特許第6512059号(P6512059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6512059
(24)【登録日】2019年4月19日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】バルブシート用のレーザ肉盛方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/342 20140101AFI20190425BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20190425BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   B23K26/342
   B23K26/21 W
   F02F1/24 B
   F02F1/24 F
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-200596(P2015-200596)
(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公開番号】特開2017-70988(P2017-70988A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】杉山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 武久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰生
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 信吾
(72)【発明者】
【氏名】河崎 稔
(72)【発明者】
【氏名】荘田 喜治
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−9268(JP,A)
【文献】 特開平10−141026(JP,A)
【文献】 特開平7−284970(JP,A)
【文献】 特開2009−47026(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0153996(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッド粗形材において、一対の吸気ポートの燃焼室側の開口端に円環状のザグリ溝を形成するステップと、
前記ザグリ溝に金属粉を供給しつつ、レーザビームを照射して前記ザグリ溝に肉盛層を形成するステップと、
を含むバルブシート用のレーザ肉盛方法であって、
前記肉盛層を形成するステップにおいて、
前記ザグリ溝における円周方向の位置を、シリンダブロックとの合わせ面に最近接する位置を0°として角度表示した場合、一方の前記吸気ポートにおける前記肉盛層の始端部を、他方の前記吸気ポートに近づく方向の0〜45°の範囲に形成
前記始端部から、前記角度が増加する方向に前記肉盛層の形成を開始する、
バルブシート用のレーザ肉盛方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバルブシートに対しレーザにより肉盛りを行うバルブシート用のレーザ肉盛方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッド粗材において、一対の吸気ポートの燃焼室側の開口端に円環状のザグリ溝を形成し、このザグリ溝に金属粉を供給しつつ、レーザビームを照射して肉盛層を形成するバルブシート用のレーザ肉盛方法が知られている(特許文献1参照)。このレーザ肉盛方法では、肉盛層の始端部と終端部とを重ね合わせたオーバーラップ部を、隣り合うバルブシートの中心を結ぶ中心線に対して90度以上のなす角度の位置に形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−047026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本願発明者は、オーバーラップ部の肉盛層の始端部を上記90度以上のなす角度の位置に形成したとしてもその始端部に未溶着が発生することを見出した。バルブシート近傍のシリンダヘッド内部には、水冷用のウォータジャケットが形成されている。このため、バルブシートにおける各位置において熱容量が異なる。さらに、始端部ではシリンダヘッド粗形材が十分に加熱されていない。このため、熱容量が大きい位置に始端部を形成したり、熱容量が大きくなる方向に肉盛りを開始すると、始端部において未溶着が起こり易いことが分かった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、熱容量が大きくない位置において、熱容量が小さくなる方向に肉盛りを開始するため、始端部おける未溶着を抑制できるバルブシート用のレーザ肉盛方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、シリンダヘッド粗形材において、一対の吸気ポートの燃焼室側の開口端に円環状のザグリ溝を形成するステップと、前記ザグリ溝に金属粉を供給しつつ、レーザビームを照射して前記ザグリ溝に肉盛層を形成するステップと、を含むバルブシート用のレーザ肉盛方法であって、前記肉盛層を形成するステップにおいて、前記ザグリ溝における円周方向の位置を、シリンダブロックとの合わせ面に最近接する位置を0°として角度表示した場合、一方の前記吸気ポートにおける前記肉盛層の始端部を、他方の前記吸気ポートに近づく方向の0〜45°の範囲に形成する、バルブシート用のレーザ肉盛方法である。この一態様によれば、熱容量が大きくない位置において、熱容量が小さくなる方向に肉盛りを開始するため、始端部おける未溶着を抑制できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱容量が大きくない位置において、熱容量が小さくなる方向に肉盛りを開始するため、始端部おける未溶着を抑制できるバルブシート用のレーザ肉盛方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るシリンダヘッドの上面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るザグリ溝の部分拡大断面図である。
図3】ザグリ溝における円周方向の角度及びその角度における台座部の体積の実測値の一例を示す図である。
図4】ザグリ溝における円周方向の位置とその位置における熱容量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係るバルブシート用のレーザ肉盛方法は、例えば、自動車エンジンなどのシリンダヘッド1のバルブシート2に金属粉(クラッド粉)を供給しつつ、その金属粉に対してレーザビームを照射して溶融固化させて肉盛る所謂レーザクラッド加工を行うものである(図1)。このように、バルブシート合金をシリンダヘッド1に直接肉盛りすることで、熱伝導性を大幅に向上させることができ、燃焼室バルブ周りの冷却性能を高めることができる。
【0010】
本実施形態に係るバルブシート用のレーザ肉盛方法では、アルミニウム製のシリンダヘッド粗形材において、切削加工を行い、一対の吸気ポート3の燃焼室側の開口端に円環状のザグリ溝4を形成する(図2)。形成したザグリ溝4に金属粉を供給しつつ、レーザビームを照射してザグリ溝4に肉盛層(クラッド層)41を形成する。
【0011】
例えば、粉フィーダーなどを用いて銅合金などの金属粉をガスにより加圧し、その金属粉をノズル介してザグリ溝4に対して吹き付ける。そして、半導体レーザ装置などにより、ザグリ溝4に供給された金属粉に対しレーザビームを照射し該金属粉を溶融させることで、ザグリ溝4に肉盛加工を行う。
【0012】
図1に示す如く、吸気ポート3のザグリ溝4の始端部S1から金属粉を供給しつつ、レーザビームを照射してザグリ溝4に肉盛層41の形成を開始し、ザグリ溝4に沿って1周肉盛層41を形成する。さらに、始端部S1を通り過ぎて、1周目で形成した肉盛層41にラップさせて終端部S2まで肉盛層41(以下、このラップした肉盛層41をラップ部42と称す)を形成する。このように、肉盛層41をラップさせることで、ザグリ溝4に隙間なく肉盛層41を形成することができる。
【0013】
ところで、バルブシート近傍のシリンダヘッド内部には、水冷用のウォータジャケットが形成されている。このため、バルブシートにおける各位置において熱容量が異なる。また、始端部ではシリンダヘッド粗形材が加熱されていない。このため、熱容量が大きい位置に始端部を形成したり、熱容量が大きくなる方向に肉盛りを開始すると、始端部において未溶着が起こり易い。
【0014】
これに対し、本実施形態に係るバルブシート用のレーザ肉盛方法において、形成されたザグリ溝4における円周方向の位置を、シリンダブロックとの合わせ面に最近接する位置を0°として角度表示した場合、一方の吸気ポート3における肉盛層41の始端部S1を、他方の吸気ポート3に近づく方向の0〜45°の範囲に形成する。これにより、熱容量が大きくない位置において、熱容量が小さくなる方向に肉盛りを開始するため、始端部S1おける未溶着を抑制できる。
【0015】
ここで、熱容量とは、例えば、ザグリ溝(台座部)4の肉盛中心(角部)S3からレーザビームの熱影響が及ぶ範囲内に含まれる台座部4の体積(アルミ体積)、あるいは、台座部4の肉盛中心S3からウォータージャケット5又は隣接する台座部4までの範囲で最小となる肉厚、である。例えば、図2に示す如く、クラッド(肉盛中心)S3を中心に、直径15mmの球の中に含まれる台座部4のアルミ体積を熱容量とする。
【0016】
ザグリ溝4における円周方向の位置を、シリンダブロックとの合わせ面に最近接する位置(シリンダヘッド1のボア中心S4と吸気ポート3の燃焼室側の開口端の中心とを結んだ直線が、ボア中心S4から離れた側のザグリ溝4と交差する交点)を0°として角度表示する。
【0017】
図3は、ザグリ溝における円周方向の角度Θ(deg)およびその角度における台座部の体積(熱容量mm)の実測値の一例を示す図である。図1の左側の吸気ポート3のザグリ溝4は時計方向、図1の右側の吸気ポート3のザグリ溝4は反時計方向を正方向とする。すなわち、一方の吸気ポート3における肉盛層41の始端部S1から、他方の吸気ポート3に近づく方向へ正方向とする。
【0018】
図3に示す実測値より、ザグリ溝4における円周方向の位置(角度Θ)における熱容量は、下記式のように、正弦波で近似できる。
熱容量y=−Asin(Θ−α)+m
【0019】
上記式において、mは、周方向の各位置における熱容量の平均値(以下、熱容量平均値)であり、αは熱容量平均値となる角度(熱容量平均位置)であり、Aは予め設定される任意の定数である。図3において、熱容量平均値m=1020mm、熱容量平均位置α=45°、A=100となっている。
【0020】
ここで、熱容量が小さい位置に肉盛層のラップ部があると、熱容量が大きい部分に来たときに溶込み不足による未溶着が発生する。一方、熱容量が大きい位置に肉盛層のラップ部があると、熱容量が小さい部分に来たときに溶込み過剰による合金化が発生する。
【0021】
したがって、肉盛層41のラップ部42は、熱容量平均位置近傍にあるのが好ましい。この場合、肉盛層41の始端部S1は熱容量平均位置近傍となる。このため、レーザビームの入熱過剰による溶込み過剰による亀裂、および、レーザビームの入熱不足による未溶着を防止できる。
【0022】
図4は、ザグリ溝における円周方向の位置とその位置における熱容量との関係を示す図であり、図3を簡略化した図である。
本実施形態において、例えば、図4に示すように、肉盛層41の始端部S1を、熱容量平均位置(45°)の近傍の0°〜45°の範囲に形成する。同様に、肉盛層41の終端部S2を熱容量平均位置(405°)の近傍の405°〜450°の範囲に形成する。これにより、レーザビームの入熱過剰による溶込み過剰による亀裂、および、レーザビームの入熱不足による未溶着を防止できる。
【0023】
また、本実施形態のように肉盛層41の始端部S1を0〜45°の範囲に形成した場合、図4に示す如く、その始端部S1から角度が増加するに従がって熱容量が小さくなる。すなわち、肉盛層41の始端部S1から熱容量が小さくなる方向に、ザグリ溝4に金属粉を供給しつつ、レーザビームを照射してザグリ溝4に肉盛層41の形成することとなる。これにより、ザグリ溝4が温まり易く、レーザビームによる溶込みを適正に制御でき、肉盛層41の始端部S1直後での未溶着を防止できる。さらに、熱容量が小さい角度から熱容量が大きい角度まで肉盛層41の形成が進むと、この時点で既にシリンダヘッド1全体が温まっている。このため、シリンダヘッド1のザグリ溝4全体においてレーザビームの溶込みを十分に確保でき、未溶着を防止できる。
【0024】
このように、本実施形態において、肉盛層41の始端部S1を、熱容量が大きくない熱容量平均位置近傍の0°〜45°の範囲に形成し、この始端部S1から熱容量が小さくなる方向に肉盛りを開始する。このため、始端部S1における未溶着を抑制できる。すなわち、熱容量が大きくない位置において、熱容量が小さくなる方向に肉盛りを開始するため、始端部S1における未溶着を抑制できる。
【0025】
また、肉盛層41のラップ部42は、一度形成した肉盛層41を再溶融させる必要があるが、この肉盛層41はアルミよりも融点が高い。このため、ラップ部42ではレーザビームの入熱を高くする必要があるが、本実施形態においては、ラップ部42の始端部S1から終端部S2へと熱容量が小さくなっている。したがって、ラップ部42において、1層目の肉盛層41を溶融させる熱量を確保でき、1及び2層間の肉盛層41の未溶着を防止できる。
【0026】
さらに、肉盛層41の終端部S2では、通常、凝固収縮に伴う残留応力が発生するが、本実施形態によれば、この終端部S2付近で熱容量が熱容量平均値以下となる。このため、この終端部S2ではザグリ溝4の熱引けが悪く、ゆっくり温度が降下することで、残留応力を低減することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 シリンダヘッド、2 バルブシート、3 吸気ポート、4 ザグリ溝、5 ウォータージャケット、41 肉盛層、42 ラップ部、S1 始端部、S2 終端部、S3 肉盛中心、S4 ボア中心
図1
図2
図3
図4