特許第6572637号(P6572637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572637
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   B60K17/348 B
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-123635(P2015-123635)
(22)【出願日】2015年6月19日
(65)【公開番号】特開2017-7454(P2017-7454A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】西沢 英雄
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊輔
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359132(JP,A)
【文献】 特開2002−349604(JP,A)
【文献】 特開2005−083464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源と、
前記動力源に接続され、前記動力源に駆動される第一駆動輪と、
前記動力源で発生した駆動力の伝達経路に介装されたクラッチと、
前記クラッチを介して前記動力源に接続され、前記動力源に駆動されうる第二駆動輪と、
前記クラッチの上流と下流との回転速度差に応じて、前記クラッチを係合方向へと付勢するボールカム構造を有する付勢手段と、
前記ボールカム構造に含まれ、前記クラッチの上流側の部材に固定されるコントロールクラッチと、
前記ボールカム構造に含まれ、前記コントロールクラッチに係合することで前記クラッチの上流側から前記駆動力が入力される第一カムと、
前記ボールカム構造に含まれ、ボールを挟んで前記第一カムに対向配置され前記第一カムとの位相差に応じて前記クラッチを係合方向へと押圧する第二カムと、
前記車両の停車前における前記クラッチの駆動力伝達状態に応じて、前記コントロールクラッチの係合力を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、停車前に前記コントロールクラッチが前記第一カムと係合している場合に、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を停車前よりも強い係合力であって、停車状態から発進する際の前記コントロールクラッチの係合力よりも弱い係合力に制御する
ことを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両の外気温を検出する外気温検出手段を備え、
前記制御手段は、前記外気温検出手段で検出された前記外気温が低いほど、前記動力源から前記第二駆動輪へと伝達される駆動力の割合が高くなるように、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を制御する
ことを特徴とする、請求項記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両が走行する路面の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段を備え、
前記制御手段は、前記摩擦係数取得手段で取得された前記摩擦係数が小さいほど、前記動力源から前記第二駆動輪へと伝達される駆動力の割合が高くなるように、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を制御する
ことを特徴とする、請求項1または2記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、
前記制御手段は、前記路面勾配検出手段で検出された前記勾配の絶対値が大きいほど、前記動力源から前記第二駆動輪へと伝達される駆動力の割合が高くなるように、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記車両の駆動方式を、前記第一駆動輪のみで走行する二駆モードと前記第一駆動輪及び前記第二駆動輪を併用して走行する四駆モードとに切り替えるためのモード切替手段を備え、
前記制御手段は、停車中に前記車両の駆動方式が前記四駆モードから前記二駆モードへと切り替えられた場合に、前記車両が発進するまでは前記コントロールクラッチの係合力を維持することを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、停車前に前記コントロールクラッチと前記第一カムとの係合により、前記クラッチが係合方向に付勢されている場合に、前記コントロールクラッチの係合力を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、停車前に前記第一カムと前記第二カムとの位相差が維持されている場合に、前記コントロールクラッチの係合力を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源に接続された第一駆動輪と、クラッチを介して動力源に接続された第二駆動輪とを備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動方式を二輪駆動と四輪駆動とに切り替えることのできる車両において、動力源と駆動輪との間にカップリングクラッチを介装したものが知られている。カップリングクラッチは、粘性流体が充填されたケーシング内に一対以上のクラッチ板(羽根車)を内装した流体継手の一種である。カップリングクラッチでのトルクの伝達量は、粘性流体の流量や圧力を制御することで変更可能である。また、電磁式のクラッチ板を用いた場合には、各クラッチ板の摩擦係合力を制御することで、トルクの伝達量を制御することができる(特許文献1参照)。
【0003】
近年では、クラッチ板を積極的に係合,離間させるための付勢手段が内蔵されたカップリングクラッチも開発されている。例えば、一対のカムの間にボールを介装し、カム同士の位相差に応じてボールと各カムとの接触位置を変化させることでカム間の距離を変化させる、ボールカム構造のカップリングクラッチが知られている。一方のカムは、アクチュエータを作動させることで、トルク入力側の部材に対して離接方向に移動可能とされる。この一方のカムをトルク入力側の部材に接合させて回転させることで、カム同士に位相差が生じ、他方のカムが一方のカムから離間する方向へと移動する。このとき、クラッチ板が他方のカムによって押圧され、クラッチ板が互いに係合する方向へと付勢されて、トルクの伝達量が制御される(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-090702号公報
【特許文献2】特開2011-163399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなカップリングクラッチでは、駆動力を伝達しなくてもよい走行状態でのトルク伝達量が小さくなるように、アクチュエータや摩擦係合力,流体の流量,圧力などが制御される。例えば、四輪駆動方式での走行中に車両が信号待ちで一時停止したときに、アクチュエータを一時的に停止させる制御が実施されることがある。一方、この制御によってクラッチ板と流体との間の粘性抵抗が低下すると、カップリングクラッチの入力側と出力側との間に滑り回転が生じやすくなり、車両の発進性能が低下しうる。
【0006】
また、ボールカム構造を有するカップリングクラッチでは、カムの係合が解除されると同時にカム同士が相対的に回転し、位相差が解消されうる。そのため、一方のカムとトルク入力側の部材との接合状態を一旦解除してしまうと、その直後に接合状態を復旧したとしても、カム同士に再び位相差が生じるまでの間はカムを係合させることができない。これにより、カップリングクラッチの入力側と出力側との間に滑り回転が生じやすくなり、車両の発進性能が低下しうる。
【0007】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、発進性能を向上させることができる車両の制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ここで開示する車両の制御装置は、車両の動力源と、前記動力源に接続され、前記動力源に駆動される第一駆動輪と、前記動力源で発生した駆動力の伝達経路に介装されたクラッチとを備える。また、前記クラッチを介して前記動力源に接続され、前記動力源に駆動されうる第二駆動輪と、前記クラッチの上流と下流との回転速度差に応じて、前記クラッチを係合方向へと付勢するボールカム構造を有する付勢手段とを備える。前記ボールカム構造には、コントロールクラッチ,第一カム,第二カムが含まれる。
【0009】
前記コントロールクラッチは、前記クラッチの上流側の部材に固定される部材である。また、前記第一カムは、前記コントロールクラッチに係合することで前記クラッチの上流側から前記駆動力が入力される部材である。また、前記第二カムは、ボールを挟んで前記第一カムに対向配置され前記第一カムとの位相差に応じて前記クラッチを係合方向へと押圧する部材である。
【0010】
さらに、上記の車両の制御装置は、前記車両の停車前における前記クラッチの駆動力伝達状態に応じて、前記コントロールクラッチの係合力を制御する制御手段を備える。前記制御手段は、停車前に前記コントロールクラッチが前記第一カムと係合している場合に、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を停車前よりも強い係合力であって、停車状態から発進する際の前記コントロールクラッチの係合力よりも弱い係合力に制御する。
【0011】
なお前記制御手段は、停車前に前記第二駆動輪が前記動力源に駆動されている場合に、停車中における前記第一カムと前記第二カムとの間の位相差を維持することが好ましい。
つまり、停車前に前記クラッチが係合状態ならば、停車中に付勢手段を付勢状態に維持して前記クラッチを係合状態のままにすることが好ましい。この場合、前記位相差をそのまま保持してもよいし、前記位相差を増大させてもよい。なお、停車前に前記第二駆動輪に前記駆動力が伝達されている状態だったならば、前記位相差が生じている状態である。
【0012】
)前記車両の外気温を検出する外気温検出手段を備えることが好ましい。この場合、前記制御手段は、前記外気温検出手段で検出された前記外気温が低いほど、前記動力源から前記第二駆動輪へと伝達される駆動力の割合が高くなるように、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を制御することが好ましい
【0013】
)前記車両が走行する路面の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段を備えることが好ましい。この場合、前記制御手段は、前記摩擦係数取得手段で取得された前記摩擦係数が小さいほど、前記動力源から前記第二駆動輪へと伝達される駆動力の割合が高くなるように、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を制御することが好ましい
【0014】
)前記車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備えることが好ましい。この場合、前記制御手段は、前記路面勾配検出手段で検出された前記勾配の絶対値が大きいほど、前記動力源から前記第二駆動輪へと伝達される駆動力の割合が高くなるように、停車中における前記コントロールクラッチの係合力を制御することが好ましい
【0015】
)前記車両の駆動方式を、前記第一駆動輪のみで走行する二駆モードと前記第一駆動輪及び前記第二駆動輪を併用して走行する四駆モードとに切り替えるためのモード切替手段を備えることが好ましい。この場合、前記制御手段は、停車中に前記車両の駆動方式が前記四駆モードから前記二駆モードへと切り替えられた場合に、前記車両が発進するまでは前記コントロールクラッチの係合力を維持することが好ましい。
(6)前記制御手段は、停車前に前記コントロールクラッチと前記第一カムとの係合により、前記クラッチが係合方向に付勢されている場合に、前記コントロールクラッチの係合力を制御することが好ましい。
(7)前記制御手段は、停車前に前記第一カムと前記第二カムとの位相差が維持されている場合に、前記コントロールクラッチの係合力を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
停車前にクラッチが係合方向へと付勢されている場合に、停車中の付勢状態を停車前から維持することで、発進前からクラッチを係合させておくことができ、車両の発進性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態としての制御装置が適用された車両の構成を示す図である。
図2】ボールカム構造を内蔵したカップリングクラッチを示す断面図である。
図3】ボールカム構造の模式的な斜視図である。
図4】ボールカム構造の動作を説明するための断面図(図3のA−A断面図)であり、(A)は開放状態を示し、(B)は差動状態を示すものである。
図5】制御装置で実施される制御内容を例示するフローチャートである。
図6】発進時における制御装置の制御作用を説明するためのグラフであり、(A)はアクセル開度及びブレーキ圧、(B)は車速、(C)は前後輪速差、(D)は保持制御を実施した場合のトルク、(E)は保持制御を実施しなかった場合のトルクを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、実施形態としての車両の制御装置(制御システム)について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0019】
[1.車両]
図1に示す車両10は、駆動方式を二輪駆動と四輪駆動とに切り替えることのできるオンデマンド式の四輪駆動車である。車両10の前輪4(第一駆動輪)は、動力源であるエンジン1(内燃機関)に接続される。エンジン1と前輪4とを接続する動力伝達経路上には、減速比を制御するための自動変速機2と、駆動力を駆動方式に応じて後輪5にも伝達するためのトランスファ3とが介装される。トランスファ3には、前輪4のディファレンシャル装置が内蔵される。また、トランスファ3と後輪5(第二駆動輪)とを接続する動力伝達経路上には、エンジン1から後輪5へと伝達される駆動力を制御するためのカップリング6(カップリングクラッチ)が介装される。
【0020】
カップリング6には、粘性流体を介して駆動力を伝達する湿式のクラッチ7と、クラッチ7の係合状態を制御するためのボールカム構造8とが内蔵される。クラッチ7を係合させることで、エンジン1から後輪5への駆動力の伝達がなされる。一方、クラッチ7が開放された状態では、後輪5への駆動力の伝達がなされず、実質的に二駆状態(前輪駆動の状態)となる。このように、前輪4がクラッチ7(カップリング6)を介することなくエンジン1に接続されるのに対して、後輪5はクラッチ7を介してエンジン1に接続される。つまり、クラッチ7(カップリング6)を境としてエンジン1の動力伝達経路を二分したときに、前輪4はクラッチ7よりもエンジン1に近い側(すなわち、エンジン1,自動変速機2,トランスファ3が設けられる側)に接続され、後輪5はクラッチ7よりもエンジン1から遠い側に接続される。なお、カップリング6の作動状態は、コントローラ9で電気的に制御される。
【0021】
コントローラ9(制御手段)は、CPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサとROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリ等を集積した電子デバイスである。ここでいうプロセッサとは、例えば制御ユニット(制御回路)や演算ユニット(演算回路),キャッシュメモリ(レジスタ群)等を内蔵する処理装置(プロセッサ)である。また、ROM,RAM及び不揮発メモリは、プログラムや作業中のデータが格納されるメモリ装置である。コントローラ9が実施する制御の内容は、例えばアプリケーションプログラムとしてROM,RAM,不揮発メモリ,リムーバブルメディア内に記録される。また、プログラムの実行時には、プログラムの内容がRAM内のメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0022】
図1に示すように、コントローラ9には、カップリング6を制御するための情報を取得する各種センサ11〜19が接続される。車速センサ11は車速Vを検出,算出し、前後加速度センサ12は車体に作用する前後加速度Gを検出,算出する。操舵角センサ13は操舵角θを取得し、シフトポジションセンサ14は自動変速機2の変速レバーの設定位置Pを取得し、アクセル開度センサ15はアクセル開度Aを取得する。
【0023】
ブレーキ圧センサ16は、ブレーキ圧B(マスタシリンダ圧)を取得し、外気温センサ17は外気温Cを取得する。路面勾配センサ18は車体の傾斜に対応する路面勾配Dを取得し、トランスファポジションセンサ19は駆動モード設定用のトランスファレバーの設定位置Qを取得する。本実施形態の車両10の駆動モードとしては、前輪4のみで走行する二駆モードと、前輪4及び後輪5を併用して走行する四駆モードとが用意されている。これらの各種センサ11〜19で取得された情報は、コントローラ9に入力される。
【0024】
また、コントローラ9は、車載ネットワーク網を介して他の電子制御装置20とも通信可能に接続される。電子制御装置20の例としては、エンジン制御装置,変速機制御装置,ブレーキ制御装置,車体姿勢制御装置などを挙げることができる。本実施形態の電子制御装置20は、車両10が走行する路面の摩擦係数μを取得する摩擦係数取得手段としての機能と、前輪4又は後輪5のスリップを検出するスリップ検出手段としての機能とを併せ持つ。電子制御装置20で検出,算出された路面摩擦係数μ及びスリップの情報は、コントローラ9に伝達される。
【0025】
[2.カップリング]
[2−1.クラッチ]
カップリング6の内部構造を、図2に例示する。カップリング6に内蔵されるクラッチ7は、円盤状の摩擦係合部材である入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24とを交互に積層した構造を持つ。入力側クラッチ板23は、入力軸21に接続されたハウジング33に対し、入力軸21の軸方向に移動可能に設けられる。また、出力側クラッチ板24は、入力軸21と同軸に配置された出力軸22に対して、出力軸22の軸方向に移動可能に設けられる。入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24との間には粘性流体が充填される。
【0026】
入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24とが離間した状態では、粘性流体を介して、入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24との回転速度差に応じたトルクが伝達される。トルクの伝達量は、粘性流体の流量や圧力を調整することで制御可能である。また、回転速度差がなければトルクの伝達量はゼロである。一方、入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24とが接合した状態では、入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24との間に作用する押付力に応じたトルクが伝達される。この場合、入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24とが離間した状態と比較して、より大きなトルクが伝達可能となる。入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24との離接方向の位置は、ボールカム構造8(付勢手段)によって制御される。
【0027】
[2−2.ボールカム構造]
図3は、ボールカム構造8を模式的に示す斜視図である。入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24との間に作用する押付力は、ボールカム構造8によって制御される。このボールカム構造8には、図2に示すように、第一カム25,第二カム26,ボール部材27,コントロールクラッチ28が設けられる。また、コントロールクラッチ28の作動状態を制御するための機構として、アーマチュア29と電磁コイル30とが設けられる。
【0028】
第一カム25は、コントロールクラッチ28を介してハウジング33に固定される円盤状カムである。この第一カム25は、コントロールクラッチ28が開放された状態では、ハウジング33に対して相対回転可能とされる。また、第二カム26は、第一カム25に対して出力軸22の軸方向に対向して配置された円盤状カムであり、出力軸22に対してその軸方向に移動可能に設けられる。これらの第一カム25,第二カム26の間には、球状のボール部材27が挟装される。
【0029】
図3に示すように、第一カム25の表面には複数の第一溝31が凹設され、第二カム26の表面にも第一溝31のそれぞれに対向する位置に第二溝32が凹設される。第一溝31は、第一カム25の周方向に延在し、延在方向のほぼ中間部が最も深くなる形状に形成される。第二溝32の形状も同様である。ボール部材27は、図4(A),(B)に示すように、第一溝31,第二溝32の内側に保持される。
【0030】
ここで、第一溝31と第二溝32とが正面に対向する状態を基準として、第一カム25と第二カム26との位相差を定義する。図4(A)に示すように、第一カム25と第二カム26とが同位相であるとき、第一溝31と第二溝32とが互いに正面に対向する位置関係となる。また、第一カム25と第二カム26との位相差が増大するに連れて、出力軸22の軸方向に見て第一溝31と第二溝32とがずれた状態となる。なお、図4(B)に示すように、第一カム25と第二カム26との間に位相差が生じている状態は「差動状態」と呼ばれる。
【0031】
アーマチュア29は、電磁コイル30に励磁されてコントロールクラッチ28を係合方向に押圧する磁性部材である。コントロールクラッチ28は、アーマチュア29からの押圧力を受けて互いに近接する方向に移動し、第一カム25を挟み込むように機能する。コントロールクラッチ28の係合力は、電磁コイル30の励磁電流に応じた大きさとなる。電磁コイル30の励磁電流は、コントローラ9で制御される。
【0032】
コントロールクラッチ28が開放された状態では、第一カム25とハウジング33とが離間しており、第一カム25が周囲の部材からフリーの状態となる。これにより、図4(A)に示すように、第一カム25と第二カム26との位相差がほぼゼロとなり、第一カム25と第二カムとの間の距離W1が比較的小さな寸法となる。このとき、第二カム26と入力側クラッチ板23とが離間した状態となるため、クラッチ7は開放状態となる。
【0033】
これに対し、コントロールクラッチ28を係合させると、第一カム25がハウジング33に支持された状態となる。この状態において、入力軸21と出力軸22との間に回転速度差が生じている場合には、第一カム25と第二カム26との位相差が増大し、ボール部材27が第一溝31及び第二溝32内にて延在方向の中間部からずれた位置へと移動する。このとき、ボール部材27が位置する溝部分の深さが小さくなることから、第一カム25と第二カムとの間の距離W2が比較的大きな寸法となり、第二カム26が第一カム25から離隔する方向へと移動することになる。
【0034】
これにより、第二カム26と入力側クラッチ板23とが接触した状態(付勢状態)となり、クラッチ7は接合状態となる。また、電磁コイル30の励磁電流が大きいほど、第一カム25がハウジング33に対して回転しにくくなり、第一カム25と第二カム26との位相差が増大しやすくなるとともに、その位相差が減少しにくくなる。したがって、入力軸21と出力軸22との間に回転速度差が生じている限り、クラッチ7を介して伝達される駆動力は、電磁コイル30の励磁電流に応じた大きさとなる。
【0035】
このように、ボールカム構造8は、コントロールクラッチ28が係合している場合に、クラッチ7の上流と下流との回転速度差に応じて、クラッチ7を係合方向へと付勢する付勢手段として機能する。なお、コントロールクラッチ28が係合している場合であっても、クラッチ7の上流と下流との回転速度差がゼロであれば、第一カム25と第二カム26との位相差が生じない。したがって、第二カム26と入力側クラッチ板23とが離間した状態となり、クラッチ7は開放状態のままとなる。クラッチ7が接続されるのは、コントロールクラッチ28が係合している状態で、クラッチ7の上流と下流との間に回転速度差が生じた場合である。ただし、四駆モードでの走行中には、クラッチ7の上流と下流との間にわずかな回転速度差が発生しうる。このような回転速度差が生じた後には、電磁コイル30への励磁電流をゼロにしない限り、第一カム25と第二カム26との位相差が維持される。
【0036】
[3.コントローラ]
コントローラ9は、車両10の走行状態に応じて電磁コイル30の励磁電流を制御する機能を持つ。本実施形態では、走行中におけるクラッチ7の駆動力伝達状態に応じて、停車中の励磁電流を制御する保持制御について説明する。ここでいう保持制御とは、走行中に発生した第一カム25と第二カム26との位相差を、車両停止後も保持するための制御である。
【0037】
既存のオンデマンド式の四輪駆動車に搭載されたカップリング6の駆動方式、例えば、ボールカム構造8を用いてクラッチ7を係合方向へと付勢する駆動方式は、電磁コイル30への励磁電流のみに応じてクラッチ7の駆動力伝達状態が制御されるものではない。すなわち、電磁コイル30が励磁された状態で前輪4と後輪5との間に回転速度差が生じた場合(前輪4がスリップした場合)に、駆動力が後輪5へと伝達されるように、自動的にクラッチ7が係合方向へと付勢されるものである。
【0038】
このような駆動方式は、常に後輪5へと駆動力を伝達するような駆動方式と比較して、燃費や操舵性の面で有利である。しかし、回転速度差が生じなければクラッチ7が係合しないため、滑りやすい路面で良好な発進性能が得られない場合がある。なぜならば、車両10の停止中に電磁コイル30への励磁電流を増大させたとしても、クラッチ7を係合させることができないからである。このような課題に対し、本実施形態の保持制御は、車両10が停車する前(車両10の走行中)におけるクラッチ7の駆動力伝達状態に応じて、停車前から停車中にかけてのボールカム構造8を適切に作動させることで、停車中のクラッチ7を係合させたままの状態に制御する。
【0039】
保持制御の開始条件は、少なくとも以下の条件1,2が成立し、好ましくは条件3,4の何れかが成立することである。条件1〜4は、車速センサ11,トランスファポジションセンサ19,アクセル開度センサ15,ブレーキ圧センサ16で取得された情報に基づいて判定される。
=保持制御の開始条件=
条件1.車速Vが所定車速V0以下である。
条件2.車両10の駆動モードが四駆モードである
条件3.アクセル開度Aが所定開度以下である。
条件4.ブレーキ圧Bが所定圧以下である。
【0040】
保持制御の開始条件が成立した場合、コントローラ9は、カップリング6を介して後輪5へと伝達されるトルクの目標値である指示トルクを算出するとともに、指示トルクに対応する励磁電流を電磁コイル30へと出力する。指示トルクの値は、基本的にはアクセル開度A,車速V,エンジン回転数などに応じて設定される。一方、保持制御が実施されているときの指示トルクは、保持制御が実施されていないときの指示トルクよりも大きい値に設定される。つまり、指示トルクの値は、保持制御の開始前よりも開始後の方が大きくなるように設定される。
【0041】
これにより、保持制御の実施中におけるボールカム構造8の付勢状態は、保持制御の開始前よりも強められる。したがって、走行中に第一カム25と第二カム26との間に位相差が生じていた場合には、その位相差が維持される。また、保持制御は少なくとも車両10の停止中には継続され、好ましくは車両10の発進後、車速Vが所定車速V0を超えるまでは継続される。したがって、車両10の停車中から発進直後にかけてのボールカム構造8の付勢状態が、保持制御の開始前(停車前)よりも強められることになる。
【0042】
本実施形態のコントローラ9は、車両10の停車前の走行状態に応じて、保持制御における指示トルクの値を変更する機能を持つ。まず、車両10の外気温Cが低いほど、エンジン1から後輪5へと伝達される駆動力が増大するように、指示トルクの値を増大させる。また、路面勾配Dの絶対値が大きいほど、指示トルクの値を増大させる。さらに、車両10が走行する路面の摩擦係数μが小さいほど、指示トルクの値を増大させる。これらの設定により、路面が滑りやすい状態であるほど、第一カム25と第二カム26との位相差がより強く保持され、車両10の発進性能が向上する。
【0043】
また、コントローラ9は、保持制御の実施中に車両10の駆動モードが四駆モードから二駆モードへと切り替えられた場合には、直ちにクラッチ7を切断するのではなく、少なくとも車両10が発進するまでの間は保持制御を継続する機能を持つ。すなわち、保持制御の開始後(例えば、車両10の一時停止中)に上記の条件2が不成立となったとしても、すでに開始されている保持制御を中断せず、電磁コイル30への励磁電流の出力を継続する。
保持制御の終了後における指示トルクの値は、車速Vやアクセル開度A,ブレーキ圧B,前後加速度G,操舵角θ,路面勾配D,トランスファレバーの設定位置Qなどに応じて設定される。この指示トルクの設定手法としては、公知の手法を採用することができる。
【0044】
[4.フローチャート]
図5は、保持制御の手順を例示するフローチャートであり、コントローラ9内において所定の演算周期で繰り返し実行される。ステップA1では、コントローラ9に各種情報が入力される。ここでは例えば、車速V,前後加速度G,操舵角θ,変速レバーの設定位置P,アクセル開度A,ブレーキ圧B,外気温C,路面勾配D,トランスファレバーの設定位置Q,摩擦係数μ,スリップなどに関する情報が入力される。
【0045】
ステップA2,A4は、保持制御の開始条件を判定するステップである。ここでは、上記の条件1,2を判定するものを例示する。ステップA2では、トランスファレバーの設定位置Qの情報に基づき、車両10の駆動モードが四駆モードであるか否かが判定される。ここで、駆動モードが二駆モードならばステップA3に進み、電磁コイル30の励磁電流がゼロに制御されて、この制御周期での演算が終了する。一方、駆動モードが四駆モードならばステップA4に進む。
【0046】
ステップA4では、車速Vが所定車速V0以下であるか否かが判定される。この条件が不成立の場合には保持制御が開始されないため、ステップA6に進んで通常の指示トルクが算出されるとともに、これに対応する通常の励磁電流が電磁コイル30に出力されて、この制御周期での演算が終了する。通常の励磁電流は、保持制御における励磁電流よりも小さい値を持つ。一方、車速Vが所定車速V0以下である場合には、車両10が停止しつつあるものと判断されてステップA7に進み、保持制御が開始される。この保持制御は、ステップA12で車速Vが所定車速V0を超えたことが確認されるまでの間は継続され、所定の演算周期で繰り返し実施される。保持制御の実施期間は、車両10が停止する直前から停車中を含んで発進直後までの期間である。
【0047】
ステップA7では、保持制御の開始前における指示トルク(すなわち、ステップA6で設定される指示トルク)よりも大きな値を持つ指示トルクが設定される。続くステップA8では、外気温Cが低いほど指示トルクが増大するように、その値が補正される。また、ステップA9では、路面勾配Dの絶対値が大きいほど指示トルクが増大するように、その値が補正される。さらに、ステップA10では、路面の摩擦係数μが小さいほど指示トルクが増大するように、その値が補正される。
【0048】
その後、ステップA11において、指示トルクに対応する励磁電流が電磁コイル30に出力される。これにより、車両10の停車中におけるボールカム構造8の差動状態が保持され、第二カム26と入力側クラッチ板23とが接触した状態(付勢状態)となる。クラッチ7の接合状態は、車速Vが所定車速V0を超えるまで保持されるため、発進直後から前輪4と後輪5との両方にエンジン1の駆動力が伝達されることになり、車両10の発進性能が向上する。また、ボールカム構造8の差動状態が保持されることから、前輪4(クラッチ7の上流)と後輪5(クラッチ7の下流)との間に回転速度差が生じる前から、クラッチ7が係合方向へと付勢される。
【0049】
[5.作用,効果]
図6(A)〜(D)は、登坂路を四駆モードで走行中の車両10が減速したときの保持制御の制御内容を説明するためのグラフであり、図6(E)は保持制御が実施されない場合の比較例としてのグラフである。
保持制御が実施されない場合、図6(E)に示すように、車両10が停車する直前に指示トルクがゼロに設定され、電磁コイル30の励磁電流が遮断される。これにより、車両10の停車中にボールカム構造8の差動状態が解除されるため、クラッチ7が開放状態となり、クラッチ7の伝達トルクもゼロとなる。つまり、停車中の時刻t2にアクセルペダルが踏み込まれたとしても、時刻t2の直後には駆動力が後輪5に伝達されない。クラッチ7が接合状態となるのは、図6(C),(E)に示すように、前輪4がスリップすることによってボールカム構造8が差動状態になった後である。したがって、図6(B)中に破線で示すように、時刻t2から車速Vが増加し始める時刻t4までの期間が長くなり、良好な発進性能が得られない。
【0050】
これに対し、本実施形態のコントローラ9は、時刻t0に車速Vが所定車速V0以下になると保持制御を開始する。時刻t0以前(保持制御の開始前)におけるカップリング6の指示トルクは、アクセル開度Aがほぼゼロである場合には比較的小さな値T0(T0>0[Nm])に設定されている。一方、時刻t0以降の指示トルクは、時刻t0以前よりも大きな値T1(T1>T0)に設定される。その後、車速Vがゼロとなる時刻t1以降の停車中も指示トルクの値T1が維持され、ボールカム構造8の差動状態が保持される。
【0051】
時刻t2にアクセルペダルが踏み込まれると、図6(D)に示すように、アクセル開度Aの増加に対応して指示トルクも増大するように設定される。このとき、ボールカム構造8の差動状態が保持されているため、時刻t2の直後から後輪5への伝達トルクが上昇する。これにより、図6(B)中に実線で示すように、時刻t2から車速Vが増加し始める時刻t3までの期間が短くなり、車両10が速やかに発進する。
【0052】
(1)上記の車両10では、停車前にクラッチ7が係合方向へと付勢されている場合に、ボールカム構造8の付勢状態が制御される。例えば、四駆モード走行している車両10が減速して停止しつつあるときには、ボールカム構造8の第二カム26とクラッチ7の入力側クラッチ板23とが接触した付勢状態となっているため、その付勢状態を停車前から発進するまで保持する保持制御が実施される。これにより、停車中にクラッチ7をボールカム構造8で係合方向へと付勢したままにしておくことができ、クラッチ7の係合状態を維持することができる。したがって、アクセルペダルが踏み込まれたときに、エンジン1の駆動力を速やかに後輪5へと伝達することができ、車両10の発進性能を向上させることができる。
【0053】
(2)上記のボールカム構造8の付勢状態に関して、保持制御が実施されているときの付勢状態は、保持制御が実施されていないときの付勢状態よりも強められる。例えば、図6(D)に示すように、カップリング6の指示トルク(クラッチ7の伝達トルク)が車両10の停止前よりも大きくなるように制御される。これにより、入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24との滑りを抑制することができ、入力側クラッチ板23と出力側クラッチ板24との接合状態を停車中に解消されにくくすることができる。したがって、簡素な制御構成でクラッチ7の係合状態をより確実に維持することができ、車両10の発進性能をより向上させることができる。
【0054】
(3)上記のボールカム構造8は、第一カム25と第二カム26との係合状態が一旦解除されると、その後に第一カム25と第二カム26との間に回転速度差が生じない限り、再び係合状態にすることができない。一方、車両10が停止する直前に保持制御を実施することで、第一カム25と第二カム26との係合状態を解除せずに維持することができる。これにより、発進前からクラッチ7が係合方向に付勢された状態にすることができ、車両10の発進性能を向上させることができる。
【0055】
また、上記の保持制御では、車両10が停止する前に第一カム25と第二カム26との位相差が生じていれば、停車中もその位相差が維持される。このように、停車中の位相差を維持することで、発進時のボールカム構造8の滑りを抑制することができ、クラッチ7の係合状態をより確実に維持することができる。したがって、車両10の発進性能を向上させることができる。
【0056】
(4)上記の保持制御では、外気温Cが低温であるほど、指示トルクの値が大きく設定され、ボールカム構造8によるクラッチ7への付勢状態が強められる。これにより、寒冷環境での発進時におけるスリップの発生を効率的に抑制することができ、車両10の発進性能を向上させることができる。
(5)また、路面の摩擦係数μが小さいほど、指示トルクの値が大きく設定され、ボールカム構造8によるクラッチ7への付勢状態が強められる。つまり、タイヤがスリップしやすい状態であるほど、後輪5への駆動力の伝達がより確実に行われるように、ボールカム構造8が制御される。これにより、発進時のクラッチ7の滑りを効率的に抑制することができ、車両10の発進性能を向上させることができる。
【0057】
(6)同様に、路面勾配Dの絶対値が大きいほど、指示トルクの値が大きく設定され、ボールカム構造8によるクラッチ7への付勢状態が強められる。これにより、登坂路や降坂路での発進時におけるクラッチ7の滑りを効率的に抑制することができ、車両10の発進性能を向上させることができる。
(7)上記の保持制御は、停車中に駆動モードが四駆モードから二駆モードへと切り替えられたとしても即座には中断されず、車両10が発進するまでの間は継続される。これにより、発進時のクラッチ7の滑りを効率的に抑制することができ、車両10の発進性能を向上させることができる。
【0058】
[6.変形例]
上述の実施形態では、エンジン1を動力源とした車両10を例示したが、動力源の種類はこれに限定されない。例えば、車載バッテリの電力で作動するモータやモータ・ジェネレータを動力源としてもよい。あるいは、エンジン1とモータとを動力源として併用したハイブリッド自動車を対象としてもよい。
【0059】
また、上述の実施形態では、カップリング6に湿式のクラッチ7とボールカム構造8とが内蔵されたものを例示したが、原理的にはクラッチ7の種類は任意であり、かみ合いクラッチや乾式の摩擦クラッチなどを適用することが可能である。同様に、クラッチ7を係合方向に付勢する付勢手段についても任意の構造を適用することができ、例えば球状のボール部材27の代わりに円筒状のローラー部材を内蔵したローラーカム構造を採用してもよい。
【0060】
また、上述の実施形態では、電磁コイル30の励磁電流を制御することによって、第一カム25と第二カム26との位相差を維持するとともに、ボールカム構造8によるクラッチ7の付勢状態を維持している。しかし、クラッチ7の付勢状態を制御するための具体的な構成はこれに限定されない。例えば、第二カム26を第一カム25から離隔する方向に押圧する部材を用意し、この部材による押圧力を電磁コイルへの通電量に応じて増減させる構造としてもよい。少なくとも、クラッチ7の駆動力伝達状態に応じて、付勢手段による付勢状態を停車前から維持することで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0061】
また、上述の実施形態では、後輪5がカップリング6を介してエンジン1に接続された車両10を例示したが、前輪4と後輪5との関係は逆転させることが可能である。すなわち、カップリング6を介することなく後輪5をエンジン1に接続しつつ、前輪4はカップリング6を介して断接可能にエンジン1に接続してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン(動力源)
4 前輪(第一駆動輪)
5 後輪(第二駆動輪)
6 カップリング
7 クラッチ
8 ボールカム構造(付勢手段)
9 コントローラ(制御手段)
10 車両
17 外気温センサ(外気温検出手段)
18 路面勾配センサ(路面勾配検出手段)
20 電子制御装置(摩擦係数取得手段)
25 第一カム
26 第二カム
27 ボール部材
28 コントロールクラッチ
29 アーマチュア
30 電磁コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6