(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の少なくとも一方を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
前記第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の少なくとも一方と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により二次電池正極用スラリーを得る工程と、当該二次電池正極用スラリーを集電体の少なくとも一方の面に塗布し、乾燥して正極合材層を形成する工程と、を含むことを特徴とする二次電池用正極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、二次電池の正極の形成に用いられる正極用スラリーを製造する際に用いられる。そして、本発明の二次電池用正極の製造方法は、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法を用いて製造した二次電池正極用スラリーにより正極合材層を形成することを特徴とする。また、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用正極の製造方法により製造した正極を用いたことを特徴とする。
【0022】
(二次電池正極用スラリーの製造方法)
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、導電材と、第一結着樹脂及び第二結着樹脂を含むバインダーと、正極活物質と、場合によっては溶剤とを含む正極用スラリーの製造に用いられる。そして、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る第一の工程と、第一の工程で得た導電材ペースト1に、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る第二の工程と、第二の工程で得た導電材ペースト2と、正極活物質とを混合する第三の工程と、を含む。
さらに、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位、1−オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有してなり、第二結着樹脂がフッ素系重合体よりなることを特徴とする。
このように、第一の工程において特定の第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーと導電材とを混合して得られた導電材ペースト1に対して、第二の工程において特定の第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加し導電材ペースト2を得て、さらに第三の工程において導電材ペースト2に対して正極活物質を混合することで、得られた二次電池正極用スラリー中において導電材が適度に分散する。従って、当該二次電池正極用スラリーを用いて正極を製造すれば、導電材間で良好な導電ネットワークを形成させ、特に、低温での容量劣化を抑制することができ、さらに、二次電池正極用スラリーを用いて製造した二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。また、本発明において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。また、本発明において「単量体単位」とはその単量体由来の構造単位であり、共役ジエン単量体単位には、重合後に水素化されたものも含まれる。
【0023】
<第一の工程>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第一の工程では、導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る。以下、第一の工程について詳細に説明する。
【0024】
<<導電材>>
導電材は、正極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる導電材としては、特に限定されることなく、既知の導電材を用いることができる。具体的には、導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。これらの中でも、二次電池の電池容量を維持しつつレート特性を十分に向上させる観点からは、導電材として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラックを用いることが好ましい。
【0025】
そして、導電材の配合量は、後述する正極活物質100質量部あたり、1質量部以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましく、2質量部以上であることが更に好ましく、4質量%以下であることが更に好ましい。導電材の配合量が少なすぎると、正極活物質同士の電気的接触を十分に確保することができず、二次電池のレート特性を十分に向上させることができない場合がある。一方、導電材の配合量が多すぎると、二次電池正極用スラリーの粘度安定性が低下する虞があると共に、二次電池用正極中の正極合材層の密度が低下し、二次電池を十分に高容量化することができないおそれがある。
【0026】
<第一のバインダー>
第一のバインダーは、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法を用いて製造したスラリーにより集電体上に正極合材層を形成して製造した正極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持しうる成分である。一般的に、正極合材層におけるバインダーは、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも正極活物質同士、正極活物質と導電材、或いは、導電材同士を結着させ、正極活物質等が集電体から脱落するのを防ぐ。
【0027】
そして、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一のバインダーは、共役ジエン単量体単位、1−オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有する第一結着樹脂を含むことを必要とする。
このように、第一のバインダーの少なくとも一部を構成する第一結着樹脂が共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有することで、得られる導電材ペースト1及び/又は、かかる導電材ペースト1を用いて得られる二次電池正極用スラリーの安定性を良好なものとすることができる。
なお、第一のバインダーは、第一結着樹脂を主成分として含んでいれば、第一結着樹脂以外の結着樹脂を含んでいてもよい。
【0028】
ここで、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一結着樹脂は、ニトリル基含有単量体単位を含むことが好ましい。二次電池のサイクル特性及び低温特性を更に向上させることができるからである。
さらに、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一結着樹脂は、共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。導電材ペーストの経時安定性を一層優れたものとすることができるからである。
さらに、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に用いる第一結着樹脂は、共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の少なくとも一方、並びに(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことが好ましい。これらの単量体単位を共に有することで、二次電池のサイクル特性及び低温特性を一層向上させることができるからである。
なお、第一結着樹脂は、上述した単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。以下、第一結着樹脂の各単量体単位を提供する単量体についてそれぞれ説明する。
【0029】
[共役ジエン単量体及び1-オレフィン単量体]
共役ジエン単量体は、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物である。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる
また、1−オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどが挙げられる。
【0030】
そして、上記第一結着樹脂中での共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の合計量の割合は、第一結着樹脂中の全単量体単位を100質量%とした場合に、50質量%以上が好ましく、98質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。なお、単量体単位の割合は、第一結着樹脂を製造する際の各単量体の配合量の比率に対応する。第一結着樹脂中での共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の合計量の割合を上記範囲内とすることで、本発明で得られる二次電池正極用スラリーを用いて形成した正極合材層中で、導電材が良好に分散し、導電ネットワークが良好に形成されるようになり、かかる正極合材層を有する二次電池のサイクル特性及び低温特性が向上する。また、第一結着樹脂中の共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の含有量が上記範囲内であれば、導電材ペースト1中における導電材の沈降を防ぎ、導電材ペースト1の経時安定性を一層向上させることができる。
なお、本明細書において、導電材が「良好に分散」する、とは、正極合材層中において導電材同士が過度に分散又は凝集することなく、適度に分散した状態であって、導電材同士が相互に導電ネットワークを形成しうる状態を指す。
【0031】
なお、第一結着樹脂中の共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の割合が上記下限値を下回ると、特にN−メチルピロリドン(NMP)のような有機溶媒に対する第一結着樹脂の溶解性が過剰に高くなり、その結果導電材が二次電池正極用スラリー中で分散しすぎてしまい、かかる正極合材層を有する二次電池の出力特性及びサイクル特性が低下する虞がある。一方、第一結着樹脂中の共役ジエン単量体単位及び1−オレフィン単量体単位の配合量が上記上限値を上回ると、特にN−メチルピロリドン(NMP)のような有機溶媒に対する第一結着樹脂の溶解性が過剰に低くなり、その結果、二次電池正極用スラリー中において導電材の分散に偏りが生じてしまい、かかる二次電池正極用スラリーを用いて製造した二次電池のサイクル特性及び出力特性が劣化する虞がある。
【0032】
[(メタ)アクリル酸エステル単量体]
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらの中でも、導電材の分散性を向上させる観点からは、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が4〜10のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、その中でも、具体的には、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレートがより好ましい。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
そして、上記第一結着樹脂中での(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、第一結着樹脂中の全単量体単位を100質量%とした場合に、10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。なお、単量体単位の割合は、第一結着樹脂を製造する際の各単量体の配合量の比率に対応する。第一結着樹脂中での(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を上記上限値以下とすることで、特に、N−メチルピロリドン等の有機溶媒中における第一結着樹脂の溶解性を向上させ、二次電池正極用スラリーの経時安定性を一層向上させることができる。さらに、第一結着樹脂中での(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を上記下限値以上とすることで、本発明で得られる二次電池正極用スラリーを用いて形成した正極合材層の電解液に対する安定性を向上させることができ、本発明で得られる二次電池正極用スラリーを用いて製造した二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0034】
なお、第一結着樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が上記上限値を上回ると、得られた二次電池正極用スラリーを用いて形成した正極合材層の強度が低下し、電解液に対する膨潤度が上昇し、ピール強度が低下する。したがって、かかる正極を備える二次電池のサイクル特性が劣化する虞がある。一方、第一結着樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が上記下限値を下回ると、特にN−メチルピロリドン(NMP)のような有機溶媒に対する第一結着樹脂の溶解性が低下し、その結果、二次電池正極用スラリー中において導電材の分散に偏りが生じてしまい、二次電池正極用スラリーの経時安定性が低下する虞がある。従ってかかる二次電池正極用スラリーを用いて形成した正極は均一性に劣り、かかる正極を備える二次電池のサイクル特性及び出力特性が低下する虞がある。
【0035】
[ニトリル基含有単量体]
ニトリル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。そして、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。なかでも、第一結着樹脂の結着力を高め、電極の機械的強度を高める観点からは、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
そして、上記第一結着樹脂中でのニトリル基含有単量体単位の割合は、第一結着樹脂中の全単量体単位を100質量%とした場合に、2質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が特に好ましい。なお、単量体単位の割合は、第一結着樹脂を製造する際の各単量体の配合量の比率に対応する。第一結着樹脂中のニトリル基含有単量体単位の配合量をかかる範囲内とすることで、本発明で得られる二次電池正極用スラリーを用いて形成した正極合材層中で、導電材が良好に分散し、導電ネットワークが良好に形成されるようになり、かかる正極合材層を有する二次電池の低温特性が向上し、且つサイクル特性が向上する。また、第一結着樹脂中のニトリル基含有単量体単位の配合量が上記範囲内であれば、導電材ペースト1中における導電材の分散性を向上させ、かかる導電材ペースト1を用いて製造した二次電池用正極の電解液に対する安定性を向上させることができる。
【0037】
なお、第一結着樹脂中のニトリル基含有単量体単位の割合が上記上限値を上回ると、バインダーが電解液に対して溶解しやすくなり、かかる正極合材層を備える二次電池のサイクル特性が低下する虞がある。一方、第一結着樹脂中のニトリル基含有単量体単位の割合が上記下限値を下回ると、特に、N−メチルピロリドン(NMP)のような有機溶媒に対する第一結着樹脂の溶解性が低下し、得られた二次電池正極用スラリー中における導電材の分散性が低下する虞がある。したがって、かかる二次電池正極用スラリーを用いて製造した二次電池のサイクル特性が劣化し、さらに、出力特性が低下する虞がある。
【0038】
ここで、第一結着樹脂としては、共役ジエン単量体と、ニトリル基含有単量体とを含む単量体組成物を重合して得た重合体に、水素添加したものを用いることが好ましい。具体的には、1,3−ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)を第一結着樹脂として使用することが好ましい。ニトリルゴム(HNBR)に対する水素添加は、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号参照)により実施することができる。
なお、水素添加した重合体のヨウ素価は60mg/100mg以下であることが好ましく、30mg/100mg以下であることが更に好ましく、20mg/100mg以下であることが特に好ましい。また、下限としては3mg/100mg以上であることが好ましく、8mg/100mg以上であることが更に好ましい。
【0039】
[その他の単量体]
第一結着樹脂は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上述した単量体単位以外の、他の単量体単位を含んでも良い。そのような単量体単位を提供する単量体として、酸性基を有する単量体(酸性基含有単量体)、架橋性単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体、及びフッ素含有単量体などが挙げられる。
【0040】
ここで、酸性基を有する単量体としては、特に限定されることなく、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体を用いることができる。
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する化合物としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
その他、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステルも挙げられる。
【0041】
スルホン酸基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0042】
リン酸基を有する化合物としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0043】
さらに、架橋性単量体としては、エポキシ基を含有する単量体、炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体、ハロゲン原子およびエポキシ基を含有する単量体、N−メチロールアミド基を含有する単量体、オキセタニル基を含有する単量体、オキサゾリン基を含有する単量体、2以上のオレフィン性二重結合を持つ多官能性単量体などが挙げられる。
【0044】
また、芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどが挙げられる。
【0045】
さらに、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0046】
さらに、フッ素含有単量体としては、後述するフッ素系重合体を形成しうるフッ素含有単量体と同様の単量体を使用することができる。なお、第一結着樹脂がフッ素含有単量単位を含有する場合には、第一結着樹脂中の全単量体単位を100質量%とした場合に、フッ素含有単量単位の割合は70質量%未満である。
【0047】
なお、上述した各単量体を重合して、第一結着樹脂を形成する際の重合方法には特に制限が無く、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。各重合法において、必要に応じて既知の乳化材や重合開始剤を使用することができる。
【0048】
そして、第一結着樹脂は、分散媒に分散された分散液または溶解された溶液の状態で使用される。第一結着樹脂の分散媒としては、第一結着樹脂を均一に分散または溶解し得るものであれば、特に制限されず、水や有機溶媒を用いることができ、有機溶媒を用いることが好ましい。なお、有機溶媒としては、特に限定されることなく、導電材ペースト1の溶剤として用いる有機溶媒を用いることができる。
【0049】
<<第一結着樹脂の割合>>
第一の工程で配合する第一のバインダー中の第一結着樹脂の割合は、導電材ペースト1中に含まれる第一のバインダーを構成する結着樹脂の固形分量を100質量%として、50質量%以上である必要があり、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。最も好ましくは、第一のバインダー中の第一結着樹脂の割合は100質量%である。第一のバインダー中の第一結着樹脂の配合量を上記範囲内とすることで、第一結着樹脂が導電材に十分に吸着し、導電材ペースト1及び導電材ペースト2の分散安定性が向上する。そして、かかる導電材ペースト1及び導電材ペースト2を用いて製造した二次電池は、低温特性及びサイクル特性に優れる。
なお、第一のバインダーを構成する結着樹脂として使用し得る第一結着樹脂以外の結着樹脂としては、特に限定されることなく、既知の結着樹脂や、後述する第二結着樹脂などが挙げられる。
【0050】
また、導電材ペースト1中の導電材量を100質量%とした場合、導電材ペースト1中の第一結着樹脂の配合量は、5質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、100質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。第一結着樹脂の配合量を上記範囲内とすることで、第一結着樹脂が導電材に十分に吸着し、導電材ペースト1の分散安定性が向上する。そして、かかる導電材ペースト1を用いて製造した二次電池は、低温特性及びサイクル特性に優れる。
【0051】
<第一のバインダーの配合量>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法は、第一の工程及び第二の工程において、それぞれ第一のバインダー及び第二のバインダーを添加する。第一及び第二のバインダーの合計配合量は、後述する第三の工程で添加する正極活物質の配合量を100質量部とした場合に、1質量部以上、5質量部以下であることが好ましく、2質量部以上、4質量部以下であることが更に好ましい。バインダーの配合量が少なすぎれば、正極の強度が損なわれ、多すぎると正極の抵抗が大きくなりすぎるからである。
そして、第一及び第二のバインダーの合計配合量に対する第一のバインダーの配合割合は、バインダーの合計配合量を100質量部として、10質量部以上90質量部以下が好ましい。
【0052】
<<溶剤>>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第一の工程で使用しうる溶剤としては、例えば、上述した第一のバインダーを構成する結着樹脂を溶解可能な極性を有する有機溶媒を用いることができる。
具体的には、有機溶媒としては、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、エチレンジアミンなどを用いることができる。これらの中でも、取扱い易さ、安全性、合成の容易さなどの観点から、有機溶媒としてはN−メチルピロリドン(NMP)が最も好ましい。
なお、これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
<<その他の成分>>
第一の工程において、上記成分の他に、例えば、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を混合してもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができる。
【0054】
<<混合方法>>
上述の導電材、第一のバインダー、及び場合によっては溶剤を、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第一の工程で混合して導電材ペースト1を得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。
なお、第一のバインダーとして第一結着樹脂と第一結着樹脂以外の結着樹脂とを用いる場合、第一結着樹脂と第一結着樹脂以外の結着樹脂とは、予混合してから導電材と混合してもよいし、予混合することなく導電材と混合してもよい。
なお、第一結着樹脂を分散させた溶媒をそのまま溶剤として利用しても良いし、それとは別途に溶剤を添加しても良い。
【0055】
なお、第一の工程で得られる導電材ペースト1の粘度は、上述したような一般的な混合方法で混合可能な粘度であって、後述する導電材ペースト2の粘度範囲を上述の範囲内とすることができる粘度であれば特に限定されない。
【0056】
<第二の工程>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第二の工程では、第一の工程で調製した導電材ペースト1に、第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る。以下、第二の工程について詳細に説明する。
【0057】
<第二のバインダー>
第二のバインダーも第一のバインダーと同様に、集電体上に正極合材層を形成して製造した正極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持する。
ここで、第二のバインダーは、フッ素系重合体よりなる第二結着樹脂を含有することを必要とする。
【0058】
[フッ素系重合体]
第二結着樹脂としてのフッ素系重合体は、フッ素含有単量体単位を含む重合体である。具体的には、フッ素系重合体としては、1種類以上のフッ素含有単量体の単独重合体または共重合体や、1種類以上のフッ素含有単量体とフッ素を含有しない単量体(以下、「フッ素非含有単量体」と称する。)との共重合体が挙げられる。
なお、フッ素系重合体におけるフッ素含有単量体単位の割合は、フッ素系重合体(第二結着樹脂)中の全単量体単位を100質量%とした場合に、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、フッ素系重合体におけるフッ素非含有単量体単位の割合は、フッ素系重合体(第二結着樹脂)中の全単量体単位を100質量%とした場合に、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0059】
ここで、フッ素含有単量体単位を形成し得るフッ素含有単量体としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三フッ化塩化ビニル、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、フッ素含有単量体としては、フッ化ビニリデンが好ましい。
【0060】
また、フッ素非含有単量体単位を形成し得るフッ素非含有単量体としては、フッ素含有単量体と共重合可能なフッ素を含まない単量体、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの1−オレフィン;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボキシル基を含有するビニル化合物;アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノ基含有不飽和化合物;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などのスルホン酸基含有不飽和化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパン硫酸などの硫酸基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸などのリン酸基含有不飽和化合物などが挙げられる。
【0061】
そして、フッ素系重合体としては、フッ素含有単量体としてフッ化ビニリデンを用いた重合体およびフッ素含有単量体としてフッ化ビニルを用いた重合体が好ましく、フッ素含有単量体としてフッ化ビニリデンを用いた重合体がより好ましい。
具体的には、フッ素系重合体としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体およびポリフッ化ビニルが好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。
なお、上述したフッ素系重合体は、一種単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0062】
ここで、フッ素系重合体のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによるポリスチレン換算値の重量平均分子量は、好ましくは100,000〜2,000,000、より好ましくは200,000〜1,500,000、特に好ましくは400,000〜1,000,000である。
フッ素系重合体の重量平均分子量を上記範囲とすることで、正極活物質や導電材などの正極合材層からの脱離(粉落ち)が抑制され、また導電材ペースト2の粘度調整が容易になる。
【0063】
また、フッ素系重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以下、より好ましくは−20℃以下、特に好ましくは−30℃以下である。フッ素系重合体のTgの下限は特に限定されないが、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−40℃以上である。フッ素系重合体のTgが上記範囲にあることにより、正極活物質、導電材などの正極合材層からの脱離(粉落ち)が抑制できる。なお、フッ素系重合体のTgは、重合に用いる単量体の種類を変更することによって調整可能である。なお、Tgは、示差走査熱量分析計を用いて、JIS K7121;1987に準拠して測定することができる。
【0064】
フッ素系重合体の融点(Tm)は、好ましくは190℃以下、より好ましくは150〜180℃、さらに好ましくは160〜170℃である。フッ素系重合体のTmが上記範囲にあることにより、柔軟性と密着強度に優れる正極を得ることができる。なお、フッ素系重合体のTmは、重合に用いる単量体の種類を変更すること、若しくは重合温度を制御することなどによって調整可能である。なお、Tmは、示差走査熱量分析計を用いて、JIS K7121;1987に準拠して測定することができる。
【0065】
ここで、上述したフッ素系重合体の製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。
また、重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。また、重合開始剤としては、既知の重合開始剤を用いることができる。
【0066】
そして、フッ素系重合体は、分散媒に分散された分散液または溶解された溶液の状態で使用される。フッ素系重合体の分散媒としては、フッ素系重合体を均一に分散または溶解し得るものであれば、特に制限されず、水や有機溶媒を用いることができ、有機溶媒を用いることが好ましい。なお、有機溶媒としては、特に限定されることなく、導電材ペースト2の溶剤として用いる有機溶媒を用いることができる。
【0067】
<<第二結着樹脂の割合>>
第二の工程で配合する第二のバインダー中の第二結着樹脂(フッ素系重合体)の割合は、第二のバインダーを構成する結着樹脂の固形分量を100質量%として、50質量%以上である必要があり、80質量%以上であることが好ましい。最も好ましくは、第二のバインダー中の第二結着樹脂の割合は100質量%である。第二のバインダー中の第二結着樹脂の配合量を上記範囲内とし、第二の工程において第二結着樹脂をかかる比率で添加することで、第一のバインダーが導電材に吸着するのを阻害することがなく、導電材ペーストの安定性を向上させることができる。
なお、第二のバインダーを構成する結着樹脂として使用し得る第二結着樹脂以外の結着樹脂としては、特に限定されることなく、既知の結着樹脂や、前述した第一結着樹脂などが挙げられる。
【0068】
<<導電材ペースト2中の各結着樹脂量>>
第二の工程で調製した導電材ペースト2中の第二結着樹脂(フッ素系重合体)の配合量は、第二の工程で得られる導電材ペースト2中の全結着樹脂の固形分量を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。フッ素系重合体の配合量がかかる範囲内であれば、比較的比重の重い正極活物質が二次電池正極用スラリー中で沈降することを抑えることができ、二次電池正極用スラリーの経時安定性を一層向上させることができるからである。
【0069】
また、第二の工程で調製した導電材ペースト2中の第一結着樹脂の配合量は、第二の工程で得られる導電材ペースト2中の全結着樹脂の固形分量を100質量%として、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。第一結着樹脂は第一の工程で導電材と混合することで導電材に吸着することができるからである。
【0070】
<<溶剤>>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第二の工程において、溶剤を添加しても良い。使用可能な溶剤としては、第一の工程に関して上述した溶剤と同様のものが挙げられる。そのような溶剤は、例えば、上述した第二のバインダーを溶解可能な極性を有する有機溶媒でありうる。
【0071】
<導電材ペースト2の粘度>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第二の工程で調製する導電材ペースト2は、粘度が1000mPa・s以上であることが好ましく、3000mPa・s以上であることがより好ましく、10000mPa・s以下であることが好ましく、8000mPa・s以下であることがより好ましく、5000mPa・s以下であることが特に好ましい。導電材ペースト2の粘度が上記範囲内であれば、導電材ペースト2の経時安定性及び導電材ペースト2中における導電材の分散性に優れる。
導電材ペースト2の粘度は、混合時に添加する溶剤の種類及び量、導電材ペースト2の固形分濃度、並びに結着樹脂の種類及び分子量等によって調整可能である。
なお、導電材ペースト2の粘度の上限値が上記上限値を上回ると、ごく一部の混合装置を用いてしか分散ができなくなり、導電材の分散性に劣り、さらに、得られた二次電池正極用スラリーを用いて形成した正極合材層の電気抵抗が高くなる虞がある。一方、導電材ペースト2の下限値が上記下限値を下回ると、導電材ペーストの経時安定性が損なわれる虞がある。
【0072】
なお、導電材ペーストの粘度は、JIS Z 8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計(25℃、回転数=60rpm、スピンドル形状:4)により測定した。
【0073】
<導電材ペースト2の固形分濃度>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第二の工程で調製する導電材ペースト2は、固形分濃度が5質量%以上であることが好ましく、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることが特に好ましい。特に、導電材ペースト2の固形分濃度は、混合開始時から混合終了時までを通じて上記範囲内であることが好ましい。
なお、導電材ペースト2の固形分濃度が上記上限値を上回る場合、導電材ペースト2中における導電材の分散が不良となり、かかる導電材ペースト2を含む二次電池正極用スラリーを用いて得た正極の電気抵抗が高くなる虞がある。一方、導電材ペースト2の固形分濃度が上記下限値を下回る場合、後述する第三の工程で導電材ペースト2に対して正極活物質を添加した後の二次電池正極用スラリーの濃度が低くなりすぎてしまい、沈降が生じる虞がある。
【0074】
<<その他の成分>>
第二の工程において、導電材ペースト2は、上記成分の他に、例えば、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を混合してもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができる。
【0075】
<<混合方法>>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第二の工程で、導電材ペースト1に対して第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。例えば、ディスパーを使用する場合には、2000rpm以上5000rpm以下で、20分以上120分以下攪拌することが好ましい。
予め導電材と第一のバインダーとを混合して得た導電材ペースト1に対して、第二の工程において、第二のバインダーを添加して混合することで、異なる性状を有する複数種の結着樹脂を混合して、後述する第三の工程において添加する正極活物質を正極用スラリー内で良好に分散させることができる。これにより、二次電池の電池容量を増加させることができる。
【0076】
[第二のバインダーの配合量]
第一及び第二のバインダーの合計配合量に対する第二のバインダーの配合割合は、正極スラリーの安定性の観点から、バインダーの合計配合量を100質量部として、50質量部以上90質量部以下が好ましい。
【0077】
<第三の工程>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第三の工程では、第二の工程で調製した導電材ペースト2と正極活物質と場合によっては溶剤とを混合する。以下、第三の工程について詳細に説明する。以下、本発明の二次電池正極用スラリーの一例として、リチウムイオン二次電池について詳述する。
【0078】
<<正極活物質>>
二次電池正極用スラリーに配合する正極活物質としては、特に限定されることなく、既知の正極活物質を用いることができる。
具体的には、正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、Li
1+xMn
2−xO
4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等が挙げられる。
【0079】
上述した中でも、二次電池の電池容量などを向上させる観点からは、正極活物質としてリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2またはLiNi
0.5Mn
1.5O
4を用いることが好ましい。
【0080】
なお、正極活物質の配合量や粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0081】
<<溶剤>>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第三の工程において、好ましくは溶剤を添加する。このときの溶剤としては、第一の工程及び第二の工程に関して上述した溶剤と同様のものを用いることができる。
【0082】
<<その他の成分>>
第3の工程において、二次電池正極用スラリーは、上記成分の他に、例えば、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を混合してもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができる。
【0083】
<<混合方法>>
本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法の第三の工程で、導電材ペースト2及び正極活物質を混合して、正極用スラリーを得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。
このように、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法において、第三の工程にて正極活物質を混合することで、二次電池正極用スラリー中における正極活物質の分散性を向上させることができる。また、第二の工程にて得られる導電材ペースト2中において、異なる性状を有する結着樹脂が予め均一に混合されている為、第三の工程において正極活物質を混合することで、スラリーの経時安定性が向上する。また、導電材に対して結着樹脂が予め吸着している状態で正極活物質と混合することで、分散工程中に正極活物質の近傍にバインダーを介して導電材が配位することで、得られる二次電池の出力特性が向上する。
【0084】
(二次電池用正極の製造方法)
本発明の二次電池用正極の製造方法は、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法により得られる二次電池正極用スラリーを集電体の少なくとも一方の面に塗布する工程(塗布工程)と、集電体の少なくとも一方の面に塗布された二次電池正極用スラリーを乾燥して集電体上に正極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを含む。
【0085】
[塗布工程]
上記二次電池正極用スラリーを集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、二次電池正極用スラリーを集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる正極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0086】
ここで、二次電池正極用スラリーを塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる集電体を用い得る。この際、アルミニウムとアルミニウム合金とを組み合わせて用いてもよく、種類が異なるアルミニウム合金を組み合わせて用いてもよい。アルミニウムおよびアルミニウム合金は耐熱性を有し、電気化学的に安定であるため、優れた集電体材料である。
【0087】
[乾燥工程]
集電体上の二次電池正極用スラリーを乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の二次電池正極用スラリーを乾燥することで、集電体上に正極合材層を形成し、集電体と正極合材層とを備える二次電池用正極を得ることができる。
【0088】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、正極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、正極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
さらに、正極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、正極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0089】
このようにして製造された二次電池用正極は、正極合材層が、上述した本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法により得られた二次電池正極用スラリーを用いて形成されているので、導電材が正極合材層の内部で良好な導電ネットワークを形成している。従って、当該二次電池用正極を用いれば、二次電池のサイクル特性及び低温特性を向上させて、二次電池の性能を向上させることができる。
【0090】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備え、正極として、本発明の二次電池用正極の製造方法により得られた二次電池用正極を用いたものである。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用正極の製造方法により製造した正極を用いているので、サイクル特性及び低温特性に優れており、高性能である。以下、本発明の二次電池の一例として、リチウムイオン二次電池について詳述する。
【0091】
<負極>
二次電池の負極としては、二次電池用負極として用いられる既知の負極を用いることができる。具体的には、負極としては、例えば、金属リチウムの薄板よりなる負極や、負極合材層を集電体上に形成してなる負極を用いることができる。
なお、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができる。また、負極合材層としては、負極活物質と結着材とを含む層を用いることができる。更に、結着材としては、特に限定されず、任意の既知の材料を用いうる。
【0092】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましく、LiPF
6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0093】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5〜15質量%することが好ましく、2〜13質量%とすることがより好ましく、5〜10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
【0094】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0095】
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0096】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、導電材ペーストの経時安定性、並びに、二次電池の低温特性及び高温サイクル特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0097】
<導電材ペーストの経時安定性>
導電材ペースト2を15mlのガラス瓶中で一週間静置する。そして、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定試料中の粒子の分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50を求める。下記基準で分散性を判断する。分散粒子径が1次粒子(バインダーが吸着していない状態での導電材の体積平均粒子径)に近いほど凝集性が小さく分散が進んでいることを示している。
A:2μm未満
B:2μm以上5μm未満
C:5μm以上10μm未満
D:10μm以上15μm未満
E:15μm以上
【0098】
<二次電池の低温特性>
二次電池の低温特性を評価するために、以下のようにしてIV抵抗を測定した。−10℃雰囲気下、1C(Cは定格容量(mA)/1h(時間)で表される数値)でSOC(State Of Charge:充電深度)の50%まで充電した後、SOCの50%を中心として0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cで15秒間充電と15秒間放電とをそれぞれ行い、それぞれの場合(充電側および放電側)における15秒後の電池電圧を電流値に対してプロットし、その傾きをIV抵抗(Ω)(充電時IV抵抗および放電時IV抵抗)として求めた。得られたIV抵抗の値(Ω)について、以下の基準で評価した。IV抵抗の値が小さいほど、内部抵抗が少なく、低温特性に優れていることを示す。
A:IV抵抗が 10Ω以下
B:IV抵抗が 10Ω超 12Ω以下
C:IV抵抗が 12Ω超 15Ω以下
D:IV抵抗が 15Ω超 20Ω以下
E:IV抵抗が 20Ω超
【0099】
<二次電池の高温サイクル特性>
5セルの二次電池を45℃雰囲気下、1.0Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電を、100サイクル繰り返した。100サイクル終了時の電気容量と5サイクル終了時の電気容量の比(=(100サイクル終了時の電気容量/5サイクル終了時の電気容量)×100)(%)で表される充放電容量保持率を求めた。この値が大きいほど高温サイクル特性に優れることを示す。得られた値(%)について、以下の基準で評価した。
A:充放電容量保持率が 95%以上
B:充放電容量保持率が 90%以上 95%未満
C:充放電容量保持率が 85%以上 90%未満
D:充放電容量保持率が 80%以上 85%未満
E:充放電容量保持率が 80%未満
【0100】
(実施例1)
<第一結着樹脂A1の製造>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn−ブチルアクリレート(BA)35部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル(AN)18.6部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、共役ジエン単量体単位として1,3−ブタジエン(BD)46.4部を圧入し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、共役ジエン単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、及びニトリル基含有単量体単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。
なお、ヨウ素価の測定手順は以下の通りである。まず、重合体の水分散液100gを、メタノール1リットルで凝固した後、60℃で12時間真空乾燥し、得られた乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定した。
【0101】
得られた重合体に対してイオン交換水を添加して全固形分濃度を12質量%に調整した400ミリリットル(全固形分48グラム)の溶液を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(以下、「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。
【0102】
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(以下、「第二段階の水素添加反応」という)させた。
【0103】
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して結着樹脂の水分散液を得た。また、この結着樹脂の水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、水素添加した重合体よりなる第一結着樹脂A1のNMP溶液を得た。
【0104】
<導電材ペースト1の製造>
導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業)3.0部と、第一のバインダーとして上記第一結着樹脂A1のNMP溶液を固形分相当量で0.6部(固形分濃度8.0質量%)と、導電材ペースト1の固形分濃度が10質量%となるような適量のNMPとをディスパーにて攪拌(3000rpm、10分)し導電材ペースト1を得た。なお、表1に示す通り、導電材ペースト1中における、導電材であるアセチレンブラックに対する、第一結着樹脂A1の配合比率は、導電材の配合量を100%とした場合に20%であった。また、導電材ペースト1に含まれる第一のバインダーの全結着樹脂の固形分量を100%とした場合の第一結着樹脂A1の配合比率は100%であった。
【0105】
<導電材ペースト2の製造>
その後、第二のバインダーとしてPVdF(KFポリマー#7200、株式会社クレハ社製)よりなる第二結着樹脂を固形分相当で2.4部と、導電材ペースト2の固形分濃度が10質量%になるように適量のNMPとを入れてディスパーで撹拌(3000rpm、10分)して導電材ペースト2を調製した。なお、表1に示す通り、導電材ペースト2に含まれる全結着樹脂(第一のバインダーおよび第二のバインダー)の固形分量を100%とした場合の第二結着樹脂の配合比率は80%であった。得られた導電材ペースト2の粘度は、5000mPa・sであった。作製した導電材ペースト2を用いて導電材ペースト2の経時安定性の評価を行った。
【0106】
<二次電池正極用スラリー及び正極の製造>
上述のようにして得た導電材ペースト2中に、正極活物質として層状構造を有する三元系活物質(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)(粒子径:10μm)100部と、溶剤として適量のNMPとを添加し、ディスパーにて攪拌し(3000rpm、20分)、正極用スラリーを調製した。
【0107】
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上述のようにして得た正極用スラリーをコンマコーターでアルミ箔上に乾燥後の目付量が20mg/cm
2になるように塗布し、90℃で20分、120℃で20分間乾燥後、60℃で10時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.2g/cm
3の正極合材層とアルミ箔とからなる正極を作製した。なお、正極の厚みは70μmであった。
【0108】
<負極用スラリーおよび負極の製造>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積4m
2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm)を100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を固形分相当で1部加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した。その後、さらに25℃で15分混合し混合液を得た。
【0109】
上述のようにして得た混合液に、スチレン−ブタジエン共重合体(ガラス転移点温度が−15℃)の40%水分散液を固形分相当量で1.0部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が50%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用のスラリーを得た。
【0110】
上記負極用のスラリーを、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、厚み80μmの負極合材層を有する負極を得た。
【0111】
<セパレータの用意>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。
【0112】
<二次電池の製造>
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極合材層の面上に、上記で得られた正方形のセパレータを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を1.5%含有する、濃度1.0MのLiPF
6溶液を充填した。このLiPF
6溶液の溶媒はエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7(体積比))である。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。
得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性及び低温特性を評価した。
【0113】
(実施例2)
導電材ペースト1の製造時に、第一のバインダーとして第一結着樹脂A1と第二結着樹脂(PVdF)とを使用し、第一のバインダーの固形分量を100%とした場合の第一結着樹脂A1の配合比率を70%(0.42部)、第二結着樹脂の配合比率を30%(0.18部)にした以外は実施例1と同様にして、導電材ペースト1を製造した。なお、このときの導電材ペースト1中における、導電材であるアセチレンブラックに対する第一結着樹脂A1の配合比率は、導電材の配合量を100%とした場合に14%であった。
そして、得られた導電材ペースト1に対して、第二のバインダーとして、第一結着樹脂A1を固形分相当で0.18部と、第二結着樹脂(PVdF)を固形分相当で2.22部添加した以外は、実施例1と同様にして導電材ペースト2を調製した。得られた導電材ペースト2の粘度は、6000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例3)
導電材ペースト1の製造時に、第一のバインダーとして第一結着樹脂A1と第二結着樹脂(PVdF)とを使用し、第一のバインダーの固形分量を100%とした場合の第一結着樹脂A1の配合比率を50%(0.3部)、第二結着樹脂の配合比率を50%(0.3部)にした以外は実施例1と同様にして、導電材ペースト1を製造した。なお、このときの導電材ペースト1中における、導電材であるアセチレンブラックに対する第一結着樹脂A1の配合比率は、導電材の配合量を100%とした場合に10%であった。
そして、得られた導電材ペースト1に対して、第二のバインダーとして、第一結着樹脂A1を固形分相当で0.3部と、第二結着樹脂(PVdF)を固形分相当で2.1部添加した以外は、実施例1と同様にして導電材ペースト2を調製した。得られた導電材ペースト2の粘度は、7000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(実施例4)
実施例1と同様にして製造した導電材ペースト1を用いて導電材ペースト2を調製するにあたり、導電材ペースト2の固形分濃度が14質量%となるようにNMPを添加し、プラネタリーミキサーにて攪拌した(60rpm、60分)。得られた導電材ペースト2の粘度は、9000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
(実施例5)
実施例1と同様にして製造した導電材ペースト1を用いて導電材ペースト2を調製するにあたり、導電材ペースト2の固形分濃度が7質量%となるようにNMPを添加し、実施例1と同じ条件で攪拌した。得られた導電材ペースト2の粘度は、2500mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(実施例6)
導電材ペースト1の製造時に、導電材ペースト1中における、導電材であるアセチレンブラックに対する第一結着樹脂A1の配合比率を、導電材の配合量である3部を100%とした場合に、5%(0.15部)とした。また、導電材ペースト1の固形分濃度が12質量%となるような適量のNMPを添加した。その他は実施例1と同様にして、導電材ペースト1を得た。得られた導電材ペースト1に対して、第二のバインダーとして、第一結着樹脂A1を0.45部と、第二結着樹脂(PVdF)を2.4部添加した以外は実施例1と同様にして、導電材ペースト2を得た。得られた導電材ペースト2の粘度は、8000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
(実施例7)
導電材ペースト1の製造時に、導電材ペースト1中における、導電材であるアセチレンブラックに対する第一結着樹脂A1の配合比率を、導電材の配合量である3部を100%とした場合に、50%(1.5部)とした。また、導電材ペースト1の固形分濃度が8質量%となるような適量のNMPを添加した。その他は実施例1と同様にして、導電材ペースト1を得た。得られた導電材ペースト1に対して、第二のバインダーとして、第二結着樹脂(PVdF)を1.5部添加した以外は実施例1と同様にして、導電材ペースト2を得た。得られた導電材ペースト2の粘度は、3500mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
(実施例8)
第一結着樹脂A2を以下のようにして製造した。
<第一結着樹脂A2の製造>
(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn−ブチルアクリレート(BA)を配合せず、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル(AN)37部、及び共役ジエン単量体単位として1,3−ブタジエン(BD)63部を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一結着樹脂A2を得た。得られた第一結着樹脂A2のNMP溶液の固形分濃度は、12質量%であった。
【0120】
<導電材ペースト1及び2の製造>
上述のようにして得られた第一結着樹脂A2を使用した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペースト1及び2を製造した。得られた導電材ペースト2の粘度は、4000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(実施例9)
第一結着樹脂A3を以下のようにして製造した。
<第一結着樹脂A3の製造>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水300部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn−ブチルアクリレート82部及びメタクリル酸3.0部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル15部、並びに分子量調整剤としてt−ドデシルメルカプタン0.05部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部を入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合し、重合体の水分散液を得た。固形分濃度から求めた重合転化率はほぼ99%であった。この重合体の水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、第一結着樹脂A3を得た。得られた第一結着樹脂A3のNMP溶液の固形分濃度は、12質量%であった。
【0122】
<導電材ペースト1及び2の製造>
上述のようにして得た第一結着樹脂A3を使用した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペースト1及び2を製造した。得られた導電材ペースト2の粘度は、8000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
(比較例1)
<導電材ペースト1の製造>
第一のバインダーとして、上述の第一結着樹脂A2と第二結着樹脂(PVdF)とを使用した。具体的には、導電材ペースト1の製造時に、導電材ペースト1中に含まれる第一のバインダーの固形分量を100%とした場合の第一結着樹脂A2の配合比率を20%(0.12部)、第二結着樹脂の配合比率を80%(1.92部)にした。なお、このときの導電材ペースト1中における、導電材であるアセチレンブラックに対する第一結着樹脂A2の配合比率は、導電材の配合量である3部を100%とした場合に、4%であった。そして、導電材ペースト1の固形分濃度が7%となるような適量のNMPを添加して、実施例1と同条件で攪拌して導電材ペースト1を得た。なお、導電材ペースト1を得るための上記工程は、第一結着樹脂A2ではなく、第二結着樹脂を主成分として含むバインダーを使用する点で、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に従う第一の工程ではない。従って、本例は、第一の工程を有さない。
【0124】
<導電材ペースト2の製造>
上述のようにして得られた導電材ペースト1を用いて導電材ペースト2を調製するにあたり、第二のバインダーとして、第一結着樹脂A2を0.48部、第二結着樹脂(PVdF)を0.48部、そして、導電材ペースト2の固形分濃度が25質量%となるようにNMPを添加し、実施例1と同じ条件で攪拌した 。得られた導電材ペースト2の粘度は、20000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペースト2を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
(比較例2)
導電材ペーストの製造時に、バインダーとして第二結着樹脂(PVdF)を3.0質量部使用し、導電材ペーストの固形分濃度が7%となるような適量のNMPを添加した以外は、比較例1と同様にして、導電材ペーストを製造した。得られた導電材ペーストの粘度は、8000mPa・sであった。そして、かかる導電材ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(比較例3)
上述の第一結着樹脂A2を0.6部と、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業)3.0部と、導電材ペースト1の固形分濃度が10質量%となるような適量のNMPとをディスパーにて攪拌(3000rpm、10分)し導電材ペースト1を得た。
また、導電材ペースト1とは別に、PVdF(KFポリマー#7200、株式会社クレハ社製)よりなる第二結着樹脂を固形分相当で2.4部と、正極活物質として層状構造を有する三元系活物質(LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2)(粒子径:10μm)100部と、適量のNMPとを攪拌して正極活物質ペーストを得た。
これらの導電材ペースト1及び正極活物質ペーストを混合し、正極用スラリーを得た。
得られた正極用スラリーを用いて、正極、二次電池を作製し、各評価項目について評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
表1より、実施例1〜9の導電材ペースト、二次電池正極用スラリー及び二次電池は、比較例1〜3の導電材ペースト、二次電池正極用スラリー及び二次電池と比較し、ペーストの経時安定性に優れ、二次電池の高温サイクル特性及び低温特性が良好であることが分かる。
特に、表1の実施例1〜3より、導電材ペースト1の第一のバインダー中の第一結着樹脂の配合割合及び導電ペースト2の粘度を調整することにより、導電材ペーストの経時安定性及び二次電池の低温特性を向上させることができることが分かる。
また、表1の実施例1、4〜5より、導電材ペースト2の粘度及び固形分濃度を調整することにより、導電材ペーストの経時安定性及び二次電池の低温特性及び高温サイクル特性を向上させることができることが分かる。
また、表1の実施例1、6〜7より、特定の性状を有する第一結着樹脂を主に第一の工程において配合し、その配合量を調整することにより、導電材ペーストの経時安定性及び二次電池の低温特性及び高温サイクル特性を向上させることができることが分かる。
また、表1の実施例1、8〜9より、第一結着樹脂の組成を調整することにより、ペーストの経時安定性を向上させると共に、二次電池の高温サイクル特性及び低温特性を向上させることができることが分かる。
また、表1の実施例1、比較例1〜2より、第一のバインダー中の第一結着樹脂の含有量が不十分であれば、低温特性及び高温サイクル特性が劣化することが分かる。さらに、表1の実施例1及び比較例3より、本発明の二次電池正極用スラリーの製造方法に従う第一〜第三の工程を経ずに正極用スラリーを製造した場合、導電材ペースト中における導電材の分散性が不十分となり、導電材ペーストの経時安定性、並びに二次電池の低温特性及び高温サイクル特性が劣化することが分かる。