特許第6410731号(P6410731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6410731代謝的に操作されたプロピオン酸菌を用いるn−プロパノールおよびプロピオン酸を生成するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6410731
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】代謝的に操作されたプロピオン酸菌を用いるn−プロパノールおよびプロピオン酸を生成するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/04 20060101AFI20181015BHJP
   C12P 7/52 20060101ALI20181015BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20181015BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   C12P7/04
   C12P7/52
   C12N1/21
   C12N15/53ZNA
【請求項の数】21
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-549520(P2015-549520)
(86)(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公表番号】特表2016-502848(P2016-502848A)
(43)【公表日】2016年2月1日
(86)【国際出願番号】US2013075248
(87)【国際公開番号】WO2014099707
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】61/740,490
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】515156061
【氏名又は名称】オハイオ ステイト ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】シャン−ティアン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】エハブ・アマール
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・シー・ストワーズ
(72)【発明者】
【氏名】ブランドン・エイ・ロドリゲス
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/029166(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/067510(WO,A1)
【文献】 特表2011−524749(JP,A)
【文献】 "bifunctional acetaldehyde-CoA/alcohol dehydrogenase [Escherichia coli str. K-12 substr. DH10B]", [23-Jan-2012] Retrived from GenPept [online] Accession no.YP_001730188.1 [retrieved on 15 Sep 2017] URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/170080868?sat=17&satkey=24215987
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせを生合成的に調製するための方法であって、
(a) 基質と、水と、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するために、40パーセント以上であるグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物から得られるadhE遺伝子を含むよう遺伝子改変されているプロピオン酸菌と、を含む出発発酵ブロスの発酵を行い、生成物としてn−プロパノール、プロピオン酸を含む発酵生成物ブロスを形成することと、
(b) 前記生成物のn−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせの少なくとも一部を、前記発酵生成物ブロスから回収することと、を含む、方法
【請求項2】
前記遺伝子改変されたプロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記通性嫌気性生物が、大腸菌(Escherichia coli)である、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
前記出発発酵ブロスが、刺激剤n−プロパノールを更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法
【請求項5】
前記刺激剤n−プロパノールが、細胞内で生成される、請求項4に記載の方法
【請求項6】
前記細胞内で生成されるn−プロパノールが、
(a) 基質と、水と、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するために、40パーセント以上であるグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物から得られるadhE遺伝子を含むよう遺伝子改変されているプロピオン酸菌と、を含むブロスの発酵を行い、細胞内で生成されるn−プロパノールを含む発酵生成物ブロスを形成することと、
(b) 前記細胞内で生成されるn−プロパノールの少なくとも一部を前記発酵生成物ブロスから回収することと、によって調製される、請求項5に記載の方法
【請求項7】
前記基質が、グリセロール、グルコース、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される炭素化合物を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法
【請求項8】
前記プロピオン酸菌が、前記adhE遺伝子を含むように遺伝子改変されていないプロピオン酸菌よりも、前記基質をn−プロパノールへと異化させるのに少なくとも5%以上効率的である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法
【請求項9】
前記遺伝子改変されたプロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法
【請求項10】
n−プロパノールまたはプロピオン酸生合成において使用するためにプロピオン酸菌を改変するための方法であって、
(a) 40パーセント以上のグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物からadhE遺伝子断片を得ることと、
(b) 前記プロピオン酸菌が、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するように、プロピオン酸菌のゲノムを、前記adhE遺伝子断片を含むよう改変することと、を含む方法
【請求項11】
前記プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項10に記載の方法
【請求項12】
前記adhE遺伝子断片が、大腸菌(Escherichia coli)から得られる、請求項10または11に記載の方法
【請求項13】
改変されたプロピオン酸菌であって、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するように、40%以上のグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物から得られた、挿入されたadhE遺伝子断片を含有するゲノムDNAを有するプロピオン酸菌を含む生合成で使用するための、改変プロピオン酸菌。
【請求項14】
ロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項13に記載の改変プロピオン酸菌
【請求項15】
前記通性嫌気性生物が、大腸菌(Escherichia coli)である、請求項13または14に記載の改変プロピオン酸菌
【請求項16】
n−プロパノール、プロピオン酸またはこれらの組み合わせを生合成的に調製するための方法であって、
出発発酵ブロスを培養してn−プロパノールおよびプロピオン酸を含む発酵生成物ブロスを形成すること、並びに
n−プロパノール、プロピオン酸またはこれらの組み合わせの少なくとも一部を前記発酵生成物ブロスから回収すること、
を含み、
前記出発発酵ブロスが基質、水およびプロピオン酸菌を含み、
前記プロピオン酸菌が、大腸菌株K−12から得られたadhE遺伝子断片を含むように遺伝子改変されており、前記adhE遺伝子断片によってコードされる二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現しており、
前記二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼがプロピオニルCoAに対する活性を有している、方法。
【請求項17】
前記adhE遺伝子断片が、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するPCRプライマーおよび配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有するPCRプライマーを用いて大腸菌株K−12から得られたものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
大腸菌株K−12からadhE遺伝子断片を得ること、
前記adhE遺伝子断片を含むように前記プロピオン酸菌のゲノムを改変して、前記プロピオン酸菌が前記adhE遺伝子断片によってコードされる二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現させること、
を含む、n−プロパノールまたはプロピオン酸の生合成に使用するためのプロピオン酸菌を改変する方法。
【請求項19】
前記adhE遺伝子断片が、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するPCRプライマーおよび配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有するPCRプライマーを用いて大腸菌株K−12から得られたものである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
生合成で使用するための改変プロピオン酸菌であって、adhE遺伝子断片が挿入されたゲノムDNAを有しており、前記adhE遺伝子断片によってコードされる二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現しており、
前記adhE遺伝子断片が大腸菌株K−12から得られたものである、改変プロピオン酸菌。
【請求項21】
前記adhE遺伝子断片が、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するPCRプライマーおよび配列番号3に記載されるヌクレオチド配列を有するPCRプライマーを用いて大腸菌株K−12から得られたものである、請求項20に記載の改変プロピオン酸菌。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2012年12月21日に出願された米国仮特許出願第61/740,490号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、代謝的に操作された細菌、およびバイオベースの基質を、n−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせを含有する生成物に生物変換するためのプロセスにおけるその調製ならびに使用に関する。
【0003】
化石燃料の将来的な不足、コストおよび環境影響に対する懸念から、燃料および化学物質の代替源として安価で再生可能なバイオマスの開発に対する関心が高まっている。原油価格が上昇しているので、バイオベースの化学物質および工業製品は、石油由来の対応品に対する魅力的な代替品となっている。嫌気性微生物を使用する発酵プロセスは、バイオマスおよび農業廃棄物を化学物質および燃料に生物変換するための有望な道筋を提供する。汚染問題を回避するために適切な処分を必要とする低価値の農産物および食品加工副産物/廃棄物は豊富に存在する。これらのバイオマス廃棄物は、燃料および有機酸ならびにアルコールなどの化学物質の生成用の低コスト原材料として使用することができる。発酵経路を介して誘導される生成物の1つは、n−プロパノールおよびプロピオン酸である。
【0004】
n−プロパノール(1−プロパノール、1級プロピルアルコール、プロパン−1−オール)は、産業において多くの用途を有する、水および他の一般的な溶媒と自由に混和することができる非有害溶媒である。これらの用途としては、例えば、印刷用インク、コーティング、洗浄剤、接着剤、除草剤、殺昆虫剤、医薬品、着氷防止液、およびエステル、プロピルアミン、ハロゲン化物ならびに熱可塑性樹脂の生成における中間体などが挙げられる。混合燃料におけるn−プロパノールの用途も示唆されていて、このアルコールは、オクタン価を増加させて、ガソリン中のアンチノック添加剤として役立つエタノールと同様な能力を有するためである。
【0005】
例えば、プロピオン酸は、セルロースプラスチック、除草剤、および香料の生成で広く使用されている重要な化学物質である。プロピオン酸はまた、重要なカビ抑制剤でもある。そのアンモニア、カルシウム、ナトリウム、およびカリウム塩は、食品および飼料の保存剤として広く使用されている。ある特定の他のカルボン酸、例えばコハク酸も産業的な価値があり、コハク酸は、ポリエステルおよび熱成形樹脂の生成に有用であるブタンジオールを生成するために水素化分解が可能である。
【0006】
n−プロパノールおよびプロピオン酸の両方は、発酵プロセスを介して生成することができるが、多くの従来の発酵プロセスは、低い生産性、収率、および最終生成物の濃度ならびに純度に苦しみ、商業的に応用するには経済的ではない。現在、商業的に販売されている大部分のプロピオン酸は、石油化学プロセスによって生成されている。しかしながら、プロピオン酸菌による糖の発酵によるプロピオン酸の生成に関心が高まっている。様々なプロセスおよび菌株の改良によって発酵生産性および最終生成物濃度を改善することである程度の成功は見られているが、発酵プロセスにおけるプロピオン酸の収率および純度を更に如何に改善するかは、課題として残されたままである。化学製品生成のために経済的に実行可能である発酵プロセスの開発は、生産速度が高いばかりでなく、高濃度の発酵生成物に耐容可能な微生物が必要となる。
【0007】
産業用微生物の改良のための方法は、古典的な株改良(CSI)のランダムアプローチから高度に合理的な代謝工学法まで多岐にわたる。CSIは、周知かつ堅実な方法であるが、これは時間および資源の両方が集約的である。阻害性発酵生成物に対して高い耐性を有する菌株得るためには、阻害物質濃度を増大させながら培地中で継代培養することによって変異体を連続的にスクリーニングおよび選別するという方法が、化学的変異原または紫外線(UV)照射による変異誘発と併せて通常使用される。しかしながら、従来の培養物スクリーニング法は単調で、時間がかかり、徒労に終わることも多い。より最近では、阻害性生成物に対する細胞耐性を改良するために、組換えDNA技術も適用されている。これらの方法は、一般的により効果的であるが、使用が複雑で、遺伝子レベルでの詳細な阻害機序の知識も必要とされ、特に産業上関心のある大部分の微生物に対して、こうした知識は入手できない。
【0008】
代謝工学は、代謝フラックス分配の変更を通じて代謝産物の過剰生産におけるより高い効率を達成する操作された菌株を設計するために広く使用されている。現在までのほとんどの代謝工学の研究は、遺伝学および生理学が十分に研究された生物(例えば、大腸菌(E.coli)、酵母、およびハイブリドーマ細胞)を用いた、二次的代謝産物(抗生物質など)、アミノ酸(例えば、リジン)、および異種タンパク質の生成に関するものである。代謝フラックス分配を化学量論的に分析すると、代謝工学、最適な培地調製ならびに供給戦略、およびバイオプロセスの最適化への指針を与えてくれるが、しかしながら、これには、発酵細胞における代謝ネットワークおよび調節ネットワークに関する深い知識が要求される。合理的な代謝工学的アプローチは、遺伝子クラスター内の単一遺伝子または少数遺伝子が関与する場合には成功を収めているが、複雑なまたはほとんど不明の代謝経路が関与する多くの場合には、無効であった。これは、合理的な代謝工学的アプローチは、通常、1つの遺伝子を標的にするために、経路における多数の遺伝子間の複雑な相互作用を予測できないからである。
【0009】
プロピオン酸菌は、グラム陽性、カタラーゼ陽性、非胞子形成性、非運動性、通性嫌気性桿菌である。プロピオン酸菌属のメンバー(集約的に、複数で、またはこの属内の単一であるが未同定の種として、「propionbacteria」または「propionibacteria」と呼ばれる)は、ビタミンB12、テトラピロール化合物、およびプロピオン酸の生成のほか、プロバイオティクスおよびチーズ産業で広く使用されている。図1に示すように、プロピオン酸菌は、副産物として生成されるアセテートおよびスクシネートを伴い、ジカルボン酸経路を介してプロピオン酸を生成する。理論的には、解糖がEMP(エムデン−マイヤーホフ−パルナス)経路を通して行われる場合、1モル(mol)のグルコースは4/3molのプロピオン酸および2/3molのアセテートを生成するに過ぎない。実際のプロピオネート収率は、顕著な細胞成長およびバイオマス形成がある場合、はるかに低くなる。10グラム毎リットル(g/L)の比較的低い濃度でも、プロピオネートは、発酵に対する強力な阻害剤となる。典型的なバッチ式のプロピオン酸発酵は、20g/Lのプロピオン酸に到達するのに約3日かかり、プロピオン酸の収率は、通常0.5グラム毎グラム(g/g)のグルコース未満である。プロピオン酸菌は、産業において広く使用されていて、それらの一部は、それらのゲノムについて完全に配列決定されている。例えば、Parizzi,et al.,“The genome sequence of Propioni−bacterium acidipropionici provides insights into its biotechnological and industrial potential”,BMC Genomics,Vol.13,2012,562−602を参照されたい。
【0010】
しかしながら、プロピオン酸菌が今日まで注目を集めてきたにもかかわらず、これらのゲノム中の高いGC含量、グラム陽性細菌を形質転換することの難しさ、およびクローニングツールの欠如のために、これらの細菌の遺伝子工学に向けられた研究はほとんどない。現在までに、2つの異なるプロモーター、pKHEM01およびpKHEM04を用いるたった2つの発現ベクター(例えば、Kiatpapan,et al.,“Construction of an expression vector for propionibacteria and its use in production of 5−aminolevulinic acid by Propionibacterium freudenreichii”,Appl.Microbiol.Biotechnol.,Vol.56,2001,144−149を参照)、およびプロモーターを用いない2つのレポーターベクター、pTD210(Faye,et al.,“Construction of a reporter vector system for in vivo analysis of promoter activity in Propionibacterium freudenreichii”,Appl.and Enviro.Microbiology,Vol.74,No.11.2008,3615−3617);pCVE1(Piao,et al.,“Molecular analysis of promoter elements from Propionibacterium freudenreichii”,J.Biosci.and Bioeng.,Vol.97,No.5,2004,310−316)が、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(P.acidipropionici)から初めて単離されたプラスミドに基づいて開発されている。この領域で最も多く発表された論文は、ビタミンB12生成を改良することを目標としていて(例えば、Kiatpapan,et al.,(上述した参考文献);Murooka,et al.,“Production of tetrapyrrole compounds and vitamin B12 using genetic engineering of Propionibacterium freudenreichii.An overview”,Lait,Vol.85,No.1−2,2005,92−22を参照)、たった1つの文献が、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(P.acidipropionici)ATCC4875中のアセテートキナーゼ(ack)遺伝子をノックアウトすることによって、プロピオン酸生成を改良することに焦点を当てている(Suwannakham,et al.,“Construction and characterization of knock−out mutants of Propionibacterium acidipropionici for enhanced propionic acid fermentation”,Willey interScience(www.interscience.wiley.com),28 February 2006;Parizziらの上述した参考文献も参照)。
【0011】
二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼは、アセチル−CoAおよびブチリル−CoAを、それぞれエタノールおよびブタノールに変換することができることが示されている(例えば、Nair,etal.,“Molecular characterization of an aldehyde/alcohol dehydrogenase gene from Clostridium acetobutylicum ATCC 824”,J. Bacteriology,Vol.176,1994,871−885;Yu,et al.,“Metabolic engineering of Clostridium tyrobutyricum for n−butanol production”,Metaboloc Engineering,Vol.12,2011,373−382;Bruant,et al.,“Genomic analysis of carbon monoxide utilization and butanol production by Clostridium carboxidivorans Strain P7”,PLOS One(www.plosone.org),Vol.5,Issue 9,September 2010,e13033参照)。発酵生成物としてのプロパノールは、例えば、Janssen,“Propanol as an end product of threonine fermentation”,Arch. Microbiol.,vol.182,2004,482−486に説明されている。
【0012】
国際公開第2011029166号は、発酵中にNAD(P)Hの形態の還元当量を供給するプロセスと併用して、遺伝子改変微生物を用いて基質をn−プロパノールに生物変換するためのプロセスを開示している。遺伝子コードは、プロピオネート形成のジカルボン酸経路の酵素についてのものであり、少なくとも1つの遺伝子コードは、プロピオネート/プロピオニル−CoAのn−プロパノールへの変換を触媒する酵素についてのものである。
【0013】
国際公開第2008098254号は、中間体を生成し、続いて中間体の所望の生成物への組換えを行うための生物学的および熱化学的変換プロセスの組み合わせを開示している。全基質の75パーセント(%)以下が炭水化物であるという条件で、様々な炭素基質が使用される。プロパノールはもちろん、エタノール、プロピレングリコール、および1,4−ブタンジオールを含める他の生成物も生成することができる。
【0014】
国際公開第2009154624号は、破壊されたackおよびpta遺伝子の1つまたは両方を有する代謝的に操作された変異体細菌を使用する発酵を開示している。これらの操作された細菌を用いる発酵の結果は、50g/Lを超える生成物濃度である。生成物は、プロピオン酸、酪酸、及び酢酸を含む場合がある。いくつかの実施形態では、繊維床バイオリアクターが使用される。
【0015】
一態様では、本発明は、n−プロパノールまたはプロピオン酸の生合成のためのプロセス(方法)を提供し、このプロセスは、(a)基質と、水と、プロピオニル−CoAに対する活性を有する、Genbank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ(配列番号1のアミノ酸配列)を発現するために、40パーセント(%)以上であるグアニン−シトシン(GC)含量を有する通性嫌気性生物から得られたadhE遺伝子を含有するよう遺伝子改変されているプロピオン酸菌とを含む出発発酵ブロスの発酵を行い、生成物としてn−プロパノールおよびプロピオン酸を含む発酵生成物ブロスを形成することと、(b)発酵生成物ブロスから、生成物のn−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせの少なくとも一部を回収することと、を含む。
【0016】
別の態様では、本発明は、n−プロパノールまたはプロピオン酸生合成で使用するためのプロピオン酸菌を改変するためのプロセスを提供し、プロセスは、(a)40%以上のGC含量を有する通性嫌気性生物からadhE遺伝子断片を得ることと、(b)プロピオン酸菌が、プロピオニル−CoAに対する活性を有する、Genbank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するように、プロピオン酸菌のゲノムを、adhE遺伝子断片を含有するように改変することと、を含む。
【0017】
更に別の態様では、本発明は、生合成で使用するための改変されたプロピオン酸菌を提
供し、改変されたプロピオン酸菌は、このプロピオン酸菌が、プロピオニル−CoAに対
する活性を有する、Genbank Gene ID:6062148;GI:1700
80868として同定された二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現す
るように、40%以上のGC含量を有する通性嫌気性生物から得られる挿入されたadh
E遺伝子断片を含有するゲノムDNAを有するプロピオン酸菌を含む。
本出願は、例えば以下の発明を提供する。
[1] n−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせを生合成的に調製するための方法であって、
(a) 基質と、水と、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、GenBank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するために、40パーセント以上であるグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物から得られるadhE遺伝子を含むよう遺伝子改変されているプロピオン酸菌と、を含む出発発酵ブロスの発酵を行い、生成物としてn−プロパノール、プロピオン酸を含む発酵生成物ブロスを形成することと、
(b) 前記生成物のn−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせの少なくとも一部を、前記発酵生成物ブロスから回収することと、を含む、方法。
[2] 前記遺伝子改変されたプロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、[1]に記載の方法。
[3] 前記通性嫌気性生物が、大腸菌(Escherichia coli)である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記出発発酵ブロスが、刺激剤n−プロパノールを更に含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記刺激剤n−プロパノールが、細胞内で生成される、[4]に記載の方法。
[6] 前記細胞内で生成されるn−プロパノールが、
(a) 基質と、水と、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、GenBank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するために、40パーセント以上であるグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物から得られるadhE遺伝子を含むよう遺伝子改変されているプロピオン酸菌と、を含むブロスの発酵を行い、細胞内で生成されるn−プロパノールを含む発酵生成物ブロスを形成することと、
(b) 前記細胞内で生成されるn−プロパノールの少なくとも一部を前記発酵生成物ブロスから回収することと、によって調製される、[5]に記載の方法。
[7] 前記基質が、グリセロール、グルコース、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される炭素化合物を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記出発発酵ブロスが、さもなければ同一であるが、前記遺伝子改変されたプロピオン酸菌の代わりに、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、GenBank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するための、40パーセント以上であるグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物から得られるadhE遺伝子の挿入によって遺伝子改変されていない、さもなければ同一のプロピオン酸菌を含有する出発発酵ブロスの前記基質の異化よりも、少なくとも5パーセント多い量だけ増加された前記基質の異化を示す、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記遺伝子改変されたプロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10] n−プロパノールまたはプロピオン酸生合成において使用するためにプロピオン酸菌を改変するための方法であって、
(a) 40パーセント以上のグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物からadhE遺伝子断片を得ることと、
(b) 前記プロピオン酸菌が、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、GenBank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するように、プロピオン酸菌のゲノムを、前記adhE遺伝子断片を含むよう改変することと、を含む方法。
[11] 前記プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、[10]に記載の方法。
[12] 前記adhE遺伝子断片が、大腸菌(Escherichia coli)から得られる、[10]または[11]に記載の方法。
[13] 改変されたプロピオン酸菌であって、プロピオニル−CoAに対して活性を有する、GenBank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するように、40%以上のグアニン−シトシン含量を有する通性嫌気性生物から得られた、挿入されたadhE遺伝子断片を含有するゲノムDNAを有するプロピオン酸菌を含む生合成で使用するためのプロピオン酸菌。
[14] 前記プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)種、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)種、およびこれらの組み合わせから選択される、[13]に記載の方法。
[15] 前記通性嫌気性生物が、大腸菌(Escherichia coli)である、[13]または[14]に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ジカルボン酸経路およびプロピオン酸菌におけるn−プロパノール生合成のための異種adhEの発現である。
図2】pKHEM04−adhEの構築である。
図3】プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)野生型によるグルコースのバッチ式発酵の速度である。
図4】adhEを発現するプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)変異株Pf(adhE)−1によるグルコースのバッチ式発酵の速度である。
図5】adhEを発現するプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)変異株Pf(adhE)−2によるグルコースのバッチ式発酵の速度である。
図6】プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)野生型によるグリセロールのバッチ式発酵の速度である。
図7】adhEを発現するプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)変異株Pf(adhE)−1によるグリセロールのバッチ式発酵の速度である。
図8】adhEを発現するプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)変異株Pf(adhE)−2によるグリセロールのバッチ式発酵の速度である。
図9】種々の濃度のプロパノールの存在下、グリセロールで増殖したプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)野生型のバッチ式発酵におけるプロパノールの細胞成長に及ぼす影響である。
図10】種々の濃度のプロパノールの存在下、グリセロールで増殖したプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)野生型のバッチ式発酵におけるプロパノールのグリセロール消費に及ぼす影響である。
図11】様々な濃度のプロパノールの存在下、グリセロール上で増殖したプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)野生型のバッチ式発酵におけるプロパノールのプロピオン酸生成に及ぼす影響である。
【0019】
広くは、本発明は、特に二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現する特に遺伝子改変プロピオン酸菌微生物;この微生物を調製するプロセス;およびn−プロパノール、プロピオン酸、またはこの両方を含有する生成物を調製するために発酵培地におけるその使用を含み、ここでは、同様には遺伝子改変されていない別の同様なプロピオン酸菌の使用と比較して、n−プロパノールの収率、力価および生産性が改善され、プロピオン酸の力価及び生産性も改善される。これは、特に二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼがプロピオニル−CoAのn−プロパノールへの変換を比較的増加させるために達成される。
【0020】
微生物は、非限定的な例として、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(P.acidipropionici)、およびこれらの組み合わせを含む様々な種のいずれかから選択されてもよい。選択された微生物は、プロピオニル−CoAに対する活性を有する、Genbank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを生成するよう遺伝子改変される。遺伝子改変するために、すなわち、本発明によるこれらの微生物を、これらが所望のデヒドロゲナーゼを発現するようになるように形質転換するために、二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼに特異的な遺伝子コード(adhE)が、特定の供給源からクローニングされる。特定のタンパク質構造を指す「Gene ID」および「GI」をさらに含むGenBank識別情報は、米国国立衛生研究所(NH)のウェブサイト、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbankで利用可能である「BLAST」という表題の公に利用可能なウェブホスティングソフトウェアの適用を介して容易に入手可能であり、着目した特定の遺伝子に関する情報は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=6062148でより具体的に見ることができる。プロピオン酸菌を改変するために使用される遺伝子コードの供給源は、40%以上であるGC含量を有する通性嫌気性生物が望ましい。任意の所定の遺伝子のGC含量のパーセントは、公開された論文を参照することによっておよび/または適切な計算ソフトを用いる公開された配列からの計算によって得ることができる。
【0021】
例えば、本発明の1つの特定の実施形態では、adhE遺伝子は、GenBank Gene ID 6062148(大腸菌(E.coli)K−12菌株、DH10B亜系)に基づいて約51%のGC含量を有することが既知である大腸菌(Escherichia coli)から得ることができる(さらに一般的な大腸菌(E.coli)のゲノム上の情報については、例えば、Durfee,et al.,“The complete genome sequence of Escherichia coli DH10B:Insights into the biology of a laboratory workhorse”,J.Bacteriology,Vol.190,No.7,2008,2597−2606を参照されたい)。「通性嫌気性生物」という用語を本明細書で使用する場合、酸素が存在するならば、好気呼吸によりアデノシン三リン酸(ATP)を作るが、発酵に切り替えることもできる生物、通常は細菌を意味するよう定義される。これとは対照的に、絶対嫌気性菌は、酸素の存在下では死滅する。
【0022】
クローニングされたadhE遺伝子のプロピオン酸菌ゲノムへの挿入の結果は、挿入されたadhE遺伝子の発現によって、すなわち、Genbank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された特定のアルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを生成することによって、プロピニル−CoAをn−プロパノールに変換する変異体プロピオン酸菌である。このn−プロパノールは、その後、現状のまま回収されてもよく、または変異体プロピオン酸菌によってもしくは同一であるか異なる種の非改変型プロピオン酸菌によって更に生成されるプロピオン酸と共に発酵ブロス中に留まるままにして置かれてもよい。したがって、本発明のプロセスの利点は、n−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせであり得る最終生成物が、発酵ブロスから回収することができることである。
【0023】
adhEコード化をゲノムに挿入するための代謝工学は、当業者に既知の手段および方法を介して行うことができる。このコード化は、プロピオン酸菌についての単一の遺伝子のみを表し、これによって、いくつかの他の生物および/または複数の遺伝子を伴うプロセスと比較して改変プロセスを簡略化することが特に便利である。
【0024】
一般的に、本発明の方法で代謝的に操作されたプロピオン酸菌は、1つの非限定的な実施形態では、まず初めに選択された通性嫌気性生物、例えば大腸菌(E.coli)K−12菌株、DH10B亜系からゲノムDNAを単離し、続いて、当業者の一般的な技術に従い特注設計されたプライマーを用いるPCR増幅によって作成することができる。PCR増幅後に、adhE遺伝子はGEM−Tベクター中にクローンニングすることができる。その後、プラスミドをBspHIおよびNdeIによる制限酵素消化にさらし、DNA断片生成物を生成し、これを引き続いてNcoIおよびNdeI制限酵素消化されたpKHEM04プラスミドに連結させることによって、pGEM−Tベクターを鋳型として用いて、adhE遺伝子を、pKHEM04ベクターに続いてクローニングすることができる。次いで、抗菌的に選別された変異体は、pKHEM04ベクターを有するプロピオン酸菌培養物を電気穿孔することによって作製することができる。当業者であれば、所望のプロピオン酸菌のゲノム形質転換を効果的に達成するための形質転換手段および方法を一般的に認識するであろうし、ここでの追加の説明は必要ないと思われる。
【0025】
本発明の代謝的に操作されたプロピオン酸菌が一旦作成されると、これらは、例えば、n−プロパノール、プロピオン酸、またはこれらの組み合わせを調製するための生合成プロセスで使用することができる。このようなプロセスは、好適な発酵ブロスの調製と共に開始することが望ましい場合がある。プロピオン酸菌培養物の初期量が発酵ブロスの総体積に基づいて、1%〜50%(体積/体積(v/v))に及び、好ましくは5%〜25%(v/v)に及ぶ状態で、代謝的に操作されたプロピオン酸菌に加えて、発酵ブロスはまた、水と少なくとも1つの基質とを含有することが望ましい。広くは、0.5〜4.0の範囲に及ぶが、頻繁には約1.5〜約2.5に及ぶ600ナノメートルにおける接種菌光学密度(OD600)を使用することが好ましいことがある。代謝的に操作されたプロピオン酸菌は、所定の発酵ブロス中の単独の発酵性生物として使用されてもよく、または限定されるものではないが、非改変型プロピオン酸菌および他の属の改変型ならびに非改変型生物を含める1つ以上の追加の発酵生成物と組み合されてもよい。
【0026】
本発明のプロセスの発酵部分において遺伝子改変されたプロピオン酸菌によって広範な種々の基質が使用されてもよい。このような基質としては、非限定的な例として、炭水化物、アルコール、酸、アルデヒド、ケトン、アミノ酸、ペプチド等などの1つ以上の炭素源を挙げることができる。例えば、これらとして、単糖類(グルコース、フルクトース、およびキシロースなど)、オリゴ糖類(すなわち、スクロース、乳糖)、多糖類(すなわち、デンプン、セルロース、へミセルロース)、リグノセルロース物質、脂肪酸、スクシネート、ラクテート、アセテート、グリセロール等、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。基質は、グルコースまたはセルロースなどの光合成の生成物であってもよい。基質として使用される単糖類は、酸などの多糖類の加水分解の生成物であってもよく、セルロース、デンプンおよびペクチンの酵素的加水分解物であってもよい。用語「エネルギー源」は、理解の目的で、炭素源と互換的に使用されてもよく、これは化学有機栄養的代謝において、炭素源が異化の間には電子供与体として、細胞成長の間には炭素源としての両方で使用されるためである。
【0027】
したがって、基質(複数可)は、水を基準として、発酵ブロスの1%〜15%(w/v)、望ましくは2.5%〜10%(w/v)、より望ましくは5%〜10%(w/v)を示すことが望ましい。上昇および/または下降を含める発酵温度、発酵時間、pHおよび他の条件は、当業者には既知であり、これらの変動が生成物収率、副産物、比率等に影響を及ぼす因子として認識されるであろう。それでも、少なくとも50g/L、より望ましくは少なくとも80g/Lの生成物(n−プロパノールおよび/またはプロピオン酸)力価を達成するように72時間未満の時間を目標にすることが、商業的な観点から望ましいと一般的に考えられる。上記とは別に、生成物力価は、ある特定の実施形態では、(<)1g/L未満〜120g/Lに及んでもよい。
【0028】
この反応におけるn−プロパノールの産生は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドデヒドロゲナーゼ(NADH)の利用可能度によって制限され、この利用可能度は、グルコースの代わりにグリセロールを基質として用いることで顕著に改善することができる。当業者に周知である、この制限を解決するための他の方法としては、非限定的な例で、増殖培地中のホルメート補給によってホルメートデヒドロゲナーゼを過発現すること、ブロス中の還元環境を確立するために電気電極を使用すること、またはプロパノールならびにプロピオン酸生合成に対するNADH利用可能度を増加させるためにレドックスメディエーターもしくは人工的な電子伝達体を適用することを挙げることができる。
【0029】
本発明の特別の利点は、代謝的に操作されたプロピオン酸菌、基質および水と組み合わせて、本明細書で「刺激剤プロパノール」と呼ばれるプロパノールが含まれるように出発発酵ブロスが改変され得ることである。これが発酵の開始時点で添加されるという点で、生成物プロパノールとは区別される。これは、n−プロパノールおよび他のプロパノール異性体から選択されてもよいが、n−プロパノールが好ましい。外部から導入される(「スパイクされる」)プロパノールは、細胞内、細胞外のいずれかの任意の手段によって、または他の化学合成の結果としてそれ自体生成されてもよい。しかしながら、特に、驚くべきことに、発酵ブロスを「スパイクする」ために使用されるプロパノールが、別個に実行される、すなわち、本発明のプロセスと同様である追加のプロセスによるなど、細胞内でそれ自体が生成された場合、有利な効果を誘導することができる。外部から導入されるが、一部の実施形態では細胞内で生成される、「スパイクされた」プロパノールは、発酵ブロスの体積に基づいて、全体として0.01〜10g/L、より好ましくは2〜7g/Lに及ぶ量で使用されることが好ましい。出発発酵ブロス中のこのような外部から導入されたプロパノールは、生成物発酵ブロス中でプロピオン酸およびn−プロパノール生産を増加させるのに役立ち、これゆえ、このプロパノールを「刺激剤」と呼ぶ命名法を用いる。このような増加は、10%(体積当たり重量)(w/v)〜125%w/v、好ましくは25%w/v〜125%w/vに及ぶ量までの増加であってよく、例えば、同一の条件下の異なる基質について認められる変動を伴い、力価の増加は、1〜7g/Lに及ぶ。例えば、ある特定の実施形態では、全てグリセロールの基質は、全てグルコースの基質よりも実質的に大きな改善を示す。
【0030】
本発明の1つの利点は、ある特定の非限定的な実施形態において、基質の異化が、さもなければ同一であるが、遺伝子改変されたプロピオン酸菌の代わりに、プロピオニル−CoAに対する活性を有する、GenBank Gene ID:6062148;GI:170080868として同定された二官能性アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼを発現するための、40%以上であるGC含量を有する通気嫌気性生物から得られるadhE遺伝子の挿入によって遺伝子改変されていない、さもなければ同一のプロピオン酸菌を含有する出発発酵ブロスの基質の異化よりも、少なくとも5パーセント多い量だけ増加され得るということである。
【0031】
adhEを発現する本発明の代謝的に操作された微生物を用いる本発明のプロセスの結果は、プロピオニル−CoAが、相当量でn−プロパノールに有効かつ好都合に変換されることである。以下の実施例および比較実施例は、本発明のある特定の実施形態および態様をより完全に例示するであろうが、本発明の範囲の限定として解釈されるべきではない。
【0032】
実施例1および比較実施例1
細菌株、プラスミド、および培地:
本実施例で使用される全ての細菌株およびプラスミドを表1に列記する。大腸菌(E.coli)DH5α(40%以上のGC含量を有する通気嫌気生成物)を、その形質転換体のために、100ミリグラム毎ミリリットル(μ/ml)のアンピシリンで補充したLuria−Bertani(LB)培地中で、摂氏37度(℃)にて好気的に増殖させる。比較の目的で、通気嫌気性生物でもあるクロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)(C.acetobytylicum)アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)824を、補強クロストリジウム培地(RCM、Difco)中で37℃にて嫌気的に増殖させる。コンピテント細胞を調製し、電気穿孔後にこの細胞を回収するために、プロピオン酸菌を、10g/Lの乳酸ナトリウム、10g/Lの酵母エキス、および10g/Lのトリプチカーゼダイズ煮汁を含有するNorthern Lights BioScience(NLB)培地中で32℃にて嫌気的に増殖させる。発酵速度試験については、細胞を、10g/Lの酵母エキス、5g/Lのトリプチカーゼ、0.25g/LのKHPO、0.05g/LのMnSO、炭素源としての25g/Lのグルコースまたはグリセロール、および培地のpHを緩衝処理するための2%のCaCOを含有する培地中で増殖させる。より詳細な関連する手順については、例えば、Yang,et al.,“Propionic acid production from glycerol by metabolically engineered Propionibacterium acidipropionici”,Process Biochem.,Vol.44,2009,1346−1351を参照されたい。これらの培地を、121℃、15ポンド毎平方インチゲージ(psig)(約204.75キロパスカル、kPa)で約30分間(min)、オートクレーブ処理によって滅菌する。特に断らない限り、濾過滅菌したヒグロマイシンBを無菌培地に無菌的に添加し、培地に対して250μg/mlの最終濃度にして、血清用瓶中でプロピオン酸菌形質転換体を維持する。全ての保存培養物は、短期使用には4℃で、長期間の保存には−80℃で保持される。
【0033】
aadおよびadhE発現ベクトルの構築:
10ミリグラム毎ミリリットル(mg/ml)のリゾチーム中、37℃にて20〜30分間のインキュベーション後に細胞を溶解する。次いで、QIAGENゲノムDNAキット(Qiagen,Valencia,CA)を用いて、染色体DNAを単離する。大腸菌(E.coli)のadhEおよび(比較)クロストリジウム・アセトブチリクム(C.acetobuchilicum)のaad遺伝子(aad遺伝子は、GenBank受入番号AE001438.3に基づいて、35%のGC含量を有する)を、鋳型としてそれぞれのゲノムDNAおよび導入されたBspHIおよびNdeI制限部位(表1参照)を有するプライマーを用いて、DNAエンジン(MJ Research,Reno,NV)中でPCR増幅する。5μlの10X PCR緩衝液(Invitrogen,Grand Island,NY、USA)、1μlの25mM MgCl、1μlの10mM dNTPs(各々)、1μlの10mM 順方向プライマー、1μlの10mM 逆方向プライマー、1μlのゲノムDNA、および2.5UのTaq DNAポリメラーゼ(Invitrogen)を含有する反応混合物(50マイクロリットル(μl))を、94℃で2分間の初期変性工程、94℃で30秒間の繰り返し変性のサイクル(複数可)、55℃で30秒間のアニーリング、および72℃で3分間の伸長にかけ、PCR生成物の最終伸長を72℃で10分間行った。PCR生成物を、pGEM−Tベクター(Promega,Madison,WI,USA)中にクローニングして、対応するpGEM−aadおよびpGEM−adhEベクターを構築し、QIAprep MiniPrepプラスミド精製キットを用いて、これらを単離し、精製する。発現ベクターpKHEM04−aadおよびpKHEM04−adhEを構築するために、pGEM−aadおよびpGEM−adhEをBspHIおよびNdeI REで二重消化し、QIAquickゲル抽出キッをト用いるアガロースゲルからの精製後に、対応するaadおよびadhE断片を、NcoIおよびNdeI RE REで消化されたpKHEM04と結合させる(図2参照)。BspHIおよびNcoIの両方は、適合する相補末端を有し、これらのDNA配列を、オハイオ州立大学のPlant−Microbe Genomic Facilityにより配列決定する。
【0034】
プロピオン酸菌の形質転換:
pKHEM04−aadおよびpKHEN04−adhEによるプロピオン酸菌の形質転換を、当業者に周知の手順に従い電気穿孔法によって実施する。追加の詳細については、例えば、Xue,et al.,“High osmolarity improves the electro−transformation efficiency of the Gram−poshitive bacteria Bacillus subtilis and Bacillus licheniformis,”J.Microbiol.Methods,Vol.34,1999,183−191を参照されたい。NLB培地中で約0.6〜0.8のOD600まで増殖させた細胞を、氷水中で10分間冷却し、4℃および4,000回転数毎分(rpm)で10分間の遠心分離によって採取し、氷冷した電気穿孔培地(10%のグリセロール)で4回洗浄し、電気穿孔培地(元の培地体積の1/40)中に再懸濁させる。次いで、0.1cmのキュベット中、1〜2μgのプラスミドDNAと混合した100μlのコンピテント細胞を、氷上で2〜5分間インキュベートし、Gene−Pulser(BioRad Laboratories,Richmond,CA)を用いて、25マイクロファラッド(μF)、200オーム(Ω)、20キロボルト毎センチメートル(kv/cm)、および4.5〜5.0ミリ秒の時間定数で電気穿孔する。電気穿孔された細胞を1mlの回収培地に移し、3時間(h)培養し、その後、250μg/mlのヒグロマイシンBを含むNLB培地上で平板培養する。培養の約10日後に、プレート上のコロニーを拾い上げ、形質転換体を、表1に示す対応するadhEまたはaad遺伝子プライマーを用いてPCRによって確認する。
【0035】
発酵速度:
選別された形質転換体によるグルコースおよびグリセロールのバッチ式発酵を、32℃およびCaCOで調整した約pH6.8にて血清瓶中で試験する。試料を定期的に採取し、基質消費およびn−プロパノールならびに有機酸の産生を監視する。n−プロパノールの細胞成長及び発酵に及ぼす影響を試験するために、様々な量のn−プロパノールを血清瓶中の培地に添加する。増殖試験用の培地には、CaCOは添加されない。特に断らない限り、試験される各条件について、少なくとも二通りの瓶を使用する。
【0036】
炭素フラックス分配の化学量論的分析:
adhE発現およびn−プロパノール生合成のプロピオン酸発酵に及ぼす影響を評価するために、野生型および変異体における炭素フラックス分配の化学量論的分析を、補助材料で得られる化学量論的方程式および以下の前提:1)ピルベートおよびホスホエノールピルビン酸(PEP)の正味の蓄積または消費がないこと;2)NADHまたはNADにおける正味の変化がないように酸化還元が釣り合っていること;3)十分な量のアデノシン三リン酸(ATP)が細胞成長および維持に対して生成され、正味のATP生産があること、を用いて実施した。炭素フラックス分配は、最終生成物(プロピオネート、スクシネート、アセテート、ならびにn−プロパノール)の量および発酵中に消費された基質(グルコースまたはグリセロール)の量に基づいて推定される。発酵最終生成物および細胞バイオマスへのモル炭素フラックス分配は、消費された基質で標準化される。
【0037】
分析法:
分光光度計(Shimazu,Columbia,MD、UV−16−1)を用いて1.5−mLのキュベット(光路長=1cm)内で600nmにおける光学密度(OD600)を測定することによって、細胞成長を監視する。炎イオン化検出器(FID)及び30.0mの溶融シリカカラム(Stabiwax−DA、0.25ミリメートル(mm)のフィルム厚および0.25mmのID、Restek,Bellefonte,PA)を装備するガスクロマトグラフ(GC)(GC−2014Shimazu,Columbia,MD)を用いて、n−プロパノールを分析する。注入温度は200℃であり、自動注入器(AOC−20i,Shimazu)を用いて、1μlの試料を注入する。最初に、カラム温度を60℃で3分間保持する。次いで、カラム温度を30℃毎分の一定速度で上昇させて、150℃で4分間、試料当たり合計10分間維持する。0.6ml/分で溶出液として0.01NのNHSOを用いて45℃で動作する、有機酸カラム(Bio−Rad、HPX−87)を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、当業者によって一般的に使用される手順に従って、グルコース、グリセロール、および有機酸(酢酸、コハク酸およびプロピオン酸)を分析する。更なる詳細については、例えば、Suwannakham,et al.,“Enhanced propionic acid fermentation by Propionibacterium acidipropionici mutant obtained by adaptation in a fibrous−bed bioreactor,”Biotechnol.Bioeng.,Vol. 91,2005,325−337を参照されたい。
【0038】
統計的分析:
特に断らない限り、全ての実験は二通りで行われ、平均値及び標準誤差が報告される。データ分析を、p<0.05の統計的有意差で、適切なソフトウェアを用いてt検定値を計算することによって実施する。
【0039】
プロピオン酸菌のadhEならびにaadのクローニングおよび発現:
クロストリジウム・アセトブチリクム(C.acetobuchilicum)ATCC 824および大腸菌(E.coli)K−12菌株、DH10B亜系それぞれからのaadおよびadhE遺伝子を、pKHEM04に首尾よくクローニングし、このpKHEM04は、遺伝子発現のために、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Propionibacterium freudenreichii)(P. freudenreichii)亜種シャーマニイ(shermanii)IFO12424からの強力なp4プロモーターを含有する(例えば、先に言及したPiaoを参照)。得られたプラスミドpKHEM04−aadおよびpKHEM04−adhEを、電気穿孔法によって、3つの異なるプロピオン酸菌(プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(P.acidipropionici)ATCC 4875、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)DSM 20271およびプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)DSM 4209)に形質転換する。プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(P.acidipropionici)からはコロニーが得られず、これはpKHEM04−adhE宿主細胞との不和合性だけを示唆していると解釈され、プロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(P.acidipropionici)が、アルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を発現するために、同一または異なるベクターを用いて、遺伝子改変されることができないということではない。安定なコロニーは、pKHEM04−aadおよびpKHEM04−adhEで形質転換された両方のプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)菌株について得られる。汚染から生じるいかなる偽陽性も排除するために、NLB寒天プレート上のコロニーを拾い上げ、液体培地中でプロピオン酸を生成するそれらの能力について検査する。陽性形質転換は、aadまたはadhEについてのプライマーにより陽性培養PCRをもたらすコロニー、および変異体から抽出されたプラスミドを鋳型として用いるaadまたはadhEプライマーにより陽性PCRをもたらすコロニーについて確認される。最終的に、形質転換体から抽出されたプラスミドを大腸菌(E.coli)に形質転換し、再抽出して、陽性PCRを大腸菌(E.coli)培養物からのおよび再抽出されたプラスミドからのaadまたはadhEプライマーで検出する。
【0040】
次いで、陽性形質転換体であることが証明された変異体を、グルコースからのプロパノール産生について試験する。n−プロパノールの産生は、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)DSM 4209中で発現されたadhE遺伝子を有する2つの変異体、すなわちPf(adhE)−1およびPf(adhE)−2の発酵ブロス中のみで検出され、これらが、基質としてグルコースおよびグリセロールを用いるその発酵速度について更に特性評価される。他のあらゆる陽性形質転換体からも検出可能なレベルのn−プロパノールは産生されず、これは、酵素の発現レベルが低すぎること、または宿主細胞中で酵素が機能的ではないことを示唆している。これらのプロピオン酸菌の野生型(WT)菌株は、同一の試験条件下で、いかなる検出可能な量のn−プロパノールも産生しない。
【0041】
グルコースを炭素源として用いるバッチ式発酵速度:
図3、4および5は、グルコースを基質として増殖させた、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)DSM 4209の野生型(WT)及びadhE遺伝子を発現する2つの変異体、Pf(adhE)−1ならびにPf(adhE)−2を用いる発酵速度を示す。予想通りに、WTではなく、2つの変異体だけがn−プロパノールを産生することができる。n−プロパノールは、72時間後に変異体の発酵ブロス中で検出され、約270時間で最大濃度(Pf(adhE)−1では342mg/LおよびPf(adhE)−2では291mg/L)に到達する。その後、プロパノール産生は、培地中のグルコースの限定された利用度のために、横ばい状態になる。グルコース消費および酸産生の両方が、WTを用いるよりも変異体を用いることで著しく速くなることは注目に値する。WTを用いるものに比べて変異体を用いる発酵では、プロピオン酸および酢酸の両方がより速い速度で産生され、より高い最終濃度に到達する。変異体では約9.9〜11.1g/Lのプロピオン酸および4〜4.5g/Lの酢酸が産生され、一方わずか8.7g/Lのプロピオン酸および2.8g/Lの酢酸がWTによって産生される。
【0042】
表2は、これらの発酵からの基質消費速度および酸生産性ならびに収率を要約し比較する。一般的には、全ての菌株において匹敵するプロピオン酸収率が得られるが、変異体は有意に高い生産性を有する。明らかに、変異体中のadhE遺伝子の発現は、n−プロパノール生合成をもたらすのみならず、変異体中の有機酸産生も比較的増加させる。
【0043】
実施例2および比較実施例2
基質としてグリセロールを用いるバッチ式発酵
種々の菌株を用いるバッチ式発酵の速度を、炭素源としてグリセロールを用いて更に検討し、結果を図6、7および8に示し、これと共に重要な速度パラメータを表2に要約する。今度も変異体は相当量のn−プロパノールを産生し、一方WTはいかなる検出可能な量も産生しない。グルコース発酵と比較すると、50〜65%多いn−プロパノールが高速でグリセロールから産生され、発酵の終わりには約500mg/Lの最大プロパノール力価に到達する。変異体が、200時間内に全ての20g/Lのグリセロールが消費される(消費速度:約0.10g/L・h)状態で、非常に速くかつより有効にグリセロールを使用することができるが、一方WTは300時間以内に約10g/Lのグリセロールを使用する(消費速度:約0.032g/L・h)にすぎないことは特に注目に値する。その結果、多量のプロピオン酸が、0.047g/L・hのより高い生産性で変異体によって産生され、この生産性はWTによるもの(0.021g/L・h)の二倍を超える生産であり、グルコースを炭素源として用いる場合(約0.031g/L・h)よりもさらに速い。しかしながら、プロピオン酸収率は、約0.64g/gでWTおよび変異体の双方で同様であり、これはグルコースからのもの(約0.49g/g)よりも高い。グルコース発酵と同様に、より多くのアセテートもWTによるよりも変異体によって産生される(約1.35対(vs.)約0.6g/L)。グリセロール発酵からのP/A比は、グルコースを用いるものよりも3〜4倍高く(約10対約3)、このことは、より多くのグリセロール炭素が、酢酸生合成よりもプロピオン酸生合成に向けられることを示唆している。
【0044】
adhE発現およびn−プロパノール生合成のフラックス分配に及ぼす影響:
adhEの発現およびn−プロパノール生合成は、NADHバランスを変化させることができ、したがって、プロピオン酸発酵における炭素フラックス分配に影響を及ぼすことができる。発酵中間体(ピルベートおよびPEP)および酸化還元バランスで正味の変化がないとの前提条件に基づいて、様々な発酵条件下のモルフラックス分配を、基質(グルコースまたはグリセロール)消費および生成物形成に関する実験データから計算し、その結果を表3に要約する。グルコースを基質として用いる場合、ピルベートの大部分は、エムデン−マイヤーホフ−パルナス)(EMP)経路を通して生成される。WTと比較して、変異体は、細胞バイオマスに向けられるより少ない基質炭素を有する(5.9%対15.8%)が、アセテートに向けられるより多くの基質炭素を有し(28.0%%対21.1%)、これはおそらく、細胞がn−プロパノールおよびプロピオン酸生合成の増加により多くのNADHを必要とするためである。より還元された基質のグリセロールを用いる場合、全てのピルベートはEMP経路を通して生成され、変異体は、WTと比べて、細胞バイオマスに向けられるより多くの基質炭素を有し(11.9%対5.3%)及びスクシネートに向けられるより少ない炭素を有する(4.8%対11.6%)。その一方で、プロピオネートおよびn−プロパノールへの相対的炭素フラックスは、変異体及びWTについて約75%でほぼ同様である。アセテートへの炭素フラックスもまた、変異体(8.6%)およびWT(8.2%)の双方について同様である。n−プロパノールの生合成においてadhEによる追加のNADH消費を補償するために、僅かに多いアセテートが変異体で生成される。炭素フラックスを決定するために使用される等式が表5および6に提供されている。
【0045】
実施例3および比較実施例3
プロパノールのプロピオン酸発酵に及ぼす影響:
n−プロパノールの細胞成長および発酵に及ぼす影響を例示するために、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(P.freudenreichii)DSM 4209 野生型細胞を、炭素源としてグリセロールおよび様々な量のn−プロパノール(0、0.5、1、5および10g/L)を含む培地中で培養する。図9、10および11に示すように、プロパノールは、0.1〜1g/Lの低濃度では細胞成長または発酵に著しく影響を及ぼさないが、10g/Lのより高い濃度では、非常に長い遅延期で細胞成長を阻害する。しかしながら、5g/Lのプロパノールの存在下では、細胞はグリセロールを消費することができ、遅延期の短期の適応の後に、非常に速い速度でプロピオン酸を産生することができる。特定の増殖速度、グリセロール消費速度、およびプロピオン酸生産性ならびに収率を、時間経過データから推定し、表4に要約する。この結果は、プロピオン酸生産性および力価が、5g/Lのn−プロパノールの存在下で約20%まで増加することを示している(p<0.05)。これと同時に、アセテート産生は、5〜10g/Lのプロパノールの存在下で著しく減少するが、低濃度レベルにおけるアセテート産生の大きな変動のために、P/A比に及ぼす影響は重要ではない。コハク酸産生は、試験された濃度範囲では、n−プロパノールによって影響されない。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]