(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心電極に高周波電圧を印加することによって該中心電極と接地電極との間にプラズマ放電を生じるよう構成された複数の点火プラグ(2)と、該複数の点火プラグ(2)のそれぞれに高周波電力を供給する複数の点火回路(3)とからなる内燃機関用の点火装置(1)であって、
上記点火回路(3)は、
上記点火プラグ(2)へ供給する高周波電力を生成する高周波電源(4)と、
上記高周波電源(4)と上記点火プラグ(2)との間に接続され、上記高周波電力の電圧を昇圧する昇圧回路部(5)と、
上記高周波電源(4)の出力端子(41)から上記点火プラグ(2)までの回路である負荷回路(11)の共振周波数を変更させる共振推移インピーダンス(6)と、
上記共振推移インピーダンス(6)と上記負荷回路(11)との間の接続をオンオフするスイッチ部(7)と、
上記高周波電源(4)からの高周波電力の出力状態に応じて、上記スイッチ部(7)のオンオフ制御を行う共振制御部(8)と、
を有し、
上記昇圧回路部(5)は、互いに磁気的に結合された一次コイル(51)と二次コイル(52)とからなるトランスによって構成され、
上記昇圧回路部(5)にて昇圧された高周波電圧(Va、Vb、Vc)によって上記点火プラグ(2)を点火させるよう構成され、
上記共振推移インピーダンス(6)は、上記高周波電源(4)と上記昇圧回路部(5)との間の配線に、上記スイッチ部(7)を介して接続されていることを特徴とする内燃機関用の点火装置(1)。
上記共振推移インピーダンス(6)は、上記昇圧回路部(5)の二次コイル(52)及び該二次コイル(52)に接続された二次側回路に寄生する二次浮遊容量(C2)に、上記昇圧回路部(5)における一次コイル(51)に対する上記二次コイル(52)の巻き数比(n)の2乗を乗じた値以上の容量を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用の点火装置(1)。
上記共振制御部(8)は、上記高周波電源(4)が高周波電力を出力している間は、上記スイッチ部(7)をオフとし、上記高周波電源(4)が高周波電力を出力していない間は、上記スイッチ部(7)をオンとするよう構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用の点火装置(1)。
上記複数の点火回路(3)は、一つの上記共振制御部(8)を共有しており、該共振制御部(8)は、上記複数の点火回路(3)における上記スイッチ部(7)のオンオフ制御を行うよう構成されており、上記共振制御部(8)は、上記複数の点火回路(3)のうちの一つの点火回路(3)に接続された上記点火プラグ(2)に高周波電力が供給される間、当該点火回路(3)に含まれる上記スイッチ部(7)をオフとし、当該点火回路(3)以外の点火回路(3)に含まれる上記スイッチ部(7)をオンとするよう構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用の点火装置(1)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
上記内燃機関用の点火装置の実施形態につき、
図1〜
図4を用いて説明する。
本実施形態の内燃機関用の点火装置1は、
図1に示すごとく、中心電極に高周波電圧を印加することによって中心電極と接地電極との間にプラズマ放電を生じるよう構成された複数の点火プラグ2と、複数の点火プラグ2のそれぞれに高周波電力を供給する複数の点火回路3とからなる。
【0013】
点火回路3は、
図2に示すごとく、高周波電源4と、昇圧回路部5と、共振推移インピーダンス6と、スイッチ部7と、共振制御部8とを有する。
高周波電源4は、点火プラグ2へ供給する高周波電力を生成する。
昇圧回路部5は、高周波電源4と点火プラグ2との間に接続され、高周波電力の電圧を昇圧する。
共振推移インピーダンス6は、高周波電源4と昇圧回路部5との間に接続され、高周波電源4の出力端子41から点火プラグ2までの回路である負荷回路11の共振周波数を変更させる。
スイッチ部7は、共振推移インピーダンス6と負荷回路11との間の接続をオンオフする。
共振制御部8は、高周波電源4からの高周波電力の出力状態に応じて、スイッチ部7のオンオフ制御を行う。
【0014】
点火プラグ2は、例えば、中心電極と、中心電極の外周側に設けた絶縁碍子と、該絶縁碍子の外周側に設けた接地電極とを有する。そして、中心電極に高周波高電圧を印加することにより、絶縁碍子の表面を這うストリーマ放電を発生、進展させ、このストリーマ放電を放電経路として、中心電極と接地電極との間に交流グロー放電又はアーク放電を生ぜしめるよう構成されている。
【0015】
点火装置1は、例えば、自動車の多気筒エンジンに搭載され、各気筒に、点火プラグ2が配設される。そして、複数の点火プラグ2は、互いに異なるタイミングにおいて点火するよう構成されている。
【0016】
高周波電源4は、
図2に示すごとく、駆動電源42より供給される直流電力をスイッチング素子45のスイッチングによって交流の高周波電力に変換して、出力するよう構成されている。高周波電源4の出力部においては、駆動電源42が接続された高電位配線401と、接地された低電位配線402との間に、互いに直列接続された2つの抵抗43と、互いに直列接続された2つのコンデンサ44と、互いに直列接続された2つのスイッチング素子45とが、接続されている。
2つの抵抗43の間と、2つのコンデンサ44との間とは、共通電位12に接続されている。
【0017】
また、2つのスイッチング素子45は、例えばMOSFET(MOS型電界効果トランジスタ)、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子からなる。そして、2つのスイッチング素子45の間に、高周波電源4の出力端子41が設けられている。また、高周波電源4は、スイッチング素子45をオンオフ制御するスイッチング駆動部46を有する。
このような構成によって、高周波電源4は、高周波電力を正負均等に発振させて、出力端子41から出力することができ、昇圧回路部5における昇圧を効率よく行うことができるようにしている。
なお、抵抗43、コンデンサ44、スイッチング素子45は、必ずしも2個ずつである必要はなく、高電位側と低電位側とに対称に配置されていれば、その個数は特に限定されるものではない。
【0018】
昇圧回路部5は、互いに磁気的に結合された一次コイル51と二次コイル52とからなるトランスによって構成されている。点火プラグ2には、例えば、ピーク間電圧30kVpp以上の非常に高い電圧を印加するため、昇圧回路部5の昇圧倍率は、数十倍としている。また、昇圧回路部5の一次コイル51は、一端が高周波電源4の出力端子41に接続され、他端が共通電位12に接続されている。また、二次コイル52の一端が点火プラグ2の中心電極に接続され、他端が接地されている。
【0019】
そして、高周波電源4の出力端子41と昇圧回路部5の一次コイル51との間の配線と、共通電位12との間に、互いに直列接続されたスイッチ部7及び共振推移インピーダンス6が接続されている。これにより、スイッチ部7のオンオフによって、負荷回路11の共振周波数を変化させることができる。
【0020】
複数の点火回路3(3a、3b、3c)における負荷回路11(11a、11b、11c)は、共振推移インピーダンス6(6a、6b、6c)が接続されていないとき、すなわちスイッチ部7(7a、7b、7c)がオフのとき、互いに同等の共振周波数f
Aを有する。そして、スイッチ部7をオンとして、負荷回路11に共振推移インピーダンス6を接続したとき、負荷回路11の共振周波数は、上記共振周波数f
Aとは異なる値f
Bとなる。具体的には、共振周波数f
Bは、共振周波数f
Aよりも小さい値となる。
【0021】
共振推移インピーダンス6は、例えば、コンデンサによって構成することができる。また、コンデンサの代わりに、インダクタを用いることもできる。あるいは、コンデンサと抵抗とインダクタとを適宜組み合わせて、共振推移インピーダンス6を構成することもできる。例えば、共振推移インピーダンス6は、コンデンサと抵抗とを直列接続して構成したり、コンデンサとインダクタとを並列接続して構成したり、或は、コンデンサとインダクタとを並列接続したうえで、これに抵抗を直列に接続して構成することもできる。ただし、抵抗のみでは、共振周波数を変動させることができないため、抵抗を用いる場合には、コンデンサ及びインダクタの少なくとも一方との組み合わせによって、共振推移インピーダンス6を構成することとなる。
【0022】
点火回路3を構成する回路ユニット30を、
図3に示す。同図に示す回路ユニット30においては、共振推移インピーダンス6をチップ型のコンデンサによって構成している。共振推移インピーダンス6(コンデンサ)は、基板上に表面実装されており、必要に応じて、絶縁樹脂によって封止される。なお、共振推移インピーダンス6として、チップ型のコンデンサに代えて、リード部品のコンデンサを用いてもよい。
【0023】
回路ユニット30は、高周波電源4と昇圧回路部5と共振推移インピーダンス6とスイッチ部7と共振制御部8(図示略)とを、筐体301内に備えている。そして、昇圧回路部5の二次コイル52に接続された高圧ケーブル302が、回路ユニット30から引き出されている。高圧ケーブル302の他端は、点火プラグ2に接続される。
【0024】
共振推移インピーダンス6は、昇圧回路部5の二次コイル52及び二次コイル52に接続された二次側回路に寄生する二次浮遊容量に、昇圧回路部5における一次コイル51に対する二次コイル52の巻き数比nの2乗を乗じた値以上の容量を有するものとすることができる。
【0025】
図1に示すごとく、本実施形態の内燃機関用の点火装置1は、複数の点火回路3及び点火プラグ2を、互いに同様の構成としている。そして、これらの点火回路3における高周波電源4のスイッチング駆動部46は、ECU(エンジンコントロールユニット)からの点火信号IGtに基づき、2つのスイッチング素子45をオンオフ制御する。これにより、所定のタイミングで、各点火回路3における高周波電源4は、各点火プラグ2に高周波電力を供給するよう構成されている。そして、この点火のタイミングは、複数の点火プラグ2の間で異なる。
【0026】
また、上述の点火信号IGtに基づいて、共振制御部8がスイッチ部7のオンオフを制御する。
具体的な制御について、複数の点火回路3のうちの一つの点火回路3aに着目して、以下に説明する。
すなわち、
図4(a)に示すごとく、共振制御部8aは、高周波電源4aが高周波電力を出力している間は、スイッチ部7aをオフとし、高周波電源4aが高周波電力を出力していない間は、スイッチ部7aをオンとするよう構成されている。つまり、点火回路3aにおいて、点火信号IGt
aが高周波電源4aに送られている間、高周波電源4aから供給された高周波電力が、昇圧回路部5aにおいて昇圧されて点火プラグ2aに高周波電圧(印加電圧Va)が印加される。この間、スイッチ部7aをオフとして、共振推移インピーダンス6aを負荷回路11に接続しないようにしておく。これにより、点火プラグ2aを作動させているときには、当該点火プラグ2aを含む負荷回路11aの共振周波数をf
Aとしておく。
【0027】
そして、高周波電源4から点火プラグ2に高周波電力が供給されていない間は、スイッチ部7aをオンとして、共振推移インピーダンス6aを負荷回路11aに接続する。これにより、点火プラグ2aを作動させないときには、当該点火プラグ2aを含む負荷回路11aの共振周波数をf
Bとしておく。
【0028】
図4(a)、(b)、(c)に示すごとく、複数の点火プラグ2には、異なるタイミングで順次高周波電力が供給される(高周波電圧(Va、Vb、Vc)が印加される)よう構成されている。それゆえ、点火プラグ2aを作動させないときに、他の気筒の点火プラグ2b、2cを作動させることとなる。そして、点火プラグ2b又は2cを作動させるときの点火回路3b又は3cにおけるスイッチ部7b又は7cはオフとして、その負荷回路11b、11cの共振周波数はf
Aとしている。それゆえ、点火プラグ2bを含む負荷回路11b、又は点火プラグ2cを含む負荷回路11cからノイズ電圧が発生したとしても、負荷回路11aの共振周波数f
Bがf
Aとずれているために、当該負荷回路11aにおいて、ノイズ電圧が増幅されることが防止される。
【0029】
そして、
図4(b)に示すごとく、点火プラグ2bに高周波電力が供給されて電圧Vbが印加される間(高周波電源4bに点火信号IGt
bが送られている間)は、点火回路3bにおけるスイッチ部7bをオフとし、それ以外の期間はスイッチ部7bをオンとする。また、
図4(c)に示すごとく、点火プラグ2cに高周波電力が供給されて電圧Vcが印加される間(高周波電源4cに点火信号IGt
cが送られている間)は、点火回路3cにおけるスイッチ部7cをオフとし、それ以外の期間はスイッチ部7cをオンとする。このようにすることで、複数の点火プラグ2に異なるタイミングで順次高周波電力が供給されるよう構成された点火装置1において、点火しない点火プラグ2を含む負荷回路11の共振周波数f
Bを、点火する点火プラグ2を含む負荷回路11の共振周波数f
Aに対してずらしている。
【0030】
次に、本実施形態の作用効果につき説明する。
上記内燃機関用の点火装置1においては、各点火回路3が共振推移インピーダンス6とスイッチ部7と共振制御部8とを有する。これにより、共振制御部8によるスイッチ部7のオンオフ制御によって、負荷回路11の共振周波数を変更することができる。それゆえ、複数の点火プラグ2を互いに異なるタイミングで点火させる際に、点火させようとする点火プラグ2を含む負荷回路11以外の負荷回路11の共振周波数を、点火させようとする点火プラグ2を含む負荷回路11の共振周波数からずらすことができる。これにより、点火させようとする点火プラグ2以外の点火プラグ2にノイズ電圧が印加されることを効果的に防ぐことができる。
【0031】
この作用効果につき、さらに説明する。
上述のように、点火プラグ2の作動には高周波高電圧を利用するため、強い電磁誘導作用や容量結合により、作動している点火回路3及び点火プラグ2から高いノイズ電圧が生じる。そうすると、複数の点火回路3及び点火プラグ2を備える点火装置1においては、作動している点火回路3及び点火プラグ2から生じたノイズ電圧が、作動していない点火回路3及び点火プラグ2に影響してしまうことが懸念される。
【0032】
そして、複数の点火回路3及び点火プラグ2における負荷回路11の共振周波数が近いと、ノイズ電圧を受信した負荷回路11においては、ノイズ電圧を共振作用によって増幅してしまうおそれがある。そして、意図せぬタイミングで、当該負荷回路11を構成する点火プラグ2において放電が生じたり、増幅されたノイズ電圧が逆流して高周波電源4に悪影響を与えたりするおそれが懸念される。
【0033】
そこで、本実施形態の内燃機関用の点火装置1においては、上述のように、作動している点火回路3及び点火プラグ2における負荷回路11の共振周波数f
Bを、作動していない点火回路3及び点火プラグ2における負荷回路11の共振周波数f
Aと異ならせることができる。これにより、共振作用を抑制して、作動を意図していない点火回路3及び点火プラグ2にノイズ電圧が印加されることを防ぐことができる。
【0034】
また、共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7は、高周波電源4と昇圧回路部5との間に接続されている。すなわち、共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7は、昇圧回路部5の1次側(低圧側)に接続されているため、共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7に高電圧が印加されることを防ぐことができる。それゆえ、共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7を、高耐圧の電子部品によって構成する必要がない。そのため、共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7の小型化、低コスト化を容易にすることができる。その結果、点火装置1全体としても、小型化、低コスト化を実現することができる。
【0035】
また、共振推移インピーダンス6は、昇圧回路部5の二次コイル52及び二次コイル52に接続された二次側回路に寄生する二次浮遊容量に、昇圧回路部5における一次コイル51に対する二次コイル52の巻き数比nの2乗を乗じた値以上の容量を有するものとすることができる。この場合には、スイッチ部7のオンオフによって、負荷回路11の共振周波数を大きく変動させることができる。それゆえ、複数の負荷回路11の間の共振周波数の差(f
Aとf
Bとの差)を大きくすることができ、負荷回路11におけるノイズ電圧の影響を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、共振制御部8は、高周波電源4が高周波電力を出力している間は、スイッチ部7をオフとし、高周波電源4が高周波電力を出力していない間は、スイッチ部7をオンとするよう構成されている。この場合には、点火信号と同期させて、共振制御部8がスイッチ部7のオンオフ制御を行うことができるため、制御システムの簡素化を図ることができる。
【0037】
また、共振推移インピーダンス6は、高周波電源4が負荷回路11に高周波電力を供給していないときに、負荷回路11に接続されるため、高周波電源4からの大電流が共振推移インピーダンス6に流れることはない。そのため、共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7における消費電力を低減することができる。また、特に耐力の高い共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7を用いる必要がなくなるという利点もある。
【0038】
また、共振推移インピーダンス6は、共通電位12に接続されており、グランドに接続されていないため、共振推移インピーダンス6を負荷回路11に接続したときにグランド電位に与える影響を抑制することができる。
【0039】
以上のごとく、本実施形態によれば、小型化、コスト低減を図りつつ、点火プラグにノイズ電圧が印加されることを防ぐことができる、内燃機関用の点火装置を提供することができる。
【0040】
(実験例)
本例は、
図5〜
図7に示すごとく、共振推移インピーダンス6の容量と、複数の負荷回路11間におけるノイズ電圧の影響の抑制効果との関係を調べた例である。なお、本例において用いる符号のうち実施形態1において用いたものと同じ符号は、同様の構成等を表すものとする。
【0041】
本例においては、ノイズ電圧を受信する側の負荷回路11において、後述する換算二次浮遊容量に対する共振推移インピーダンスの容量の割合(以下において、適宜「容量比m」という)を変化させたとき、ノイズ電圧を発信する側の負荷回路11から、受信側の負荷回路11が受けるノイズ電圧の伝達率(ノイズ伝達率)がどのように変化するかを、以下の条件の下、解析した。
【0042】
まず、実施形態1における一つの点火回路3について、スイッチ部7をオンとして、共振推移インピーダンス6を負荷回路11に接続した状態を、
図5に示すごとく、容量成分、抵抗成分、及びインダクタンス成分からなる簡易な等価回路300として考える。
【0043】
図5の等価回路300において、C
0が、共振推移インピーダンス6の容量成分、rが昇圧回路部5の巻き線抵抗、Lが昇圧回路部5の漏れインダクタンス、Rが昇圧回路部5の鉄損、C
2n
2が換算二次浮遊容量成分を、それぞれ表す。換算二次浮遊容量成分は、昇圧回路部5の二次側の二次浮遊容量C
2に、昇圧回路部5の巻き数比n(一次コイル51の巻き数に対する二次コイル52の巻き数の割合)の2乗を乗じた値である。なお二次浮遊容量C
2は二次コイル52に寄生する容量と、二次コイル52に接続された二次側回路に寄生する容量とから構成される。
【0044】
この等価回路300を前提として、ノイズ発信側の共振周波数f
A(共振角周波数ω
A)の負荷回路から、ノイズ受信側の共振周波数f
B(共振角周波数ω
B)の負荷回路へのノイズ伝達率が、上記容量比mによってどのように変わるのかを解析した。なお共振周波数f
A(共振角周波数ω
A)は、負荷回路においてスイッチ部をオフとして共振推移インピーダンスを接続していない状態におけるものであり、等価回路300におけるC
0が0である場合に相当する。
【0045】
まず、上記等価回路300の共振角周波数ω
0、尖鋭度Qは、以下の式(1)、式(2)によってそれぞれ表される。
【0047】
また、一般に、共振角周波数ω
0の回路の共振量Fの応答は、ガウス関数形となる。解析にあたり、下記式(3)の正規分布関数を共振応答関数とする。また、この共振応答関数をグラフ化すると、共振周波数f
A(共振角周波数ω
A)のものが、
図6の曲線A、共振周波数f
B(共振角周波数ω
B)のものが、
図6の曲線Bのようになる。また、式(3)において標準偏差に相当するパラメータσは、下記式(4)によって、得ることができる。
【0049】
そして、共振角周波数ω
Bの回路が共振角周波数ω
Aの回路から受けるノイズの伝達率は、曲線Bがω=ω
Aの直線と交わる点における共振量F
1に相当する。このことから、共振周波数f
Aの負荷回路から共振周波数f
Bの負荷回路へのノイズ伝達率ρは、下記式(5)によって表すことができる。なお、kは比例定数である。
【0051】
上記式(5)において、ω
A、ω
Bは、式(1)から導くことができる。つまり、ω
Aは式(1)において、C
0=0としたときのωであり、ω
Bは式(1)において、C
0=C
0としたときのωである。そして、容量比mは、m={C
0/(n
2C
2)}にて表される。これらと式(5)とから、容量比mと、ノイズ伝達率ρとの関係を導くことができる。
【0052】
上記式(5)から導かれる解析結果を、
図7に示す。
図7(a)と
図7(b)とは、C
2、f
Aの値を互いに異ならせて解析した結果であり、後者は、二次側回路に寄生する容量成分が充分に小さい場合を想定したものである。具体的には、
図7(a)のグラフは、L=500μH、C
2=0.2nF、R=200Ω、r=100Ω、f
A=500kHzとした場合の解析結果である。また、
図7(b)のグラフは、L=500μH、C
2=50pF、R=200Ω、r=100Ω、f
A=1000kHzとした場合の解析結果である。
【0053】
また、
図7において、横軸が容量比mを表し、縦軸が共振周波数比(f
B/f
A)及びノイズ伝達率ρを表す。また、同図中の破線の曲線が共振周波数比(f
B/f
A)を表し、実線の曲線がノイズ伝達率ρを表す。ノイズ伝達率ρは、共振周波数を変えない場合、つまりf
B=f
Aとした場合を1とし、これに対する比率で表したものである。同図から分かるように、いずれの条件においても、容量比を1以上とすることにより、共振周波数比が、充分に低減される。そして、これに伴い、ノイズ伝達率が0.8以下に低減される。さらに、容量比を大きくすることにより、ノイズ伝達率ρが大きく低減される。
【0054】
この結果から、共振推移インピーダンス6及びスイッチ部7を設けて、スイッチ部7のオンオフを制御することにより、ノイズ電圧の発信側の負荷回路11と受信側の負荷回路11との間の共振周波数を異ならせることができ、これにより、ノイズ伝達率を低減することができることが分かる。さらに、容量比mを1以上とする、すなわち、共振推移インピーダンス6を、換算二次浮遊容量以上の容量に設定することにより、共振状態の決定に際し共振推移インピーダンスの影響の方が大きくなるため、充分にノイズ伝達率を低減することができることが分かる。
【0055】
(実施形態2)
本実施形態は、
図8に示すごとく、複数の点火回路3が、一つの共振制御部8を共有している点火装置1の形態である。
共振制御部8は、複数の点火回路3におけるスイッチ部7のオンオフ制御を行うよう構成されている。共振制御部8は、
図8に示すごとく、複数の点火回路3のうちの一つの点火回路3に接続された点火プラグ2に高周波電力が供給される間、当該点火回路3に含まれるスイッチ部7をオフとし、当該点火回路3以外の点火回路3に含まれるスイッチ部7をオンとするよう構成されている。
【0056】
すなわち、
図9に示すごとく、例えば、点火回路3aに接続された点火プラグ2aに高周波電力が供給されたとき(点火信号IGt
aがオンとされたとき)、点火回路3aにおけるスイッチ部7aをオフとしつつ、点火回路3b、3cにおけるスイッチ部7b、7cをオンとする。これにより、点火回路3aの負荷回路11aの共振周波数をf
Aとしつつ、他の点火回路3b、3cの負荷回路11b、11cの共振周波数をf
Aとは異なるf
Bとする。
【0057】
複数の点火プラグ2には、異なるタイミングで順次高周波電力が供給されるよう構成されている。そして、点火プラグ2bに高周波電力が供給される間(点火信号IGt
bがオンの間)は、点火回路3bにおけるスイッチ部7bをオフとしつつ、他の点火回路3a、3cにおけるスイッチ部7a、7cをオンとする。また、点火プラグ2cに高周波電力が供給される間(点火信号IGt
cがオンの間)は、点火回路3cにおけるスイッチ部7をオフとしつつ、他の点火回路3a、3bにおけるスイッチ部7a、7bをオンとする。
【0058】
また、本実施形態においては、他の点火回路3に接続された点火プラグ2に高周波電力が供給される間のみ、当該点火回路3におけるスイッチ部7をオンとしておき、それ以外の時間帯は、当該スイッチ部7をオフとしておく。つまり、
図9に示すごとく、例えば、点火回路3aにおけるスイッチ部7aは、点火回路3bにおける高周波電源4bに点火信号IGt
bが送られている間と、点火回路3cにおける高周波電源4cに点火信号IGt
cが送られている間のみ、オンとしておく(点火回路が3a、3b、3cの3つの場合)。
その他は、実施形態1と同様である。なお、本実施形態又は本実施形態に関する図面において用いた符号のうち、実施形態1において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、実施形態1と同様の構成要素等を表す。
【0059】
本実施形態の場合には、他の点火回路3に接続された点火プラグ2に高周波電力が供給される間のみ、当該点火回路3におけるスイッチ部7をオンとしておき、それ以外の時間帯は、当該スイッチ部7をオフとしておく。つまり、他の点火回路3に接続された点火プラグ2に高周波電力が供給されている間だけ、共振推移インピーダンス6を負荷回路11に接続する。それゆえ、スイッチ部7を駆動する時間を短くすることができ、消費電力の低減を図ることができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0060】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、種々の形態を採りうる。また、上記実施形態においては、点火装置1が点火回路3及び点火プラグ2を3組備えた構成を示したが、この個数は特に限定されるものではない。