(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記交流電圧印加部は、前記内燃機関の空燃比が前記閾値よりも高い場合に、前記出力時間を前記第二時間よりも長く設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の点火装置。
前記交流電圧は、前記部分破壊に至ることが可能であり且つ前記全路破壊に至ることが不可能なように設定されている、又は前記第二時間が前記内燃機関の燃焼行程における点火時間よりも長くなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載の点火装置。
前記一対の放電電極の間における放電で前記部分破壊に至った状態では、ストリーマ放電が形成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の点火装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に示す点火制御システム10には、点火コイル18と、点火プラグ16と、高周波電源部20と、電源供給部11とが設けられている。点火コイル18は、一次コイル18A、二次コイル18B及び鉄心18Cを備えている。一次コイル18Aの第一端は、高周波電源部20の出力端子に接続されており、高周波電源部20では、電源供給部11より出力された電圧を、一次コイル18Aに印加するための交流電圧に変換している。一方で、二次コイル18Bの第一端は、点火プラグ16の入力端子に接続されている。二次コイル18Bの第二端は、グランド電位に接地されている。即ち、二次コイル18Bは点火プラグ16に接続され、当該点火プラグ16は、二次コイル18Bから高電圧が印加されることとなる。
【0013】
高周波電源部(交流電圧印加部に該当)20は、電源分圧部21と、信号生成部30と、スイッチング部40とを備えている。電源分圧部21は、抵抗体22,23の直列接続体とコンデンサ24,25の直列接続体とを備えている。抵抗体22と抵抗体23を接続する経路とコンデンサ24とコンデンサ25とを接続する経路とは、一次コイル18Aの第二端と同電位とする経路で接続されている。また、抵抗体22及びコンデンサ24の一端に電源供給部11から電圧Vが印加され、抵抗体23及びコンデンサ25の一端はグランドに接地している。
【0014】
信号生成部30について、
図2により詳細な構成が記載されている。信号生成部30は、放電状態制御部31と発振器35と駆動信号生成部36とを含む。
【0015】
発振器35と駆動信号生成部36とは接続されている。発振器35は、HレベルとLレベルとに変化する矩形波の電圧信号を生成する。本実施形態では、交流電圧の周波数を点火プラグ16及び二次コイル18Bを含む回路に電圧共振を生じさせる周波数(共振周波数)となるように電圧信号が生成される。より具体的には、電圧共振を生じさせるために周波数が略800kHzとなるように電圧信号が生成される。そして、駆動信号生成部36が備えるHドライブ信号生成部37aに電圧信号を送信し、それと同時にnot回路を介してLドライブ信号生成部37bに電圧信号を送信する。このHドライブ信号生成部37aで生成されたドライブ信号Hは第一AND回路38aに出力され、Lドライブ信号生成部37bで生成されたドライブ信号Lは第二AND回路38bに出力される。これら第一AND回路38a及び第二AND回路38bには、上記ドライブ信号の他に点火信号IGtが送信される。
【0016】
放電状態制御部31からの信号が第一AND回路38a及び第二AND回路38bに入力されない構成であったとすると、第一AND回路38a及び第二AND回路38bは点火信号IGtを受信することで、ドライブ回路43にドライブ信号H,Lを送信する。そして、ドライブ回路43は、受信したドライブ信号H,Lに基づいて、それぞれ第一スイッチング素子41及び第二スイッチング素子42を制御する。この制御により、例えば、第一スイッチング素子41がオンに制御され、第二スイッチング素子42がオフに制御される場合には、電源供給部11から+V電圧(正電圧)が一次コイル18Aに印加される。一方で、第一スイッチング素子41がオフに制御され、第二スイッチング素子42がオンに制御される場合には、コンデンサ25により−V電圧(負電圧)が一次コイル18Aに印加される。したがって、第一スイッチング素子41及び第二スイッチング素子42のオン/オフの切替により、一次コイル18Aに正電圧と負電圧が交互に印加されることになる。つまり、一次コイル18Aに交流電圧が印加される。
【0017】
本実施形態では、交流電圧の周波数を略800kHzの共振周波数に設定してあるため、一次コイル18Aに高周波の交流電圧を印加することで、点火プラグ16に高エネルギの火花放電、かつ通常よりも広範囲に広がる放電プラズマが形成される。
【0018】
本実施形態では、電極の消耗の抑制効果をより高くするため、信号生成部30に放電状態制御部31を追加している。放電状態制御部31は、点火プラグ16で生じる放電を制御するためのものであり、沿面ストリーマ放電又は沿面アーク放電を任意に発生させる。この放電状態制御部31について、詳細な説明は後述する。
【0019】
点火プラグ16について、
図3を用いて概略構成を説明する。点火プラグ16は、中心電極161と、碍子162(絶縁体)と、接地電極163と、ハウジング164とを備える。碍子162は、中心電極161の外周を覆い、中心電極161とハウジング164及び接地電極163との電気絶縁性を確保している。碍子162の基端側は、ハウジング164によって加締め固定されている。そして、ハウジング164から露出する碍子162と接地電極163との間に放電するための空間(放電空間)が区画され、その放電空間内で沿面ストリーマ放電が生じる。
【0020】
沿面ストリーマ放電は、
図3下図に記載されるように、二次電圧が10kVを超えたあたりから、放電空間内において、接地電極163の表面から碍子162に沿って中心電極161に向かって伸びるように発生する(部分破壊)。この沿面ストリーマ放電を継続して実行すると、放電が碍子162の表面を這うように伸び、放電の一部が中心電極161の先端に到達する(全路破壊)。放電が全路破壊に至ると、接地電極163と中心電極161との間に沿面アーク放電が形成される。
【0021】
本願発明者らは、空燃比がリッチ側であれば沿面ストリーマ放電での燃焼が可能であることを見出した。この沿面ストリーマ放電は、非平衡プラズマである。したがって、プラズマを成す電子の温度は高いが、プラズマ内に含まれる燃料ガスのイオン温度は低い。このため、内燃機関の空燃比が閾値よりも低いリッチ側であった場合にはストリーマ放電により燃料の燃焼を実施することで、点火プラグ16の放電電極を高温にさらす頻度を低減することができ、ひいては電極の消耗を抑制する事ができる。
【0022】
また本願発明者らは、
図4に示すように、沿面ストリーマ放電を単発で実行する場合と沿面ストリーマ放電を複数回実行する場合と沿面アーク放電を実行する場合とで、安定して燃焼可能な空燃比の範囲が異なることを見出した。具体的には、沿面ストリーマ放電を単発で実行する場合と比較して、沿面ストリーマ放電を複数回実行する場合は、空燃比がよりリーン側であっても安定して燃料を燃焼可能である。そして、沿面ストリーマ放電を複数回実行する場合と比較して、沿面アーク放電を実行する場合は、空燃比がよりリーン側であっても安定して燃料を燃焼可能である。よって、沿面ストリーマ放電を複数回実行する場合に安定して燃料を燃焼可能な空燃比の上限値を第一閾値として設定し、沿面ストリーマ放電を単発で実行する場合に安定して燃料を燃焼可能な空燃比の上限値を第二閾値として設定する。これにより、実際の空燃比と第一閾値及び第二閾値との比較に基づいて、適した放電形態を選択することが可能となる。
【0023】
以上を踏まえ、
図2に示すように、放電状態制御部31は、タイマ信号生成部32と、ストリーマ放電制御信号生成部33と、放電状態制御信号生成部34とを含む。
【0024】
ストリーマ放電制御信号生成部33は、沿面ストリーマ放電を継続して生じさせ全路破壊に至ることのないように、沿面ストリーマ放電の放電時間を制御するためのものである。具体的には、交流電圧の出力時間が、放電電極における放電で、部分破壊に至る(ストリーマ放電が生じる)第一時間よりも長く、全路破壊に至る(アーク放電が生じる)第二時間よりも短く設定される。本実施形態では、第二時間は20μsecとして設定する。
【0025】
このため、ストリーマ放電制御信号生成部33は、第一時間よりも長く、第二時間よりも短い期間ハイ信号を出力し、第二時間を経過すると、放電が全路破壊に至るおそれがあるとして、ロー信号を出力する。なお、ロー信号を出力する期間は、再度第一時間よりも長く第二時間よりも短い期間でハイ信号を出力しても、点火プラグ16で生じる放電が全路破壊に至らない程度に二次電圧が減少する期間として設定される。
【0026】
タイマ信号生成部32は、混合気の空燃比に応じて、沿面ストリーマ放電をどれくらいの期間生じさせるか(沿面ストリーマ放電を単発で実行するのか、複数回実行するのか)を定めるためのものである。したがって、タイマ信号生成部32は、沿面ストリーマ放電を実行する期間はハイ信号を出力し、沿面ストリーマ放電を実行しない期間はロー信号を出力する。
【0027】
タイマ信号生成部32とストリーマ放電制御信号生成部33とから出力される信号はそれぞれ第三AND回路38cに入力され、そして入力された信号に基づいて第三AND回路38cはOR回路39に信号を出力する。
【0028】
一方で、放電状態制御信号生成部34は、沿面アーク放電を実行すべきか沿面ストリーマ放電を実行すべきか混合気の空燃比に基づいて判断する。そして、空燃比がリーン側であり沿面アーク放電が適している場合にはハイ信号を、空燃比がリッチ側であり沿面ストリーマ放電が適している場合にはロー信号をOR回路39に出力する。
【0029】
OR回路39に入力された信号の内、放電状態制御信号生成部34により入力された信号がロー信号であり、沿面ストリーマ放電の実行を指示していた場合を想定する。この場合、
図8に記載されるように、タイマ信号生成部32及びストリーマ放電制御信号生成部33の信号が、第一AND回路38a及び第二AND回路38bに送信される。第一AND回路38a及び第二AND回路38bは、点火信号IGtとドライブ信号H,LとOR回路39から入力された信号とを受信することで、これらの受信した信号の論理積をドライブ回路43に送信する。ドライブ回路43は、受信したタイマ信号生成部32及びストリーマ放電制御信号生成部33の信号に基づいて、第一スイッチング素子41及び第二スイッチング素子42を制御し、一次コイル18Aへの交流電圧の印加時間及び印加期間を制御する。より詳細には、タイマ信号生成部32が一次コイル18Aへの交流電圧の印加期間を定め、その期間内で、ストリーマ放電制御信号生成部33は、放電が部分破壊に至り且つ全路破壊に至らないように、一次コイル18Aへの交流電圧の印加時間を定める。したがって、放電状態制御部31が信号生成部30に備わることで、点火プラグ16の放電状態(沿面ストリーマ放電と沿面アーク放電)を任意に制御できるようになる。
【0030】
一方で、OR回路39に入力された信号の内、放電状態制御信号生成部34により入力された信号がハイ信号であり、沿面アーク放電の実行を指示していた場合を想定する。この場合、OR回路39に入力された放電状態制御信号生成部34の信号がハイ信号であることを受けて、OR回路39はハイ信号を、第一AND回路38a及び第二AND回路38bに送信する。したがって、沿面ストリーマ放電と異なり、一次コイル18Aに印加される交流電圧の印加時間は制限されないため、点火プラグ16で生じる放電は全路破壊に至り、沿面アーク放電が生じる。
【0031】
本実施形態では、信号生成部30により後述する
図5に記載の放電制御を実行する。
図5に示す放電制御は、信号生成部30が電源オンしている期間中に信号生成部30によって所定周期で繰り返し実行される。
【0032】
まずステップS100にて、第一AND回路38a及び第二AND回路38bは、点火信号IGtを外部より受信したか否かを判定する。外部より点火信号IGtを受信していない場合には(S100:NO)、点火プラグ16に火花放電を生じさせる必要はないとして、そのまま本制御を終了する。外部より点火信号IGtを受信した場合には(S100:YES)、点火プラグ16に火花放電を生じさせる必要があるとして、ステップS110に進む。
【0033】
ステップS110では、放電状態制御信号生成部34が現在の車両の運転状態に関する情報を外部より受信する。本実施形態における運転状態とは、アクセル操作量などに基づく内燃機関の負荷や、内燃機関の出力軸の回転速度などが該当する。内燃機関の負荷が大きくなると、気筒内の圧力(筒内圧)が高くなり、点火プラグ16に放電を生じさせることが難しくなる。また、内燃機関の回転速度が高いと、気流によって放電が伸長しやすいため短時間の放電でも着火させやすい。
【0034】
したがって、内燃機関の負荷及び内燃機関の回転速度の大きさ次第で、沿面ストリーマ放電で安定に燃焼可能な空燃比は変化する。よって、ステップS120にて、放電状態制御信号生成部34は第一閾値を、ステップS110で検出した運転状態に基づいて設定する。例えば、内燃機関の負荷が低い、または内燃機関の回転速度が高い場合には、第一閾値をより高く、リーン側に設定する。
【0035】
ステップS130では、放電状態制御信号生成部34が排気触媒上流側に配設した空燃比センサなどにより混合気の実際の空燃比(実空燃比)を検出させる。
【0036】
ステップS140では、放電状態制御信号生成部34は実空燃比が第一閾値よりも大きいか否かを判定する。実空燃比が第一閾値以下であると判定された場合には(S140:NO)、沿面ストリーマ放電で燃料を燃焼可能であるとして、ステップS150に進む。
【0037】
ステップS150では、タイマ信号生成部32が運転状態に基づいて第二閾値を設定する。この第二閾値もまた、第一閾値と同様に内燃機関の負荷及び内燃機関の回転速度の大きさ次第で変化する可変値である。第二閾値は、第1閾値よりも小さく設定される。
【0038】
ステップS160にて、タイマ信号生成部32は実空燃比が第二閾値よりも大きいか否かを判定する。実空燃比が第二閾値以下であると判定された場合には(S160:NO)、沿面ストリーマ放電を一回生じさせるだけで燃料を燃焼可能であるとして、ステップS170に進む。ステップS170では、タイマ信号生成部32がストリーマ放電を一回放電するよう放電期間を設定し、点火プラグ16に沿面ストリーマ放電を生じさせ、本制御を終了する。
【0039】
実空燃比が第二閾値よりも大きいと判定された場合には(S160:YES)、沿面ストリーマ放電を複数回生じさせることで燃料を燃焼可能であるとして、ステップS180に進む。ステップS180では、タイマ信号生成部32がストリーマ放電を複数回放電するよう放電期間を設定し、点火プラグ16に沿面ストリーマ放電を生じさせ、本制御を終了する。沿面ストリーマ放電の放電期間について、
図6に記載されているように、内燃機関の負荷が大きく内燃機関の回転速度が低いほど、燃料の燃焼に必要な放電期間(回数)は長く(多く)設定される。また、空燃比が高くなり、リーン側になるほど、燃料の燃焼が困難となるため、それだけ放電期間が長く設定される。
【0040】
実空燃比が第一閾値よりも大きいと判定された場合には(S140:
YES)、沿面アーク放電により燃料を燃焼させる必要があるとして、ステップS190に進む。ステップS190では、放電状態制御信号生成部34が、点火プラグ16に沿面ストリーマ放電を継続して生じさせることで、全路破壊に至らせ、沿面アーク放電を生じさせる。そして、本制御を終了する。沿面アーク放電の放電期間について、
図7に記載されるように、沿面ストリーマ放電と同様の傾向が観察されている。つまり、内燃機関の負荷が大きく内燃機関の回転速度が低いほど、燃料の燃焼に必要な放電期間は長く設定される。また、空燃比が高くなり、リーン側になるほど、燃料の燃焼が困難となるため、それだけ放電期間が長く設定される。
【0041】
次に、
図8を参照して、本実施形態にかかる放電制御の態様を説明する。
【0042】
発振器35がHドライブ信号生成部37a及びLドライブ信号生成部37bを介すことにより、ドライブ信号H,Lが常時第一AND回路38a及び第二AND回路38bに対して送信される。また、点火信号IGtもまた外部より第一AND回路38a及び第二AND回路38bに送信される。
【0043】
その一方で、内燃機関の運転状態に基づいて、第一閾値が放電状態制御信号生成部34により設定される。実空燃比が第一閾値以下である場合には、沿面ストリーマ放電による燃料の燃焼が可能であるとして、放電状態制御信号生成部34によりロー信号がOR回路39に対して出力される。
【0044】
沿面ストリーマ放電が全路破壊に至り、沿面アーク放電に進展しないようにストリーマ放電制御信号生成部33によりハイ/ロー信号で一次コイル18Aへの電圧印加時間が制御される。
【0045】
タイマ信号生成部32により、ハイ/ロー信号で沿面ストリーマ放電を繰り返し実施する期間が制御される。これらタイマ信号生成部32及びストリーマ放電制御信号生成部33の信号の論理積は、OR回路39に出力される。OR回路39は、この論理積と放電状態制御信号生成部34のロー信号の論理和を、第一AND回路38a及び第二AND回路38bに対して出力する。
【0046】
第一AND回路38a及び第二AND回路38bにドライブ信号H,Lと、点火信号IGtと、OR回路39からの出力が入力されることで、これらの信号の論理積がドライブ回路43に送信される。入力された信号に基づいて、ドライブ回路43により第一スイッチング素子41及び第二スイッチング素子42が制御され、一次コイル18Aに交流電圧が印加され、点火プラグ16に沿面ストリーマ放電を生じさせる。
【0047】
このとき、
図8では、タイマ信号生成部32により定められた放電期間よりも短い期間で、沿面ストリーマ放電が終了している(時間t1参照)。これは、これ以上沿面ストリーマ放電を継続すると沿面アーク放電に進展するおそれがあるとして、ストリーマ放電制御信号生成部33により点火コイル18への電圧印加が終了させられたためである。
【0048】
図8では、実空燃比が第二閾値以下である場合を想定しているため、時間t1以降においてストリーマ放電が生じていない。ここで、仮に、実空燃比が第二閾値よりも高く第一閾値以下である場合を想定する。この場合、タイマ信号生成部32により定められる放電期間は、ストリーマ放電制御信号生成部33により再びハイ信号が送信される時期(時間t2参照)よりも長く設定され、二回目の沿面ストリーマ放電が実施されることになる。
【0049】
上記構成により、本実施形態は、以下の効果を奏する。
【0050】
・内燃機関の空燃比が第一閾値以下であった場合には、繊維状の沿面ストリーマ放電で燃料を燃焼可能である。したがって、沿面ストリーマ放電により燃料の燃焼が可能な空燃比では、沿面ストリーマ放電での燃料の燃焼を試みる。このとき、沿面ストリーマ放電は、非平衡プラズマである。したがって、内燃機関の空燃比が第一閾値以下であった場合には沿面ストリーマ放電により燃料の燃焼を実施することで、点火プラグ16の放電電極を高温にさらす頻度を低減することができ、ひいては放電電極の消耗を抑制する事ができる。
図9には、実際にどれだけ放電電極の消耗を抑制できたか、その効果が示されている。
図9上図には、放電電極の消耗試験を実施する上で、運転条件をどのように設定したかが示されている。日常で使用されることが多い運転領域(モード域)では、空燃比は第一閾値よりも高くリーン側に設定できる場合が多く、また内燃機関の回転速度及び内燃機関の負荷が低いことから、沿面アーク放電が実施される。一方で、急加速が必要になる場面などでは、空燃比が第一閾値以下に設定する必要がある場合が多いため、沿面ストリーマ放電を実行する。以上を考慮し、沿面アーク放電期間と沿面ストリーマ放電期間を8:2とした場合の放電電極の消耗試験を実施した。この場合、
図9下図に記載されるように、沿面アーク放電のみで燃料を燃焼する場合と比較して、沿面アーク放電と沿面ストリーマ放電とを切替えて燃料を燃焼した場合の方が点火プラグ16の電極寿命は1.25倍延びたことが示された。
【0051】
・実空燃比が第二閾値以下である場合には、沿面ストリーマ放電を一度生じさせることで安定して燃料を燃焼させることが可能である。しかし、実空燃比が第二閾値よりも高く第一閾値以下である場合には、沿面ストリーマ放電を一度生じさせるだけでは燃料を燃焼できないおそれがある。このため、タイマ信号生成部32により1回の燃焼サイクル中における放電期間が長く設定され、これにより沿面ストリーマ放電が複数回実施される。したがって、一回の沿面ストリーマ放電を生じさせるだけでは燃料を燃焼できないおそれがある空燃比においては、沿面ストリーマ放電を複数回生じさせることで、より確実に燃料を燃焼させることが出来る。
【0052】
・実空燃比が第一閾値よりも高くリーン側である場合には、放電状態制御信号生成部34によりハイ信号がOR回路39に出力されることで、放電が全路破壊に至らせ沿面アーク放電を生じさせる。これにより、実空燃比がリーン側であっても、沿面アーク放電による燃料の燃焼を試みることで着火性を確保することが可能となる。
【0053】
・内燃機関の回転速度が高いほど、気筒内の乱流速度が上昇し燃焼速度が向上する。したがって、燃焼期間自体が短時間であるため、交流放電の出力時間を短くしても着火性を確保することができ、ひいては電極の消耗をより抑制することが出来る。
【0054】
・内燃機関の負荷が高くなるほど、気筒内の圧力が高くなり、放電が難しい環境となる。したがって、出力時間を長く設定することで、放電を確実に実施させ、着火性を確保することが可能となる。
【0055】
上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。
【0056】
・上記実施形態では、発振器35により交流電圧の周波数が略800kHzとなるように電圧信号を生成していた。このことについて、800kHzに限らない。二次コイル18Bのインダクタンスや点火プラグ16の浮遊容量の大きさなどが変化することで共振周波数もまた変化する為、共振周波数の変化に応じて交流電圧の周波数を調整する。
【0057】
・上記実施形態では、第二時間を20μsecとして設定していた。このことについて、第二時間は20μsecに限らない。例えば、一次コイル18Aに印加される交流電圧の大きさが変化すれば、放電が全路破壊に至るまでの時間として設定される第二時間もまた変化する。
【0058】
・上記実施形態では、運転状態を内燃機関の回転速度及び内燃機関の負荷としていた。このことについて、更に、気筒内に存在する気体の実効圧縮率やタンブル比(気筒内でピストンが一往復する間にタンブル流が回転する回数)を加えてもよい。圧縮率が大きいと気筒内の温度が上昇する為、燃料の燃焼がしやすく、この場合、第一閾値及び第二閾値をリーン側に設定することが可能となる。また、気筒内のタンブル比が大きいと、燃料と空気が良く混合され燃焼しやすくなる。したがって、この場合も、第一閾値及び第二閾値をリーン側に設定することが可能となる。このように、上記運転状態についても考慮することで、より内燃機関の運転状態に適した第一閾値及び第二閾値の設定が可能となる。
【0059】
・上記実施形態では、高周波電源部20により出力された電圧が一次コイル18Aに印加されることで、点火プラグ16に放電が生じていた。このことについて、
図10に記載されるように二次コイル18Bと点火プラグ16との間に別途、高電圧印加部(高電圧電源に該当)50を設ける構成としてもよい。高電圧印加部50は、第二電源部51と第二点火コイル52と第三スイッチング素子53とを備えている。このため、点火コイル18により生じる二次電流が高電圧印加部50に流れないように点火プラグ16と高電圧印加部50との間に、ダイオードのような逆流防止素子60を配設する。同様に、第二点火コイル52にて生じる二次電流が点火コイル18に流れないように、高電圧印加部50と点火コイル18との間に逆流防止素子61を配設する。
【0060】
このような構成において、実空燃比がリーン側であるために沿面アーク放電を実行する場合を想定する。この場合は、まず高電圧印加部50より生じた二次電圧を点火プラグ16に印加することで、素早く放電を全路破壊に至らせ、その後高周波電源部20により生じた二次電圧を点火プラグ16に印加させる。これにより、沿面アーク放電を生じさせるための時間を短縮することが可能となり、ひいては燃料を燃焼させるまでの時間を短縮させることができる。
【0061】
また本別例について、高電圧印加部50より一次コイル18Aに印加される交流電圧を、点火プラグ16で生じる放電が部分破壊に至れるが全路破壊に至れない電圧に設定してもよい。または、放電が全路破壊に至るまでの時間として設定される第二時間が内燃機関の燃焼行程における点火時間よりも長くなるように設定してもよい。このような構成をとることで、実空燃比が第一閾値以下である場合には高周波電源部20による放電制御、実空燃比が第一閾値よりも高い場合には高電圧印加部50及び高周波電源部20による放電制御、といったように簡易な条件設定で放電制御が可能となる。