特許第6541298号(P6541298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧
<>
  • 特許6541298-潮流判別方法及び装置 図000002
  • 特許6541298-潮流判別方法及び装置 図000003
  • 特許6541298-潮流判別方法及び装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541298
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】潮流判別方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/14 20060101AFI20190628BHJP
【FI】
   G01R19/14
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-250501(P2013-250501)
(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公開番号】特開2015-108524(P2015-108524A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000235901
【氏名又は名称】美和電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】石通 孝行
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 邦明
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 大剛
(72)【発明者】
【氏名】平山 正承
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊治
(72)【発明者】
【氏名】添田 遼子
【審査官】 山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−349583(JP,A)
【文献】 特開昭48−041238(JP,A)
【文献】 特開昭51−039170(JP,A)
【文献】 特開平04−127823(JP,A)
【文献】 特開昭62−266472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源の正弦波から成る交流電圧および交流電流のそれぞれの値を所定の時間間隔でサンプリングして複数のサンプリングデータを取り、
前記複数のサンプリングデータのうち、3個の連続したサンプリングデータが単調減少、単調増加のいずれの関係にあるか、或いはいずれの関係にもないのかを判定し、
単調減少の関係にある場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについて、交流電圧および交流電流のそれぞれの値を交流周期のπ/2から3π/2までの時間間隔に存在するとして、当該時間間隔に対応して交流電圧および交流電流のそれぞれの実効値と瞬時値から、当該交流電圧および交流電流のそれぞれの角度値を演算により求め、
単調増加の関係にある場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについて、交流電圧および交流電流のそれぞれの値を交流周期の3π/2から2πまたは0からπ/2までの時間間隔に存在するとして、当該時間間隔に対応して交流電圧および交流電流のそれぞれの実効値と瞬時値から、当該交流電圧および交流電流のそれぞれの角度値を演算により求め、次いで、
前記角度値を求める演算により得られた交流電圧の角度値と交流電流の角度値との間で位相差を求める演算を行い、周波数の影響を含まない演算結果を得る、
ことを特徴とする潮流判別方法。
【請求項2】
前記角度値を求める演算は、時刻tにおける交流電圧の瞬時値vおよび交流電圧の瞬時値iが、その位相差をθとして次の式、すなわち、
v=√2・V・sin(ωt) ・・・・(1)
i=√2・I・sin(ωt+θ) ・・・・(2)
ここで、
V:交流電圧の実効値
I:交流電流の実効値
ω:角速度
の式で表されることを基礎として、
式(1)より、交流電圧の実効値Vと交流電圧の瞬時値vから、交流電圧の角度(ωt)の値を、0≦ωt<2πの範囲で下記の時間区間ごとに算出し、
a)0≦ωt<π/2のとき
ωt=sin−1(v/(√2・V)) ・・・・(3)
b)π/2<ωt<3π/2のとき
ωt=π−sin−1(v/(√2・V)) ・・・・(4)
c)3π/2<ωt<2πのとき
ωt=sin−1(v/(√2・V))+2π ・・・・(5)
他方、同様にして、式(2)より、以下の3つの式のいずれかを使用することで、交流電流の実効値Iと交流電流の瞬時値iから、交流電流の角度(ωt+θ)の値を、0<ωt+θ<2πの範囲で下記の時間区間ごとに算出する、
d)0≦ωt+θ<π/2のとき
ωt+θ=sin−1(i/(√2・I)) ・・・・(6)
e)π/2<ωt+θ<3π/2のとき
ωt+θ=π−sin−1(i/(√2・I)) ・・・・(7)
f)3π/2<ωt+θ<2πのとき
ωt+θ=sin−1(i/(√2・I))+2π ・・・・(8)
であり、また、
前記位相差(θ)を求める演算は、
θ=(ωt+θ)−ωt
=(π−sin-1(i/(√2・I)))
−(π−sin-1(v/(√2・V))
=−sin-1(i/(√2・I))+sin-1(v/(√2・V))
・・・・(9)
である、
ことを特徴とする請求項1記載の潮流判別方法。
【請求項3】
交流電圧および交流電流を同一の位相でサンプリングし、任意の位相において交流電圧および交流電流のうちの少なくともいずれか一方のサンプリングデータについて、3個の連続したサンプリングデータが単調減少、単調増加のいずれの関係にもない場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについては、角度値を求める演算から除外することを特徴とする請求項2記載の潮流判別方法。
【請求項4】
商用電源の正弦波から成る広帯域交流電圧および交流電流のそれぞれの帯域を制限するフィルタ手段と、
前記交流電圧および交流電流のそれぞれの波形を所定周期毎にサンプリングして保持するサンプル保持手段と、
サンプル保持手段から出力されるアナログ形式のサンプリングデータをディジタル形式のサンプリングデータに変換するアナログ/ディジタル変換手段と、
前記交流電圧および交流電流のそれぞれについて、サンプリングデータのサンプリングタイミングを一時記憶する位相値一時記憶手段と、
前記交流電圧および交流電流のそれぞれについて、サンプリングデータの信号値を一時記憶する信号値一時記憶手段と、
前記位相値一時記憶手段に記憶されたサンプリングタイミングについて、3個の連続したサンプリングデータの単調減少、単調増加、それ以外のいずれに該当するかによってサンプリングタイミングを判定する位相判定手段と、
前記位相判定手段からの出力に基づいて信号値一時記憶手段から、前記交流電圧および交流電流のそれぞれについて、前記サンプリングタイミングに対応するサンプリングデータを抽出するサンプリングデータ抽出手段と、
前記サンプリングデータ抽出手段により抽出されたサンプリングデータを基に、前記交流電圧および交流電流のそれぞれについて信号を演算により角度値に変換する信号角度変換手段と、
前記信号角度変換手段からの出力に基づいて、前記演算により得られた交流電圧の角度値と交流電流の角度値との間で位相差を演算により求める位相差演算手段と、を備え、
前記位相値一時記憶手段には、2サンプル前までのサンプリングデータのサンプリングタイミングが一時記憶され、
前記信号値一時記憶手段には、2サンプル前までのサンプリングデータの信号値が一時記憶され、
前記位相判定手段は、前記複数のサンプリングデータのうち、3個の連続したサンプリングデータが単調減少、単調増加のいずれの関係にあるか、或いはいずれの関係にもないのかを判定し、
単調減少の関係にある場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについて、信号値が交流周期のπ/2から3π/2までの時間間隔に存在すると判定し、
単調増加の関係にある場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについて、信号値が交流周期の3π/2から2πまたは0からπ/2までの時間間隔に存在すると判定し、
前記信号角度変換手段は、前記位相判定手段によるそれぞれの判定結果に対応して、前記交流電圧および交流電流のそれぞれについて、交流信号の実効値と瞬時値から、当該交流信号の角度値を演算により求め、
記位相差演算手段は、前記角度値演算により得られた交流電圧の角度値と交流電流の角度値との間で位相差を求める演算を行い、周波数の影響を含まない演算結果を得る、
ことを特徴とする潮流判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潮流判別方法、特にコンピュータによる演算量が少なく、周波数の影響を受けない潮流判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流回路において、潮流を判別することは、その回路の力率または有効電力の極性を判別することに相当する。電力系統に複数の電源が接続されたときに潮流の反転が発生するが、極性の決め方は任意である。例えば、電力系統に2つの電源が接続されていて、それぞれを電源1、電源2としたとき、両電源の間の任意の1地点において、電源1側から電源2側へエネルギーを供給しているときに「正」とし、電源2側から電源1側へエネルギーを供給しているときに「負」とする。
【0003】
三相交流回路では、当然、三相の力率または有効電力の極性で判別するが、平衡三相交流回路ならば単相の力率または有効電力の極性で判別しても等価である。三相交流回路の相順をa,b,cで表したとき、相電圧をそれぞれVa,Vb,Vc、線間電圧をそれぞれVab,Vbc,Vca、線電流(相電流ともいう)をそれぞれIa,Ib,Icと表す。三相の力率が1のときに同相となる電圧と電流の組み合わせで、単相の力率または有効電圧を計測すれば、正しい三相の潮流を判別することができる。例えばVaとIa,VbとIb,VcとIcなどである。しかし、実際の変電所などの電力送配電設備では、経済的理由から、計測のために利用できる電圧と電流の組み合わせが限られている場合が少なくない。例えば、VabとIaの組み合わせしか利用できない場合、三相の力率が1のとき、両者には30°の位相差があるので、この組み合わせで計測した単相の力率または有効電力では、正しい三相の潮流を判別することができない。そこで、電圧または電流のどちらか一方の位相を30°シフトして力率または有効電力を計測すれば、正しい三相の潮流を判別することが可能となる。
【0004】
近年の電力送配電設備で使用される計測装置では、高速A/Dコンバータとマイクロプロセッサを使用したディジタルサンプリング、ディジタル演算による計測が主流になっている。また、そのディジタルサンプリングにおけるサンプリング周波数は、60Hz系統では720Hz(50Hz系統では600Hz)が基本となっている。なお、この明細書では60Hz系統を例として説明するが、50Hz系統についても同じことが言える。さらに、高速のサンプリングを行うオーバーサンプリング技術を利用した機器もあるが、サンプリング周波数は、ほとんどの場合、720Hzの整数倍である。720Hzは商用周波数60Hzの12倍であるから、電気角に換算すると、30°毎のサンプリングとなるため、30°サンプリングと呼ばれている。前述の例において、Vabの最新のサンプリング値とIaの1回前のサンプリング値とを組み合わせとして、力率または有効電力を演算すれば、位相を30°シフトした力率または有効電力を求めることができる。位相を60°シフトする場合は2回前、90°シフトする場合は3回前のサンプリング値を使用することでそれぞれ実現できる。
【0005】
電力送配電設備で使用される計測装置では、系統の周波数に±5Hzの変動があっても、所定の性能を満足することが要求される。例えば60Hzの系統で、周波数が55Hzになった場合、サンプリング周波数720Hzは電気角に換算すると、27.5°毎のサンプリングとなり、2.5°の誤差を生じる。力率が1付近では、
cos2.5°≒0.999
であるから、ほとんどの場合誤差は問題とならないが、力率が0付近では、
cos87.5°≒0.044、また
cos92.5°≒−0.044
となる。これらの値は百分率にして4%を超える誤差であり、計測装置の要求性能(通常±1%以内)によっては、無視できない値である。特に潮流を判別する場合は、力率0付近の精度は重要である。そこで、720Hzのサンプリングデータから、周波数を算出し、周波数変動による誤差を補正する演算処理が必要となる。このような演算技術としては、例えば非特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「第4章 保護リレー性能」 電気協同研究 第41巻 第4号 P40−P45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、力率を求めるには、サンプリングデータからディジタルフィルタ演算、電圧実効値演算、電流実効値演算、有効電力演算を行うことになる。これらの演算では、乗除算演算や開平演算を数多く繰り返す必要があり、マイクロプロセッサにとっては重い負荷となっており、計測装置の要求性能(処理速度や計測精度)によっては、複数のマイクロプロセッサを搭載したり、マイクロプロセッサとディジタルマイクロプロセッサ(DSP)を併用したり、より処理能力の高いマイクロプロセッサを使用したりといった対応が必要になる。
【0008】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、演算量が少なく、周波数の変動を受けない、高精度の潮流判別方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するため、商用電源の正弦波から成る交流電圧および交流電流のそれぞれの値を所定の時間間隔でサンプリングして複数のサンプリングデータを取り、前記複数のサンプリングデータのうち、3個の連続したサンプリングデータが単調減少、単調増加のいずれの関係にあるか、或いはいずれの関係にもないのかを判定し、単調減少の関係にある場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについて、交流電圧および交流電流のそれぞれの値を交流周期のπ/2から3π/2までの時間間隔に存在するとして、当該時間間隔に対応して交流電圧および交流電流のそれぞれの実効値と瞬時値から、当該交流電圧および交流電流のそれぞれの角度値を演算により求め、単調増加の関係にある場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについて、交流電圧および交流電流のそれぞれの値を交流周期の3π/2から2πまたは0からπ/2までの時間間隔に存在するとして、当該時間間隔に対応して交流電圧および交流電流のそれぞれの実効値と瞬時値から、当該交流電圧および交流電流のそれぞれの角度値を演算により求め、次いで、前記角度値を求める演算により得られた交流電圧の角度値と交流電流の角度値との間で位相差を求める演算を行い、周波数の影響を含まない演算結果を得る、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記3個の連続したサンプリングデータが単調減少、単調増加のいずれの関係にもない場合は、前記3個の連続したサンプリングデータの2番目のサンプリングデータについては、角度値を求める演算から除外するものとする。
【0011】
さらに本発明においては、前記演算は、時刻tにおける交流電圧の瞬時値vおよび交流電流の瞬時値i、その位相差をθとして次の式、すなわち、
v=√2・V・sin(ωt) ・・・・(1)
i=√2・I・sin(ωt+θ) ・・・・(2)
ここで、
V:交流電圧の実効値
I:交流電流の実効値
ω:角速度
の式で表されることを基礎として、
式(1)より、交流電圧の実効値Vと交流電圧の瞬時値vから、交流電圧の角度(ωt)の値を、0≦ωt<2πの範囲で下記の時間区間ごとに算出し、
a)0≦ωt<π/2のとき
ωt=sin-1(v/(√2・V)) ・・・・(3)
b)π/2<ωt<3π/2のとき
ωt=π−sin-1(v/(√2・V)) ・・・・(4)
c)3π/2<ωt<2πのとき
ωt=sin-1(v/(√2・V))+2π ・・・・(5)
他方、同様にして、式(2)より、以下の3つの式のいずれかを使用することで、交流電流の実効値Iと交流電流の瞬時値iから、交流電流の角度(ωt+θ)の値を、0<ωt+θ<2πの範囲で下記の時間区間ごとに算出する、
d)0≦ωt+θ<π/2のとき
ωt+θ=sin-1(i/(√2・I)) ・・・・(6)
e)π/2<ωt+θ<3π/2のとき
ωt+θ=π−sin-1(i/(√2・I)) ・・・・(7)
f)3π/2<ωt+θ<2πのとき
ωt+θ=sin-1(i/(√2・I))+2π ・・・・(8)
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、潮流判別に際して、1サンプル分の交流電圧及び交流電流の瞬時値データと、予め計測された交流電圧及び交流電流の実効値のみから位相差を算出することが出来るため、制御部33におけるCPUの処理負担が少なくてすむ。
【0013】
また、交流電圧及び交流電流をディジタルサンプリングにより計測する手段を備えた計測器に適用するに当たり、特別なハードウェアを必要とせず、当該計測器の機能を増大させることができる。
【0014】
さらに、同時刻にサンプリングされた交流電圧及び交流電流のサンプリングデータ各1つから位相差が計測できるため、計測対象の周波数変動の影響がなく、精度のよい潮流判別を行うことができる。
さらに、演算により位相差が直接求められるため、位相シフトを行う場合にはシフト量を単純に加減算すればよく、シフト処理動作を簡易にすることができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、有効電力、及び無効電力を計測することなく、少ない演算量で位相差を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係る潮流判別装置の構成を示すブロック図である。
図2】前記実施の形態における交流電圧の時間変化に伴うサンプリング動作を表す交流電圧波形図である。
図3】前記実施の形態における交流電圧及び交流電流の時間変化に伴うサンプリング動作を表す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に本発明の一実施の形態に係る潮流判別装置の構成を示す。図1に示された潮流判別装置10は、アンチエリアシングフィルタ11、サンプルホールド部12、アナログ/ディジタル変換手段13、位相RAM14、電圧RAM15、電圧抽出部16、電圧角度変換部17を備えている。これらの機能部11〜17は交流電圧についてサンプリングデータを取得して電圧角度変換を行う電圧・角度変換ユニット20を構成している。また、潮流判別装置10は、アンチエリアシングフィルタ21、サンプルホールド部22、アナログ/ディジタル変換手段23、位相RAM24、電流RAM25、電流抽出部26、電流角度変換部27を備えている。これらの機能部21〜27は交流電流についてサンプリングデータを取得して電流角度変換を行う電流・角度変換ユニット30を構成している。潮流判別装置10はさらに、位相判定部31と、位相差演算部32と、制御部33とを備えている。
【0018】
アンチエリアシングフィルタ11は、広帯域信号の帯域制限に使用するものであり、折返し歪み(エリアシング)対策用のアナログフィルタである。サンプルホールド部12は、交流信号における電圧の波形を所定周期毎にサンプリングして保持するものである。アナログ/ディジタル変換手段13は、サンプルホールド部12から出力されるアナログデータをディジタルデータに変換するものである。位相RAM14は所定サンプル前までのサンプリングデータの電圧の位相値(位相角度)を一時記憶するものである。本実施の形態では2サンプル前まで(合計3個)のサンプリングデータの電圧の位相値を一時記憶する。電圧RAM15は、所定サンプル前までのサンプリングデータの電圧値を一時記憶するものである。本実施の形態では2サンプル前まで(合計3個)のサンプリングデータの電圧値を一時記憶する。電圧抽出部16は上記電圧RAM15に記憶された電圧値のうちの1つの電圧値を所定の条件にしたがって抽出するものである。電圧角度変換部17は電圧抽出部16によって抽出されたサンプリングデータの電圧値から角度を演算により求めるものである。
【0019】
アンチエリアシングフィルタ21は、広帯域信号の帯域制限に使用するものであり、折返し歪み(エリアシング)対策用のアナログフィルタである。サンプルホールド部22は、交流信号における電流の波形を所定周期毎にサンプリングして保持するものである。アナログ/ディジタル変換手段23は、サンプルホールド部22から出力されるアナログデータをディジタルデータに変換するものである。位相RAM24は所定サンプル前までのサンプリングデータの電流の位相値(位相角度)を一時記憶するものである。本実施の形態では2サンプル前まで(合計3個)のサンプリングデータの電流の位相値を一時記憶する。電流RAM25は、所定サンプル前までのサンプリングデータの電流値を一時記憶するものである。本実施の形態では2サンプル前まで(合計3個)のサンプリングデータの電流値を一時記憶する。電流抽出部26は上記電流RAM25に記憶された電流値のうちの1つの電流値を所定の条件にしたがって抽出するものである。電流角度変換部27は電流抽出部26によって抽出されたサンプリングデータの電流値から角度を演算により求めるものである。
【0020】
また、位相判定部31は、位相RAM14及び24からのそれぞれの位相値を取得して、各位相値が電圧抽出、及び電流抽出に適するか否かを判定するものである。位相差演算部32は、電圧角度変換部17により算出された電圧の角度成分と、電流角度変換部27により算出された電流の角度成分とから、計測対象となる潮流、すなわち、電圧・電流間の位相差を演算により求めるものである。制御部33は、上記電圧・角度変換ユニット20(機能部11〜17)、電流・角度変換ユニット30(機能部21〜27)、位相判定部31、位相差演算部32の動作を制御するものであり、CPUから構成される。
【0021】
次に、上記実施の形態に係る潮流判別装置による潮流判別動作について説明する。先ず、本発明における動作理論について説明する。
【0022】
動作理論
この明細書の「背景技術」で述べたように、潮流の判別は力率または有効電力の極性の判別であるが、平衡三相交流回路であって単相の力率または有効電力の極性で判別する場合、対象となる電圧と電流の位相差を計測して、0〜90°および270〜300°は「正」、90〜270°は「負」としても等価である。
【0023】
時刻tにおける交流電圧の瞬時値vおよび交流電圧の瞬時値iは、その位相差をθとして、次の式で表すことができる。
v=√2・V・sin(ωt) ・・・・(1)
i=√2・I・sin(ωt+θ) ・・・・(2)
ここで、
V:交流電圧の実効値
I:交流電流の実効値
ω:角速度
である。
【0024】
式(1)より、以下の3つの式のいずれかを使用することで、交流電圧の実効値Vと交流電圧の瞬時値vから、ωtの値を、0≦ωt<2πの範囲で算出することができる。
a)0≦ωt<π/2のとき
ωt=sin-1(v/(√2・V)) ・・・・(3)
b)π/2<ωt<3π/2のとき
ωt=π−sin-1(v/(√2・V)) ・・・・(4)
c)3π/2<ωt<2πのとき
ωt=sin-1(v/(√2・V))+2π ・・・・(5)
同様にして、式(2)より、以下の3つの式のいずれかを使用することで、交流電流の実効値Iと交流電圧の瞬時値iから、(ωt+θ)の値を、0<ωt+θ<2πの範囲で算出することができる。
d)0≦ωt+θ<π/2のとき
ωt+θ=sin-1(i/(√2・I)) ・・・・(6)
e)π/2<ωt+θ<3π/2のとき
ωt+θ=π−sin-1(i/(√2・I)) ・・・・(7)
f)3π/2<ωt+θ<2πのとき
ωt+θ=sin-1(i/(√2・I))+2π ・・・・(8)
【0025】
以上から、潮流の判別を行うには、電圧値、電流値についてそれぞれの位相に対応して上述の式(3)〜(8)のうちのいずれかを選択して角度演算を行えばよいことが分かる。
【0026】
装置による実行動作
次に、上述の式(3)〜(8)のうちの使用する式を選択して角度演算を行う手順について図1に示された潮流判別装置の動作に即して述べる。ここでは、60Hz系統を計測対象とした、720Hzサンプリングを例として説明する。
【0027】
電圧・角度変換ユニット20内における前半の動作について説明する。交流電圧信号はアンチエリアシングフィルタ11に入力され広帯域信号の帯域制限を行い、サンプルホールド部12で交流電圧信号における電圧の波形を所定周期毎にサンプリングして保持する。サンプルホールド部12から出力される電圧のアナログデータはアナログ/ディジタル変換手段13でディジタルデータに変換される。位相RAM14には、ディジタルデータに変換された電圧の位相値の2サンプル前までの3つの位相値(現在の位相値をph(t)として、ph(t)、ph(t−1τ)、ph(t−2τ))が一時記憶されている。
ここで、
τ:サンプリング周期
である。ちなみに、本実施の形態では上述のように60Hz系統を計測対象とした、720Hzサンプリングを行うから、サンプリング周期τは、
1/τ=60(Hz)×12=720(Hz)
となるようにしている。すなわち、交流1サイクルの12倍の速さでサンプリングを行うものとしており、1周期で12個のサンプリングデータが得られる。また、電圧RAM15には、ディジタルデータに変換された電圧の2サンプル前までの3つの電圧値(現在の電圧値をE(t)として、E(t)、E(t−1τ)、E(t−2τ))が一時記憶されている。
【0028】
ここで、データのサンプリング動作について説明する。図2は上記実施の形態における交流電圧の時間変化に伴うサンプリング動作を表す交流電圧波形図である。この図において、縦軸は電圧、横軸は時間を表し、横軸方向にはスタート時点を0として0→π/2→π→3π/2→0というように時間周期の割り当てがなされ、スタート時点0を中心に据えて概略1つ前の周期のπ/2から次の周期のπまでの時間における交流電圧波形が示されている。また、図2において1つ前の周期のπ/2から次の周期のπ/2までが交流電圧波形図の1周期の時間長であり、この1周期の時間長のうち、スタート時点0を基準として前側の周期のπ/2から3π/2までの時間間隔を区間Aとし、前側の周期の3π/2からスタート時点0までの時間間隔を区間Bとし、このスタート時点0から後側の周期内のπ/2までの時間間隔を区間Cとしている。図2において、交流電圧波形上に所定の時間間隔でサンプリングデータa〜o(12個)を取り、これらのサンプリングデータa〜oについて検討する。サンプリングデータa〜oの中で3個の連続したサンプリングデータ(例えばサンプリングデータa〜oのうち現在のサンプリングデータをDとした場合、D、D−1(1τ前のデータ)、D−2(2τ前のデータ)を調べる。その3個の連続したサンプリングデータD、D−1、D−2が単調減少の関係にあれば、2番目のサンプリングデータD−1は図2の波形図で区間Aに存在する。この条件に当てはまる3個の連続したサンプリングデータとしては、例えばサンプリングデータd、c、bが該当する。
また、3個の連続したサンプリングデータD、D−1、D−2が単調増加の関係にあれば、2番目のサンプリングデータD−1は区間Bまたは区間Cに存在し、そのデータが負であれば区間B,正であれば区間Cに存在する。2番目のサンプリングデータが負である条件に当てはまる3個の連続したサンプリングデータとしては、例えばサンプリングデータk、j、hが該当する。また、2番目のサンプリングデータが正である条件に当てはまる3個の連続したサンプリングデータとしては、例えばサンプリングデータn、m、lが該当する。
【0029】
さらに、3個の連続したサンプリングデータD、D−1、D−2が単調減少、単調増加のいずれにも該当しない場合には、2番目のサンプリングデータD−1は逆正弦関数の定義域境界に位置するため、演算に使用しない。この条件に当てはまるサンプリングデータD−1としては、例えばサンプリングデータa、g、nが該当する。
【0030】
以上に示した手順と、先に示した式(3)〜(5)により、図2ではサンプリングデータb、c、d、e、f、h、j、k、l、m、oにおいて各サンプリング時の位相角を算出できることが分かる。以上の事柄は交流電流の時間変化を表す交流電流波形図についても同様である。
【0031】
次に、電流・角度変換ユニット30内における前半の動作について説明する。交流電流信号はアンチエリアシングフィルタ21に入力され広帯域信号の帯域制限を行い、サンプルホールド部22で交流電流信号における電流の波形を所定周期毎にサンプリングして保持する。サンプルホールド部22から出力される電流のアナログデータはアナログ/ディジタル変換手段23でディジタルデータに変換される。位相RAM24には、ディジタルデータに変換された電流の位相値の2サンプル前までの3つの位相値(現在の位相値をph(t)として、ph(t)、ph(t−1τ)、ph(t−2τ))が一時記憶されている。なお、データのサンプリング動作については先に図2を参照して説明された方法と同じである。先に述べた電圧・角度変換ユニット20及び電流・角度変換ユニット30においては、両者とも同じサンプリングタイミングでデータのサンプリングを行う。したがって、電圧・角度変換ユニット20における電圧の位相値及び電流・角度変換ユニット30における電流の位相値は同じ値である。電流RAM25には、ディジタルデータに変換された電流の2サンプル前までの3つの電流値(現在の電流値をI(t)として、I(t)、I(t−1τ)、I(t−2τ))が一時記憶されている。
【0032】
以上、位相RAM14、24及び電圧RAM15、及び電流RAM25に各データが記憶された後、位相判定部31において位相判定が行われる。位相判定部31には位相RAM14から交流電圧の位相値が入力される一方、位相RAM24から交流電流の位相値がそれぞれ入力される。位相判定部31が、同時にサンプリングされた交流電圧と交流電流のサンプリングデータ各1つを用いて位相判定を行う動作について説明する。
【0033】
一例として図3の場合を考える。図3は上記実施の形態における交流電圧及び交流電流の時間変化に伴うサンプリング動作を表す波形図である。図3において、上段は交流電圧波形図、下段は交流電圧に対して幾分かの位相差を持った交流電流波形図である。この図において、上段縦軸は電圧値を表し、波形上の点は交流電圧のサンプリングデータを表す。下段縦軸は電流値を表し、波形上の点は交流電流のサンプリングデータを表す。サンプリング方法については上述のサンプリング方法と同じである。交流電圧及び交流電流の各サンプリングデータは各波形上において720Hzで、且つ互いに同一位相でサンプリングされており、そのサンプリングタイミングがp〜γ(1周期当たり12個)で表されている。横軸は時間を表し、横軸の時間周期の区間A、B、Cの割り当ては図2と同様である。図3における位相判定において、各サンプリングタイミングp〜γを見ると、サンプリングタイミングq、r、s、w、y、z、αでは、電圧、電流どちらのサンプリングデータを見ても、3個の連続したサンプリングデータD、D−1、D−2が単調減少、単調増加のいずれかに該当し、且つ2番目のサンプリングデータD−1は逆正弦関数の定義域境界に位置しないため、潮流判定を行うのに良好なサンプリングデータである。これに対して、サンプリングタイミングp、u、x、β、γでは、電圧、電流どちらかのサンプリングデータについて、3個の連続したサンプリングデータD、D−1、D−2が単調減少、単調増加のいずれにも該当せず、2番目のサンプリングデータD−1は逆正弦関数の定義域境界に位置するため、潮流判定を行うのに不適当なサンプリングデータである。図3の事例では、サンプリングタイミングq、r、sにおけるサンプリングデータが潮流判定を行うのに良好なサンプリングデータであるから、位相判定部31はサンプリングタイミングr(2番目のサンプリングデータD−1のタイミング)のデータを電圧抽出部16及び電流抽出部26へ出力する。
【0034】
電圧抽出部16は、サンプリングタイミングrのデータを受け取ると、電圧RAM15に記憶された電圧のうち、上記サンプリングタイミングrの電圧値を抽出して電圧角度変換部17へ出力する。他方、電流抽出部26は、サンプリングタイミングrのデータを受け取ると、電流RAM25に記憶された電流のうち、上記サンプリングタイミングrの電流値を抽出して電流角度変換部27へ出力する。
【0035】
電圧角度変換部17は、交流電圧のサンプリングデータは、サンプリングタイミングq、r、sにおいて単調減少であるから、サンプリングタイミングrでサンプリングしたサンプリングデータは、区間A(π/2<ωt<3π/2)に存在することが分かる。したがって電圧角度変換部17は、式(4)より、
ωt=π−sin-1(v/(√2・V))
の値を算出する。この算出された値は位相差演算部32へ出力される。
【0036】
電流角度変換部27は、電圧角度変換部17と同様に、交流電流のサンプリングデータも、サンプリングタイミングq、r、sにおいて単調減少であるから、サンプリングタイミングrでサンプリングしたサンプリングデータは、区間A(π/2<ωt<3π/2)に存在することが分かる。したがって、式(7)より、
ωt+θ=π−sin-1(i/(√2・I))
の値を算出する。この算出された値は位相差演算部32へ出力される。
【0037】
以上から、位相差θは、
θ=(ωt+θ)−ωt
=(π−sin-1(i/(√2・I)))
−(π−sin-1(v/(√2・V))
=−sin-1(i/(√2・I))+sin-1(v/(√2・V))
・・・・(9)
として、ωtの項(周波数を含む項)に依存しないすなわち、周波数変動に影響されない位相差θが決まる。
【0038】
ここで、位相差算出に使用する交流電圧の実効値Vおよび交流電流の実効値Iは、周波数の変動を受けない手段による計測結果を用いる必要があるが、例えば特許第4350488で示される実効値計測方法等で計測することが可能である。また、電力送配電設備において、同一相の電圧と電流の組み合わせを利用できない場合には、既知の相間の位相差分を算出したい位相差θから加減算によりシフトすることで解決できる。なお、以上に説明してきた方法を適用する2つの交流信号は必ずしも交流電圧と交流電流の組み合わせに限定されず、交流電圧と交流電圧、或いは交流電流と交流電流の組み合わせにおける位相差計測にも適用することができる。また、本発明における上記位相判定の方法は30°サンプリングよりも高速のサンプリングシステムにおいても、3個連続した等間隔サンプリングデータに適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上から、本発明による潮流判別方法によれば、1サンプル分の交流電圧及び交流電流の瞬時値データと、予め計測された交流電圧及び交流電流の実効値のみから、位相差を算出することが出来るため、制御部33におけるCPUの処理負担が少なくてすむ。
【0040】
また、交流電圧及び交流電流をディジタルサンプリングにより計測する手段を備えた計測器に適用するに当たり、特別なハードウェアを必要とせず、当該計測器の機能を増大させることができる。
【0041】
さらに、同時刻にサンプリングされた交流電圧及び交流電流のサンプリングデータ各1つから位相差が計測できるため、計測対象の周波数変動の影響がなく、精度のよい潮流判別を行うことができる。
【0042】
さらに、演算により位相差が直接求められるため、位相シフトを行う場合にはシフト量を単純に加減算すればよく、シフト処理動作を簡易にすることができる。
【0043】
さらに、本発明によれば、有効電力、及び無効電力を計測することなく、少ない演算量で位相差を計測することができるなど、種々の有用性を持つ。
【符号の説明】
【0044】
10 潮流判別装置
11、21 アンチエリアシングフィルタ
12、22 サンプルホールド部
13、23 アナログ/ディジタル変換手段
14、24 位相RAM
15 電圧RAM
16 電圧抽出部
17 電圧角度変換部
20 電圧・角度変換ユニット
25 電流RAM
26 電流抽出部
27 電流角度変換部
30 電流・角度変換ユニット
31 位相判定部
32 位相差演算部
33 制御部
図1
図2
図3