(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸素含有化合物をクラッキングするステップは、活性酸素種を形成するために前記乾燥したガス状の酸素含有化合物を熱分解するステップを含む、請求項3に記載の方法。
前記乾燥した酸素含有化合物をクラッキングするステップは、酸素ラジカルを形成するために前記乾燥した酸素含有化合物のプラズマ励起を含む、請求項3に記載の方法。
前記非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体は、トリス(ジメチルアミノ)シラン、テトラ(ジメチルアミノ)シラン、ビス(tertiary‐ブチルアミノ)シラン、トリシリルアミン、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチル、又はヘキサキス(エチルアミノ)ジシランを1つ以上含む、請求項1に記載の方法。
基材(210)上に成膜される防湿層(200)であって、500オングストローム未満の厚さの金属‐シリコン‐酸化物混合物の薄膜から成り、1.8以下の屈折率を有し、前記防湿層は、3×10-1g/m2/日以下の水蒸気透過速度を有する防湿層。
基材上に成膜される防湿層であって、該防湿層は、非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体、金属含有前駆体、及び酸素含有化合物から形成された活性酸素種から形成される、金属-シリコン-酸化物混合物の薄膜から成り、前記防湿層は、3×10-1g/m2/日以下の水蒸気透過速度を有する、防湿層。
【発明を実施するための形態】
【0008】
いくつかのナノラミネートバリア構造は、光透過を妨げることが予想される。ラミネート層の厚さが光波長の数桁以内であるいくつかの設定(例えば、少なくとも3〜5nmの厚さ)では、ラミネート層の間に形成される界面での光の屈折によって、層が異なる屈折率を有するところで、光透過に損失をもたらす。光透過損失は、光がOLEDおよび光透過性の包装材におけるように下地基材を経て透過する周囲環境では悪化する。なぜなら、基材バリアフィルムを作るのに使用される材料は、基材材料基材の屈折率とも異なる屈折率を有するからである。例えば、水蒸気バリアはポリエチレンテレフタレート(PET)のポリマー基材に適用されることがよくある。
【0009】
以下により詳しく説明するように、出願人らは、シリコン酸化物(SiO
2、シリカとしても知られている。)は、PETのそれよりも低い約1.46の屈折率を有し、PET上のシリコン酸化物の多少の反射防止作用のために、光透過性を高めることが予想される材料であることに気付いた。しかしながら、SiO
2は水蒸気バリア特性が劣っている。酸化アルミニウム(Al
2O
3、アルミナとしても知られる)もPETのそれに近い屈折率を有するが、出願人らは、Al
2O
3は高湿/高温環境にさらされると分解するため、防湿層の用途にとっては危険な選択肢となることに気付いた。
【0010】
これに対して、出願人らは、2009年12月7日に出願された米国特許出願第12/632,749号に開示され、米国特許出願公開第2010/0143710号(特許文献6、以下、「’710号公開」という)に公開されているように、酸素含有プラズマを使用して形成される二酸化チタン(TiO
2、チタニアとしても知られている)は優れた水蒸気バリアを形成し、高湿環境においても安定していることを認識した。しかしながら、出願人らは、TiO
2はPETのそれよりもずっと高い屈折率を有し、PET基材に適用される際、特に、TiO
2フィルムの厚さが増すと、光透過性を低下させることに気付いた。同様に、AlTiOの混合物は、これらの混合物の屈折率も、上述したように、PETのそれよりも高いにも関わらず、優れた水蒸気バリアを形成する。
【0011】
本開示によれば、バリアフィルムは、非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体(すなわち、シラノールではない、言い換えるなら、シリコン原子に結合されるヒドロキシル基を有していないシリコン前駆体)のALDプロセスを用いて基材上に成膜される混合金属‐シリコン‐酸化物と、金属含有前駆体と、酸素含有化合物から形成される活性化酸素種とを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、金属‐シリコン‐酸化物混合物は、実質的にシリコンがない金属酸化物のバージョン(つまり、本来、酸化物金属からなる金属酸化物のバージョン)に対して、低い屈折率を呈し、これは、金属酸化物および金属‐シリコン‐酸化物材料の格子パラメータに依存する。シリコンを含むことは、金属酸化物の屈折率を低下させ、下地基材の材料との界面での回折に起因する光透過損失を潜在的に低減又は排除する。
【0013】
ある実施形態において、金属‐シリコン‐酸化物混合物は、約200℃又はそれ以下の温度で可撓性ポリマー基材上に成膜することができる。約200℃又はそれ以下の温度での金属‐シリコン‐酸化物混合物の成膜は、約200℃又はそれ以下の温度で色変化する、基材又はガラス転移する基材のように、熱的に敏感なポリマー基材の熱劣化を防ぐことができる。例えば、PETは約100℃で熱劣化し、ポリエチレンナフタレート(PEN)は約150℃で熱劣化し、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は約180℃で熱劣化するも、いくつかのポリイミド基材は200℃又はそれ以上で熱的に安定している。かような実施形態においては、前駆体は、約200℃以下の低い温度で活性化酸素種に反応又は感応するように選択される。しかしながら、以下により詳しく説明するように、前駆体は、これらの温度においてはお互いに又は酸素含有化合物とは反応せず、潜在的な量の前駆体と酸素含有化合物との間の気相反応を阻止する。
【0014】
本開示の実施形態によって形成し得るこのような金属‐シリコン‐酸化物混合物の非制限的な例には、Ti
xSi
yO
z、Al
xSi
yO
z、およびZn
xSi
yO
zフィルムがある。本明細書中及び特許請求の範囲において、金属‐シリコン‐酸化物混合物は、「M
xSi
yO
z」と称され、「M」は、好適な金属原子を、x、yおよびzは、それぞれ金属、シリコン、及び酸素の原子比を表す。同様な命名法を、金属酸化物(例えば、「M
xO
z」)及びシリコン酸化物(例えば、「Si
yO
z」)に対する簡略表記として用いることもできる。
【0015】
金属‐シリコン‐酸化物混合物は、またシリコン酸化物やいくつかの金属酸化物単独よりも優れた防湿特性を呈することに気付いた。表1は、以下により詳細に説明する、ALD処理のバリエーションを用いて形成された、成膜されたままの状態における(すなわち、さらなる処理が施されない)、20nmの厚さのSiO
2フィルムから収集したWVTRデータの範囲を提示している。表1に示すように、各SiO
2フィルムは、1.5g/m
2/日以上のお粗末なWVTRを示し、Al
2O
3、TiO
2及び混合AlTiOフィルムのWVTRよりも比較的劣っている。一例としてのSiO
2フィルムのフィルム組成データは、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)を用いて測定した。RBS測定では、フィルムは実質的に炭素を含まない化学量論のSiO
2であることを示した。即ち、成膜プロセスは、本質的にシリコン酸化物から成り、シリコン亜酸化物と炭素汚染物質は実質的に含まないフィルムを形成した。
【0017】
光学顕微鏡法や、場合によっては走査型電子顕微鏡法を用いて薄膜バリア材料における小さな欠陥(例えば、フィルムの完全性を損ねるピンホール、擦り傷、埋め込まれた粒子、又は他のフィルムの凹凸)を視覚的に検出することは困難である。しかしながら、小さな欠陥の証拠は、バリア材料で被覆される基材を、この基材と化学的に反応する物質(基材に敏感な反応物質)に曝露することによって得られる。例えば、PETは、濃硫酸(例えば、96%のH
2SO
4)と化学反応する。バリア材料の小さな点欠陥であっても、濃硫酸に曝露すると、酸がPETフィルムに導入する。次に、酸は、PETフィルムの視認可能領域をエッチングして、欠陥の大きさよりもはるかに大きくする。この例においては、硫酸は脱イオン水リンスで除去し、サンプルは窒素ガスで乾燥させる。それに続く検査(例えば、照明用の高輝度ハロゲン光源及びコントラストの暗い背景を使用する)は、光学顕微鏡法又は肉眼目視検査により、バリア材料における欠陥の存在を示す、PET基材のエッチングされた領域を明らかにする。
【0018】
SiO
2で被覆されたPETウェブの濃硫酸への曝露は、シリコン酸化物フィルムにおける欠陥を明らかにする兆候を示すことはなかった(すなわち、酸誘発PET劣化の目に見える兆候はなかった)。しかしながら、周囲圧力で水蒸気で飽和した蒸気(すなわち、飽和蒸気)に曝したSiO
2被覆PET基材を目視検査すると、SiO
2フィルムはH
2SO
4による攻撃から保護されないことを示した。即ち、硫酸に起因するPET基材へのダメージに基づいて、蒸気に曝したシリコン酸化フィルムには、酸が容易に浸透すると理解される。
【0019】
表1に示すWVTRデータを収集するために使用したSiO
2フィルムは、デュポン帝人フィルムが販売するメリネックス(Melinex:登録商標)ST−504 PET基材上にプラズマ強化ALDにより形成された。PET基材は、成膜システム内をループで移動するように配置された可撓性ウェブとして処理された。成膜システムの例は、
図5につき以下詳細に説明する。各実験では、基材ウェブは、「ループモード」構成に配置され、基材ウェブは、成膜システム内のエンドレスバンド又はループの単一経路に沿って移動する。単一の酸化フィルム(例えば、表1に提示したSiO
2フィルム)を成膜するとき、径路の各トランジット、又はラップは、単一のALDサイクルを基材に受けされる。一例のSiO
2成膜プロセスは、20nmのSiO
2フィルムから定められるように、ラップあたり約1.3オングストロームのフィルムを形成した。しかしながら、プロセスによっては、2回以上のALDサイクルが各ラップ中に実行され、各サイクルは、混合金属‐シリコン‐酸化物の形成に用いられる特定の酸化物材料を成膜することが理解されるであろう。例えば、基材は、経路に沿ってX回循環させて、2X回のALDサイクル(半分は第1前駆体、もう半分は第2前駆体(本明細書では、X
*(1
*SiO
x+1
*MO
x)として表す)用のサイクル)を達成することができる。言い換えれば、基材の1ラップは、金属‐シリコン‐酸化物材料の混合物を形成するのに2回のALDサイクル(ALDサイクルペアとも称する)となる。このようなプロセスの例は、以下により詳しく説明する。
【0020】
表1に示すWVTRデータを収集するために使用したSiO
2フィルムは、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチル、非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体を用いて、100℃(許容範囲内)の基材上に成膜された。このような前駆体の他の例は、以下により詳しく論じる。これらの実験では、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチルは、
図1に示すグラフ100に例示されるように、上述した処理条件下で基材上にシリコン前駆体が自己制限で化学吸着する温度に相当する許容範囲内の40℃の温度で蒸発した。当然ながら、他の前駆体は、それらのぞれぞれの熱力学的特性に応じて異なる蒸発(又は、固体前駆体として保存されている場合は、昇華)温度を有することができる。さらに、いくつかの非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体は、典型的な保存条件下では気体であってもよく、気体の形態で直接供給することもできる。
【0021】
表1につき説明した例のシリコン酸化物フィルムの場合には、化学吸着したシリコン前駆体を、酸素含有化合物を分解又はクラッキングすることによって生成された酸素ラジカルに曝露した。これらの実験では、酸素ラジカルはプラズマ励起又はガス状の酸素含有化合物の活性化によって生成した。プラズマによって生成された酸素ラジカルは、基材の表面に直接供給した。具体的には、基材を、総圧力1.4トルの乾燥した空気(すなわち、本来、酸素と窒素から成るガス状混合物)と共に供給され、150Wで動作するDCプラズマ発生器によって励起されるプラズマに直接曝露した。言い換えれば、基材は、プラズマ領域の少なくとも一部と、そこに生成された酸素ラジカルとを直接接触するように配置した。
【0022】
上述したシリコン酸化物フィルムはお粗末な(高い)WVTRを呈したが、非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体を用いて形成される金属‐シリコン‐酸化物混合物は、典型的には1.5〜1.8の範囲の屈折率を呈する。約200℃又はそれ以下の温度で形成されるとき、このような混合物は、1.55〜1.64の範囲の屈折率を有するPET、1.65〜1.9の範囲の屈折率を有するPEN、及び1.65〜1.77の範囲の屈折率を有するPEEK等の、感熱性で、光透過性の可撓性ポリマー基材とともに使用するのに適している。以下により詳しく説明するように、そのように形成される金属‐シリコン‐酸化物混合物は、食品、医療機器、医薬品及び半導体機器等のための包装材料における使用を含む、防湿層用途での使用に適した、低いWVTRも呈する。
【0023】
多層バリアを形成する多くの従来の方法とは対照的に、本開示に従って形成される金属‐シリコン‐酸化物混合物は、検出可能な別個の層を有していなくてもよい。即ち、混合物は実質的に均質な混合物、又は混合金属‐シリコン‐酸化物を表す。本明細書で用いられるように、均質な混合物とは、個々の又は個別に識別可能な層又はストラタム(strata)を実質的に含まない材料を表す。例えば、透過型電子顕微鏡法又は走査型電子顕微鏡法のような適切な顕微鏡検査技術によって収集される、均質な混合フィルムの断面の画像が、フィルム内の材料間の鮮明な境界又は界面を示すとは思われない。
【0024】
いくつかの実施形態において、均質な混合物は、フィルムの厚さ全体にわたり、元素濃度に急激な変化がないものとして特徴付けられる。急激な濃度変化は、フィルム内の材料組成又は材料相間の遷移を示唆することができる。いくつかの実施形態において、均質な混合物は、フィルムの厚さ全体にわたって実質的に不変の元素濃度によって特徴付けられる。即ち、とりわけ表面緩和及び他の物質との界面混合に起因する混合物の末端の境界面(例えば、混合物が他の物質と境するところ)付近では許容量の濃度変化があることが認められるが、混合物は全体として実質的に同じ元素濃度を有するのがよい。
【0025】
均質な金属‐シリコン‐酸化物混合物の実施形態は、表面に供給された活性酸素種と反応する非ヒドロキシル化シリコン及び金属前駆体の活性酸素種は、ALDにより形成することができ、活性酸素種は酸素含有化合物から生成される。そのような前駆体及び化合物の例は、以下により詳細に説明する。
【0026】
いくつかの実施形態において、金属‐シリコン‐酸化物混合物は、連続的するALD成膜事象、又は成膜サイクルにより形成することができ、各ALDのサイクルは特定の様々な酸化物材料(例えば、シリコン酸化物又は金属酸化物)を成膜する。
図2は、基材210上に成膜された混合M
xSi
yO
zの単一薄膜バリアフィルム200(片面バリアフィルムとも称される)の断面図を示す。
図3は、基材310の両側に成膜された混合M
xSi
yO
zの第1及び第2の薄膜バリアフィルム300及び302(両面バリアフィルムとも称される)の断面図を示す。いくつかの実施形態において、基材210及び310は、可撓性基材とすることができる。可撓性基材の非限定的な例は、PET、PEN、PEEK及びポリイミド基材を含む。もちろん、基材210及び310は、可撓性である必要はない。いくつかの実施形態において、基材210及び310は、剛性であってもよい。例えば、基材310は、完成したOLEDディスプレイ又は照明パネル又は硬質ガラス又は他のシートを表すことができる。そのような実施形態のいくつかにおいて、バリアフィルム300及び302は、基材310を完全に密閉して、バリアフィルム300がバリアフィルム302に当接し(それと付着又は結合し)、基材310を包囲して、基材を周囲の曝露から隔離する包装体又はシュラウドを形成することができる。
【0027】
本明細書で使用する場合、種の化学吸着とは、化学結合の形成を介しての表面への当該種の化学吸着をいう。これにて得られる化学吸着種の厚さは、準単分子層の総厚量を含む、3つの単分子層の厚さよりも薄い厚さとするのがよい。化学吸着は、凝縮相又は種の物理的な吸着(「物理吸着」)相の形成のことではない。物理吸着相は、ファンデルワールス力により下地表面への弱い吸引力を受けるも、これらの相は表面との化学結合を形成しない。例えば、3つの単分子層を超える量は、化学結合をそのような距離として形成するのが困難なために、物理吸着されることが予想される。
【0028】
反応A〜Dは、本開示の実施形態によるALDサイクルのペアを用いて、金属‐シリコン‐酸化物の混合物を形成するための簡単な例を示す。例えば、反応A及びBは、基材によって支持される曝露された表面上にシリコン酸化物材料を成膜するために用いられるALDサイクルを表す。反応C及びDは、表面上に金属酸化物材料を形成するために用いられるALDサイクルを表す。もちろん、サイクルペアを形成するALDサイクルの順序は、いくつかの実施形態で適切に入れ替えることができ、また実施形態によっては、反応の一方又は両方のペアの順序を入れ替えることもできる。例えば、熱的にクラッキングした活性酸素種は、非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体及び/又は金属含有前駆体の化学吸着よりも先に表面に化学吸着される。
【0029】
反応Aは、基材によって支持された表面が前駆体に曝露されることによる当該基材上への非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体の化学吸着を表す。非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体の非限定的な例としては、トリス(ジメチルアミノ)シラン(SiH[N(CH
3)
2]
3)、テトラ(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH
3)
2]
4、ビス(ターシャリーブチルアミノ)シラン(SiH
2[HN(CH
3)
3])、トリシリルアミン((SiH
3)
3N)(L‘Air Liquide S.A.から商標名TSAにて入手可能),シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチル(SiH
2[N(C
2H
5)
2]
2)(L‘Air Liquide S.A.から商標名SAM.24(登録商標)にて入手可能)、及びヘキサキス(エチルアミノ)ジシラン(Si
2(NHC
2H
5)
6)(L‘Air Liquide S.A.から商標名AHEAD(登録商標)にて入手可能)等の化合物を含む。
【0030】
表面は、M
xO
zとして表され、これは金属‐シリコン‐酸化物混合物の成膜の開始後のある点における表面状態を例示する目的のための表面を含んでいる。当然のことながら、むき出しの基材又は基材によって支持される他のフィルムや被膜を含む他の表面状態は、成膜を開始する際に前駆体に曝露される。
非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体 + M
xO
z含有表面 → 化学吸着シリコン種 (反応A)
【0031】
反応Bは、表面上にシリコン酸化物を形成するために活性酸素種への化学吸着シリコン種の曝露を表す。反応Bに示される例では、活性酸素種は、酸素ラジカルである。酸素ラジカルを形成するためのアプローチは、以下により詳細に説明する。
化学吸着シリコン種 + 酸素ラジカル → Si
yO
z含有表面 (反応B)
【0032】
金属‐シリコン‐酸化物に含まれる酸素原子は、酸素前駆体で反応器に供給される、酸素含有化合物から形成される活性酸素種との反応によって供給される。即ち、表面に供給される活性酸素種は、化学吸着金属又はシリコン種と反応する。
【0033】
酸素含有化合物は、混合物でも、実質的に単一の化合物から成るものとしてもよい。いくつかの実施形態において、酸素含有化合物は、酸素含有化合物と他の前駆体との共混入が偶発的なフィルム及び/又は粒子形成しないように、金属及び/又はシリコン前駆体は、酸素含有化合物に非感受性であるものを選択するのがよい。換言すれば、酸素含有化合物は、参照により援用される、2007年7月26日に出願された「Radical−Enhanced Atomic Layer Deposition System and Method」と題するDickeyらによる米国特許第8,187,679号明細書に記載されるように、酸素含有化合物が反応しない間に、活性酸素種が、化学吸着金属及びシリコン種と化学反応するように選択するのがよい。
【0034】
いくつかの実施形態において、活性酸素種は、酸素含有化合物のプラズマ活性化によって生成される酸素ラジカルを含むことができる。例えば、本質的に乾燥空気(窒素ガスと酸素ガスとの混合物から合成された乾燥空気を含む)から成る酸素含有ガスと共に供給されるプラズマは、混合物用の酸素ラジカルを生成することができる。ガス状酸素化合物の他の非限定的な例は、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO
2)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)や、窒素(N
2)と二酸化炭素の混合物を1以上含む。実施形態によっては、酸素プラズマが基材に直接接触してもよいが(例えば、直接プラズマ)、いくつかの実施形態では、基材への酸素ラジカルの間接的(例えば、遠隔プラズマによる)活性化及び輸送を用いることもできる。
【0035】
本開示の範囲から逸脱することなく、他のラジカル活性化エネルギー源及びプラズマ点火/安定化ガスも使用することができる。実施形態によっては、オゾン(O
3)を含む活性酸素種を、酸素含有化合物から、基材から離れて又は近接して生成させることができる。いくつかの実施形態において、活性酸素種は酸素含有化合物の熱分解又はクラッキングによって生成することができる。過酸化水素(H
2O
2)は、熱活性ALDプロセスに使用できる酸素含有化合物の非限定的な例である。過酸化水素から生成される酸素ラジカルは、化学吸着金属又はシリコン種と反応して混合金属‐シリコン‐酸化物を形成することができる。このような実施形態では、H
2O
2は、水蒸気としての水(H
2O)とブレンドして、ラジカル形成プロセスの動力学的平衡をシフトすることにより酸素ラジカルの濃度を変えることができる。
【0036】
反応Aに示す化学吸着プロセスのために、表面に形成されるシリコン酸化物の量は、約3単分子層以下にすることができる。従って、成膜した酸化物内には、シリコン酸化物の不連続で、不完全で、部分的なサブ単分子層の量の形成に関連する、開口部、隙間、島などが存在し得る。例えば、シリコン酸化物を成膜するためのALDプロセス(プロセス前駆体:40℃で気化したシランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチルと、1.4トルの総圧力で乾燥空気と共に供給されるプラズマを用いて形成される酸素ラジカル;処理条件:100℃の基材温度と、200Wで動作するDCプラズマ)は、ALDサイクル毎に約1.4Åの成膜速度を有した。参考のために、シリコン酸化物は約3.7Åの理論的な単分子層の厚さを有する。従って、こうしたプロセス条件下では、シリコン酸化物は、サブ単分子層の量で形成されると想定される。
【0037】
金属酸化物のサブ単分子層の量は、本開示の実施形態に従っても形成することもできる。TiCl
4及びプラズマ生成酸素ラジカルを用いて100℃で実行する二酸化チタンを形成するための一例のALDプロセスは、ALDサイクル当りに約1Åの成膜速度を有したが、TMA及び、同じ温度で実行するプラズマ生成酸素ラジカルを用いる例のALDアルミナ形成プロセスは、ALDサイクル当りに約1.6Åの成膜速度を有した。ちなみに、TiO
2は約2.2Åの理論的な単分子層の厚さを有し、Al
2O
3に対する理論的な単分子層の厚さは約3.6Åである。
【0038】
上述した例の反応スキームを続けるに、反応Cは、金属含有前駆体のシリコン酸化物含有表面への化学吸着を表す。上述した実験的なシリコン酸化物と金属酸化物フィルムの厚さデータによって示唆されるように、金属含有前駆体は、シリコン酸化物内の開口部又は不連続部が化学吸着金属種で占められるように、シリコン酸化物並びに当該シリコン酸化物の下にある材料に化学吸着する。遷移及び/又は非遷移金属原子は、反応器に金属含有前駆体で供給される金属含有化合物から形成される化学吸着金属種との反応によって混合物中に組み込まれる。金属含有前駆体の非限定的な例は、金属ハロゲン化合物(例えば、四塩化チタン、即ちTiCl
4)及び有機金属化合物(例えば、ジエチル亜鉛((DEZ)、即ちZn(C
2H
5)
2)及びTMA)のような化合物を含む。次いで、化学吸着金属種は、酸素ラジカルと反応して、反応Dに示すように、金属酸化物を含む表面を形成する。
Si
yO
z含有表面 + 金属含有前駆体 → 化学吸着金属種 (反応C)
化学吸着金属種 + 酸素ラジカル →M
xO
z含有表面 (反応D)
【0039】
理論に束縛されることを望まなければ、約3つ未満の単分子層への酸化物成膜のインスタンス中に、各酸化物が加わった厚さを維持することは、均質な混合酸化物の形成を助けると思われる。約3つ未満の単分子層の成膜酸化物の量に起因するギャップや、開口部や、他の不連続部の存在は、その後の化学吸着及び他の前駆体との反応と、合成されたフィルムに導くための空間を供給することができる。約3つ未満の単分子層に加えられる酸化物の量を維持することは、そのタイプの酸化物にとってのロングレンジの格子構造の発生も防ぎ、潜在的に材料をナノラミネートに似させる層化を防止する。
【0040】
本開示により形成される金属‐シリコン‐酸化物材料の実施形態は、均質な混合酸化物の形成と一致する成膜速度を呈する。例えば、Al
xSi
yO
z及びTi
xSi
yO
zの成膜速度のデータは、ALDサイクルのペア(例えば、シリコン酸化物形成ALDサイクルと金属酸化物形成ALDサイクル)に基づいて、各サイクルのペアは、各酸化物から成る理論上の積層よりも薄い厚さの混合酸化物フィルムを形成することを示している。すなわち、各サイクルのペアは、シリコン酸化物の理論上の単分子層の厚さ(3.7Å)と金属酸化物の理論上の単分子層の厚さ(TiO
2の場合は2.2Å、又はAl
2O
3の場合は3.6Å)を足したよりも薄いフィルムを成膜する。Al
xSi
yO
zフィルムの実施形態は、SiO
2とAl
2O
3の積層構造にとっての3.7Å+3.6Å=7.3Åの理論上の厚さよりも薄い、約4.5Å/ALDサイクルのペアの成膜速度を有した。Ti
xSi
yO
zフィルムの実施形態は、SiO
2とTiO
2の積層構造にとっての3.7Å+2.2Å=5.9Åの理論上の厚さよりも薄い、約3.0Å/ALDサイクルのペアの成膜速度を有した。
【0041】
混合酸化物の成膜速度は、多層構造を示さないが、各混合酸化物は、フィルムに含まれる個々の酸化物の形成速度を超える速度で形成された。換言すれば、ALDサイクルのペア(即ち、シリコン酸化物形成サイクルと金属酸化物形成サイクル)によって形成されるフィルムの厚さは、ALDサイクルによってそこに形成される酸化物の厚さの和を超えた。従って、ALDサイクルの1ペアから形成されるTi
xSi
yO
zフィルムの厚さ(約3.0Å)は、単一のALDサイクルによって形成されるTiO
2フィルムの厚さと、単一のALDサイクルによって形成されるSiO
2フィルムの厚さの和(約1Å+約1.4Å、即ち、約2.4Å)よりも大きい。同様に、1ペアのALDサイクルによって形成されるAl
xSi
yO
zフィルムの厚さ(約4.5Å)は、単一のALDサイクルによって形成されるAl
2O
3フィルムの厚さと単一のALDサイクルによって形成されるSiO
2フィルムの厚さの和(約1.6Å+約1.4Å、即ち、約3.0Å)よりも大きい。所定回数のALDサイクルでの比較的厚いフィルムの成膜は、基材のスループットの増加及び/又は少数のALDサイクルを可能にする。このような成膜速度の相乗的な増加は、潜在的に基材プロセスを速め、成膜システムのサイズを低減させること等を可能にする。
【0042】
本開示により形成される金属‐シリコン‐酸化物材料の例に見られるフィルム組成データも、均質な混合酸化物の形成と一致する。20nmのAl
xSi
yO
zフィルムのRBS検査は、フィルムが約16.4at%のシリコンと、16.6at%のアルミニウムと、67.0at%の酸素を含むことを示した。このRBSデータは、SiO
2の方がAl
2O
3よりも割合がわずかに大きいブレンドされたAl
2O
3:SiO
2フィルムの形成と一致すると考えられる。RBS測定の結果、20nmのフィルムの深さ全体にわたって炭素汚染がないことを検出した。他の例として、Ti
xSi
yO
zの3.0Å/層成膜速度は、TiO
2に対する1.0Å/サイクルペアの速度と、SiO
2に対する1.4Å/サイクルペア速度との和よりも大きかった。20nmのTi
xSi
yO
zフィルムのRBSテストは、そのフィルムが約20.5at%のシリコンと、9.5at%のチタンと、70.0at%の酸素とを含み、20nmのフィルムの深さ全体にわたって炭素汚染が無いことを示した。上述した例と同様に、RBSデータは、SiO
2の割合がTiO
2よりもわずかに大きいブレンドされたTiO
2:SiO
2フィルムの形成と一致すると考えられる。
【0043】
金属‐シリコン‐酸化物の混合物は、所望の厚さに応じて、このようなALDサイクルの数十、数百、数千の繰り返しから構成することができる。いくつかの実施形態において、1つの酸化材料を成膜するためのALDプロセスは、異なる酸化素物材料を成膜するために用いられる、異なるALDプロセスに切り替えられる前に、連続して2回以上繰り返してもよい。このような実施形態では、繰り返しの回数は、得られる混合物が上述した均質な特徴を呈するように、選択される。1つの例として、均質な金属‐シリコン‐酸化物混合物を形成するプロセスは、異なる酸化物材料のためのALDサイクルに切り替える前に、1つの酸化物材料のために5つまでのALDサイクルの実行を含むことができる。いくつかの実施形態において、混合物は、他の酸化物に切り替える前に、わずか約10Åの1つの酸化物、好ましくは、わずか8Åの1つの酸化物、さらに好ましくはわずか6Åの1つの酸化物により形成することができる。いくつかの実施形態において、繰り返しの回数は、他の酸化物に切り替える前に、1つの酸化物のわずか約3つの単分子層が基材上に形成されるように、選択することができる。
【0044】
前駆体の選択もまた、前駆体分子の表面被覆率を変えることにより、酸化物の厚さに影響を及ぼす。例えば、非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体は、シロキサン重合による厚い化学量論的SiO
2層の形成を阻止する。いくつかの非ヒドロキシル化シリコン前駆体(すなわち、シラノール)は、金属原子と化学反応し、透過性シロキサンポリマー中間体を形成する。シロキサンポリマー中間体は、最終的に、化学量論的SiO
2フィルムを形成する。一例として、トリス(tert−ブチル)シラノールは、2002年10月11日発行の“Science”Vol.298の「Rapid Vapor Deposition of Highly Conformal Silica Nanolaminates」に、D.Hausmann、J.Becker、S.Wang及びR.G.Gordonにより記載されているように、Al
2O
3/SiO
2ラミネート積層に含まれる厚いシリカ層を形成するために使用された。Gordonらにより説明されているように、シラノールに存在するヒドロキシル基は、アルミニウム原子で他のシラノールモノマーの挿入をもたらす強調置換(concerted displacement)反応を促進する重合反応に重要だと考えられている。その後のシロキサンポリマーの架橋結合だけが、SiO
2層のさらなる拡散、反応、及び成長を阻止した。Gordonらは、アルミニウム含有酸化物表面へのトリス(tert−ブチル)シラノールの単一自己制限曝露から形成されるSiO
2の32以上の単層を報告した。従って、非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体は、潜在的なシロキサン重合と、それから得られる付随するシリコン酸化物の厚い層を回避するために、プロセスの間に、化学吸着シリコン種を形成するのに用いるのが好ましい。
【0045】
前駆体の機能は、化学吸着種の表面被覆率にも影響を及ぼす可能性がある。換言すれば、化学吸着した前駆体種によって占められる表面の割合は前駆体に応じて変化する。前駆体官能基の特性は、化学吸着した前駆体の表面集団を変えることができる。いくつかの実施形態において、前駆体の化学吸着は、前駆体に含まれる1つ以上の官能基のサイズを変えることによって調整することができる。例えば、ビス(ターシャリーブチルアミノ)シラン中に存在する大きなtert−ブチル基は、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチルに存在する小さいエチル基よりも広い範囲にその前駆体の化学吸着を立体的に妨げる。このことは、表面に化学吸着するビス(ターシャリーブチルアミノ)シランの能力を潜在的に低減させることになり、場合によってはギャップや不連続部をもたらす後の金属種の化学吸着のための追加のスペースを残す。
【0046】
成膜中の前駆体官能基の役割の他の例として、前駆体に含まれる官能基は、活性酸素種との反応も変化させる。理論により束縛されるのを望むことなく、同様のALD条件の下で形成される金属酸化物又はシリコン酸化物フィルムについて観察される成膜速度に対して、混合金属‐シリコン‐酸化物フィルムについて観察される成膜速度が増大するのは、シリコン含有前駆体の反応性に関連すると考えられる。例えば、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチルシリコン前駆体は、TMA又はTiCl
4よりも容易に酸化され、潜在的に、所定の基材速度及びプラズマ状態の場合に、これらの前駆体に対して大きい程度に、又は速い速度で変換される。このような特性は、他のアミド又はアミン系シリコン化合物により共有される。従って、いくつかの実施形態では、シラノールもない任意の適切なアミド又はアミン系シリコン化合物を、本開示の範囲を逸脱することなく使用することができる。
【0047】
上述したように、本開示の酸化物混合物に含まれるシリコン及び金属の存在は、混合物に各酸化物の物理的特性を呈させる。例えば、本開示により形成されるアルミニウム‐シリコン‐酸化物フィルムは、’930出願で報告されたAlTiO混合物の屈折率(おおよそ1.8)よりもPETの屈折率にもっと近い約1.55の屈折率を有することがわかった。
【0048】
本開示によるアルミニウム‐シリコン‐酸化物混合物の実施形態のWVTRテストは、当該混合物が、Al
2O
3の特性である、いくつかの時間依存性の防湿層特性を呈することを示唆している。
図4は、成膜後の90時間の間におけるAl
xSi
yO
zフィルムの実施形態に対する水蒸気透過速度の時間依存変化を示している。WVTRデータ400は、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチルとTMAと、200Wで動作する1.4トルの乾燥空気DCプラズマを用いて生成される酸素ラジカルとを用いて、100℃でPET基材上に形成された6nmのAl
xSi
yO
zフィルムから収集した。
図4に示すように、約16時間の短い過渡期間の後に、フィルムは、約3×10
-3g/m
2/日の初期水蒸気透過速度を呈した。初期の透過速度は、90時間後に、約6×10
-2g/m
2/日の水蒸気透過速度まで徐々に上昇した。この図は、バリア性能の劣化を知らしめているというよりも、WVTRのシフトが、Al
xSi
yO
zフィルム内のアルミニウム酸化物の存在に関連し得ると考えられる。
【0049】
同様に、Al
xSi
yO
zフィルム中に存在するシリコン原子は、高湿度/高温度の環境への耐性を提供する。Al
2O
3フィルムとは異なり、本開示のAl
xSi
yO
zフィルムの実施形態は、直接蒸気に曝露されても分解しない。表2は、測定前に7時間の間、約99℃の温度で水蒸気で飽和した蒸気に曝露した、Al
xSi
yO
zフィルムの実施形態についてのWVTRデータの要約である。表2に示したAl
xSi
yO
zフィルムは、異なる速度で移送され、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチルと、TMAと、200Wで動作する1.4トルの乾燥空気DCプラズマによって生成される酸素ラジカルとを用いて100℃で処理したPET基材上に形成された。蒸気に当てたアルミニウムシリコン酸化物フィルムは、Al
2O
3フィルムよりも優れた性能を発揮し、Al
2O
3フィルムは、飽和蒸気に曝露されるとすぐに分解する。さらに、蒸気を当てたアルミニウム‐シリコン‐酸化物フィルムは、蒸気に曝露したAlTiOフィルムとほぼ同じWVTRを呈し、約3×10
-1g/m
2/日のWVTRを呈した。
【0051】
飽和蒸気への7時間の曝露後の、その後の濃硫酸への曝露は、良好な耐酸性を示す、PETウェブのほぼピンホールのないコーティングを示した。例外的に、酸の研究で、当該サンプルでのWVTRの結果に関与すると思われる、小さな局所的なフィルム核の生成欠陥が露呈した。従って、アルミニウム‐シリコン‐酸化物混合物の実施形態は、食品、医療機器、医薬品、半導体デバイス等の材料をパックする使用を含む、防湿層の用途に用いるのに適していると思われる。アルミニウム‐シリコン‐酸化物混合物の実施形態は、ガラスやシート処理の他の基材に完成したOLEDディスプレイ又は照明パネルをカプセル化することを含めて、可撓性又は剛性の機器を直接カプセル化するのにも適していると思われる。
【0052】
表3は、シランジアミン,N,N,N’,N’テトラエチルと、TiCl
4と、200Wで動作する1.4トルの乾燥空気DCプラズマを用いて生成される酸素ラジカルとを用いて、100℃でPET基材上に異なるウェブ速度条件下で形成された、20nmのTi
xSi
yO
zフィルムのWVTRデータを示している。基材は、200Wで動作する1.2トルの酸素DCプラズマに低速1ラップ曝露で前処理した。これらのフィルムのWVTRは上述したアルミニウム‐シリコン‐酸化物フィルムと比べてわずかに高いが、チタン‐シリコン‐酸化物フィルムは安定したWVTRを有し、アルミニウム‐シリコン‐酸化物フィルムが再安定化する前に、バリア性能の上方移行は示さなかった。
【0054】
ちなみに、成膜されたままのチタン‐シリコン‐酸化物混合物は、TiO
2のそれよりもわずかに高いWVTRを呈した。7時間の蒸気に曝露した後、混合物はTiO
2とほぼ同じWVTRを呈した。サンプルの4A及び4Bを7時間飽和蒸気に露出した後、濃硫酸に曝露したら、いくつかの局所的なフィルムの層間剥離は現れたが、良好な欠陥性能(すなわち、優れた耐酸性及びPET基材の低酸攻撃)を示した。他の例として、本開示により形成されたチタン‐シリコン‐酸化物フィルムは、RBSの濃度評価に基づいて、約1.7の屈折率を有すると推定された。対照的に、上記したように、ALDによって成膜されたAl
2O
3の屈折率は約1.6、本開示の実施形態により成膜されたアルミニウム‐シリコン‐酸化物混合物の屈折率は約1.55、SiO
2の屈折率は約1.46である。従って、チタン‐シリコン‐酸化物混合物は、食品、医療機器、医薬品、半導体機器等の包装材での使用を含む、光透過性の可撓性ポリマー基材上への防湿用途に使用するのが好適であると思われる。チタン‐シリコン‐酸化物混合物の実施形態は、ガラスや、シート処理の他の基材に完成されたOLEDディスプレイ又は照明パネルをカプセル化することを含めて、可撓性又は剛性の機器を直接カプセル化するのにも適していると思われる。
【0055】
図5は、本開示の実施形態による混合金属‐シリコン‐酸化物フィルムを形成するのに用いることができる、ロールツーロールの成膜システム500の実施形態を示している。ロールツーロール成膜システム500は、’464号特許に記載された成膜システム及び、特に、’710号公開の
図5のシステムと一致する。
図5を参照するに、「ループモード」構成は、基材ウェブ502をエンドレスバンド(ループ)に巻き付ける。エンドレスバンドは、基材が中央の分離ゾーン504から第1の前駆体ゾーン506に移動し、次に分離ゾーン504に戻り、そして第2の前駆体ゾーン508に移動し、最終的に分離ゾーン504に戻る各回転(ラップ)で2つのALDサイクルを実行する単一経路を含む。基材ウェブ502は、ゾーン504、506、508の各ゾーン間を移動する隙に、スリットバルブを通過する。スリットバルブは、異なるゾーンを隔てる仕切り板510、512におけるスロットとして形成することができる。このような構成では、基材ウェブ502は、前駆体ゾーン及び分離ゾーンを閉ループで繰り返し通過することができる(例えば、順次ゾーン504から→506→504→508)。このシステムを、本明細書では「ロールツーロール」成膜システムと称するも、実験目的用に用いるループ基材の構成は、基材を供給ロールから巻取りロールに移送することを含まない。
【0056】
図5に例示したループ構成では、2つのプラズマ生成器514、516を分離ゾーン504に使用すると、ループ経路の完全移動によって2つのALDサイクルが実行されることになる。また別の実施形態では、積層型反応器の構成は、’366号特許の
図5に例示される5つのゾーンスタックのような、マルチゾーンスタックを利用し、’366号特許では、金属含有前駆体が頂部及び底部の前駆体ゾーンに導入され、シリコン前駆体が中央の前駆体ゾーンに導入され、又はその逆にも導入され、酸素ラジカルが、それぞれ金属及びシリコン前駆体ゾーンを隔てている中央の分離ゾーンに導入された。
【0057】
図6は、基材上に金属‐シリコン‐酸化物フィルムを成膜するための方法600の実施形態である。本明細書で述べるフィルムは、ロールツーロールシステム500の実施形態を含む、任意の適切なフィルム成膜システムを用いて形成してもよい。
【0058】
ステップ602において、本方法600は第1の前駆体ゾーンへ非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体を導入し、第1の前駆体ゾーンから間隔をあけた第2の前駆体ゾーンへ金属含有前駆体を導入する。例えば、ロールツーロールシステム500を参照すると、シリコン前駆体が第1の前駆体ゾーン506に供給され、金属含有前駆体が第2の前駆体ゾーン508に供給される。
【0059】
ステップ604において、本方法600は、分離ゾーンと、第1及び第2のゾーンとの間に正の圧力差を生じさせるために、第1と第2のゾーンとの間に位置する分離ゾーンへ乾燥した酸素含有化合物を導入する。システム500を参照すると、酸素含有化合物は、分離ゾーン504に供給される。ステップ606で、本方法600は、基材と前駆体ゾーンとを2つの間で相対移動させる。
【0060】
ステップ608において、本方法600は、基材表面上に、当該表面を非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体又は有機金属前駆体のいずれかに曝露することにより、第1の前駆体を化学吸着させ、その後に、ステップ610において、表面へ活性酸素種を供給する。
【0061】
いくつかの実施形態において、表面への活性酸素種の供給は、活性酸素種を生成するために、乾燥した、酸素含有化合物をクラッキングすることを含むのがよい。このようないくつかの実施形態において、プラズマ発生器(例えば、DCプラズマ源、RFプラズマ源、又は誘導結合型プラズマ源)は、第1及び第2の前駆体ゾーンよりもわずかに高い圧力で分離ゾーンを流れる乾燥気体の酸素含有化合物(例えば、窒素(N
2)及び/又は他の適切な不活性担体を加えた又は加えていない乾燥空気、O
2、CO
2、CO、NO、NO
2又は前述の2以上の混合物)を活性化して、活性酸素種に分解する。実施形態においては、酸素含有化合物、例えば、過酸化水素、水、又はその混合物を、非プラズマ活性化(例えば、熱処理)により分解又はクラッキングすることもできる。さらに他の実施形態においては、オゾンが基材表面に供給されるように、基材又は基材経路から遠く離れた又は近いところでオゾンを発生させる(例えば、コロナ放電により)。いくつかの実施形態において、ステップ608及び610のシーケンスは、ステップ614に進む前に(612で示すように)2回以上繰り返す。いくつかの実施形態において、ステップ608及び610のシーケンスは2〜5回繰り返すことができる。
【0062】
ステップ614において、本方法600は、基材表面を非ヒドロキシル化シリコン含有前駆体又は有機金属前駆体の他方に曝露することにより基材表面上に第2の前駆体を化学吸着させ、その後に、ステップ616において、表面へ活性酸素種を供給する。いくつかの実施形態において、活性酸素種は、上述されたのと同様の方法で供給することができる。いくつかの実施形態において、ステップ614と616のシーケンスは、ステップ620に進む前に(618で示すように)2回以上繰り返すのがよい。いくつかの実施形態において、ステップ614及び616のシーケンスは2〜5回繰り返される。
【0063】
ステップ620において、本方法600は、基材上に500オングストローム以下の厚さを有する金属‐シリコン‐酸化物フィルムが形成されるまで繰り返す。実施形態によっては、本方法600は、基材が少なくともフィルムでカプセル化されるまで繰り返す。
【0064】
成長率速度及びバリア特性を含む上述したアルミニウム‐シリコン‐酸化物及びチタン‐シリコン‐酸化物フィルムの成膜プロセスは、基材温度に比較的感応しないと思われる。70〜100℃の範囲内で行われた実験によると、本明細書に開示した金属‐シリコン‐酸化物は、広い範囲の温度に亘って形成してもよいと考えられる。非限定的な温度の範囲は、50〜120℃及び25〜200℃を含む。
【0065】
同様に、成膜プロセスは、総圧力で変化にも比較的感応しないと考えられる。本明細書に開示した金属‐シリコン‐酸化物混合物は、約0.001トル〜10トルの圧力範囲に亘って形成してもよいと考えられる。直接プラズマ(例えば、前駆体の熱活性化、遠隔オゾン生成、又は遠隔プラズマ生成)を使用しないいくつかの他の実施形態では、プラズマ圧力は、10トル以上又は0.001トル以下でもよい。
【0066】
本開示および特許請求の範囲のWVTRは、ASTM F1249−06(2011年)による「Standard Test Method for Water Vapor Transmission Rate Through Plastic Film and Sheeting Using a Modulated Infrared Sensor」に従って、38℃(+/−0.1℃)及び90%RHで判定したが、試験計器は、赤外線センサではなく、五酸化リン(P
2O
5)で被覆された電極を含む電量測定センサで構成した。以下に示す実験結果において、WVTR測定は、MOCON Aquatran(登録商標)WVTR測定計器(計器「MOC」とも表記する)又はIllinois Instruments Model 7001 WVTR試験システム(計器「II」とも表記される)のいずれかを用いて行った。MOCON Aquatran及びIllinois Instruments 7001試験システムの双方は、ASTM F1249に、赤外線センサより感度を向上させるためにP
2O
5で被覆された電極を含む電量センサを実装している。。MOCON Aquatran計器は、約5×10
-4g/m
2/日の確かな測定下限を有するのに対し、赤外線センサを実装している試験計器は典型的には約5×10
-2g/m
2/日の測定下限を有する。他の利用可能な試験方法の規格には、DIN EN ISO 15106−3(2005)がある。いずれ、改良された試験方法、センサ、及び計器が、開発又は発見されて、下限が5×10
-6g/m
2/日以下に低減され、精度が向上する可能性があり、また、そのような改良された試験方法にも公認規格が採用されるであろう。将来の試験方法、センサ、計器、及び規格が、本明細書に開示したWVTRデータを収集するために用いた試験方法よりも感度及び精度の向上を提供しても、それらは特許請求の範囲の下でWVTRを判定するのに用いることができる。
【0067】
上述した実施形態には、本発明の基本原理から逸脱することなく、多くの変更が可能であることが、当業者には明らかであろう。従って、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲のみによって決定される。