(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501687
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】エンジンの排気接合部構造
(51)【国際特許分類】
F02F 1/42 20060101AFI20190408BHJP
F01N 13/10 20100101ALI20190408BHJP
【FI】
F02F1/42 G
F01N13/10
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-189681(P2015-189681)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-66884(P2017-66884A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】宮田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 諭
(72)【発明者】
【氏名】秋朝 智也
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直也
【審査官】
二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−028706(JP,A)
【文献】
実開昭56−127346(JP,U)
【文献】
特開2009−236110(JP,A)
【文献】
特開2006−083756(JP,A)
【文献】
特開2007−016672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00−1/42,5/00−11/00,
F01N 1/00−1/24,5/00−5/04,
13/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに設けられている排気ポートと、前記シリンダヘッドに取付けられている排気通路とを備え、前記排気通路と前記排気ポートとで排気経路が形成されているエンジンの排気接合部構造であって、
前記シリンダヘッドにおける前記排気ポートの出口壁と、前記排気通路の入口壁とが、これら両者の間に配置されるガスケットを挟んで連結されており、
前記排気ポートは、前記出口壁に開口するポート出口が最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられているとともに、前記排気通路は、前記入口壁に開口する通路入口が最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられ、
前記排気ポートにおける前記ポート出口から所定長さ燃焼室側へ寄った箇所の底部に、前記排気ポートの断面形状を円形状から上下に長い長円形に変化させることにより、出口壁側が低くなる段差が設けられているエンジンの排気接合部構造。
【請求項2】
前記排気ポートの傾斜角度、及び前記排気通路の傾斜角度がそれぞれ2〜7度に設定されている請求項1に記載のエンジンの排気接合部構造。
【請求項3】
前記排気ポートにおける前記2〜7度の傾斜角度の長さ範囲が前記ポート出口から30〜70mmに、かつ、前記排気通路における前記2〜7度の傾斜角度の長さ範囲が前記通路入口から30〜70mmに、それぞれ設定されている請求項2に記載のエンジンの排気接合部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンにおけるシリンダヘッドの排気側と排気マニホルドとの接続部の構造など、エンジンの排気接合部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジンの排気接合部構造、即ち、シリンダヘッドに設けられた排気ポートと、シリンダヘッドに取付けられている排気通路とを備え、排気通路と排気ポートとで排気経路が形成されているエンジンの排気接合部構造としては、特許文献1や特許文献2において開示されるものが知られている。この場合、特許文献2(
図1,3参照)に記載されるように、シリンダヘッドと排気マニホルドとの間には、通常、ガスケットが介装されている。
【0003】
ところで、ディーゼルエンジンにおいては、無負荷(又は軽負荷)運転を行うと、(1)燃焼温度が低い、(2)燃料の噴射率が低く噴霧が粗くなる、(3)ピストンとシリンダとのクリアランスが大きいことから、シリンダ内に未燃焼燃料、エンジンオイルが発生し、排気と一緒にシリンダ外に排出される、といった慢性的な問題がある。
【0004】
エンジンが普通に運転され続けることによる温度上昇に伴い、燃焼温度や燃料噴射率は高くなり、また、未燃焼燃料やエンジンオイルは燃焼されて燃焼ガスとなることから、通常、前述した(1)〜(3)の問題は、一般的な運転状態においては解消されている。
【0005】
しかしながら、長時間アイドリング状態が続くとか、冬季に軽負荷運転が続くなど、長時間に亘って無負荷(又は軽負荷)運転が行われると、未燃焼ガスなどが、マフラーや排気マニホルドといった排気系内に滞留してしまうことがある。
【0006】
この場合、シリンダヘッドの排気ポートや排気マニホルドに滞留している未燃焼燃料やエンジンオイルなどによる液状未燃焼物が、シリンダヘッドと排気マニホルドとの接合部(接続部)から漏れ出すことがあった。この排気接合部にはガスケットが設けられていることも多いが、この場合では経時によりガスケットがへたるので、前記漏れは起こりうるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−161225号公報
【特許文献2】特開2004−156547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、主に排気系のさらなる構造見直しにより、無負荷(又は軽負荷)運転が長時間行われても、シリンダヘッドと排気マニホルドとの接合部から、液状未燃焼物が漏れ出すことが回避又は軽減されるように、改善されたエンジンの排気接合部構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、シリンダヘッド2に設けられている排気ポート13と、前記シリンダヘッド2に取付けられている排気通路9とを備え、前記排気通路9と前記排気ポート13とで排気経路Hが形成されているエンジンの排気接合部構造において、
前記シリンダヘッド2における前記排気ポート13の出口壁16と、前記排気通路9の入口壁17とが、これら両者16,17の間に配置されるガスケット18を挟んで連結されており、
前記排気ポート13は、前記出口壁16に開口するポート出口13aが最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられているとともに、前記排気通路9は、前記入口壁17に開口する通路入口9aが最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられ
、
前記排気ポート13における前記ポート出口13aから所定長さ燃焼室側へ寄った箇所の底部に、前記排気ポート13の断面形状を円形状から上下に長い長円形に変化させることにより、出口壁側が低くなる段差19が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のエンジンの排気接合部構造において、
前記排気ポート13の傾斜角度α、及び前記排気通路9の傾斜角度βがそれぞれ2〜7度に設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、
請求項2に記載のエンジンの排気接合部構造において、
前記排気ポート13における前記2〜7度の傾斜角度αの長さ範囲L1が前記ポート出口13aから30〜70mmに、かつ、前記排気通路9における前記2〜7度の傾斜角度βの長さ範囲L2が前記通路入口9aから30〜70mmに、それぞれ設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、シリンダヘッドと排気通路との接合部が最も高さ位置が高くなる状態に、排気ポート及び排気通路に傾斜が付けられているので、未燃焼燃料やエンジンオイルなどによる液状未燃焼物が燃焼室から排出されても、重力により、排気ポートにおいては燃焼室側に移動し、排気通路では排気出口側に移動するから、接合部に滞留しないようになる。従って、接合部には液状未燃焼物が存在しない、又は存在しても僅かであるから、接合部から液状未燃焼物が漏れ出すこと
を軽減又は回避することが可能になる。
その結果、主に排気系のさらなる構造見直しにより、無負荷(又は軽負荷)運転が長時間行われても、排気マニホルドなど排気通路とシリンダヘッドとの接合部から、液状未燃焼物が漏れ出すことが回避又は軽減されるように、改善されたエンジンの排気接合部構造を提供することができる。
【0013】
請求項1の発明によれば、排気ポートにおけるポート出口から所定長さ燃焼室側へ寄った箇所の底部に、
排気ポートの断面形状を円形状から上下に長い長円形に変化させて出口壁側が低くなる段差が設けられているので、排気ポート内を燃焼室側に移動する液状未燃焼物は、
その段差にて捕捉されるようになって、燃焼室側にダイレクトに戻ってしまう不都合を避けることができ、好都合である。
【0014】
請求項2の発明のように、排気ポートの傾斜角度及び排気通路の傾斜角度を2〜7度に設定すれば、重力によって液状未燃焼物が接合部から遠ざかる方向に穏やかに移動できるようにしながら、7度を超えた急な傾斜角度により接合部において排気経路が急な角度で折れ曲がることもなく、好都合である。
【0015】
請求項3の発明のように、排気ポート及び排気通路における傾斜角度が付いた部分の長さを、それぞれ接合部から30〜70mmの長さに設定すれば、排気ポート及び排気通路を設計する際の制約条件(制限箇所)を極力短くして、設計の自由度をなるべく損なわないようにしながら、液状未燃焼物の接合部からの漏れ出し防止効果を発揮させることができる、という利点が
ある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】(a)は排気ポートの段差を示す正面図(
図3の矢視Z)、(b)は排気ポートの別構造を示す要部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明によるエンジンの排気接合部構造の実施の形態を、立形直列3気筒ディーゼルエンジンの場合について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
このエンジンは、
図1、
図2に示されるように、シリンダブロック1の上部にシリンダヘッド2が組み付けられ、シリンダヘッド2の上部にヘッドカバー3が組み付けられ、シリンダブロック1の下部にオイルパン4が組み付けられ、シリンダブロック1の前部にギヤケース5が組み付けられている。シリンダブロック1の後部にはフライホイールハウジング6が組み付けられ、フライホイールハウジング6内には、クランク軸7に組み付けられたフライホイール(図示省略)が収容されている。
【0019】
このエンジンは、
図2に示すように、シリンダヘッド2の左側には吸気マニホルド8が組み付けられ、シリンダヘッド2の右側には、概略形状を仮想線にて示す排気マニホルド(排気通路の一例)9が組み付けられている。なお、図示は省略するが、排気マニホルド9の上部に過給機を設け、その過給機からパイプを介して吸気マニホルド8の吸気入口部に過給がなされる状態に構成しても良い。次に、排気経路の構造(エンジンの排気接合部構造)について説明する。
【0020】
〔実施形態1〕
図3に示されるように、シリンダブロック1の上部であるシリンダ1Aに収容されているピストン10と、シリンダヘッド2との間に燃焼室11が形成されている。燃焼室11には、吸気バルブ(図示省略)が配置される吸気ポート(図示省略)と、排気バルブ12が配置される排気ポート13とが臨んでいる。排気ポート13、及び前述の排気マニホルド9内の内部排路9Aなどにより、エンジンの排気経路Hが構成されている。
【0021】
シリンダヘッド2の排気ポート13は、環状の金属材料でなるバルブシート14よりなる排気入口15を有している。この排気入口15は、排気バルブ12の下端に形成されている排気弁体12Aにより閉じられたり(
図3の状態)、排気バルブ12の下降移動によって開かれたりする。ピストン10が上昇移動する排気工程においては、排気弁体12Aが
図3に示される閉じ位置から少し下がり、排気入口15が開いて排気ガスなどが排気ポート13に流れて行く。
【0022】
図3に示されるように、シリンダヘッド2における排気ポート13の出口壁16と、内部排路9Aの始端となる排気マニホルド9の入口壁17とが、これら両者16,17の間に配置されるガスケット18を挟んだ状態で、ボルト(図示省略)などにより連結されている。ガスケット18は、厚さの薄い円環状の一般的なものである。排気ポート13は、出口壁16に開口するポート出口13aが最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられており、かつ、内部排路9Aにも、入口壁17に開口する通路入口9aが最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられている。
【0023】
排気ポート13の傾斜は、燃焼室11側が低くなる(出口壁16側が高くなる)状態に下がりとなるポート傾斜角度αとされており、ポート傾斜角度αは2〜7度の範囲で付けられ、好ましくは3度に設定されている。排気通路9の傾斜は、入口壁17側が高くなる状態に下がりとなるエキマニ傾斜角度βとされており、エキマニ傾斜角度βは2〜7度の範囲で付けられ、好ましくは3度に設定されている。なお、
図3において、Aは水平線である。また、内部排路9Aは、排気マニホルド9の途中で横方向に曲がって延びる構成とされている。
【0024】
そして、排気ポート13における3度(2〜7度)のポート傾斜角度αの長さ範囲L1は、ポート出口13aから燃焼室11側へ30〜70mmに、好ましくは50mmに設定されている。内部排路9Aにおける3度(2〜7度)のエキマニ傾斜角度βの長さ範囲L2は、通路入口9aから排気流れの下流側に向けて30〜70mmに、好ましくは50mmに設定されている。加えて、シリンダヘッド2は、排気ポート13におけるポート出口13aから所定長さ燃焼室11側へ寄った箇所の底部に、出口壁16側が低くなる段差(「窪み又は穴部或いは出口壁側が低くなる段差」の一例)19が設けられている。
【0025】
段差19は、例えば、
図3の矢視Zを表した
図4(a)に示すように、排気ポート13の断面形状として円形状の箇所から上下に長い長円形(角丸形状)に変化させることにより構成されている。段差19の上下長さdは排気ポート13の径寸法や断面積にもよるが、3〜7mm、好ましくは5mmに設定されている。なお、排気ポート13の断面形状は、この段差19の箇所から出口壁16側に向かうに連れて、長円形から円形へと変化させても良い。
図3に示される構造では、排気ポート13におけるポート出口13aから燃焼室11側へ50mm寄った箇所に段差19が構成されている。
【0026】
このような排気経路Hを有するディーゼルエンジンにおいては、
図3に示すように、長時間に亘って無負荷(又は軽負荷)運転が行われることに起因して、未燃焼燃料やエンジンオイルなどの液状未燃焼物rが燃焼室11から排出されると、排気ポート13内の液状未燃焼物rは、ポート傾斜角度αによる重力により燃焼室11側に向けて移動し、段差19の部位に溜る。そして、内部排路9Aの液状未燃焼物rは、エキマニ傾斜角度βによる重力により排気出口(通路入口9aと反対側であって、図示省略)方向(
図3の紙面右方向)に移動して行く。
従って、液状未燃焼物rがガスケット18のある接合部に溜まらないようになるので、接合部から液状未燃焼物rが漏れ出るおそれが解消又は大きく軽減されるようになる。
【0027】
なお、排気経路Hに存在する液状未燃焼物rは、エンジンが定常運転されるなど、通常の運転状態になれば、燃焼ガスとなってマフラー外に出されるようになる。このように、エンジンが温度の高い通常運転になると、排気経路H外に排出されるので、排気ポート13や内部排路9Aなどの排気経路Hに滞留することは生じないようになる。
【0028】
以上説明したように、本発明によるエンジンの排気接合部構造においては、シリンダヘッド2における排気ポート13の出口壁16と、排気通路9の入口壁17とが、これら両者16,17の間に配置されるガスケット18を挟んで連結されており、排気ポート13は、出口壁16に開口するポート出口13aが最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられているとともに、排気通路9は、入口壁17に開口する通路入口9aが最も高さ位置が高くなる状態に傾斜が付けられている。
排気ポート13の傾斜角度α、及び排気通路9の傾斜角度βがそれぞれ2〜7度に、好ましくは各々3度に設定されている。ポート傾斜角度αの長さ範囲L1は、ポート出口13aから30〜70mm、好ましくは50mmに、かつ、エキマニ傾斜角度βの長さ範囲L2は、通路入口9aから30〜70mm、好ましくは50mmに、それぞれ設定されている。また、排気ポート13におけるポート出口13aから所定長さ燃焼室11側へ寄った箇所の底部に、
排気ポート13の断面形状を円形状から上下に長い長円形に変化させることにより、出口壁側が低くなる段差19が設けられている。
【0029】
前記構成により、次の1)〜3)に示す作用効果も得られる。
1)シリンダヘッド2内の液状未燃焼物rは、シリンダ1A内に戻り易くなる。
2)排気ポート13のポート出口13a部の付近液状未燃焼物rが
段差19に滞留し、排気マニホルド9との接合部まで到達し難くなる。また、
段差19の壁面により、液状未燃焼物rが排気に晒され難くなり、接合部に押し出されることが生じ難くなる。
3)排気マニホルド9の通路入口9a付近の液状未燃焼物rが接合部に戻り難くなる。
上記作用効果1)〜3)により、液状未燃焼物rが接合部から漏れ出ることは生じないようになる。
【0030】
〔別実施形態〕
例えば、
図4(b)に示されるように、角度が漸次変化する曲線状の経路を有する排気ポート13であって、ポート傾斜角度αのうち最も小さい角度となるポート出口13aで2〜3度に設定される、という構成のシリンダヘッド2を有するエンジンの接合部構造でも良い。
また、
参考実施形態としては、図4(b)に示されるように、排気ポート13の経路途中の底部において、周方向へ帯状に広がる穴部(「窪み又は穴部或いは出口壁側が低くなる段差」の一例)19を設ける構成でも良い。
【符号の説明】
【0031】
2 シリンダヘッド
9 排気通路
9a 通路入口
13 排気ポート
13a ポート出口
16 出口壁
17 入口壁
18 ガスケット
19
段差
H 排気経路
L1 ポート傾斜角度の長さ範囲(傾斜角度αの長さ範囲)
L2 エキマニ傾斜角度の長さ範囲(度傾斜角度βの長さ範囲)
α ポート傾斜角度(排気ポートの傾斜角度)
β エキマニ傾斜角度(排気通路の傾斜角度)