【実施例】
【0013】
〔実施例の構成〕
図1〜
図4を参照して実施例の点火装置1を説明する。
点火装置1は、1次コイル2および2次コイル3を有する点火コイル4と、2次コイル3に接続する点火プラグ5とを備え、1次コイル2への通電のオンオフに伴う電磁誘導により点火プラグ5にエネルギーを投入して火花放電を発生させるものである。また、点火装置1は、車両走行用の内燃機関6に搭載され、所定の点火時期に気筒7内の混合気に点火するものである。
【0014】
なお、点火プラグ5は、周知構造を有するものであり、2次コイル3の一端に接続される中心電極8と、内燃機関6のシリンダヘッド等を介してアース接地される接地電極9とを備え、2次コイル3に生じるエネルギーにより中心電極8と接地電極9との間で火花放電を生じさせる(
図3参照。)。
また、内燃機関6は、例えば、ガソリンを燃料とする希薄燃焼(リーンバーン)が可能な直噴式であり、気筒7内にタンブル流やスワール流等の混合気の旋回流が生じるように設けられている。
以下、点火装置1について詳述する。
【0015】
点火装置1は、次の第1、第2回路11、12、および、制御部13を備える。まず、第1回路11は、1次コイル2への通電をオンオフすることで、点火プラグ5に火花放電を開始させる。また、第2回路12は、第1回路11の動作によって開始した火花放電中に、第1回路11による通電方向とは逆の方向に1次コイル2に通電することで、2次コイル3の通電を第1回路11の動作で開始したのと同一方向に維持して点火プラグ5にエネルギーを投入し続け、火花放電を継続させる。また、制御部13は、第1、第2回路11、12の動作を制御する部分であり、次の電子制御ユニット(以下、ECU14と呼ぶ。)およびドライバ15等により構成される。
【0016】
ここで、ECU14は、内燃機関6に対する制御の中枢を成すものであり、点火信号IGtおよび放電継続信号IGw等の各種信号を出力して1次コイル2への通電を制御し、1次コイル2への通電を制御することで2次コイル3に誘導される電気エネルギーを操作して、点火プラグ5の火花放電を制御する(点火信号IGtおよび放電継続信号IGwについては後述する。)。
【0017】
なお、ECU14は、車両に搭載されて内燃機関6の運転状態や制御状態を示すパラメータを検出する各種センサから信号が入力される。また、ECU14は、入力された信号を処理する入力回路、入力された信号に基づき、内燃機関6の制御に関する制御処理や演算処理を行うCPU、内燃機関6の制御に必要なデータやプログラム等を記憶して保持する各種のメモリ、CPUの処理結果に基づき、内燃機関6の制御に必要な信号を出力する出力回路等を備えて構成される。
【0018】
また、ECU14に信号を出力する各種センサとは、例えば、内燃機関6の回転数を検出する回転数センサ17、内燃機関6に吸入される吸入空気の圧力を検出する吸気圧センサ18、および、混合気の空燃比を検出する空燃比センサ19等である。そして、ECU14は、これらセンサから得られるパラメータの検出値に基づき、内燃機関6における点火制御や燃料噴射制御を実行する。
【0019】
第1回路11は、例えば、バッテリ21の+極と1次コイル2の一方の端子とを接続するとともに、1次コイル2の他方の端子をアースに接続し、1次コイル2の他方の端子のアース側(低電位側)に、放電開始用のスイッチ(以下、第1スイッチ22と呼ぶ。)を配置することで構成されている。
【0020】
そして、第1回路11は、第1スイッチ22のオンオフにより、1次コイル2にエネルギーを蓄えさせるとともに、1次コイル2に蓄えたエネルギーを利用して2次コイル3に高電圧を発生させ、点火プラグ5に火花放電を開始させる。
以下、第1回路11の動作により発生した火花放電を主点火と呼ぶことがある。また、1次コイル2の通電方向(つまり1次電流の方向)は、バッテリ21から第1スイッチ22に向かう方向をプラスとする。
【0021】
より具体的に説明すると、第1回路11は、ECU14から点火信号IGtが与えられる期間に第1スイッチ22をオンすることで、1次コイル2にバッテリ21の電圧を印加してプラスの1次電流を通電し、1次コイル2に磁気的なエネルギーを蓄えさせる。その後、第1回路11は、第1スイッチ22のオフにより、電磁誘導によって2次コイル3に高電圧を発生させ、主点火を生じさせる。
なお、第1スイッチ22は、パワートランジスタ、MOS型トランジスタ、サイリスタ等である。また、点火信号IGtは、第1回路11において1次コイル2にエネルギーを蓄えさせる期間および点火開始時期を指令する信号である。
【0022】
第2回路12は、第1回路11に対し1次コイル2と第1スイッチ22との間に接続するとともに、昇圧回路23から1次コイル2への電力供給をオンオフするスイッチ(以下、第2スイッチ24と呼ぶ。)を配置することで構成されている。
ここで、昇圧回路23は、ECU14から点火信号IGtが与えられる期間においてバッテリ21の電圧を昇圧してコンデンサ26に蓄えるものである。より具体的に、昇圧回路23は、コンデンサ26、チョークコイル27、昇圧スイッチ28、昇圧ドライバ29およびダイオード30を備えて構成されている。
【0023】
チョークコイル27は一端がバッテリ21のプラス電極に接続され、昇圧スイッチ28によりチョークコイル27の通電状態が断続される。また、昇圧ドライバ29は、昇圧スイッチ28に制御信号を与えて昇圧スイッチ28をオンオフさせるものである。そして、昇圧スイッチ28のオンオフ動作により、チョークコイル27に発生した磁気的なエネルギーを、コンデンサ26で電気的なエネルギーとして蓄える。
【0024】
なお、昇圧ドライバ29は、ECU14から点火信号IGtが与えられる期間において昇圧スイッチ28を所定周期で繰り返しオンオフするように設けられている。また、ダイオード30は、コンデンサ26に蓄えたエネルギーがチョークコイル27の側へ逆流するのを防ぐものである。さらに、昇圧スイッチ28は、例えば、MOS型トランジスタである。
【0025】
第2回路12は、次の第2スイッチ24およびダイオード31を備えて構成される。ここで、第2スイッチ24は、例えば、MOS型トランジスタであり、コンデンサ26に蓄えたエネルギーを1次コイル2にマイナス側から投入するのをオンオフするものである。また、ダイオード31は、1次コイル2から第2スイッチ24への電流の逆流を阻止するものである。そして、第2スイッチ24は、ドライバ15から与えられる制御信号によりオン動作することで、昇圧回路23から1次コイル2のマイナス側にエネルギーを投入する。
【0026】
ドライバ15は、放電継続信号IGwが与えられる期間において、第2スイッチ24をオンオフさせてコンデンサ26から1次コイル2に投入するエネルギーを制御することで、2次コイル3の通電量である2次電流を制御する(以下、ドライバ15を投入ドライバ15と呼ぶ。)。ここで、放電継続信号IGwは、主点火として発生した火花放電を継続する期間を指令する信号であり、より具体的には、第2スイッチ24にオンオフを繰り返させて昇圧回路23から1次コイル2にエネルギーを投入する期間を指令する信号である。
【0027】
以上により、第2回路12は、第1回路11の動作によって開始した火花放電中に、第1回路11による通電方向とは逆の方向に1次コイル2に通電することで、2次電流を第1回路11の動作で開始したのと同一方向に維持して点火プラグ5にエネルギーを投入し続け、火花放電を継続させる。
以下の説明では、第2回路12の動作により主点火に継続する火花放電を継続火花放電と呼ぶことがある。
【0028】
また、投入ドライバ15は、ECU14から2次電流の指令値を示す信号である電流指令信号IGaが与えられ、電流指令信号IGaに基づき2次電流を制御する。
ここで、2次コイル3の一端は上述したように点火プラグ5の中心電極8に接続する。また、2次コイル3の他端は、2次電流を制御部13にフィードバックするF/B回路32に接続し、F/B回路32には、2次電流を検出するためのシャント抵抗33が接続している。そして、F/B回路32およびシャント抵抗33は、2次電流を検出する2次電流検出部35をなす。なお、2次コイル3の他端は、2次電流の方向を一方向に限定するダイオード34を介してF/B回路32に接続している。
【0029】
そして、投入ドライバ15は、フィードバックされた2次電流の検出値と、電流指令信号IGaに基づき把握される2次電流の指令値とに基づき、第2スイッチ24のオンオフを制御する。すなわち、投入ドライバ15は、例えば、2次電流の検出値に対する上限下限の閾値を指令値に基づき設定し、検出値と上限、下限の閾値との比較結果に応じて制御信号の出力を開始したり、停止したりする。より具体的には、投入ドライバ15は、2次電流の検出値が上限よりも大きくなったら制御信号の出力を停止し、2次電流の検出値が下限よりも小さくなったら制御信号の出力を開始する。
【0030】
なお、第1、第2回路11、12、F/B回路32および投入ドライバ15は、点火回路ユニット36として1つのケース内に収容配置され、点火プラグ5、点火コイル4および点火回路ユニット36は、気筒7の数と同数設けられて気筒7毎に設置される(
図2参照。)。
【0031】
次に、
図4を参照して点火装置1の正常時の動作を説明する。
なお、
図4において、「IGt」は点火信号IGtの入力状態をハイ/ローで表すものであり、「IGw」は放電継続信号IGwの入力状態をハイ/ローで表すものである。また、「I1」、「V1」はそれぞれ1次電流(1次コイル2に流れる電流値)、1次電圧(1次コイル2に印加される電圧値)を表し、「I2」、「V2」はそれぞれ2次電流(2次コイル3に流れる電流値)、2次電圧(2次コイル3に印加される電圧値)を表す。さらに、「Vdc」はコンデンサ26に蓄えられるエネルギーを電圧値で表すものである。
【0032】
点火信号IGtがローからハイへ切り替わると(時間t01参照。)、点火信号IGtがハイの期間において、第1スイッチ22がオン状態を維持してプラスの1次電流が流れ、1次コイル2にエネルギーが蓄えられる。また、昇圧スイッチ28がオンオフを繰り返し、昇圧されたエネルギーがコンデンサ26に蓄えられる。
【0033】
やがて、点火信号IGtがハイからローへ切り替わると(時間t02参照。)、第1スイッチ22がオフされ、1次コイル2の通電が遮断される。これにより、電磁誘導によって2次コイル3に高電圧が発生し、点火プラグ5において主点火が発生する。
点火プラグ5において主点火が発生した後、2次電流は略三角波形状で減衰する(I2の点線を参照。)。そして、2次電流が下限の閾値に到達する前に、放電継続信号IGwがローからハイへ切り替わる(時間t03参照。)。
【0034】
放電継続信号IGwがローからハイへ切り替わると、第2スイッチ24がオンオフ制御されて、コンデンサ26に蓄えられていたエネルギーが、1次コイル2のマイナス側に順次投入され、1次電流は、1次コイル2からバッテリ21のプラス電極に向かって流れる。より具体的には、第2スイッチ24がオンされる毎に1次コイル2からバッテリ21のプラス電極に向かう1次電流が追加され、1次電流がマイナス側に増加していく(時間t03〜t04参照。)。
【0035】
そして、1次電流が追加される毎に、主点火による2次電流と同方向の2次電流が2次コイル3に順次追加され、2次電流は上限下限の間に維持される。
以上により、第2スイッチ24をオンオフ制御することで、2次電流が火花放電を維持可能な程度に継続して流れる。その結果、放電継続信号IGwのオン状態が続くと、継続火花放電が点火プラグ5において維持される。
【0036】
なお、ECU14は、1燃焼サイクルあたりの第2回路12によるエネルギーの投入量の目標値および2次電流の指令値を記憶している。そして、ECU14は、エネルギー投入量の目標値と2次電流の指令値とに基づき、第2回路12によるエネルギーの投入期間τを設定し、投入期間τとして定められた期間において放電継続信号IGwの出力を維持する。
【0037】
〔実施例の特徴〕
次に、実施例の特徴的な構成について、
図5および
図6等を用いて説明する。
点火装置1は、2次電圧を検出する2次電圧検出部37を備え、2次電圧検出部37は、2次コイル3の一端における電圧を2次電圧としてECU14にフィードバックする回路として設けられる。そして、ECU14は、火花放電の吹き消え(
図3(b)参照。)を抑制するため、2次電圧の検出値が大きいほど2次電流が大きくなるように、第2回路12の動作を制御する。
【0038】
ここで、吹き消えは、気筒7内の気流により火花放電の経路が引き伸ばされて切れることで発生する。また、火花放電の経路長Lは、
図5に示すとおり、2次電圧が−側に大きいほど長くなる。そこで、ECU14は、2次電圧の検出値が大きいほど、経路長Lの伸びが大きいものとみなし、2次電流の指令値を大きくする。
【0039】
例えば、
図6に示すように、時間t03以降、2次電圧が−側に増加していくとき、ECU14は、経路長Lの伸びが拡大しているとみなし、2次電流が−側に大きくなるように、2次電流の指令値を変更していく。これにより、第2回路12は、2次電流が−側に大きくなるように、1次コイル2への電力供給をオンオフする。
【0040】
なお、
図6における時間t02〜t04は、それぞれ、
図4における時間t02〜t04と同様であり、時間t02は点火信号IGtがハイからローへ切り替わる時間であり、時間t03は放電継続信号IGwがローからハイへ切り替わる時間であり、時間t04は放電継続信号IGwがハイからローへ切り替わる時間である。
また、2次電流の指令値の増量幅に関しては、種々の態様を考えることができる。
【0041】
例えば、2次電圧の検出値に対する閾値を設定し、2次電圧の検出値に対する閾値判定により2次電流の指令値を増量するか否かを決めてもよい。つまり、2次電圧の検出値の絶対値が閾値よりも大きいときに、指令値を増量するようにしてもよい。この場合、増量幅を一定値にしてもよく、増量幅を可変にしてもよい。増量幅を可変にする場合、2次電圧の検出値の絶対値が大きいほど増量幅を大きくしてもよい。
なお、
図6では、2次電圧の検出値の絶対値が大きいほど2次電流の増量幅を大きくする態様を例示している。
【0042】
〔実施例の効果〕
実施例の点火装置1によれば、ECU14は、2次電圧の検出値が大きいほど、2次電流が大きくなるように、第2回路12の動作を制御する。
これにより、火花放電の経路が引き伸ばされて2次電圧が−側に大きくなるほど、2次電流が−側に大きくなる。このため、火花放電の経路が引き伸ばされても、2次電流の増加により火花放電を継続することができる。
以上により、点火装置1において、吹き消えを抑制することができる。
【0043】
また、点火装置1は、2次電流検出部35および2次電圧検出部37を備える。そして、ECU14は、2次電圧の検出値に基づき2次電流の指令値を決め、投入ドライバ15は、2次電流の指令値と2次電流の検出値との比較結果に基づき、第2回路12の動作を制御する。
これにより、2次電流を成り行きで制御するのではなく、フィードバック制御することができるので、吹き消えの抑制に対する信頼性を高めることができる。
【0044】
〔変形例〕
点火装置1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例の点火装置1によれば、ECU14は、2次電圧の検出値が大きいほど、2次電流が大きくなるように、第2回路12の動作を制御していたが、吹き消え抑制のための第2回路12の制御はこのような態様に限定されない。
【0045】
例えば、火花放電の抵抗を推定し、この抵抗の推定値が大きいほど、2次電流が大きくなるように、第2回路12の動作を制御してもよい。つまり、2次電圧と経路長Lとの相関(
図5参照。)に代えて、経路長Lと抵抗との相関を用いて2次電流を制御してもよい。この場合、2次電圧の検出値および2次電流の検出値を用いることで、高精度に抵抗を推定することができる。また、抵抗と経路長Lとの相関を用いることで、2次電圧と経路長Lとの相関(
図5参照。)を利用するときよりも精度が高い制御が可能になるので、例えば、より少ない消費電力で、吹き消えを抑制しつつ火花放電を維持することができる。
【0046】
また、実施例では、ガソリン用の内燃機関6に点火装置1を用いる例を示したが、エタノール燃料や混合燃料を用いる内燃機関6に点火装置1を適用してもよく、粗悪燃料が用いられる可能性のある内燃機関6に点火装置1を適用してもよい。
【0047】
また、実施例では、希薄燃焼が可能な内燃機関6に点火装置1を用いる例を示したが、希薄燃焼とは異なる燃焼状態であっても継続火花放電によって着火性の向上を図ることができるため、希薄燃焼が可能な内燃機関6への適用に限定するものではなく、点火装置1を、希薄燃焼を行わない内燃機関6に用いてもよい。
【0048】
また、実施例では、気筒7内に直接燃料を噴射する直噴式の内燃機関6に点火装置1を用いる例を示したが、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射式の内燃機関6に用いてもよい。
さらに、実施例では、混合気の旋回流を気筒7内にて積極的に生じさせる内燃機関6に点火装置1を用いる例を開示したが、旋回流を気筒7内に積極的に生じさせる機構がない内燃機関6に用いてもよい。