【実施例】
【0035】
〔実施例1〕
以下に、PCR法を利用したモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法の実施例について説明する。
【0036】
モーレラ属菌、ジオバチルス属菌についてゲノムDNAを調製した。モーレラ属菌はモーレラ・サーモアセティカ JCM 9319
T、ジオバチルス属菌はジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550
TをスタンダードサンプルとしてゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAの抽出は、Ultra clean DNA isolation kit(MO Bio Laboratories社)を使用した。
【0037】
個々の缶詰のサンプルは、5分の間超音波処理を行い、微生物ペレットを、40分の間7800gの遠心分離によって集めた。上澄みを除去し、ペレットは1mLのPBSによって3回洗浄した。次に、300μLのマイクロビーズ溶液と、50μLのMD1溶液を添加してペレットを懸濁し、20分間95℃で加温した後、10000gで2分間の遠心分離を行った。上清の300μLに100μLのMD2溶液を添加し、数回の転倒混和を行った後、4℃で10分間インキュベートし、10000gで2分間の遠心分離を行った。上清の300μLに900μLのMD3溶液を添加し、スピンカラムにて10000gで30秒間の遠心分離を行った。フロースルー液を捨てた後、300μLのMD4溶液をスピンカラムに添加して同様の遠心分離を行ってフロースルー液を捨てた。その後、100μLのMD5溶液をスピンカラムに添加して10000gで1分間の遠心分離を行い、フロースルー液を回収してPCR分析に使用した。
【0038】
〔実施例2〕
抽出したゲノムDNAは濃度を測定して段階希釈(1.5ng/μL〜1.5fg/μL)を行い、マルチプレックスPCRの鋳型に供した。本実施例ではモーレラ・サーモアセティカ JCM9319
Tおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550
TのゲノムDNAを使用してマルチプレックスPCRを行った。
【0039】
モーレラ属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、増幅される296 bpのPCR産物を検出した。
また、バチルス属菌の16S rRNAをコードする遺伝子に由来する配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、増幅される163 bpのPCR産物を検出した。
【0040】
PCR反応は、マルチプレックスPCRミックス2(タカラバイオ株式会社製)を使用して行った。即ち、0.2μMの各プライマー、1μLのゲノムDNAを反応液組成とし、S1000サーマルサイクラー(バイオラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いて反応を行った。反応サイクルは、94℃で30秒の変性を行なった後、94℃30秒−60℃90秒−72℃1分30秒の反応サイクルを30サイクル繰り返し、最後に72℃7分の伸延反応を行った。PCR産物の電気泳動を常法に従って行い、増幅産物のバンドおよびサイズの確認を行った。電気泳動の結果を
図2に示した。
図2の左端のレーンにおけるマーカーは100 bpラダーサイズマーカーを使用した。レーン1〜7は鋳型となるゲノムDNAを順に1.5ng/μL〜15fg/μLまで段階希釈したものである。
【0041】
電気泳動による確認の結果、増幅されたバンドのサイズは296 bp(矢印A)および163 bp(矢印B)であると認められた。即ち、配列番号1に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、296 bpのバンド(モーレラ・サーモアセティカ)を検出することができた。また、配列番号3に記載された配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4に記載された配列からなるリバースプライマーとの組み合わせであるプライマー対を使用して、163 bpのバンド(ジオバチルス・ステアロサーモフィルス)を検出することができた。
【0042】
また、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスのゲノムDNAの濃度が1.5pg/μLの場合(レーン4)であってもバンドが確認できたことから、16S rRNA遺伝子をターゲットとする特異的プライマー(配列番号1、配列番号2および配列番号3、配列番号4)の検出限界は1.5pg/μLであると認められた。
【0043】
〔実施例3〕
本発明のプライマーセット(配列番号1、配列番号2および配列番号3、配列番号4)が少なくともモーレラ・サーモアセティカおよびモーレラ・サーモオートトロフィカの何れか、および、ジオバチルス・ステアロサーモフィルスを特異的に同時検出できるプライマーであることを確認するため、モーレラ・サーモアセティカ JCM 9319
TおよびJCM 9320
T、モーレラ・サーモオートトロフィカ DSM 1974
T、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550
Tとそれ以外の3株(NBRC 12983、NBRC 13737、NBRC 100862)、および、同属菌株・近縁株・非近縁株を用いてPCRを行った。PCRで用いた菌株は表1に示した34菌株とした。
【0044】
【表1】
【0045】
表1で示した菌株において、ATCCと付してある菌株については、国際寄託機関であるAmerican Type Culture Collection(ATCC)より入手でき、NBRCと付してある菌株については、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門(NBRC)より入手でき、DSMと付してある菌株については、国際寄託機関であるDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM)より入手でき、JCMと付してある菌株については、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター (Japan Collection of Microorganisms)より入手できる。
【0046】
これら34菌株のPCRを行った後、PCR産物の電気泳動を常法に従って行い、増幅産物のバンドおよびサイズの確認を行った。結果を表1に示した。マーカーは100 bpラダーサイズマーカーを使用した。
【0047】
この結果、モーレラ・サーモアセティカ JCM 9319
T、JCM 9320
Tおよびモーレラ・サーモオートトロフィカ DSM 1974
Tにおいて、増幅されたバンドのサイズは296 bpであると認められ、ジオバチルス・ステアロサーモフィルス NBRC 12550
T、および、同族菌株の3株(NBRC 12983、NBRC 13737、NBRC 100862)において、増幅されたバンドのサイズは163 bpであると認められ、これら菌株は陽性であると認められた。一方、他の近縁株、非近縁株では増幅されたバンドは確認できなかったため、これら菌株は陰性であると認められた。従って、本発明のプライマーセット(配列番号1、配列番号2および配列番号3、配列番号4)を用いることで、モーレラ・サーモアセティカ、モーレラ・サーモオートトロフィカおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルスのみを特異的に検出できると認められた。
【0048】
〔実施例4〕
容器詰め食品からモーレラ・サーモアセティカおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルスのみを特異的に同時検出できることを確認するため、容器詰め食品からゲノムDNAの抽出、マルチプレックスPCRを行ってスパイク試験を行った。容器詰め食品として、コーンの缶詰(殺菌温度116℃、75分)およびアサリの水煮(殺菌温度115℃、70分)を使用した。これら容器詰め食品には、フラットサワー様の変敗を引き起こす原因菌として、モーレラ・サーモアセティカおよびジオバチルス・ステアロサーモフィルス以外の菌株も含まれると考えられる。従って、本実施例のスパイク試験は、複数種類の前記原因菌を含む細菌ゲノムDNAが混在したゲノムDNAを使用した。ゲノムDNAの抽出、マルチプレックスPCRは上述した実施例に準じて行った。
【0049】
PCR産物の電気泳動を常法に従って行い、増幅産物のバンドおよびサイズの確認を行った。電気泳動の結果を
図3に示した。
図3の左端のレーンにおけるマーカーは100 bpラダーサイズマーカーを使用した。レーン1〜7はコーンの缶詰の結果(細菌数に換算しておよそ10
6/mL〜10
0/mL)であり、レーン9〜14はアサリの水煮の結果(細菌数に換算しておよそ10
6/mL〜10
1/mL)であり、レーン8はネガティブコントロールである。
【0050】
電気泳動による確認の結果、増幅されたバンドのサイズは296 bp(矢印A)および163 bp(矢印B)であると認められた。従って、本発明のモーレラ属菌およびジオバチルス属菌の同時検出方法は、容器詰め食品において共存する他の菌株が存在した場合であっても、感度よく、特異的にモーレラ属菌およびジオバチルス属菌を検出することができると認められた。