BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B59/00ZAB
   C22B7/00 C
   C22B3/08
   C22B3/44 101A
   H01M10/54
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-168087(P2014-168087)
(22)【出願日】2014年8月21日
(65)【公開番号】特開2016-44319(P2016-44319A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2016年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】真野 匠
(72)【発明者】
【氏名】石田 人士
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−082371(JP,A)
【文献】 特開2013−001916(JP,A)
【文献】 特開2003−041326(JP,A)
【文献】 特開昭54−089904(JP,A)
【文献】 特開2014−118598(JP,A)
【文献】 特開2012−025992(JP,A)
【文献】 特表平10−510878(JP,A)
【文献】 特開2013−139616(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02444507(EP,A1)
【文献】 特開2012−229483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物からニッケル及びコバルトを分離回収する廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法であって、
前記有価金属含有物に硫酸溶液とアルカリ金属の硫酸塩とを添加して、浸出残渣と希土類元素の硫酸複塩混合沈澱との混合物及び脱希土類元素液を得る浸出・晶出工程を有し、
前記浸出・晶出工程における、有価金属の浸出反応時のpHが1以上3以下であることを特徴とする廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属の硫酸塩は、硫酸ナトリウム及び/又は硫酸カリウムであることを特徴とする請求項1に記載の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みのニッケル水素電池や製造中に生じた不良品等の廃ニッケル水素電池から、ニッケル、コバルト等の有価金属を分離回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中に放出される硫黄酸化物や煤塵等に起因する広域的な大気汚染や炭酸ガス等による地球温暖化等の環境問題が、地球規模の課題としてクローズアップされている。
【0003】
大気汚染や地球温暖化等の原因の一つに自動車の排気ガスがあり、排気ガスによる汚染を低減するため、ニッケル水素電池等の二次電池を搭載したハイブリッド自動車や電気自動車の生産や需要が加速的に増加している。
【0004】
二次電池の一種であるニッケル水素電池は、正極、負極、電極端子、電解液等の機能的部材と、電極基板、正負極の電極間に設けられるセパレータ、これらを収納するケース等の構造的部材とから構成されている。
【0005】
ニッケル水素電池を構成する機能的部材及び構造的部材には、様々な物質が含まれている。例えば、正極には正極活物質が含まれており、正極活物質は微量添加元素を含む水酸化ニッケル等から構成されている。また、負極には負極活物質が含まれており、負極活物質はニッケル、コバルト、希土類元素(ミッシュメタル)等を含む水素吸蔵合金等から構成されている。
【0006】
また、正極基板はニッケル板や発泡ニッケル板等から構成され、負極基板はニッケルメッキ鉄板等から構成されている。更に、セパレータは合成樹脂等から構成され、電解液は水酸化カリウム水溶液等から構成され、電極端子材は銅、鉄系金属等から構成され、ケースは合成樹脂、鋼等から構成されている。
【0007】
ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されたニッケル水素電池は、何れは廃棄される見込みであり、使用済みのニッケル水素電池から、上述した各部材に含まれる有価金属を回収して、資源としてリサイクルするための技術開発も進められている。
【0008】
使用済みのニッケル水素電池や製造中に生じた不良品等の廃ニッケル水素電池から、有価金属であるニッケルやコバルトを回収する方法としては、例えば、廃ニッケル水素電池を炉に入れて熔解し、廃ニッケル水素電池を構成する合成樹脂等を燃焼して除去し、更に大部分の鉄をスラグ化して除去し、ニッケルを還元して鉄の一部と合金化したフェロニッケルとして回収する乾式処理方法がある。
【0009】
乾式処理方法は、低コストで大量処理が可能であり、既存の製錬所の設備をそのまま利用できて、処理に手間がかからないという利点がある。しかしながら、乾式処理方法は、回収されたフェロニッケルから不純物を分離することは難しく、ステンレスの原料以外の用途には適さない。
【0010】
また、乾式処理方法は、特にコバルトの殆どがスラグ中に分配されてスラグとして廃棄されてしまい、希少なコバルトの有効利用という側面では、望ましい方法とは言い難い。
【0011】
つまり、乾式処理方法では、純度の低い有価金属が回収されたり、有価金属が回収できずに廃棄されたりすることがある。そのため、乾式処理方法には、廃ニッケル水素電池に含まれている有価金属を、電池用にリサイクルが可能となる高純度の金属として回収することができないという問題がある。
【0012】
そこで、上記問題を解決するために、例えば、特許文献1に開示されているような湿式処理方法が提案されている。特許文献1に記載の有価金属の回収方法は、以下に示した(1)乃至(6)の工程で構成される。
【0013】
即ち、特許文献1に記載の方法は、(1)正極活物質及び負極活物質を、酸性水溶液を用いて洗浄処理に付し、正極活物質及び負極活物質に付着する電解液成分を除去して、洗浄後残渣と洗浄後液とを得る洗浄工程と、(2)洗浄後残渣と浸出工程で得た浸出液を混合することにより浸出液を還元処理に付し、浸出液中の鉄を2価に保持して、ニッケル、コバルト、希土類元素及びその他の共存する金属元素を含有する還元液と還元残渣とを得る還元工程と、(3)還元残渣に硫酸水溶液を添加し、且つ酸化しながら浸出処理に付し、ニッケル及び希土類元素を含有する浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程と、(4)還元液に硫酸アルカリ又は水酸化アルカリを混合し、希土類元素複塩化処理に付し、希土類元素複塩からなる沈澱物とニッケル及びコバルトを含有するろ液とを得る希土類回収工程と、(5)希土類回収工程で得たろ液に、酸化剤と中和剤を添加して酸化中和処理に付し、ニッケル及びコバルトを含有する酸化中和後液と鉄及びアルミニウムを含有する酸化中和澱物とを得る酸化中和工程と、(6)酸化中和後液を、リン酸系抽出剤を用いた溶媒抽出処理に付し、コバルト、マンガン、亜鉛及びイットリウムを含有する逆抽出液とニッケルを含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程とから構成されている。
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、工程数が多くて複雑なために多大な処理コストが掛かり、商業的に成立つプロセスとは言い難い。
【0015】
一方、廃ニッケル水素電池に含まれる有価金属を高純度の金属として回収する他の湿式処理方法として、例えば、特許文献2に開示されているような方法も提案されている。特許文献2に記載の有価金属の回収方法は、以下に示した(1)乃至(3)の工程で構成される。
【0016】
即ち、特許文献2に記載の方法は、図2に示す通り、(1)正・負極活物質含有物を、硫酸溶液に混合、溶解した後、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程S21と、(2)浸出工程S21で得られた浸出液に、アルカリ金属の硫酸塩を添加して、希土類元素の硫酸複塩混合沈澱と脱希土類元素液とを得る希土類晶出工程S22と、(3)希土類晶出工程S22で得られた脱希土類元素液に硫化剤を添加して、ニッケル・コバルト硫化物原料と残液とに分離する硫化物原料回収工程S23とから構成されている。
【0017】
特許文献2に記載の方法では、特許文献1に記載の方法で問題となっていた工程数の多さと複雑さについては解消されている。
【0018】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、回収対象であるニッケル及びコバルトを選択的に分離するためには硫化物原料回収工程S23が必要不可欠である。そのため、硫化物原料回収工程S23では、微量の不純物ではなく、大量のニッケルを沈澱させるため、硫化剤の使用量が膨大となり、コストアップの要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2010−174366号公報
【特許文献2】特開2012−025992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
特許文献1及び特許文献2に記載の通り、使用済みのニッケル水素電池や製造中に生じた不良品等の廃ニッケル水素電池から有価金属を回収する方法として、廃ニッケル水素電池について、焼成、破砕、選別等の前処理をすることにより得られた有価金属含有物を、浸出処理、ナトリウム複塩の沈澱を利用した脱希土類処理、溶媒抽出処理、硫化処理等に付すことによって、電池用にリサイクルが可能となる高純度のニッケルやコバルト等の有価金属を回収する湿式処理方法は、技術的に確立されている。
【0021】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、工程の煩雑さ故にコストが掛かり、商業的に成立可能なプロセスとは言い難い。
【0022】
一方で、特許文献2に記載の方法においては、工程は簡素化されているが、原料の主成分であるニッケルに対し、浸出処理用の酸、硫化処理用の硫化剤、廃液中和用のアルカリ等の試薬を多く消費するため、薬剤に要するコストが高額となり、更なるコストダウンが必要である。
【0023】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて考案されたものであり、設備や電力等のコスト削減を図り、処理時間の短縮や処理に要する作業工数を削減し、低コストで効率的な廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明者らは、廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物に硫酸溶液とアルカリ金属の硫酸塩とを添加した場合における、有価金属の反応挙動について研究を重ねた。その結果、反応効率を低下させること無く、有価金属等の浸出反応と希土類の晶出反応とを進行させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0025】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法は、廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物からニッケル及びコバルトを分離回収する廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法であって、有価金属含有物に硫酸溶液とアルカリ金属の硫酸塩とを添加して、浸出残渣と希土類元素の硫酸複塩混合沈澱との混合物及び脱希土類元素液を得る浸出・晶出工程を有し、浸出・晶出工程における、有価金属の浸出反応時のpHが1以上3以下であることを特徴とする。
【0026】
浸出・晶出工程では、アルカリ金属の硫酸塩が、硫酸ナトリウム及び/又は硫酸カリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、浸出・晶出工程において有価金属等の浸出反応と希土類の晶出反応とを進行させることにより、個別に行っていた場合と比べて、反応装置、固液分離装置及び付帯装置等の設備コストを削減することができると共に、各種設備における電力コスト等の運転コストも削減することができる。
【0028】
また、本発明によれば、処理時間を短縮し、各種反応や固液分離等に要する作業工数を削減することができる。
【0029】
従って、本発明では、低コストで効率的な廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法における有価金属の回収プロセスの概略を示す工程図である。
図2】従来の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法における有価金属の回収プロセスの概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の項目に沿って図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0032】
1.廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法の概要
2.浸出・晶出工程
2−1.有価金属等の浸出操作
2−2.希土類元素の晶出操作
2−3.浸出・晶出反応条件
2−4.添加物の添加順序
3.ニッケル及びコバルトの回収
【0033】
[1.廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法の概要]
本実施の形態に係る廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法(以下では、単に「有価金属回収方法」と呼称する場合もある。)では、図1に示すように、浸出・晶出工程S11において、廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物に、硫酸溶液とアルカリ金属の硫酸塩とを添加して、脱希土類元素液と、浸出残渣及び希土類元素の硫酸複塩混合沈澱の混合物とを得る。次に、硫化物原料回収工程S12において、浸出・晶出工程S11で得られた脱希土類元素液から、ニッケル・コバルト硫化物原料として、ニッケル及びコバルトを分離回収する。
【0034】
有価金属回収方法では、浸出・晶出工程S11において、ニッケル、コバルト等の有価金属等を浸出させる浸出操作と共に、ランタン等の希土類元素を晶出させる晶出操作を、一つの反応槽内で行うことにより、低コストで効率的な廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収を実現することができる。
【0035】
[2.浸出・晶出工程]
浸出・晶出工程S11では、有価金属含有物、硫酸溶液、及びアルカリ金属の硫酸塩を反応槽に添加し、混合、加温して溶解することにより、脱希土類元素液と、浸出残渣及び希土類元素の硫酸複塩混合沈澱の混合物とを得る。
【0036】
即ち、浸出・晶出工程S11では、詳細は後述するが、有価金属含有物中のニッケル、コバルト等が、硫酸溶液によって水溶液中に浸出される。しかしながら、有価金属含有物中の希土類元素に限っては、硫酸溶液によって水溶液中に浸出されると同時に、アルカリ金属の硫酸塩によって希土類元素がアルカリ金属と結びついた硫酸複塩混合沈澱を生成する。従って、浸出・晶出工程S11では、最終的に、ニッケル、コバルト等を含む脱希土類元素液と、浸出残渣及び希土類元素の硫酸複塩混合沈澱の混合物が得られる。
【0037】
<2−1.有価金属等の浸出操作>
浸出・晶出工程S11では、上述した通り、ニッケル、コバルト等の有価金属等を浸出させる浸出操作と共に、ランタン等の希土類元素を晶出させる晶出操作を、一つの反応槽内で行う。ここでは、まず浸出・晶出工程S11における浸出操作について説明する。
【0038】
有価金属等の浸出操作では、有価金属含有物、硫酸溶液、及びアルカリ金属の硫酸塩を反応槽に添加し、混合、加温して溶解する。その際に、有価金属含有物中に含まれる金属元素のうち、例えば、有価金属であるニッケルは、下記式1に従って溶解され、希土類元素の一つであるランタンは、下記式2に従って溶解される。
【0039】
Ni+HSO→NiSO+H…(式1)
2La+3HSO→La(SO+3H…(式2)
【0040】
そして、有価金属等の浸出反応では、ニッケル、コバルト等の有価金属等を含んだ浸出液と浸出残渣とからなるスラリーが得られる。
【0041】
<2−2.希土類元素の晶出操作>
次に、浸出・晶出工程S11における晶出操作について説明する。
【0042】
希土類元素の晶出操作では、有価金属等の浸出反応で得られたスラリー中の浸出液に、アルカリ金属の硫酸塩を作用させる。これにより、浸出液から、希土類元素がアルカリ金属と結びついた希土類元素の硫酸複塩混合沈澱と、希土類を分離した硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液である脱希土類元素液とが生成する。
【0043】
浸出液中に含まれる有価金属のうち、例えば、希土類元素の一つであるランタンは、下記式3に従ってランタンとアルカリ金属(ナトリウム)の複塩(硫酸複塩混合沈澱)を生成する。
【0044】
La(SO+NaSO→2LaNa(SO…(式3)
【0045】
<2−3.浸出・晶出反応条件>
浸出・晶出工程S11における硫酸溶液としては、例えば、濃度70重量%の硫酸等が挙げられる。このような硫酸溶液を用いることで、有価金属等を浸出させることができる。
【0046】
浸出・晶出工程S11では、有価金属含有物と硫酸溶液の混合時、即ち有価金属等の浸出反応時のpHを1以上5以下に維持することが好ましく、1以上1.5以下に維持することがより好ましい。
【0047】
有価金属等の浸出反応時のpHが1未満では、後工程で中和剤を用いる場合に、その使用量が増加すると共に、希土類元素の晶出反応における希土類元素の除去が不十分となる。一方、有価金属等の浸出反応時のpHが5を超えると、ニッケル、コバルト等の有価金属の浸出率が低下する。
【0048】
また、有価金属等の浸出反応時のpHが5以下であっても、有価金属等の浸出反応時のpHが3を超えると、希土類元素の晶出反応においてニッケル、コバルト、鉄、アルミニウム等の金属元素が硫酸複塩混合沈澱と共に沈澱する場合がある。そのため、ニッケル、コバルト等の有価金属の高い浸出率を維持し、且つこれらの有価金属の硫酸複塩混合沈澱への分配を抑制するためには、有価金属等の浸出反応時のpHは低い方が望ましい。
【0049】
従って、浸出・晶出工程S11では、有価金属等の浸出反応時のpHを1以上3以下に維持することが好ましく、1以上1.5以下に維持することがより好ましい。
【0050】
有価金属等の浸出反応時において、実用的に満足できる反応速度を得るには、強酸下で80℃以上の液温に維持して浸出することが好ましい。従って、有価金属等の浸出操作では、浸出反応時の液温を80℃以上とすることが好ましい。
【0051】
なお、有価金属等の浸出操作では、有価金属含有物と硫酸溶液とを混合、加温して溶解した後、過剰分の硫酸を中和するために、更に有価金属含有物を追加添加することもできる。
【0052】
アルカリ金属の硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸アルカリを用いることが、より好ましい。
【0053】
アルカリ金属の硫酸塩は、固体(結晶)の状態で有価金属含有物のスラリーに添加して溶解しても、水溶液の状態で添加しても構わない。しかしながら、例えば、廃ニッケル水素電池から有価金属を回収するための全体プロセスの中に、溶媒抽出工程が含まれる場合には、有価金属含有物をスラリー化するための水を、溶媒抽出工程の逆抽出液を中和して得られたアルカリ金属の硫酸塩水溶液に置き換えることができる。そして、水をアルカリ金属の硫酸塩水溶液に置き換えて再利用することによって、薬剤コストを削減することができる。
【0054】
また、有価金属含有物のスラリー濃度としては、特に限定されるものではないが、50g/L以上300g/L以下となるように調整することが好ましい。
【0055】
浸出・晶出工程S11では、得られた脱希土類元素液と、浸出残渣と希土類元素の硫酸複塩混合沈澱との混合物とから成るスラリーを放冷し、その後、得られたスラリーを固液分離することにより、脱希土類元素液と、浸出残渣及び希土類元素の硫酸複塩混合沈澱の混合物とを得る。
【0056】
<2−4.添加物の添加順序>
浸出・晶出工程S11では、一つの反応槽中に有価金属含有物、硫酸溶液、及びアルカリ金属の硫酸塩を添加し、上述した通り、ニッケル、コバルト等の有価金属等を浸出させる浸出反応と共に、ランタン等の希土類元素を晶出させる晶出反応を進行させる。即ち、浸出・晶出工程S11では、下記式1及び式2で示す有価金属及び希土類元素の浸出反応と、下記式3で示す希土類元素の晶出反応が進行する。
【0057】
Ni+HSO→NiSO+H…(式1)
2La+3HSO→La(SO+3H…(式2)
La(SO+NaSO→2LaNa(SO…(式3)
【0058】
ただし、式3に示す希土類元素の晶出反応は、式2に示す希土類元素の浸出反応において希土類元素の硫酸塩が生成されなければ進行しないことから、有価金属含有物に対する硫酸溶液及びアルカリ金属の硫酸塩の添加順序は特に限定されることはない。
【0059】
つまり、式2及び式3より、希土類元素の浸出反応後に希土類元素の晶出反応が進行するので、例えば、有価金属含有物に対し、硫酸溶液の混合とアルカリ金属の硫酸塩の添加を同時に行ったとしても、有価金属含有物に硫酸溶液を混合した時点で反応が開始される。従って、浸出・晶出工程S11では、硫酸溶液を混合するタイミングとアルカリ金属の硫酸塩を添加するタイミングについては、どちらが先でも後でもよい。
【0060】
[3.ニッケル及びコバルトの回収]
廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法では、図1に示すように、浸出・晶出工程S11により得られた脱希土類元素液から、例えば、硫化物原料回収工程S12で処理することにより、ニッケル及びコバルトを分離回収する。より詳細には、硫化物原料回収工程S12において、浸出・晶出工程S11で得られた脱希土類元素液から、ニッケル・コバルト硫化物原料として、ニッケル及びコバルトを分離回収する。
【0061】
以上で説明した通り、廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法では、浸出・晶出工程S11で、廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物に硫酸溶液とアルカリ金属の硫酸塩とを添加する有価金属等の浸出操作と希土類元素の晶出操作とを実施することにより、ニッケル、コバルト等の有価金属等が硫酸溶液中に浸出して、尚且つ希土類元素が除去されたニッケル及びコバルトを含む脱希土類元素液を得ることができる。
【0062】
また、浸出・晶出工程S11中で有価金属の浸出反応と希土類元素の晶出反応とを進行させることにより、硫酸で浸出した希土類元素が浸出と同時にアルカリ複塩の形態で析出することとなり、浸出残渣と希土類元素の硫酸複塩混合沈澱とを同時にろ過してプロセスや設備を簡素化することができる。なお、ここでは、浸出残渣及び希土類元素の硫酸複塩混合沈澱の混合物の状態でろ過される。
【0063】
つまり、上述した通りのプロセスや設備の簡素化により、反応装置、固液分離装置及び付帯装置等の設備コストを削減することができ、電力コスト等の運転コストも削減することができる。また、処理時間を短縮し、各種反応や固液分離等に要する作業工数を削減することができる。従って、廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法では、低コストで効率的な廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収を実現することができる。
【実施例】
【0064】
以下に示す実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、この実施例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
<浸出・晶出工程>
まず、浸出・晶出工程では、硫酸ナトリウム水溶液640Lを、撹拌機付きの浸出槽に張り込んだ。張り込んだ硫酸ナトリウム水溶液の硫酸ナトリウム濃度は100g/Lであった。
【0066】
次に、浸出・晶出工程では、原料である粉状の有価金属含有物190kgを浸出槽に投入し、70重量%硫酸を供給しながら液温を80℃に維持した。浸出槽内の液のpHが1を下回らないこと、及び、急激な水素濃度の上昇が無いことを確認しながら、70重量%硫酸の添加を継続し、水素ガスの発生が無くなった時点を浸出反応終了と見做し、70重量%硫酸の添加を停止した。
【0067】
浸出・晶出工程では、得られた浸出槽内のスラリーの液温が60℃まで低下したことを確認した後、浸出槽内のスラリーをフィルタープレスでろ過し、浸出残渣と希土類元素の硫酸複塩混合沈澱との混合物が固液分離された脱希土類元素液(硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液)を得た。得られた脱希土類元素液のニッケル濃度は93g/Lであった。
【0068】
ニッケル及びコバルトの浸出反応と希土類元素の晶出反応とを同時に進行させた浸出・晶出工程において、ニッケル及びコバルトの浸出率や、希土類元素の除去率については、浸出操作と希土類晶出操作とをそれぞれ単独で実施した場合と比較して、特に低下することは無かった。ここでいう希土類元素の除去率とは、希土類元素の固体(浸出残渣と希土類元素の硫酸複塩混合沈澱との混合物)への希土類元素の分配率のことである。
【0069】
従って、実施例の結果より、浸出槽中で有価金属の浸出反応と希土類元素の晶出反応とを進行させることで、各操作の単独実施の場合と同様の浸出率及び除去率を保持しつつ、ニッケル及びコバルトを効率的に回収できることが確認できた。
図1
図2