【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
まず以下の調製例1〜6において、本発明のホロセルロース類の糖化方法に用いる高分子量体の調製例を示す。
〈調製例1〉
ポリアクリル酸(平均分子量5,000、和光純薬工業(株)製)を準備した。当該ポリアクリル酸をイオン交換水に溶解し、6Nおよび1N水酸化ナトリウム溶液でpH7に中和しながら5質量%に調整し、高分子量体1溶液を得た。
〈調製例2〉
ポリアクリル酸(平均分子量25,000、和光純薬工業(株)製)を用いる以外は調製例1と同様に操作し、高分子量体2溶液を得た。
【0041】
〈調製例3〉
ポリアクリル酸(平均分子量1,000,000、和光純薬工業(株)製)を用いる以外は調製例1と同様に操作し、高分子量体3溶液を得た。
〈調製例4〉
ポリアクリル酸(平均分子量1,000,000、和光純薬工業(株)製)を準備した。当該ポリアクリル酸をイオン交換水に溶解し、30質量%および10質量%アンモニア水でpH7に中和しながら5質量%に調整し、高分子量体4溶液を得た。
【0042】
〈調製例5〉
ポリメタクリル酸(平均分子量100,000、和光純薬工業(株)製)を用いる以外は調製例1と同様に操作し、高分子量体5溶液を得た。
〈調製例6〉
ポリアクリル酸ナトリウム(重合度2,700〜7,500、和光純薬工業(株)製)を準備した。当該ポリアクリル酸ナトリウムを5質量%となるようにイオン交換水に溶解し、高分子量体6溶液を得た。
【0043】
〈比較調製例1〉
ポリエチレングリコール20000(平均分子量20,000±5,000、和光純薬工業(株)製)を準備した。当該ポリエチレングリコール20000を5質量%となるようにイオン交換水に溶解し、高分子量体7溶液を得た。
【0044】
以下の実施例1−1〜1−7では、上記調製例1〜6により得られた高分子量体溶液を用いて、本発明のバイオマス原料中のホロセルロース類の酵素糖化を行った。
【0045】
(実施例1−1)
バイオマス原料と高分子量体1溶液を予め混合して混合液を調製し、当該混合液にセルロース加水分解酵素を添加して反応させることにより、酵素糖化を行った。
【0046】
(i)バイオマス原料の粉砕処理
バイオマス原料であるスギ粉末は、タンデムリングミル(商品名HV−30、TRU合同会社)を用いて粉砕した。HV−30は、粉砕ポットの内径が284mm、材質S45Cであり、その内部に外径252mm、内径198mm、厚さ21mmのS45C製のリングを10枚積層して用いた。乾燥粉砕装置KDS-2((株)北川鉄工所製)を使用して平均粒径200μmに粉砕したスギ粉末を、HV−30に投入した。その後、HV−30を、振幅8mmで振動数1,500cpm(circle per minute)でリングを運動させることにより、平均粒径20μmのスギ粉末の粉砕物を得た。粒径測定は、粒度測定専用機器である、マイクロトラック MT3300EX2(日機装株式会社)を用いて測定を行った。
【0047】
(ii)バイオマス原料と高分子量体の混合液の調製(工程(1))
バイオマス原料として上記(i)により得られたスギ粉末粉砕物、高分子量体1溶液およびイオン交換水を混合した。得られた混合液を、121℃で15分間オートクレーブにかけた。このように調製された液を「スギ粉末−高分子量体混合液」とした。なお、後述する糖化反応液の終濃度で、スギ粉末粉砕物の濃度は20質量%に、高分子量体1の濃度は0.5質量%になるように調整した。
【0048】
(iii)バイオマス原料の酵素糖化(工程(2))
上記工程(ii)により調製したスギ粉末−高分子量体混合液に、セルロース加水分解酵素としてCelliCTec2(商品名)(ノボザイム社製)を、対スギ粉末粉砕物の質量当たりのタンパク量で0.27質量%となるよう添加し、糖化反応液とした。糖化反応液を120rpmで振盪しながら50℃で48時間反応させることにより、酵素糖化を行い、酵素糖化液を得た。
【0049】
(i)〜(iii)により得られた酵素糖化液について、糖化率および酵素回収率を以下に示す方法により求めた。糖化率と酵素回収率の結果は後述する表1に示す。
【0050】
〈糖化率〉
糖化率は、工程(1)のバイオマス原料中のグルコース濃度と酵素糖化液中のグルコース濃度を測定することにより、以下の手順で算出した。
【0051】
(a)バイオマス原料1g中のグルコース単位量
バイオマス原料(スギ粉末粉砕物)1.0gに、72質量%の硫酸0.6mLを加え、30℃で1時間保持した後、水16.8mLを加えてオートクレーブにて120℃で1時間処理した。処理後の試料について、液量を測定した(バイオマス原料試験液量)。その後、当該試料の一部を用いて酵素法(F−キット グルコース:JKインターナショナル)でグルコース濃度を測定した。本測定で得られたグルコース濃度とバイオマス原料試験液量より、バイオマス原料1g中のグルコース単位量を算出した。
バイオマス原料1g中のグルコース単位量(g)=グルコース濃度(質量/容量%)×バイオマス原料試験液量(mL)×0.01
【0052】
(b)酵素糖化液中のグルコース量
酵素糖化液について、遠心分離によって沈殿物と上清液を分離し、回収された上清液量を測定した(糖化試験液量)。上清液のグルコース濃度を酵素法(F−キット グルコース:JKインターナショナル)で測定した。本測定で得られたグルコース濃度と糖化試験液量より、酵素糖化液のグルコース量を算出した。
酵素糖化液のグルコース量(g)=グルコース濃度(質量/容量%)×糖化試験液量(mL)×0.01
【0053】
(c)糖化率の測定
上記(a)および(b)により得られたグルコース量、および、工程(1)(ii)にて用いたバイオマス原料(スギ粉末粉砕物)量から、下記式に従い糖化率を算出した。結果を後述する表1に示した。
糖化率(%)=酵素糖化液のグルコース量(g)/{バイオマス原料1g中のグルコース単位量(g/g)×バイオマス原料量(g)}×100
【0054】
〈酵素回収率1〉
酵素回収率1は、以下の手順で算出した。
上記(iii)の酵素糖化処理後の試料を準備し、遠心分離によって沈殿物と上清液1を分離した。得られた上清液1のタンパク量を、プロテインアッセイ(商品名)(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて測定した。スギ粉末粉砕物およびセルロース加水分解酵素を添加しないこと以外は、実施例1−1(i)〜(iii)に従って調製した溶液を、ブランク液1とした。スギ粉末粉砕物を添加しないこと以外は、実施例1−1(i)〜(iii)に従って調製した溶液を、酵素液1とした。ブランク液1および酵素液1について、前述と同様にプロテインアッセイにてタンパク量を測定した。
測定して得られた、上清液1、ブランク液1、酵素液1の各タンパク量を用いて、次式より酵素回収率を算出した。結果を後述する表1に示した。なお、回収されたセルロース加水分解酵素に活性のあることは、スギ粉末粉砕物をバイオマス原料として用いて酵素糖化を行い、糖が産生されることにより確認した。
酵素回収率1(%)=(上清液1中のタンパク量−ブランク液1中のタンパク量)/(酵素液1中のタンパク量−ブランク液1中のタンパク量)×100
【0055】
(実施例1−2)
調製例1の高分子量体1溶液の代わりに、調製例2の高分子量体2溶液を用いる以外は実施例1−1と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0056】
(実施例1−3)
調製例1の高分子量体1溶液の代わりに、調製例3の高分子量体3溶液を用いる以外は実施例1−1と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0057】
(実施例1−4)
調製例1の高分子量体1溶液の代わりに、調製例4の高分子量体4溶液を用いる以外は実施例1−1と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0058】
(実施例1−5)
調製例1の高分子量体1溶液の代わりに、調製例5の高分子量体5溶液を用いる以外は実施例1−1と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0059】
(実施例1−6)
調製例1の高分子量体1溶液の代わりに、調製例6の高分子量体6溶液を用いる以外は実施例1−1と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0060】
(比較例1−1)
調製例1の高分子量体1溶液を添加しない以外は実施例1−1と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0061】
(比較例1−2)
調製例1の高分子量体1溶液の代わりに、比較調製例1の高分子量体7溶液を用いる以外は実施例1−1と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0062】
(実施例1−7)
セルロース加水分解酵素と高分子量体6溶液を予め混合して混合液を調製し、当該混合液にバイオマス原料を添加して反応させることにより、酵素糖化を行った。具体的な手法を以下に示す。
【0063】
(i)バイオマス原料の粉砕処理
実施例1−1の(i)と同様にして、スギ粉末の粉砕物を得た。
【0064】
(ii)セルロース加水分解酵素と高分子量体の混合液の調製(工程(1))
セルロース加水分解酵素CelliCTec2(商品名)(ノボザイム社製)を高分子量体6溶液により希釈し、「酵素−高分子量体液」を調製した。なお、後述する糖化反応液の終濃度で、酵素濃度が対スギ粉末質量当たりのタンパク量として0.27質量%、高分子量体6の濃度が0.5質量%となるように調整した。
【0065】
(iii)バイオマス原料液の調製
スギ粉末粉砕物およびイオン交換水を混合した。続いてこの溶液を、121℃で15分間オートクレーブにかけた。このように調製された液をバイオマス原料液とした。なおスギ粉末粉砕物は、後述する糖化反応液の終濃度で20質量%になるように調整した。
【0066】
(iv)バイオマス原料の酵素糖化(工程(2))
上記(iii)にて調製したバイオマス原料液に、(ii)にて得られた酵素−高分子量体液を添加し、糖化反応液を調製した。糖化反応液を、120rpmで振盪しながら50℃で48時間反応させることにより酵素糖化を行い、酵素糖化液を得た。
【0067】
工程(i)〜(iv)により得られた酵素糖化液について、糖化率および酵素回収率を、実施例1−1と同様に算出した。得られた結果を、後述する表1に示した。
【0068】
(比較例1−3)
調製例6の高分子量体6溶液の代わりに、スキムミルクを最終濃度2%で用いる以外は実施例1−7と同様にして酵素糖化を行い、糖化率および酵素回収率を求めた。結果を後述する表1に示した。
【0069】
実施例1−1〜1−7および比較例1−1〜1−3の糖化率および酵素回収率を以下の表1に示す。
【表1】
【0070】
以下の実施例2−1では、本発明の糖化方法により得られた糖類を用いて、エタノールの製造を行った。
【0071】
(実施例2−1)
セルロース加水分解酵素と高分子量体6溶液を予め混合して混合液を調製し、当該混合液にバイオマス原料を添加し、さらに、酵母を加えることによって糖化とアルコール発酵を同時に行った。具体的な手法を以下に示す。
【0072】
(i)バイオマス原料の粉砕処理
実施例1−1の(i)と同様にして、スギ粉末の粉砕物を得た。
【0073】
(ii)セルロース加水分解酵素と高分子量体の混合液の調製(工程(1))
セルロース加水分解酵素CelliCTec2(商品名)(ノボザイム社製)を高分子量体6溶液により希釈し、「酵素−高分子量体液」を調製した。なお、後述する糖化反応液の終濃度で、酵素濃度が対スギ粉末質量当たりのタンパク量として0.27質量%、高分子量体6の濃度が0.5質量%となるように調整した。
【0074】
(iii)バイオマス原料液の調製
スギ粉末粉砕物およびイオン交換水を混合した。続いてこの溶液を、121℃で15分間オートクレーブにかけた。このように調製された液をバイオマス原料液とした。なおスギ粉末粉砕物は、後述する糖化反応液の終濃度で20質量%になるように調整した。
【0075】
(iv)バイオマス原料の酵素糖化およびアルコール発酵(工程(2))
上記(iii)にて調製したバイオマス原料液に、(ii)にて得られた酵素−高分子量体液を添加し、糖化反応液を調製した。この糖化反応液100gに酵母(Shizosaccharomyces japonicus)を1.0×10
9個/mL添加し、500mLのバッフル付きフラスコで80rpmで振盪しながら37℃で72時間反応させ、酵素糖化と同時にアルコール発酵した。
【0076】
工程(i)〜(iv)により得られたアルコール発酵後の試料について、次の方法によりエタノール濃度と酵素回収率を測定した。
〈エタノール濃度〉
アルコール濃度計を用いて、以下の手順でエタノール濃度の測定を行った。アルコール発酵終了後、遠心分離によって沈殿物と上清液を分離した。得られた上清液中のエタノール濃度を、アルコメイト AL−3(製品名)(ウッドッソン社)により測定した。
その結果、アルコール発酵後の試料のエタノール濃度は61質量/容量%であった。
【0077】
〈酵素回収率〉
アルコール発酵後の試料についての酵素回収率は、以下の手順で算出した。
アルコール発酵後の試料を準備し、遠心分離によって沈殿物2と上清液2を分離した。得られた上清液2のタンパク量をプロテインアッセイ(商品名)(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて測定した。バイオマス原料および酵素を添加しない以外は、同様に調製して遠心分離によって得られた溶液をブランク液2とした。バイオマス原料を添加しない以外は同様に調製して遠心分離によって得られた溶液を酵素液2とした。上清液2、ブランク液2、酵素液2について、前述と同様にして、プロテインアッセイにてタンパク量を測定した。次式より酵素回収率2を算出した。
酵素回収率2(%)=(上清液2中のタンパク量−ブランク液2中のタンパク量)/(酵素液2中のタンパク量−ブランク液2中のタンパク量)×100
アルコール発酵後の試料についての酵素回収率は40%であった。
【0078】
(比較例2−1)
「酵素−高分子量体液」の調製に高分子量体6溶液の代わりにスキムミルクを最終濃度で2%使う以外は実施例2−1に従いアルコール発酵を実施した。アルコール発酵終了後にエタノール濃度、酵素回収率を測定した。
その結果、アルコール発酵後のエタノール濃度は58%および酵素回収率は4%であった。
【0079】
(総論)
実施例1−1〜1−7の結果から明らかなように、本発明の糖化方法によれば、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)を、バイオマス原料またはセルロース加水分解酵素の少なくともどちらか一方に添加することにより、リグニン類によるセルロース加水分解酵素の吸着を抑制することができ、これによるセルロース分解酵素の機能低下を防ぐことができる。従って、本発明の糖化方法により、バイオマス原料に含まれるホロセルロース類から効率的に糖類を製造することができる。
また実施例1−7は、本発明の糖化方法が、セルロース加水分解酵素の回収率にも優れており、セルロース加水分解酵素の再利用を可能とし、効率的に糖類を製造することができることを示す。さらに実施例2−1に示すように、本発明の糖化方法により得られた糖類はエタノールの生産に有効に用いることができ、同様にして他の糖類の生産にも有効に用いることができる。
一方、比較例1−1の結果から、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)を添加しない場合は、リグニン類にセルロース加水分解酵素が吸着し、セルロース分解酵素の機能を阻害するとともに、ほとんどセルロース加水分解酵素の回収ができないことがわかった。また比較例1−2の結果から、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)の代わりにポリエチレングリコールを用いた場合は、セルロース加水分解酵素の回収がほとんどできなかった。これは、ポリエチレングリコールがアニオン性官能基を有さないことから、リグニン類またはセルロース加水分解酵素と相互作用せず、リグニン類によるセルロース加水分解酵素の吸着を抑制できなかったためと考えられる。比較例1−3の結果からは、スキムミルクを添加した場合、リグニン類へのセルロース加水分解酵素の吸着は若干抑制されるものの吸着抑制作用は十分ではなく、セルロース加水分解酵素の回収率は十分ではなかった。