【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の形状を有する成形型の中に、前記成形型の長手方向に垂直な断面の中心に上部ダミー棒及び下部ダミー棒がそれぞれ上下に接続された中心部材を設置し、前記成形型の長手方向に垂直な断面の中心を除く位置に、前記断面と垂直な方向に沿って棒状部材を設置する第1のステップと、
前記成形型の中にシリカを含む粉末材料を充填する第2のステップと、
前記成形型に静水圧を印加する第3のステップと、
を含み、
前記成形型が上部及び下部に前記棒状部材を設置するための溝を備え、
前記棒状部材は、前記静水圧の印加中に、前記成形型の前記断面の中心に向かって所定の距離だけ移動可能であり、
前記静水圧の印加圧力は20Mpa〜294Mpaであり、
前記溝が、
前記断面の径方向に、前記棒状部材の外径に前記所定の距離を加えた長さを有し、且つ
前記断面の中心を中心とし、所定の幅を有する円環状に形成される
光ファイバ母材の製造方法。
前記第1のステップにおいて治具を用いて前記棒状部材を設置し、前記第2のステップにおいて前記治具を除去することによって、前記棒状部材を前記成形型に接触せず前記粉末材料によって拘束された状態にする
請求項4に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0015】
[第一実施形態]
以下に本発明の第一実施形態として、光ファイバ母材であるマルチコアファイバ母材を製造する例について説明する。
【0016】
このマルチコアファイバ母材10は、
図1に示すように、マルチコアファイバ母材10の中心軸に設けられた中心コア部1aと、この中心コア部1aの外周に設けられた複数(
図1では8本)の外周コア部1bと、これらのコア部1a及び1bの外周に形成されたクラッド部3とを備えている。クラッド部3は、例えば屈折率調整用のドーパントが添加されていない純石英ガラスなどで構成されている。中心コア部1a及び外周コア部1bは、それぞれコア11と、コア11の外周に設けられたクラッド13とを備える。
【0017】
次に、本発明の第一実施形態に係るマルチコアファイバ母材10の製造方法、及びマルチコアファイバの製造方法について説明する。
【0018】
図2は本発明の実施形態に係る成形型に配置する棒状部材の断面図、
図2(a)は、成形型の中心部に配置される棒状部材である中心部材1a、
図2(b)は、成形型の中心部に対して外側に配置される棒状部材である外側部材1bの断面図である。中心部材1aは、たとえば石英からなる光ファイバ用のコアロッドと、コアロッドの上下にそれぞれ接続される、上部ダミー棒15及び下部ダミー棒17とを有する。上部ダミー棒15及び下部ダミー棒17は、例えば石英からなり、それぞれ外径d
15及びd
17を有する。コアロッドは、コア11と、コア11を取り囲むクラッド13とを有し、一方向に延在する円柱形状をしている。コア11は、例えばゲルマニウムなどがドープされた屈折率の高い石英系ガラスあるいはゲルマニウムとフッ素などの複数のドーパントによって形成される所望の屈折率分布を有する石英系ガラスによって構成されている。クラッド13は、中心部材1aの一部を構成する石英系ガラスであり、例えば屈折率調整用のドーパントが添加されていない純石英ガラスなどで構成されている。
なお、コアロッドは、VAD(Vapor phase Axial Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法などの周知の方法を用いて製造できる。
【0019】
外側部材1bは、たとえば石英からなる光ファイバ用のコアロッドであり、コア11と、クラッド13とから構成される。クラッド13は外径d
13を有する。コア11は、例えばゲルマニウムなどがドープされた屈折率の高い石英系ガラスあるいはゲルマニウムとフッ素などの複数のドーパントによって形成される所望の屈折率分布を有する石英系ガラスによって構成されている。クラッド13は、中心部材1aの一部を構成する石英系ガラスであり、例えば屈折率調整用のドーパントが添加されていない純石英ガラスなどで構成されている。
なお、本実施形態では、中心部材1a、外側部材1bとして、コア11及びクラッド13を有するコアロッドを用いるが、これには限定されず、たとえばコア11または、クラッド13のみからなるものや、コア位置を識別するためのマーカーの役割を有するもの等を用いてもよい。また、中心部材1a並びに外側部材1bのコア11は、全て等しいもの、あるいは全てあるいは一部が異なるものを用いてもよい。
【0020】
クラッド13の外径d
13は、例えば、5mm程度とすることができる。また、中心部材1a及び外側部材1bに用いるコアロッドの長さは、例えば、500mm程度とすることができる。尚、クラッド13の外径d
13と中心部材1a及び外側部材1bに用いるコアロッドの長さは、作製するマルチコアファイバの構造と母材寸法によって任意に設計することが可能であり、これらの数値に限定するものではない。また代替形態として、中心部材1a及び外側部材1bを、金属、カーボン、又はセラミックスからも構成することができる。
【0021】
図3(a)は、本発明の第一実施形態に係る成形型2の構造を示す斜視図、
図3(b)は、成形型2の構造を示す正面図である。成形型2は、成形用筒21、成形用上蓋体23、及び成形用下蓋体25から構成される。成形用筒21は、弾性及び収縮性を有する材料からなり、例えば、クロロプレンゴムなどの合成ゴム材料やポリウレタンなどの合成樹脂材料などを用いることができる。また、成形用上蓋体23及び成形用下蓋体25は、金属又は金属と同程度の剛性を有するゴムや合成樹脂などの材料からなり、例えば、ステンレスなどを用いることができる。なお、本実施形態では例示的に成形型2を円筒状の構造としているが、本発明は円筒形状に限定されない。静水圧成形法においては、成形型の形状を変更することにより容易に製造する成形体の形状を変化させることができる。例えば、断面が長方形となる形状を成形したい場合、同形状に即した成形型を準備することで本発明を適用することができる。また、成形型2の寸法は、例えば、内径45mm程度、及び長さ500mm程度とすることができる。尚、成形型の寸法は、マルチコアファイバ母材の寸法によって任意に設計することが可能であり、これらの数値に限定するものではない。
【0022】
図4(a)は、本発明の第一実施形態に係る成形用上蓋体23のA−A線における横断面構造、
図4(b)は、成形用上蓋体23のB−B線における縦断面構造を示す模式図である。同図に示すように、成形用上蓋体23は、中心に中心部材1aの上部ダミー棒15を嵌め込むための中心溝233と、中心部材1aの外側に外側部材1bを配置するための外側溝235を有する。中心溝233は、断面が円形であり、内径d
233を有する。外側溝235は、成形用上蓋体の中心を中心とする円環状に設けられ、溝幅w
235を有する。
【0023】
図5(a)は、本発明の第一実施形態に係る成形用下蓋体25のC−C線における横断面構造、
図5(b)は、B−B線における縦断面構造を示す模式図である。同図に示すように、成形用下蓋体25は、中心に中心部材1aの下部ダミー棒17を嵌め込むための中心溝253と、中心部材1aの外側に外側部材1bを配置するための外側溝255を有する。中心溝253は、断面が円形であり、内径d
253を有する。外側溝255は成形用上蓋体の中心を中心とする円環状に設けられ、溝幅w
255を有する。
【0024】
中心部材1aの上部ダミー棒15は、成形用上蓋体23の中心部にある中心溝233に嵌め込まれる。また、中心部材1aの下部ダミー棒17は、成形用下蓋体25の中心部にある中心溝253に嵌め込まれる。従って、上部ダミー棒15の外径d
15は、中心溝233の内径d
233よりもわずかに小さく、下部ダミー棒17の外径d
17は、中心溝253の内径d
253よりもわずかに小さい。したがって、上部ダミー棒15、下部ダミー棒17をそれぞれ中心溝233、中心溝253に嵌め込むことで、中心部材1aは、成形用上蓋体23、成形用下蓋体25に固定される。なお、中心部材1aを固定しつつ位置ずれを生じさせないためには、ダミー棒と中心溝のクリアランスは0mm〜成形型2の内径×0.01mmであることが好ましい。
【0025】
次に、本発明による光ファイバ母材の製造工程について
図6及び
図7A乃至
図7Gを参照しながら説明する。
【0026】
図6は、本発明による光ファイバ母材の製造工程を示すフローチャートである。
【0027】
先ず、ステップS301において、
図7Aに示すように、成形型2の成形用下蓋体25に中心部材1aを配置する。具体的には、中心部材1aの下部ダミー棒17を成形用下蓋体25の中心部にある中心溝253に嵌め込む。
【0028】
次いで、ステップS303において、
図7Bに示すように、成形型2の成形用下蓋体25に外側部材1bを配置する。具体的には、外側部材1bの下端を、成形用下蓋体25の外側溝255の初期位置に配置する。なお、
図7Cに示すように、外側溝255には、外側部材1bを1以上の任意の数(ここでは8)配置する。
このとき、外側部材1bは、たとえば、中心部材1aとの距離が等距離であり、かつ隣接する外側部材1b同士の距離が等距離となるように配置する。また、このとき中心部材1aと外側部材1bの距離は、後述する焼結工程での体積収縮を考慮して決定されていることが好ましい。
【0029】
このように、外側溝255を成形用下蓋体25の中心部を中心とする円環状に設けた場合は、
図7Cに示すように、外側部材1bを任意の複数本配置することができる。すなわち、外側溝255に沿って所望の数の外側部材1bを所望の位置に配置することができる。従って、同一の成形型2を使用して異なる設計の光ファイバを作製することが可能となる。
【0030】
ここで、初期位置とは、外側部材1bの下端が静水圧の印加前に配置されるべき外側溝255における位置であり、たとえば、外側部材1bの下端側面と外側溝255の外側側面とが接する位置である。このように外側部材1bを初期位置に配置すると、外側溝255の内側側面と外側部材1bとの間には空隙が生じる。この空隙によって、静水圧の印加時に外側部材1bは成形型2の中心方向へ移動することが可能となる。
【0031】
次いで、ステップS305において、
図7Dに示すように、成形型2の成形用筒21の中に粉末材料である造粒粉体41を充填する。このとき、粉末充填密度の均一性の観点から成形型2を電磁振動式等の篩分器に載せ、成形型2に振動を加えながら造粒粉体41を充填することが望ましい。
【0032】
造粒粉体41は、多孔質ガラス体を成形するための材料であり、主に石英系のガラス粉末の一次粒子(以下、単にガラス粉末)から構成される。このガラス粉末としては、たとえば、高純度であり、通常0.01μmから100μm程度の粒径を有するものが使用される。ガラス粉末の粒径が小さいほど焼結時の物質移動距離が小さくなる点では有利であるが、塩素ガスを含んだ雰囲気での加熱処理(脱水・精製)を行う際に、ガラス粉末の粒径があまりにも小さいと塩素ガスが多孔質母材の内部に拡散できないため、加熱処理の効果が十分に得られないおそれがある。そのため、ガラス粉末は、塩素ガスが多孔質母材の内部まで拡散が可能な気孔径を形成可能な程度に大きい粒径を有することが望ましい。したがって、ガラス粉末の粒径は、脱水・精製工程での塩素ガスの拡散、成形体強度などの観点から、好ましくは8μmから12μmである。また、ガラス粉末にバインダー、可塑剤等の成形助剤を調合または添加してもよい。バインダーとしてはポリビニルアルコール(PVA)など、可塑剤としてはグリセリンなどを用いることができる。
【0033】
ガラス粉末、バインダー、及び可塑剤の比は、成型性の観点から100:1〜10:0〜5であることが好ましく、例えば100:3:1程度とすることができる。次に、ガラス粉末に溶剤を加えて攪拌し、ガラス粉末を泥漿状にする。ここで溶剤としては、環境への影響を考慮すると水系が好ましく、純度の観点から純水が好ましい。次に、作製した泥漿状ガラスを噴霧乾燥させることにより、複数の一次粒子が集合した造粒粉(二次粒子)が形成され、50μmから150μmの粒径を有する造粒粉体41を生成することができる。なお、造粒粉体41の粒径を50μmから150μmとすることで成形型充填時の流動性が高くなり,一次粒子の特長を生かしたまま充填が容易になるという利点がある。
【0034】
次いで、ステップS307において、
図7Eに示すように、成形型2を密閉するために成形用上蓋体23を成形型2の上部に嵌合する。具体的には、中心部材1aの上部ダミー棒15を成形用上蓋体23の中心部にある中心溝233に嵌め込むと同時に、外側部材1bの上端を、成形用上蓋体23の外側部にある外側溝235の初期位置に設置する。
【0035】
ここでの初期位置とは、ステップS303と同様に、外側部材1bの上端が静水圧の印加前に配置されるべき外側溝235における位置であり、たとえば、外側部材1bの上端側面と外側溝235の外側側面とが接する位置である。このように外側部材1bが初期位置に配置されたとき、外側溝235のもう一方の側面である内側側面と外側部材1bとの間には空隙が生じる。この空隙によって、静水圧の印加時に外側部材1bは成形型2の中心方向へ移動することが可能となる。
【0036】
なお、中心部材1aは、上下端がそれぞれ成形用上蓋体23、成形用下蓋体25に固定された状態で静水圧が印加される。しかしながら、静水圧成形法によれば、成形型2内に印加される圧力は一定の大きさで成形型2の中心方向に印加される。このため、成形型2の中心に配置される中心部材1aにかかる、破損や変形の原因となる圧力、例えば、中心部材1aを外径方向の一方へ撓ませる様な圧力は小さい。
【0037】
次いで、ステップS309において、
図7Fに示すように、静水圧成形(CIP)装置43を用いて、中心部材1a、外側部材1b、及び造粒粉体41を含む成形型2に静水圧を印加する。具体的には、成形型2が設置されたCIP装置43に圧力媒体45を導入し、CIP装置43内の圧力を所定の圧力、例えば98Mpa程度(20MPa〜294MPa)まで上昇させる。この状態を所定の時間、例えば1分間程度(0.5分〜10分)保持する。このようにして、中心部材1a及び外側部材1bの外周にシリカ成形体を形成することができる。なお、圧力媒体45として一般的には腐食防止剤を添加した水や潤滑油などが使用されるが、これ以外の液体を代用してもよい。
【0038】
ステップS309において成形型2に静水圧が印加されると、
図7Gに示すように、弾性材料からなる成形用筒21は、静水圧によって成形型2の中心方向に向かって変形する。
外側部材1bを完全に固定してしまうと、この成形用筒21の変形に起因して、外側部材1bが成形型2の中心方向へ撓んでしまう事象が生じ、外側部材1bの変形や破損することがある。
【0039】
しかしながら、成形型2においては、成形用上蓋体23の外側溝235の内側側面と外側部材1bとの間、および成形用下蓋体25の外側溝255の内側側面と外側部材1bとの間には空隙があり、この空隙によって、静水圧の印加時に外側部材1bは成形型2の中心方向へ移動することができる。したがって、外側部材1bに成形型2の中心方向へ撓ませるような圧力が印加されることを抑制できる。
【0040】
次いで、ステップS311において、CIP装置43内の圧力を徐々に減圧して成形型2をCIP装置43から取り出し、さらに成形型2から
図7Hに示すような成形体を取り出した後に、該成形体を乾燥雰囲気中に所定の温度、例えば500℃程度(400℃〜800℃)にて所定の時間、例えば5時間程度(1時間〜10時間)晒すことで水分及びバインダーを除去及び脱脂する。最後に、ステップ313において、脱水、精製、及び焼結工程を行う。その結果、成形体は
図1に示すマルチコアファイバ母材10となる。具体的には、成形体の中心部材1aはマルチコアファイバ母材10の中心コア部1aに対応し、成形体の外側部材1bはマルチコアファイバ母材10の外周コア部1bに対応し、成形体の造粒粉体41はマルチコアファイバ母材10のクラッド部3に対応する。このようにして製造されたマルチコアファイバ母材10(光ファイバ母材)に対して線引き工程を実施することで、光ファイバを作製する。
【0041】
以下、成形用上蓋体23の外側溝235の内側側面と外側部材1bとの間、および成形用下蓋体25の外側溝255の内側側面と外側部材1bとの間の空隙の大きさの好ましい範囲について、さらに詳細に説明する。
【0042】
外側部材1bを、初期位置である外側部材1bの上下端側面と成形用上蓋体23の外側溝235、成形用下蓋体25の外側溝255の外側側面とが接する位置に配置した場合、成形用上蓋体23の外側溝235の内側側面と外側部材1bとの間、および成形用下蓋体25の外側溝255の内側側面と外側部材1bとの間には、空隙が生じる。
このとき、
図7B〜
図7Eに記載しているように、外側溝235、外側溝255の内側側面と外側部材1bとの距離を距離αとする。すなわち、成形用上蓋体23の外側溝235の溝幅w
235及び成形用下蓋体25の外側溝255の溝幅w
255は、外側部材1b内のクラッド13の外径d
13よりも距離αだけ大きい。換言すると、外側溝235及び外側溝255は、成形型2の断面中心方向(すなわち、成形型2の長手方向に垂直な断面の径方向)に、外側部材1bの外径d
13(外側部材1bが円柱状でない場合には該断面中心方向に沿った長さ)に距離αを加えた長さを有する。
【0043】
距離αは、静水圧の印加に伴い外側部材1bが中心方向に移動し得る最大距離と略同一の値、又は当該最大距離よりも大きい値であることが好ましい。
これにより、外側部材1bが成形型2の初期位置に配置されると、外側部材1bは、静水圧の印加中に最大で距離αまで成形型2の中心方向へ移動することができる。
【0044】
例えば、距離αは、静水圧の印加中の成形用筒21の中心軸方向への成形用筒21の変形量の最大値以上の大きさであることが好ましい。しかしながら、実際には成形用筒21の変形量と空隙距離αは必ずしも等価ではない。これは、外側部材1bの初期位置が成形用筒21の中心に近いほど、一般的な条件下では外側部材1bの移動量が小さくなるためである。したがって、距離αは、外側部材1bの初期位置を考慮の上で、成形用筒21の変形量よりも短い距離に設計できる。
具体的な距離αは、例えば、成形型2の弾性変形量や造粒粉体41(多孔質ガラス体を成形するために使用される材料)の特性に基づき、事前実験やシミュレーションによって求められる。
【0045】
空隙の大きさを距離αとすることで、外側部材1bは、静水圧の印加中においても、中心方向に向かって距離α以下の距離を移動することができる。これにより、成形用筒21が静水圧により変形した場合においても、印加された圧力によって外側部材1bが撓むことを抑制でき、静水圧成形法による外側部材1bの破損や変形を回避することができる。これにより、外側部材1bの変形や破損を生じさせることなく、光ファイバを作製することができる。
【0046】
なお、静水圧の印加により想定される外側部材1bの移動距離が距離α未満の場合は、外側部材1bの側面と外側溝255の外側側面とは必ずしも接する必要は無い。即ち、想定される移動距離を担保できる所望の位置を、外側部材1bの初期位置とすることができる。
【0047】
[第二実施形態]
以下に本発明の第二実施形態として、光ファイバ母材であるマルチコアファイバ母材を製造する例について説明する。
【0048】
本発明の第二実施形態は、成形用上蓋体及び成形用下蓋体の外側溝の形状を除き、本発明の第一実施形態と同様である。従って、ここでは重複する説明は省略する。
【0049】
図8(a)は、本発明の実施形態に係る成形型5の構造を示す斜視図、
図8(b)は、成形型5の構造を示す正面図である。成形型5は、成形用筒51、成形用上蓋体53、及び成形用下蓋体55から構成される。成形用上蓋体53及び成形用下蓋体55は、アルミなどの金属又は金属と同程度の剛性を有するゴムや合成樹脂などの材料からなる。なお、本実施形態では例示的に成形型5を円筒状の構造としているが、本発明は円筒形状に限定されない。上述のように、静水圧成形法においては、成形型の形状を変更することにより容易に成形体の形状を変化させることができる。例えば、断面が長方形となる形状を成形したい場合、同形状に即した成形型を準備することで本発明を適用することができる。また、成形型5の寸法は、内径45mm程度と長さ500mm程度とすることができる。尚、成形型の寸法は、マルチコアファイバ母材の寸法によって任意に設計することが可能であり、これらの数値に限定するものではない。
【0050】
図9(a)は、本発明の第二実施形態に係る成形用上蓋体53のD−D線における横断面構造、
図9(b)は、E−E線における縦断面構造を示す模式図である。同図に示すように、成形用上蓋体53は、中心に中心部材1aの上部ダミー棒15を嵌め込むための中心溝533と、中心部材1aの外側に外側部材1bを配置するための複数(ここでは8)の外側溝535を有する。中心溝533は断面が円形であり、内径d
533を有する。外側溝535の各々は、成形型5の径方向の長さがw
535であり、成形型5の外側の周方向の幅がl
535であり、その断面は、成形型5の径方向の両端部が半円形であり、円周方向の幅が一定の長円形である。
【0051】
図10(a)は、本発明の第二実施形態に係る成形用下蓋体55のF−F線における横断面構造であり、
図10(b)E−E線における縦断面構造を示す模式図である。同図に示すように、成形用下蓋体55は、中心に中心部材1aの下部ダミー棒17を嵌め込むための中心溝553と、中心部材1aの外側に外側部材1bを配置するための外側溝555を有する。中心溝553は断面が円形であり、内径d
553を有する。外側溝555の各々は、成形型5の径方向の長さがw
555であり、成形型5の周方向の幅がl
555であり、その断面は、成形型5の径方向の両端部が半円形であり、円周方向の幅が一定の長円形である。
このとき、外側溝555は、たとえば、中心溝553との距離が等距離であり、かつ隣接する外側溝555同士の距離が等距離となるように配置されている。また、このとき中心溝553と外側溝555の距離は、後述する焼結工程での体積収縮を考慮して決定されていることが好ましい。
なお、ここでは外側溝535、555をそれぞれ複数設けた例を示しているが、外側溝535、555はそれぞれ1つずつでもよい。
【0052】
本発明の第一実施形態同様に、中心部材1aの上部ダミー棒15は、成形用上蓋体53の中心部にある中心溝533に嵌め込まれる。また、中心部材1aの下部ダミー棒17は、成形用下蓋体55の中心部にある中心溝553に嵌め込まれる。従って、上部ダミー棒15の外径d
15は、中心溝533の内径d
553よりもわずかに小さく、下部ダミー棒17の外径d
17は、中心溝553の内径d
553よりもわずかに小さい。したがって、上部ダミー棒15、下部ダミー棒17をそれぞれ中心溝533、中心溝553に嵌め込むことで、中心部材1aは、成形用上蓋体53、成形用下蓋体55に固定される。
なお、中心部材1aを固定しつつ位置ずれを生じさせないためには、ダミー棒と中心溝のクリアランスは0mm〜成形型5の内径×0.01mmであることが好ましい。
【0053】
なお、中心部材1aは、上下端がそれぞれ成形用上蓋体53、成形用下蓋体55に固定された状態で静水圧が印加される。しかしながら、静水圧成形法によれば、成形型5内に印加される圧力は一定の大きさで成形型5の中心方向に印加される。このため、成形型5の中心に配置される中心部材1aにかかる、破損や変形の原因となる圧力、例えば、中心部材1aを外径方向の一方へ撓ませる様な圧力は小さい。
【0054】
この実施形態では、1つの外側溝535、555に、それぞれ1本の外側部材1bが嵌め込まれる。外側部材1bの上端は、成形用上蓋体53の外側部にある外側溝535に配置される。また、外側部材1bの下端は、成形用下蓋体55の外側部にある外側溝555に配置される。ここで、外側溝535の周方向の幅l
555及び外側溝555の周方向の幅l
555は、外側部材1bの外径d
13よりもわずかに大きい。したがって、外側部材1bを外側溝535、外側溝555に嵌め込むことで、外側部材1bの成形型5の周方向への移動が規制される。
なお、外側部材1bを固定しつつ周方向の位置ずれを生じさせないためには、外側部材1bと外側溝周方向のクリアランスは0mm〜成形型5の内径×0.01mmであることが好ましい。
【0055】
一方、成形用上蓋体53の径方向の長さw
535及び成形用下蓋体55の径方向の長さw
555は、外側部材1bの外径d
13よりも大きい。
したがって、成形用上蓋体53の外側溝535の内側側面と外側部材1bとの間、および成形用下蓋体55の外側溝555の内側側面と外側部材1bとの間には空隙が生じる。この空隙によって、静水圧の印加時に外側部材1bは成形型5の中心方向へ移動することができる。したがって、外側部材1bに成形型5の中心方向へ撓ませるような圧力が印加されることを抑制できる。
【0056】
なお、第一の実施形態と同様に、外側溝535、外側溝555の内側側面と外側部材1bとの距離を距離αとすると、距離αは、静水圧の印加に伴い外側部材1bが中心方向に移動し得る最大距離と略同一の値、又は当該最大距離よりも大きい値であることが好ましい。
これにより、外側部材1bが成形型5の初期位置に配置されると、外側部材1bは、静水圧の印加中に最大で距離αまで成形型5の中心方向へ移動することができる。
【0057】
例えば、距離αは、静水圧の印加中の成形用筒21の中心軸方向への成形用筒51の変形量の最大値以上の大きさであることが好ましい。しかしながら、実際には成形用筒51の変形量と空隙距離αは必ずしも等価ではない。これは、外側部材1bの初期位置が成形用筒51の中心に近いほど、一般的な条件下では外側部材1bの移動量が小さくなるためである。したがって、距離αは、外側部材1bの初期位置を考慮の上で、成形用筒51の変形量よりも短い距離に設計できる。
具体的な距離αは、例えば、成形型5の弾性変形量や多孔質ガラス体を成形するために使用される材料の特性に基づき、事前実験やシミュレーションによって求められる。
【0058】
空隙の大きさを距離αとすることで、外側部材1bは、静水圧の印加中においても、中心方向に向かって距離α以下の距離を移動することができる。これにより、成形用筒51が静水圧により変形した場合においても、印加された圧力によって外側部材1bが撓むことを抑制でき、静水圧成形法による外側部材1bの破損や変形を回避することができる。これにより、外側部材1bの変形や破損を生じさせることなく、光ファイバを作製することができる。
なお、静水圧の印加により想定される外側部材1bの移動距離が距離α未満の場合は、外側部材1bの側面と外側溝555の外側側面とは必ずしも接する必要は無い。即ち、想定される移動距離を担保できる所望の位置を、外側部材1bの初期位置とすることができる。
【0059】
また本実施形態において、距離αは、各外側溝535及び外側溝555毎に異なる大きさとすることができる。例えば、本実施形態においては、成形用上蓋体53及び成形用下蓋体55は、各々八つの外側溝535及び外側溝555を有する。これら八つの外側溝に設置された外側部材1bに印加される静水圧のベクトル量は、成形型5の形状及び外側部材1bの初期位置によって異なる。従って、成形型の形状及び外側部材1bの初期位置に基づいて、各々の外側溝の距離を、距離α
1からα
nまで(但し、nは外側溝の数。本実施形態においてはn=8)別個に設計することができる。
【0060】
本発明の第二実施形態の外側溝535及び外側溝555は、成形型5の外周形状に亘って溝が形成されておらず、代替として所定の幅l
535及び幅l
555を有する複数の溝が形成されている。
【0061】
この様に外側溝を構成することで、外側部材1bが静水圧の印加によって成形型5の周方向へ移動することを抑制できる。従って、外側部材1bの位置合わせが容易となり、位置精度も向上する。第二実施形態に示す外側溝の構成は、特に静水圧が等方的に印加されない場合、例えば、成形型が円筒状で無い場合等において特に有効である。
【0062】
一例として、
図11に示すような略長方形の断面形状を有するマルチコアファイバ母材9を形成する場合、成形型の断面形状が円形でないため、複数の外側部材1bのそれぞれに印加される静水圧は、各々異なるベクトル量を有する。しかしながら、
図12に示す様な、成形型7の中心方向への各々異なる値を有する空隙距離α
1乃至α
8を備えた外側溝701乃至708を成形用上蓋体及び成形用下蓋体に設けることで、円筒状の成形型同様に、外側部材1bの破損や変形を抑制することができる。
【0063】
本発明の光ファイバ母材の製造方法によれば、コアロッド等の棒状部材の変形及び破損を抑制し、静水圧成形法によって高精度且つ低コストで光ファイバ母材を製造することができる。
なお、本発明の実施形態として、光ファイバ母材であるマルチコアファイバ母材を製造する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、成形型の断面中心を除く位置に、1本の棒状部材を設置し、偏心コアファイバを製造する場合にも適用可能である。
【0064】
[実施例]
第一実施形態の光ファイバ母材の製造方法を用いて、マルチコアファイバ母材(成形体)を製造した。なお、第一実施形態では外側部材1bの数が8本である例が示されているが、本実施例では外側部材1bの数を6本とした。中心部材1aおよび外側部材1bとして外径5mm、長さ250mmのコアロッドを用い、
図7Hに示すような成形体を形成した。そして、得られた成形体の直交する二方向(X,Y)について外径の測定を行い、さらに外径の平均および外径非円率を求めた。外径非円率は、(X方向の外径)/(Y方向の外径)によって定義される。
【0065】
この測定結果を
図13ならびに表1に示す。
図13の横軸は成形体の長さ方向の位置を表し、左の縦軸は外径を表し、右の縦軸は外径非円率を表す。表1は、外径の測定結果から、全長又は両端部を除いた30mm〜230mmの範囲内について、それぞれ平均値、最大値、最小値を算出したものである。
【0067】
図13に示すように、両端部を除いた30〜230mmの範囲(長さ200mm)においては、母材外径の精度(外径非円率)は1%程度となっている。この部分をマルチコアファイバ母材の有効部とし、該マルチコアファイバ母材から線引きを行ってマルチコアファイバを製造する場合に、マルチコアファイバの外径を180μmとすると、期待できる光ファイバ長は約5kmとなる。また、マルチコアファイバ母材の外径変動から推定されるマルチコアファイバの外径変動は、外径180μmに対して±1μm程度となり、十分な精度が得られる。
【0068】
さらに、製造された成形体からコアロッドを抜き取り、コアロッドが抜き取られた該成形体を三箇所で輪切りにして、コアロッドがあった穴からコア位置を測定した。コア位置として、断面写真の画像上で、中心コア(中心部材1a)があった穴の中心を基準に、外周コア(外側部材1b)があった穴の中心との距離を測定した。この距離(コアロッド間距離)を、各断面において、6本の外周コアについてそれぞれ測定した。なお、三箇所の輪切り位置について、成形体の一方端から順に断面A、B、Cとして測定を行い、さらに断面Bでは断面Bに対向する断面B’においても測定を行った。すなわち、成形体の輪切りを行うと各位置で向かい合う2つの断面が生じるが、断面A、Cについては該2つの断面の一方を、断面B、B’については該2つの断面の両方を測定した。この測定結果を
図14に示す。
図14の横軸は輪切りの各断面を表し、縦軸は中心コアの中心と外周コアの中心との距離(コアロッド間距離)を表す。
【0069】
図14に示す測定結果からコアロッド間距離のバラツキ(コアロッドの設定位置に対する実際位置のズレを外径で割った量)を算出したところ、断面Aでは±1.3%、断面Bでは±0.7%、断面B’では±1.1%、断面Cでは±0.7%であった。
【0070】
向かい合う断面Bと断面B’の間でのバラツキの差から±0.4%程の測定誤差を含むため、最悪値として2.6%程度の変動が生じている可能性があるが、これはマルチコアファイバで求められる精度の範囲内である。
【0071】
マルチコアファイバのコア間隔を50μmとした場合、バラツキが±0.7%である断面Bであれば、コア位置ズレは±0.4μm以下となり良好な結果が得られている。
【0072】
[第三実施形態]
上述の第一、第二実施形態では、成形型の蓋に棒状部材を移動可能とする溝が設けられているため、該棒状部材は加圧中に成形型の断面中心方向へ移動可能である。それに対して、本実施形態では、成形型の蓋ではなく造粒粉体によって棒状部材を拘束することによって、該棒状部材を加圧中に成形型の断面中心方向へ移動可能とする。そのため、本実施形態においても、第一、第二実施形態と同様に加圧による棒状部材の変形又は破損を抑制する効果を奏することができる。
【0073】
図15は、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法の前半部分を示す模式図である。本実施形態では、上部固定治具61及び下部固定治具63を用いて棒状部材である中心部材1a及び外側部材1bの配置が行われる。上部固定治具61及び下部固定治具63は、金属、合成ゴム、合成樹脂などの材料からなり、例えば、アルミを用いることができる。本実施形態では例示的に上部固定治具61及び下部固定治具63を円筒状の構造としているが、これに限定されず、任意の形状でよい。上部固定治具61及び下部固定治具63の寸法は、製造対象のマルチコアファイバ母材の寸法によって任意に設計することが可能である。
【0074】
下部固定治具63は、中心部材1a及び外側部材1bを嵌め込むための溝(貫通孔でもよい)を有する。上部固定治具61は、中心部材1a及び外側部材1bを嵌め込むための溝(貫通孔でもよい)を有する。上部固定治具61及び下部固定治具63が有する溝は、中心部材1a、外側部材1bの初期位置に対応する位置に設けられる。さらに、上部固定治具61は、造粒粉体41が通過可能な多数の貫通孔を有する。
【0075】
先ず、
図15(a)に示すように、下部固定治具63と上部固定治具61と間に中心部材1a、外側部材1b(本実施形態では6本)及び成形用筒71を配置する。具体的には、中心部材1aの上部ダミー棒15及び各外側部材1bの一方端を上部固定治具61及び下部固定治具63に設けられた溝(又は貫通孔)に嵌め込むとともに、成形用筒71を中心部材1a及び外側部材1bを取り囲むように上部固定治具61と下部固定治具63との間に配置する。なお、後の工程で成形体の上下は反転されるため、この段階では中心部材1a、外側部材1b及び成形用筒71は上下逆に配置されている。
【0076】
次いで、
図15(b)に示すように、上部固定治具61に設けられた貫通孔(不図示)を通して、上部固定治具61、下部固定治具63及び成形用筒71に取り囲まれる空間内に造粒粉体41を充填する。造粒粉体41を充填する際には、中心部材1a、外側部材1bが浮き上がらないように上方から抑えながら、上部固定治具61、下部固定治具63及び成形用筒71に振動を加える。
【0077】
造粒粉体41の充填が完了した後、
図15(c)に示すように、上部固定治具61を取り外す。
【0078】
図16は、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法の後半部分を示す模式図である。
図16(a)に示すように、上部固定治具61が取り外された後に、成形用筒71の上側に成形用下蓋体75を取り付け、成形用下蓋体75及び成形用筒71に取り囲まれる空間内に造粒粉体41をさらに充填する。成形用下蓋体75の中央の一部は取り外し可能に構成されており、該一部を取り外してから造粒粉体41を充填し、その後に該一部を再び取り付ける。成形用下蓋体75の造粒粉体41側には、成形用下蓋体75の厚みが周辺部から中央部に向かって漸減するように傾斜がついたテーパ部が設けられる。成形用下蓋体75は、
図5に示す成形用下蓋体25と同様の中心溝253を有するが、外側溝255を有さない。すなわち、成形用筒71の上側に成形用下蓋体75が取り付けられた状態において、中心部材1aは成形用下蓋体75の中心溝253に嵌め込まれるが、外側部材1bは成形用下蓋体75に支持されない。
【0079】
次いで、
図16(b)に示すように、下部固定治具63、中心部材1a、外側部材1b、成形用筒71、造粒粉体41及び成形用下蓋体75を、一体的に上下反転させる。その結果、下部固定治具63が上側に位置し、成形用下蓋体75が下側に位置する。そして、下部固定治具63を取り外す。
【0080】
次いで、
図16(c)に示すように、下部固定治具63が取り外された後に、成形用筒71の上側に成形用上蓋体73を取り付け、成形用上蓋体73及び成形用筒71に取り囲まれる空間内に造粒粉体41をさらに充填する。成形用上蓋体73の中央の一部は取り外し可能に構成されており、該一部を取り外してから造粒粉体41を充填し、その後に該一部を再び取り付ける。成形用上蓋体73の造粒粉体41側には、成形用上蓋体73の厚みが周辺部から中央部に向かって漸減するように傾斜がついたテーパ部が設けられる。成形用上蓋体73は、
図4に示す成形用上蓋体23と同様の中心溝233を有するが、外側溝235を有さない。すなわち、成形用筒71の上側に成形用上蓋体73が取り付けられた状態において、中心部材1aは成形用上蓋体73の中心溝233に嵌め込まれるが、外側部材1bは成形用上蓋体73に支持されない。
【0081】
その後、
図7F〜7Hと同様に静水圧の印加、脱水、精製及び焼結工程を行うことによって、光ファイバ母材が得られる。
【0082】
図16(c)に示す状態において、外側部材1bは成形用上蓋体73及び成形用下蓋体75に支持されず、粉末材料である造粒粉体41によって初期位置(すなわち、静水圧の印加前に配置されるべき位置)に拘束される。造粒粉体41は流動性を有するため、造粒粉体41に拘束されている外側部材1bは、静水圧の印加が印加される際に移動可能である。そのため、本実施形態に係る光ファイバ母材の製造方法によれば、第一、第二実施形態と同様に加圧による棒状部材の変形又は破損を抑制する効果を奏することができる。
【0083】
本実施形態に係る光ファイバ母材の製造工程を実験し、1ton/cm
2の静水圧の印加を1分間行ったところ、中心部材1a、外側部材1bのいずれにも変形及び破損は認められなかった。
【0084】
[第四実施形態]
第三実施形態において、成形型(成形用筒71)の横断面形状は円形である。
図17(a)は、成形型の横断面形状が円形である場合の焼結前後の成形体の横断面図である。
図17(a)の焼結前の状態では、外側部材1bの存在しない領域の成形体の半径R1は、外側部材1bの存在する領域の成形体の半径R2に等しい。半径R1は成形体の横断面において該横断面の中心を通って外側部材1bを通らない部分の半径であり、半径R2は成形体の横断面において該横断面の中心を通って外側部材1bを通る部分の半径である。
【0085】
成形体に対して焼結を行う際に、造粒粉体41は大きく収縮するのに比べて、コアロッドである外側部材1bはほとんど収縮しない。そのため成形体中において外側部材1bが存在する部分と、外側部材1bが存在しない部分とで体積の変化が異なる。その結果、焼結後の成形体(光ファイバ母材)の横断面形状は
図17(a)の焼結後の状態のように、外側部材1bの存在する領域に6つの頂点が配置された略六角形状になる場合がある。さらに、外側部材1bに掛かる応力が不均一となるため、外側部材1bの横断面形状は円周方向に僅かに伸びて変形してしまう場合がある。
【0086】
それに対して、本実施形態では焼結前の成形体の横断面形状を調整することによって、焼結後の成形体(光ファイバ母材)の横断面形状を略円形にすることができる。
【0087】
図17(b)は、本実施形態に係る焼結前後の成形体の横断面図である。
図17(b)の焼結前の状態では、外側部材1bの存在しない領域の成形体の半径R1は、外側部材1bの存在する領域の成形体の半径R2よりも大きい(すなわち、R1>R2)。その結果、焼結前の成形体の横断面形状は
図17(b)の焼結前の状態のように、外側部材1bの存在しない領域に6つの頂点が配置された略六角形状になる。
【0088】
このような構成を有する成形体を焼結すると、外側部材1bの存在しない領域の半径R1は、外側部材1bの存在する領域の半径R2よりも大きく減少する。その結果、焼結後の成形体の横断面形状は略円形となる。また、外側部材1bに掛かる応力が均一化されるため、外側部材1bの変形を抑制することができる。
【0089】
具体的な半径R1、R2の値(又は比率)は、外側部材1bの配置や造粒粉体41の密度等を考慮して適宜決定することができる。
【0090】
[第五実施形態]
第三実施形態において、
図16(c)の後の静水圧の印加は成形体に成形型を装着した状態で行われる。そのため、成形用上蓋体73及び成形用下蓋体75の近傍における成形体の収縮量は、中央部における成形体の収縮量よりも小さい。その結果、加圧後の成形体において、
図7Hに示すように、両端部は中央部よりも太くなる。例示的な加圧後の成形体において、中央部の外径は約41mmであり、両端部の外径は約44mmである。
【0091】
このような成形体を焼結して光ファイバ母材にし、該光ファイバ母材を線引きして光ファイバを作製すると、該光ファイバの中心に位置する中心コアと該光ファイバの外周に位置する外周コアとの間の距離(以下、コア間距離という)は、中央部よりも両端部で小さくなる。これは、光ファイバの外径は略一定であるため、光ファイバ母材の状態で太い両端部は引き延ばされる割合が大きく、相対的に中心部材1aと外側部材1bとの間の距離が縮まるからである。コア間距離の許容範囲は規格で決まっているため、特に両端部においてコア間距離が許容範囲よりも小さい部分が増加すると、歩留まりが悪化する。
【0092】
それに対して、本実施形態では成形体中の外側部材1bの配置を調整することによって、該成形体から製造される光ファイバ中のコア間距離を改善することができる。
【0093】
図18(a)は、本実施形態に係る中心部材1a及び外側部材1bの側面図である。
図18(a)は焼結前の成形体内部の中心部材1a及び外側部材1bを示しており、視認性のため造粒粉体41は省略されている。本実施形態では、成形体を作製する際に、外側部材1bを中心部材1a(成形体の中心軸)に関してねじって、すなわち成形体の横断面の円周方向に傾斜させて配置する。具体的には、
図15(a)の段階で、外側部材1bの上端部が、外側部材1bの下端部に対して、成形型の横断面の中心法線に関して相対的に20°回転して位置するように、上部固定治具61と下部固定治具63との間に外側部材1bを配置する。その結果、外側部材1bの長手方向は、中心部材1aの長手方向に対して傾斜する。また、上端部及び下端部において中心部材1aと外側部材1bとの間の距離を第三実施形態に比べて0.5%大きくした。なお、回転の方向及び角度は、実験やシミュレーションを行うことによって任意に設計してよい。
【0094】
図18(b)は
図18(a)のG−G線で切断した断面図であり、
図18(c)は
図18(a)のH−H線で切断した断面図であり、
図18(d)は
図18(a)のJ−J線で切断した断面図である。
図18(b)〜18(c)において、破線は造粒粉体41の外径を示す。
図18(b)に示す上端部及び
図18(d)に示す下端部において、中心部材1aと外側部材1bとの間の距離R3は同一であり、外側部材1bが中心部材1a(成形体の中心軸)に関して相対的に20°回転した状態にある。一方、
図18(c)に示す中央部において、中心部材1aと外側部材1bとの間の距離R4は、上端部及び下端部における該距離R3よりも小さい(すなわち、R3>R4)。換言すると、外側部材1bを中心部材1aに関してねじって配置する場合に、上端部と下端部において中心部材1aと外側部材1bとの間の距離は同じだが、中央部において該距離は縮まる。
【0095】
図19は、光ファイバのコア間距離を見積もった結果のグラフを示す図である。具体的には、まず、全長250mmの成型体に対し両端部とその間を10mm間隔でX線CT撮影することにより成型体中のガラスロッド位置を測定する。次に該成形体を透明ガラス化し、外径180μmに線引きした場合のコア間隔を求める。なお、成型体断面内密度は1.45g/cm
3で一定であるものとした。また、
図19の横軸は成型体の一方端から他方端に向かって等間隔で設定した測定位置であり、縦軸はコア間距離(μm)の見積もり値である。
図19には、回転無しの場合(第三実施形態)に係る成形体から作製した光ファイバ及び20°回転の場合(本実施形態)に係る成形体から作製した光ファイバのコア間距離が示されている。
【0096】
例示的な規格において、コア間距離は50±0.5μmである。
図19からわかるように、本実施形態に係る光ファイバでは、第三実施形態に係る光ファイバよりも規格内の範囲が大きい。すなわち、本実施形態に係る光ファイバでは特に両端部における規格外の範囲を低減することができる。具体的には、
図19のグラフにおいては、本実施形態の歩留まりは第三実施形態に比べて3%向上する。
【0097】
本実施形態は、第三実施形態に限られず、第一、第二実施形態のように上下の蓋によって外側部材1bを支持する場合にも適用可能である。この場合には、第一、第二実施形態における成形用上蓋体23、53と成形用下蓋体25、55とを相対的に回転させる(例えば20°)ことによって、
図18(a)と同様に外側部材1bを中心部材1aに関してねじって配置することができ、同様の効果を実現することができる。
【0098】
本実施形態によれば、成形体中に外側部材1bを中心部材1aに関してねじって、すなわち成形体の横断面の円周方向に傾斜させて配置することによって、外側部材1bと中心部材1aとの間の距離を中央部よりも両端部で長くすることができる。その結果、該成形体から作製される光ファイバのコア間距離を改善することができ、光ファイバの歩留まりを向上させることができる。
【0099】
[第六実施形態]
第三実施形態において、成形体中では外側部材1bは粉末材料である造粒粉体41によって拘束される。粉末材料により拘束される外側部材1bは静水圧の印加前には位置ずれを起こしやすいため、特に多数の外側部材1bを含む光ファイバ母材を製造する場合に外側部材1bの位置の精度を維持することが難しい。
【0100】
それに対して、本実施形態では複数回に分けて成形体を作製することによって、より多くの外側部材1bを含む光ファイバ母材を精度よく製造することができる。
【0101】
図20(a)は内側成形体81の縦断面図であり、
図20(b)は内側成形体81及び外側成形体83の縦断面図である。
図20(c)は
図20(b)のK−K線で切断した断面図である。本実施形態では、まず内側成形体81を作製した後に、内側成形体81の外側に外側成形体83を作製し、内側成形体81及び外側成形体83を一体的な成形体として用いる。
【0102】
具体的には、まず
図15(a)〜15(c)及び
図16(a)〜16(c)の工程に従って各部材を配置した後、静水圧の印加を行うことによって、内側成形体81を作製する。
図20(a)に示すように、内側成形体81中には、中心部材1aを中心とした円周上に6本の外側部材1bが等間隔に配置される。内側成形体81中の中心部材1a及び外側部材1bの数及び配置は、この構成に限定されず、任意に設計してよい。
【0103】
次いで、内側成形体81を中心部材1aの代わりに用いて、
図15(a)〜15(c)及び
図16(a)〜16(c)の工程に従って各部材を配置した後、静水圧の印加を行うことによって、内側成形体81の外側に外側成形体83を作製する。
図20(b)、20(c)に示すように、外側成形体83中には、内側成形体81の外側において中心部材1aを中心とした円周上に12本の外側部材1bが等間隔に配置される。外側成形体83中の外側部材1bの数及び配置は、この構成に限定されず、任意に設計してよい。
【0104】
内側成形体81の作製時及び外側成形体83の作製時に用いるため、大きさの異なる上部固定治具61、下部固定治具63、成形用上蓋体73、成形用下蓋体75及び成形用筒71の組が2組用意される。上部ダミー棒15及び下部ダミー棒17は、内側成形体81及び外側成形体83の2種類の成形型に対応するために2段階で太くなっている。
【0105】
本実施形態では成形体の作製を2回に分けて行っているが、3回以上に分けて行ってもよい。その場合には、大きさの異なる上部固定治具61、下部固定治具63、成形用上蓋体73、成形用下蓋体75及び成形用筒71の組を複数用意し、
図15(a)〜15(c)及び
図16(a)〜16(c)の工程及び静水圧の印加を繰り返して実行すればよい。
【0106】
本実施形態は、第三実施形態に限られず、第一、第二実施形態のように上下の蓋によって外側部材1bを支持する場合にも適用可能である。この場合には、大きさの異なる成形用筒21、51、成形用上蓋体23、53及び成形用下蓋体25、55の組を複数用意し、
図7A〜7Hの工程を繰り返して実行すればよい。
【0107】
本実施形態によれば、複数回に分けて棒状部材である外側部材1bの配置及び加圧を行うため、加圧前の粉末材料により拘束されている外側部材1bの数を減らすことができる。これにより、外側部材1bの位置ずれを低減し、多数の外側部材1b棒状部材を含む光ファイバ母材を精度よく製造することができる。
【0108】
本実施形態を応用して、
図21(a)、(b)に示すように碁盤目状(格子状)に中心部材1a及び外側部材1bを配置した透明ガラス体(光ファイバ母材)を作ることが可能である。
図21(a)は静水圧の印加前の成形体の横断面図であり、
図21(b)は静水圧の印加後の成形体の横断面図である。
図21(a)、(b)の形態では、中心部材1aの代わりに、コアを有さない石英ガラスからなる棒状部材であるダミー部材1cが配置される。
図21(a)の静水圧の印加前の成形体において、内側成形体81中にはダミー部材1cを中心とする矩形の各頂点上に4本の外側部材1bが配置され、外側成形体83中には内側成形体81の外側においてダミー部材1cを中心とする矩形の辺上に8本(各辺上に2本ずつ)の外側部材1bが配置され、更にその外側にダミー部材1cを中心とする矩形の各頂点上に4本の外側部材1bが配置される。このような構成の成形体に静水圧を印加した後に焼結することによって、
図21(b)に示すような碁盤目状に配置された16本のコアを有する光ファイバ母材を製造することができる。なお、それぞれの成型体の形状及び成形前の成形型への棒状部材の配置は、静水圧加圧時の造粒粉体41の収縮及び焼結時の造粒粉体41の収縮を考慮して、焼結後に所望の配置が得られるように選定される。
図21(a)に示すように、特に外側の矩形の頂点に位置する外側部材1bは、静水圧の印加及び焼結による移動距離が大きいため、静水圧の印加前には外側にずらして配置されることが望ましい。
【0109】
[第七実施形態]
光ファイバにおいて、コアとコアとの間に空孔を設けることによって、クロストークを低減できることが知られている。本実施形態では、成形体中に空孔を有する棒状部材を配置することによって、空孔を有する光ファイバの元となる光ファイバ母材を製造する。
【0110】
図22(a)は、本実施形態に係る成形体の横断面図である。本実施形態に係る成形体は、第一〜第六実施形態のうちいずれかの方法によって作製される。本実施形態では、中心部材1a及び外側部材1bに加えて、空孔部材1dを用いる。空孔部材1dは、一方向に延在するパイプ形状をしており、コア11の代わりに中心に長手方向に沿って延在する空孔を有する。空孔部材1は、例えば石英からなり、クラッド13と同一の材料で構成されてよい。空孔部材1中の空孔の径は、作製対象の光ファイバに応じて任意に設計してよい。
【0111】
図22(a)に示す成形体の断面において、中心に中心部材1aが配置され、中心部材1aを中心とする第1の正六角形(破線で表示)の各頂点上に、6本の空孔部材1dが配置される。さらに、該第1の正六角形よりも大きい中心部材1aを中心とする第2の正六角形(破線で表示)の各頂点上に6本の空孔部材1dが配置されるとともに、該第2の正六角形の各辺の中点上に6本の外側部材1bが配置される。このような構成の成形体を焼結することによって、
図22(b)に示すようなコア間に空孔を有する光ファイバ母材を製造することができる。
【0112】
図22(a)に示す形態では、成形型内に予め空孔部材1dを配置してから静水圧の印加を行うことによって成形体を作製する。一方、静水圧の印加後に成形体に空孔部材1dを埋め込むことも可能である。
図22(c)は、
図22(a)の成形体を作製する前段階の成形体の横断面図である。
図22(c)では、空孔部材1dを配置する予定の位置に、棒状部材である仮部材1eが配置される。仮部材1eは、空孔部材1dと同一の径及び長さを有し、金属や石英などの任意の材料からなる。
【0113】
図22(c)の成形体から仮部材1eを機械的な加工等によって除去し、仮部材1eのあった空間に空孔部材1dを挿入する。これにより、
図22(a)と同一の構成を有する成形体を作製することができる。
【0114】
なお、それぞれの成型体の形状及び成形前の成形型への棒状部材の配置は、静水圧加圧時の造粒粉体41の収縮及び焼結時の造粒粉体41の収縮を考慮して、焼結後の所望の配置が得られるように決定される。
図22(a)、(c)に示すように、特に外側の正六角形の各辺上に位置する外側部材1bは、静水圧の印加及び焼結による移動距離が大きいため、静水圧の印加前には外側にずらして配置されることが望ましい。