特許第6516639号(P6516639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6516639モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法、および、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6516639
(24)【登録日】2019年4月26日
(45)【発行日】2019年5月22日
(54)【発明の名称】モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法、および、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20190513BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20190513BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20190513BHJP
【FI】
   C12Q1/04ZNA
   C12Q1/689 Z
   C12N15/09 Z
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-176615(P2015-176615)
(22)【出願日】2015年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-51123(P2017-51123A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】507152970
【氏名又は名称】公益財団法人東洋食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中野 みよ
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 Curr. Microbiol.,2010年,Vol.61,pp.525-533
【文献】 Int. J. food Microbiol.,2012年,Vol.158,pp.1-8
【文献】 J. Food Prot.,2015年 7月,Vol.78, No.7,pp.1392-1396
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用し、かつ、
ジオバチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、
被検体試料中に含まれる細菌から抽出した核酸を鋳型として、前記モーレラ属菌のプライマー対、および、前記ジオバチルス属菌のプライマー対を使用して前記核酸の増幅を行なう核酸増幅工程を含み、
前記モーレラ属菌が少なくともモーレラ・サーモアセティカおよびモーレラ・サーモオートトロフィカの何れかであり、前記ジオバチルス属菌がジオバチルス・ステアロサーモフィルスであるモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法。
【請求項2】
前記核酸の増幅がマルチプレックスPCR法により行われる請求項1に記載のモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法。
【請求項3】
配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせからなるモーレラ属菌のプライマー対、および、
配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせからなるジオバチルス属菌のプライマー対を有し、
前記モーレラ属菌が少なくともモーレラ・サーモアセティカおよびモーレラ・サーモオートトロフィカの何れかであり、前記ジオバチルス属菌がジオバチルス・ステアロサーモフィルスであるモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法、および、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の中には、芽胞を形成する細菌が存在する。芽胞形成細菌は、生存に良好な環境では活発に分裂し増殖するが、環境の栄養分が減少したり、乾燥するなど、増殖に不利な環境になると芽胞を形成する。芽胞は極めて高い耐久性を持っており、さらに環境が悪化して通常の細菌が死滅する状況に陥っても生き残ることが可能である。しかし、芽胞の状態では細菌は新たに分裂することはできず、その代謝も限られている。
【0003】
芽胞は栄養細胞の中に形成される耐久型細胞であり、水分が非常に低く、殆ど代謝せず、いわば休眠状態にある。この状態のときは種々のストレスに強い耐性を示し、加熱に対する抵抗性も強く、殺滅には100℃以上で所定時間以上の加熱が必要である。休眠状態にある芽胞は、生き残った芽胞が再びその細菌の増殖に適した環境に置かれると、当該芽胞が発芽して、通常の増殖・代謝能を有する菌体が作られる。
【0004】
芽胞は耐熱性が強いために、加熱殺菌によって微生物の制御をしている容器詰め食品では、その存在が問題となる。芽胞は、容器詰め食品にとって最も重要な生物学的危害要因で、加熱殺菌の指標となっている。
【0005】
食品材料の炭水化物や脂肪等が分解されて風味が悪くなり食用に適さなくなることを変敗というが、高温下に放置された容器詰め食品(例えば飲料缶詰)の中には、フラットサワー様の変敗を引き起こす事例が認められることがあった。この変敗の原因菌として、モーレラ属菌、ジオバチルス属菌、サーモアナエロバクテリウム属菌などの高温芽胞菌による汚染であるとの報告がある(非特許文献1〜4)。
【0006】
これら細菌は、何れも形成する芽胞の耐熱性が極めて高く、制御の難しい微生物とされており、低酸性飲料や缶詰などの変敗サンプルから高頻度で検出されている。
【0007】
容器詰め食品のうち飲料製造において、例えば乳成分含有飲料は通常レトルト加熱殺菌処理が行なわれるが、この加熱殺菌処理の通常の条件では耐熱性芽胞形成細菌の芽胞が残存する虞がある。乳成分含有飲料が自動販売機などにおいて低温保存状態で販売ないし貯蔵される場合には、残存した耐熱性芽胞形成細菌の芽胞は発芽・増殖し難く、品質上の問題が生じることは殆どない。しかし、例えば55℃の加温状態に置かれた場合には、残存した高温耐熱性芽胞形成菌の芽胞が発芽・増殖して、飲料内容物に変敗を生じさせる結果、飲食適性(商品性)が失われる虞がある。
【0008】
従って、上述した高温芽胞菌の制御については、食品業界において非常に重要な菌種であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】中山昭彦(2004)「食品のストレス環境と微生物」第4節 ホットベンダーで問題となる腐敗性高温細菌、伊藤武、森地敏樹編、株式会社サイエンスフォーラム出版
【非特許文献2】松田典彦、駒木勝、松縄桂子(1981)「缶・びん詰およびレトルト食品製造用副原料の耐熱性嫌気性細菌胞子による汚染状況」缶詰時報 60 p207−212
【非特許文献3】Nakayama,A. and Shinya,R.(1981), New Type of Flat Sour Spoilage of Commercial Canned Coffee. 食衛誌22、p25−32
【非特許文献4】Andre,S., Zuber,F., Remize,F.(2013), Thermophilic spore-forming bacteria isolated from spoiled canned food and their heat resistance. Results of French ten-years survey. International Journal of Food Microbiology. 165, p134-143.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した高温芽胞菌の検出には、例えばターゲットとなる高温芽胞菌に適した培養法によって行われていたが、ジオバチルス属菌の検出や、特に嫌気性細菌であるモーレラ属菌の検出には手間と時間を要していた。また、当該培養法では増殖しないケースも見受けられるため、この手法では高温芽胞菌の検出結果が過小評価される場合もあった。
【0011】
モーレラ属菌やジオバチルス属菌は、容器詰め食品の変敗の原因菌の大部分を占めると考えられる。そのため、これら2種の細菌を同時に検出できれば、当該原因菌の検出を迅速に行うことができると期待される。
【0012】
微生物学の分野においても分子生物学的手法が盛んに用いられるようになり、細菌の検出に核酸増幅法による検出のためのプライマーが提案されている。しかし、これまでに上述した高温芽胞菌、特にモーレラ属菌やジオバチルス属菌の同時検出を対象とした核酸増幅法による検出は知られていなかった。
【0013】
従って、本発明の目的は、核酸増幅法を使用したモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法、および、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[3]に示す発明を提供する。
[1]モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用し、かつ、ジオバチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、被検体試料中に含まれる細菌から抽出した核酸を鋳型として、前記モーレラ属菌のプライマー対、および、前記ジオバチルス属菌のプライマー対を使用して前記核酸の増幅を行なう核酸増幅工程を含み、前記モーレラ属菌が少なくともモーレラ・サーモアセティカおよびモーレラ・サーモオートトロフィカの何れかであり、前記ジオバチルス属菌がジオバチルス・ステアロサーモフィルスであるモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法。
[2]前記核酸の増幅がマルチプレックスPCR法により行われる[1]に記載のモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法
[3]配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせからなるモーレラ属菌のプライマー対、および、
配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせからなるジオバチルス属菌のプライマー対を有し、
前記モーレラ属菌が少なくともモーレラ・サーモアセティカおよびモーレラ・サーモオートトロフィカの何れかであり、前記ジオバチルス属菌がジオバチルス・ステアロサーモフィルスであるモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセット。
【0015】
上記[1]〜[2]によれば、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出を公知の核酸増幅法で簡便に行なうことができる。特に、モーレラ属菌(モーレラ・サーモアセティカ、モーレラ・サーモオートトロフィカ)のプライマー対を、前記モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子において前記モーレラ属菌に特徴的な配列に基づいて設計し、ジオバチルス属菌(ジオバチルス・ステアロサーモフィルス)のプライマー対を、前記ジオバチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子において前記ジオバチルス属菌に特徴的な配列に基づいて設計したため、これらプライマー対を使用して増幅した増幅産物は、前記モーレラ属菌および前記ジオバチルス属菌由来のものとなる。従って、本構成の核酸増幅工程を行なって得られた増幅産物を検出することで、確実に前記モーレラ属菌および前記ジオバチルス属菌の同時検出を行なうことができる。
【0016】
また、本発明は、一つのPCR反応系において複数のプライマー対を同時に使用することで、複数のDNA領域を同時に増幅するマルチプレックスPCR法により行うことができるため、サンプルの取り扱いが最小限で済むので、労力や時間、費用が節約でき、またクロスコンタミネーションの危険性を減らすことができる状態でモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出することができる。
【0017】
上記[3]のプライマーセットは、前記モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子において前記モーレラ属菌に特徴的な配列である配列番号1,2に記載された核酸配列を有し、かつ、前記ジオバチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子において前記ジオバチルス属菌に特徴的な配列である配列番号3,4に記載された核酸配列を有する。そのため、本構成のプライマーセットは、特異的に前記モーレラ属菌(モーレラ・サーモアセティカ、モーレラ・サーモオートトロフィカ)および前記ジオバチルス属菌(ジオバチルス・ステアロサーモフィルス)を同時に検出できるプライマーと成り得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】モーレラ属菌およびジオバチルス属菌のそれぞれの16S rRNAをコードする遺伝子領域を示した図である。
図2】モーレラ・サーモアセティカおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルスのマルチプレックスPCRの増幅産物の電気泳動の結果を示した写真図である。
図3】スパイク試験の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明のモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法では、容器入り食品中から採取した食品サンプルを被検体試料とし、当該被検体試料にモーレラ属菌およびジオバチルス属菌が含まれるか否かを判断する。本方法は、モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用し、かつ、ジオバチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、被検体試料中に含まれる細菌から抽出した核酸を鋳型として、前記モーレラ属菌のプライマー対、および、前記ジオバチルス属菌のプライマー対を使用して前記核酸の増幅を行なう核酸増幅工程を含むモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法である。
【0020】
本実施形態では、モーレラ属菌を少なくともモーレラ・サーモアセティカおよびモーレラ・サーモオートトロフィカの何れかとし、ジオバチルス属菌をジオバチルス・ステアロサーモフィルスとする場合について説明する。
【0021】
「被検体試料」は、食品・飲料などの対象物を収容容器に収容したレトルト食品・缶詰・PETボトル飲料等の容器入り食品からその一部又は全部を採取した食品サンプルである。しかし、これに限定されるものではなく、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌を含有する可能性のあるサンプルであればよい。
【0022】
本方法では、被検体試料中に含まれる細菌(モーレラ属菌およびジオバチルス属菌)の16S rRNAをコードする遺伝子に存在する特異的な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとし、被検体試料中に含まれる細菌から抽出した核酸を鋳型としてPCR法を適用し、特定のサイズのPCR増幅産物が得られたことを指標として細菌の同定を行う。
【0023】
「オリゴヌクレオチド」は、数塩基〜数十塩基からなる核酸断片をいい、天然の核酸分子、遺伝子組換えによって得られた核酸分子、化学合成によって得られた核酸分子などが該当する。「プライマー」は、例えばPCRなどの核酸増幅法などにおける酵素的重合の開始のための決められた条件下で、1本鎖の核酸又は核酸断片とハイブリダイズし、重合酵素であるポリメラーゼによる塩基伸長反応を誘導し得る数塩基〜数十塩基のオリゴヌクレオチドである。
【0024】
PCR法は、好ましくはマルチプレックスPCRとするのがよいが、これに限定されるものではない。マルチプレックスPCR法は、一つのPCR反応系において複数のプライマー対を同時に使用することで、複数のDNA領域を同時に増幅する方法である。このマルチプレックスPCR法は、サンプルの取り扱いが最小限で済むので、労力や時間、費用が節約でき、またクロスコンタミネーションの危険性を減らすことができる。しかし、一方で、複数のプライマーを添加することによりプライマーダイマーが形成されやすく、高感度の反応系の設計が非常に難しい。しかしながら、本発明のモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセットによれば、スメアやプライマーダイマーといった非特異反応を抑制することができるため、簡便にモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出を行うことができる。
【0025】
PCR法等の分子生物学的手法は細菌の遺伝的多様性を分析する手法として用いられる。例えばrDNAは保存性が高い遺伝子と多様性が高い遺伝子領域を含むため、生物の系統・分類に利用される。以下に、核酸増幅法を利用したモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法について詳述する。
【0026】
即ち、図1に示したモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子領域を特定のプライマーを使用してPCR法により増幅し、特定のサイズのPCR増幅産物が得られたことを指標としてモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同定を行う。
【0027】
プライマーは、重合酵素であるポリメラーゼ存在下で核酸増幅のために使用される。
本発明で適用するマルチプレックスPCRでは、モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子の所望領域を特異的に増幅するため、配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせからなるモーレラ属菌のプライマー対を使用する。さらに、ジオバチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子の所望領域を特異的に増幅するため、配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせからなるジオバチルス属菌のプライマー対を使用する。16S rRNAをコードする遺伝子を鋳型としてこれらプライマー対を使用することにより、モーレラ属菌のプライマー対では296 bpのPCR産物が増幅され、ジオバチルス属菌のプライマー対では163 bpのPCR産物が増幅される。
【0028】
使用したプライマーは、以下の通りである。
5′-TAC GGG AGG CAT CTT CTG TAG-3′(v3F:配列番号1)
5′-AGG CTA TTC GCC TTT AAG ACT TC-3′(v4R:配列番号2)
5′-GAT TGG GGC TTG CCT TGA-3′(Gv1F:配列番号3)
5′-GCA AGT GAC AGC CCA AAG G-3′(Gv3R:配列番号4)
【0029】
これらプライマー対は、16S rRNAをコードする遺伝子の所望領域の核酸配列に基づき、当該所望領域が増幅できるように、プライマー3プラス(http://www.bioinformatics.nl/cgi-bin/primer3plus/primer3plus.cgi)等、公知のプライマー設計プログラム等により設計するとよい(プライマー設計工程)。
【0030】
尚、16S rRNAをコードする遺伝子の所望領域の核酸配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)が提供しているGenBank(ジェンバンク)、および、NITE Biological Resource Center(NBRC)から得たものを使用すればよい。これらより得た配列はClustalX(Thompson et al.,1997)を使用してアライメントを行い、このアライメントの結果に基づいてプライマーを設計するのがよい。
【0031】
一対のプライマーは、数塩基〜数十塩基の断片長を有するように設計し、好ましくはターゲットとなるPCR増幅産物のTm値がプライマーダイマー自体の値より高くなるようにプライマーを設計し、化学合成等の手法により合成する。当該化学合成は、公知のDNA合成手法により行なうことができる。尚、配列番号1のフォワードプライマーの断片長は20塩基、Tm値は63であり、配列番号2のリバースプライマーの断片長は23塩基、Tm値は62.6である。また、配列番号3のフォワードプライマーの断片長は18塩基、Tm値は66.1であり、配列番号4のリバースプライマーの断片長は19塩基、Tm値は65.8である。Tm値は最近接塩基対法(Nearest Neighbor method)を使用して計算している。
【0032】
PCRを行なう前に、被検体試料中に含まれる細菌から核酸を抽出する。当該核酸の抽出は、バクテリアからのトータルDNAを精製する方法において、公知の核酸抽出方法により行なえばよい(核酸抽出工程)。但し、本細菌は芽胞を形成し、芽胞の状態で生存することがあるため、芽胞からのゲノムの抽出も考慮して行う。
【0033】
このようにして抽出した核酸を鋳型として前記プライマー対を使用して前記核酸の増幅を行なう(核酸増幅工程)。
核酸増幅の条件(変性温度、アニール温度およびアニール時間、サイクル数、伸延温度および伸延時間)は、設計したプライマーの長さやGC含有量等によって適宜決定する。PCRに使用するポリメラーゼは、DNAポリメラ−ゼ・Taqポリメラ−ゼのようなDNA依存型DNAポリメラ−ゼ等、公知の重合酵素を使用すればよい。
【0034】
PCR反応が終了した後、増幅したPCR増幅産物を確認するため、反応液を採取して電気泳動を行なう(電気泳動工程)。電気泳動工程では、適切な緩衝液およびゲルを使用して行なう。電気泳動時間・電圧は適宜設定する。電気泳動工程の後、所定濃度のエチジウムブロマイド等の染色剤によりPCR増幅産物を所定時間染色して紫外線の照射等によって可視化することでPCR増幅産物を検出する(PCR検出工程)。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〕
以下に、PCR法を利用したモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法の実施例について説明する。
【0036】
モーレラ属菌、ジオバチルス属菌についてゲノムDNAを調製した。モーレラ属菌はモーレラ・サーモアセティカ JCM 9319、ジオバチルス属菌はジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550をスタンダードサンプルとしてゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAの抽出は、Ultra clean DNA isolation kit(MO Bio Laboratories社)を使用した。
【0037】
個々の缶詰のサンプルは、5分の間超音波処理を行い、微生物ペレットを、40分の間7800gの遠心分離によって集めた。上澄みを除去し、ペレットは1mLのPBSによって3回洗浄した。次に、300μLのマイクロビーズ溶液と、50μLのMD1溶液を添加してペレットを懸濁し、20分間95℃で加温した後、10000gで2分間の遠心分離を行った。上清の300μLに100μLのMD2溶液を添加し、数回の転倒混和を行った後、4℃で10分間インキュベートし、10000gで2分間の遠心分離を行った。上清の300μLに900μLのMD3溶液を添加し、スピンカラムにて10000gで30秒間の遠心分離を行った。フロースルー液を捨てた後、300μLのMD4溶液をスピンカラムに添加して同様の遠心分離を行ってフロースルー液を捨てた。その後、100μLのMD5溶液をスピンカラムに添加して10000gで1分間の遠心分離を行い、フロースルー液を回収してPCR分析に使用した。
【0038】
〔実施例2〕
抽出したゲノムDNAは濃度を測定して段階希釈(1.5ng/μL〜1.5fg/μL)を行い、マルチプレックスPCRの鋳型に供した。本実施例ではモーレラ・サーモアセティカ JCM9319およびジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550のゲノムDNAを使用してマルチプレックスPCRを行った。
【0039】
モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、増幅される296 bpのPCR産物を検出した。
また、バチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、増幅される163 bpのPCR産物を検出した。
【0040】
PCR反応は、マルチプレックスPCRミックス2(タカラバイオ株式会社製)を使用して行った。即ち、0.2μMの各プライマー、1μLのゲノムDNAを反応液組成とし、S1000サーマルサイクラー(バイオラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いて反応を行った。反応サイクルは、94℃で30秒の変性を行なった後、94℃30秒−60℃90秒−72℃1分30秒の反応サイクルを30サイクル繰り返し、最後に72℃7分の伸延反応を行った。PCR産物の電気泳動を常法に従って行い、増幅産物のバンドおよびサイズの確認を行った。電気泳動の結果を図2に示した。図2の左端のレーンにおけるマーカーは100 bpラダーサイズマーカーを使用した。レーン1〜7は鋳型となるゲノムDNAを順に1.5ng/μL〜15fg/μLまで段階希釈したものである。
【0041】
電気泳動による確認の結果、増幅されたバンドのサイズは296 bp(矢印A)および163 bp(矢印B)であると認められた。即ち、配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、296 bpのバンド(モーレラ・サーモアセティカ)を検出することができた。また、配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、163 bpのバンド(ジオバチルス・ステアロサーモフィルス)を検出することができた。
【0042】
また、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスのゲノムDNAの濃度が1.5pg/μLの場合(レーン4)であってもバンドが確認できたことから、16S rRNA遺伝子をターゲットとする特異的プライマー(配列番号1、配列番号2および配列番号3、配列番号4)の検出限界は1.5pg/μLであると認められた。
【0043】
〔実施例3〕
本発明のプライマーセット(配列番号1、配列番号2および配列番号3、配列番号4)が少なくともモーレラ・サーモアセティカおよびモーレラ・サーモオートトロフィカの何れか、および、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスを特異的に同時検出できるプライマーであることを確認するため、モーレラ・サーモアセティカ JCM 9319およびJCM 9320、モーレラ・サーモオートトロフィカ DSM 1974、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550とそれ以外の3株(NBRC 12983、NBRC 13737、NBRC 100862)、および、同属菌株・近縁株・非近縁株を用いてPCRを行った。PCRで用いた菌株は表1に示した34菌株とした。
【0044】
【表1】

【0045】
表1で示した菌株において、ATCCと付してある菌株については、国際寄託機関であるAmerican Type Culture Collection(ATCC)より入手でき、NBRCと付してある菌株については、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門(NBRC)より入手でき、DSMと付してある菌株については、国際寄託機関であるDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM)より入手でき、JCMと付してある菌株については、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター (Japan Collection of Microorganisms)より入手できる。
【0046】
これら34菌株のPCRを行った後、PCR産物の電気泳動を常法に従って行い、増幅産物のバンドおよびサイズの確認を行った。結果を表1に示した。マーカーは100 bpラダーサイズマーカーを使用した。
【0047】
この結果、モーレラ・サーモアセティカ JCM 9319、JCM 9320およびモーレラ・サーモオートトロフィカ DSM 1974において、増幅されたバンドのサイズは296 bpであると認められ、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550、および、同族菌株の3株(NBRC 12983、NBRC 13737、NBRC 100862)において、増幅されたバンドのサイズは163 bpであると認められ、これら菌株は陽性であると認められた。一方、他の近縁株、非近縁株では増幅されたバンドは確認できなかったため、これら菌株は陰性であると認められた。従って、本発明のプライマーセット(配列番号1、配列番号2および配列番号3、配列番号4)を用いることで、モーレラ・サーモアセティカ、モーレラ・サーモオートトロフィカおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルスのみを特異的に検出できると認められた。
【0048】
〔実施例4〕
容器詰め食品からモーレラ・サーモアセティカおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルスのみを特異的に同時検出できることを確認するため、容器詰め食品からゲノムDNAの抽出、マルチプレックスPCRを行ってスパイク試験を行った。容器詰め食品として、コーンの缶詰(殺菌温度116℃、75分)およびアサリの水煮(殺菌温度115℃、70分)を使用した。これら容器詰め食品には、フラットサワー様の変敗を引き起こす原因菌として、モーレラ・サーモアセティカおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルス以外の菌株も含まれると考えられる。従って、本実施例のスパイク試験は、複数種類の前記原因菌を含む細菌ゲノムDNAが混在したゲノムDNAを使用した。ゲノムDNAの抽出、マルチプレックスPCRは上述した実施例に準じて行った。
【0049】
PCR産物の電気泳動を常法に従って行い、増幅産物のバンドおよびサイズの確認を行った。電気泳動の結果を図3に示した。図3の左端のレーンにおけるマーカーは100 bpラダーサイズマーカーを使用した。レーン1〜7はコーンの缶詰の結果(細菌数に換算しておよそ10/mL〜10/mL)であり、レーン9〜14はアサリの水煮の結果(細菌数に換算しておよそ10/mL〜10/mL)であり、レーン8はネガティブコントロールである。
【0050】
電気泳動による確認の結果、増幅されたバンドのサイズは296 bp(矢印A)および163 bp(矢印B)であると認められた。従って、本発明のモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法は、容器詰め食品において共存する他の菌株が存在した場合であっても、感度よく、特異的にモーレラ属菌およびジオバチルス属菌を検出することができると認められた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法、および、モーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出用プライマーセットは、容器詰め食品からモーレラ属菌およびジオバチルス属菌を特異的に検出するために利用することができる。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]