【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。以下の実施例の記載はいかなる面においても本発明を限定しない。
(実施例1)
EMA、PMAにおけるPCR反応への阻害効果
Taq DNA Polymerase(Taq)、または、KOD DNA Polymerase(KOD)を用いてHbg遺伝子746bpを増幅するPCRの反応系に、それぞれEMAやPMAを添加し、阻害が生じる濃度を確認した。
【0026】
TaqのPCR反応系にはrTaq DNA Polymerase(TOYOBO)とAnti−Taq High(TOYOBO)と混合したものを用いた。
PCR反応液に光感受性架橋剤を加えて光エネルギーを作用させた光照射サンプルを、以下の手順で作製した。
(1)1×rTaq DNA Polymeraseに添付のBuffer、2mM dNTPs、抗体と混合した2.5Uの酵素を含むPCR反応液を作製した。
(2)前記(1)で作製した反応液に、滅菌水で溶解したEMA(ANASPEC)を終濃度100、50、20、10、5、2、0μg/mlになるように、またはPMA(Biotium)を20、10、4、2、1、0.4、0μMになるように加えた。
(3)その後、前記(2)で作製した液に対し、ハロゲンランプ(岩崎電気)を用い、照射距離20cmで5分間の光照射をした。
(4)前記で得られた光照射サンプル50μlに、10pmolのプライマー(配列番号1および2)、10ngのヒトゲノムDNA(Roche社製)を添加することで50μlのPCR反応液を調製した。
反応は94℃、2分の前反応の後、94℃、10秒→62℃、30秒→68℃、1分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)にてPCRを行った。
【0027】
KODのPCR反応系にはKOD−PLUS−Ver.2(TOYOBO)を用いた。
光照射サンプルは、PCR反応液を以下の(1)の手順で作製する以外は、前記のTaqの場合と同様に行った。
(1)1×添付のBuffer、2mM dNTPs、1.5mM MgSO
4、1Uの酵素を含むPCR反応液を作製した。
反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃、10秒→68℃、1分を35サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)にてPCRを行った。
【0028】
前記で作製したTaqまたはKODのPCR反応系を用いてそれぞれ反応終了後、MaltiNA(島津製作所)をもちいて、DNA−1000のゲルで泳動を行い、746bp付近のDNA断片を確認した。
その結果、TaqのPCRではEMAで20μg/ml、PMAでは4μM以上で阻害により増幅が見られなかった(
図1)。一方、KODのPCRでは、Taqより阻害に強く、EMAでは20μg/ml、PMAでは4μMまでは増幅が確認された。それ以上の濃度になるとKODでも阻害が生じる結果となった(
図2)。これらの濃度以下であれば、Taq、KODそれぞれの反応系を阻害せずPCRを実施できることが示された。
【0029】
(実施例2)
EMA、PMAにおけるPCR反応液中のコンタミ核酸除去(TaqのPCR)
TaqのPCRにおいて、阻害の生じなかったEMA終濃度2μg/ml、および5μg/ml、PMA終濃度1μM、および0.4μMでPCR反応系にコンタミするバクテリア由来の核酸を除去できるか検討した。
通常、バクテリアの16S rRNA共通領域を増幅するプライマーを用いてPCRを実施するとテンプレートを入れていないコントロール(NTC)でも増幅が見られる。コンタミ核酸が除去されていればNTCで増幅が確認できないはずである。
検討は実施例1と同様、rTaq DNA Polymerase(TOYOBO)とAnti−Taq High(TOYOBO)と混合したものを用いた。PCR反応液に光感受性架橋剤を加えて光エネルギーを作用させた光照射サンプルは、1×rTaq DNA Polymeraseに添付のBuffer、2mM dNTPs、抗体と混合した2.5Uの酵素を含むPCR反応液に、滅菌水で溶解したEMA(ANASPEC)を終濃度5、2μg/mlになるように、またはPMA(Biotium)を1、0.4μMになるように加え光照射サンプルを調製した。その後、ハロゲンランプ(岩崎電気)を用い、照射距離20cmで5分間の光照射をし、16S rRNA共通領域を増幅する10pmolのプライマー(配列番号3および4)を添加することで50μlのPCR反応液を調製した。光感受性架橋材を含まないコントロール、および光感受性架橋材による阻害を確認するため、光照射後、5ngのE.coliゲノムを添加したコントロールも同時に実施した。反応は94℃、2分の前反応の後、94℃、10秒→50℃、10秒→68℃、1分を40サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)にてPCRを行った。
それぞれ反応終了後、MaltiNA(島津製作所)をもちいて、DNA−1000のゲルで泳動を行い、800bp付近のDNA断片を確認した(
図3)。
【0030】
結果、光感受性架橋材を添加していないコントロールではNTCでも増幅が確認された。これはPCR反応液中に含まれるコンタミ核酸によるものだと考えられる。またE.coliゲノムを添加したコントロールではEMAやPMAを添加しても増幅が確認された。これはEMAやPMAによる阻害がないことが示される。一方、EMAを5、2μg/ml、PMAを1μM添加したものでは増幅が見られず、コンタミした核酸を除去できたことがわかった。PMAを0.4μM添加したものでは、薄く増幅が見られている。これは光感受性架橋材の作用が不十分でコンタミ核酸が完全に除去できなかったことが示唆される。
【0031】
(実施例3)
EMA、PMAにおけるPCR反応液中のコンタミ核酸除去(KODのPCR)
Taqと同様、KODのPCRにおいても、阻害の生じなかったEMA終濃度20μg/ml、PMA終濃度4μMでPCR反応系にコンタミするバクテリア由来の核酸を除去できるか検討した。
検討は、KOD −Plus− Ver.2(TOYOBO)用いた。1×添付のBuffer、2mM dNTPs、1.5mM MgSO
4、1Uの酵素を含むPCR反応液に滅菌水で溶解したEMA(ANASPEC)を終濃度20μg/mlになるように、またはPMA(Biotium)を4μMになるように加え光照射サンプルを調製した。その後、ハロゲンランプ(岩崎電気)を用い、照射距離20cmで5分間の光照射をし、16S rRNA共通領域を増幅する10pmolのプライマー(配列番号3および4)を添加することで50μlのPCR反応液を調製した。光感受性架橋材を含まないコントロール、および光感受性架橋材による阻害を確認するため、光照射後、5ngのE.coliゲノムを添加したコントロールも同時に実施した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→50℃、10秒→68℃、1分を40サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)にてPCRを行った。
それぞれ反応終了後、MaltiNA(島津製作所)をもちいて、DNA−1000のゲルで泳動を行い、800bp付近のDNA断片を確認した(
図4)。
【0032】
結果、実施例2と同様、光感受性架橋材を添加していないコントロールではNTCでも増幅が確認された。これはPCR反応液中に含まれるコンタミ核酸によるものだと考えられる。またE.coliゲノムを添加したコントロールではEMAやPMAを添加しても増幅が確認された。これはEMAやPMAによる阻害がないことが示される。一方、EMAを20μg/ml、PMAを4μM添加したものでは増幅が見られず、コンタミした核酸を除去できたことがわかった。
【0033】
(実施例4)
EMA、PMAにおけるPCR反応液中のコンタミ核酸除去(TTHのPCR)
TTH DNA Polymerase(TTH)はマンガン存在下で逆転写活性を保持しており、RNAからの増幅が可能である。コンタミ核酸がRNAでも除去できるのか、TTHを用いて検討した。
検討は、RNA−direct Realtime PCR Master Mix(TOYOBO)を用いた。2×のMasterMixに滅菌水で溶解したEMA(ANASPEC)を終濃度10、5μg/mlになるように、またはPMA(Biotium)を2、1μMになるように加え光照射サンプルを調製した。その後、ハロゲンランプ(岩崎電気)を用い、照射距離20cmで5分間の光照射をし、16S rRNA共通領域を増幅する10pmolのプライマー(配列番号3および4)を添加することで50μlのPCR反応液を調製した。光感受性架橋材を含まないコントロール、および光感受性架橋材による阻害を確認するため、光照射後、5ngのE.coliゲノムを添加したコントロールも同時に実施した。反応は90℃、15秒、50℃、20分の逆転写反応の後、95℃、30秒の前反応、95℃、10秒→50℃、10秒→76℃、1分を40サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)にてRT−PCRを行った。
それぞれ反応終了後、MaltiNA(島津製作所)をもちいて、DNA−1000のゲルで泳動を行い、800bp付近のDNA断片を確認した(
図5)。
【0034】
結果、光感受性架橋材を添加していないコントロールではNTCでも増幅が確認された。これはPCR反応液中に含まれるコンタミ核酸(DNAやRNA)によるものだと考えられる。またE.coliゲノムを添加したコントロールではEMAやPMAを添加しても増幅が確認された。これはEMAやPMAによる阻害がないことが示される。一方、EMAを10、5μg/ml、PMAを2、1μM添加したものでは増幅が見られず、コンタミした核酸を除去できたことがわかった。今回の結果で反応系に含まれるRNAにも光感受性架橋材が作用することが示された。
【0035】
(実施例5)
EMA、PMAにおけるコンタミ核酸除去能の評価
EMA、PMAでどの程度の核酸が除去できるかを確認した。
検討にはKOD FX(TOYOBO)を用い、1×添付のBuffer、4mM dNTPs、1Uの酵素を含むPCR反応液にヒトゲノム(Roche)をそれぞれ10、1、0.1ng加え、滅菌水で溶解したEMA(ANASPEC)を終濃度20μg/mlになるように、またはPMA(Biotium)を4μMになるように添加し光照射サンプルを調製した。その後、ハロゲンランプ(岩崎電気)を用い、照射距離20cmで5分間の光照射をし、Hbg領域481bpを増幅する10pmolのプライマー(配列番号5および6)を添加することで50μlのPCR反応液を調製した。光感受性架橋材を含まないコントロールも同時に実施し、光照射をせずにPCRするコントロールも実施した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→65℃、10秒→68℃、1分を40サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)にてPCRを行った。
それぞれ反応終了後、MaltiNA(島津製作所)をもちいて、DNA−1000のゲルで泳動を行い、481bp付近のDNA断片を確認した(
図6)。
【0036】
結果、光照射をせずにPCRしたコントロールでは、EMAやPMAが含まれていても10、1、0.1ngのヒトゲノムからそれぞれHbgの481bpの増幅が確認できた。これはこの濃度ではEMAやPMAによるPCRの阻害がないことが示される。一方、光照射した方では、光感受性架橋材が含まれていないコントロールは10、1、0.1ngのヒトゲノムからそれぞれHbgの481bpの増幅が確認できるのに対し、EMA、PMAが含まれたサンプルでは増幅が確認できなかった。これはEMA、PMAによって核酸が除去されたことを示す。通常、10ngを超えるゲノムがコンタミすることは考えにくいが、本発明を使えば10ng程度のコンタミであれば完全に除去できることが示された。
【0037】
(実施例6)
PCR因子へのコンタミ核酸の確認
KOD −Plus− Ver.2(TOYOBO)におけるコンタミが、どの因子からの持込みか確認した。
[1]2mM dNTPs、1.5mM MgSO
4、1Uの酵素を含むPCR反応液
[2]1×添付のBuffer、1.5mM MgSO
4、1Uの酵素を含むPCR反応液
[3]1×添付のBuffer、2mM dNTPs、1Uの酵素を含むPCR反応液
[4]1×添付のBuffer、2mM dNTPs、1.5mM MgSO
4を含むPCR反応液
の、それぞれに滅菌水で溶解したEMA(ANASPEC)を終濃度20μg/mlになるように加え光照射サンプルを調製した。その後、ハロゲンランプ(岩崎電気)を用い、照射距離20cmで5分間の光照射をし、[1]には添付のBufferを1×になるように、[2]には2mM dNTPを、[3]には1.5mM MgSO
4を、[4]には1Uの酵素を加え、さらに16S rRNA共通領域を増幅する10pmolのプライマー(配列番号3および4)を添加することで50μlのPCR反応液を調製した。光感受性架橋材を含まないコントロールも同時に実施した。反応は94℃、2分の前反応の後、98℃、10秒→50℃、10秒→68℃、1分を40サイクル繰り返すスケジュールでPCR system GeneAmp9700(Applied Biosystem社製)にてPCRを行った。
それぞれ反応終了後、MaltiNA(島津製作所)をもちいて、DNA−1000のゲルで泳動を行い、800bp付近のDNA断片を確認した(
図7)。
【0038】
結果、EMAを含まないコントロールでは実施例3と同様、増幅が確認された。一方、EMAを添加し核酸を除去したものでは、dNTPを後入れした[2]と、酵素を後入れした[4]とでのみ増幅が確認された。これはdNTPsと酵素にコンタミ核酸が存在していたことを示す。
今回のようにポリメラーゼだけでなく、dNTPsなどのPCR因子にコンタミがある場合、ポリメラーゼをいくら精製してもNTCで増幅が生じることになる。本発明はPCR反応系に存在する核酸を除去できる面で非常に有効だといえる。