(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施形態1の構成>
図1乃至
図6Aに基づき、本発明の実施形態1によるブラシ付きDCモーター1(ブラシ付き回転電機に該当し、以下、DCモーター1と言う)について説明する。本実施形態におけるDCモーター1は、車載装置の駆動用、家庭用電機の駆動用、一般産業用機械の駆動用等、あらゆる用途に使用することが可能である。
図1に示したように、回転軸φは、ローターシャフト43の回転中心を示しており、以下、説明中において、回転軸φを単に回転軸といい、回転軸φが延びた方向を回転軸方向という。また、回転軸方向において、
図1の左方をDCモーター1の後方とし、反対側(
図1において右方)をDCモーター1の前方として説明する。また、DCモーター1の外周からローターシャフト43に近づく方向を半径方向内方といい、その逆の方向を半径方向外方という。
【0009】
図1に示したように、DCモーター1のハウジング2は、モーターケース21とハウジングカバー22とを互いに係合させて形成している。モーターケース21は、アルミニウム合金等の導電性の良好な金属材料により形成されている。モーターケース21は、筒状の側部21a(円筒部に該当する)と、側部21aの前端部に一体化された閉端部21bと、側部21aの後端部に形成されたフランジ部21cとを有した略椀状を呈している。
一方、ハウジングカバー22は、導電性を有した金属材料により平板状に形成されている。モーターケース21の閉端部21bとハウジングカバー22は底部に該当し、側部21aの両端部を閉塞している。また、ハウジングカバー22は一方の底部に該当する。ハウジングカバー22の前面22a(底部の内周面に該当する)をモーターケース21のフランジ部21cに当接させた状態で、フランジ部21cおよびハウジングカバー22に貫通させた締付ボルト23を、固定ナット24に締め付ける。これによって、モーターケース21とハウジングカバー22とが一体化される。
【0010】
側部21aの内周面21d(円筒部の内周面に該当する)には、ステーター3が固定されている。ステーター3は、互いに極性の異なる一対の界磁用磁石31によって形成されている。
図1に示したように、界磁用磁石31は、互いに半径方向に対向している。
モーターケース21の閉端部21bには、第1軸受41が嵌着されている。また、ハウジングカバー22の中央部には、第2軸受42が固定されている。ハウジング2には、第1軸受41および第2軸受42を介して、ローターシャフト43が、回転軸を中心に回転可能に取り付けられている。第1軸受41、第2軸受42およびローターシャフト43によって、シャフト構造体4が形成されている。
【0011】
ローターシャフト43には、ローター5が取り付けられている。ローター5は、ステーター3に対して、所定距離を有して半径方向内方に対向するように配置されている。ローター5は、複数の電磁鋼板が積層されて形成されたローターコア51と、ローターコア51のティース(図示せず)に巻回された複数のローターコイル52とを有している。
ローターシャフト43には、コンミテータ6(整流子に該当する)が取り付けられている。コンミテータ6は、ローターシャフト43の外周面43aに固定され、ローターシャフト43と一体回転可能に形成されている。コンミテータ6の外周面6aには、導体により形成され、回転軸を中心として円周上に配置された複数のセグメント61が形成されている。
【0012】
ハウジングカバー22の前面22a(一方の底部の内周面に該当する)には、ブラシ装置7が取り付けられている。ブラシ装置7は、互いに半径方向に対向するように配置された一対のブラシホルダー71と、各々のブラシホルダー71内において、回転軸に向けて往復動可能に収容されたブラシ72を含んでいる(
図2示)。ブラシホルダー71は合成樹脂材料等の絶縁部材により形成され、ハウジングカバー22の前面22a上に固定されている。一方、ブラシ72は、銅等の導電性の金属材料により形成されており、コンミテータ6の各セグメント61に電力を供給するために、コンミテータ6の外周面6aと摺接している。
【0013】
図3に示したように、各々のブラシ72には、ブラシスプリング73が係合している。ブラシスプリング73は、バネ性を有した鋼線材により形成され、略中央部にコイル状の保持部73aを有している。保持部73aを、ハウジングカバー22の前面から前方に突出したスプリングサポート22bに嵌合させることにより、ブラシスプリング73はハウジングカバー22上に取り付けられている。
図2に示したように、ブラシスプリング73の一端部に配置された押圧部73bはブラシ72に当接し、他端部に配置された入力部73cがモーターケース21の内周面21dに弾性的に係合している。これにより、各々のブラシ72は、ブラシスプリング73からコンミテータ6の外周面6aに向けた付勢力を受けている。
【0014】
また、各々のブラシ72には、電力供給用のワイヤハーネス74が接続されている。ワイヤハーネス74によって、各々のブラシ72は直流電源B(
図6A示)に接続され、一方のブラシ72にはプラスの電位、他方のブラシ72にはマイナスの電位が供給される。
図5に示したように、ワイヤハーネス74は、芯線74a(導線に該当する)、被覆74b(絶縁層に該当する)およびスリーブ74c(導電層に該当する)を有している。芯線74aは、銅あるいはアルミニウム合金によって形成され、直流電源Bからブラシ72に対し電力を供給する。被覆74bは、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレン等の絶縁材料によって形成され、芯線74aを被覆している。スリーブ74cは、銅等の導電性金属材料により形成され、被覆74bを覆っている。これにより、芯線74aの周囲には、芯線74a、被覆74bおよびスリーブ74cにより形成されたインダクタンス成分を含まないバイパスコンデンサC2(
図6A示)が形成される。
【0015】
ハウジングカバー22の前面22aには、前方に延びた一対のショートバー8(接地体、ピン部材に該当する)が立設されている(
図3示)。ショートバー8は、銅あるいはアルミニウム等の導電性金属材料により形成されている。ショートバー8は、ハウジングカバー22の前面22aに圧入固定されている。
図4に示したように、ショートバー8にはワイヤハーネス74のスリーブ74cが当接しており、スリーブ74cはショートバー8によってハウジング2に接地されている。
図2に示すように、ハウジングカバー22の前面22aには、一対のハーネス保持部22cが立設されており、各々のワイヤハーネス74は、ハーネス保持部22cを介して、ハウジング2外に引き出されている。
【0016】
<実施形態1によるノイズ低減方法>
以下、
図6A乃至
図7Bに基づき、本実施形態のDCモーター1によるノイズ低減方法について、従来技術と比較して説明する。
図6Aに示したように、直流電源Bと接続されたワイヤハーネス74の芯線74aは、ブラシ72およびコンミテータ6のセグメント61を介して、ローターコイル52と接続される。ワイヤハーネス74の芯線74a自体には、互いに並列に接続された導体インダクターLhと導体コンデンサC1とが含まれている。また、前述したように、芯線74aとハウジング2との間には、芯線74a、被覆74bおよびスリーブ74cにより形成された、直列のインダクタンス成分を含まないバイパスコンデンサC2が形成されている。
【0017】
図6Bに示したように、バイパスコンデンサC2には直列のインダクタンス成分が含まれていないため、ブラシ72にノイズが発生した場合、ノイズの高周波成分は、バイパスコンデンサC2を流れる(
図6Bにおいて、太い矢印にて示す)。通常、バイパスコンデンサC2の容量は極めて小さいが、高周波成分であるためインピーダンスは低くなり、高周波成分は、バイパスコンデンサC2を効率よく流れる。バイパスコンデンサC2に流れた高周波成分のノイズは、接地されたハウジング2へと流入し、発生したノイズは十分に低減される。
これに対し、導体インダクターLhのインピーダンスが増大するため、ノイズの高周波成分は、導体インダクターLhを流れることはない。また、ノイズの高周波成分が、バイパスコンデンサC2に流入するため、導体コンデンサC1を流れる高周波成分も低減される(
図6Bにおいて、細い矢印にて示す)。
【0018】
一方、
図7Aに示したように、芯線74aに、前述した特許文献1に記載されたチップコンデンサCCを接続した場合、ハウジング2に接地されたチップコンデンサCCには、互いに直列に接続された付加コンデンサC22と付加インダクターL22とが含まれている。また、チップコンデンサCC以外に、
図6Aに示されたDCモーター1と同様に、芯線74a自体にも、導体インダクターLhおよび導体コンデンサC1が含まれている。
図7Bに示したように、ブラシ72にノイズが発生した場合、ノイズの高周波成分に対して、付加インダクターL22のインピーダンスが増大するため、チップコンデンサCCに流れるノイズの高周波成分は制限される(
図7Bにおいて、細い矢印にて示す)。これに対し、導体コンデンサC1のインピーダンスは、導体インダクターLhのインピーダンスよりも低いため、ノイズの高周波成分は、導体コンデンサC1を通って直流電源Bに接続される端子へと流入する(
図7Bにおいて、太い矢印にて示す)。したがって、芯線74aにチップコンデンサCCが接続された場合、ノイズの高周波成分を十分に除去することは困難である。
【0019】
<実施形態1の作用効果>
本実施形態によれば、ワイヤハーネス74は、電力を供給する芯線74aと、絶縁材により形成され、芯線74aを被覆した被覆74bと、導電材料により形成され、被覆74bを覆ったスリーブ74cとを有している。そして、スリーブ74cは、ショートバー8によって、ハウジング2に接地されている。これにより、チップコンデンサを使用せずに、芯線74aと被覆74bとスリーブ74cとにより、ブラシ72に接続された芯線74aの周囲に、インダクタンス成分を含まないバイパスコンデンサC2を形成することができる。したがって、ブラシ72にノイズが発生した場合、ノイズがバイパスコンデンサC2を介してハウジング2に流入するため、ブラシ装置7から発生したノイズの低減効果を増大させることができる。
また、チップコンデンサを使用せずに、芯線74aの周囲にバイパスコンデンサC2を形成することができるため、DCモーター1中において、ブラシ装置7を小型化することができる。
また、チップコンデンサを使用しないため、半田付けや基板への取り付けを行う必要が無く、製造の容易なDCモーター1にすることができる。
【0020】
また、フレキシブルなワイヤハーネス74を接地していることにより、ブラシ72の周囲を絶縁層および導電層で覆って接地する場合と異なり、特別な部材を必要とせずにスリーブ74cをハウジング2に当接させることができ、容易に接地することができる。
また、ブラシ72の周囲を絶縁層および導線層で覆って接地する場合と異なり、芯線74aを覆う被覆74bとスリーブ74cの長さを調整することにより、コンデンサの容量を容易に調整することができる。
また、本実施形態においては、ブラシ72の周囲を絶縁層および導電層で覆った場合のように、ブラシ72がコンミテータ6の外周面6aと摺動摩耗して短くなり、バイパスコンデンサの容量が低減するような恐れがない。
【0021】
また、ブラシ装置7は、ハウジングカバー22の前面22aに取り付けられ、接地体として、ハウジングカバー22の前面22aに立設されるとともに、スリーブ74cが当接する導電性のショートバー8を含んでいる。これにより、簡単な構成によって、スリーブ74cをハウジング2に接地することができ、製造の容易なDCモーター1にすることができる。また、ハウジングカバー22の前面22a上の任意の位置において、スリーブ74cをハウジング2に接地させることができる。
【0022】
<実施形態2の構成>
図8に基づき、本発明の実施形態2によるDCモーター1について説明する。
図8に示したように、本実施形態におけるワイヤハーネス74は、ブラシ72から引き出された後、ハウジング2の外周縁に向けて湾曲している。ワイヤハーネス74のスリーブ74cは、上記湾曲した部位において、モーターケース21の内周面21d(接地体、接地壁に該当する)に当接している。ハウジング2の全体からすれば、モーターケース21の内周面21dは、ハウジングカバー22の前面22aから前方へと突出し、ハウジングカバー22が延びる方向(
図8において、紙面が延びる方向)に延在していると言える。
【0023】
また、ハウジングカバー22の前面22aには、モーターケース21の内周面21dと同じ方向に突出したハーネスガイド22d(ガイド壁に該当する)が形成されている。ハーネスガイド22dは、モーターケース21の内周面21dとともに、ハウジングカバー22が延びる方向に、スリーブ74cをワイヤハーネス74の湾曲した部位において挟持している。DCモーター1の構成について、これまで説明したもの以外は実施形態1によるものと同様であるため、これ以上の説明は省略する。
【0024】
<実施形態2の作用効果>
本実施形態によれば、スリーブ74cは、ハウジングカバー22が延びる方向に延在したモーターケース21の内周面21dに当接している。これにより、ハウジングカバー22の前面22aにショートバー8を設けることなく、スリーブ74cをハウジング2に接地することができる。したがって、製造の容易なDCモーター1にすることができる。また、構成する部品点数を低減し、低コストのDCモーター1にすることができる。
また、スリーブ74cをハウジング2に接地するための接地壁を、モーターケース21の内周面21dとしたことにより、新たな構成を設けることなく、現有の部材を使用してスリーブ74cを接地することができるため、いっそう、低コストのDCモーター1にすることができる。
【0025】
また、ハウジングカバー22の前面22aには、モーターケース21の内周面21dとともに、ハウジングカバー22が延びる方向にスリーブ74cを挟持可能なハーネスガイド22dが形成されている。これにより、スリーブ74cがモーターケース21の内周面21dとハーネスガイド22dとの間で保持され、スリーブ74cの確実な接地を可能にすることができる。
【0026】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明において、ノイズ低減効果を増大させるため、ワイヤハーネス74の芯線74aのうち、ブラシ72の近傍に位置する部位を、被覆74bおよびスリーブ74cで覆って接地することが望ましい。
また、本発明は、ローター5が回転されることにより、ブラシ72間に電力を発生させる発電機にも適用可能である。
また、本発明は、発電機と電動機の2つの機能を併せ持つ電動発電機にも適用可能である。