(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、ピエゾアクチュエータの伸長変位を油圧力に変換してニードルへ伝えることで、ニードルを開弁駆動する燃料噴射弁を、直動式と呼称している。
この直動式の燃料噴射弁において、ニードルがノズルボディの内壁から離座して軸方向後端側へ移動する際に、ピエゾアクチュエータの伸長変位を拡大する変位拡大機構を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、変位拡大機構を備えた直動式の燃料噴射弁の一例を
図8に示す。
燃料噴射弁100は、ノズルボディ101の先端側に設けられた噴孔102を開閉するニードル103と、このニードル103と一体で軸方向に移動する拡張ニードル104およびバランスピストン105とを備えている。
ノズルボディ101の内部には、噴孔102を開閉するニードル103が収容されている。
【0004】
また、燃料噴射弁100は、ピエゾ素子積層体を主体とするアクチュエータ106と、このアクチュエータ106の伸縮に伴う変位を拡大してニードル103を駆動する変位拡大機構とを備えている。
変位拡大機構は、変位拡大室107、大径ピストン108および小径ピストン109等を備えている。
拡張ニードル104は、小径ピストン109の変位をニードル103に伝える。
変位拡大室107は、第1油密室111、第2油密室112および連通孔113を備え、内部に低圧燃料が充填されている。
【0005】
また、小径ピストン109の外周には、軸方向に変位した時に変位拡大率を変更する変位拡大率切替リング(以下切替リング)114が嵌め合わされている。この切替リング114には、スプリング115の付勢力が作用している。
この構成により、アクチュエータ106の伸長変位とともに、先ず切替リング114が、小径ピストン109の拡径部116を引っ掛けながら小径ピストン109と一体となって軸方向後端側へ変位する。さらに軸方向後端側への変位が進むと、切替リング114がボディ117の段差118に接触し、切替リング114のそれ以上の変位が妨げられ、それ以降は小径ピストン109のみが単独で変位を続ける。
【0006】
以上によって、ニードル103の開弁初期には、変位拡大室107の油圧力を受けて小径ピストン109と切替リング114がともに変位する。これにより、変位拡大率は小さく、ニードル103を開弁方向に付勢する力が大きく作用し、ニードル103が開弁し易くなる。
一方、ニードル103が開弁後ある程度ニードルリフト量が増加した後は、切替リング114が段差118に係止されるため、小径ピストン109のみが単独で変位する。これにより、変位拡大率は大きく、大きなニードルリフト量を確保できる。
【0007】
ところで、エンジンのシリンダヘッドには、燃料噴射弁100が隙間嵌めで挿入される取付け孔が設けられている。この取付け孔には、燃料噴射弁100の先端側の段差119が当接する環状の段差が設けられている。
また、燃料噴射弁100は、リテーナ120の図示上端よりも先端側の細径部位121がシリンダヘッドの取付け孔内に挿入される。
そして、近年、エンジンの出力向上、並びにエンジンから排出されるNOx等の低減を図るという目的で、エンジンの燃焼室内に噴射する燃料の噴射圧の更なる高圧化が要求されている。
【0008】
しかるに、燃料の噴射圧を大幅に高圧化する場合には、アクチュエータ106の駆動負荷が増加するため、アクチュエータ106の直径を増加させる必要がある。これに伴って、アクチュエータ106の周囲を取り囲むボディ122の直径も増加させる必要があり、ボディ122の周囲を取り囲むリテーナ120の直径も増加させる必要がある。
これにより、燃料噴射弁100の細径部位121の軸方向長さが短くなるので、シリンダヘッドの取付け孔に挿入し難くなり、ノズルボディ101の先端部がエンジンの燃焼室内に突き出さなくなる恐れがある。
したがって、アクチュエータ106の直径を増加させると取付け孔内に挿入し難くなるので、エンジンに対する燃料噴射弁100の搭載性、つまり燃料噴射弁100のエンジン搭載性が悪化するという問題がある。
【0009】
また、燃料の噴射圧を大幅に高圧化する場合でも、燃料噴射弁100のエンジン搭載性の面から細径部位121の軸方向長さを確保する必要がある。
ここで、細径部位121の軸方向長さを大きくするには、拡張ニードル104の軸方向長さを、
図8のものよりも大きくする必要がある。あるいは変位拡大室107の連通孔113の軸方向長さを、
図8のものよりも大きくする必要がある。
仮に拡張ニードル104の軸方向長さを大きくした場合には、ニードル103と一体で軸方向に移動する移動部材(拡張ニードル104、バランスピストン105、小径ピストン109)の質量が大きくなり、重量増加を要因としてニードル103の開弁応答性が悪化するという問題がある。
また、変位拡大室107の連通孔113の軸方向長さを大きくした場合には、変位拡大室107で生じる燃料の圧力脈動が大きくなり、燃料の噴射量の制御性が悪化するという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
[実施形態1の構成]
図1ないし
図3は、本発明を適用した実施形態1を示したものである。
【0017】
本実施形態の燃料噴射弁1は、エンジンのシリンダヘッドに取り付けられるハウジング2を備えている。このハウジング2の内部には、ニードル3、ニードルスプリング(以下スプリング)4、アクチュエータ5および複数の変位拡大部が収容されている。
ハウジング2は、ニードル3を軸方向に往復移動可能に収容する筒状のノズルボディ6を含んでいる。このノズルボディ6の先端側には、エンジンの燃焼室内に燃料を直接噴射する複数の噴孔7が形成されている。
【0018】
複数の変位拡大部は、変位拡大室、大径ピストンおよび小径ピストンをそれぞれ有し、アクチュエータ5の伸縮に伴う変位を拡大してニードルを駆動する機構である。これらの変位拡大部は、ハウジング2の軸方向に沿って上下2段に設置されている。
ここで、ハウジング2の軸方向を上下方向とみなし、上段に設置された変位拡大部を第1変位拡大部8、また、下段に設置された変位拡大部を第2変位拡大部9と定義する。この第2変位拡大部9には、ニードル3がノズルボディ6の内壁から離座して軸方向後端側へ移動する途中で、アクチュエータ5の変位拡大率を切り替える拡大率切替部10が設けられている。
【0019】
そして、第1変位拡大部8の変位拡大室を第1変位拡大室11、第1変位拡大部8の大径ピストンを第1大径ピストン12、および第1変位拡大部8の小径ピストンを第1小径ピストン13と定義する。
また、第2変位拡大部9の変位拡大室を第2変位拡大室14、第2変位拡大部9の大径ピストンを第2大径ピストン15、および第2変位拡大部9の小径ピストンを第2小径ピストン16と定義する。
【0020】
また、第1変位拡大部8は、第1変位拡大室11、第1大径ピストン12および第1小径ピストン13の他に、第1大径ピストンスプリング(以下第1スプリング)17を備えている。
また、第2変位拡大部9は、第2変位拡大室14、第2大径ピストン15および第2小径ピストン16の他に、第2大径ピストンスプリング(以下第2スプリング)18、変位拡大率切替リング(以下切替リング)19および変位拡大率切替リングスプリング(以下スプリング)20を備えている。
なお、アクチュエータ5、第1、第2変位拡大部8、9および拡大率切替部10の詳細は、後述する。
【0021】
ハウジング2は、ノズルボディ6の他に、アクチュエータ5を伸縮可能に収容するボディ21、および第1大径ピストン12が軸方向に貫通する環状のプレート22を備えている。このハウジング2は、ボディ23〜27およびリテーナ28、29を備えている。
ノズルボディ6は、ボディ27の軸方向先端側にリテーナ28によって締結されている。これにより、ノズルボディ6およびボディ24〜27が接続される。
【0022】
ここで、ボディ21は、プレート22の軸方向後端側にリテーナ29によって締結されている。これにより、ボディ21、プレート22、ボディ23、24およびリテーナ29が接続される。
なお、エンジンのシリンダヘッドには、燃料噴射弁1が隙間嵌めで挿入される取付け孔が設けられている。この取付け孔には、燃料噴射弁1の先端側の段差30が当接する環状の段差が設けられている。
ここで、ノズルボディ6には、噴孔7に連通するノズル室31が形成されている。また、ハウジング2には、ノズル室31を介して噴孔7に高圧燃料を供給する高圧燃料通路32が形成されている。また、ボディ26には、高圧燃料通路32に連通する圧力室33が形成されている。
高圧燃料通路32の上流端には、燃料噴射弁1の燃料入口34が開口している。この高圧燃料通路32内には、エンジンの運転が開始されると、サプライポンプやコモンレール等の燃料系の高圧部から燃料配管を介して高圧燃料が導入される。
【0023】
次に、ニードル3の詳細を、
図1ないし
図3に基づいて説明する。
ニードル3は、ノズルボディ6のニードル収容孔内を軸方向に往復移動する。このニードル3は、ノズルボディ6の内壁に対し離着座して噴孔7を開閉する。ニードル3の先端は、スプリング4の付勢力によってノズルボディ6の内壁に突き当てられている。
ニードル3と第2小径ピストン16との間には、第2小径ピストン16の変位をニードル3に伝える拡張ニードル35が連接されている。この拡張ニードル35は、ニードル3の軸方向後端部の外周に嵌合している。また、拡張ニードル35は、第2小径ピストン16の軸方向先端面に当接して設けられている。
ここで、本実施形態の燃料噴射弁1では、第2小径ピストン16、拡張ニードル35およびバランスピストン36によって、ニードル3と一体で移動する連接部材が構成される。
【0024】
拡張ニードル35の軸方向後端面には、第2小径ピストン16を介してバランスピストン36が連接されている。このバランスピストン36は、第2小径ピストン16の軸方向孔38の底面に当接して設けられている。
スプリング4は、その上端がスプリングシート39を介して、ハウジング2のボディ26に位置決めされ、また、下端が第2小径ピストン16に保持されている。このスプリング4は、第2小径ピストン16および拡張ニードル35を介して、ニードル3を軸方向先端側に付勢している。
【0025】
拡張ニードル35は、ノズル室31の燃料圧力がニードル3を軸方向後端側へ付勢する方向に作用するニードル受圧面41を有している。
バランスピストン36は、圧力室33の燃料圧力がニードル3を軸方向先端側へ付勢する方向に作用するピストン受圧面42を有している。
ここで、ニードル受圧面41とピストン受圧面42の面積とを同一に設定すると、ニードル3が軸方向後端側に十分リフトした状態で、ニードル3に作用する燃料圧力の力をバランスさせることができる。これにより、アクチュエータ5の電荷を放電した際に、スプリング4の付勢力でニードル3をノズルボディ6の内壁に着座させることができる。
【0026】
次に、アクチュエータ5の詳細を、
図1ないし
図3に基づいて説明する。
アクチュエータ5は、ボディ21のピエゾ収容孔内に収容されている。このアクチュエータ5は、電荷の充放電により軸方向に伸縮するピエゾ素子をその軸方向に多数積層して構成されるピエゾ素子積層体を備えている。このピエゾ素子積層体は、一対のピエゾリード端子間に、制御部(以下ECU)からピエゾ充電電圧がそれぞれ印加される。
アクチュエータ5の先端側は、Oリング43で燃料リークを防止したピストン44、自動調芯リング45を介して、第1大径ピストン12の軸方向後端面に接合している。
また、アクチュエータ5の後端側は、自動調芯リング46、ケーブルガイド47を介して、ボディ66に位置決めされている。
ボディ66は、ボディ21の軸方向後端側にリテーナ67によって締結されている。
一対のピエゾリード端子は、ケーブル68およびコネクタ69を介して外部回路(ECUや電源)に接続されている。
【0027】
[実施形態1の特徴]
次に、第1、第2変位拡大部8、9の詳細を、
図1ないし
図3に基づいて説明する。
第1変位拡大部8は、燃料が充填される第1変位拡大室11、アクチュエータ5の伸長時に第1変位拡大室11の油圧力を上昇させる第1大径ピストン12、および第1変位拡大室11の油圧力の変化に応じて軸方向に変位する第1小径ピストン13を有している。 第1変位拡大部8は、第1大径ピストン12の変位方向と第1小径ピストン13の変位方向が同じ向きである。
【0028】
第1変位拡大室11は、第1大径側油密室(以下第1油密室)51、第1小径側油密室(以下第1油密室)52および第1連通路(以下第1連通孔)53を備え、内部に低圧燃料が充填されている。
第1油密室51は、第1大径ピストン12の軸方向先端面と対面している。この第1油密室51は、第1大径ピストン12とストッパプレート54との間に形成されている。
第1油密室52は、第1小径ピストン13の軸方向後端面と対面している。この第1油密室52は、第1小径ピストン13とストッパプレート54との間に形成されている。
【0029】
第1連通孔53は、第1油密室51と第1油密室52とを繋ぐ燃料通路である。この第1連通孔53は、ストッパプレート54の軸方向両端面を連通するようにストッパプレート54を軸方向に貫通している。
第1油密室51と第1油密室52とは、第1連通孔53を介して連通し、一体の燃料空間として機能する。
なお、ストッパプレート54は、ボディ24の軸方向後端側の内周に固定されている。
【0030】
第1大径ピストン12は、ボディ23の第1大径シリンダ孔内に移動可能に収容されている。すなわち、ボディ23の内壁は、第1大径ピストン12の摺動部を往復摺動可能に支持する円筒状の第1大径シリンダを構成する。
第1大径ピストン12は、アクチュエータ5の伸縮に伴う変位を受けて一体移動して第1変位拡大室11の圧力を増減する。また、第1大径ピストン12は、軸方向先端側が軸方向後端側よりも外径が大きくなっている。また、第1大径ピストン12は、ボディ24の軸方向後端面に当接すると、第1大径ピストン12の軸方向後端側へのこれ以上の移動が規制される。
第1大径ピストン12の軸方向後端側は、第1スプリング17を収容するスプリング収容室55内に位置している。また、第1大径ピストン12の内部には、軸方向に延びる燃料通路56が形成されている。
【0031】
燃料通路56は、径方向に延びる燃料通路57を介して、スプリング収容室55に連通している。このスプリング収容室55は、低圧燃料通路(図示せず)を介して、燃料噴射弁1の燃料出口(図示せず)に連通している。
燃料通路56の第1油密室側の出口には、軸方向に往復移動可能な球面体形状のチェック弁58、およびこのチェック弁58が着座可能なチェック弁プレート59が設けられている。
チェック弁プレート59には、複数の連通孔60が形成されている。これにより、チェック弁58が開弁してチェック弁プレート59に当接すると、第1変位拡大室11内に低圧燃料が供給される。
第1大径ピストン12の軸方向後端部には、Eリング61によってスプリングシート62が固定されている。この第1大径ピストン12は、スプリングシート62を介して、第1スプリング17の付勢力によって軸方向後端側へ付勢されている。第1スプリング17の軸方向先端部は、プレート22により位置決めされている。
【0032】
第1小径ピストン13は、ボディ24の第1小径シリンダ孔内に移動可能に収容されている。すなわち、ボディ23の内壁は、第1小径ピストン13の摺動部を往復摺動可能に支持する円筒状の第1小径シリンダを構成する。
第1小径ピストン13の軸方向先端面には、自動調芯プレート63を介して、第2大径ピストン15の軸方向後端面に接触する第1当接部64が設けられている。
第1小径ピストン13は、第1大径ピストン12との間に第1変位拡大室11を介して対向し、第1変位拡大室11の圧力増加に伴って軸方向先端側に下降する。
第1小径ピストン13は、自動調芯プレート63を挟んで第2大径ピストン15により軸方向後端側へ付勢されている。この第1小径ピストン13は、ストッパプレート54に当接すると、第1小径ピストン13の軸方向後端側へのこれ以上の移動が規制される。
第1スプリング17は、第1大径ピストン12の周囲を取り囲むように配置されたコイルスプリングである。この第1スプリング17は、ボディ21のスプリング収容室55内に収容されている。
【0033】
第2変位拡大部9は、第1変位拡大部8と同様に、第2変位拡大室14、第2大径ピストン15および第2小径ピストン16を有している。
第2変位拡大部9は、第2大径ピストン15の変位方向と第2小径ピストン16の変位方向が逆向きである。
第2変位拡大室14は、第1変位拡大室11と同様に、第2大径側油密室(以下第2油密室)71、第2小径側油密室(以下第2油密室)72および第2連通路(以下第2連通孔)73を備え、内部に低圧燃料が充填されている。
第2油密室71は、第2大径ピストン15および切替リング19の軸方向先端面と対面している。この第2油密室71は、第2大径ピストン15および切替リング19とボディ25との間に形成されている。
【0034】
第2油密室72は、第2小径ピストン16の軸方向先端面と対面している。この第2油密室72は、第2小径ピストン16とボディ27との間に形成されている。
第2連通孔73は、第2油密室71と第2油密室72とを繋ぐ燃料通路である。この第2連通孔73は、ボディ25、26の軸方向両端面を連通するようにボディ25、26を軸方向に貫通している。
第2油密室71と第2油密室72とは、第2連通孔73を介して連通し、一体の燃料空間として機能する。このように一体の燃料空間として機能させるには、第2連通孔73の通路長を20〜30mm以内に設定することが望ましい。
また、第2油密室71には、第1油密室51と同様に、図示しないチェック弁が設けられ、低圧燃料通路から必要な燃料が供給される。
【0035】
第2大径ピストン15は、ボディ24の第2大径シリンダ孔内に移動可能に収容されている。すなわち、ボディ24の内壁は、第2大径ピストン15の摺動部を往復摺動可能に支持する円筒状の第2大径シリンダを構成する。
第2大径ピストン15は、第1小径ピストン13の変位を受けて一体移動して第2変位拡大室14の圧力を増減する。また、第2大径ピストン15は、ボディ25に当接すると、第1小径ピストン13と第2大径ピストン15の軸方向先端側へのこれ以上の移動が規制される。なお、第2大径ピストン15の詳細は、後述する。
【0036】
第2小径ピストン16は、ボディ26の第2小径シリンダ孔内に移動可能に収容されている。すなわち、ボディ26の内壁は、第2小径ピストン16の摺動部を往復摺動可能に支持する円筒状の第2小径シリンダを構成する。
第2小径ピストン16は、第2大径ピストン15との間に第2変位拡大室14が存在し、第2変位拡大室14の圧力増加に伴って軸方向後端側に上昇してニードル3を開弁駆動する。
第2小径ピストン16は、拡張ニードル35の軸方向後端面とバランスピストン36の軸方向先端面との間に挟み込まれた状態で、ニードル3と一体移動可能に連結されている。これにより、第2小径ピストン16は、拡張ニードル35およびバランスピストン36とともに、ニードル3と一体で移動する連接部材を構成する。
第2スプリング18は、第2小径ピストン16の周囲を取り囲むように配置されたコイルスプリングである。この第2スプリング18は、ボディ24のスプリング収容室74内に収容されている。
【0037】
拡大率切替部10は、ニードル3がノズルボディ6の内壁から離座して軸方向後端側へ移動する途中で、アクチュエータ5の変位拡大率を切り替える機構である。この拡大率切替部10は、第2大径ピストン15、切替リング19およびスプリング20等によって構成されている。
拡大率切替部10は、第2大径ピストン15の外周に往復摺動可能に嵌合する円筒状の切替リング19、およびこの切替リング19をボディ24のストッパ75に押し当てる側に付勢するスプリング20を有している。
第2大径ピストン15および切替リング19は、ニードル3がノズルボディ6の内壁から離座して軸方向後端側へ移動する途中で、互いに係合する係合部、被係合部を有している。
【0038】
ボディ24の内壁には、切替リング19の摺動部76が往復摺動可能に嵌合している。また、切替リング19の内周には、第2大径ピストン15の摺動部77が往復摺動可能に嵌合している。ここで、第2大径ピストン15には、摺動部77よりも径方向外側に拡径した拡径部78が設けられている。この拡径部78は、切替リング19に係合可能な係合部に相当する。
切替リング19の軸方向後端面の外周部には、拡径部78と係合可能な円環状の周縁部79が設けられている。この周縁部79は、拡径部78に係合される被係合部に相当する。
ストッパ75は、切替リング19を第2変位拡大室14の油圧力を弱める側への移動を規制する段差である。このストッパ75は、ボディ24の内壁に一体に設けられている。
【0039】
第2大径ピストン15が軸方向後端側に変位する側を上側、第2大径ピストン15が軸方向先端側に変位する側を下側と定義する。
この場合、第2大径ピストン15は、その移動範囲における最上点から下側へ向けて変位する途中で、拡径部78と周縁部79との係合によって切替リング19を係合して、スプリング20の付勢力に抗して切替リング19を引き下げるように構成されている。
具体的には、第2大径ピストン15が最上点から下側へ所定の軸方向距離(例えば0.1mm)移動すると、拡径部78と周縁部79とが接触し、それ以降は、第2大径ピストン15と切替リング19とが一体で下側に移動する。
なお、第2大径ピストン15の移動範囲における最上点とは、アクチュエータ5の電荷を放電することで収縮している時の第2大径ピストン15の静止位置のことである。
【0040】
第2大径ピストン15の軸方向後端側は、第2スプリング18を収容するスプリング収容室74内に位置している。また、第2大径ピストン15の軸方向後端側には、Eリング81によってスプリングシート82が固定されている。この第2大径ピストン15は、スプリングシート82を介して、第2スプリング18の付勢力によって軸方向後端側へ付勢されている。第2スプリング18の軸方向先端部は、ボディ24の段差により位置決めされている。
【0041】
以上のように、本実施形態の第1、第2変位拡大部8、9は、ハウジング2の軸方向に沿って上下2段に設置されている。そして、燃料噴射弁1は、第1変位拡大部8の第1小径ピストン13と第2変位拡大部9の第2大径ピストン15とを連接している。
第2大径ピストン15は、第1小径ピストン13と同一軸線上に設置されている。この第2大径ピストン15は、第1小径ピストン13の第1当接部64に接触する第2当接部83を有している。
この構成によって、燃料噴射弁1の直径を小さく設定できる部位は、ニードル3、第1小径ピストン13、第2大径ピストン15、拡張ニードル35およびバランスピストン36を取り囲む細径部位84となる。
細径部位84とは、アクチュエータ5の外径を拡径した場合でも燃料噴射弁1の外径を細くすることができる部位のことであり、リテーナ29の軸方向先端面からノズルボディ6の先端までの間の燃料噴射弁1の先端部分のことである。
【0042】
本実施形態の燃料噴射弁1の作用を説明する。
アクチュエータ5に電荷が供給されていない状態では、第1大径ピストン12は、第1スプリング17の付勢力によって軸方向後端側に付勢され、静止する。
また、第1小径ピストン13および第2大径ピストン15は、第2スプリング18の付勢力によって軸方向後端側に付勢され、静止する。
このとき、第1変位拡大室11には、チェック弁58を介して低圧燃料が供給されるため、第1変位拡大室11が低圧燃料で満たされる。
また、ニードル3、第2小径ピストン16および拡張ニードル35は、圧力室33の燃料圧力によって軸方向先端側へ付勢され、静止する。これにより、ニードル3の先端がノズルボディ6の内壁に着座して閉弁状態が維持される。
また、第2変位拡大室14には、図示しないチェック弁を介して低圧燃料が供給されるため、第2変位拡大室14が低圧燃料で満たされる。
【0043】
次に、アクチュエータ5に電荷が供給されると、アクチュエータ5が伸長し、第1大径ピストン12は、軸方向先端側へ移動し、第1変位拡大室11の油圧力は上昇する。これに伴って、第1小径ピストン13および第2大径ピストン15は軸方向先端側へ移動する。
このとき、チェック弁58は閉じ、第1変位拡大室11内の燃料は閉じ込められる。
第2大径ピストン15の軸方向先端側への移動に伴い、第2変位拡大室14の油圧力は上昇し、第2小径ピストン16には軸方向後端側への力が作用する。
さらに、アクチュエータ5に電荷が供給されると、第2小径ピストン16に作用する軸方向後端側への力が増加し、ついにはニードル3、第2小径ピストン16、拡張ニードル35、バランスピストン36全体に作用する力の総和が軸方向後端側にプラスになると、ニードル3はノズルボディ6の内壁から離座してリフトを開始し、噴孔7から燃料の噴射が開始される。
【0044】
さらに、アクチュエータ5に電荷が供給すると、ニードル3はリフト量を増加する。このとき、第1大径ピストン12の面積が第1小径ピストン13の面積のa倍(第1変位拡大率)とし、第2大径ピストン15の面積が第2小径ピストン16と拡張ニードル35との面積差のb1倍(拡大率切替前の第2変位拡大率)であるとすると、アクチュエータ5の伸び量は、a×b1倍に拡大され、ニードル3をリフトさせる。
さらに、アクチュエータ5に電荷が供給すると、第2大径ピストン15の変位が拡大し、切替リング19と接触し、一体で移動するようになる。
このとき、第2大径ピストン15と切替リング19との面積の和が第2小径ピストン16と拡張ニードル35との面積差のb2倍(拡大率切替後の第2変位拡大率)であるとすると、アクチュエータ5の伸び量は、a×b2倍に拡大され、ニードル3をリフトさせる。 a×b1<a×b2のため、開弁初期は変位拡大率が小さく、ニードル3を軸方向後端側に付勢する力が大きく作用するため、ニードル3が開弁し易くなる。
一方、ニードル3が開弁後ある程度リフト量が増加した後は変位拡大率が大きくなり、大きなリフト量を確保できる。
【0045】
[実施形態1の効果]
本実施形態の燃料噴射弁1においては、ニードル3とアクチュエータ5との間に、ハウジング2の軸方向に沿って上下2段に第1、第2変位拡大部8、9を設置している。
また、燃料噴射弁1は、ボディ24の内部において、第1小径ピストン13と第2大径ピストン15とを同一軸線上に設置している。
また、第2大径ピストン15は、第1小径ピストン13の第1当接部64に接触する第2当接部83を有し、第1小径ピストン13に連接している。
以上のように、上下2段の第1、第2変位拡大部8、9によって、アクチュエータ5の変位を拡大する機構を構成しているので、燃料の噴射圧を更に高圧化するためにアクチュエータ5の直径を増加した場合でも、燃料噴射弁1の細径部位84の長さを2倍以上の軸方向長さに拡大することができる。
【0046】
したがって、第1油密室51と第1油密室52とを連通する第1連通孔53、および第2油密室71と第2油密室72とを連通する第2連通孔73を軸方向に長くする必要はない。このため、第1、第2変位拡大室11、14で生じる燃料の圧力脈動が大きくならないので、燃料の噴射量の制御性を悪化させることはない。
また、ニードル3と一体で移動する連接部材(ニードル3、第2小径ピストン16、拡張ニードル35、バランスピストン36)の軸方向長を長くする必要はない。このため、連接部材の質量が大きくならないので、ニードル3の開弁応答性および閉弁応答性を悪化させることはない。
【0047】
また、第1小径ピストン13と第2大径ピストン15の設置により燃料噴射弁1の外径の小さい先端部の長さを2倍以上の長さに拡大することができ、燃料噴射弁1のエンジン搭載自由度を増加することができる。
したがって、燃料の噴射圧を更に高圧化するためにアクチュータ5の直径を増加した場合でも、第1、第2変位拡大室11、14の軸方向長さを長くする必要はなく、また、ニードル3と一体で移動する連接部材の重量の増加もなく、燃料噴射弁1の外径の小さい細径部位84の軸方向長さを確保できる。このため、エンジン搭載性と燃料の噴射量の制御性、ニードル3の開弁応答性および閉弁応答性との両立を図ることができる。
【0048】
[実施形態2の構成]
図4および
図5は、本発明を適用した実施形態2を示したものである。
ここで、実施形態1と同じ符号は、同一の構成または機能を示すものであって、説明を省略する。
【0049】
本実施形態の燃料噴射弁1は、
図1のアクチュエータ5よりも直径の小さい3本のアクチュエータ5を備えている。
この場合、ストッパプレート54が不要となるので、第1変位拡大室11は3本の第1大径ピストン12の軸方向先端面と1本の第1小径ピストン13の軸方向後端面とが対向する1つの燃料空間で形成される。すなわち、第1変位拡大室11は、第1油密室51、52によってのみ構成されている。
以上のように、本実施形態の燃料噴射弁1においては、実施形態1と同様な効果を奏する。
【0050】
[実施形態3の構成]
図6は、本発明を適用した実施形態3を示したものである。
ここで、実施形態1及び2と同じ符号は、同一の構成または機能を示すものであって、説明を省略する。
【0051】
本実施形態の燃料噴射弁1は、ストッパプレート54に替えて、第1小径ピストン13の軸方向後端側へのこれ以上の移動が規制するストッパブロック91を設けている。
ストッパブロック91には、第1油密室51と第1油密室52とを繋ぐ第1連通孔53が形成されている。この第1連通孔53は、ストッパブロック91の軸方向両端面を連通するようにストッパブロック91を軸方向に貫通している。
ここで、第1連通孔53の軸方向長さを20〜30mm以内に抑えることにより、燃料の圧力脈動を要因とする噴射量の制御性を悪化することなく、燃料噴射弁1の外径の小さい細径部位84の軸方向長さを実施形態1よりも大きく設定することができる。
以上のように、本実施形態の燃料噴射弁1においては、実施形態1及び2と同様な効果を奏する。
【0052】
[実施形態4の構成]
図7は、本発明を適用した実施形態4を示したものである。
ここで、実施形態1〜3と同じ符号は、同一の構成または機能を示すものであって、説明を省略する。
【0053】
本実施形態の燃料噴射弁1は、第2大径ピストン15の外周に切替リング19が設けられておらず、アクチュエータ5の変位拡大率を第1、第2変位拡大部8、9間で一定としている。
本実施形態の燃料噴射弁1では、切替リング19だけでなく、スプリング20およびボディ25を廃止できるので、実施形態1〜4よりも部品点数を減らすことができる。
以上のように、本実施形態の燃料噴射弁1においては、実施形態1〜3と同様な効果を奏する。
【0054】
[変形例]
本実施形態では、本発明の燃料噴射弁として、ハウジング2のノズルボディ6内に往復移動可能に収容される1つのニードル3によって複数の噴孔7を開閉するタイプの燃料噴射弁(インジェクタ)を採用しているが、本発明の燃料噴射弁として、ノズルボディ6内に往復移動可能に収容される2つのニードルによって複数の第1、第2噴孔を段階的に開閉する可変噴孔タイプの燃料噴射弁を採用しても良い。
また、エンジンとして、ディーゼルエンジンの代わりに、ガソリンエンジン等の内燃機関を用いても良い。
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。