特許第6509178号(P6509178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6509178深い圧縮層と高い損傷閾値を有するイオン交換可能なガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509178
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】深い圧縮層と高い損傷閾値を有するイオン交換可能なガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20190422BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C03C3/097
   C03C21/00 101
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-201540(P2016-201540)
(22)【出願日】2016年10月13日
(62)【分割の表示】特願2013-542086(P2013-542086)の分割
【原出願日】2011年11月29日
(65)【公開番号】特開2017-1952(P2017-1952A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年11月2日
(31)【優先権主張番号】61/417,941
(32)【優先日】2010年11月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ダナ シー ブックバインダー
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー マイケル グロス
(72)【発明者】
【氏名】マーセル ポツザック
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−286245(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047521(US,A1)
【文献】 Michael J. Toplis et al.,A 31P MAS NMR study of glasses in the system xNa2O-(1-x)Al2O3-2SiO2-yP2O5,Journal of Non-Crystalline Solids,NL,Elsevier Science B.V.,1998年 2月,Volume 224, Issue 1,Pages 57-68,ISSN:0022-3093
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/076 − 3/097
C03C 21/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40から70mol%のSiO2、16から28mol%のAl23、1から14mol%のP253から8mol%の、および少なくとも1つのアルカリ金属酸化物(R2O)を含み、R2OがNa2OおよびK2Oからなる群より選択され、0.75≦[(P25(mol%)+R2O(mol%))/M23(mol%)]≦1.3であり、M23=Al23+B23であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
前記SiO2が40から64mol%の範囲内であることを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項3】
12から16mol%のR2Oをさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載のガラス。
【請求項4】
前記ガラスがリチウムを含まないことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のガラス。
【請求項5】
前記ガラスがイオン交換されたものであり、かつ前記ガラスのビッカース亀裂開始閾値が、少なくとも20kgf(約196N)であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のガラス。
【請求項6】
前記ガラスが、該ガラスの表面から少なくとも40μmの層深さまで、イオン交換されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のガラス。
【請求項7】
前記ガラスのアニール点が、少なくとも600℃であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のガラス。
【請求項8】
アルミニウムが前記ガラス内に四面体の酸化アルミニウム単位の形で存在し、かつリンが前記ガラス内に四面体の酸化リン単位の形で存在することを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載のガラス。
【請求項9】
ホウ素が前記ガラス内に四面体の酸化ホウ素単位の形で存在し、かつリンが四面体の酸化リン単位の形で存在することを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のガラス。
【請求項10】
前記ガラスのモル容積が、少なくとも32cm3/molであることを特徴とする請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項11】
前記ガラスがイオン交換され、該ガラスが、摩耗時リング・オン・リング荷重を受けると80kgf(約784.5N)超の荷重で破壊されることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が引用されその全体が参照することにより本書に組み込まれる、2010年11月30日に出願された米国仮特許出願第61/417941号の優先権の利益を米国特許法第119条の下で主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、耐損傷性ガラスに関する。より具体的には、本開示は耐損傷性のリン酸塩含有ガラスに関する。さらに具体的には、本開示はイオン交換により強化された、耐損傷性のリン酸塩含有ガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
多くの用途においてガラスはイオン交換により化学強化され、この化学強化によって、ガラスに圧縮表面層が形成される。この層は、衝撃による亀裂の伝播を妨げる。組成の中にホウ素をB23として含有することにより、さらなる耐損傷性を提供することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
イオン交換により化学強化可能でありかつ高い耐損傷性を有する、SiO2、Al23、およびP25を含むガラスが提供される。このリン酸塩含有ガラスは、ガラス内のシリカ(SiO2)が、四面体配位のアルミニウムおよびリンから成るリン酸アルミニウム(AlPO4)で置き換えられ、および/または、四面体配位のホウ素およびリンから成るリン酸ホウ素(BPO4)で置き換えられた構造を有している。このガラスの本質的なビッカース亀裂開始(すなわち、メディアン亀裂および/または放射状亀裂の開始)閾値は、少なくとも500gf(グラム重)(約4.9N)である。イオン交換により強化されると、このガラスのビッカース耐損傷性閾値は、少なくとも約10kgf(キログラム重)(約98N)となる。
【0005】
したがって、本開示の一態様は、あるガラスを提供することであり、このガラスは、SiO2、Al23、P25、および少なくとも1つのアルカリ金属酸化物(R2O)を含み、0.75≦[(P25(mol%)+R2O(mol%))/M23(mol%)]≦1.3であり、M23=Al23+B23であることを特徴とする。
【0006】
本開示の第2の態様は、あるガラスを提供することであり、このガラスは、SiO2、Al23、P25、および少なくとも1つのアルカリ金属酸化物(R2O)を含み、0.75≦[(P25(mol%)+R2O(mol%))/M23(mol%)]≦1.3であり、M23=Al23+B23であり、さらにこのガラスがイオン交換されたときのビッカースによるメディアン亀裂/放射状亀裂の開始閾値が、少なくとも約10kgf(約98N)であることを特徴とする。
【0007】
これらおよび他の態様、利点、および顕著な特徴が、以下の詳細な説明、付随する図面、および添付の請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】イオン交換により強化されたガラスシートの概略断面図
図2】410℃で8時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換された、厚さ0.7mmのリン酸塩含有ガラスのサンプルに対する圧縮応力および層深さを、AlPO4の濃度の関数としてプロットした図
図3】450℃で1時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換された、厚さ0.7mmのリン酸塩含有ガラスのサンプルに対する圧縮応力および層深さを、AlPO4の濃度の関数としてプロットした図
図4】450℃で30分間溶融KNO3塩浴内でイオン交換された、厚さ0.7mmのリン酸塩含有ガラスのサンプルに対する圧縮応力および層深さを、AlPO4の濃度の関数としてプロットした図
図5】450℃で30分間溶融KNO3塩浴内でイオン交換された、ホウ酸を含有していないリン酸塩含有ガラスに対するビッカース亀裂開始閾値を、AlPO4の濃度の関数としてプロットした図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明において、同じ参照符号は、図面に示されているいくつかの図を通して同様のまたは対応する部分を指定する。特に指示がない限り、「上部」、「下部」、「外側」、「内側」などの用語は、便宜上の言葉であって、制限的な用語として解釈されないことも理解されたい。さらに、群が、要素およびその組合せの群のうちの少なくとも1つを含むものとして記述されているときはいつでも、その群は、個々にあるいは互いに組み合わせて列挙される、任意の数のこれらの要素を含み得ること、または本質的にこれらの要素から成るものであり得ること、あるいはこれらの要素から成るものであり得ることを理解されたい。同様に、群が、要素またはその組合せの群うちの少なくとも1つから成るものとして記述されているときはいつでも、その群は、個々にあるいは互いに組み合わせて列挙される、任意の数のこれらの要素から成るものであり得ることを理解されたい。特に指示がない限り、値の範囲が明記されているとき、この範囲はその範囲の上限および下限の両方を含む。本書では、単数形が使用されているとき、特に指示がない限り、「少なくとも1つ」または「1以上」を意味する。
【0010】
本明細書に記載される、亀裂の開始を評価するために使用されるビッカース圧子は、当技術において周知であり、例えば、参照することにより本書に組み込まれる、William D. Callister著「Materials Science and Engineering(third edition)」(John Wiley & Sons, New York,1994)の130〜132頁に記述されている。特に指示がない限り、本明細書に記載されるビッカース押込みによる亀裂発生閾値評価は、押込み荷重をガラス表面に0.2mm/分で加え、後にこの荷重を取り除くことにより行われる。最大押込み荷重は10秒間保持される。押込みによる亀裂発生閾値は、10個のくぼみの50%超で、くぼみの跡の端から任意の数の放射状亀裂/メディアン亀裂が生じるのを呈した時点での、押込み荷重で画成される。最大荷重は、所定のガラス組成に対して、閾値に達するまで増加させる。全ての押込み評価は、相対湿度50%の室温で行う。
【0011】
本明細書に記載される、ガラスサンプルに対して得られる摩耗時リング・オン・リング破壊荷重は、調査対象のサンプル(典型的な寸法は50mm×50mm×0.7mm厚)の表面を、90グリットの炭化珪素(SiC)を用いて圧力5psi(約34.48kPa)で5秒間最初にブラストして測定された。摩耗がサンプルの50mm×50mmの面の中心に位置する直径6mmの円に限定されるようにサンプルをマスクする。サンプルを摩耗させた後、直径1インチ(約2.54cm)の支持リングと直径1/2インチ(約1.27cm)の負荷リングとで、リング・オン・リングの荷重による破壊試験を行った。サンプルを支持リング上に、摩耗した側を下に向けて置き、摩耗した領域を試験中に引っ張られた状態とする。荷重を1.2mm/分の割合で加える。試験は、相対湿度50%の室温で行う。リング上での曲率半径は1/16インチ(約1.59mm)である。
【0012】
図面全般、特に図1を参照すると、これらの図は特定の実施形態を説明するためのものであり、本開示または添付の請求項をこれに限定することを意図したものではないことが理解されるであろう。これらの図は必ずしも原寸に比例したものではなく、さらに特定の特徴および特定の図は、明瞭および簡潔にするため、縮尺において、または概略的に、誇張して図示されていることがある。
【0013】
消費者向け電子機器、自動車用途、電気器具、建築用部品、および高レベルの耐損傷性が望ましい他の分野などにおける用途に使用するために設計されるガラスは、熱的手段(例えば、熱焼戻し)または化学的手段によって高い頻度で強化される。イオン交換は、こういった用途のためにガラス物品を化学強化するのに幅広く用いられている。このプロセスにおいて、第1金属イオン(例えば、Li2O、Na2Oなどにおけるアルカリ陽イオン)を含有しているガラス物品は、第2金属イオンを含有しているイオン交換槽または媒体に、少なくとも部分的に含浸され、あるいはそうでなければこれに接触し、この第2金属イオンは、ガラス内に存在している第1金属イオンよりも大きいか、あるいは小さいかのいずれかである。第1金属イオンはガラス表面からイオン交換槽/媒体内に拡散し、一方イオン交換槽/媒体からの第2金属イオンが、ガラスの表面より下のある層深さまで、ガラス内の第1金属イオンと置き換わる。ガラス内のより小さいイオンが、より大きいイオンに置換されると、ガラス表面で圧縮応力が生成され、一方ガラス内のより大きいイオンが、より小さいイオンに置換されると、典型的にはガラス表面で引張応力が生成される。いくつかの実施形態において、第1金属イオンおよび第2金属イオンは一価のアルカリ金属イオンである。しかしながら、Ag+、Tl+、Cu+などの他の一価の金属イオンを、イオン交換プロセスに使用することもできる。
【0014】
イオン交換により強化されたガラスシートの一部(すなわち、ガラスシートの端部は図示されていない)の断面図が図1に概略的に示されている。図1に示した非限定的な例において、強化ガラスシート100は、厚さt、中心部分115、さらに互いに実質的に平行な第1表面110および第2表面120を有している。圧縮層112、122が、夫々第1表面110および第2表面120から、各表面より下の層深さd1、d2まで延在している。圧縮層112、122は圧縮応力下にあり、一方、中心部分115は引張応力下にあって、すなわち引っ張られた状態にある。中心部分115の引張応力は、圧縮層112、122の圧縮応力と平衡を保ち、すなわち強化ガラスシート100内で平衡を維持している。対向する表面110、120から延在している圧縮層112、122を備えたガラスシートが図1に示されているが、本書で開示されるガラスは、複数の強化表面110、120ではなく、その単一表面がイオン交換により強化されたものでもよい。これは、例えば、イオン交換プロセス中に表面110、120の一方をマスクすることによって実現することができる。
【0015】
耐損傷性を向上させるために、ホウ素がB23としてガラスに加えられることがある。しかしながら、B23が存在していると、イオン交換によるガラスの強化が妨げられる可能性がある。ガラスにリンをP25として加えると、耐損傷性が向上し、かつイオン交換が妨げられないことが見出された。ガラスにリンを加えると、シリカ(ガラス内ではSiO2)が、四面体配位のアルミニウムおよびリンから成るリン酸アルミニウム(AlPO4)、および/または、四面体配位のホウ素およびリンから成るリン酸ホウ素(BPO4)で、置き換えられた構造が作り出される。本明細書に記載される、イオン交換可能なリン酸塩含有ガラスの他、イオン交換により化学強化されて高い耐損傷性を有するリン酸塩含有ガラスが提供される。これらのガラスは、SiO2、Al23、P25、および少なくとも1つのアルカリ金属酸化物(R2O、ここでRは、Li、Na、K、Rb、および/またはCs)を含み、このとき0.75≦[(P25(mol%)+R2O(mol%))/M23(mol%)]≦1.3であり、M23=Al23+B23である。いくつかの実施形態では、[(P25(mol%)+R2O(mol%))/M23(mol%)]=1である。いくつかの実施形態では、ガラスはB23を含まず、M23=Al23である。いくつかの実施形態においてガラスは、約40から約70mol%のSiO2、0から約28mol%のB23、約0から約28mol%のAl23、約1から約14mol%のP25、さらに約12から約16mol%R2Oを含む。いくつかの実施形態においてガラスは、約40から約64mol%のSiO2、0から約8mol%のB23、約16から約28mol%のAl23、約2から約12mol%のP25、さらに約12から約16mol%R2Oを含む。このガラスは、限定するものではないが、MgOまたはCaOなどの、少なくとも1つのアルカリ土類金属酸化物をさらに含み得る。ガラスの例示的な組成をmol%で表したものが表1に記載されている。これらの組成の、M23含有量(このときM23=Al23+B23)、合計したP25+Al23の濃度、(P25+R2O)/M23の比率、および(P25+R2O)/Al23の比率が同じく表1に記載されている。
【0016】
一態様において、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスは、ガラス内のシリカ(SiO2)が、四面体配位のアルミニウムおよびリンから成るリン酸アルミニウム(AlPO4)で置き換えられた構造を有している。表1は、表に与えられた組成に対する、ガラス内のAlPO4単位の当量濃度を記載している。こういった実施形態においては、本明細書に記載されるガラス組成はAl23=P25+R2Oという規定に従い、ここでのAl23、P25、およびR2Oはmol%で表した組成である。このような条件がガラス内に存在しているとき、アルミニウムは名目上、いずれかの四面体アルミニウムの形になる。リンおよび/またはアルカリの電荷は、アルミニウムイオンが4+の電荷と同等になるようにそれらを補う。
【0017】
別の態様において、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスは、シリカ(SiO2)がガラス内においてリン酸ホウ素(BPO4)で置き換えられた構造を有している。こういった実施形態においては、本明細書に記載されるガラス組成はAl23=R2OおよびB23=P25という規定に従い、ここでのAl23、B23、P25、およびR2Oはmol%で表した組成である。このような条件がガラス内に存在しているとき、ホウ素は名目上、四面体リン酸ホウ素または四面体酸化ホウ素の形になる。
【0018】
本明細書に記載されたようなガラスにおいて、各アルカリ金属イオンは1つの非架橋酸素(NBO)を生成することができる。アルカリ金属イオンの単位正電荷は、ケイ酸ガラスの網目構造内の酸素にイオン結合することによって満足させることができる。これは、隣接する構造単位間の架橋を壊す一方、酸素をR2O単位から提供することによって達成される。NBOは、ガラスの網目構造の連結性を低下させる。Al23および/またはB23がガラスに加えられると、アルカリ金属イオンがAl3+および/またはB3+イオンと電荷補償して、これらのイオンが四面体構造単位を形成することができる。R2O単位により供給される酸素が、これらの四面体を形成するために消費される。加えられた各アルミニウムまたはホウ素イオンが、ガラスの網目構造から1つのNBOを取り外す。Al23のmol%+B23のmol%=R2Oのmol%である場合、この構造はいかなるNBOも含まないはずであり、かつ完全に結合されているはずである。アルカリは、ホウ素よりもアルミニウムによって優先的に消費される。残ったアルカリは、三角形のホウ素を四面体のホウ素に[Na2O(mol%)/B23(mol%)]>0.5となるまで変化させる。したがって、本明細書に記載されるガラスは、上記方程式が満足されるとき、実質的にNBOを含まない。AlPO4および/またはBPO4がガラス内のシリカと置換されるため、本明細書に記載されるガラス内のシリカの量は、他のイオン交換可能なガラス内よりも少なくなる。
【0019】
本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスは、本質的に損傷に耐えるものである。すなわち、こういったガラスは、熱的強化や、例えばイオン交換などの化学強化を行なわなくても耐損傷性を有している。本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスのビッカース押込みによる損傷(亀裂開始荷重)閾値は、少なくとも約500gf(グラム重)(約4.9N)であり、いくつかの実施形態では、少なくとも約1000gf(約9.8N)である。イオン交換による強化前の選択された組成に関して測定した、ビッカース押込みによる亀裂発生閾値が表1に記載されている。
【0020】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスのモル容積は、少なくとも約29cm3/molであり、他の実施形態では、少なくとも約30cm3/molであり、さらに他の実施形態では、少なくとも約32cm3/molである。選択されたガラス組成のモル容積は、表1に記載されている。
【0021】
本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスは、ソーダ石灰ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、およびアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラスよりも、ガラス表面下のより深い圧縮層深さ(図1の層深さd1、d2)まで、さらにイオン交換可能である。圧縮層(図1の112、122)の深さは、システムレベルの落下試験の際に、携帯用電子機器用カバーガラスの亀裂耐性において重要な要素となることが既に示されている。いくつかの実施形態において、リン酸塩含有ガラスは少なくとも40μmの層深さまでイオン交換可能であり、他の実施形態では、少なくとも約60μmの層深さまでイオン交換可能である。本明細書に記載される、厚さ0.7mmのリン酸塩含有ガラス(表1〜3の、サンプル3、10〜13、および18〜20)を、410℃で8時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換して得られた圧縮応力および層深さが、AlPO4の濃度の関数として図2にプロットされている。図2にプロットした各サンプルはホウ素を含まないものであり、これらに含まれる(P25+R2O)/M23および(P25+R2O)/Al23の比率は1に等しい。圧縮表面層の層深さは少なくとも78μmであり、かつその圧縮応力は、当技術において周知の光弾性法により測定すると、少なくとも692MPaである。本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスを、410℃で8時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換して得られた圧縮応力および層深さの他、種々のP25含有ガラスに対する、ビッカース押込みによる亀裂開始荷重と摩耗時リング・オン・リング破壊荷重とが、表2に記載されている。1つの非限定的な例において、本明細書に記載される厚さ0.7mmのリン酸塩含有ガラスのサンプルを、410℃で10時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換すると、得られる圧縮層の深さは64μmとなり、一方同じ厚さを有する、P25を含まないアルカリアルミノケイ酸塩ガラスサンプルが同じ条件下でイオン交換を受けると、得られる圧縮層の深さは56μmとなる。本明細書に記載される厚さ0.7mmのリン酸塩含有ガラスのサンプルが、410℃で8時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換されると、その圧縮層の深さは少なくとも約60μmとなり、またその圧縮応力は約600MPa超となる。これに比較して、厚さ0.7mmのP25を含まないアルカリアルミノケイ酸塩ガラスサンプルは、同じ条件下で50μmの圧縮層深さまでイオン交換される。
【0022】
さらにイオン交換は、式0.75≦[(P25(mol%)+R2O(mol%))/M23(mol%)]≦1.3を満足しないガラスよりも、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスにおいての方がより迅速に進む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスを410℃で2時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換すると、ガラスの表面から少なくとも約30μmまで延在する層深さまでイオン交換可能である。410℃で2時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換することにより得られた、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスの圧縮応力および層深さの他、ビッカース押込みによる亀裂開始荷重が表2に記載されている。
【0023】
【表1-1】
【0024】
【表1-2】
【0025】
【表1-3】
【0026】
【表1-4】
【0027】
【表1-5】
【0028】
【表1-6】
【0029】
【表2-1】
【0030】
【表2-2】
【0031】
【表3-1】
【0032】
【表3-2】
【0033】
【表3-3】
【0034】
【表3-4】
【0035】
別の態様において、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスのアニール点(すなわち、ガラスの粘度が1012.2パスカル秒(Pa・s)(1013.2ポアズ(P))となる温度)は少なくとも約600℃であり、他の態様では少なくとも約625℃であり、さらに他の態様では少なくとも約645℃であり、これは高強度のアルカリアルミノケイ酸塩ガラスおよびアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラスのアニール点よりも高い。種々の組成に対するアニール点が表1に記載されている。現在説明しているガラスに関して、アニール点がより高いものであれば、イオン交換中のガラスの応力緩和を減少させることにもなり、かつより高温でのイオン交換も可能になる。より高いアニール点によれば、これらのガラスのイオン交換を、より高温で実行することもできる。
【0036】
ガラスの35kP温度(すなわち、ガラスの粘度が3.5kPa・s(35キロポアズ(kP)となる温度)が1300℃未満である実施形態において、本明細書に記載されるガラスは、例えばフュージョンドローおよびスロットドローなどの、当技術において周知のダウンドロー法で成形されたガラスでもよい。あるいは、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスは、限定するものではないが、るつぼ溶解法、圧延法、フロート法などの、当技術において周知の他の方法で成形してもよい。ダウンドロープロセスによるガラスの成形を可能にするのに加え、アニール点がより高いと、これらのガラスのイオン交換をより高温で実行することができる。
【0037】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスは、スロットドロー、フュージョンドロー、リドローなどの、当技術において周知のプロセスにより下方延伸可能であり、またこのガラスの液相粘度は、少なくとも130キロポアズ(13kPa・s)である。
【0038】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスは、ガラスの粘度が35キロポアズ(3.5kPa・s)となる温度T35kpを有し、ジルコンが分解してZrO2とSiO2を形成する温度Tbreakdownが、T35kpよりも高いことを特徴とする。
【0039】
図3は、450℃で1時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換した後の、厚さ0.7mmの本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラス(表1〜3のサンプル13、および18〜20)に対する圧縮応力および層深さを、AlPO4の濃度の関数としてプロットしたものである。図3に見られるように、これらのガラスは上記条件下で、少なくとも50μmの層深さと少なくとも800MPaの圧縮応力までイオン交換可能である。図4は、450℃で30分間溶融KNO3塩浴内でイオン交換した後の、厚さ0.7mmの本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラス(表1〜3のサンプル13、および18〜20)に対する圧縮応力および層深さを、AlPO4の濃度の関数としてプロットしたものである。本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスを、450℃で30分間および1時間溶融KNO3塩浴内でイオン交換することにより得られた圧縮応力および層深さの他、これらのイオン交換されたガラスに対するビッカース押込み/亀裂開始閾値が表3に記載されている。
【0040】
一態様において、イオン交換により化学強化されたときに本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスが呈するビッカース亀裂開始閾値は、少なくとも約10kgf(キログラム重)(約98N)であり、いくつかの実施形態では少なくとも約20kgf(約196N)であり、いくつかの実施形態および他の実施形態では、少なくとも約30kgf(約294N)である。図5には、450℃で30分間溶融KNO3塩浴内でイオン交換された、厚さ0.7mmのリン酸塩含有ガラス(表1のサンプル13、および18〜20)に対して測定されたビッカース亀裂開始閾値が、AlPO4の濃度の関数としてプロットされている。図5にプロットされているデータの各サンプルは、ホウ素を含有していないものであり、また各サンプルの(P25+R2O)/M23および(P25+R2O)/Al23の比率は1に等しい。別の態様において、本明細書に記載されるリン酸塩含有ガラスがイオン交換により化学強化されたとき、摩耗時リング・オン・リング荷重を受けると約80kgf(約784.5N)超の荷重で破壊される。
【0041】
本明細書に記載されるガラスは、限定するものではないが、タッチスクリーン用途、ハンドヘルドの通信機器または娯楽機器、情報関連端末、またはタッチセンサデバイスなどの、電子機器用の保護カバーガラス用途、フロントガラス用途、電気器具の筐体用途、または、窓またはパネルなどの建築用部材用途などに使用することができる。
【0042】
説明のために典型的な実施形態を明記したが、上述の説明は本開示または添付の請求項の範囲を限定するものであると見なされるべきではない。したがって、本開示または添付の請求項の精神および範囲から逸脱しない、種々の改変、改作、および代替案が当業者には思い浮かぶであろう。
【符号の説明】
【0043】
100 強化ガラスシート
110 第1表面
112、122 圧縮層
115 中心部分
120 第2表面
図1
図2
図3
図4
図5