(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記垂直な方向から見た前記接合領域の面積及び前記非接合領域の面積の合計に占める前記非接合領域の面積の割合が、20%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の防水部材。
前記防水膜における前記支持層との接合面とは反対側の面、及び/又は、前記支持層における前記防水膜との接合面とは反対側の面に、前記防水膜の主面に垂直な方向から見て前記非接合領域を囲む形状を有する固定部が形成されている請求項1〜9のいずれかに記載の防水部材。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0014】
図1A及び
図1Bに、本発明の防水通音部材の一例を示す。
図1Bには、防水通音膜2の側から見た防水通音部材1が示されている。
図1Aには、
図1Bに示す断面A−Aが示されている。
【0015】
防水通音部材1は、防水通音膜2と支持層3とが接合された接合領域5と、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て(
図1B)、接合領域5により囲まれた非接合領域4とを有している。接合領域5は、防水通音膜2及び支持層3の周縁部の領域を含んでいる。防水通音膜2と支持層3とは、接合部6により接合されている。
【0016】
図1Aに示すように、非接合領域4において、支持層3は防水通音膜2から離間している。支持層3は厚さ方向の通気性を有する。非接合領域4における支持層3の厚さは100μm未満である。即ち、非接合領域4では、厚さ方向に通気性を有する厚さ100μm未満の支持層3が、防水通音膜2から離間して配置されている。
【0017】
防水通音部材1は、音声機能を有する電子機器の筐体に取り付けることができる。防水通音部材1は、外部通音口を覆うように、かつ防水通音膜2の側が外部(外部空間)に面するように、筐体に取り付けることができる。防水通音膜2を備える防水通音部材1によって、電子機器が有する音声変換器と外部との間で音の伝達が可能となりながら、外部通音口を介した電子機器の内部への水の侵入を防止できる。また、防水通音部材1を取り付けた電子機器の外部通音口に水圧が加わると、非接合領域4において支持層3の方向(外部から筐体内の方向)に防水通音膜2が変形する。しかし、防水通音部材1では、変形した防水通音膜2と支持層3との接触によって、防水通音膜2の変形が一定範囲に制限され、防水通音膜2の破断が防止される。したがって、支持層3を備えることにより、防水通音部材1は、防水通音膜2自身が有する防水性(例えば、限界耐水圧)に比べて高い防水性を有しうる。
【0018】
水圧からの開放後も防水通音膜2に残る変形(以下、「永久変形」と記載する)は、防水通音部材1の通音特性を低下させる。支持層3は、防水通音膜2の変形を制限することによって、防水通音膜2の永久変形を緩和しうる。
【0019】
防水通音部材1及び非接合領域4の形状は限定されない。
図1A及び
図1Bに示す例では、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、防水通音部材1は長方形、非接合領域4は円形である。防水通音部材1及び非接合領域4の形状は、互いに独立して、例えば、円(略円を含む)、楕円(略楕円を含む)、並びに長方形及び正方形を含む多角形である。多角形の角は丸められていてもよい。防水通音部材1は、例えば、支持層3側の面で音声変換器の通音口(内部通音口)を覆い、防水通音膜2側の面で筐体に設けられた通音口(外部通音口)を覆うように、外部通音口と内部通音口との間に取り付けることができる。
【0020】
接合領域5の形状は、非接合領域4を囲む形状である限り限定されない。接合領域5は、典型的には、防水通音膜2及び/又は支持層3の周縁部を含む領域である。
図1A及び
図1Bに示す例では、防水通音膜2と支持層3とが接合された接合領域5以外の領域が非接合領域4である。
図1A及び
図1Bに示す例では、非接合領域4において、防水通音部材1の一方の面に防水通音膜2が露出している。また、非接合領域4において、防水通音部材1の他方の面に支持層3が露出している。
【0021】
防水通音部材1は、小面積化された非接合領域4を有しながらも、高い通音特性を有しうる。防水通音膜2の主面に垂直な方向から見た非接合領域4の面積は、例えば、12mm
2以下である。非接合領域4の面積は、10mm
2以下、8.0mm
2以下、5.0mm
2以下、3.2mm
2以下、2.0mm
2以下、さらには1.8mm
2以下であってもよい。非接合領域4の面積の下限は限定されず、例えば、0.02mm
2以上である。防水通音部材1は、音声機能を備える小型の電子機器における使用に適している。小型の電子機器の一例は、スマートウォッチ等のウェアラブルデバイスである。
【0022】
防水通音部材1について、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見た接合領域5の面積及び非接合領域4の面積の合計に占める非接合領域4の面積の割合は限定されず、例えば、1〜90%である。当該割合の上限は、50%以下、20%以下、15%以下、さらには10%以下であってもよい。上記割合が小さくなるほど、即ち、防水通音部材1に占める接合領域5の割合が大きくなるほど、防水通音膜2と支持層3とをより強固に接合できる。このため、上記割合が小さくなるほど、水圧に起因する防水通音膜2の変形及び永久変形の程度を更に低減でき、防水通音部材1の防水性を更に高めたり、水圧に起因する防水通音部材1の通音特性の低下をより確実に抑制できる。
【0023】
防水通音膜2の形状及び支持層3の形状は、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、同一であっても異なっていてもよい。
図1A及び
図1Bに示す例では、防水通音膜2の形状及び支持層3の形状は互いに同一であり、防水通音部材1の形状とも同一である。
【0024】
防水通音部材1の厚さは、例えば、500μm以下である。防水通音部材1の厚さは、300μm以下、250μm以下、さらには200μm以下であってもよい。防水通音部材1の厚さの下限は限定されず、例えば60μm以上である。防水通音部材1は、筐体内部の容積が限定される小型の電子機器への使用に適している。また、音声機能を備える電子機器において、外部通音口から音声変換器までの距離が大きくなると、音声変換器で変換された音が劣化する傾向にある。音の劣化は、音声変換器がマイクロフォン等の受音部である場合、或いは外部通音口及び/又は内部通音口の面積が小さい場合に、特に強くなる。防水通音部材1の厚さが上述の範囲にある場合、防水通音部材1を配置したとしても、外部通音口から内部通音口までの距離が過度に大きくならずに済む。このため、音声変換器で変換された音の劣化を抑制できる。
【0025】
非接合領域4における防水通音膜2と支持層3との離間距離は、例えば、200μm以下である。離間距離は、150μm以下、130μm以下、100μm以下、100μm未満、さらには80μm以下であってもよい。離間距離の下限は限定されず、例えば、5μm以上であり、10μm以上、20μm以上、さらには30μm以上であってもよい。非接合領域4における防水通音膜2と支持層3との離間距離がこれらの範囲にある場合、水圧による防水通音膜2の変形及び永久変形をより確実に抑制できる。また、より確実に、防水通音部材1の厚さを上述の範囲に収めることができる。
【0026】
非接合領域4における支持層3の厚さは100μm未満である。支持層3の厚さは、99μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、55μm以下、50μm以下、45μm以下、さらには40μm以下であってもよい。厚さの下限は限定されず、例えば、2μm以上である。支持層3は、非接合領域4に限られることなく、上記厚さを有しうる。支持層3の全体が上記厚さを有していてもよい。なお、支持層3の厚さが100μm未満であることも、防水通音部材1の厚さの低減に寄与している。
【0027】
支持層3は、厚さ方向の通気性を有する限り限定されない。支持層3の厚さ方向の通気性は、通常、防水通音膜2の厚さ方向の通気性に比べて高い。また、支持層3の強度は、通常、防水通音膜2の強度に比べて高い。
【0028】
支持層3を構成する材料は限定されず、例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属;ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ポリアミド(ナイロンを含む各種の脂肪族ポリアミド及び芳香族ポリアミド等)、ポリイミド等の樹脂;及びこれらの複合材料である。
【0029】
支持層3の形態は限定されず、例えば、不織布、織布、ネット、メッシュ、又は貫通孔シートである。ネット及びメッシュは、骨格と、骨格間の空間(一般に「目」と称される)とから構成される格子構造を有している。格子構造の骨格は、フィラメント、ワイヤー、チューブ等の繊維により構成される。フィラメントは、モノフィラメント又はマルチフィラメントであってもよい。本明細書においてメッシュは、繊維と繊維とが織られており、繊維と繊維との交点(格子構造の交点)において、繊維同士が立体的に交差している構造体を意味する用語として使用し、ネットは、交差する繊維と繊維とが交点において一体化し、織られていない構造体を意味する用語として使用する。
【0030】
貫通孔シートは、非多孔質の基質構造を有する原シート、例えば無孔シート、に、当該シートを厚さ方向に貫通する複数の貫通孔(穿孔)を設けたシートである。貫通孔シートは、上記複数の貫通孔以外に厚さ方向の通気経路を有さないシートであってもよい。貫通孔は、シートの厚さ方向に直線状に延びるストレート孔であってもよい。貫通孔シートの主面に垂直な方向から見たときに、ネット及びメッシュの目が、通常、四角形等の多角形であるのに対し、貫通孔の開口の形状は、通常、円又は楕円である。貫通孔の断面の形状は、シートの一方の主面から他方の主面に至るまで一定であってもよく、シートの一方の主面から他方の主面に至るまでの間に変化していてもよい。貫通孔は、シートの主面に垂直な方向から見て、その開口が当該主面上に規則的に配列するように形成されていても、ランダムに位置するように形成されていてもよい。貫通孔シートは、金属シート又は樹脂シートでありうる。貫通孔は、例えば、原シートに対するレーザー加工、又はイオンビーム照射及びこれに続く化学エッチングによる孔開け加工により形成できる。レーザー加工によれば、シートの主面に垂直な方向から見て、当該主面上に規則的に開口が配列した貫通孔をより確実に形成できる。貫通孔シートとして、例えば、特開2012−20279号公報に開示のシートを使用できる。ただし、シートに対する撥液処理はなされていても、いなくてもよい。
【0031】
支持層3の材料と形態とは任意に組み合わせることができる。
【0032】
支持層3は、好ましくはメッシュ又はネットであり、特に好ましくはメッシュである。メッシュ及びネットは、100μm未満の厚さにおいて、強度の維持に適している。このため、メッシュ又はネットである支持層3を備える防水通音部材1では、水圧による防水通音膜2の変形及び永久変形をより確実に抑制できる。また、支持層3がメッシュ又はネットである場合、防水通音部材1としての剛性及び取扱性を向上できる。なかでも、メッシュは、防水通音部材1の通音特性の改善に適している。
【0033】
メッシュである支持層3の目付は、PET等の樹脂から骨格が構成される場合、例えば、25〜70g/m
2である。目付の下限は、30g/m
2以上、35g/m
2以上、さらには38g/m
2以上であってもよい。目付の上限は、60g/m
2以下、55g/m
2以下、さらには45g/m
2以下であってもよい。メッシュである支持層3の目付は、ステンレス等の金属から骨格が構成される場合、例えば、30〜140g/m
2である。目付の下限は、35g/m
2以上、50g/m
2以上、60g/m
2以上、さらには70g/m
2以上であってもよい。目付の上限は、130g/m
2以下、120g/m
2以下、さらには115g/m
2以下であってもよい。
【0034】
防水通音膜2は、音の通過を許容しつつ水の侵入を防ぐ膜である限り限定されない。公知である各種の防水通音膜を防水通音膜2に使用できる。防水通音膜2には、撥液処理又は撥油処理がなされていてもよい。
【0035】
防水通音膜2は、PET等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリエチレン;ポリイミド;PTFE等の樹脂により構成されうる。防水通音膜2の材料としては、PTFEが好適である。PTFEにより構成される膜(PTFE膜)は、質量と強度とのバランスが良好である。
【0036】
PTFE膜は、PTFE粒子を含むペースト押出物又はキャスト膜を延伸して形成した多孔質膜(PTFE多孔質膜)でありうる。PTFE膜は焼成されていてもよい。
【0037】
防水通音部材1を取り付けた電子機器が、より高い水圧に晒されることが想定される場合、PTFE膜は、好ましくは、PTFE微多孔膜又はPTFE無孔膜である。PTFE微多孔膜及びPTFE無孔膜は、高い耐水圧を有しうるとともに、水圧による変形の程度が小さい。
【0038】
本明細書において、PTFE微多孔膜は、厚さ方向の通気度が、日本工業規格(以下、「JIS」と記載する)L1096に定められた通気性測定B法(ガーレー形法)に準拠して測定した空気透過度(ガーレー通気度)にして20秒/100mL以上1万秒/100mL以下の膜を意味する。PTFE微多孔膜におけるガーレー通気度の下限は30秒/100mLを超えていてもよく、40秒/100mL以上、50秒/100mL以上、さらには70秒/100mL以上であってもよい。PTFE微多孔膜におけるガーレー通気度の上限は、5000秒/100mL以下、1000秒/100mL以下、さらには300秒/100mL以下であってもよい。本明細書において、PTFE無孔膜は、厚さ方向の通気度が上記ガーレー通気度にして1万秒/100mLを超える膜を意味する。
【0039】
なお、防水通音膜2のサイズが、上記ガーレー形法における試験片のサイズ(約50mm×50mm)に満たない場合にも、測定冶具の使用により、ガーレー通気度の評価が可能である。測定冶具の一例は、貫通孔(直径1mm又は2mmの円形の断面を有する)が中央に設けられた、厚さ2mm、直径47mmのポリカーボネート製円板である。この測定冶具を用いたガーレー通気度の測定は、以下のように実施できる。
【0040】
測定冶具の貫通孔の開口を覆うように、当該冶具の一方の面に評価対象である防水通音膜を固定する。固定は、ガーレー通気度の測定中、開口及び評価対象である防水通音膜の有効試験部(固定した防水通音膜の主面に垂直な方向から見て開口と重複する部分)のみを空気が通過し、かつ防水通音膜の有効試験部における空気の通過を固定部分が阻害しないように行う。防水通音膜の固定には、開口の形状と一致した形状を有する通気口が中心部に打ち抜かれた両面粘着テープを利用できる。両面粘着テープは、通気口の周と開口の周とが一致するように測定冶具と防水通音膜との間に配置すればよい。次に、防水通音膜を固定した測定冶具を、防水通音膜の固定面が測定時の空気流の下流側となるようにガーレー形通気性試験機にセットして、100mLの空気が防水通音膜を通過する時間t1を測定する。次に、測定した時間t1を、JIS L1096の通気性測定B法(ガーレー形法)に定められた有効試験面積642[mm
2]あたりの値tに、式t={(t1)×(防水通音膜の有効試験部の面積[mm
2])/642[mm
2]}により換算し、得られた換算値tを、防水通音膜のガーレー通気度とすることができる。上記円板を測定冶具として使用する場合、防水通音膜の有効試験部の面積は、貫通孔の断面の面積である。
【0041】
水中での電子機器の使用又は装着等によって筐体の温度が低下したときに、筐体の内部に結露が生じることがある。結露の発生は、筐体の内部に滞留する水蒸気の量を減らすことで防止できる。防水通音膜2がPTFE無孔膜である場合、防水通音膜2を介した筐体の内部への水蒸気の侵入が阻止される。このため、防水通音膜2としてPTFE無孔膜を選択することで、筐体の内部に滞留する水蒸気の量を低減でき、筐体の内部における結露の発生を防止できる。
【0042】
一方、防水通音膜2を介した筐体の内部への水蒸気の侵入がなくとも、筐体の内部における水蒸気の滞留が避けられない場合がある。例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン(PP)又はポリカーボネート(PC)等の吸湿性を有する樹脂によって筐体が構成される場合である。吸湿性を有する樹脂により構成された筐体では、筐体自身が吸収した外部の水蒸気が、筐体内の熱源からの熱によって筐体の内部に放出され、そのまま滞留する傾向にある。この場合、筐体の内部における結露の発生を防止するためには、筐体の内部に滞留した水蒸気を外部に放出可能な防水通音膜2を選択することが好ましい。選択可能な防水通音膜2の一例は、PTFE微多孔膜である。防水通音膜2がPTFE微多孔膜であると、高い防水性が達成されながらも、滞留した水蒸気を当該膜2の適度な通気性によって外部に排出することが可能となり、筐体の内部における結露の発生を防止できる。
【0043】
PTFE微多孔膜である防水通音膜2の平均孔径は、例えば、0.01〜1μmである。PTFE微多孔膜である防水通音膜2の気孔率は、例えば、5〜50%である。PTFE膜の平均孔径は、ASTM(米国試験材料協会)F316−86に準拠して測定できる。PTFE膜の気孔率は、当該膜の質量、厚さ、面積(主面の面積)、及び真密度を下記の式に代入して算出できる。なお、PTFEの真密度は2.18g/cm
3である。
気孔率(%)={1−(質量[g]/(厚さ[cm]×面積[cm
2]×真密度[2.18g/cm
3]))}×100
【0044】
防水通音膜2の厚さは、例えば、1〜50μmである。防水通音膜2の厚さは、3〜30μm、5〜20μmであってもよい。防水通音膜2の厚さがこれらの範囲にある場合、防水通音膜2の防水性及び通音特性をバランスよく向上できる。
【0045】
防水通音膜2の面密度は、例えば、1〜30g/m
2である。防水通音膜2の面密度は、1〜25g/m
2であってもよい。面密度は、防水通音膜2の質量を面積(主面の面積)で除して算出できる。
【0046】
防水通音膜2の防水性は、耐水圧(限界耐水圧)により評価できる。防水通音膜2の耐水圧は、例えば、80kPa以上である。防水通音膜2の耐水圧は、100kPa以上、300kPa以上、500kPa以上、600kPa以上、700kPa以上、750kPa以上、800kPa以上、900kPa以上、さらには1000kPa以上であってもよい。耐水圧の上限は限定されず、例えば、2000kPa以下である。防水通音膜2の耐水圧は、測定冶具を使用し、JIS L1092の耐水度試験A法(低水圧法)又はB法(高水圧法)に準拠して、以下のように測定できる。
【0047】
測定冶具の一例は、直径1mmの貫通孔(円形の断面を有する)が中央に設けられた、直径47mmのステンレス製円板である。この円板は、耐水圧を測定する際に加えられる水圧によって変形しない厚さを有する。この測定冶具を用いた耐水圧の測定は、以下のように実施できる。
【0048】
測定冶具の貫通孔の開口を覆うように、当該冶具の一方の面に評価対象である防水通音膜を固定する。固定は、耐水圧の測定中、膜の固定部分から水が漏れないように行う。防水通音膜の固定には、開口の形状と一致した形状を有する通水口が中心部に打ち抜かれた両面粘着テープを利用できる。両面粘着テープは、通水口の周と開口の周とが一致するように測定冶具と防水通音膜との間に配置すればよい。次に、防水通音膜を固定した測定冶具を、防水通音膜の固定面とは反対側の面が測定時の水圧印加面となるように試験装置にセットして、JIS L1092の耐水度試験A法(低水圧法)又はB法(高水圧法)に従って耐水圧を測定する。ただし、耐水圧は、防水通音膜の膜面の1か所から水が出たときの水圧に基づいて測定する。測定した耐水圧を、防水通音膜の耐水圧とすることができる。試験装置には、JIS L1092に例示されている耐水度試験装置と同様の構成を有するとともに、上記測定冶具をセット可能な試験片取付構造を有する装置を使用できる。
【0049】
防水通音膜2の通音特性は、1kHzでの挿入損失(周波数1kHzの音に対する挿入損失)により評価できる。防水通音膜2の1kHzでの挿入損失は、当該膜の通音領域の面積が1.8mm
2のときに、例えば17dB以下であり、13dB以下、10dB以下、8dB以下、7dB以下、さらには6dB以下でありうる。
【0050】
防水通音膜2の通音特性は、200Hzでの挿入損失(周波数200Hzの音に対する挿入損失)によっても評価できる。防水通音膜2の200Hzでの挿入損失は、当該膜の通音領域の面積が1.8mm
2のときに、例えば13dB以下であり、11dB以下、10dB以下、さらには8dB以下でありうる。
【0051】
防水通音膜2について、水圧に起因する通音特性の低下の程度は、水圧保持試験の前後における防水通音膜2の挿入損失から求めた通音特性低下率(挿入損失変化率)により評価できる。水圧保持試験は、一定の水圧を一定の時間(水圧印加時間)にわたって防水通音膜に加える試験である。水圧保持試験は、防水通音膜の耐水圧を測定するための上記測定冶具及び耐水度試験装置を用いて実施できる。より具体的には、耐水圧を測定する場合と同様に防水通音膜を固定した測定冶具を、防水通音膜の固定面とは反対側の面が水圧印加面となるように試験装置にセットして、一定の水圧を一定の時間にわたって防水通音膜に加えればよい。試験中に防水通音膜に水漏れが発生するか否かを評価する場合は、防水通音膜の膜面の1か所から水が出れば「水漏れあり」と判定する。試験時に防水通音膜に加える水圧は限定されず、例えば50kPa〜1000kPaである。水圧印加時間は、例えば10分〜30分である。通音特性低下率は、以下の式により求めることができる。以下の式におけるL1は、試験前の防水通音膜の挿入損失(例えば、1kHzでの挿入損失)であり、L2は、試験後の防水通音膜の挿入損失(例えば、1kHzでの挿入損失)である。
通音特性低下率(%)=(L2−L1)/L1×100
【0052】
水圧保持試験(水圧500kPa、水圧印加時間10分)の前後における挿入損失から求めた防水通音膜2の通音特性低下率(1kHzでの挿入損失に基づいて算出)は、例えば、50%以下であり、40%以下、30%以下、さらには25%以下でありうる。
【0053】
図1A及び
図1Bに示す例において、防水通音膜2は単層の膜である。防水通音膜2は、2以上の膜の積層体であってもよい。防水通音膜2は、2以上のPTFE膜の積層体でありうる。
【0054】
防水通音膜2は着色された膜であってもよい。防水通音膜2は、例えば、灰色又は黒色に着色されていてもよい。灰色又は黒色の防水通音膜2は、例えば、膜を構成する材料に灰色又は黒色の着色剤を混合して形成できる。黒色の着色剤は、例えば、カーボンブラックである。なお、JIS Z8721に定められた「無彩色の明度NV」により表して1〜4の範囲にある色を「黒色」と、5〜8の範囲にある色を「灰色」と、それぞれ定めることができる。
【0055】
接合部6の構成は、接合領域5及び非接合領域4を形成可能である限り、限定されない。接合部6は、例えば、粘着剤層又は接着剤層である。粘着剤層又は接着剤層である接合部6は、例えば、公知の粘着剤又は接着剤を防水通音膜2の表面に塗布して形成できる。接合部6は、両面粘着テープから構成されていてもよい。即ち、接合領域5において、両面粘着テープによって防水通音膜2と支持層3とが接合されていてもよい。接合部6が両面粘着テープから構成される場合、防水通音膜2と支持層3との接合がより確実となり、防水通音部材1の防水性を更に向上できる。また、非接合領域4における防水通音膜2と支持層3との離間距離の制御がより容易となる。
【0056】
接合部6を構成する両面粘着テープには、公知の両面粘着テープを使用できる。両面粘着テープの基材は、例えば、樹脂のフィルム、不織布、又はフォームである。基材に使用できる樹脂は限定されず、例えば、ポリエステル(PET等)、ポリオレフィン(ポリエチレン等)、ポリイミドである。両面粘着テープの粘着剤層には、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の各種の粘着剤を使用できる。防水通音膜2と支持層3との接合力を向上できることから、アクリル系粘着剤を粘着剤層に使用することが好ましい。両面粘着テープは、熱接着テープであってもよい。
【0057】
接合部6の厚さは、例えば、200μm以下である。接合部6の厚さは、150μm以下、130μm以下、100μm以下、100μm未満、さらには80μm以下であってもよい。接合部6の厚さの下限は限定されず、例えば5μm以上であり、10μm以上、20μm以上、さらには30μm以上であってもよい。接合部6の厚さがこれらの範囲にある場合、非接合領域4における防水通音膜2と支持層3との離間距離を上述の好ましい範囲に制御して、水圧による防水通音膜2の変形及び永久変形をより確実に抑制できる。
【0058】
防水通音部材1は、電子機器の筐体と、筐体内に収容された音声変換器との間に配置できる。防水通音部材1は、通常、外部通音口を覆うように、筐体の内壁面に固定される。また、防水通音部材1は、音声変換器のハウジング、又は音声変換器を有する基板の表面に、内部通音口を覆うように固定できる。固定状態における外部通音口及び内部通音口と、防水通音部材1の非接合領域4との位置関係は、外部と音声変換器との間で音声を伝達できる限り限定されない。固定状態における外部通音口及び内部通音口と非接合領域4とは、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、互いに重複していてもよい。
【0059】
筐体及び音声変換器への防水通音部材1の固定方法は限定されない。加熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着等の各種の溶着、又は粘着剤、接着剤等を用いた接着により、筐体及び/又は音声変換器に防水通音部材1を固定できる。粘着剤層、接着剤層、又は両面粘着テープから構成される固定部によって防水通音部材1を固定することも可能である。なかでも、両面粘着テープから固定部が構成される場合に、筐体及び音声変換器に対して防水通音部材1をより確実に固定できる。固定部を構成する両面粘着テープには、接合部6の説明において上述した両面粘着テープを使用できる。筐体及び音声変換器の双方に固定された防水通音部材1について、筐体への固定方法と音声変換器への固定方法とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
図2に、固定部7Aをさらに備える本発明の防水通音部材の一例を示す。
図2に示す防水通音部材1では、防水通音膜2における支持層3との接合面とは反対側の面に固定部7Aが配置されている。固定部7Aは、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、防水通音膜2の周縁部の領域を含む。固定部7Aは、上記垂直な方向から見て、接合領域5と同じ形状を有する。固定部7Aは、上記垂直な方向から見て、非接合領域4に対応する形状の開口部8を有している。音は、主として、固定部7Aの開口部8を伝わる。開口部8は、防水通音膜2及び防水通音部材1の通音領域である。開口部8は、上記垂直な方向から見て、非接合領域4と一致している。
図2に示す防水通音部材1は、固定部7Aにより、筐体への固定が可能である。固定部7Aの開口部8の形状は、筐体の外部通音口の形状と同一であってもよい。このとき、防水通音部材1は、上記垂直な方向から見て開口部8の周と外部通音口の周とが一致するように筐体に固定できる。
【0061】
図3に、固定部7Aをさらに備える本発明の防水通音部材の別の一例を示す。
図3に示す防水通音部材1は、固定部7Aの形状が異なる以外、
図2に示す防水通音部材1と同一である。
図3に示す防水通音部材1の固定部7Aは、上記垂直な方向から見て、非接合領域4よりも大きく、かつ非接合領域4と重複する(より具体的には、非接合領域4を内包する)開口部8を有している。
図3に示す防水通音部材1においても、固定部7Aの開口部8の形状は、筐体の外部通音口の形状と同一であってもよい。
図3に示す防水通音部材1では、外部通音口の面積に比べて非接合領域4の面積を小さくすることが可能である。このため、防水通音部材1を固定した電子機器の防水性能を更に高めることができる。
【0062】
図4に、固定部7Bをさらに備える本発明の防水通音部材の一例を示す。
図4に示す防水通音部材1では、支持層3における防水通音膜2との接合面とは反対側の面に固定部7Bが配置されている。固定部7Bは、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、
図2又は
図3に示す固定部7Aと同じ形状を有しうる。
図4に示す防水通音部材1は、固定部7Bにより、音声変換器への固定が可能である。
【0063】
図5に、固定部7A,7Bをさらに備える本発明の防水通音部材の一例を示す。
図5に示す防水通音部材1では、防水通音膜2における支持層3との接合面とは反対側の面に固定部7Aが配置されている。また、支持層3における防水通音膜2との接合面とは反対側の面に固定部7Bが配置されている。固定部7A及び7Bは、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、
図2又は
図3に示す固定部7Aと同じ形状を有しうる。固定部7Aの形状と固定部7Bの形状とは、同一であっても異なっていてもよい。
図5に示す防水通音部材1は、固定部7Aにより筐体への固定が、固定部7Bにより音声変換器への固定がそれぞれ可能である。
【0064】
固定部7A,7Bの形状は、上記各例に限定されない。ただし、固定部7A,7Bの開口部8を主として音が伝わることから、固定部7A,7Bは、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、接合領域5に収まる形状を有することが好ましい。なお、固定部7A及び/又は7Bをさらに備える防水通音部材1の厚さは、当該固定部の厚さを含めて定められる。
【0065】
本発明の防水通音部材は、本発明の効果が得られる限り、上述した以外の任意の層、及び/又は部材を備えることができる。
【0066】
防水通音部材1の防水性は、耐水圧(限界耐水圧)により評価できる。防水通音部材1の耐水圧は、防水通音膜2の耐水圧を測定する上述の方法に従って測定できる。ただし、測定時の水圧は、防水通音膜2の側から防水通音部材1に加える。防水通音部材1の耐水圧は、防水通音膜2の耐水圧よりも高くなる。
【0067】
防水通音部材1の防水性は、水圧保持試験によっても評価できる。水圧保持試験は、防水通音膜に対する水圧保持試験と同様に実施できる。ただし、試験時の水圧は、防水通音膜2の側から防水通音部材1に加える。防水通音部材1は、水圧60kPa及び水圧印加時間10分の水圧保持試験を実施しても、防水通音膜2に水漏れが生じない部材でありうる。防水通音部材1は、水圧500kPa及び水圧印加時間10分の水圧保持試験を実施しても、防水通音膜2に水漏れが生じない部材でありうる。防水通音部材1は、水圧700kPa及び水圧印加時間30分の水圧保持試験を実施しても、防水通音膜2に水漏れが生じない部材でありうる。防水通音部材1は、水圧700kPa及び水圧印加時間30分の水圧保持試験を各試験間の間隔を1分として30回繰り返し実施しても、防水通音膜2に水漏れが生じない部材でありうる。
【0068】
防水通音部材1の通音特性は、1kHzでの挿入損失(周波数1kHzの音に対する挿入損失)により評価できる。防水通音部材1の1kHzでの挿入損失は、非接合領域4の面積が1.8mm
2のときに、例えば17dB以下であり、13dB以下、10dB以下、9dB以下、8dB以下、7dB以下、さらには6.5dB以下でありうる。
【0069】
防水通音部材1の通音特性は、200Hzでの挿入損失(周波数200Hzの音に対する挿入損失)によっても評価できる。防水通音部材1の200Hzでの挿入損失は、非接合領域4の面積が1.8mm
2のときに、例えば14dB以下であり、12dB以下、11dB以下、10dB以下、さらには9dB以下でありうる。
【0070】
防水通音部材1の通音特性は、防水通音膜2の挿入損失(支持層3を配置することなく測定した防水通音膜2自体の挿入損失)に対する防水通音部材1の挿入損失の増分(防水通音膜単体に対する増分)によっても評価できる。増分は、式:[挿入損失の増分]=[防水通音部材1の挿入損失]−[防水通音膜2の挿入損失]により求めることができる。防水通音部材1について、1kHzでの挿入損失の増分は、非接合領域4の面積が1.8mm
2のときに、例えば5dB以下であり、4dB以下、2dB以下、1.5dB以下、さらには1dB以下でありうる。防水通音部材1について、200Hzでの挿入損失の増分は、非接合領域4の面積が1.8mm
2のときに、例えば10dB以下であり、6dB以下、5dB以下、4dB以下、2dB以下、1.5dB以下、さらには1dB以下でありうる。支持層3がメッシュである場合に、特に増分を小さくできる。
【0071】
防水通音部材1では、水圧に起因する通音特性の低下を抑制できる。水圧500kPa及び水圧印加時間10分の水圧保持試験後においても、防水通音部材1は、非接合領域4の面積が1.8mm
2のときに、例えば11dB以下の1kHzでの挿入損失を示す。当該挿入損失は、10dB以下、9dB以下、7dB以下、さらには6.5dB以下でありうる。
【0072】
水圧保持試験(水圧500kPa、水圧印加時間10分)の前後における挿入損失から求めた防水通音部材1の通音特性低下率(1kHzでの挿入損失に基づいて算出)は、例えば6.6%未満であり、6.0%以下、5.5%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.5%以下、さらには1.0%以下でありうる。防水通音部材の通音特性低下率は、挿入損失を測定する対象物を防水通音膜から防水通音部材に変更する以外は、防水通音膜の通音特性低下率を評価する上記方法に従って評価できる。
【0073】
防水通音部材1は、例えば、枚葉状のベースフィルム上に配置した形態、又は、帯状のベースフィルム上に配置してロール又はリールに巻回した形態で供給できる。ベースフィルムへの防水通音部材1の配置には、固定部7A又は固定部7Bを利用できる。ベースフィルムにおける防水通音部材1が配置される面には、ベースフィルムからの防水通音部材1の剥離を容易とする剥離層が形成されていてもよい。ベースフィルムには、例えば、高分子フィルム、紙、金属フィルム、及びこれらの複合フィルムを使用できる。ベースフィルム上に防水通音部材1を配置した状態の一例を
図6に示す。
図6に示す例では、ベースフィルム11上に固定部7Aを介して防水通音部材1が配置されている。また、
図6に示す防水通音部材1は、固定部7B及び非接合領域4を保護するためのセパレータ12を固定部7B上に備えている。防水通音部材1の使用時には、セパレータ12は剥離される。
【0074】
防水通音部材1の用途は限定されない。防水通音部材1は、通音性と防水性との双方が必要な用途、例えば、防水通音構造、防水通音構造を有する物品等、に使用できる。防水通音部材1は、典型的には、音声機能を有する電子機器に使用される。
【0075】
図7に、防水通音部材1が使用された電子機器の一例を示す。
図7に示す電子機器は、スマートフォン20である。スマートフォン20の筐体22の内部には、電気信号と音声との変換を行う音声変換器が配置されている。音声変換器は、例えば、スピーカー、マイクロフォンである。筐体22には、外部通音口である開口23及び開口24が設けられている。
【0076】
スマートフォン20では、第1の防水通音部材1が、開口23を覆うように、筐体22の内壁面に固定されている。また、第2の防水通音部材1が、開口24を覆うように、筐体22の内壁面に固定されている。双方の防水通音部材1について、防水通音膜2側の面が開口23又は24を介して外部に面している。また、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、各々の防水通音部材1の非接合領域4と、開口23又は開口24とは重複している。
【0077】
また、第1及び第2の防水通音部材1は、それぞれ、筐体の内部に収容された音声変換器に固定されている(図示せず)。双方の防水通音部材1について、支持層3側の面が音声変換器に接している。また、防水通音膜2の主面に垂直な方向から見て、各々の防水通音部材1の非接合領域4と、各々の防水通音部材1が固定された音声変換器の内部通音口とは重複している。
【0078】
音声変換器(音声変換部)は、例えば、スピーカー、マイクロフォンである。音声変換器は、マイクロフォンであってもよい。
【0079】
防水通音部材1を使用しうる電子機器はスマートフォン20に限定されない。電子機器は、例えば、スマートウォッチ及びリストバンド等のウェアラブルデバイス;アクションカメラ及び防犯カメラを含む各種のカメラ;携帯電話及びスマートフォン等の通信機器;仮想現実(VR)機器;拡張現実(AR)機器;センサー機器等である。
【0080】
防水通音部材1は、防水通音膜2が厚さ方向に通気性を有する場合には、防水通気部材としての使用も可能である。このとき、防水通音膜2は、気体の透過を許容しつつ水の侵入を防ぐ防水通気膜として機能する。防水通気部材は、筐体の内外を接続する開口(通気口)を覆うように、かつ防水通気膜の側が外部(外部空間)に面するように、筐体に取り付けることができる。防水通気膜を備える防水通気部材によって、電子機器における上記開口を介した筐体の内外の通気が可能となりながら、当該開口を介した筐体の内部への水の侵入を防止できる。なお、電子機器は、音声変換部を有していてもいなくてもよい。また、防水通気部材を取り付けた電子機器の上記開口に水圧が加わると、非接合領域4において支持層3の方向(外部から筐体内の方向)に防水通気膜が変形する。しかし、上記防水通気部材では、変形した防水通気膜と支持層3との接触によって、防水通気膜の変形が一定範囲に制限され、防水通気膜の破断が防止される。したがって、支持層3を備えることにより、防水通気部材は、防水通気膜自身が有する防水性(例えば、限界耐水圧)に比べて高い防水性を有しうる。
【0081】
水圧からの開放後も防水通気膜に残る永久変形は、防水通気部材の通気特性を低下させ、例えば、通気のばらつきが生じたり、防水通気部材として設計された通気特性からのずれが生じたりする。支持層3は、防水通気膜の変形を制限することによって、その永久変形を緩和しうる。通気のばらつき、及び設計された通気特性からのずれは、例えば、電子機器が圧力センサー等のセンサー機器である場合に、当該機器の性能に悪影響をおよぼすおそれがある。
【0082】
さらに、非接合領域4における支持層3の厚さが100μm未満であることによって、防水通気部材としての通気の応答性を向上できる。通気の応答性の向上は、電子機器が圧力センサー等のセンサー機器である場合に、特に有利である。
【0083】
防水通気部材である本発明の防水部材は、防水膜が厚さ方向に通気性を有している限り、防水通音部材1と同様の構成を有しうる。防水通気部材が備える防水通気膜には、上記説明した防水通音膜2のうち、厚さ方向に通気性を有するものを選択できる。また、防水通気部材である本発明の防水部材は、防水通音部材1と同様の特性を有しうる。
【0084】
防水通気部材である本発明の防水部材では、水圧に起因する通気特性のずれを抑制できる。水圧保持試験(水圧500kPa、水圧印加時間10分)の前後における通気特性の変化度は、例えば5%以下であり、4%以下、3%以下、2%以下、さらには1%以下でありうる。防水通気部材における通気特性の変化度は、水圧保持試験前における防水通気部材の通気度(防水通気膜及び支持層3を透過する方向の通気度)をAP1、水圧保持試験後における防水通気部材の通気度をAP2として、式:|(AP2−AP1)|/AP1×100(%)により求めることができる。また、防水通気部材の通気度は、JIS P8117:2009に定められた王研式試験機法に準拠して、透気抵抗度(単位:秒/100mL)として求めることができる。なお、王研式試験機法における試験片の推奨サイズは50mm×50mmであるが、評価対象である防水通気部材のサイズが当該推奨サイズに満たない場合にも、測定冶具の使用により、王研式試験機法に準拠した透気抵抗度の評価が可能である。
【0085】
測定冶具は、王研式試験機の透気度測定部に配置可能な形状及び大きさを有し、透気抵抗度の測定時に試験片に加えられる差圧によって変形しない厚さ及び材質とする。測定冶具の一例は、厚さ2mm、直径47mmのポリカーボネート製円板である。測定冶具の面内の中心には、評価対象の防水通気部材よりも小さいサイズの開口を有する貫通孔を設けておく。貫通孔の断面は典型的には円形であり、評価対象の防水通気部材によって貫通孔の開口が完全に覆われる直径とする。貫通孔の直径としては、例えば、1mm又は2mmを採用できる。次に、上記開口を覆うように、測定冶具の一方の面に評価対象である防水通気部材を固定する。固定は、透気抵抗度の測定中、非接合領域4のみを空気が通過し、かつ非接合領域4における空気の通過を固定部分が阻害しないように行う。測定冶具の側には、防水通気膜が面していても、支持層3が面していてもよい。防水通気部材の固定には、上記開口の形状と一致した形状を有する通気口が中心部に打ち抜かれた両面粘着テープを利用できる。両面粘着テープは、通気口の周と開口の周とが一致するように測定冶具と防水通気部材との間に配置すればよい。次に、防水通気部材を固定した測定冶具を、当該部材の固定面が測定時の空気流の下流側となるように王研式試験機の透気度測定部にセットして、王研式試験機法による試験を実施し、試験機が示す透気抵抗度指示値t2を記録する。次に、記録した透気抵抗度指示値t2を、王研式試験機法に定められた有効試験面積6.452[cm
2]あたりの値t
Kに、式t
K={t2×(非接合領域4の面積[cm
2])/6.452[cm
2]}により換算し、得られた換算値t
Kを、王研式試験機法に準拠して測定した防水通気部材の透気抵抗度とすることができる。
【0086】
防水通気部材である本発明の防水部材を使用しうる電子機器は、例えば、圧力センサー、流量センサー、気体濃度センサー(O
2センサー等)といったセンサー機器である。ただし、当該電子機器は、上記例に限定されない。
【0087】
上述のように、本発明の防水部材は、
音の通過を許容しつつ水の侵入を防ぐ防水通音膜と、厚さ方向の通気性を有する支持層と、を備える防水通音部材であって、
前記部材は、
前記防水通音膜と前記支持層とが接合された接合領域と、
前記防水通音膜と前記支持層とが互いに離間した状態にある非接合領域と、
を有し、
前記防水通音膜の主面に垂直な方向から見て、前記非接合領域は前記接合領域により囲まれており、
前記非接合領域における前記支持層の厚さが100μm未満である防水通音部材、
であってもよい。
【0088】
また、本発明の防水部材は、
気体の通過を許容しつつ水の侵入を防ぐ防水通気膜と、厚さ方向の通気性を有する支持層と、を備える防水通気部材であって、
前記部材は、
前記防水通気膜と前記支持層とが接合された接合領域と、
前記防水通気膜と前記支持層とが互いに離間した状態にある非接合領域と、
を有し、
前記防水通気膜の主面に垂直な方向から見て、前記非接合領域は前記接合領域により囲まれており、
前記非接合領域における前記支持層の厚さが100μm未満である防水通気部材、
であってもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。なお、以下の実施例では、通気膜として使用しうる膜についても、便宜上、通音膜と記載する。
【0090】
(防水通音膜の準備)
防水通音膜として、以下の通音膜A〜Cを準備した。
【0091】
[通音膜A]
PTFE粒子の分散液であるPTFEディスパージョン(PTFE粒子の濃度40質量%、PTFE粒子の平均粒径0.2μm、PTFE100質量部に対してノニオン性界面活性剤を6質量部含有)に、フッ素系界面活性剤(DIC製、メガファックF−142D)をPTFE100質量部に対して1質量部加えた。次に、フッ素系界面活性剤を加えた上記PTFEディスパージョンの塗布膜(厚さ20μm)を、帯状のポリイミド基板(厚さ125μm)の表面に形成した。塗布膜は、ポリイミド基板をPTFEディスパージョンに浸漬した後、引き上げることで形成した。次に、基板及び塗布膜の全体を加熱して、PTFEのキャスト膜を形成した。加熱は、第1の加熱(100℃、1分)と、その後の第2の加熱(390℃、1分)との2段階とした。第1の加熱によって、塗布膜に含まれる分散媒の除去が、第2の加熱によって、塗布膜に含まれるPTFE粒子の結着に基づくキャスト膜の形成が進行した。上述の浸漬及びその後の加熱をさらに2回繰り返した後、形成されたPTFEキャスト膜(厚さ25μm)をポリイミド基板から剥離した。
【0092】
次に、剥離したキャスト膜をMD方向(長手方向)に圧延し、さらにTD方向(幅方向)に延伸した。MD方向の圧延は、ロール圧延により実施した。圧延の倍率(面積倍率)は2.0倍、温度(ロール温度)は170℃とした。TD方向の延伸は、テンター延伸機により実施した。TD方向の延伸の倍率は2.0倍、温度(延伸雰囲気の温度)は300℃とした。このようにして、PTFE微多孔膜である通音膜Aを得た。
【0093】
得られた通音膜Aの厚さは10μm、面密度は14.5g/m
2、気孔率は30%、厚さ方向の通気度は、ガーレー通気度により表して100秒/100mL、耐水圧(限界耐水圧)は1600kPaであった。
【0094】
[通音膜B]
PTFEファインパウダー(ダイキン工業製、F104)100質量部と、成形助剤としてn−ドデカン(ジャパンエナジー製)20質量部とを均一に混合した。次に、得られた混合物を、シリンダーを用いて圧縮した後にラム押出しによりシートに成形し、さらにロール圧延により圧延した。次に、得られたシート(厚さ0.2mm)を150℃で加熱して成形助剤を乾燥除去し、PTFEのシート成形体を得た。
【0095】
次に、得られたシート成形体を、MD方向(圧延方向)に延伸温度260℃、延伸倍率10倍で延伸した後に、TD方向(幅方向)に延伸温度150℃、延伸倍率15倍で延伸し、さらに、PTFEの融点(327℃)を超える360℃で全体を焼成して、PTFE多孔質膜である通音膜Bを得た。
【0096】
得られた通音膜Bの厚さは4μm、面密度は5.0g/m
2、気孔率は90%、厚さ方向の通気度は、ガーレー通気度により表して0.9秒/100mL、耐水圧(限界耐水圧)は100kPaであった。
【0097】
[通音膜C]
通音膜Cとして、無孔のPETフィルム(東レ製、ルミラー#5AF53)を準備した。通音膜Cの厚さは4μm、面密度は5.5g/m
2、厚さ方向の通気度は、ガーレー通気度により表して1万秒/100mL以上、耐水圧(限界耐水圧)は650kPaであった。
【0098】
(支持層の準備)
本実施例では、12種類の防水通音部材(サンプル1〜12)を作製した。各サンプルについて、以下の支持層を準備した。
【0099】
1.メッシュ
(1)PETの骨格を有する樹脂メッシュ
・サンプル1及び12
NBCメッシュテック製、#420(厚さ60μm、面密度39.7g/m
2、通気度500cm
3/(cm
2・秒)以上、線径33μm、空間率21%、目開き27μm)
(2)ステンレスの骨格を有するワイヤーメッシュ
・サンプル2
アサダメッシュ製、MS−250(厚さ62μm、面密度109.3g/m
2、通気度500cm
3/(cm
2・秒)以上、線径30μm、空間率50%、目開き72μm)
・サンプル3
アサダメッシュ製、SHS−380(厚さ33μm、面密度37.2g/m
2、通気度500cm
3/(cm
2・秒)以上、線径14μm、空間率62%、目開き53μm)
・サンプル4
アサダメッシュ製、BS−400(厚さ55μm、面密度117.6g/m
2、通気度370cm
3/(cm
2・秒)、線径23μm、空間率41%、目開き41μm)
・サンプル5
アサダメッシュ製、MS−640(厚さ35μm、面密度78.2g/m
2、通気度260cm
3/(cm
2・秒)、線径15μm、空間率39%、目開き25μm)
・サンプル6
アサダメッシュ製、MS−730(厚さ28μm、面密度63.3g/m
2、通気度260cm
3/(cm
2・秒)、線径13μm、空間率40%、目開き22μm)
・サンプル7(比較例)
Eggs(泰豊トレーディング)より入手可能な#100(厚さ200μm、面密度480.0g/m
2、通気度500cm
3/(cm
2・秒)以上、線径80μm、空間率50%、目開き175μm)
【0100】
2.貫通孔シート
・サンプル8
サンプル8の支持層に使用した貫通孔シートは、以下のように準備した。
【0101】
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETシート(it4ip製、Track etched membrane、厚さ45μm)を準備した。当該シートの貫通孔の径は3.0μm、孔密度は2.0×10
6個/cm
2であった。次に、準備したPETシートを、80℃に保持したエッチング処理液(水酸化カリウム濃度20質量%の水溶液)に30分浸漬した。エッチング終了後、処理液からシートを取出し、RO水(逆浸透膜濾過水)に浸漬して洗浄した後、50℃の乾燥オーブンにて乾燥して、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の樹脂シートを得た。得られた樹脂シートの貫通孔の径は5.9μmであり、その中心軸の延びる方向に垂直な断面の面積は、当該シートの厚さ方向に一定であった。孔密度は、エッチング前後で同一であった。次に、作製したシートを、撥液処理液に3秒浸漬した後、常温で30分間放置して乾燥させ、当該シートの表面及び貫通孔の内周面に撥液層を形成して、貫通孔シートとした。撥液処理液には、撥液剤(信越化学製、X−70−029C)を希釈剤(信越化学製、FSシンナー)により希釈した溶液(撥液剤の濃度1.0質量%)を使用した。
【0102】
得られた貫通孔シートの厚さは45μm、面密度は27.7g/m
2、気孔率は40%、通気度は15.5cm
3/(cm
2・秒)、貫通孔の径は5.9μmであった。なお、このシートにおける貫通孔の断面の形状は、当該シートの一方の主面から他方の主面に至るまで一定であった。
【0103】
3.不織布
・サンプル9
広瀬製紙製、HOP15(材質ポリエチレン、厚さ63μm、面密度15.2g/cm
2、通気度500cm
3/(cm
2・秒)以上)
・サンプル10(比較例)
広瀬製紙製、HOP60HCF(材質ポリエチレン、厚さ170μm、面密度60.0cm
2、通気度46.0cm
3/(cm
2・秒))
【0104】
4.ポリプロピレンの骨格を有する樹脂ネット
・サンプル11(比較例)
日本ケミカル商事から入手可能なコンウェッドネットX06065(厚さ350μm、面密度105.0g/m
2、通気度500cm
3/(cm
2・秒)以上、線径200μm、空間率50%、目開き660μm)
【0105】
(防水通音部材の作製)
準備した防水通音膜及び支持層を用いて、以下のようにサンプル1〜12を作製した。サンプル1〜11には通音膜Aを、サンプル12には通音膜Bを、それぞれ使用した。
【0106】
準備した防水通音膜及び支持層を直径5.8mmの円形に切り出した。これとは別に、両面粘着テープA(外径5.8mm及び内径1.5mmのリング状、厚さ50μm、日東電工製No.5605)並びに両面粘着テープB(外径5.8mm及び内径1.5mmのリング状、厚さ50μm、日東電工製No.5605)を準備した。
【0107】
次に、防水通音膜の一方の主面に両面粘着テープAを、他方の主面に両面粘着テープBを、それぞれ貼付した。両面粘着テープA及びBは、当該テープの外周と防水通音膜の周とが一致するように、防水通音膜に貼付した。次に、上記一方の主面上の両面粘着テープAを防水通音膜とともに挟持するように、両面粘着テープAと支持層とを貼り合わせた。支持層は、両面粘着テープAの外周と支持層の周とが一致するように、貼り合わせた。次に、さらなる両面粘着テープAを支持層の露出面に貼付した。さらなる両面粘着テープAは、当該テープの外周と支持層の周とが一致するように、支持層に貼付した。このようにして、非接合領域の面積が1.8mm
2であり、非接合領域における防水通音膜と支持層との離間距離が50μmであり、両面粘着テープから構成される固定部を双方の主面に有する防水通音部材であるサンプル1〜12を作製した。各サンプルについて、防水通音膜の主面に垂直な方向から見た接合領域の面積及び非接合領域の面積の合計に占める非接合領域の面積の割合は7%であった。
【0108】
次に、サンプル1〜12の作製に使用した防水通音膜及び支持層の評価方法と、作製したサンプル1〜12の評価方法とを示す。
【0109】
[厚さ]
防水通音膜及び支持層の厚さは、ダイヤルゲージにより測定した。
【0110】
[面密度]
防水通音膜及び支持層の面密度は、直径48mmの円形に打ち抜いた防水通音膜又は支持層の質量を測定し、主面の面積1m
2あたりの質量に換算して求めた。
【0111】
[気孔率]
通音膜の気孔率は、上述の方法により求めた。
【0112】
[通気度]
防水通音膜の厚さ方向の通気度は、JIS L1096に定められた通気性測定B法(ガーレー形法)に準拠して、空気透過度(ガーレー通気度)として求めた。防水通音膜よりも通気性が高い支持層の厚さ方向の通気度は、JIS L1096に定められた通気性測定A法(フラジール形法)に準拠して求めた。
【0113】
[耐水圧]
防水通音膜の耐水圧(限界耐水圧)は、上述した測定冶具を使用し、JIS L1092の耐水度試験A法(低水圧法)又はB法(高水圧法)に準拠して測定した。
【0114】
[水圧保持試験]
防水通音膜及びサンプル1〜12に対する水圧保持試験は、上述の方法により実施した。試験の条件は、防水通音膜の耐水圧(限界耐水圧)に応じて、次のa〜cから選択した。具体的には、650kPa以上の耐水圧を有する通音膜A及びC、並びに通音膜Aを備えるサンプル1〜11に対しては、条件a及び条件bの水圧保持試験を実施した。100kPaの耐水圧を有する通音膜B、及び通音膜Bを備えるサンプル12に対しては、条件c及び条件bの水圧保持試験を実施した。試験中、防水通音膜に水漏れが生じた場合を不可(×)、水漏れが生じなかった場合を良(○)とした。
・条件a 水圧500kPa、水圧印加時間10分
・条件b 水圧700kPa、水圧印加時間30分、各試験間の間隔を1分として30回繰り返し
・条件c 水圧60kPa、水圧印加時間10分
【0115】
[挿入損失]
水圧保持試験の実施前及び実施後のそれぞれの時点において、防水通音膜及びサンプル1〜12の挿入損失(200Hzでの挿入損失及び1kHzでの挿入損失)を測定した。サンプル1〜11並びに通音膜A及びCに対しては、条件aの水圧保持試験の前後における挿入損失を測定した。サンプル12及び通音膜Bに対しては、条件cの水圧保持試験の前後における挿入損失を測定した。挿入損失は、携帯電話の筐体を模した模擬筐体を用いて、以下の方法により測定した。
【0116】
図8の(a)及び(b)に示すように、模擬筐体の中に収容するスピーカーユニット65を作製した。具体的には、次の通りである。音源であるスピーカー61(スター精密社製、SCC−16A)と、ウレタンスポンジからなり、スピーカー61を収容するとともにスピーカーからの音声を不必要に拡散させない(評価対象である防水通音膜又は防水通音部材サンプルを通過することなく評価用マイクロフォンに入力する音声をできるだけ発生させない)ための充填材63A,63B,63Cと、を準備した。充填材63Aには、直径5mmの円形の断面を有する通音口64がその厚さ方向に設けられている。充填材63Bには、スピーカー61の形状に対応する形状を有する切り欠きと、スピーカーケーブル62を収容するとともにスピーカーユニット65外へスピーカーケーブル62を導出するための切り欠きとが設けられている。次に、充填材63C及び63Bを重ね、充填材63Bの切り欠きにスピーカー61及びスピーカーケーブル62を収容した。次に、通音口64を介してスピーカー61からスピーカーユニット65の外部に音声が伝達されるように充填材63Aを重ねて、スピーカーユニット65を得た(
図8の(b))。
【0117】
次に、
図8の(c)に示すように、携帯電話の筐体を模した模擬筐体51(ポリスチレン製、外形60mm×50mm×28mm)の内部に、上記作製したスピーカーユニット65を収容した。具体的には、次の通りである。準備した模擬筐体51は、2つの部分51A,51Bからなり、部分51A,51Bは互いに嵌め合わせることができる。部分51Aには、内部に収容したスピーカーユニット65から発せられた音声を模擬筐体51の外部に伝達する通音口52(直径1mmの円形の断面を有する)と、スピーカーケーブル62を模擬筐体51の外部に導出する導通孔53とが設けられている。部分51A,51Bを互いに嵌め合わせることによって、模擬筐体51内に、通音口52及び導通孔53以外に開口がない空間が形成される。作製したスピーカーユニット65を部分51B上に配置した後、部分51Aと部分51Bとを嵌め合わせて、模擬筐体51内にスピーカーユニット65を収容した。このとき、スピーカーユニット65の通音口64と部分51Aの通音口52とを重ね合わせて、双方の通音口64,52を介してスピーカー61から模擬筐体51の外部に音声が伝達されるようにした。スピーカーケーブル62は導通孔53から模擬筐体51の外部に引き出し、導通孔53はパテによって塞いだ。
【0118】
次に、
図8の(d)に示すように、水圧保持試験前又は試験後の各サンプル83(非接合領域の面積1.8mm
2)を、当該サンプルの防水通音膜側の固定部(両面粘着テープA)により、模擬筐体51の通音口52に固定した。サンプル83は、防水通音膜の主面に垂直な方向から見て、サンプル83の非接合領域の全体が通音口52の開口内に位置するように固定した。
【0119】
次に、
図8の(e)に示すように、サンプル83の非接合領域を覆うように、当該サンプル83の支持層側にマイクロフォン71(Knowles Acoustics社製、SPU0410LR5H)を固定した。マイクロフォン71は、サンプル83の支持層側の固定部(さらなる両面粘着テープA)により固定した。マイクロフォン71を固定したときのスピーカー61とマイクロフォン71との距離は、評価対象である防水通音部材サンプルの厚さに応じて数100μm変化するが、およそ23〜24mmの範囲にあった。次に、スピーカー61及びマイクロフォン71を音響評価装置(B&K社製、Multi−analyzerSystem 3560−B−030)に接続し、評価方式としてSSR(Solid State Response)モード(試験信号20Hz〜20kHz、sweep up)を選択して実行し、サンプル83の挿入損失を評価した。挿入損失は、音響評価装置からスピーカー61に入力された試験信号と、マイクロフォン71で受信された信号とから自動的に求められる。サンプル83の挿入損失を評価するにあたっては、サンプル83を取り除いた場合の挿入損失の値(ブランク値)を予め求めておいた。ブランク値は、周波数1kHzにおいて−24dBであった。サンプル83の挿入損失は、音響評価装置での測定値からこのブランク値を引いた値である。挿入損失の値が小さいほど、スピーカー61から出力された音声のレベル(音量)が維持されていることになる。
【0120】
防水通音膜の挿入損失を測定する場合は、以下のようにした。評価対象である、水圧保持試験前又は試験後の防水通音膜を直径5.8mmの円形に切り出した。切り出した防水通音膜の双方の主面に両面粘着テープAをそれぞれ貼付した。テープAは、当該テープの外周と防水通音膜の周とが一致するように、防水通音膜に貼付した。次に、一方のテープAにより、模擬筐体51の通音口52に防水通音膜を固定した。防水通音膜は、当該膜の主面に垂直な方向から見て、通音領域(両面粘着テープAの開口部に対応する直径1.5mmの円形領域)の全体が通音口52の開口内に位置するように固定した。次に、防水通音膜の通音領域を覆うようにマイクロフォン71を固定して、上述の方法により、防水通音膜の挿入損失を測定した。マイクロフォン71は、他方のテープAにより防水通音膜に固定した。
【0121】
[通音特性低下率]
防水通音膜及びサンプル1〜12の通音特性低下率は、水圧保持試験前の挿入損失(1kHzでの挿入損失)L1、及び水圧保持試験後の挿入損失(1kHzでの挿入損失)L2から、式:通音特性低下率(%)=(L2−L1)/L1×100により求めた。
【0122】
[通気特性の変化度]
通音膜A及び通音膜Aを備えるサンプル1〜6について、水圧保持試験の実施前及び実施後のそれぞれの時点において、通気度(通音膜A、又は、通音膜A及び支持層を透過する方向の通気度)を測定し、水圧保持試験の前後における当該サンプルの通気特性の変化度を評価した。通気特性の変化度は、水圧保持試験前における通音膜A及び各サンプルの通気度をA1、水圧保持試験後における通音膜A及び各サンプルの通気度をA2として、式:|(AP2−AP1)|/AP1×100(%)により求めた。なお、通音膜A、及び各サンプルの通気度は、JIS P8117:2009に定められた王研式試験機法を実施可能な圧力センサ式透気度試験装置(旭精工製、EG02−S)により、上述した測定冶具(直径1mmの貫通孔を有する厚さ2mm、直径47mmのポリカーボネート製円板)を使用して、透気抵抗度t
Kとして求めた。また、水圧保持試験後における通気度の測定は、試験後、通音膜又はサンプルを60℃で1時間乾燥させた後に実施した。
【0123】
通音膜A〜C及びサンプル1〜12に対する評価結果を、以下の各表に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
表1〜3に示すように、厚さ100μm未満の支持層を備えるサンプル1〜6,8,9及び12において、高い通音特性(低い挿入損失)が達成された。また、1kHzの音に対する挿入損失だけではなく、200Hzの音に対する挿入損失についても、低い値が得られた。さらに、サンプル1〜6,8,9及び12では、非接合領域の面積が1.8mm
2と非常に小さいにもかかわらず、低い挿入損失が達成された。これらのサンプルのなかでも、支持層がメッシュであるサンプル1〜6について、特に低い挿入損失が達成された。また、サンプル1〜6では、通音特性低下率を特に低減できた。
【0128】
さらに、サンプル1〜6,8,9及び12のうち、PTFE微多孔膜である通音膜Aを防水通音膜に使用したサンプル1〜6,8及び9では、水圧700kPa及び水圧印加時間30分の条件で実施される水圧保持試験を30回繰り返しても防水通音膜に水漏れが発生しないという、非常に高い防水性が達成された。