(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6432619
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金導体、該導体を用いた絶縁電線、および該絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20181126BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20181126BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20181126BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20181126BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20181126BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20181126BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20181126BHJP
【FI】
C22C21/00 A
C22F1/04 D
H01B5/02 Z
H01B1/02 B
H01B7/00
H01B13/00 511Z
!C22F1/00 602
!C22F1/00 604
!C22F1/00 625
!C22F1/00 627
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 661A
!C22F1/00 681
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 694A
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-39174(P2017-39174)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-145457(P2018-145457A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2018年2月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西 和也
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 亨
【審査官】
川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−035114(JP,A)
【文献】
特開昭48−000014(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/155820(WO,A1)
【文献】
特開2006−336104(JP,A)
【文献】
特開昭58−27949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/00− 1/18
H01B 1/02
H01B 5/02
H01B 7/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる導体であって、
前記アルミニウム合金は、0.1質量%以上1質量%以下のコバルト、0.02質量%以上0.09質量%以下のケイ素および0.02質量%以上0.09質量%以下の鉄を含み、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下のスカンジウムまたは0.2質量%以上0.5質量%以下のジルコニウムを含み、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなる化学組成を有し、
前記導体は、前記アルミニウム合金が前記スカンジウムを含む場合に粒径10 nm以上100 nm以下のAl3Sc相の微粒子が母相内に分散析出し、前記アルミニウム合金が前記ジルコニウムを含む場合に粒径10 nm以上100 nm以下のAl3Zr相の微粒子が母相内に分散析出していることを特徴とするアルミニウム合金導体。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金導体において、
前記アルミニウム合金の前記化学組成は、0.01質量%以上0.2質量%以下のマグネシウムを更に含むことを特徴とするアルミニウム合金導体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金導体において、
前記導体は、導電率が57%IACS以上で、引張強さが115 MPa以上で、引張伸びが15%以上で、10万時間耐熱温度が200℃以上であることを特徴とするアルミニウム合金導体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金導体において、
前記導体は、その線径が1 mm以下であることを特徴とするアルミニウム合金導体。
【請求項5】
アルミニウム合金導体を用いた絶縁電線であって、
前記アルミニウム合金導体は、0.1質量%以上1質量%以下のコバルト、0.02質量%以上0.09質量%以下のケイ素および0.02質量%以上0.09質量%以下の鉄を含み、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下のスカンジウムまたは0.2質量%以上0.5質量%以下のジルコニウムを含み、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなる化学組成を有するアルミニウム合金からなり、前記アルミニウム合金が前記スカンジウムを含む場合に粒径10 nm以上100 nm以下のAl3Sc相の微粒子が母相内に分散析出し、前記アルミニウム合金が前記ジルコニウムを含む場合に粒径10 nm以上100 nm以下のAl3Zr相の微粒子が母相内に分散析出しており、
前記絶縁電線は、複数本の前記アルミニウム合金導体が撚り合わされた撚線の外周に、絶縁被覆層を備えることを特徴とするアルミニウム合金絶縁電線。
【請求項6】
請求項5に記載のアルミニウム合金絶縁電線において、
前記アルミニウム合金の前記化学組成は、0.01質量%以上0.2質量%以下のマグネシウムを更に含むことを特徴とするアルミニウム合金絶縁電線。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のアルミニウム合金絶縁電線において、
前記アルミニウム合金導体は、導電率が57%IACS以上で、引張強さが115 MPa以上で、引張伸びが15%以上で、10万時間耐熱温度が200℃以上であることを特徴とするアルミニウム合金絶縁電線。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載のアルミニウム合金絶縁電線において、
前記アルミニウム合金導体は、その線径が1 mm以下であることを特徴とするアルミニウム合金絶縁電線。
【請求項9】
アルミニウム合金導体を用いた絶縁電線の製造方法であって、
前記アルミニウム合金導体は、0.1質量%以上1質量%以下のコバルト、0.02質量%以上0.09質量%以下のケイ素および0.02質量%以上0.09質量%以下の鉄を含み、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下のスカンジウムを含み、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなる化学組成を有するアルミニウム合金からなり、粒径10 nm以上100 nm以下のAl3Sc相の微粒子が母相内に分散析出しており、
前記絶縁電線は、複数本の前記アルミニウム合金導体が撚り合わされた撚線の外周に、絶縁被覆層を備えるものであり、
前記化学組成となるようにアルミニウム合金の原料を混合・溶解して溶湯を用意する原料混合溶解工程と、
前記溶湯を凝固させて鋳塊を形成する鋳造工程と、
前記鋳塊に対して機械加工を施して棒状材を形成する粗成形工程と、
前記棒状材に対して伸線加工を施してアルミニウム合金素線を形成する伸線工程と、
前記伸線加工に伴う加工ひずみを緩和するための焼鈍熱処理を施す中間焼鈍工程と、
前記アルミニウム合金素線に対して時効熱処理を施して前記Al3Sc相の微粒子を分散析出させて前記アルミニウム合金導体を形成する時効処理工程と、
複数本の前記アルミニウム合金導体を撚り合わせて前記撚線を形成する撚線工程と、
前記撚線の外周に前記絶縁被覆層を形成する絶縁被覆工程とを有し、
前記鋳造工程は、急冷凝固が可能な連続鋳造法によってなされ、
前記焼鈍熱処理は、250℃以上330℃以下の温度範囲で1時間以内保持する熱処理であり、
前記時効熱処理は、270℃以上350℃以下の温度範囲かつ前記焼鈍熱処理の温度よりも20℃以上高い温度で2時間以上6時間以下保持する熱処理であることを特徴とするアルミニウム合金絶縁電線の製造方法。
【請求項10】
アルミニウム合金導体を用いた絶縁電線の製造方法であって、
前記アルミニウム合金導体は、0.1質量%以上1質量%以下のコバルト、0.02質量%以上0.09質量%以下のケイ素および0.02質量%以上0.09質量%以下の鉄を含み、さらに0.2質量%以上0.5質量%以下のジルコニウムを含み、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなる化学組成を有するアルミニウム合金からなり、粒径10 nm以上100 nm以下のAl3Zr相の微粒子が母相内に分散析出しており、
前記絶縁電線は、複数本の前記アルミニウム合金導体が撚り合わされた撚線の外周に、絶縁被覆層を備えるものであり、
前記化学組成となるようにアルミニウム合金の原料を混合・溶解して溶湯を用意する原料混合溶解工程と、
前記溶湯を凝固させて鋳塊を形成する鋳造工程と、
前記鋳塊に対して機械加工を施して棒状材を形成する粗成形工程と、
前記棒状材に対して伸線加工を施してアルミニウム合金素線を形成する伸線工程と、
前記伸線加工に伴う加工ひずみを緩和するための焼鈍熱処理を施す中間焼鈍工程と、
前記アルミニウム合金素線に対して時効熱処理を施して前記Al3Zr相の微粒子を分散析出させて前記アルミニウム合金導体を形成する時効処理工程と、
複数本の前記アルミニウム合金導体を撚り合わせて前記撚線を形成する撚線工程と、
前記撚線の外周に前記絶縁被覆層を形成する絶縁被覆工程とを有し、
前記鋳造工程は、急冷凝固が可能な連続鋳造法によってなされ、
前記焼鈍熱処理は、300℃以上420℃以下の温度範囲で2時間以内保持する熱処理であり、
前記時効熱処理は、320℃以上440℃以下の温度範囲かつ前記焼鈍熱処理の温度よりも20℃以上高い温度で10時間以上60時間以下保持する熱処理であることを特徴とするアルミニウム合金絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系導体の技術に関し、特に、従来のアルミニウム系導体と同等の導電率を確保しつつ、機械的特性と耐熱性とを従来よりも高いレベルでバランスさせたアルミニウム合金導体、該導体を用いた絶縁電線、および該絶縁電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電車、航空機などの移動体において、快適性や安全性向上のための電気・電子制御の機構・装置が急激に増加しており、それに伴って該移動体に配設される電気・電子配線の量は増加の一途をたどっている。一方、昨今の地球環境保護の要求から、エネルギー消費量の低減を目指して、当該移動体の軽量化に関する多大なる努力が払われている。
【0003】
電気・電子配線の素材としては、従来から銅材(例えばJIS C1100)が広く用いられているが、上述したように電気・電子配線量の増加による重量増加は、もはや看過できるレベルではなくなってきている。そこで、これら相反する事象に対応するため、電気・電子配線の導体を、比重の大きい銅材から比重の小さいアルミニウム材に変更する検討が進められている。
【0004】
ただし、純アルミニウム材(例えばJIS A1060)は銅材に比して機械的特性や耐熱性に劣ることから、単純な置き換えは電気・電子配線に要求される耐久性・信頼性の観点から困難であった。そこで、導電率を維持しながら機械的特性や耐熱性に優れるアルミニウム合金の開発が種々行われた。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2012-229485)には、
導体に利用されるアルミニウム合金線であって、質量%で、Mgを0.03%以上1.5%以下、Siを0.02%以上2.0%以下、Cu,Fe,Cr,Mn及びZrから選択される少なくとも一種の元素を合計で0.1%以上1.0%以下含有し、残部がAl及び不純物からなり、導電率が40%IACS以上、引張強さが150MPa以上、伸びが5%以上、線径が0.5mm以下、かつ、最大結晶粒径が50μm以下であることを特徴とするアルミニウム合金線が、開示されている。
【0006】
特許文献2(特開2016-108617)には、
Mg:0.1〜1.0質量%、Si:0.1〜1.2質量%、Fe:0.01〜1.40質量%、Ti:0〜0.100質量%、B:0〜0.030質量%、Cu:0〜1.00質量%、Ag:0〜0.50質量%、Au:0〜0.50質量%、Mn:0〜1.00質量%、Cr:0〜1.00質量%、Zr:0〜0.50質量%、Hf:0〜0.50質量%、V:0〜0.50質量%、Sc:0〜0.50質量%、Co:0〜0.50質量%、Ni:0〜0.50質量%、残部:Alおよび不可避不純物からなり、外周部でのMg及び/又はSiを含有する直径1μm以下の析出物の数Noutが、内部でのMg及び/又はSiを含有する直径1μm以下の析出物の数Ninより多いことを特徴とする、アルミニウム合金線材が、開示されている。
【0007】
また、特許文献3(WO 2016/088888)には、
Mg:0.10〜1.00質量%、Si:0.10〜1.00質量%、Fe:0.01〜1.40質量%、Ti:0〜0.100質量%、B:0〜0.030質量%、Cu:0〜1.00質量%、Ag:0〜0.50質量%、Au:0〜0.50質量%、Mn:0〜1.00質量%、Cr:0〜1.00質量%、Zr:0〜0.50質量%、Hf:0〜0.50質量%、V:0〜0.50質量%、Sc:0〜0.50質量%、Sn:0〜0.50質量%、Co:0〜0.50質量%、Ni:0〜0.50質量%、残部:Alおよび不可避不純物である組成を有し、(アルミニウム合金線材の結晶粒径の標準偏差)/(アルミニウム合金線材の平均結晶粒径)の比が0.57以下であり、かつ(アルミニウム合金線材の直径)/(アルミニウム合金線材の平均結晶粒径)の比が10以上であることを特徴とするアルミニウム合金線材が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−229485号公報
【特許文献2】特開2016−108617号公報
【特許文献3】国際公開第2016/088888号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1によると、当該アルミニウム合金線は、高強度・高導電率であり、伸びにも優れ、優れた耐衝撃性や屈曲特性を有するとされている。また、高温強度や耐熱性にも優れるとされている。特許文献2によると、当該アルミニウム合金線材は、細径線に利用できるよう高強度化されており、柔軟で取り扱いが容易、かつ軽量で屈曲疲労特性も高いとされている。また、特許文献3によると、高強度かつ優れた耐衝撃性を有し、細径線にも使用可能な断線しにくい電気配線体の線材として用いられるアルミニウム合金線材が得られるとされている。
【0010】
ここで、アルミニウム(Al)系材料(純AlやAl合金)は、その表面に化学的に安定な酸化被膜が形成され易くはんだ濡れ性が悪いことから、通常、電気的接合に際してかしめ接合を行うことが多い。しかしながら、Al系材料のかしめ接合は、銅(Cu)系材料(純CuやCu合金)のはんだ接合に比して長期信頼性の観点で弱点を有すると言われている。これは、Al系材料は、Cu系材料に比して融点が低いため軟化し易く、かしめ接合部の密着性が継時的に低下し易いことに起因すると言われている。
【0011】
例えば、Al系材料からなる導体を大電力動力装置用の電源配線に利用したり、高温機器の近傍に配置したりした場合、使用中の導体温度が200℃程度まで上昇することが想定される。そのような場合、Al系材料は容易に軟化し、かしめ接合部の密着性が低下する。その結果、接合部における実効的な接合面積が減少する(接合部の電気抵抗が増大する)という問題が生じると考えられる。
【0012】
言い換えると、Al系材料からなる導体の利用範囲を広げるためには、導体としての基本特性(例えば、導電率など)を維持しながら従来以上に耐熱性の高いAl系材料が必要である。したがって、本発明の目的は、従来のAl系材料と同等の導電率を確保しつつ、機械的特性と耐熱性とが従来よりも高いレベルでバランスしたAl合金導体、該導体を用いた電線、該導体を用いた絶縁電線、およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(I)本発明の一態様は、Al合金からなる導体であって、
前記Al合金は、0.1質量%以上1質量%以下のコバルト(Co)を含み、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下のスカンジウム(Sc)および0.2質量%以上0.5質量%以下のジルコニウム(Zr)のうちの1種以上を含み、残部がAlと不可避不純物とからなる化学組成を有し、
前記導体は、母相内に前記Scおよび前記Zrのうちの1種以上と前記Alとの化合物の微粒子が分散析出していることを特徴とするAl合金導体を、提供するものである。
【0014】
(II)本発明の他の一態様は、Al合金導体を用いた絶縁電線であって、
前記Al合金導体は、0.1質量%以上1質量%以下のCoを含み、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下のScおよび0.2質量%以上0.5質量%以下のZrのうちの1種以上を含み、残部がAlと不可避不純物とからなる化学組成を有するAl合金からなり、母相内に前記Scおよび前記Zrのうちの1種以上と前記Alとの化合物の微粒子が分散析出しており、
前記絶縁電線は、複数本の前記Al合金導体からなる撚線の外周に、絶縁被覆層を備えることを特徴とするAl合金絶縁電線を、提供するものである。
【0015】
本発明は、上記のAl合金導体(I)およびAl合金絶縁電線(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記化合物の微粒子は、粒径が100 nm以下である。
(ii)前記Al合金の前記化学組成は、0.01質量%以上0.2質量%以下のマグネシウム(Mg)を更に含む。
(iii)前記Al合金の前記化学組成は、0.02質量%以上0.09質量%以下のケイ素(Si)および0.02質量%以上0.09質量%以下の鉄(Fe)を更に含む。
(iv)前記導体は、導電率が57%IACS以上で、引張強さが115 MPa以上で、引張伸びが15%以上で、10万時間耐熱温度が200℃以上である。
(v)前記導体は、その線径が1 mm以下である。
【0016】
なお、本発明において、「%IACS」は国際的に採択された焼鈍標準軟銅の導電率を100%IACSとした場合の比率を意味し、「引張強さ」および「引張伸び」は室温での測定値を意味し、「10万時間耐熱温度」は10万時間連続使用したときにビッカース硬さが10%低下する温度を意味するものとする。
【0017】
(III)本発明の他の一態様は、Al合金導体を用いた絶縁電線の製造方法であって、
前記Al合金導体は、0.1質量%以上1質量%以下のCoを含み、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下のScおよび0.2質量%以上0.5質量%以下のZrのうちの1種以上を含み、残部がAlと不可避不純物とからなる化学組成を有するAl合金からなり、母相内に前記Scおよび前記Zrのうちの1種以上と前記Alとの化合物の微粒子が分散析出しており、
前記絶縁電線は、複数本の前記Al合金導体が撚り合わされた撚線の外周に、絶縁被覆層を備えるものであり、
前記化学組成となるようにAl合金の原料を混合・溶解して溶湯を用意する原料混合溶解工程と、
前記溶湯を凝固させて鋳塊を形成する鋳造工程と、
前記鋳塊に対して機械加工を施して棒状材を形成する粗成形工程と、
前記棒状材に対して伸線加工を施してAl合金素線を形成する伸線工程と、
前記伸線加工に伴う加工ひずみを緩和するための焼鈍熱処理を施す中間焼鈍工程と、
前記Al合金素線に対して時効熱処理を施して前記化合物の微粒子を分散析出させて前記Al合金導体を形成する時効処理工程と、
複数本の前記Al合金導体を撚り合わせて前記撚線を形成する撚線工程と、
前記撚線の外周に前記絶縁被覆層を形成する絶縁被覆工程とを有し、
前記鋳造工程は、急冷凝固が可能な連続鋳造法によってなされ、
前記焼鈍熱処理は、250℃以上420℃以下の温度範囲の熱処理であり、
前記時効熱処理は、270℃以上440℃以下の温度範囲かつ前記焼鈍熱処理の温度よりも20℃以上高い温度の熱処理であることを特徴とするAl合金電線の製造方法を、提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のAl系材料と同等の導電率を確保しつつ、機械的特性と耐熱性とが従来よりも高いレベルでバランスしたAl合金導体、該導体を用いた絶縁電線、および該絶縁電線の製造方法を提供することができる。本発明に係るAl合金導体および該導体を用いたAl合金絶縁電線は、従来のAl系材料よりも高い耐熱性を有することから、従来よりも高い温度環境下でも利用可能になり、移動体における電気・電子配線の軽量化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るAl合金絶縁電線の一例を示す斜視模式図である。
【
図2】本発明に係るAl合金絶縁電線の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者等は、自動車、電車、航空機などの移動体に適用されるAl合金絶縁電線の導体として、従来よりも高い温度環境下でも利用可能なAl合金導体を目指して、Al合金導体を構成するAl合金の元素バランスと製造方法とについて鋭意研究した。その結果、本発明で規定した化学組成において、導電率と機械的特性と耐熱性とが従来よりも高いレベルでバランスしたAl合金導体が得られることを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。
【0021】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0022】
[Al合金の化学組成]
まず、本発明におけるAl合金の化学組成について説明する。本発明のAl合金は、主成分であるAlに、Coが含まれており、さらにScおよびZrのうちの1種以上と、不可避不純物とが含まれている。該Al合金は、Mg、SiおよびFeからなる随意副成分の1種以上を更に含んでもよい。なお、本発明において、随意副成分とは含有していてもよいし含有していなくてもよい成分を意味する。
【0023】
(Co:0.1質量%以上1質量%以下)
Co成分は、本Al合金の副成分の1つであり、合金の延性の向上に寄与する成分である。Co成分による作用効果の詳細なメカニズムは不明であるが、含有率の増加に伴って導電率が低下することから、母相(Al相)結晶中へCo成分が過飽和固溶している可能性が考えられる。
【0024】
Co含有率は、0.1質量%以上1質量%以下が好ましい。Co含有率が0.1質量%未満であると、延性の向上効果が不十分になる。一方、Co含有率が1質量%超になると、合金の導電率が大きく低下する。Co含有率は、0.2質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下が更に好ましい。
【0025】
(Sc:0.1質量%以上0.5質量%以下)
Sc成分は、本Al合金の副成分の1つであり、合金の耐熱性の向上に寄与する成分である。Sc成分は、Al成分との化合物相(Al-Sc化合物相、例えばAl
3Sc相)を形成し、母相内に(母相結晶粒内や母相結晶粒界上に)微細分散析出する。該化合物相の微粒子が結晶粒界や転位の移動に対するピンニング点となることで、本Al合金の耐熱性を高めていると考えられる。
【0026】
Sc含有率は、0.1質量%以上0.5質量%以下が好ましい。Sc含有率が0.1質量%未満であると、耐熱性の向上効果が不十分になる。一方、Sc含有率が0.5質量%超になると、合金の延性が低下する。Sc含有率は、0.2質量%以上0.4質量%以下がより好ましい。
【0027】
(Zr:0.2質量%以上0.5質量%以下)
Zr成分は、本Al合金の副成分の1つであり、合金の耐熱性の向上に寄与する成分である。Zr成分は、Al成分との化合物相(Al-Zr化合物相、例えばAl
3Zr相)を形成し、母相内に微細分散析出する。該化合物相の微粒子が結晶粒界や転位の移動に対するピンニング点となることで、本Al合金の耐熱性を高めていると考えられる。
【0028】
Zr含有率は、0.2質量%以上0.5質量%以下が好ましい。Zr含有率が0.2質量%未満であると、耐熱性の向上効果が不十分になる。一方、Zr含有率が0.5質量%超になると、合金の延性が低下する。Zr含有率は、0.3質量%以上0.4質量%以下がより好ましい。
【0029】
(Mg:0.01質量%以上0.2質量%以下)
Mg成分は、本Al合金の随意副成分の1つであり、合金の機械的強度の向上に寄与する成分である。Mg成分による作用効果は、母相結晶中への固溶(固溶強化)に起因すると考えられる。なお、前述したように、随意副成分とは含有していてもよいし含有していなくてもよい成分を意味する。
【0030】
Mg成分を含有する場合、Mg含有率は、0.01質量%以上0.2質量%以下が好ましい。Mg含有率が0.01質量%未満であると、Mg成分による作用効果が不十分になるだけである(特段の不具合は生じない)。一方、Mg含有率が0.2質量%超になると、合金の延性および導電率が低下する。Mg含有率は、0.02質量%以上0.1質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.09質量%以下が更に好ましい。
【0031】
(Si:0.02質量%以上0.09質量%以下)
Si成分は、本Al合金の随意副成分の1つであり、合金の機械的強度の向上に寄与する成分である。Si成分による作用効果は、母相結晶中への固溶(固溶強化)に起因すると考えられる。ただし、Si成分が過剰に含有すると合金の延性が低下することから、Co成分の作用効果を阻害する可能性が考えられる。
【0032】
Si成分を含有する場合、Si含有率は、0.02質量%以上0.09質量%以下が好ましい。Si含有率が0.02質量%未満であると、Si成分による作用効果が不十分になるだけである(特段の不具合は生じない)。一方、Si含有率が0.09質量%超になると、合金の延性が低下する。Si含有率は、0.04質量%以上0.08質量%以下がより好ましい。
【0033】
(Fe:0.02質量%以上0.09質量%以下)
Fe成分は、本Al合金の随意副成分の1つであり、合金の機械的強度の向上に寄与する成分である。Fe成分による作用効果は、母相結晶粒の微細化に起因すると考えられる。ただし、Fe成分が過剰に含有すると合金の延性が低下することから、Co成分の作用効果を阻害する可能性が考えられる。
【0034】
Fe成分を含有する場合、Fe含有率は、0.02質量%以上0.09質量%以下が好ましい。Fe含有率が0.02質量%未満であると、Fe成分による作用効果が不十分になるだけである(特段の不具合は生じない)。一方、Fe含有率が0.09質量%超になると、合金の延性が低下する。Fe含有率は、0.04質量%以上0.08質量%以下がより好ましい。
【0035】
(残部:Alおよび不可避不純物)
前述したように、化学組成の残部は、主成分として含有するAlと、前述した成分以外の成分からなる不可避不純物とからなる。不可避不純物は、製造工程上、避けることが極めて困難な不純物であるが、できるだけ含有率を抑制したい不純物(例えば、合計0.8質量%以下に抑制したい不純物)である。不可避不純物としては、例えば、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、酸素(O)などが挙げられる。
【0036】
導電率の観点から、Al含有率は、97質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、98.5質量%以上が更に好ましい。
【0037】
[Al合金導体を用いた絶縁電線]
図1は、本発明に係るAl合金絶縁電線の一例を示す斜視模式図である。
図1に示したように、本発明のAl合金絶縁電線100は、複数本のAl合金導体10が撚り合わされた撚線20と、撚線20の外周に形成された絶縁被覆層30とを有している。
【0038】
また、本発明のAl合金導体10は、母相11(Al相)内に、Al-Sc化合物相またはAl-Zr化合物相12の微粒子が分散析出した微細組織を有している。耐熱性向上の作用効果を十分に享受するためには、Al-Sc化合物相またはAl-Zr化合物相12の微粒子の粒径は、100 nm以下が好ましく、80 nm以下がより好ましく、50 nm以下が更に好ましい。該微粒子の粒径が100 nm超になると析出粒子数が少なくなり過ぎるため、結晶粒界や転位の移動に対するピンニング点という作用効果(すなわち、耐熱性向上の作用効果)が不十分になる。
【0039】
Al合金導体10の線径に特段の限定はないが、可撓性の観点からは1 mm以下が好ましい。撚線20およびAl合金絶縁電線100の外径にも特段の限定はなく、要求される通電電流量や絶縁耐圧特性から適宜設計すればよい。
【0040】
なお、最終的なAl合金導体における母相内でAl-Sc化合物相またはAl-Zr化合物相12の微粒子の分散析出を達成するためには、それ以前の段階(例えば、鋳塊、粗加工材、伸線加工途中材)において、Al-Sc化合物相またはAl-Zr化合物相12の過度の析出や粗大化が抑制されていることが好ましい。
【0041】
[Al合金絶縁電線の製造方法]
本発明に係るAl合金絶縁電線の製造方法について説明する。
図2は、本発明に係るAl合金絶縁電線の製造方法の一例を示す工程図である。
図2に示したように、まず、所望の化学組成(主成分+副成分+必要に応じて随意副成分)となるようにAl合金の原料を混合・溶解して溶湯を用意する原料混合溶解工程(ステップ1:S1)を行う。原料の混合方法や溶解方法に特段の限定はなく、Al合金材の製造における従前の方法を利用できる。
【0042】
次に、溶湯を凝固させて鋳塊を形成する鋳造工程(ステップ2:S2)を行う。鋳造方法に特段の限定はなく、Al合金材の製造における従前の方法を利用できる。なお、母相結晶粒の微細化や副成分元素(Co、Sc、Zr)の偏析抑制の観点からは、急冷凝固が可能な鋳造方法(例えば、連続鋳造法)がより好ましい。言い換えると、溶湯を急冷凝固させることにより、副成分元素の偏析(鋳塊の段階では望まないAl-Sc化合物相やAl-Zr化合物相の析出を含む)を抑制することができる。また、この段階で鋳塊の化学組成を分析し、鋳塊の化学組成が所望の範囲に入っていることを確認することは好ましい。
【0043】
次に、鋳塊に対して機械加工を施して棒状材を形成する粗成形工程(ステップ3:S3)を行う。次工程の伸線加工工程に好適な棒状材(例えば、直径5〜50 mm程度)が得られる限り機械加工方法に特段の限定はなく、Al合金材の製造における従前の方法(例えば、圧延加工、スエージ加工、引抜加工)を利用できる。
【0044】
次に、棒状材に対して伸線加工を施してAl合金素線を形成する伸線工程(ステップ4:S4)を行う。所望の線径(例えば、直径1 mm以下)を有するAl合金素線が得られる限り機械加工方法に特段の限定はなく、Al合金材の製造における従前の方法(例えば、引抜伸線加工)を利用できる。また、伸線工程S4の途中で、必要に応じて、Al合金材の加工ひずみを緩和するための焼鈍熱処理を施す中間焼鈍工程(ステップ5:S5)を行ってもよい。
【0045】
中間焼鈍工程S5において、Al合金材がAl-Co-Sc系合金材の場合、焼鈍熱処理は250〜330℃の温度範囲で1時間保持以内に制御することが好ましい。これにより、中間焼鈍工程S5中でのAl-Sc化合物相の過度の析出と粗大化とを抑制することができる。
【0046】
一方、Al合金材がAl-Co-Zr系合金材の場合、焼鈍熱処理は300〜420℃の温度範囲で2時間保持以内に制御することが好ましい。これにより、中間焼鈍工程S5中でのAl-Zr化合物相の過度の析出と粗大化とを抑制することができる。
【0047】
次に、Al合金素線に対して時効熱処理を施してAl-Sc化合物相またはAl-Zr化合物相を微細分散析出させる時効熱処理工程(ステップ6:S6)を行う。前述したように、Al-Sc化合物相またはAl-Zr化合物相12の微粒子の分散析出により、本Al合金の耐熱性を発現させることができる。
【0048】
時効熱処理工程S6において、Al合金材がAl-Co-Sc系合金材の場合、時効熱処理は270〜350℃の温度範囲で2〜6時間保持に制御することが好ましい。一方、Al合金材がAl-Co-Zr系合金材の場合、時効熱処理は320〜440℃の温度範囲で10〜60時間保持に制御することが好ましい。また、時効熱処理温度は、先の焼鈍温度よりも20℃以上高いことが好ましい。
【0049】
以上の工程により、本発明のAl合金導体が得られる。なお、時効熱処理工程S6の後、Al合金導体の寸法・形状・硬さを調整するために、追加の伸線加工を行ってもよい。
【0050】
次に、上記で得られたAl合金導体を所望の本数用意し、それらを撚り合わせて撚線を形成する撚線工程(ステップ7:S7)を行う。撚り合わせ方法に特段の限定はなく、撚線形成における従前の方法を利用できる。本工程により、絶縁被覆のないAl合金電線(いわゆる裸電線)が得られる。
【0051】
次に、撚線の外周に絶縁被覆層を形成する絶縁被覆工程(ステップ8:S8)を行う。絶縁被覆方法に特段の限定はなく、絶縁電線の製造における従前の方法(例えば、絶縁塗料の塗布・焼付、絶縁樹脂の押出被覆)を利用できる。本工程により、本発明のAl合金絶縁電線が得られる。
【0052】
なお、上記で得られたAl合金絶縁電線を所望の長さで切断し、複数本を束ねた後、該電線の両端に接続端子を装着することにより、軽量・耐熱のワイヤーハーネスを製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実験1]
(実施例A-1〜A-16および比較例A-1〜A-14のAl合金導体の作製)
後述する表1〜表2に示す名目化学組成を有するAl合金(Al-Co-Sc系合金)からなる導体の試料(実施例A-1〜A-16および比較例A-1〜A-14)を
図2に示した製造手順に沿って作製した。まず、Al合金の原料を混合し、高周波溶解炉を用いて大気中溶解を行って溶湯を用意した(原料混合溶解工程S1)。
【0055】
その後、ロールの中央部に溝を形成した水冷双ロールを用いて当該溝に溶湯を注入する双ロール連続鋳造法により、鋳塊(直径20 mm)を形成した(鋳造工程S2)。また、得られた鋳塊から小片を採取し誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)を行って、各鋳塊がそれぞれ予定した化学組成を有していることを確認した。
【0056】
次に、適当な長さに切断した鋳塊に対してスエージ加工を施して棒状材(直径9.5 mm)を形成した(粗成形工程S3)。
【0057】
次に、当該棒状材に対して引抜伸線加工を施してAl合金素線(直径0.6 mm)を形成した(伸線工程S4)。伸線工程S4の途中で、Al合金材の加工ひずみを緩和するための焼鈍熱処理を数回行った(中間焼鈍工程S5)。この時の焼鈍熱処理条件は、大気中300℃で30分間保持とした。
【0058】
次に、Al合金素線に対して時効熱処理を施してAl合金導体を作製した(時効熱処理工程S6)。この時の時効熱処理条件は、大気中320℃で3時間保持とした。
【0059】
最後に、得られたAl合金導体に対して、かしめ接合を想定した機械加工として減面率30%の最終引抜伸線加工を施して試験評価用の試料(直径0.5 mm)を用意した。
【0060】
[実験2]
(基準例の純Al導体の作製)
市販の純Al線材(純度4N、直径1.5 mm)を用意し、実験1と同様の伸線工程S4〜最終引抜伸線加工を行って、基準例となる試験評価用の試料(直径0.5 mm)を用意した。
【0061】
[実験3]
(実施例B-1〜B-11および比較例B-1〜B-11のAl合金導体の作製)
後述する表3〜表4に示す名目化学組成を有するAl合金(Al-Co-Zr系合金)からなる導体の試料(実施例B-1〜B-11および比較例B-1〜B-11)を、実験1と同様にして作製した。ただし、焼鈍熱処理条件は大気中350℃で30分間保持とし、時効熱処理条件は大気中400℃で40時間保持とした。
【0062】
[実験4]
(Al合金導体および純Al導体の試験評価)
実験1〜実験3で用意した各試料(実施例A-1〜A-16、比較例A-1〜A-14、基準例、実施例B-1〜B-11、および比較例B-1〜B-11)に対し、四端子測定法による電気的特性評価(導電率、%IACS)と、室温の引張試験による機械的特性評価(引張強さ、引張伸び)と、熱的特性評価(10万時間耐熱温度)とを行った。
【0063】
10万時間耐熱温度の測定は、次のように行った。まず、Al合金導体の各種試料に対し、加熱温度と加熱保持時間とを変えながら当該試料のビッカース硬さの変化を測定した。本測定では、マイクロビッカース硬度計を用いて、試料側面(Al合金導体の外周面)で長さ方向に5点計測して、その平均をビッカース硬さとして採用した。
【0064】
次に、加熱温度と加熱保持時間とビッカース硬さとから、種々の温度での等温軟化曲線を作成した。次に、該等温軟化曲線から、加熱によってビッカース硬さが初期値から10%低下する時間を求めた。次に、10%軟化の温度と時間とをアレニウス・プロットすることにより、10万時間連続使用したときに10%軟化する温度を求め、該温度を10万時間耐熱温度とした。なお、本測定では、10%以下の軟化現象はすべて同一の活性化エネルギーで起こる現象と仮定している。
【0065】
電気的特性評価では、57%IACS以上の導電率を合格と判定し、その値未満を不合格と判定した。機械的特性評価では、115 MPa以上の引張強さを合格と判定し、15%以上の引張伸びを合格と判定し、それらの値未満を不合格と判定した。熱的特性評価では、200℃以上の10万時間耐熱温度を合格と判定し、その値未満を不合格と判定した。結果を表1〜表4に併記する。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表1に示したように、本発明のAl合金導体の実施例A-1〜A-16は、59%IACS以上の導電率と、115 MPa以上の引張強さと、15%以上の引張伸びと、200℃以上の10万時間耐熱温度とを兼ね備えていることが確認された。
【0069】
これらに対し、表2に示したように、純Al導体の基準例は、高い導電率と高い引張伸びとを示すものの、引張強さと10万時間耐熱温度とが不合格であった。また、本発明の規定を外れるAl合金導体の比較例A-1〜A-14は、引張強さ、引張伸び、および10万時間耐熱温度のいずれか1つ以上が不合格であった。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
表3に示したように、本発明のAl合金導体の実施例B-1〜B-11は、57%IACS以上の導電率と、115 MPa以上の引張強さと、15%以上の引張伸びと、200℃以上の10万時間耐熱温度とを兼ね備えていることが確認された。
【0073】
これらに対し、表4に示したように、本発明の規定を外れるAl合金導体の比較例B-1〜B-11は、引張強さ、引張伸び、および10万時間耐熱温度のいずれか1つ以上が不合格であった。
【0074】
[実験5]
(Al合金導体の微細組織観察)
実施例A-1および実施例B-1の試料に対し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて微細組織観察を行った。その結果、実施例A-1において、母相内に(母相結晶粒内や母相結晶粒界上に)粒径10〜50 nm程度の微粒子が分散析出していることが確認された。母相結晶粒内でのTEM観察像(視野0.5μm×0.5μm)における析出粒子数は、120個であった。また、析出粒子に対して、制限視野電子線回折による回折パターンを解析した結果、当該分散粒子はAl
3Sc相であることが判った。
【0075】
同様に、実施例B-1においても、母相内に粒径10〜80 nm程度の微粒子が分散析出していることが確認された。母相結晶粒内でのTEM観察像(視野0.5μm×0.5μm)における析出粒子数は、90個であった。また、析出粒子に対して、制限視野電子線回折による回折パターンを解析した結果、当該分散粒子はAl
3Zr相であることが判った。
【0076】
上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
10…Al合金導体、11…母相、12…Al-Sc化合物相またはAl-Zr化合物相、
20…撚線、30…絶縁被覆層、100…Al合金絶縁電線。