特許第6500629号(P6500629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6500629-積層フィルム 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500629
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20190408BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   B32B27/36
   B32B9/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-123736(P2015-123736)
(22)【出願日】2015年6月19日
(65)【公開番号】特開2017-7175(P2017-7175A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 麻洋
(72)【発明者】
【氏名】中谷 伊志
(72)【発明者】
【氏名】清水 敏之
(72)【発明者】
【氏名】池畠 良知
(72)【発明者】
【氏名】多保田 規
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−179836(JP,A)
【文献】 特開2014−111790(JP,A)
【文献】 特開2011−224981(JP,A)
【文献】 特開2004−001889(JP,A)
【文献】 特開2007−118476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層及びシーラント層が、この順に積層された積層フィルムであって、前記基材フィルムが、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を50重量%以上95重量%以下含有し、二軸延伸されてなるポリエステルフィルムであり、前記基材フィルム中の無機粒子の含有量が、0.01重量%以上1重量%以下であり、以下の要件を満足することを特徴とする積層フィルム。
(1)基材フィルムを構成する全ポリエステル樹脂中の全ジカルボン酸成分に対するイソフタル酸成分の含有率が0.5モル%以上5.0モル%以下
(2)基材フィルムを構成している樹脂の極限粘度が0.58dl/g以上0.70dl/g以下
(3)積層フィルムの水蒸気透過度が5.0g/m2・day以下であり、かつ、酸素透過度が40.0ml/m2・day・MPa以下
【請求項2】
基材フィルムの縦方向及び横方向の150℃熱収縮率が0.1%以上1.5%以下であり、かつ、基材フィルムの縦方向および横方向のフィルム1m長を各々5mm毎に測定した各厚みTn(n=1〜200)(単位:μm) 200点を測定し、この時の最大厚みをTmax,最小厚みをTmin,平均厚みをTave とするときの下記の式で求める厚みムラが、縦方向および横方向の各々で16%以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
厚みムラ={(Tmax−Tmin)/Tave}×100 (%)
【請求項3】
無機薄膜層が、2種の金属、2種の無機酸化物、あるいは1種の金属と1種の無機酸化物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
無機薄膜層が、酸化ケイ素と酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項5】
シーラント層がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を用いた積層フィルムに関する。更に詳しくは、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を用い、低熱収縮性、厚みムラが小さいことにより無機薄膜層およびシーラント層を備えたガスバリア性積層フィルムとした際、良好なガスバリア性を発現する積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を用いることにより、オリゴマー含有量の少ないポリエステルから、かつ生産性、品位を損なうことなく静電気によるトラブルが少ない胴巻ラベル用ポリエステルフィルムにするという技術が知られていた(例えば特許文献1参照)。しかし、かかる従来技術は極限粘度の高い原料レジン(IV=0.70dl/g)を使用し、低い押出温度で押出(280℃)するため、フィルム内部の組成にバラツキがあり、ラミネート面のバラツキの発生や厚みムラの不良になる。また、高いラミネート強度を得るために、二軸延伸後のフィルムを高温で熱処理しているが、室温への冷却が急激なため、フィルムの緩和が面内でバラツキがあり、厚みムラが不良となる。そのため、このような厚みムラが大きなポリエステルフィルムを基材として無機薄膜を蒸着した場合、無機薄膜の厚みが均一にならず、ガスバリア性が低下する、という問題点があった。
【0003】
また、フィルムの配向を制御することにより、薄膜とポリエステルフィルムとの接着性やボイル、レトルト処理に好適な透明蒸着用ポリエステルフィルムとするという技術が知られていた(例えば特許文献2参照)。しかし、かかる従来技術は、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を使用しないポリエチレンテレフタレートの例であるが、同リサイクル樹脂からなる極限粘度が0.63dl/gの樹脂原料を使用してフィルムを作成した場合にはフィルム内部の組成にバラツキがあるため、ラミネート面のバラツキの発生や厚みムラの不良になる。また、高いラミネート強度を得るために、二軸延伸後のフィルムを高温で熱処理しているが、室温への冷却が急激なため、フィルムの緩和が面内でバラツキがあり、厚みムラが不良となる。そのため、このような厚みムラが大きなポリエステルフィルムを基材として無機薄膜を蒸着した場合、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が低下する、という問題点があった。
【0004】
さらに、フィルム中の粒子および製膜条件を制御するにより、磁気記録媒体用において、スリット性とカレンダー工程での削れ性を良好にするという技術が知られていた(例えば特許文献3参照)。しかし、かかる従来技術は、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を使用しないポリエチレンテレフタレートの例であるが、同リサイクル樹脂からなる極限粘度が0.62dl/gの樹脂原料を使用してフィルムを作成した場合には、フィルム内部の組成にバラツキがあるため、ラミネート面のバラツキの発生や厚みムラが不良となる。また、高いラミネート強度を得るために、二軸延伸後のフィルムを高温で熱処理しているが、室温への冷却が急激なため、フィルムの緩和が面内でバラツキがあり、厚みムラが不良となる。そのため、このような厚みムラが大きなポリエステルフィルムを基材として無機薄膜を蒸着した場合、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が低下する、という問題点があった。
【0005】
また、フィルムの縦、横の延伸条件と熱処理条件の最適化で、熱収縮特性を最適化する離形シート用におけるセラミックシート作製時の加熱寸法安定性を良好にする技術が知られていた(例えば特許文献4参照)。しかし、かかる従来技術は、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を使用しないポリエチレンテレフタレートの例であるが、同リサイクル樹脂からなる極限粘度が0.62dl/gの樹脂原料を使用してフィルムを作成した場合にはフィルム内部の組成にバラツキがあるため、ラミネート面のバラツキの発生や厚みムラの不良となる。そのため、このような厚みムラが大きなポリエステルフィルムを基材として無機薄膜を蒸着した場合、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が低下する。また、高いラミネート強度を得るために、二軸延伸後のフィルムを高温で熱処理しており、かつ任意として熱処理後の冷却の技術思想が開示されている。しかし、イソフタル酸を0.5モル%以上5.0モル%以下含有するフィルムとしては本技術をそのまま転用しても、フィルムの緩和が面内でバラツキがあり、厚みムラが不良となり、同様に無機薄膜を蒸着した場合、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が低下する。また、厚み方向の屈折率(Nz)を制御することでフィルムの平面性を維持することが開示されているが、本文献は原料としてポリエチレンテレフタレートが100%の場合に、かつNzが1.493以下の場合が想定されている。イソフタル酸を0.5モル%以上5.0モル%以下含有したフィルムは0モル%のポリエチレンテレフタレートフィルムに比べ、ラミネート強度が出やすいという利点があるが、ラミネート強度と厚みムラを共に良好にするにはNzが高すぎるため、この技術をそのまま転用することはできない、という問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−91862号公報
【特許文献2】特開2001−342267号公報
【特許文献3】特開平7−114721号公報
【特許文献4】特開2010−260315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたもので、すなわち、本発明の目的は、以下のような積層フィルムを提供することである。
1.イソフタル酸を0.5モル%以上5.0モル%以下含有し、溶融粘度が高く、固相重合を施し、高結晶化核剤などを添加することの多いペットボトルをリサイクルすることで得たリサイクル樹脂を積層フィルムにおける基材フィルムの原料樹脂として用いても、押出の温度を最適化することで樹脂の押出を安定させ、またフィルム中の樹脂、添加剤および粒子などが均一化することにより、基材フィルムの厚みムラを小さくし、ラミネートのバラツキをなくしラミネート強度を向上させること。
2.高温で高倍率の縦延伸とすることで、押出後の樹脂の溶融粘度が高くても、高倍率の横延伸ができ、基材フィルムの厚みムラを小さくすること。
3.高温での横延伸とすることで、押出後の樹脂の溶融粘度が高くても、高倍率の横延伸ができ、基材フィルムの厚みムラを小さくすること。
4.高温の熱処理を行うことで、基材フィルムの縦横の熱収縮率を低くすること。
5.高温、高倍率の延伸と高温の熱処理で基材フィルムの厚み方向の屈折率を適切にし、高いラミネート強度を実現すること。
6.熱処理後の冷却を徐冷とすることで、酸成分として、イソフタル酸を0.5モル%以上5.0モル%以下含有する基材フィルムの厚みムラを小さくすること。また、ラミネート強度がフィルム内部でばらつくことが無くなること。
7.無機薄膜層およびシーラント層を備えたガスバリア性積層フィルムとした場合でも、厚みムラが小さく、低熱収縮率により無機薄膜層の厚みが均一となり、良好なガスバリア性を発現するペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を用いた優れた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。すなわち本発明は、以下の構成よりなる。
1.基材フィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層及びシーラント層が、この順に積層された積層フィルムであって、前記基材フィルムが、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を50重量%以上95重量%以下含有し、二軸延伸されてなるポリエステルフィルムであり、以下の要件を満足することを特徴とする積層フィルム。
(1)基材フィルムを構成する全ポリエステル樹脂中の全ジカルボン酸成分に対するイソフタル酸成分の含有率が0.5モル%以上5.0モル%以下
(2)基材フィルムを構成している樹脂の極限粘度が0.58dl/g以上0.70dl/g以下(3)積層フィルムの水蒸気透過度が5.0g/m2・day以下であり、かつ、酸素透過度が40.0ml/m2・day・MPa以下
2.基材フィルムの縦方向及び横方向の150℃熱収縮率が0.1%以上1.5%以下であり、かつ、基材フィルムの縦方向および横方向のフィルム1m長を各々5mm毎に測定した各厚みTn(n=1〜200)(単位:μm) 200点を測定し、この時の最大厚みをTmax,最小厚みをTmin,平均厚みをTave とするときの下記の式で求める厚みムラが、縦方向および横方向の各々で16%以下であることを特徴とする上記第1に記載の積層フィルム。
厚みムラ={(Tmax−Tmin)/Tave}×100 (%)
3.無機薄膜層が、2種の金属、2種の無機酸化物、あるいは1種の金属と1種の無機酸化物からなることを特徴とする上記第1又は2に記載の積層フィルム。
4.無機薄膜層が、酸化ケイ素と酸化アルミニウムからなることを特徴とする上記第1又は2に記載の積層フィルム。
5.シーラント層がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする上記第1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
6.基材フィルム中の無機粒子の含有量が、0.01重量%以上1重量%以下であることを特徴とする上記第1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を用いたポリエステルフィルムは、無機薄膜層およびシーラント層を備えたガスバリア性積層フィルムとした場合でも、厚みムラが小さく、低熱収縮率により無機薄膜層の厚みが均一となり、良好なガスバリア性を発現するペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を用いた優れた積層フィルムを提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における製膜設備の押出機内部の一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
二軸延伸方法としては特に限定されるものではなく、チューブラー法や同時二軸延伸法などが採用できる。逐次二軸延伸方式が好ましい。
【0012】
基材フィルムを測定して得られるフィルムを構成している樹脂の極限粘度の下限は0.58dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.60dl/gである。0.58dl/g未満であると、ペットボトルからなるリサイクル樹脂は極限粘度が0.68dl/gを超えるものが多く、それを用いてフィルムを作製する際に粘度を低下させると厚みムラ不良となることがあるので好ましくない。また、フィルムが着色する場合があるため好ましくない。上限は0.70dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.68dl/gである。0.70dl/gを超えると押出機からの樹脂が吐出しにくくなり生産性が低下することがあるので好ましくない。
ここで、本発明においては後述の通り、酸成分としてイソフタル酸成分を含有するペットボトルから再生されたリサイクルポリエステル樹脂を基材フィルムの原料として使用することが好ましい態様である。従って、基材フィルムはリサイクルされたポリエステル樹脂とバージン原料、即ちリサイクルされていない樹脂との混合樹脂となり、前記フィルムを構成している樹脂の極限粘度とは、これらフィルムを構成する混合樹脂の極限粘度を測定して得られた値であることを意味する。
【0013】
基材フィルムの厚みの下限は好ましくは8μmであり、より好ましくは10μmであり、さらに好ましくは12μmである。8μm未満であるとフィルムとしての強度が不足となることがあるので好ましくない。上限は好ましくは200μmであり、より好ましくは50μmであり、さらに好ましくは30μmである。200μmを超えると厚くなりすぎて加工が困難となることがある。
【0014】
基材フィルムの厚み方向の屈折率の下限は好ましくは1.4930であり、より好ましくは1.4940である。1.4930未満であると配向が十分でないため、ラミネート強度が得られない場合がある。上限は好ましくは1.4995であり、より好ましくは1.4980である。1.4995を超えると、面の配向が崩れ、力学的特性が不足することがあるので好ましくない。
【0015】
基材フィルムの縦方向(MDと記載することがある)及び横方向(TDと記載することがある)の150℃、30分処理による熱収縮率の下限は好ましくは0.1%であり、より好ましくは0.3%である。0.1%未満であると改善の効果が飽和するほか、力学的に脆くなってしまうことがあるので好ましくない。上限は好ましくは1.5%であり、より好ましくは1.2%である。1.5%を超えると印刷などの加工時の寸法変化により、ピッチズレなどが起こることがあるので好ましくない。また、1.5%を超えると印刷などの加工時の寸法変化により、幅方向での縮みなどが起こることがあるため好ましくない。
【0016】
基材フィルムの縦および横方向の1m長を5mm毎に測定した各厚みTn(n=1〜200)(単位:μm)まで200点測定し、この時の最大厚みをTmax,最小厚みをTmin,平均厚みをTave とするときの下記の式で求める厚みムラが、縦および横方向の各々で16%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。16%を超えると、フィルムロールとしたときに巻きズレが生じたり、ラミネートした部分をはく離したときにはく離面の外観不良が発生し、商品価値が下がることがあるので、あまり好ましくない。
厚みムラ={(Tmax−Tmin)/Tave}×100 (%)
【0017】
基材フィルムの原料としては酸成分としてイソフタル酸成分を含有するペットボトルからなるリサイクルポリエステル樹脂を使用することが好ましい。ペットボトルに使用されているポリエステルにはボトル外観を良好にするため、結晶性の制御が行われており、その結果、10モル%以下のイソフタル酸成分を含むポリエステルが用いられていることがある。リサイクル樹脂を活用するためには、イソフタル酸成分を含む材料を使用することになる場合がある。
【0018】
基材フィルム中に含まれるポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に占めるテレフタル酸成分の量の下限は好ましくは95.0モル%であり、より好ましくは96.0モル%であり、さらに好ましくは96.5モル%であり、特に好ましくは97.0モル%である。95.0モル%未満であると結晶性が低下するため、熱収縮率が高くなることがあり、あまり好ましくない。また、フィルム中に含まれるポリエステル樹脂のテレフタル酸成分の量の上限は好ましくは99.5モル%であり、より好ましくは99.0モル%である。ペットボトルからなるリサイクルポリエステル樹脂は、イソフタル酸に代表されるテレフタル酸以外のジカルボン酸成分を有するものが多いため、フィルム中のポリエステル樹脂を構成するテレフタル酸成分が99.5モル%を超えることは、リサイクル樹脂の比率の高いポリエステルフィルムの製造が結果として困難になり、あまり好ましくない。
【0019】
基材フィルム中に含まれるポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に占めるイソフタル酸成分の量の下限は好ましくは0.5モル%であり、より好ましくは0.7モル%であり、さらに好ましくは0.9モル%であり、特に好ましくは1.0モル%である。ペットボトルからなるリサイクルポリエステル樹脂は、イソフタル酸成分を多く含むものがあるため、フィルム中のポリエステル樹脂を構成するイソフタル酸成分が0.5モル%未満であることは、リサイクル樹脂の比率の高いポリエステルフィルムの製造が結果として困難になり、あまり好ましくない。フィルム中に含まれるポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に占めるイソフタル酸成分の量の上限は好ましくは5.0モル%であり、より好ましくは4.0モル%であり、さらに好ましくは3.5モル%であり、特に好ましくは3.0モル%である。5.0モル%を超えると結晶性が低下するため、熱収縮率が高くなることがあり、あまり好ましくない。また、イソフタル酸成分の含有率を上記範囲とすることでラミネート強度、収縮率、厚みムラに優れたフィルムの作成が容易となり好ましい。
【0020】
ペットボトルからなるリサイクル樹脂の極限粘度の上限は好ましくは0.90dl/gであり、より好ましくは0.80dl/gであり、さらに好ましくは0.77dl/gであり、特に好ましくは0.75dl/gである。0.9dl/gを超えると押出機からの樹脂が吐出しにくくなって生産性が低下することがあり、あまり好ましくない。
【0021】
フィルムに対するペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂の含有率の下限は好ましくは50重量%であり、より好ましくは65重量%であり、さらに好ましくは75重量%である。50重量%未満であるとリサイクル樹脂の活用としては、含有率に乏しく、環境保護への貢献の点であまり好ましくない。ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂の含有率の上限は好ましくは95重量%であり、より好ましくは90重量%であり、さらに好ましくは85重量%である。95重量%を超えるとフィルムとして機能向上のために無機粒子などの滑剤や添加剤を十分に添加することができない場合があり、あまり好ましくない。なお、フィルムとして機能向上のために無機粒子などの滑剤や添加剤を添加する場合に用いるマスターバッチ(高濃度含有樹脂)としてペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を用いることもできる。
【0022】
滑剤種としてはシリカ、炭酸カルシウム、アルミナなどの無機系滑材のほか、有機系滑剤が好ましく、シリカ、炭酸カルシウムがより好ましい。これらにより透明性と滑り性を発現することができる。
【0023】
基材フィルム中の滑剤含有率の下限は好ましくは0.01重量%であり、より好ましくは0.015重量%であり、さらに好ましくは0.02重量%である。0.01重量%未満であると滑り性が低下することがある。上限は好ましくは1重量%であり、より好ましくは0.2重量%であり、さらに好ましくは0.1重量%である。1重量%を超えると透明性が低下することがあり、あまり好ましくない。
【0024】
本発明の積層フィルムに使用される基材フィルムの製造方法は特に限定されないが、例えば、以下のような製造方法が推奨される。押出機内の樹脂を溶融、押出するための温度設定が重要になる。基本的な考え方は、(1)ペットボトルに使用されるポリエステル樹脂はイソフタル酸成分を含有することから、できるだけ低い温度で押出することで劣化を抑えながら、(2)極限粘度や微細な高結晶性部分を十分かつ均一に溶融するために、高温や高圧力などで溶融する部分を有することにある。イソフタル酸成分の含有は、ポリエステルの立体規則性の低下となり、融点の低下につながる。そのため、高い温度での押出しでは、熱による溶融粘度の大幅な低下や劣化となり、機械的強度低下や劣化異物の増大となる。また、押出し温度を下げるだけでは、十分な溶融混練ができず、厚みムラの増大やフィッシュアイなどの異物が問題となる場合がある。以上のとこから、推奨する製造方法としては、例えば、押出機を2台タンデムで使用することやフィルタ部での圧力を上げる方法、スクリュー構成の一部に剪断力の強いスクリューを用いる方法などが挙げられる。以下に、一台の押出機を使用し、温度制御する例を挙げる。
【0025】
図1は本発明における製膜設備の押出機内部の一態様を示している。バレル3の間にフライト2をもつスクリュー1において、スクリュー根元から先端までに供給部4、圧縮部5、計量部6がある。圧縮部5はスクリュー1とバレル3の間が狭くなっていく領域であり、本発明では、供給部4と計量部6の設定温度はできるだけ低くし、圧縮部5の設定温度を高くすることで、せん断の高い圧縮部5で十分に溶融混練し、供給部4と計量部6では熱劣化を防ぐ工夫をすることが好ましい。
【0026】
押出機内の樹脂溶融部の設定温度(押出機内のスクリューの圧縮部の最高の設定温度を除く)の下限は好ましくは270℃であり、上限は好ましくは290℃である。270℃未満では押出が困難であり、290℃を超えると樹脂の劣化が起こることがあり、あまり好ましくない。
【0027】
押出機内のスクリューの圧縮部の最高の設定温度の下限は好ましくは295℃である。ペットボトルに使用されるポリエステル樹脂は、透明性の点から高融点の結晶(260℃〜290℃)が存在していることが多い。また、添加剤や結晶化核剤などが添加されており、樹脂材料内の微細な溶融挙動にバラツキがみられる。295℃未満であるとそれらを十分に溶融させることが困難となり、あまり好ましくない。押出機内のスクリューの圧縮部の最高の設定温度の上限は好ましくは310℃である。310℃を超えると樹脂の劣化が起こる場合があり、あまり好ましくない。
【0028】
押出機内のスクリューの圧縮部の最高の設定温度の領域を樹脂が通過する時間の下限は好ましくは10秒であり、より好ましくは15秒である。10秒未満であるとペットボトルに使用されるポリエステル樹脂を十分に溶融させることができず、あまり好ましくない。上限は好ましくは60秒、より好ましくは50秒である。60秒を超えると樹脂の劣化が起こり易くなり、あまり好ましくない。押出機の設定をこのような範囲にすることで、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を多く用いながら、厚みムラやフィッシュアイなどの異物、着色の少ないフィルムを得ることができる。
【0029】
このようにして溶融された樹脂は、冷却ロール上にシート状に押し出された後、二軸延伸される。延伸方法としては同時二軸延伸方式でも構わないが、特に逐次二軸延伸方式が好ましい。これらにより生産性と本発明に求める品質とを満たすことが容易になる。
【0030】
本発明においてフィルムの延伸方法は特に限定されないが、以下のような点が重要となる。極限粘度が0.58dl/g以上でイソフタル酸成分を含有する樹脂を延伸するには、縦方向(MD)延伸と横方向(TD)延伸の倍率と温度が重要である。MD延伸倍率や温度が適切でないと、均一に延伸の力がかからず、分子の配向が不十分となり、厚みムラの増大や力学特性が不十分となる場合がある。また、次のTD延伸工程でフィルムの破断が発生したり、極端な厚みムラの増大が発生したりする場合がある。TD延伸倍率や温度が適切でないと、均一に延伸されず、縦横の配向バランスが悪く、力学特性が不十分となる場合がある。また、厚みムラが大きい状態や分子鎖の配向性が不十分な状態で次の熱固定の工程に進んだ場合、均一に緩和ができず、厚みムラの更なる増大や力学特性が不十分となる問題が起こる。そのため、基本的には、MD延伸では以下に述べる温度調節を行って段階的に延伸を行い、TD延伸では配向バランスが極端に悪くならないように適切な温度で延伸することが推奨される。以下の態様に限定されるものではないが、一例を挙げて説明する。
【0031】
縦方向(MD)延伸方法としてはロール延伸方式、IR加熱方式が好ましい。
【0032】
MD延伸温度の下限は好ましくは100℃であり、より好ましくは110℃であり、さらに好ましくは120℃である。100℃未満であると極限粘度が0.58dl/g以上のポリエステル樹脂を延伸し、縦方向に分子配向させても、次の横延伸工程でフィルムの破断が発生したり、極端な厚み不良が発生したりして好ましくない。上限は好ましくは140℃であり、より好ましくは135℃であり、さらに好ましくは130℃である。140℃を超えると分子鎖の配向性が不十分となり、力学特性が不十分となる場合があるので、あまり好ましくない。
【0033】
MD延伸倍率の下限は好ましくは2.5倍であり、より好ましくは3.5倍であり、さらに好ましくは4倍である。2.5倍未満であると極限粘度が0.58dl/g以上のポリエステル樹脂を延伸し、縦方向に分子配向させても、次の横延伸工程でフィルムの破断が発生したり、極端な厚み不良が発生する場合があり、あまり好ましくない。上限は好ましくは5倍であり、より好ましくは4.8倍であり、さらに好ましくは4.5倍である。5倍を超えると力学強度や厚みムラ改善の効果が飽和することがあり、あまりその意義がない。
【0034】
MD延伸方法としては上記の一段延伸でも構わないが、延伸を二段以上に分けることがより好ましい。二段以上に分けることで、極限粘度が高く、イソフタル酸を含有するリサイクル樹脂からなるポリエステル樹脂を良好に延伸することが可能となり、厚みムラやラミネート強度、力学的特性などが良好となる。
【0035】
好ましい一段目のMD延伸温度の下限は110℃であり、より好ましくは115℃である。110℃未満であると熱不足となり、十分に縦延伸できず、平面性が乏しくなって好ましくない。好ましい一段目のMD延伸温度の上限は125℃であり、より好ましくは120℃である。125℃を超えると分子鎖の配向性が不十分となり、力学特性が低下する場合があるのであまり好ましくない。
【0036】
好ましい一段目のMD延伸倍率の下限は1.1倍であり、より好ましくは1.3倍である。1.1倍以上であると一段目の弱延伸とすることで、最終的に極限粘度が0.58dl/g以上のポリエステル樹脂を十分に縦延伸し、生産性を上げることができる。好ましい一段目のMD延伸倍率の上限は2倍であり、より好ましくは1.6倍である。2倍を超えると縦方向の分子鎖の配向性が高くなりすぎるため、二段目以降の延伸がしづらくなることや厚みムラが不良のフィルムとなることがあり、あまり好ましくない。
【0037】
好ましい二段目(または最終段)のMD延伸温度の下限は好ましくは110℃であり、より好ましくは115℃である。110℃以上であると極限粘度が0.58dl/g以上のポリエステル樹脂を十分に縦延伸し、次工程での横延伸が可能となり、縦横方向の厚みムラが良好となる。となることがある。上限は好ましくは130℃であり、より好ましくは125℃である。130℃を超えると結晶化が促進され、横延伸が困難になったり、厚みムラが大きくなることがあり、あまり好ましくない。
【0038】
好ましい二段目(または最終段)のMD延伸倍率の下限は好ましくは2.1倍であり、より好ましくは2.5倍である。2.1倍未満であると極限粘度が0.58dl/g以上のポリエステル樹脂を延伸し、縦方向に分子配向させても、次の横延伸工程でフィルムの破断が発生したり、極端な厚み不良が発生する場合があり、あまり好ましくない。上限は好ましくは3.5倍であり、より好ましくは3.1倍である。3.5倍を越えると縦配向が高くなりすぎるため、二段目以降の延伸ができなくなったり、厚みムラが大きいフィルムとなることがあり、あまり好ましくない。
【0039】
TD延伸温度の下限は好ましくは110℃であり、より好ましくは120℃であり、さらに好ましくは125℃である。110℃未満であると横方向への延伸応力が高くなり、フィルムの破断が発生したり、厚みムラが極端に大きくなる場合があり、あまり好ましくない。上限は好ましくは150℃であり、より好ましくは145℃であり、さらに好ましくは140℃である。150℃を超えると分子鎖の配向性が高まらないため力学特性が低下することがあり、あまり好ましくない。
【0040】
横方向(TD)延伸倍率の下限は好ましくは3.5倍であり、より好ましくは3.9倍である。3.5倍未満であると、分子配向が弱く、力学強度が不十分となる場合があり、あまり好ましくない。また、縦方向の分子鎖の配向性が大きく、縦横のバランスが悪くなることで、厚みムラが大きくなり、あまり好ましくない。上限は好ましくは5.5倍であり、より好ましくは4.5倍である。5.5倍を超えると破断することがあり、あまり好ましくない。
【0041】
本発明の積層フィルムに使用される基材フィルムを得るためには、TD延伸終了後引き続きテンター内で行われる熱固定および、その後フィルムを室温まで低下するときの条件を適切に設定することが望ましい。イソフタル酸を含有するペットボトルからなるリサイクル樹脂を含むポリエステルフィルムは通常のイソフタル酸を含まないポリエチレンテレフタレートフィルムに比べると結晶性が低く、また極微小に溶融しやすくなっており、また力学的強度も低い。そのため延伸終了後に急激に緊張下で高温にさらされる場合やまた高温の熱固定終了後に急激に緊張下で冷却すると、避けがたいフィルムの幅方向での温度差により幅方向での張力バランスが乱れ、厚みムラや力学的特性が不良となる。一方、熱固定温度を下げてこの現象に対応しようとすると十分なラミネート強度が得られない場合がある。本発明においては、延伸終了後に、やや低温の熱固定1と十分高温な熱固定2(必要に応じて熱固定3)、その後に徐冷工程を設けて室温まで下げることが推奨される。ただし、この方法に限定されるものではなく、例えばテンター内での熱風の速度や各ゾーンの温度に合わせフィルム張力を制御する方法、延伸終了後に炉長が十分にある比較的温度が低い熱処理をする方法および熱固定終了後に加熱ロールで緩和させる方法なども挙げられる。
【0042】
一例として、テンターの温度制御による方法を以下に示す。
【0043】
熱固定1の温度の下限は好ましくは160℃であり、より好ましくは170℃である。160℃未満であると最終的に熱収縮率が大きくなり、加工時のズレや縮みが起こるとなることがあり、あまり好ましくない。上限は好ましくは215℃であり、より好ましくは210℃である。215℃を超えると急激に高温がフィルムにかかることになり、厚みムラが大きくなったり、破断したりすることがあるので、あまり好ましくない。
【0044】
熱固定1の時間の下限は好ましくは0.5秒であり、より好ましくは2秒である。0.5秒未満であるとフィルム温度上昇不足となることがある。上限は好ましくは10秒であり、より好ましくは8秒である。10秒を超えると生産性が低下する場合があり、あまり好ましくない。
【0045】
熱固定2の温度の下限は好ましくは220℃であり、より好ましくは227℃である。220℃未満であると熱収縮率が大きくなり、加工時のズレや縮みとなることがあり、あまり好ましくない。上限は好ましくは240℃であり、より好ましくは237℃である。240℃を超えるとフィルムが融けてしまう場合があるほか、融けない場合でも脆くなるとなることがあり、あまり好ましくない。
【0046】
熱固定2の時間の下限は好ましくは0.5秒であり、より好ましくは3秒である。0.5秒未満であると熱固定時に破断が起こりやすくなるとなることがあり、あまり好ましくない。上限は好ましくは10秒であり、より好ましくは8秒である。10秒を超えると、たるみなどが生じて厚みムラが発生することがあり、あまり好ましくない。
【0047】
必要に応じて、熱固定3を設ける場合の温度の下限は好ましくは205℃であり、より好ましくは220℃である。205℃未満であると熱収縮率が大きくなり、加工時のズレや縮みとなることがあり、あまり好ましくない。上限は好ましくは240℃であり、より好ましくは237℃である。240℃を超えるとフィルムが融けてしまうほか、融けない場合でも脆くなるとなることがあり、あまり好ましくない。
【0048】
必要に応じて、熱固定3を設ける場合の時間の下限は好ましくは0.5秒であり、より好
ましくは3秒である。0.5秒未満であると熱固定時に破断が起こりやすくなるとなることがあり、あまり好ましくない。上限は好ましくは10秒であり、より好ましくは8秒である。10秒を超えるとたるみなどが生じて厚みムラが発生することがあり、あまり好ましくない。
【0049】
TDリラックスは、熱固定の任意の箇所で実施できる。下限は好ましくは0.5%であり、より好ましくは3%である。0.5%未満であると特に横方向の熱収縮率が大きくなり、加工時のズレや縮みとなることがあり、あまり好ましくない。上限は好ましくは10%であり、より好ましくは8%である。10%を超えるとたるみなどが生じて厚みムラが発生することがあり、あまり好ましくない。
【0050】
TD熱固定後の徐冷温度の下限は好ましくは90℃であり、より好ましくは100℃である。90℃未満であるとイソフタル酸を含有するフィルムであることから、急激な温度変化による収縮などにより厚みムラが大きくなったり、破断が発することがあり、あまり好ましくない。徐冷温度の上限は好ましくは150℃であり、より好ましくは140℃である。150℃を超えると十分な冷却効果が得られないことがあり、あまり好ましくない。
【0051】
熱固定後の徐冷時間の下限は好ましくは2秒であり、より好ましくは4秒である。2秒未満であると十分な徐冷効果が得られないことがあるので、あまり好ましくない。上限は好ましくは20秒であり、より好ましくは15秒である。20秒を超えると生産性の点で不利になり易く、あまり好ましくない。
【0052】
本発明の積層フィルムは、基材となるポリエステルフィルムの一方の面の上に無機薄膜層を積層し、更に、該無機薄膜層の上に、ポリオレフィン系樹脂層が積層された態様をとる。つまり、本発明の積層フィルムは無機薄膜層およびポリオレフィン系樹脂層を備えたガスバリア性積層フィルムに用いるものであり、該無機薄膜層およびポリオレフィン系樹脂層を予め積層した態様をとる。
【0053】
本発明の積層フィルムにおいては、ガスバリア性を付与するという目的のために、基材となるポリエステルフィルムの一方の面に無機薄膜層を積層する必要があり、その上に、接着層を介して又は介しないでシーラント層が積層される。
【0054】
無機薄膜層は金属または無機酸化物からなる薄膜である。無機薄膜層を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、加工性及びガスバリア性の観点から、アルミニウムを含む材料を使用することが好ましい。アルミニウムを含む材料としては、例えば純度の高いアルミニウム(99.9mol%以上)や他の添加元素を含むアルミニウム合金、酸化アルミニウムなどの無機酸化物などが挙げられ、複数の金属や金属と無機酸化物の併用、複数の無機酸化物の組み合わせでも良い。無機薄膜層を形成する材料の組み合わせとしては特に限定されないが、例えば、2種の金属、2種の無機酸化物、あるいは1種の金属と1種の無機酸化物からなる材料の組合せなどが採用できる。例えば、高純度アルミニウムとアルミニウム合金、添加元素が異なる2種のアルミニウム合金(マグネシウム、シリコン、チタン、カルシウム、マンガン等の添加元素)、アルミニウム合金と酸化アルミニウム、酸化アルミニウムと酸化チタン、酸化ケイ素と酸化アルミニウムなどが挙げられるが、薄膜層の柔軟性と緻密性を両立できる点からは、酸化ケイ素(シリカ)と酸化アルミニウム(アルミナ)との複合酸化物が好ましい。
【0055】
無機薄膜層の膜厚は、通常1nm以上800nm以下、好ましくは5nm以上500nm以下である。金属薄膜層の膜厚が1nm未満であると、満足のいくガスバリア性が得られ難くなる場合があり、一方、800nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上効果は得られず、耐屈曲性や製造コストの点でかえって不利となる。
【0056】
無機薄膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)など、公知の蒸着法を適宜採用すればよい。以下、無機薄膜層を形成する典型的な方法を、酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜を例に説明する。例えば、真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiO2とAl23の混合物、あるいはSiO2とAlの混合物等が好ましく用いられる。これら蒸着原料としては通常粒子が用いられるが、その際、各粒子の大きさは蒸着時の圧力が変化しない程度の大きさであることが望ましく、好ましい粒子径は1mm〜5mmである。加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱、レーザー加熱などの方式を採用することができる。また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。さらに、被蒸着体(蒸着に供する積層フィルム)にバイアスを印加したり、被蒸着体を加熱もしくは冷却するなど、成膜条件も任意に変更することができる。このような蒸着材料、反応ガス、被蒸着体のバイアス、加熱・冷却などは、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に変更可能である。
【0057】
前述の如く、基材フィルムであるポリエステルフィルム上には、無機薄膜層が積層され、次いで前記無機薄膜層の上に、接着層を介して又は介しないでシーラント層が積層され、シーラント層は通常ポリオレフィン系樹脂で構成される。
【0058】
このシーラント層の形成は、基材フィルムの一方の面に無機薄膜層を積層し、更に、該無機薄膜層面の上に、接着剤を介してポリオレフィン系樹脂により作製されたフィルムを貼り合わせる方法により行ってもよいし、また、直接にポリオレフィン系樹脂を押出ラミネートする方法でラミネートしてもよい。
【0059】
ここで、本発明におけるポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンモノマーを重合または共重合して得られる樹脂であって、これらオレフィンモノマーから誘導される、ポリマーを構成するユニットの含量が全体の共重合体質量の80重量%以上、より好ましくは90重量%以上占める樹脂を示し、最も好ましくは実質的に100%を占める樹脂であり、好ましくは、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等のα−オレフィンからなる重合体およびそのランダム共重合体とそのブロック共重合体が挙げられる。
【0060】
そのランダム共重合体のうち、プロピレンランダム共重合体は、プロピレンとそれ以外のα−オレフィンモノマーの1種以上とがランダムに共重合されたポリマーであり、例えば、公知の方法により、プロピレン以外のα−オレフィンモノマーの1種以上を2〜15重量%の範囲で共重合させたポリプロピレンがある。
【0061】
また、ブロック共重合体のうち、プロピレン・エチレン・ブロック共重合体は、プロピレンと少量のエチレンおよび/またはその他のα−オレフィンとからなる共重合体部分と、少量のプロピレンとエチレンとからなる共重合体部分とがブロック的に共重合したものである。それぞれの共重合成分の組成、各ブロックの分子量等は重合段階で制御できる。一般には、特開昭59−115312号公報に示されるように2段以上の重合方法によって得ることができる。例えば、プロピレン・ブロック共重合体の融点は145〜165℃の範囲である。融点は、豊富な量のプロピレンと少量のエチレン及び/またはその他のα−オレフィンとからなる共重合体部分のポリプロピレン成分量で変化させることができる。
【0062】
ポリオレフィン系樹脂層を構成するポリオレフィン系樹脂としては、単体ポリマーではポリエチレンが好ましく、さらに低密度ポリエチレンが好ましく、特に直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。ランダム共重合体では、プロピレン・ランダム共重合体が好ましく、特に好ましくはプロピレンとエチレンまたはブテン−1との共重合体が好ましく、その共重合成分の割合は、2〜15重量%の範囲が好ましい。ブロック共重合体では、ポリプロピレン・ブロック共重合体が好ましく、特に好ましくはポリプロピレンとエチレン、ブテン−1との共重合体が好ましい。共重合の割合は、5〜20重量%の範囲の共重合体が好ましい。また、これらのポリオレフィン系樹脂の融点はヒートシール性の点から110〜165℃の範囲が好ましい。
【0063】
本発明の積層フィルムにおいては、基材となるポリエステルフィルムの一方の面に無機薄膜層を積層し、その上に、接着層を介して又は介しないでシーラント層が積層されるが、接着層を介してシーラント層を積層する場合には、接着剤層を形成する際に使用されるコート剤は、公知のものが使用される。例えば、イソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、ポリオレフィン系、アルキルチタネート系等のコート剤が挙げられる。これらの中で密着性、耐熱性、耐水性などの効果を勘案すると、イソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系のコート剤が好ましく、イソシアネート化合物、ポリウレタンおよびウレタンプレポリマーの1種または2種以上の混合物および反応生成物、ポリエステル、ポリオールおよびポリエーテルの1種または2種以上とイソシアネートとの混合物および反応生成物、またはこれらの溶液または分散液が好ましく使用される。
【0064】
接着剤層の厚みは、シーラント層との密着性を充分高めるためには、少なくとも乾燥厚みで0.1g/m〜3g/mが好ましく、より好ましくは0.5g/m〜2.5g/mの範囲が好ましい。乾燥厚みが3g/m以上であると、高い密着性を得ることができず好ましくない。
【0065】
接着剤層を塗布する方法は特に限定されず、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング等の通常の方法を用いることができる。
【0066】
積層フィルムの水蒸気透過度(g/m2・day)は好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。積層フィルムの酸素透過度が5を超えると、十分なガスバリア性が得られない。
【0067】
積層フィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)は好ましくは40以下、より好ましくは30以下である。積層フィルムの酸素透過度が40を超えると、十分なガスバリア性が得られない。
【0068】
以上のような本発明の積層フィルムは、積層フィルムの構成中に無機薄膜層を有することにより、酸素バリア性および水蒸気バリア性に優れたガスバリア性積層フィルム(積層体)となる。
【0069】
さらに、積層フィルムにおいて、無機薄膜層または基材フィルムとヒートシール性樹脂層との間またはその外側に、印刷層や他のプラスチック基材および/または紙基材を少なくとも1層以上積層していてもよい。
【0070】
印刷層を形成する印刷インクとしては、水性および溶媒系の樹脂含有印刷インクが好ま
しく使用できる。ここで印刷インクに使用される樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタ
ン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂およびこれら
の混合物が例示される。印刷インクには、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑
剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、消泡剤、架橋剤、耐ブロッキング剤、酸
化防止剤などの公知の添加剤を含有させてもよい。印刷層を設けるための印刷方法として
は、特に限定されず、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの公知
の印刷方法が使用できる。印刷後の溶媒の乾燥には、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線乾
燥など公知の乾燥方法が使用できる。
【0071】
他方、他のプラスチック基材や紙基材としては、充分な積層体の剛性および強度を得る
観点から、紙、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂および生分解性樹脂等が好ましく用い
られる。また、機械的強度の優れたフィルムとする上では、二軸延伸ポリエステルフィル
ム、二軸延伸ナイロンフィルムなどの延伸フィルムが好ましい。
【実施例】
【0072】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は当然以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた評価方法は以下の通りである。
【0073】
(1)原料ポリエステル及びフィルムを構成するポリエステル中に含まれるテレフタル酸及びイソフタル酸成分の含有率
クロロホルムD(ユーリソップ社製)とトリフルオロ酢酸D1(ユーリソップ社製)を10:1(体積比)で混合した溶媒に、原料ポリエステル樹脂又はポリエステルフィルムを溶解させて、試料溶液を調製した。その後、調製した試料溶液をNMR装置(Varian社製核磁気共鳴分析計:GEMINI−200)を用いて、温度23℃、積算回数64回の測定条件で試料溶液のプロトンのNMRを測定した。NMR測定では、所定のプロトンのピーク強度を算出して、酸成分100モル%中のテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分の含有率(モル%)を算出した。
【0074】
(2)原料樹脂およびフィルムを構成している樹脂の極限粘度(IV)
試料を130℃で一昼夜真空乾燥後、粉砕又は切断し、その80mgを精秤して、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(体積比)の混合溶液に80℃で30分間、加熱溶解した。80℃で加熱溶解の後、常温まで冷却し、メスフラスコ内で前記割合で調製した混合溶媒を足して20mlにした後、30℃で測定した(単位:dl/g)。極限粘度の測定にはオストワルド粘度計を用いた。
【0075】
(3)基材フィルムの厚み
PEACOCKダイアルゲージ(尾崎製作所製)を用いて、縦および横方向のフィルム1m長を5mm毎に測定した厚みTn(n=1〜200)(μm)を200点測定し、その平均値を基材フィルムの厚みとした。
【0076】
(4)基材フィルムの縦、横方向の熱収縮率
基材フィルムについて、幅10mmにサンプリングして、室温(27℃)にて200mmの間隔に標線をマークして、標線の間隔を測定(L 0)した後、そのフィルムを紙の間に挟み、150℃の温度に制御した熱風オーブンに入れ、30分処理した後、取り出した後、標線の間隔を測定(L)して、次式から熱収縮率を求めた。縦方向と横方向の双方向についてそれぞれ試料を採取して実施する。

熱収縮率(%)={(L 0−L)/L 0}×100
【0077】
(5)基材フィルムの厚み方向の屈折率
JIS K7142に準拠して、アッベ屈折計NAR-1T(株式会社アタゴ製)を用いて、厚み方向の屈折率(Nz)を求めた。光源は、ナトリウムD線とし、屈折率1.74のテストピースを使用し、中間液としてヨウ化メチレンを使用した。
【0078】
(6)基材フィルムの厚みムラ
PEACOCKダイアルゲージ(尾崎製作所製)を用いて、縦および横方向のフィルム1m長を5mm毎に測定した厚みTn(n=1〜200)(μm)を200点測定し、この時の最大厚みをTmax,最小厚みをTmin,平均厚みをTave として、下記の式(1)より求めた。
厚みムラ={(Tmax−Tmin)/Tave}×100 (%)・・・ (1)
【0079】
(7)積層フィルムの水蒸気透過度の評価方法
無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムについて、JIS−K7129−B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製「PERMATRAN−W 3/33MG」)を用い、測定時の試料周囲の高湿度側の温度及び湿度をそれぞれ温度40℃、湿度90%RHとした雰囲気下で、常態(外部からストレスや力を加えていない平常な状態)での水蒸気透過度を測定した。なお、水蒸気透過度の測定は、二軸延伸ポリエステルフィルム側から無機薄膜層側に水蒸気が透過する方向で行った。
【0080】
(8)積層フィルムの酸素透過度の評価方法
無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムについて、JIS−K7126−2の電解センサー法(付属書A)に準じて、酸素透過度測定装置(MOCON社製「OX−TRAN2/20」)を用い、測定時の試料周囲の高湿度側の温度及び湿度をそれぞれ温度23℃、湿度65%RHとした雰囲気下で、常態での酸素透過度を測定した。なお、酸素透過度の測定は、二軸延伸ポリエステルフィルム側から金属薄膜層側に酸素が透過する方向で行った。
【0081】
(9)無機薄膜層の膜厚の評価方法
無機薄膜層の膜厚は蛍光X線分析法により、予め膜厚の既知なフィルムを使い作成した検量線を用いて求めた。膜厚、組成を変更した金属薄膜を数種類作成し、蛍光X線装置で測定することにより膜厚測定用の検量線とした。蛍光X線分析条件は、励起X線管の条件として管電圧を50kV、管電流を40mAとして測定した。
【0082】
(実施例1)
(ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂の調整)
飲料用ペットボトルから残りの飲料などの異物を洗い流した後、粉砕して得たフレークを押出機で溶融し、順次目開きサイズの細かなものにフィルタを変えて2回更に細かな異物を濾別し、3回目に50μmの最も小さな目開きサイズのフィルタで濾別して、ポリエステル再生原料を得た。得られた樹脂の構成は、テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール=97.0/3.0//100(モル%)で、樹脂の極限粘度は0.70dl/gであった。これをポリエステルAとする。
【0083】
(フィルムの作製)
ポリエステルBとしてテレフタル酸//エチレングリコール=100//100(モル%)からなる極限粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を、ポリエステルCとして、ポリエステルBに平均粒子径1.5μmの不定形シリカを0.3%含有するマスターバッチとしてものを作製した。各原料は、33Paの減圧下、125℃で8時間乾燥した。それらをA/B/C=70/20/10(重量比)となるよう混合したものを、一軸押出機に投入した。押出機から、メルトライン、フィルタおよびT−ダイまでは樹脂の温度が280℃となるように温度設定した。ただし、押出機のスクリューの圧縮部の開始点から30秒間は樹脂の温度が305℃となるように設定し、その後は再び、280℃となるようにした。
【0084】
T−ダイから押し出された溶融物を冷却ロールに密着させ、未延伸シートとし、それを引き続き118℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に1.41倍延伸し(MD1)、さらに128℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に2.92倍延伸(MD2)した。その縦延伸したシートをテンターに導き、121℃で予熱した後に、131℃で4.3倍横延伸した。引き続き熱固定として、180℃、リラックスなし(0%)で2.5秒行った(TS1)後に引き続き231℃、リラックス5%、3.0秒行った(TS2)後に引き続き222℃、リラックスなしで2.5秒行った(TS3)。引き続き、同じテンター内で、120℃で6.0秒間の冷却を行い、最終的にワインダーで巻き取ることで厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0085】
(無機薄膜層の形成)
次に、得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、無機薄膜層として二酸化ケイ
素と酸化アルミニウムの複合無機酸化物層を電子ビーム蒸着法で形成した。蒸着源として
は、3mm〜5mm程度の粒子状SiO2(純度99.9%)とA123(純度99.9
%)を用いた。ここで複合酸化物層の組成は、SiO2/A123(質量比)=60/
40であった。またこのようにして得られたフィルム(無機薄膜層/二軸延伸ポリエステルフィルム)における無機薄膜層(SiO2/A123複合酸化物層)の膜厚は13nmであった。
【0086】
(シーラント層の形成)
次に、得られた無機薄膜層を備えた積層フィルムと厚さ40μmのポリエチレンフィルム(東洋紡株式会社製「L4102」)をウレタン系の接着剤(東洋モートン社製、TM569、CAT10L、酢酸エチルを33.6:4.0:62.4(重量比))を用いてドライラミネート法により基材フィルムの無機薄膜層の面に貼り合わせ、40℃にて4日間エージングを施すことにより、積層体を得た。尚、貼り合わせ条件は、ライン速度20m/min、ドライヤー温度80℃、乾燥後の塗布量3g/m2となるように実施した。
【0087】
以上のようにして、二軸延伸ポリエステルフィルムの上に無機薄膜層およびシーラント層をこの順に備えた本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、上記の通り、酸素透過度、水蒸気透過度を評価した。
【0088】
(実施例2)
ポリエステル原料を A/B/C=80/10/10(重量比)となるよう混合したも
のとした以外は、実施例1と同様の方法にて厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0089】
(実施例3)
押出機のスクリューの圧縮部の開始点から45秒間は樹脂の温度が305℃となるように設定し、最終的に厚さ12μmのフィルムとした以外は、実施例2と同様の方法において二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0090】
(実施例4、5)
(ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂の調整)
実施例1とは異なる飲料用ペットボトルから残りの飲料などの異物を洗い流した後、粉砕して得たフレークを押出機で溶融し、順次目開きサイズの細かなものにフィルタを変えて2回更に細かな異物を濾別し、3回目に50μmの最も小さな目開きサイズのフィルタで濾別して、ポリエステル再生原料を得た。得られた樹脂の構成は、テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール=95.0/5.0//100(モル%)で、樹脂の極限粘度は0.70dl/gであった。これをポリエステルDとする。
【0091】
(フィルムの作成)
ポリエステル原料をD/B/C=60/30/10(実施例4)、=80/10/10(実施例5)とした以外は、実施例1と同様の方法にて最終的に厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0092】
(実施例6)
無機薄膜層としてアルミニウム合金を電子ビーム蒸着法で形成した以外は、実施例1と同様の方法にて厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。無機薄膜層の形成については、下記の通りである。
【0093】
(無機薄膜層の形成)
実施例1のフィルムの作製で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、無機薄膜層としてアルミニウム合金を電子ビーム蒸着法で形成した。蒸着源としては、マグネシウムを2mol%含んだアルミニウム合金を用いた。得られたフィルム(無機薄膜層/二軸延伸ポリエステルフィルム)における無機薄膜層(アルミニウム薄膜層)の膜厚は13nmであった。
以上のようにして、二軸延伸ポリエステルフィルムの上に無機薄膜層およびシーラント層を備えた本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、上記の通り、酸素透過度、水蒸気透過度を評価した。
【0094】
(実施例7)
無機薄膜層としてアルミニウム合金と無機酸化物である二酸化ケイ素を電子ビーム蒸着法で形成した以外は、実施例1と同様の方法にて厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。無機薄膜層の形成については、下記の通りである。
【0095】
(無機薄膜層の形成)
実施例1のフィルムの作製で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、無機薄膜層としてアルミニウム合金と二酸化ケイ素の複合物を電子ビーム蒸着法で形成した。蒸着源としては、マグネシウムを2mol%含んだアルミニウム合金と3mm〜5mm程度の粒子状SiO2(純度99.9%)を用いた。ここで複合物層の組成は、アルミニウム合金/二酸化ケイ素(質量比)=40/60であった。またこのようにして得られたフィルム(無機薄膜層/二軸延伸ポリエステルフィルム)における無機薄膜層(アルミニウム合金/二酸化ケイ素 複合物層)の膜厚は13nmであった。
以上のようにして、二軸延伸ポリエステルフィルムの上に無機薄膜層およびシーラント層を備えた本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、上記の通り、酸素透過度、水蒸気透過度を評価した。
【0096】
(比較例1)
横延伸終了後のフィルムを引き続き熱固定として、231℃、リラックス5%、3.0秒行った(TS2)後に引き続き222℃、リラックスなしで2.5秒行った(TS3)とし、TS1および冷却工程を設けなかった以外は、実施例2と同様の方法において、厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0097】
(比較例2)
押出機から、メルトライン、フィルタおよびT−ダイの全ての領域において樹脂の温度が280℃となるように温度設定した以外は、実施例2と同様の方法において、厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0098】
(比較例3)
通常の重合方法にて、テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール=90.0/10.0//100(モル%)で、樹脂の極限粘度は 0.70dl/gを作成した。これをポリエステルEとする。ポリエステル原料として、E/B/C=55/35/10(重量比)した以外は、実施例2と同様の方法において厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0099】
(比較例4)
押出機から、メルトライン、フィルタおよびT−ダイまでは樹脂の温度が280℃となるように温度設定した。ただし、押出機のスクリューの圧縮部の開始点から90秒間は樹脂の温度が305℃となるように設定し、その後は再び、280℃となるようにした。T−ダイから押し出された溶融物を冷却ロールに密着させ、未延伸シートとし、それを引き続き110℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に1.2倍延伸し(MD1)、さらに120℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に2.8倍延伸(MD2)した。その縦延伸したシートをテンターに導き、100℃で予熱した後に、105℃で3.9倍横延伸した。その後に熱固定として、228℃、リラックスなしで3.0秒間(TS2)および228℃、リラックス5.0%で2.5秒間処理し、TS1および冷却工程を設けなかった以外は、実施例2と同様の方法において、厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0100】
(比較例5)
通常の重合方法にて、テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール=97.0/3.0//100(モル%)で、樹脂の極限粘度は 0.65dl/gを作成した。こ
れをポリエステルFとする。ポリエステル原料として、F/B/C=80/10/10(重量比)し、押出機から、メルトライン、フィルタおよびT−ダイの全ての領域において樹脂の温度が310℃となるように温度設定した。T−ダイから押し出された溶融物を冷却ロールに密着させ、未延伸シートとし、それを引き続き126℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に1.6倍延伸し(MD1)、さらに126℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に1.3倍延伸し(MD2)、さらに118℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に2.3倍延伸(MD3)した。その縦延伸したシートをテンターに導き、110℃で予熱した後に、120℃で4.6倍横延伸した。その後に熱固定として、205℃、リラックスなしで5.0秒間(TS2)処理し、TS1、TS3および冷却工程を設けなかった以外は、実施例2と同様の方法において、厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0101】
(比較例6)
押出機から、メルトライン、フィルタおよびT−ダイまでは樹脂の温度が280℃となるように温度設定した。ただし、押出機のスクリューの圧縮部の開始点から70秒間は樹脂の温度が300℃となるように設定し、その後は再び、280℃となるようにした。T−ダイから押し出された溶融物を冷却ロールに密着させ、未延伸シートとし、それを引き続き107℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に3.9倍延伸し(MD1)した。その縦延伸したシートをテンターに導き、105℃および115℃で各2秒間予熱した後に、120℃、130℃、145℃および155℃の4つの延伸ゾーンで各2秒間で最終的に4.1倍横延伸した。引き続き熱固定として、220℃、リラックスなし(0%)で2.0秒行った(TS1)後に引き続き235℃、リラックスなし、2.0秒行った(TS2)後に引き続き195℃、リラックス2.0%、2.5秒行った(TS3)。冷却工程は設けずに、最終的にワインダーで巻き取ることでそれ以外は、実施例2と同様の方法において、厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0102】
(比較例7)
ポリエステル原料をB/C=90/10(重量比)とし、押出機から、メルトライン、フィルタおよびT−ダイまでは樹脂の温度が280℃となるように温度設定した。ただし、押出機のスクリューの圧縮部の開始点から30秒間は樹脂の温度が300℃となるように設定し、その後は再び、280℃となるようにした。最終的に厚みは、31μmとした以外は、比較例6と同様の方法において、二軸延伸PETフィルムに無機薄膜層およびシーラント層を持つ積層フィルムを得た。
【0103】
実施例1〜7で得られた二軸延伸PETフィルムは、厚みムラが良好であり、無機薄膜層およびシーラント層を設けた積層フィルムの水蒸気透過度や酸素透過度は良好であり、優れたガスバリア性を示した。
【0104】
一方、比較例1はTS1および冷却工程がないため、急激な温度変化による収縮などにより厚みムラが大きく、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が悪かった。比較例2は、スクリューの圧縮部の温度が低いため、十分な溶融ができず、厚みムラが大きく、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が悪かった。比較例3は、イソフタル酸成分の含有率が高く、結晶性が低いため、樹脂が柔らかく、延伸で十分な力がかからず厚みムラが大きく、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が悪かった。比較例4は、TD延伸温度が低く、熱固定後の冷却工程がないため、急激な冷却により厚みムラが大きく、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が悪かった。比較例5は、MD延伸を3段で実施しているが、押出し温度が310℃と高く、フィルムの極限粘度が低くなり、熱固定での緩和が不十分で熱収縮率が高く、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が悪かった。比較例6は、熱固定後の冷却工程がないため、急激な冷却により厚みムラが悪く、無機薄膜層の厚みが均一にならず、ガスバリア性が悪かった。比較例7はペットボトルからなるリサイクル原料を用いていないため、TS3温度を低くすることで徐冷し、厚みムラは小さかったが、TS3の温度不足により厚み方向の屈折率が低かった。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によって、高品位なペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を含むポリエステルフィルムを用いた積層フィルムの提供が可能となり、更に詳しくは、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を含み、低熱収縮性、高ラミネート強度および厚みムラの小さいポリエステルフィルムを用いた無機薄膜層およびシーラント層を持つ優れたガスバリア性を示す積層フィルムの提供を可能とした。
【符号の説明】
【0109】
1・・・スクリュー
2・・・フライト
3・・・バレル
4・・・供給部
5・・・圧縮部
6・・・計量部
図1