【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板上に形成された下地層と、前記下地層に接する、前記下地層と同素材からなるナノサイズ突起物とを有し、前記ナノサイズ突起物は、長さが90nm〜150μmである赤外線カットフィルタである。
以下、本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、赤外線カットフィルタとして、基板上に形成された下地層と、該下地層に接する、該下地層と同素材からなるナノサイズ突起物とを有するフィルタを用いることにより、充分な可視光透過性を維持しながら優れた赤外線カット性能が得られることを見出した。このようなフィルタは、基板上に同素材からなる下地層とナノサイズ突起物とを1工程で形成させることも可能であるため、製造方法も簡便である。
更に、本発明者は、ナノサイズ突起物の長さによっては充分な赤外線カット性能が得られないことがあるのに対し、ナノサイズ突起物の長さを特定範囲に調整することで、下地層及びナノサイズ突起物の素材が無機材料である場合であっても、近赤外線から遠赤外線までの幅広い波長域において優れた赤外線カット性能が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の赤外線カットフィルタは、基板上に形成された下地層と、上記下地層に接する、上記下地層と同素材からなるナノサイズ突起物とを有する。
図1は、本発明の赤外線カットフィルタの一例を模式的に示した断面図である。
図1に示す赤外線カットフィルタ5は、基板6上に形成された下地層7と、下地層7に接する、下地層7と同素材からなるナノサイズ突起物8とを有する。
【0009】
上記基板は特に限定されないが、透明であることが好ましく、例えば、ガラス基板、金属基板等の無機基板、プラスチックフィルム等が挙げられる。上記プラスチックフィルムとして、PETフィルム、ポリエチレンナフトエートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等が好ましい。
上記基板の厚みは特に限定されないが、上記ガラス基板等の無機基板の厚みは、20μm〜10mmが好ましく、上記プラスチックフィルムの厚みは、8〜500μmが好ましい。
【0010】
本発明の赤外線カットフィルタにおいては、上記基板上に上記下地層が直接形成されていてもよいが、上記基板の表面に表面処理が施されていたり、上記基板と上記下地層との間に薄膜層が形成されていたりしてもよい。
上記薄膜層として、例えば、上記基板が上記プラスチックフィルムである場合に該プラスチックフィルムのガスバリア性を高めることのできる薄膜層等が挙げられる。上記薄膜層は、透明であることが好ましく、具体的には例えば、SiO
2、Al
2O
3等の金属酸化物層、アクリル、シリコーン等からなる透明樹脂層等が挙げられる。
【0011】
上記下地層の素材は特に限定されないが、無機材料が好ましく、導電性を有する無機材料がより好ましい。更に、上記下地層は、少なくとも、インジウム、スズ及び酸素を含有することが好ましく、更に、窒素を含有してもよい。上記下地層の素材として、具体的には例えば、インジウムを含有する酸化スズ、アルミニウムを含有する酸化スズ、亜鉛を含有する酸化スズ、ガリウムを含有する酸化スズ、窒素を含有する酸化スズ等が挙げられる。
上記下地層の厚みは特に限定されないが、3〜500nmが好ましい。
【0012】
上記ナノサイズ突起物は、上記下地層と同素材からなるものである。本発明の赤外線カットフィルタは、上記基板上に同素材からなる上記下地層と上記ナノサイズ突起物とを1工程で形成させることも可能であるため、製造方法も簡便である。
上記ナノサイズ突起物の素材は、上記下地層と同素材である限り特に限定されないが、無機材料が好ましく、導電性を有する無機材料がより好ましい。更に、上記ナノサイズ突起物は、少なくとも、インジウム、スズ及び酸素を含有することが好ましく、更に、窒素を含有することが好ましい。上記ナノサイズ突起物の素材として、具体的には例えば、インジウムを含有する酸化スズ、アルミニウム含有する酸化スズ、亜鉛を含有する酸化スズ、ガリウムを含有する酸化スズ、窒素を含有する酸化スズ等が挙げられる。
なお、「同素材からなる」とは、構成元素が同一であることを意味する。構成元素が同一であれば、必ずしも各構成元素の組成比が同一である必要はない。
【0013】
上記ナノサイズ突起物は、長さが90nm〜150μmである。
上記ナノサイズ突起物の長さが上記範囲に調整されていることで、本発明の赤外線カットフィルタは、上記下地層及び上記ナノサイズ突起物の素材が無機材料である場合であっても、近赤外線から遠赤外線までの幅広い波長域において優れた赤外線カット性能を有することができる。長さが90nm未満であると、充分な赤外線カット性能を得ることが難しくなる。また、長さが150μmを超えるナノサイズ突起物を形成することは難しい。長さの好ましい下限は120nm、好ましい上限は100μmであり、より好ましい下限は150nm、より好ましい上限は50μmであり、更に好ましい下限は500nm、更に好ましい上限は30μmであり、特に好ましい下限は800nm、特に好ましい上限は1μmである。
なお、ナノサイズ突起物の長さとは、基板から離れる方向に伸びるナノサイズ突起物の長さ(基板に対してほぼ垂直方向にナノサイズ突起物が伸びている場合はナノサイズ突起物の高さ)であり、赤外線カットフィルタの断面又は表面を観察した電子顕微鏡写真(SEM像)から求めることができる。ナノサイズ突起物の長さとは、30個以上のナノサイズ突起物の平均値を意味する。
【0014】
上記ナノサイズ突起物は、上記基板から成長したナノサイズ突起物の長さHと、上記ナノサイズ突起物の幹を輪切りにした断面の幅(基板に対してほぼ垂直方向にナノサイズ突起物が伸びている場合はナノサイズ突起物を基板に対して水平方向に輪切りにした断面の幅)Wとの比率H/Wが1〜300であることが好ましい。本発明の赤外線カットフィルタにおいては、いずれの箇所においても実質的に比率H/Wが同比率のナノサイズ突起物が同一密度で形成されていることが好ましい。比率H/Wが1未満であると、上記ナノサイズ突起物が充分に形成されず、充分な赤外線カット性能を得ることが難しくなることがある。比率H/Wが300を超えると、上記ナノサイズ突起物が物理的な力で破壊されやすくなることがある。
【0015】
上記ナノサイズ突起物の形状は特に限定されず、例えば、ロッド状(円錐状、円筒状)、こぶ状、四角柱状、四角錐状等が挙げられる。なかでも、ロッド状が好ましく、円錐状がより好ましい。上記円錐状は、円錐の先端に球を有する形状であることがより好ましい。これらの形状は、単一の形状のみが存在していてもよいし、2種以上の形状が混在していてもよい。
また、上記ナノサイズ突起物は、分岐構造を有するものを含んでいてもよい。
【0016】
なお、ナノサイズ突起物の比率H/W、及び、形状は、赤外線カットフィルタの断面又は表面を観察した電子顕微鏡写真(SEM像)から求めることができる。ナノサイズ突起物の比率H/Wとは、30個以上のナノサイズ突起物の平均値を意味する。
【0017】
上記ナノサイズ突起物は、広い領域に高い密度で形成されていることが好ましい。
上記ナノサイズ突起物は、1mm
2以上の領域、好ましくは100mm
2〜1m
2もの広い領域に1mm
2あたり1×10
5〜1×10
9個の密度で形成されていることが好ましい。密度が1mm
2あたり1×10
5個未満であると、上記ナノサイズ突起物を有しないフィルタとの差異がなく、上記ナノサイズ突起物の効果が得られないことがある。密度が1mm
2あたり1×10
9個を超えると、上記ナノサイズ突起物が多すぎて、密度が不均一になることや、可視光透過性が低下することがある。密度のより好ましい下限は1mm
2あたり1×10
6個、より好ましい上限は1mm
2あたり1×10
7個である。
なお、「ナノサイズ突起物が1mm
2以上の領域に1mm
2あたり1×10
5〜1×10
9個の密度で形成されている」とは、赤外線カットフィルタの表面を観察した電子顕微鏡写真(SEM像)を用いて、1mm
2以上の領域にわたる任意の5以上の箇所について算出したナノサイズ突起物の密度の平均値が、1mm
2あたり1×10
5〜1×10
9個であることを意味する。
【0018】
上記下地層及び上記ナノサイズ突起物は、少なくとも上記基板の片面に形成されていればよいが、上記基板の両面に形成されていてもよい。
【0019】
本発明の赤外線カットフィルタの用途は特に限定されないが、カメラ(例えば、デジタルカメラ、携帯電話カメラ)、液晶プロジェクタ等の光学用途や、通過センサー、対物センサー等の光学センサー用途等が好ましい。
本発明の赤外線カットフィルタは、近赤外線から遠赤外線までの幅広い波長域において優れた赤外線カット性能を有する。より具体的には、本発明の赤外線カットフィルタは、波長1400nm付近の近赤外線のカット性能が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、本発明の赤外線カットフィルタは、波長3000nm付近の遠赤外線のカット性能が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
一方で、本発明の赤外線カットフィルタは、充分な可視光透過性を有する。本発明の赤外線カットフィルタは、波長550nm付近の可視光透過率が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
なお、近赤外線カット性能、遠赤外線カット性能、及び、可視光透過率は、例えば、紫外可視赤外分光光度計(例えば、日本分光社製のV−7200)を用いて、検出器に小型積分球を用いてISO 13468−1:1996の条件で測定することができる。
【0020】
本発明の赤外線カットフィルタを製造する方法は特に限定されないが、スパッタリングにより上記基板上に上記下地層と上記ナノサイズ突起物とを形成する方法が好ましい。
本発明の赤外線カットフィルタを製造する方法であって、スパッタリングにより基板上に下地層とナノサイズ突起物とを形成する赤外線カットフィルタの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0021】
上記スパッタリングに使用するスパッタ装置は特に限定されず、バッチ式のスパッタ装置であってもよいし、ロールtoロール方式のスパッタ装置であってもよい。
【0022】
上記スパッタリングの条件(例えば、ガス雰囲気、基板を加熱する温度(成膜温度)及び時間、スパッタリングターゲット中のSnO
2含有量等)を調整することにより、上記基板上に上記範囲の長さを有するナノサイズ突起物を形成することができる。
なかでも、酸素ガスを導入しないでスパッタリングを行うことが好ましく、アルゴンガス雰囲気下でスパッタリングを行うことがより好ましい。なお、酸素ガスを導入しないでスパッタリングを行うとは、少なくとも、酸素ガスを導入しないでスパッタリングを行う工程が含まれていればよく、その工程の前に酸素ガスを導入してスパッタリングを行ってもよい。酸素ガスを導入する場合は、アルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気下でスパッタリングを行い、続いて、酸素ガスを含まないアルゴンガス雰囲気下でスパッタリングを行うことが好ましい。
【0023】
上記スパッタリングにおいて、上記基板を加熱する温度(成膜温度)は特に限定されないが、好ましい下限が120℃、好ましい上限が500℃である。このような成膜温度とすることにより、上記ナノサイズ突起物を充分に形成することができる。
なかでも、上記基板が上記ガラス基板等の無機基板である場合、成膜温度の好ましい下限は150℃、より好ましい下限は175℃である。成膜温度を175℃以上とすることにより、目的とする形状のナノサイズ突起物を形成しやすくなる。
また、上記プラスチックフィルムは一般的に薄く熱伝導性が高いため、上記基板が上記プラスチックフィルムである場合、成膜温度の好ましい下限は130℃である。このような成膜温度とすることにより、上記基板として上記プラスチックフィルムを用いることができ、フレキシブルな赤外線カットフィルタとすることができる。
【0024】
上記スパッタリングに使用するスパッタリングターゲットは特に限定されず、例えば、SnO
23.0〜50重量%のITOターゲット等が挙げられる。このようなSnO
2含有量とすることにより、上記ナノサイズ突起物を充分に形成することができる。また、SnO
2含有量が多くなるにつれて、上記ナノサイズ突起物の長さが増し、密度が高くなるとともに、円錐の先端に存在する球の直径が小さくなる傾向がある。SnO
2含有量のより好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は45重量%であり、更に好ましい下限は7重量%、更に好ましい上限は35重量%である。
【0025】
上記スパッタリングの様式は特に限定されず、DCスパッタであってもRFスパッタであってよく、DCスパッタとRFスパッタとの重畳スパッタであってもよい。上記スパッタリングの圧力、投入電力等は特に限定されず、例えば、圧力0.666Pa、投入電力300W等を用いることができる。
【0026】
本発明の赤外線カットフィルタの製造方法においては、上記基板に対して、スパッタリングターゲットを傾けて対向させた状態でスパッタリングを行うことが好ましい。これにより、目的とする形状のナノサイズ突起物をより広い領域に高い密度で形成することができる。
この理由ははっきりとは判っていないが、基板に対してスパッタリングターゲットを傾けることで、1)ターゲット材料の基板への到達エネルギーを制御できる、2)アルゴンプラズマによる基板及び生成膜へのダメージ(逆スパッタ)を制御できるためであると推察される。1)のターゲット材料の基板への到達エネルギーはナノサイズ突起物の生成に関与すると考えられ、2)のアルゴンプラズマによるダメージは生成したナノサイズ突起物の逆スパッタによる選択的消失による膜の平坦化に寄与すると考えられる。
【0027】
図2に、基板に対して、スパッタリングターゲットを傾けて対向させた状態でスパッタリングを行うスパッタリング方法の一例を模式的に示す。
図2に示すスパッタリング方法においては、基板ホルダ1に保持した基板2に対して、ターゲット電極3に取り付けたスパッタリングターゲット4を傾けて対向させた状態でスパッタリングを行う。これにより、スパッタリングターゲット4と同素材のスパッタ原子4’が基板2の表面に入射し、基板2の表面に堆積してナノサイズ突起物が形成される。なお、通常は基板ホルダ1を回転させながらスパッタリングを行う。
なお、
図2において基板2は水平に図示されているが、基板2に対してスパッタリングターゲット4を傾けて対向させている限りにおいて、基板2及びスパッタリングターゲット4はいずれも水平であってもよいし、水平でなくてもよい。
【0028】
なお、
図3に、基板に対して、スパッタリングターゲットを傾けることなく水平に対向させた状態でスパッタリングを行う一般的なスパッタリング方法の一例を模式的に示す。
図3に示すように、基板に対して、スパッタリングターゲットを傾けることなく水平に対向させた状態でスパッタリングを行う一般的なスパッタリング方法であってもナノサイズ突起物を形成することはできるが、
図2に示すように、基板に対して、スパッタリングターゲットを傾けて対向させた状態でスパッタリングを行うことにより、目的とする形状のナノサイズ突起物をより広い領域に高い密度で形成することができる。
【0029】
上記基板に対して、スパッタリングターゲットを傾けて対向させた状態でスパッタリングを行う場合、上記基板の鉛直軸と上記スパッタリングターゲットの鉛直軸とがなす角度θ(
図2参照)の好ましい下限が5°、好ましい上限が60°である。角度θが5°未満であると、目的とする形状のナノサイズ突起物を広い領域に均一な密度で形成できないことがある。角度θが60°を超えると、成膜時の結晶性の低下、及び、成膜速度の遅延がみられることがある。特にITOターゲットを用いる場合は、角度θが60°を超えると、膜質の低下から表面抵抗が増大することがある。角度θのより好ましい下限は10°、より好ましい上限は55°であり、更に好ましい下限は15°、更に好ましい上限は45°である。
【0030】
本発明の赤外線カットフィルタの製造方法においては、得られた赤外線カットフィルタに対して焼成、プラズマ処理等を行ってもよい。焼成時の加熱方法は特に限定されず、例えば、ヒーターオーブン加熱、赤外線加熱等が挙げられる。焼成することで、赤外線カットフィルタの可視光透過性を増大させることができる。
焼成時のフィルタ表面温度は特に限定されないが、好ましい下限は200℃、好ましい上限は600℃である。上記フィルタ表面温度を200℃以上とすることで、赤外線カットフィルタの波長550nm付近の可視光透過率を大幅に向上させることができる。上記フィルタ表面温度が600℃を超えると、赤外線カットフィルタの波長1400nm付近の近赤外線の透過率が増大してしまい、赤外線カットフィルタとしての性能が低下することがある。